説明

内蔵型レーダ用送受一体アンテナ

【課題】水平方向における放射パターンの広覆域化を実現し、かつ不要波を抑制しながら高周波回路部品をアンテナ基板に集積させることでスペースファクタを改善した内蔵型レーダ用送受一体アンテナを提供する。
【解決手段】第1誘電体基板111が3層構造に形成されており、MICのバイアス線路171が第2層111bと第3層111cとの間に配置され、第1層111aと第2層111bとの間に第2地板114が配置されている。また、隔離スルーホール163、164と第2地板114とが導電可能に接続されており、これにより給電ポート115が配置されている領域とバイアス線路171が配置されている領域Bとが隔離された構造となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平方向に広覆域な指向性を有する送信アンテナと受信アンテナとを一体化したレーダ用送受一体アンテナに関し、特にアンテナ基板にマイクロ波集積回路のバイアス線路を内蔵させた内蔵型レーダ用送受一体アンテナの技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアバッグの普及やシートベルト着用の完全義務化に伴い、自動車の交通事故による死亡者数は減少傾向にある。しかし、高齢化に伴うシニアドライバの増加などにより、交通事故件数や負傷者数は依然多い傾向にある。そのような背景のもと、運転補助を目的として、車周辺にある障害物を検出するセンサーが注目されており、これまで超音波センサー、カメラ、ミリ波レーダ等が商用化されてきている。
【0003】
従来の車載用レーダ装置は、30m未満の中距離や150m未満の遠距離に存在する障害物を検出することができたが、例えば2m未満の近距離に存在する障害物に対しては、その検出誤差が大きいといった問題があった。車周辺に存在する障害物を精度良く検出できるようにするために、距離分解能が高くしかも広覆域の視野が確保できるUWBレーダの実用化が求められている。
【0004】
特許文献1には、素子アンテナを2×4に配列して構成されたアレーアンテナが開示されており、UWBレーダの受信アンテナに用いて水平方向の方位角を位相比較モノパルス方式で測定することができる。また、この素子アンテナを1×4に配列して送信アンテナに用いることもできる。車載用レーダ装置では、水平方向における放射パターンの広覆域化を実現し、かつ小型化してスペースファクタを改善することが強く要求されることから、送信アンテナと受信アンテナを一つの基板上に配置して一体化した送受一体アンテナが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−89212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ミリ波レーダで障害物を精度良く検出し、かつその占有体積を小さくするためには、アンテナの広帯域化、広覆域化とともに、送受一体アンテナにさらに送受信用マイクロ波集積回路(MIC)の基板も一体化するのが望ましい。また、MICでは、各回路に基準電圧を供給するためにバイアス線路が必要となるが、このバイアス線路をすべてMIC内に収納させようとすると、MICが大型化してしまうといった問題が生じる。さらに、バイアス線路に限らず、別の信号線路や半導体機能部品を送受一体アンテナに搭載する必要がある場合には、送受一体アンテナの基板あるいはMICの基板を大きくしなければならなくなる、といった問題が生じる。
【0007】
そこで、スペースファクタを改善するために、バイアス線路等の信号線路や半導体機能部品(以下では、これらを総称して高周波回路部品という)を立体的に配置して送受一体アンテナの基板内に集積化するのが望ましい。しかしながら、高周波回路部品をアンテナ基板内に設けると、高周波回路部品がアンテナからの電波の影響を受けてしまうといった問題があった。不要波を抑制しながら送受一体アンテナの基板内に高周波回路部品を集積化する手法がこれまで知られていなかった。
【0008】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、水平方向における放射パターンの広覆域化を実現し、かつ不要波を抑制しながら高周波回路部品をアンテナ基板に集積させることでスペースファクタを改善した内蔵型レーダ用送受一体アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの第1の態様は、第1誘電体基板の一方の面の一端側に配置された送信アンテナと、前記第1誘電体基板の一方の面の他端側に配置された受信アンテナと、前記第1誘電体基板の一方の面の前記送信アンテナと前記受信アンテナとの間に配置されたEBG(Electromagnetic Band Gap)と、前記第1誘電体基板の他方の面に形成された第1地板と、前記第1地板を挟んで前記第1誘電体基板と反対側の面に配置された第2誘電体基板と、を備え、所定のMIC(マイクロ波集積回路)が前記第2誘電体基板の前記第1地板と反対側の面に一体化され、所定の高周波回路部品が前記第1誘電体基板に内蔵されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの他の態様は、前記高周波回路部品は前記EBGの下方に配置され、前記高周波回路部品と前記EBGとの間に前記第1地板と電気的に導通している第2地板を配置していることを特徴とする。
【0011】
本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの他の態様は、前記第1誘電体基板が3層の誘電体から構成され、前記第2地板が前記1層目の誘電体と前記2層目の誘電体との間に配置され、前記高周波回路部品が前記2層目の誘電体と前記3層目の誘電体との間に配置されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの他の態様は、前記送信アンテナと前記EBGとの間、及び前記受信アンテナと前記EBGとの間、のそれぞれに、少なくとも前記第1誘電体基板を貫通して前記第1地板に導電可能に接続された隔壁スルーホールを備え、前記2つの隔壁スルーホールと前記第2地板とが導電可能に接続されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの他の態様は、前記送信アンテナと前記EBGとの間、及び前記受信アンテナと前記EBGとの間、のそれぞれに、前記第1誘電体基板及び前記第2誘電体基板を貫通して前記第1地板に導電可能に接続された隔壁スルーホールを備え、前記2つの隔壁スルーホールと前記第2地板とが導電可能に接続されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの他の態様は、前記第1地板と前記第2地板との間を導電可能に接続する小型隔壁スルーホールが前記送信アンテナ側と前記受信アンテナ側のそれぞれに設けられ、前記高周波回路部品が前記送信アンテナ側の小型隔壁スルーホールと前記受信アンテナ側の小型隔壁スルーホールとの間に配置されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの他の態様は、前記送信アンテナは、プリント化ダイポールアンテナを1以上1列に配列して構成され、前記受信アンテナは、前記プリント化ダイポールアンテナを2以上2列に配列して構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの他の態様は、前記送信アンテナは、パッチアンテナを1以上1列に配列して構成され、前記受信アンテナは、前記パッチアンテナを2以上2列に配列して構成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの他の態様は、前記パッチアンテナは、所定のマイクロ波線路と電磁結合給電方式で接続される電磁結合パッチアンテナであることを特徴とする。
【0018】
本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの他の態様は、前記高周波回路部品は、前記MICのバイアス線路、あるいは所定の信号線路または半導体機能部品のいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、不要波を抑制しながら高周波回路部品をアンテナ基板に集積させることで、スペースファクタを改善した内蔵型レーダ用送受一体アンテナを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの構成を示す平面図及び断面図である。
【図2】磁流を主な放射源とする水平偏波の素子アンテナに用いられるプリント化ダイポールアンテナの構成を示す平面図及び断面図である。
【図3】EBG−アンテナ−EBGの構成を有する送受一体アンテナの一例を示す平面図及び断面図である。
【図4】リムーアンテナ−隔壁スルーホールーEBGの構成を有する送受一体アンテナの一例を示す平面図及び断面図である。
【図5】リム−アンテナ−EBGの構成を有する送受一体アンテナの一例を示す平面図及び断面図である。
【図6】MICのバイアス線路が集積化された内蔵型レーダ用送受一体アンテナの一例を示す断面図である。
【図7】受信アンテナが励振されたときに内蔵型領域に漏洩する電界を解析した結果の一例を示すグラフである。
【図8】本発明の第1実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの受信波から得られる和パターン、差パターン、及びディスクリカーブを示すグラフである。
【図9】磁流を主な放射源とする水平偏波の素子アンテナに用いられる電磁結合パッチアンテナの構成を示す平面図及び断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの構成を示す平面図及び断面図である。
【図11】本発明の第3実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナの構成を示す平面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施の形態における内蔵型レーダ用送受一体アンテナについて、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナは、水平方向における放射パターンの広覆域化を実現し、かつ不要波を抑制しながら高周波回路部品をアンテナ基板に集積させることが可能となっている。
【0022】
アンテナ基板に集積させる高周波回路部品として、MICのバイアス線路、所定の信号線路、半導体機能部品のいずれかがある。信号線路としては、マイクロ波信号線、高周波信号線、低周波信号線、ディジタル信号線、電圧制御線、デバイス制御線がある。また、半導体機能部品としては、各種MIC用マイクロ波デバイス(LNA、HPA、移相器、分配器、ATT(減衰器)、チップコンデンサ、チップ抵抗、増幅器、ミキサ)、薄型ヒートパイプ、ヒートシンク、A/D変換器がある。以下では、アンテナ基板に集積させる高周波回路部品として、アンテナ基板と一体化されるMICのバイアス線路を例に説明する。
【0023】
広帯域化及び広覆域化がなされた素子アンテナの一例を、図2に示す。図2は、磁流を主な放射源とする水平偏波の素子アンテナ10の構成を示しており、同図(a)は水平方向における放射パターンの広覆域化を実現した素子アンテナ10の平面図であり、同図(b)は給電スルーホール13と接地スルーホール14とを通る断面で切断したときの断面図である。素子アンテナ10は、第1誘電体基板20上に第1素子11と第2素子12を有してプリント化ダイポールアンテナとして形成されている。第1素子11は、第2誘電体基板22に形成されたマイクロ波線路23に給電スルーホール13で接続され、第2素子12は、接地スルーホール14で地板21に接続されている。
【0024】
以下では、説明を容易とするために、図2に示すような座標系を用いるものとする。ここで、第1素子11と第2素子12を結ぶ方向をX軸とし、第1誘電体基板20に平行でX軸に直交する方向をY軸とし、第1誘電体基板20に垂直な方向をZ軸とする。第1素子11と第2素子12は、送信波または受信波のEθ成分がXZ面上にあるように配列されている。
【0025】
図2では、素子アンテナ10の両側面に金属板あるいはEBG(Electromagnetic Band Gap)15が配置されている。送信アンテナ及び受信アンテナを素子アンテナ10を用いて構成し、図2のように素子アンテナ10の両側面に金属板あるいはEBG15を配置することで、送信アンテナと受信アンテナとを同一基板上に一体化してスペースファクターやアンテナ性能を改善したレーダ用送受一体アンテナを構成することが可能となる。
【0026】
すなわち、素子アンテナ10の両側面に金属板あるいはEBG15を配置することで、水平方向における放射パターンの広覆域化を実現すると共に不要波を抑制するとともに第1誘電体基板20のX方向の横幅を狭めることが可能となる。また、素子アンテナ10を用いて構成した位相比較モノパルスアンテナを大きな基板に形成したとき、TM表面波等の不要波を抑制して測角に用いるのに好適な差パターンを実現することができる。
【0027】
大きな基板に送信アンテナ及び受信アンテナを配置すると、一般的には基板上に表面波が発生する。このような表面波を抑制するために、送信アンテナと受信アンテナとの間にEBGを配置する方法が知られている(参考文献:岡垣他、”EBG装荷MSAに関する一検討”信学技報、IEICE Technical Report A,p2005−127(2005.12))。しかし、和差パターンを用いて位相比較による方位測角を行うモノパルスアンテナでは、送信アンテナと受信アンテナとの間にEBGを配置しただけでは、測角に用いることが可能な好適な差パターンを実現するのが難しい。
【0028】
上記のような問題を解決して位相比較モノパルス方式に適用できるアンテナの構成として、以下のものがある。
(構成1)EBG−アンテナ−EBG
(構成2)リムーアンテナ−隔壁スルーホールーEBG
(構成3)リム−アンテナ−EBG
(構成4)EBGーアンテナ−隔壁スルーホールーEBG
【0029】
上記(構成1)の送受一体アンテナの一例を図3に示す。同図に示す送受一体アンテナ101では、第1誘電体基板111上に送信アンテナ120と受信アンテナ130が設けられている。送信アンテナ120は、素子アンテナ10を6×1に配列して構成されており、受信アンテナ130は、素子アンテナ10を6×2に配列して構成されている。各素子アンテナ10は、第1素子11が第2誘電体基板113に形成されたマイクロ波線路23に給電スルーホール115で接続され、第2素子12は、接地スルーホール116で地板113に接続されている。
【0030】
送受一体アンテナ101では、図3(a)に示すように、送信アンテナ120と受信アンテナ130との間にEBG140が配置されている。また、第1誘電体基板111の両端面には、EBG151、152が配置されている。これにより、送信アンテナ120を中心に、EBG152−送信アンテナ120−EBG140の構成となり、受信アンテナ130を中心に、EBG151−受信アンテナ130−EBG140の構成となっている。
【0031】
上記(構成2)の送受一体アンテナの一例を図4に示す。同図(a)に示す送受一体アンテナ102では、図3に示した送受一体アンテナ101のEBG151、152に代えて、第1誘電体基板111の両端面にリム161、162が配置されている。また、送信アンテナ120とEBG140との間に隔壁スルーホール164が設けられ、受信アンテナ130とEBG140との間に隔壁スルーホール163が設けられている。これにより、送信アンテナ120を中心に、リム162−送信アンテナ120−隔壁スルーホール164−EBG140の構成となり、受信アンテナ130を中心に、リム161−受信アンテナ130−隔壁スルーホール163−EBG140の構成となっている。
【0032】
上記(構成3)の送受一体アンテナの一例を図5に示す。同図(a)に示す送受一体アンテナ103では、図3に示した送受一体アンテナ101のEBG151、152に代えて、第1誘電体基板111の両端面にリム161、162が配置されている。これにより、送信アンテナ120を中心に、リム162−送信アンテナ120−EBG140の構成となり、受信アンテナ130を中心に、リム161−受信アンテナ130−EBG140の構成となっている。同様に、上記(構成4)の送受一体アンテナでは、図4に示した送受一体アンテナ102のリム161、162に代えて、第1誘電体基板111の両端面にEBG151、152が配置される。
【0033】
また、図3(b)、図4(b)、図5(b)は、送信アンテナ120を中心に、上記の(構成1)乃至(構成3)の送受一体アンテナ101乃至103を給電ポート115及び接地ポート116を通る断面で切断した部分断面図である。各図に示すように、送受一体アンテナ101、102、103は、ともに第1誘電体基板111、第1地板112、及び第2誘電体地板113の3層で構成されている。
【0034】
上記の送受一体アンテナ101乃至103において、送信アンテナ120と受信アンテナ130との間に配置されたEBG140は第1地板112と所定の間隔を有しており、これにより所定の周波数で共振するように形成されている。同様に、送受一体アンテナ101で用いられるEBG151、152も、第1地板112との間に上記の間隔を有して上記の周波数で共振するように形成されている。送受一体アンテナ102、103のリム161、162、及び送受一体アンテナ102の隔壁スルーホール163、164は、いずれも第1地板112に電気的に接地されている。
【0035】
上記構成の各送受一体アンテナでは、送受信波を処理するためのMICが第2誘電体基板113に配置される。このとき、スペースファクタを改善するために、MICのバイアス線路が立体的に配置されて送受一体アンテナの基板内に集積化される。MICのバイアス線路が送受一体アンテナの基板内に集積化された内蔵型レーダ用送受一体アンテナの一例を図6に示す。同図に示す内蔵型レーダ用送受一体アンテナ900は、送受一体アンテナ101の基板にMICのバイアス線路171を集積化したものであり、MIC(図示せず)が第2誘電体基板113のEBG140に対向する領域Aに配置される例を示している。
【0036】
図6において、バイアス線路171は、EBG140の下部に相当する領域Bに内蔵される。バイアス線路171を第1誘電体基板111に内蔵させるために、第1誘電体基板111は、第1層111a、第2層111b、及び第3層111cの3層構造に形成されている。これにより、内蔵型レーダ用送受一体アンテナ900は、第1誘電体基板111の第1層111aの両面には例えばEBG140と第2地板114が配置され、第2層111bと第3層111cの間にはバイアス線路171を配置し、第2誘電体基板113の両面には第1地板112や例えばマイクロ波線路23が配置されメタル層としては5層構造となっている。
【0037】
図6に示すように、バイアス線路171がEBG140と第1地板112との間に内蔵される。干渉低減策としてバイアス線路がEBG140側から電波的に見えにくくするためにEBG140とバイアス線路171との間に第2地板114を配置する必要がある。そこで、第1誘電体基板111を3層構造とし、第1層111aと第2層111bとの間に第2地板114を配置し、第2層111bと第3層111cとの間にバイアス線路171を配置する。なお、第2地板114を上記のように配置したことで、EBG140に対し、第1地板112より近い位置に第2地板114が配置されることになる。その結果、EBG140の共振周波数が変化してしまうため、EBG140が第2地板114に対して上記の所定の共振周波数で共振するように設計し直す必要がある。
【0038】
上記のように第1誘電体基板111をメタル層として4層構造とすることで、バイアス線路171を第1地板112と第2地板114との間に内蔵することが可能となる。しかしながら、バイアス線路171を内蔵する領域Bは、給電ポート115が設けられている領域と電波的に繋がっているため、例えば送信アンテナ120の電界が領域Bまで伝播して影響を与えるおそれがある。
【0039】
内蔵型レーダ用送受一体アンテナ900において、受信アンテナ130を励振したときに領域Bに漏洩する電界を、解析により求めた一例を図7に示す。同図は、横軸が第1誘電体基板111の受信アンテナ130側の端面からの距離を表し、縦軸が漏洩電界を表している。バイアス線路171は、送信アンテナ120と受信アンテナ130との間の第1誘電体基板111の領域Bに内蔵されている。図7において、符号51が内蔵型レーダ用送受一体アンテナ900における漏洩電界を示している。
【0040】
図7に示すように、内蔵型レーダ用送受一体アンテナ900では、受信アンテナ130からの漏洩電界51が領域Bであまり低下しておらず、受信アンテナ130から離れた位置のB領域から送信アンテナ120までの区間で励振点から15〜29dB程度しか低下していない。受信アンテナ130からの漏洩電界(不要波)は、領域Bで35〜40dB以上低下しているのが好ましい。
【0041】
(第1実施形態)
そこで、本発明の第1の実施形態に係る内蔵型レーダ用送受一体アンテナは、図4に示した(構成2)の送受一体アンテナ102にMICのバイアス線路171を内蔵させるように構成したものである。第1実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ100の構成を、図1に示す。同図(a)は、本実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ100の平面図であり、同図(b)は、送信アンテナ120側の給電ポート115及び接地ポート116を通る断面で切断した部分断面図である。
【0042】
内蔵型レーダ用送受一体アンテナ100は、図6に示した送受一体アンテナ900と同様に、第1誘電体基板111が、第1層111a、第2層111b、及び第3層111cの3層構造に形成されており、第1誘電体基板111の第1層111aの両面には例えばEBG140と第2の地板114が配置され、第2層111bと第3層111cの間にはバイアス線路171を配置し、第2誘電体基板113の両面には第1の地板112や例えばマイクロ波線路23が配置されメタル層としては5層構造となっている。また、MICのバイアス線路171は、図6に示した送受一体アンテナ900の領域Bと同じ領域の第2層111bと第3層111cとの間に配置されている。さらに、第1層111aと第2層111bとの間に第2地板114が配置されている。
【0043】
本実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ100では、図6に示した送受一体アンテナ900と同様の5層構造とすることで、バイアス線路171と第2地板114を内蔵可能にしている。これに加えて、図1(b)に示すように、隔離スルーホール164と第2地板114と地板112は電気的に導通している。その結果、給電ポート115が配置されている領域とバイアス線路171が配置されている領域Bとが、隔離スルーホール164と第2地板114とで隔離された構造となっている。同様に、受信アンテナ130側の隔離スルーホール163と第2地板114と地板112も電気的に導通している。
【0044】
内蔵型レーダ用送受一体アンテナ100において、受信アンテナ130を励振したときに領域Bに漏洩する電界を解析により求めた一例を、図7に符号52で示す。内蔵型レーダ用送受一体アンテナ900における漏洩電界51に比べて、本実施形態における漏洩電界52は、領域Bにおいて全体的に低減されていることがわかる。内蔵型レーダ用送受一体アンテナ100では、バイアス線路171を隔離スルーホール163、164と第2地板114で隔離することにより、改善前の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ900に比べて漏洩電界が平均値でー19.8dB低くなっており、隔離スルーホール163、164の効果が顕著であることがわかる。
【0045】
内蔵型レーダ用送受一体アンテナ100において、受信アンテナ130の受信波から得られる和パターン、差パターン、及びディスクリカーブを、それぞれ図8(a)、(b)、及び(c)に示す。ここで、符号61及び62は、それぞれ実測値及びシミュレーションによる解析値を示している。また、比較のために、特許文献1に記載のアレーアンテナと同様に、垂直偏波のプリント化ダイポールアンテナを2×4に配列して構成された従来の受信アンテナによる実測値を符号63で示している。
【0046】
図8より、(a)の和パターン、(b)の差パターン、及び(c)のディスクリカーブとも、実測値と解析値は良い一致を示している。また、符号63で示す従来の受信アンテナと比較して、本実施形態の受信アンテナ130では、Az面(XZ面)における和パターン、差パターンとも広覆域にわたって高い利得が得られており、図8(c)に示すディスクリカーブや前記和パターン(a)、差パターン(b)から明らかなように、利得が向上し信号対雑音比(S/N)が改善されている分、従来より広い測角範囲が得られる。本実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ100によれば、不要波を抑制しながらMICのバイアス線路171をアンテナ基板である第1誘電体基板111に集積させることができ、スペースファクタを改善することが可能となる。
【0047】
本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナは、磁流を主な放射源とする素子アンテナを誘電体基板上に複数配列して送信アンテナ及び受信アンテナを構成し、そのEθ成分を主偏波として水平方向(XZ方向)に配置している。そして、送信アンテナ及び受信アンテナのそれぞれのX方向近傍にリム等の金属層やEBG層を配置するのを特徴としている。磁流を放射源とする素子アンテナとして、プリント化ダイポール以外の代表的なものとしてパッチアンテナがある。パッチアンテナでは、その給電方式として、マイクロストリップ線路による共平面給電方式、垂直同軸給電方式、あるいは電磁結合給電方式等がある。
【0048】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る内蔵型レーダ用送受一体アンテナを、図面を用いて以下に説明する。第2の実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナでは、第1実施形態で用いているプリント化ダイポールアンテナの素子アンテナ10に代えて、図9に示すような電磁結合パッチアンテナを素子アンテナ30として用いている。図9は、磁流を主な放射源とする水平偏波の電磁結合パッチアンテナの構成を示す平面図及び断面図である。同図に示す電磁結合パッチアンテナからなる素子アンテナ30は、第1誘電体基板20上にパッチアンテナ31が形成されている。パッチアンテナ31は、地板21に形成された電磁結合孔32を介して第2誘電体基板22上のマイクロ波線路23に電磁結合される。すなわち、マイクロ波線路23の電磁エネルギーは、電磁結合孔32を介してパッチアンテナ31に励起される。
【0049】
上記の素子アンテナ30を用いて送信アンテナと受信アンテナを構成したとき、その両側面に金属板あるいはEBG15を配置することで、送信アンテナと受信アンテナとを一体化してスペースファクターやアンテナ性能を改善したレーダ用送受一体アンテナを形成することが可能となる。素子アンテナ30を用いた第2実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナを図10に示す。図10は、本実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ200の平面図であり、同図(b)は、送信アンテナ220側の第1地板212に形成された電磁結合孔32を通るX軸方向の断面で切断した部分断面図である。
【0050】
内蔵型レーダ用送受一体アンテナ200は、素子アンテナ30を用いて送信アンテナ220と受信アンテナ230が形成されており、上記の(構成2)の配列で構成されている。すなわち、図10(a)の左側から、リム261、受信アンテナ230、隔壁スルーホール263、EBG240、隔壁スルーホール264、送信アンテナ220、及びリム262が配列されている。また、図10(b)に示すように、第1誘電体基板211が、第1層211a、第2層211b、及び第3層211cの3層構造に形成されており、第1誘電体基板211の第1層211aの両面には例えばEBG240と第2地板214が配置され、第2層211bと第3層211cの間にはバイアス線路171を配置し、第2誘電体基板213の両面には第1地板212や例えばマイクロ波線路23が配置されメタル層としては5層構造となっている。そして、第1層211aと第2層211bとの間に第2地板214が内蔵され、第2層211bと第3層211cとの間にMICのバイアス線路171が内蔵されている。
【0051】
本実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ200でも、第1実施形態と同様に、隔離スルーホール264と第2地板214と地板212は電気的に導通しており、これにより素子アンテナ30とマイクロ波線路23とが電磁結合される領域と、バイアス線路171が配置されている領域とが、隔離スルーホール264と第2地板214とで隔離された構造となっている。同様に、受信アンテナ230側の隔離スルーホール263と第2地板214と地板212も電気的に導通している。これにより、不要波を抑制しながらMICのバイアス線路171を第1誘電体基板211に集積させることができ、スペースファクタを改善することができる。また、和パターン、差パターンとも広覆域にわたって高い利得が得られ、広い測角範囲が実現できる。
【0052】
(第3実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る内蔵型レーダ用送受一体アンテナを、図11を用いて以下に説明する。第3の実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ300では、第2実施形態と同様に、電磁結合パッチアンテナを素子アンテナ30として用いている。図11は、本実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ300の平面図であり、同図(b)は、送信アンテナ220側の第1地板312に形成された電磁結合孔32を通過するX軸方向の断面で切断した部分断面図である。
【0053】
内蔵型レーダ用送受一体アンテナ300は、素子アンテナ30を用いて送信アンテナ220と受信アンテナ230が形成されており、上記の(構成1)の配列で構成されている。すなわち、図11(a)の左側から、EBG351、受信アンテナ230、EBG340、送信アンテナ220、及びEBG352が配列されている。また、図11(b)に示すように、第1誘電体基板311が、第1層311a、第2層311b、及び第3層311cの3層構造に形成されており、第1層311aと第2層311bとの間に第2地板314が内蔵され、第2層311bと第3層311cとの間にMICのバイアス線路171が内蔵されている。
【0054】
本実施形態の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ300では、第2誘電体基板313と第1誘電体基板311の第2層311b及び第3層311cを貫通して第2地板314及び第1地板312に導電可能に接続された小型隔壁スルーホール365が設けられている。本実施形態では、小型隔壁スルーホール365を設けることで、第2実施形態で用いている第1誘電体基板211及び第2誘電体基板213を貫通する隔壁スルーホール263、264を不要とすることができる。これにより、隔壁スルーホール263、264を設ける場合に比較して、第1誘電体基板311及び第2誘電体基板313の製作工程を簡易化することが可能となる。
【0055】
なお、上記各実施形態では、水平方向における放射パターンの広覆域化を実現するために磁流を主な放射源素子とする素子アンテナのEθ成分を主偏波として水平方向に配置したものを例に説明したが、主偏波を垂直或いは斜め方向に配置した素子アンテナでも本発明の内蔵型レーダ用送受一体アンテナに適用することができる。また、直線偏波に限定されず、円偏波のアンテナにも適用可能なのは言うまでもない。さらに、上記実施形態では、高周波回路部品としてMICのバイアス線路を例に説明したが、これに限定されず、別の信号線路や半導体機能部品であってもよい。本実施の形態における記述は、本発明に係る内蔵型レーダ用送受一体アンテナの一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における内蔵型レーダ用送受一体アンテナの細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0056】
10、30 素子アンテナ
11 第1素子
12 第2素子
13 給電スルーホール
14 接地スルーホール
15 金属板あるいはEBG
20、111、211、311 第1誘電体基板
100、200、300、900 内蔵型レーダ用送受一体アンテナ
22、113、213、313 第2誘電体基板
23 マイクロ波線路
31 パッチアンテナ
32 電磁結合孔
101、102、103 送受一体アンテナ
112、212、312 第1地板
114、214,314 第2地板
115 給電ポート
116 接地ポート
120、220 送信アンテナ
130、230 受信アンテナ
140、151、152、240、340、351、352 EBG
161、162、261、262 リム
163、164、263、264 隔壁スルーホール
171 バイアス線路
365 小型隔壁スルーホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1誘電体基板の一方の面の一端側に配置された送信アンテナと、
前記第1誘電体基板の一方の面の他端側に配置された受信アンテナと、
前記第1誘電体基板の一方の面の前記送信アンテナと前記受信アンテナとの間に配置されたEBG(Electromagnetic Band Gap)と、
前記第1誘電体基板の他方の面に形成された第1地板と、
前記第1地板を挟んで前記第1誘電体基板と反対側の面に配置された第2誘電体基板と、を備え、
所定のMIC(マイクロ波集積回路)が前記第2誘電体基板の前記第1地板と反対側の面に一体化され、
所定の高周波回路部品が前記第1誘電体基板に内蔵されている
ことを特徴とする内蔵型レーダ用送受一体アンテナ。
【請求項2】
前記高周波回路部品は前記EBGの下方に配置され、
前記高周波回路部品と前記EBGとの間に前記第1地板と電気的に導通している第2地板を配置している
ことを特徴とする請求項1に記載の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ。
【請求項3】
前記第1誘電体基板が3層の誘電体から構成され、
前記第2地板が前記1層目の誘電体と前記2層目の誘電体との間に配置され、
前記高周波回路部品が前記2層目の誘電体と前記3層目の誘電体との間に配置されている
ことを特徴とする請求項2に記載の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ。
【請求項4】
前記送信アンテナと前記EBGとの間、及び前記受信アンテナと前記EBGとの間、のそれぞれに、少なくとも前記第1誘電体基板を貫通して前記第1地板に導電可能に接続された隔壁スルーホールを備え、
前記2つの隔壁スルーホールと前記第2地板とが導電可能に接続されている
ことを特徴とする請求項2または3に記載の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ。
【請求項5】
前記送信アンテナと前記EBGとの間、及び前記受信アンテナと前記EBGとの間、のそれぞれに、前記第1誘電体基板及び前記第2誘電体基板を貫通して前記第1地板に導電可能に接続された隔壁スルーホールを備え、
前記2つの隔壁スルーホールと前記第2地板とが導電可能に接続されている
ことを特徴とする請求項2または3に記載の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ。
【請求項6】
前記第1地板と前記第2地板との間を導電可能に接続する小型隔壁スルーホールが前記送信アンテナ側と前記受信アンテナ側のそれぞれに設けられ、前記高周波回路部品が前記送信アンテナ側の小型隔壁スルーホールと前記受信アンテナ側の小型隔壁スルーホールとの間に配置されている
ことを特徴とする請求項2または3に記載の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ。
【請求項7】
前記送信アンテナは、プリント化ダイポールアンテナを1以上1列に配列して構成され、前記受信アンテナは、前記プリント化ダイポールアンテナを2以上2列に配列して構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ。
【請求項8】
前記送信アンテナは、パッチアンテナを1以上1列に配列して構成され、前記受信アンテナは、前記パッチアンテナを2以上2列に配列して構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ。
【請求項9】
前記パッチアンテナは、所定のマイクロ波線路と電磁結合給電方式で接続される電磁結合パッチアンテナである
ことを特徴とする請求項8に記載の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ。
【請求項10】
前記高周波回路部品は、前記MICのバイアス線路、あるいは所定の信号線路または半導体機能部品のいずれかである
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の内蔵型レーダ用送受一体アンテナ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−220690(P2011−220690A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86390(P2010−86390)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】