説明

内燃機関用組合せオイルリング及びその組付構造

【課題】低回転・高負圧状態においてオイル消費を低減することができる組合せオイルリング及びその組付構造を提供する。
【解決手段】径方向外方X1に外周端6,7が突出する上下2つのレール部1,2を連結部3で連結したオイルリング本体11と、その連結部3の径方向内方中央の内周溝4に配置されてオイルリング本体11を径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダ12とからなり、ピストンの外周に設けられたリング溝に装着される組合せオイルリング10において、張力比が0.05〜0.3N/mmであり、オイルリング本体11の径方向幅a1が軸方向幅h1の0.7〜0.9倍であり、レール部1,2の内周端8,9と内周溝4の径方向底部4’とで構成される内周溝4の深さd1が径方向幅a1の0.35〜0.50倍であり、コイルエキスパンダ12の直径d2が内周溝4の深さd1の2倍未満であるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用組合せオイルリング及びその組付構造に関し、更に詳しくは、低回転・高負圧状態においてオイル消費を低減することができる内燃機関用組合せオイルリング及びその組付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、内燃機関においては、複数のシリンダが設けられ、各シリンダにピストンが上下動可能に支持されている。ピストンの外周には複数のリング溝が設けられ、そのリング溝にピストンリングが装着されている。そうしたピストンリングには、上方側に装着されるトップリング及びセカンドリング等の圧力リングと、圧力リングの下方側に装着されるオイルリングとがある。圧力リングは、ガスシール機能及び熱伝達機能を有し、一方、オイルリングは、シリンダ内壁面に適切なオイルの膜を形成するため、シリンダ内壁面に付着したオイルの余剰分を掻き落とす機能や、オイルシール性を維持する機能を有する。
【0003】
オイルリングは、圧力リングに対して張力(リングを径方向外方に拡張する力)を高くすることにより、オイルを必要最小限の量だけシリンダ内壁面に供給し、余分なオイルを掻き落として回収するする機能(オイルコントロール機能)を担っている。オイルリングには、2ピースタイプのオイルリングや3ピースタイプのオイルリング等、各種の形態が知られている(例えば特許文献1,2)。
【0004】
2ピースタイプのオイルリングは、特許文献1及び特許文献2に示すように、一対のレール部が一体に形成されたリング本体と、そのリング本体の内側の軸方向中央に配置されてリング本体を径方向外方に付勢するコイルエキスパンダとからなり、一対のレール部の外周端がシリンダ内壁面に摺接するオイルリングである。この2ピースタイプのオイルリングにおいて、シリンダ内のピストンが下死点に向かって移動している間は、上側レール部がリング溝上面に当接した状態で摺動し、一方、シリンダ内のピストンが上死点に向かって移動している間は、下側レール部がリング溝下面に当接した状態で摺動する。
【0005】
なお、特許文献1及び特許文献2に示す2ピースタイプのオイルリングは、内燃機関の低回転・高負圧状況下での運転の際に生じるオイル消費量の増加について何ら検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−45172号公報
【特許文献2】特開平4−95664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、低フリクション化の要請から、2ピースタイプのオイルリングは軽量化し、さらに低張力化の傾向になっている。こうした2ピースタイプのオイルリングの軽量化・低張力化の状況下、内燃機関を低回転・高負圧の条件で運転した際におけるオイル消費量は、ピストンリングにかかる慣性力が小さいために、オイルの付着力の影響により、オイルリングが本来リング溝上面に着座しているべき吸入・爆発行程でリング溝下面に着座するため、高〜中回転・高負圧の条件で運転した場合に比べて高まる傾向(オイルを消費しやすい傾向)にあると予想される。しかし、その点についての十分な検討は行われていなかった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、低回転・高負圧状態においてオイル消費量を低減することができる内燃機関用2ピースタイプのオイルリング(以下、「内燃機関用組合せオイルリング」という。)及びその組付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングは、径方向外方に外周端が突出する上下2つのレール部を連結部で連結したオイルリング本体と、該連結部の径方向内方中央に形成された内周溝に配置されて前記オイルリング本体を径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなり、ピストンの外周に設けられたリング溝に装着される内燃機関用組合せオイルリングにおいて、(1)前記組合せオイルリングの張力を前記ピストンが組み付けられるシリンダ内径で除した張力比が0.05N/mm以上0.3N/mm以下であり、(2)前記オイルリング本体の径方向幅が軸方向幅の0.7倍以上0.9倍以下であり、(3)前記レール部の内周端と前記内周溝の径方向底部とで構成される前記内周溝の深さが前記径方向幅の0.35倍以上0.50倍以下であり、(4)前記コイルエキスパンダの直径が前記内周溝の深さの2倍未満である、ことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングの組付構造は、上記本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングを、ピストンの外周に設けられたリング溝に装着してシリンダ内に組み付けてなることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングの組付構造において、前記オイルリング本体の径方向幅をa1とし、前記リング溝の下面の外周端部間の直径をD1とし、前記シリンダの内径をD2としたとき、[{a1−(D2−D1)/2}/a1×100](%)が50%以上75%以下である、ように構成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る内燃機関用組合せオイルリング及びその組付構造によれば、低回転・高負圧状態において、オイル消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングの代表例を示す模式的な斜視図である。
【図2】本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングの代表例を示す模式的な断面図である。
【図3】図2に示す内燃機関用組合せオイルリングをピストンの外周に設けられたリング溝に装着し、シリンダ内壁面に取り付けた組付構造を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングの他の形態を示す模式的な断面図である。
【図5】比較例5,6で用いた内燃機関用組合せオイルリングのオイルリング本体を示す模式的な断面図である。
【図6】実験例1において、オイルリング本体の径方向幅に対するオイル消費量を示す実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明はその技術的特徴を包含する限り、以下の説明及び図面の形態に限定されるものではない。
【0015】
(基本的な構成)
本発明に係る内燃機関用組合せオイルリング10は、2ピースタイプのオイルリングと呼ばれ、図1及び図2に示すように、径方向外方X1に外周端6,7が突出する上下2つのレール部1,2を連結部3で連結したオイルリング本体11と、その連結部3の径方向内方X2の中央又は略中央に形成された内周溝4に配置されて前記オイルリング本体11を径方向外方X1に押圧付勢するコイルエキスパンダ12とで構成されている。
【0016】
オイルリング本体11は、合い口(図示しない)を有する円環形状をなしており、シリンダ30の内壁面31(図3参照)と摺動する外周端6,7を径方向外方X1に有するレール部1,2を、軸方向Yで向かい合うように一対有している。
【0017】
一対のレール部1,2は、図2に示すように、径方向幅a1,a2が同じ長さで径方向外方X1に外周端6,7が突出する態様で構成されている。本願では、上下のレール部1,2の径方向幅a1,a2が同じであるので、以下、「径方向幅a1」として表す。
【0018】
さらに、この一対のレール部1,2は、径方向Xに延びるレール部1,2に直交する柱状の連結部3(図1参照。ウエブ部ともいう。)で連結されている。連結部3には、図1及び図2に示すように、オイル戻し穴5が任意の間隔で設けられている。なお、摺動中に内部空間13からオイル戻し穴5を通過したオイルは、ピストン20のリング溝21に設けられたオイルドレイン穴25(図3参照)から排出される。
【0019】
この一対のレール部1,2の外周端6,7は、その軸方向Yの外側に必要に応じてテーパー部16,17を有していてもよい。テーパー部16,17は、オイルリング本体11の外周端6,7を細くした態様でシリンダ30の内壁面31に接触させる。こうしたテーパー部16,17は、上下のレール部1,2で同じ幅で形成されている場合がほとんどである。リング溝21の下面22及び上面23に当接し得る平坦面は、テーパー部16,17を除く平坦面の径方向幅b1’、b2’で評価される(図2参照)。
【0020】
オイルリング本体11の径方向内方X2の中央又は略中央には、内周溝4が形成されている。内周溝4は、コイルエキスパンダ12の直径よりも大きい曲率半径で形成されていることが好ましい。こうした内周溝4は、オイルリング本体11の径方向内方X2であって、軸方向Yの中央又は略中央に設けられている。この内周溝4に接触してオイルリング本体11を径方向外方X1に真っ直ぐ押圧付勢するコイルエキスパンダ12は、内周溝4により、軸方向Yの中央又は略中央に安定して座りよく保持される。
【0021】
コイルエキスパンダ12は、前記のように、オイルリング本体11の径方向内方X2の中央又は略中央に形成された内周溝4の径方向底部4’に接触するように配置される。このコイルエキスパンダ12は、コイル巻きされた円環状部材であり、オイルリング本体11を径方向外方X1に真っ直ぐ押圧付勢する。
【0022】
なお、軸方向の「軸」とは、円環形状からなる組合せオイルリング10の中心軸(仮想中心)のことであり、「軸方向Y」とは、その中心軸が延びる方向(図2の例では上下に延びる方向)のことである。また、「径方向X」とは、円環形状からなる組合せオイルリング10の中心軸(仮想中心)から見たときの半径方向のことであり、「径方向外方X1」とは、例えば組合せオイルリング10の摺動面である外周端6,7が摺動接触するシリンダ内壁面の側(外周縁方向)のことであり、「径方向内方X2」とは、例えば組合せオイルリング10を構成するコイルエキスパンダ12が配置されるオイルリングの中心軸側のことである。
【0023】
組合せオイルリング10を構成するオイルリング本体11の材質やコイルエキスパンダ12の材質は特に限定されず、各種のものを採用できる。一例としては、8Cr鋼や10Cr鋼等の鋼材、又は、鋳鉄材等を挙げることができる。
【0024】
また、オイルリング本体11の径方向幅a1と軸方向幅h1は、いずれも2mm以下であることが好ましい。こうしたオイルリング本体11を備える組合せオイルリング10は、軽量化と低フリクション化を実現できる。なお、a1は1mm〜2mm、h1は1mm〜2mmとすることが好ましい。
【0025】
(各構成の関係)
本発明においては、(1)組合せオイルリング10の張力をピストン20が組み付けられるシリンダ内径D2で除した張力比が0.05N/mm以上0.3N/mm以下であり、(2)オイルリング本体11の径方向幅a1が軸方向幅h1の0.7倍以上0.9倍以下であり、(3)レール部1,2の内周端8,9と前記内周溝4の径方向底部4’とで構成される前記内周溝4の深さd1が前記径方向幅a1の0.35倍以上0.50倍以下であり、(4)前記コイルエキスパンダの直径d2が前記内周溝4の深さd1の2倍未満であるように構成されている。なお、(2)〜(4)は以下のように表すことができる。
【0026】
【数1】

【0027】
こうした特徴を有する本発明の内燃機関用組合せオイルリング10、及び本発明の内燃機関用組合せオイルリング10をピストン20のリング溝21に装着してシリンダ30内に組み付けてなる組付構造50は、オイル消費量を低減することができる。以下、その理由を説明する。
【0028】
(1)組合せオイルリング10の張力比は、0.05N/mm以上0.3N/mm以下である。
【0029】
張力比が0.05N/mm以上0.3N/mm以下の組合せオイルリング10は、フリクションが小さくなって燃費向上をもたらすので好ましく、特に0.05N/mm以上0.20N/mm以下が好ましい。張力比が0.05N/mm未満では、張力が弱すぎてオイルシール機能が不十分になることがある。一方、張力比が0.3N/mmを超えると、低フリクションの効果が十分でなくなる。
【0030】
なお、「張力比」(N/mm)とは、組合せオイルリング10(オイルリング本体11にコイルエキスパンダ12を装着したもの)の張力(すなわち、リングを径方向外方に拡張する力)をシリンダの内径(mm)で除した値であり、その値の測定は、張力測定機にて張力を測定し、その後計算して求めることができる。
【0031】
(2)オイルリング本体11の径方向幅a1は、軸方向幅h1の0.7倍以上0.9倍以下である。
【0032】
低回転・高負圧状態である低速域(例えば2000rpm未満)において、一般的な2ピースタイプのオイルリングでは、シリンダ30内のピストン20が上死点に向かって移動する排気及び圧縮行程の負圧作用時において、軽量で低張力化した組合せオイルリング10を構成する下側レール部1がリング溝21の下面22にオイルを介して張り付いて離れにくくなる。そのため、オイルリングの移動タイミングが遅れ易くなる。そのタイミングの遅れは、負圧作用時における上面側のオイルシールを不十分とし、過大なオイル上がりを引き起こしてしまう。
【0033】
しかしながら、本発明では、リング溝21の下面22に張り付きやすい下側レール部1の径方向幅a1を、オイルリング本体11の軸方向幅h1の0.7倍以上0.9倍以下としたので、低回転・高負圧状態である低速域であっても、下側レール部1のリング溝21の下面22からの離れにくさを小さくすることができる。その結果、オイルリングの移動タイミングが遅れず、負圧作用時における上面側のオイルシールを適正化することができる。
【0034】
一方、上下レール部1,2の径方向幅a1がオイルリング本体11の軸方向幅h1の0.9倍を超えると、シリンダ30内のピストン20が上死点に向かって移動する負圧作用時において、リング溝21の下面22に張り付きやすく、移動タイミングが遅れる。そのため、上がったオイルが上側レール部2とリング溝21の上面23との隙間を通過してオイル上がりがし易くなる。本発明では、上下レール部1,2の径方向幅a1も、オイルリング本体11の軸方向幅h1の0.7倍以上0.9倍以下としたので、上がったオイルをオイルリング上面側でシールするため、リング溝21内よりオイルドレイン穴25へ導きやすくなる。その結果、オイルの消費をより一層抑制することができる。
【0035】
また、組合せオイルリング10の張力比が0.05N/mm以上0.3N/mm以下のように低くなると、フリクションが小さくなって燃費向上をもたらすので好ましいが、前記のように、上下レール部1,2の径方向幅a1を、オイルリング本体11の軸方向幅h1の0.7倍以上0.9倍以下とした場合には、径方向幅a1が小さくなることによってオイルを掻き落とす機能が低くなってオイル消費が増大してしまうという懸念がある。こうした懸念に対しては、上記式2及び式3の構成により、コイルエキスパンダ12が内周溝4の径方向底部4’に接触するように深く安定して装着されているので、オイルリング本体11を径方向外方X1に上下ブレ無く安定に押圧付勢している。
【0036】
オイルリング本体11の径方向幅a1が軸方向幅h1の0.7倍未満では、絶対値としての径方向幅a1が小さくなり、リング溝21の上下面22,23との当接長さb1,b2(図3参照)が短くなって、オイルシール機能が不十分になる。一方、オイルリング本体11の径方向幅a1が軸方向幅h1の0.9倍を超えると、低回転・高負圧状態である低速域において、下側レール部1がリング溝21の下面22から離れにくく、オイルリングの移動タイミングが遅れて負圧作用時における上面側のオイルシールを適正化することができない。
【0037】
なお、図3に示すように、当接長さb1は、下側レール部1と下面22とが実際に当接する幅であり、下側レール部1の内周端8とリング溝下面22の外周端部26との間の長さである。一方、当接長さb2は、上側レール部2と上面23とが実際に当接する幅であり、上側レール部2の内周端9とリング溝上面23の外周端部27との間の長さである。
【0038】
(3)レール部1,2の内周端8,9と内周溝4の径方向底部4’とで構成される内周溝4の深さd1は、オイルリング本体11の径方向幅a1の0.35倍以上0.50倍以下である。
【0039】
内周溝4の深さd1を、オイルリング本体11の径方向幅a1の0.35倍以上0.50倍以下としたので、軸方向幅h1に比べて径方向幅a1が短くなったオイルリング本体11に対して適正な張力を与えることができるとともに、上下のレール部1,2の外周端6,7の内方にある内部空間13の容量が減って、オイルがオイル戻し穴5からオイルリング本体11の内周溝4へのスムーズな排出を抑制してしまうのを抑えることができる。その結果、オイルシール機能を保持することができる。
【0040】
d1/a1が0.35未満では、内周溝4へのコイルエキスパンダ12を座りよく安定して組み付けるために、直径の小さいコイルエキスパンダ12を選択せざるを得ない。そのため、オイルリング本体11を径方向外方X1に押圧付勢する張力は小さくなってしまい、オイルシール機能を満足させることができなくなる。一方、d1/a1が0.50を超えると、連結部3が径方向外方X1側に位置することになるので、上下のレール部1,2の外周端6,7の内方にある内部空間13の容量が小さくなる。そのため、その内部空間13にオイルが満たされやすくなるので、上側レール部2の摺動面からオイルが上がりやすくなり、その結果、オイル消費量が増えてしまう。
【0041】
(4)内周溝4に配置されるコイルエキスパンダ12の直径d2は、内周溝4の深さd1の2倍未満である。
【0042】
d2がd1の2倍未満(d2/d1<2)であるということは、コイルエキスパンダ12が、内周溝内に半分以上埋まるような態様で配置されていることを意味し、その態様でオイルリング本体11を径方向外方X1に押圧付勢している。さらに、内周溝4はコイルエキスパンダ12の直径d1よりも大きい曲率半径で形成されているので、コイルエキスパンダ12は内周溝4の径方向底部4’に接する態様で配置されている。こうしたコイルエキスパンダ12の内周溝4への装着態様は、オイルリング本体11を径方向外方X1に真っ直ぐ安定して押圧付勢することができ、オイルシール機能を高めることができる。言い換えれば、コイルエキスパンダ12が内周溝4の径方向底部4’に接触するように深く安定して装着されているので、オイルリング本体11を径方向外方X1に上下ブレ無く安定に押圧付勢している。それゆえ、径方向幅a2が短い上側レール部2であっても、オイルシール機能を低下させない。
【0043】
d2がd1の2倍を超えると、内周溝4が浅くなり、コイルエキスパンダ12を安定して組み付けることができなくなる。その結果、径方向外方X1に押圧付勢するオイルリング本体11に上下のブレが生じやすくなり、径方向幅a2が短いオイルリング本体11の上下レール部1,2でのオイルシール機能が低下することになる。
【0044】
なお、d2/d1の下限値は1.0程度である。下限値が1.0より小さいと、組み付け性が悪くなる。
【0045】
(5)さらに、図3に示すように、本発明の組合せオイルリング10を、ピストン20のリング溝21に装着してシリンダ30内に組み付けてなる組付構造50において、リング溝21の下面22の外周端部間26,26の直径をD1とし、シリンダ30の内径をD2としたとき、[{a1−(D2−D1)/2}/a1×100](%)は、(50)%以上(75)%以下である。
【0046】
[{a1−(D2−D1)/2}/a1×100](%)を(50)%以上(75)%以下とすることにより、上下レール部1,2とリング溝21の上下面22,23との当接長さb1,b2を一定長さとして保持することができるので、オイルシール機能を保持することができる。
【0047】
その割合が50%未満では、当接長さb1,b2が短く、十分なオイルシール機能を発揮できず、また、組み付け性が悪くなるという問題がある。一方、その割合が75%を超えると、高負圧域において、オイル消費量が増大してしまう。
【0048】
以上、本発明の組合せオイルリング10及びその組付構造は、上記特徴(1)〜(4)乃至(5)を有するので、低フリクション化の要請から軽量化し、さらに0.05N/mm以上0.3N/mm以下に低張力化した組合せオイルリング10であっても、内燃機関を低回転・高負圧の条件で運転した際におけるオイル消費量を低減することができる。
【0049】
組合せオイルリング10の動きは、シリンダ30の内壁面31との間のフリクション(摩擦力)と、組合せオイルリング10自体の慣性力とに大きく依存するが、慣性力が小さい低速域では、シリンダ30の内壁面31とのフリクションが主となり、組合せオイルリング10は軸方向に移動する。下側レール部1がリング溝21の下面22に付着する力は、組合せオイルリング10の移動に逆らう力である。上記構成からなる本発明は、上死点と下死点でフリクションの向きが入れ替わるのと同時に、組合せオイルリング10を移動させることができる。さらに、上側レール部2を下側レール部1と同じ長さに短くしても、コイルエキスパンダ12が内周溝4に安定して装着されているので、オイルリング本体11を径方向外方X1に上下のブレ無く安定して押圧付勢することができる。その結果、負圧作用時における上面側のオイルシールを適正化することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例を説明するが、各実施例は少なくとも上記した共通する特徴を有しつつ下記の具体的な特徴を備えている。
【0051】
[実施例1〜5、比較例1〜4]
オイルリング本体11の径方向幅a1,a2、軸方向幅h1、内周溝4の深さd1、及びコイルエキスパンダ12の直径d1、及び組合せオイルリング10の張力比を、表1の寸法で構成した実施例1〜5及び比較例1〜4の組合せオイルリング10を作製した。作製した組合せオイルリング10を、ピストン20のリング溝21に装着し、シリンダ30内に取り付けて組付構造50を構成した。なお、図6(A)(B)に示す形態のオイルリング本体11は、比較例3,4で用いたものである。
【0052】
各実施例のオイル消費量の実験を行った。実験には、内径D2が88.5mmのシリンダ30と、下面の外周端部間の直径D1が87.4mmのピストン20とを用いた。1000rpmにおける吸気管絶対圧を10kPa、8時間とし、組付構造50でのオイル消費量を評価した。その評価結果も表1に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、従来例と比較して実施例1〜5の組合せオイルリングでは、オイル消費量比が3割以上低減しており、オイル消費に非常に効果があることが分かった。また、比較例1〜3については、リング溝に装着する際、組み付けることができなかったため「×」とした。比較例4については、組付性は良いものの、オイル消費量比が従来例よりも悪い結果となり、オイル消費を悪化させることが分かった。
【0055】
[実施例6,7]
図4(A)(B)は本発明の他の実施例を示す模式的な断面図である。これらの形態は、径方向幅a1が薄くなったオイルリング本体11をリング状に成形する成形性を向上させるため、又は、強度を補うために工夫したものであるが、上述した本発明の効果を奏する。
【0056】
図4(A)に示す組合せオイルリング10は、連結部3の径方向外方X1に、オイル戻し穴5の上下の縁からレール部1,2の外周端6,7に向かうテーパー状の肉厚部15を円環方向に一様に設けたものである。
【0057】
図4(B)に示す組合せオイルリング10は、連結部3の径方向外方X1に、中央が盛り上がる円弧状の突部19を円環方向に一様に設けたものである。なお、オイル戻し穴5は、既述の通り、任意の間隔で連結部3及びその突部19を貫通するように設けられている。
【0058】
[実験例1]
図5は、オイルリング本体11の径方向幅a1に対するオイル消費量を示す実験結果である。実験は、上記実施例1の寸法を基本とし、径方向幅a1及び内周溝深さd1を変化させたオイルリング本体11を用いた。なお、径方向幅a1は2mm(従来例)、1.7mm(実施例1,4,5)、1.5mm(実施例2)、1.4mm(実施例3)の4種を準備して実験した。実験には、内径D2が88.5mmのシリンダ30を用いた。1000rpmにおける吸気管絶対圧が10kPaの場合と15kPaの場合で実験し、組付構造50でのオイル消費量を評価した。オイル消費量は上記実施例1〜5等と同じ条件で行った。
【0059】
図5に示すように、低回転・高負圧域では、径方向幅a1を小さくするほどオイル消費量が少なくなり、オイル消費に効果があることが分かった。
【符号の説明】
【0060】
1 下側レール部
2 上側レール部
3 連結部
4 内周溝
4’ 内周溝の径方向底部
5 オイル戻し穴
6,7 外周端
8,9 内周端
10 組合せオイルリング
11 オイルリング本体
12 コイルエキスパンダ
13 内部空間
15 テーパー状の肉厚部
16,17 テーパー部
19 円弧状の突部
20 ピストン
21 リング溝
22 リング溝の下面
23 リング溝の上面
25 オイルドレイン穴
26 リング溝の下面の外周端部
27 リング溝の上面の外周端部
30 シリンダ
31 シリンダの内壁面
50 組合せオイルリングの組付構造
【0061】
a1 リング溝の下面側に配置される下側レール部の径方向幅
a2 リング溝の上面側に配置される上側レール部の径方向幅
b1’ a1のうちの平坦面の径方向幅
b2’ a2のうちの平坦面の径方向幅
b1 リング溝の下面と下側レール部との径方向の当接長さ
b2 リング溝の上面と上側レール部との径方向の当接長さ
h1 オイルリング本体の軸方向幅
X 径方向
X1 径方向外方
X2 径方向内方
Y 軸方向
d1 内周溝の深さ
d2 コイルエキスパンダの直径
D1 リング溝の下面の外周端部間の直径
D2 シリンダの内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向外方に外周端が突出する上下2つのレール部を連結部で連結したオイルリング本体と、該連結部の径方向内方中央に形成された内周溝に配置されて前記オイルリング本体を径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなり、ピストンの外周に設けられたリング溝に装着される内燃機関用組合せオイルリングにおいて、
(1)前記組合せオイルリングの張力を前記ピストンが組み付けられるシリンダ内径で除した張力比が0.05N/mm以上0.3N/mm以下であり、
(2)前記オイルリング本体の径方向幅が軸方向幅の0.7倍以上0.9倍以下であり、
(3)前記レール部の内周端と前記内周溝の径方向底部とで構成される前記内周溝の深さが前記径方向幅の0.35倍以上0.50倍以下であり、
(4)前記コイルエキスパンダの直径が前記内周溝の深さの2倍未満である、ことを特徴とする内燃機関用組合せオイルリング。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用組合せオイルリングを、ピストンの外周に設けられたリング溝に装着してシリンダ内に組み付けてなることを特徴とする内燃機関用組合せオイルリングの組付構造。
【請求項3】
前記オイルリング本体の径方向幅をa1とし、前記リング溝の下面の外周端部間の直径をD1とし、前記シリンダの内径をD2としたとき、[{a1−(D2−D1)/2}/a1×100](%)が50%以上75%以下である、請求項2に記載の内燃機関用組合せオイルリングの組付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−75092(P2011−75092A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230397(P2009−230397)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【Fターム(参考)】