説明

内燃機関

【課題】シリンダの内面にデポジットが付着することを良好に抑制できる内燃機関を提供する。
【解決手段】燃料噴射弁から噴射された貫徹力の強い高圧燃料は、ピストン16の頂面において、噴霧飛行方向及び噴霧角により特定される扇形状の領域に拡散する。燃料が直接衝突する領域は、この扇形状の領域に含まれる。この扇形状の領域のうち、キャビティ18よりも噴霧飛行方向下流側の領域A(ハッチング部分)に光触媒を形成しない。一方、領域Aの他の領域には光触媒を形成する。これにより、貫徹力の強い高圧燃料がピストン16の頂面から反射してシリンダの内面に付着することを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関に関し、より詳細には、シリンダの内面にデポジットが付着するのを抑制した内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、酸化チタン膜をシリンダヘッドの内面、ピストン頂面、吸排気弁の傘部、プラグの電極部及び燃料噴射弁の先端部に形成した内燃機関が開示されている。内燃機関の燃焼室内には潤滑油や未燃燃料等が存在するためデポジットが生成する場合がある。このため、燃焼室容積の変化やHCの燃焼室外への排出といった弊害に繋がる可能性がある。しかしながら、酸化チタンは、燃焼室内の火炎発光スペクトルに含まれる波長の短い紫外線によってデポジットを分解できるという性質を有する。そこで、従来の内燃機関は、酸化チタンのこの性質を利用し、シリンダヘッドの内面等に酸化チタン膜を形成することで上述した弊害の回避を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−179344号公報
【特許文献2】特開2002−250231号公報
【特許文献3】特開平11−287130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃焼室内に噴射された燃料は、ピストン頂面に向かって噴射される。このため、燃料がピストン頂面に衝突した場合には、ピストン頂面で反射してシリンダの内面やシリンダヘッドの方向へ向かう。このうち、シリンダの内面方向へ流れた燃料は、シリンダの内面に衝突する際に付着することが考えられる。その理由は、シリンダの内面には潤滑油が供給されているため、燃料が取り込まれる可能性が高いからである。上記従来の内燃機関では、ピストン頂面全体に酸化チタン膜が形成されている。このため、燃料がピストン頂面に衝突した場合、この酸化チタン膜によって勢いよく反射してシリンダの内面方向へ流れ、その結果シリンダの内面に付着することでシリンダの内面にデポジットが発生し付着する可能性があった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、シリンダの内面にデポジットが付着することを良好に抑制できる内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、デポジットを分解可能な光触媒がその頂面の一部の領域に設けられたピストンと、を備える内燃機関であって、前記頂面のうち、前記燃料噴射弁から噴射された燃料が前記頂面に直接的に衝突する領域の少なくとも一部に、前記光触媒が設けられていない領域が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1の発明によれば、燃料が直接的に衝突するピストン頂面の少なくとも一部の領域に光触媒を設けない領域を形成したため、この光触媒非形成領域に噴射された燃料を付着させることができる。付着した燃料は、その後に噴射される燃料がピストン頂面で反射することを抑制する緩衝材として機能することができる。したがって、シリンダ壁面に付着する燃料量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施の形態の内燃機関における燃料衝突領域を説明するための図である。
【図2】図1のピストンの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1及び図2を参照して本発明の実施の形態に係る内燃機関を説明する。図1は、実施の形態の内燃機関における燃料の衝突領域を説明するための図である。この説明の前にまず、図1(a)を用いて、本実施の形態の内燃機関の構成について簡単に説明する。
【0010】
内燃機関10は、シリンダ12と、その上方に形成されたシリンダヘッド14とを備えている。シリンダ12には、ピストン16が上下方向に摺動自在に挿入配置されている。ピストン16は、アルミニウム合金等の金属から構成され、その頂面にはキャビティ18が形成されている。シリンダ12の内面と、シリンダヘッド14の下面と、ピストン16の頂面とで囲まれた部分により燃焼室20が形成されている。後述するように、ピストン16の頂面の所定の領域には光触媒が被膜形成されている。ここで、光触媒としては酸化チタンが用いられるが、酸化亜鉛等の光触媒作用を有するものを用いることもできる。
【0011】
内燃機関10は、燃焼室20に燃料噴射弁22及び点火プラグ24を備えている。燃料噴射弁22には、図示しない高圧ポンプより十分に高い圧力で燃料が供給されている。このため、燃料噴射弁22は、所定のタイミングで開弁することにより、ピストン16の頂面に向けて高圧燃料を噴射することができる。以上が本実施の形態の内燃機関の構成である。
【0012】
ピストン16の頂面に向けて噴射された高圧燃料は、その衝突位置がピストン16の位置によって異なる。図1(a)は、衝突位置が燃料噴射弁22から一番近い位置、すなわちピストン16が上死点にある場合を示している。この場合、図1(a)に実線で示すように、高圧燃料はキャビティ18に向けて噴射され、キャビティ18の底面に沿って移動し、キャビティ18の形状をガイドとして点火プラグ24の直下に導かれる。その結果、点火プラグ24の直下には混合気が、それ以外の領域には主に過剰な空気状態の成層混合気がそれぞれ形成される。
【0013】
図1(a)の位置からピストン16が下降していくと、燃料の衝突位置は燃料噴射弁22から遠ざかる方向へ移動していく。この結果、燃料はキャビティ18が形成されていないピストン16の頂面に衝突する。この場合、燃料はピストン16の頂面で反射してシリンダ12内面の方へ流れることになる。ピストン16が更に下降していき、ピストン16が図1(b)の位置よりも低くなった場合には、高圧燃料がシリンダ12の内面に直接衝突することになる。このように、図1(a)、(b)に示す2つの燃料衝突点によって特定される範囲が、ピストン16の頂面上の燃料衝突領域に相当する。
【0014】
ところで、ピストン16の頂面に向けて噴射される燃料は、燃焼室20の内圧に打ち勝つ噴射圧であるとともに、点火プラグ24の直下に混合気を形成できるような貫徹力を備えている。このため、キャビティ18が形成されていないピストン16の頂面に燃料が衝突すると、この貫徹力により勢いよく反射する。そして、反射した燃料がシリンダ12の内面に付着してしまう。
【0015】
そこで、本実施の形態では、ピストン16の頂面のうち、光触媒を被膜形成する領域を特定することにより、シリンダ12の内面への燃料の付着を抑制することとした。図2は、図1のピストン16の上面図である。ピストン16の頂面には、キャビティ18のほか、吸気バルブリセス26a、26b及び排気バルブリセス28a、28bがそれぞれ形成されている。
【0016】
燃料噴射弁22から噴射された燃料は、図2に示す噴霧飛行方向及び噴霧角により特定される噴霧飛行軌道(図2中の扇形状の領域)に拡散する。したがって、図1に示した燃料衝突領域は、この噴霧飛行軌道に含まれる。本実施の形態では、この噴霧飛行軌道のうち、キャビティ18よりも噴霧飛行方向下流側の領域A(図2中のハッチング部分)に光触媒を形成しない。一方、領域Aの他の領域には光触媒を形成する。このうち、燃料衝突領域内のキャビティ18が形成されている領域に光触媒を形成する理由は、冷間始動時に成層運転を安定化するためである。
【0017】
光触媒は紫外線といった短波長の電磁波の存在下でデポジットを分解する性質を有している。このため、図2の領域Aに光触媒を形成した場合、この光触媒の性質によってデポジットが分解される。したがって、領域Aにはデポジットが堆積しないことになり、常に光触媒が燃焼室20内に露出することになる。換言すれば、領域Aに光触媒を形成しなければ、領域Aにデポジットが堆積することになる。
【0018】
しかしながら、このデポジットはカーボン等の有機成分からなり、金属成分からなる光触媒よりも柔軟性を有する。したがって、デポジットが領域Aに堆積した場合、貫徹力の強い燃料の緩衝材として機能することができる。これにより、貫徹力の強い燃料がピストン16の頂面から反射してシリンダ12の内面に付着することを抑制できる。したがって、シリンダ12の内面に付着した燃料由来のデポジットの発生を抑制できる。
【0019】
なお、本実施の形態では、ピストン16の頂面にキャビティ18を設けたが、このキャビティ18を設けなくてもよい。この場合には、燃料衝突領域の全体に光触媒を形成しない。こうすることで、燃料衝突領域の全体を緩衝材として機能させ、貫徹力の強い燃料がピストン16の頂面から反射してシリンダ12の内面に付着することを抑制できる。
【符号の説明】
【0020】
10 内燃機関
12 シリンダ
14 シリンダヘッド
16 ピストン
18 キャビティ
22 燃料噴射弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、デポジットを分解可能な光触媒がその頂面の一部の領域に設けられたピストンと、を備える内燃機関であって、
前記頂面のうち、前記燃料噴射弁から噴射された燃料が前記頂面に直接的に衝突する領域の少なくとも一部に、前記光触媒が設けられていない領域が形成されていることを特徴とする内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−209790(P2010−209790A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56720(P2009−56720)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】