説明

内視鏡システム、内視鏡システムのプロセッサ装置、及び画像処理方法

【課題】診断の目的に応じて観察距離を変化させたとしても、その目的に合った適切な内視鏡画像を生成する。
【解決手段】広帯域光BBと狭帯域光NB1は被検体に同時照射される。被検体をカラーのCCDで撮像することにより青色信号B、緑色信号G、赤色信号Rを得る。これら信号からベース画像を生成する。青色信号Bと緑色信号Gの類似度が低い場合には近景状態にあり、類似度が高い場合には遠景状態にあるとされる。近景状態のときには、青色信号B及び緑色信号G間の比B/Gと血管深さの関係を表す第1色空間が設定される。遠景状態のときには、青色信号B及び赤色信号R間の比B/Rと血管深さとの関係を表す第2色空間が設定される。設定された色空間と被検体の撮像で得られた信号から、血管深さ情報を取得する。取得した血管深さ情報をベース画像に反映させることにより、血管深さ情報を含む血管画像が生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内における表層血管、中深層血管、ピットパターンなどの凹凸情報などに着目して診断を行う内視鏡システム、内視鏡システムのプロセッサ装置、及び画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医療においては、内視鏡装置を用いた診断等が広く行われている。内視鏡装置による被検体内の観察としては、照明光として広帯域光の白色光を用いる通常光観察の他、特許文献1のように、波長を狭帯域化した狭帯域光を用いて、被検体内の血管を強調表示等させる特殊光観察も行われるようになってきている。
【0003】
特許文献1では、被検体内に照射する光の波長が長くなるほど被写体組織内における光の深達度が高くなる特性を利用して、特定の深さにある血管を強調している。例えば、深達度が低い短波長のB色の狭帯域光を照射することにより、表層の血管を強調することができ、B色よりも波長が長く且つ深達度が高いG色の狭帯域光を照射することにより、表層よりも中深層の血管を強調することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3559755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内視鏡診断では、診断の目的に応じて、内視鏡先端部と観察対象との間の観察距離を近づけたり遠ざけたりすることが行われている。例えば、生体組織内における各層の血管構造を詳細に観察する場合には、観察対象との距離が近い近景状態にして、血管構造を把握し易くすることが行われている。また、新生血管の有無や表層血管の塊の有無などから病変部の存在を確認する場合には、観察対象との距離が遠い遠景状態にして、被検体における血管の位置を把握し易くすることも行われている。
【0006】
このように診断の目的に応じて観察距離を変化させることに関しては、特許文献1では全く触れられていない。また、特許文献1によれば、照明光の狭帯域化によって、近景状態時では血管構造の把握が容易になるが、遠景状態時では光量不足となるため、血管の位置が把握しにくくなるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたもので、診断の目的に応じて観察距離を変化させたとしても、その目的に合った適切な内視鏡画像を生成することができる内視鏡システム、内視鏡システムのプロセッサ装置、及び画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の内視鏡システムは、被検体に照明光を照射する照明手段と、互いに光透過特性が異なる複数のカラーフィルタが設けられたカラーの撮像素子を有し、前記被写体からの反射光を前記カラーの撮像素子で撮像することによって複数の撮像信号を取得する撮像手段と、前記被検体における観察対象との距離を示す観察距離を求める観察距離算出手段と、所定の2つの撮像信号間の比を示す第1信号比と被検体における血管深さとの関係を表す第1色空間及び前記第1信号比と異なる第2信号比と血管深さとの関係を表す第2色空間を含む複数の色空間の中から、前記観察距離に合った色空間を設定する色空間設定手段と、前記撮像手段で取得した撮像信号及び前記色空間設定手段で設定した色空間から、血管深さ情報を求める血管深さ情報取得手段と、前記血管深さ情報を含む血管画像を生成する血管画像生成手段と、前記血管画像を表示する表示手段とをを備えることを特徴とする。
【0009】
前記カラーの撮像素子は、B色のカラーフィルターが設けられたB画素から青色信号を、G色のカラーフィルターが設けられたG画素から緑色信号を、R色のカラーフィルターが設けられたR画素から赤色信号を出力し、前記第1色空間は、青色信号及び緑色信号間の第1信号比B/Gと血管深さとの関係を表しており、前記第2色空間は、青色信号及び赤色信号間の第2信号比B/Rと血管深さとの関係を表しており、前記色空間設定手段は、前記観察距離が一定距離未満のときには第1色空間を、前記観察距離が一定距離以上のときには第2色空間を自動的に設定することが好ましい。
【0010】
前記観察距離算出手段は、前記青色信号と前記緑色信号の類似度が低いときには前記観察距離は近景状態にあるとし、類似度が高いときには前記観察距離は遠景状態にあるとし、前記色空間設定手段は、前記近景状態にあるときには前記第1色空間を、前記遠景状態にあるときには前記第2色空間を設定することが好ましい。前記青色信号と前記緑色信号の信号値の差分値が大きいときには前記類似度は低く、前記差分値が小さいときには前記類似度は高いことが好ましい。
【0011】
前記撮像手段は、被検体を所定の倍率で拡大する拡大モードまたは拡大しない非拡大モードのいずれかに切り替えが可能なズーム部を備えており、前記色空間設定手段は、前記拡大モードに設定されている場合には前記第1色空間を、前記非拡大モードに設定されている場合には前記第2色空間を設定することが好ましい。
【0012】
前記照明手段は、広帯域光及び狭帯域光で被検体を同時に照明し、前記色空間設定手段は、前記広帯域光と前記狭帯域光の光量比において前記狭帯域光の比率が一定以上のときには前記第1色空間を設定し、前記狭帯域光の比率が一定未満のときには前記第2色空間を設定することが好ましい。前記狭帯域光は、青色領域において特定波長を有する第1狭帯域光であり、前記広帯域光は、前記第1狭帯域光と波長範囲が異なる第2狭帯域光と、前記第2狭帯域光を蛍光体に照射することによってその蛍光体から励起発光される励起発光光とが合波された光であり、前記色空間設定手段は、前記第1狭帯域光と前記第2狭帯域光の光量比において前記第1狭帯域光の比率が前記第1色空間を設定し、前記第1狭帯域光の比率が一定未満のときには前記第2色空間を設定することが好ましい。前記広帯域光と前記狭帯域光の光量比を、前記観察距離に応じて変化させることが好ましい。
【0013】
本発明の内視鏡システムのプロセッサ装置は、照明光で照明された被検体を、互いに光透過特性が異なる複数のカラーフィルタが設けられたカラーの撮像素子で撮像することによって複数の撮像信号を取得する電子内視鏡から、前記複数の撮像信号を受信する受信手段と、前記被検体における観察対象との距離を示す観察距離を求める観察距離算出手段と、所定の2つの撮像信号間の比を示す第1信号比と被検体における血管深さとの関係を表す第1色空間及び前記第1信号比と異なる第2信号比と血管深さとの関係を表す第2色空間を含む複数の色空間の中から、前記観察距離に合った色空間を設定する色空間設定手段と、前記撮像手段で取得した撮像信号及び前記色空間設定手段で設定した色空間から、血管深さ情報を求める血管深さ情報取得手段と、前記血管深さ情報を含む血管画像を生成する血管画像生成手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の画像処理方法は、照明光で照明された被検体を、互いに光透過特性が異なる複数のカラーフィルタが設けられたカラーの撮像素子で撮像することによって複数の撮像信号を取得する電子内視鏡から送信される前記複数の撮像信号を画像処理する画像処理方法であり、前記被検体における観察対象との距離を示す観察距離を求め、所定の2つの撮像信号間の比を示す第1信号比と被検体における血管深さとの関係を表す第1色空間及び前記第1信号比と異なる第2信号比と血管深さとの関係を表す第2色空間を含む複数の色空間の中から、前記観察距離に合った色空間を設定し前記撮像手段で取得した撮像信号及び前記色空間設定手段で設定した色空間から、血管深さ情報を求め、前記血管深さ情報を含む血管画像を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の色空間の中から観察距離に合った色空間を設定し、その設定した色空間から得られる血管深さ情報に基づいて血管画像を生成していることから、診断の目的に応じて観察距離を変化させたとしても、その目的に合った適切な内視鏡画像を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】内視鏡システムの外観図である。
【図2】第1実施形態の内視鏡システムの電気的構成を示すブロック図である。
【図3】広帯域光BB及び狭帯域光NB1の発光スペクトルを示すグラフである。
【図4】R色、G色、B色のカラーフィルターの分光透過率を示すグラフである。
【図5】第1色空間を示すグラフである。
【図6】第2色空間を示すグラフである。
【図7】近景状態で撮像したときに得られる青色信号B、緑色信号G、赤色信号Rを説明するための説明図である。
【図8】遠景状態で撮像したときに得られる青色信号B、緑色信号G、赤色信号Rを説明するための説明図である。
【図9】第1色空間から血管深さを算出する方法を説明するための説明図である。
【図10】本発明の作用を示すフローチャートである。
【図11】第2実施形態の内視鏡システムの電気的構成を示すブロック図である。
【図12】第3実施形態の内視鏡システムの電気的構成を示すブロック図である。
【図13】狭帯域光NB1、狭帯域光NB2、及びその狭帯域光NB2により励起発光される励起発光光の発光スペクトルを示すグラフである。
【図14】LD光量比と露光量(観察距離)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、第1実施形態の電子内視鏡システム10は、被検体内を撮像する電子内視鏡11と、撮像により得られた信号に基づいて内視鏡画像を生成するプロセッサ装置12と、被検体を照明する光を発生する光源装置13と、内視鏡画像を表示するモニタ14とを備えている。電子内視鏡11は、体腔内に挿入される可撓性の挿入部16と、挿入部16の基端部分に設けられた操作部17と、操作部17とプロセッサ装置12及び光源装置13との間を連結するユニバーサルコード18とを備えている。
【0018】
挿入部16の先端には、複数の湾曲駒を連結した湾曲部19が形成されている。湾曲部19は、操作部のアングルノブ21を操作することにより、上下左右方向に湾曲動作する。湾曲部19の先端には、体腔内撮影用の光学系等を内蔵した先端部16aが設けられている。先端部16aは、湾曲部19の湾曲動作によって体腔内の所望の方向に向けられる。
【0019】
ユニバーサルコード18には、プロセッサ装置12および光源装置13側にコネクタ24が取り付けられている。コネクタ24は、通信用コネクタと光源用コネクタからなる複合タイプのコネクタであり、電子内視鏡11は、このコネクタ24を介して、プロセッサ装置12および光源装置13に着脱自在に接続される。
【0020】
図2に示すように、光源装置13は、広帯域光源30と、レーザ光源33と、合波器36とを備えている。広帯域光源30は、図3に示すように、波長が青色領域から赤色領域(約400〜700nm)にわたる広帯域光BBを発生する。広帯域光源30は、電子内視鏡11の使用中、常時点灯している。広帯域光源30から発せられた広帯域光BBは、広帯域用光ファイバ40に入射する。
【0021】
レーザ光源33はLD(Laser Diode)であり、図3に示すように、波長が400±10nm(中心波長405nm)に制限された狭帯域光NB1を発生する。レーザ光源33から発せられた狭帯域光NB1は、この第1狭帯域用光ファイバ33aに入射する。なお、狭帯域光NB1の波長は400±10nm(中心波長405nm)に限らず、例えば440±10nm(中心波長445nm)の狭帯域光であってもよい。また、LDの代わりに、LED(Light Emitting Diode)を用いてもよい。
【0022】
合波器36は、電子内視鏡11内のライトガイド43と、広帯域用光ファイバ40及び第1狭帯域用光ファイバ33aとを連結する。これにより、広帯域光BB及び狭帯域光NB1の両方が、合波器36で合波されてライトガイド43に入射する。
【0023】
電子内視鏡11は、ライトガイド43、CCD44、アナログ処理回路45(AFE:Analog Front End)、撮像制御部46を備えている。ライトガイド43は大口径光ファイバ、バンドルファイバなどであり、入射端が光源装置内の合波器36に挿入されており、出射端が先端部16aに設けられた照射レンズ48に向けられている。ライトガイド43内で導光された広帯域光BB及び狭帯域光NB1は、照射レンズ48及び先端部16aの端面に取り付けられた照明窓49を通して、被検体内に同時に照射される。被検体内で反射した広帯域光BB及び狭帯域光NB1は、先端部16aの端面に取り付けられた観察窓50を通して、対物レンズユニット51に入射する。
【0024】
CCD44は、対物レンズユニット51からの光を撮像面44aで受光し、受光した光を光電変換して信号電荷を蓄積し、蓄積した信号電荷を撮像信号として読み出す。読み出された撮像信号は、AFE45に送られる。CCD44はカラーCCDであり、撮像面44aには、B色、G色、R色のいずれかのカラーフィルターが設けられたB画素、G画素、R画素の3色の画素が配列されている。
【0025】
B色、G色、R色のカラーフィルターは、図4に示すような分光透過率52,53,54を有している。CCD44に入射する光のうち、広帯域光BBはR画素、G画素、B画素の全てに感応し、狭帯域光NB1はB画素のみに感応する。したがって、R画素から出力される赤色信号Rには広帯域光BBの赤色成分が、G画素から出力される緑色信号Gには広帯域光BBの緑色成分が、B画素から出力される青色信号Bには広帯域光BBの青色成分と狭帯域光BBが含まれている。
【0026】
AFE45は、相関二重サンプリング回路(CDS)、自動ゲイン制御回路(AGC)、及びアナログ/デジタル変換器(A/D)(いずれも図示省略)から構成されている。CDSは、CCD44からの撮像信号に対して相関二重サンプリング処理を施し、CCD44の駆動により生じたノイズを除去する。AGCは、CDSによりノイズが除去された撮像信号を増幅する。A/Dは、AGCで増幅された撮像信号を、所定のビット数のデジタルな撮像信号に変換してプロセッサ装置12に入力する。
【0027】
撮像制御部46は、プロセッサ装置12内のコントローラー59に接続されており、コントローラー59から指示がなされたときにCCD44に対して駆動信号を送る。CCD44は、撮像制御部46からの駆動信号に基づいて、所定のフレームレートで撮像信号をAFE45に出力する。
【0028】
図2に示すように、プロセッサ装置12は、ベース画像生成部55と、フレームメモリ56と、画像処理部57と、表示制御回路58を備えており、コントローラー59が各部を制御している。ベース画像生成部55は、電子内視鏡のAFE45から出力される青色信号B、緑色信号G、赤色信号Rに各種信号処理を施すことによって、ベース画像を作成する。作成されたベース画像はフレームメモリ56に一時的に記憶される。また、AFE45から出力される青色信号B、緑色信号G、赤色信号Rも、フレームメモリ56に記憶される。なお、ベース画像は、狭帯域光NB1を使用せず、広帯域光BBのみを使用して得られる通常観察画像や、酸素飽和度などの血管機能情報を疑似カラー化した疑似カラー画像などであってもよい。
【0029】
画像処理部57は、観察距離算出部60と、色空間設定部61と、血管深さ情報取得部63と、血管画像生成部65とを備えている。観察距離算出部60は、被検体上の観察対象と電子内視鏡の先端部16aとの距離を示す観察距離を求める。観察距離は、青色信号Bと緑色信号Gの類似度と関係性を有しており、類似度は例えば青色信号B及び緑色信号G間における信号値の差分値の大小や周波数帯と関係がある。観察距離は遠くなるほど、画素間で色の混合が起きたり、CCD44の画素ピッチよりも血管の太さが細くなることで血管と周辺組織とが混ざり合ったりすることから、青色信号B及び緑色信号G間における信号値の差分値は小さくなる。即ち、類似度が高くなる。したがって、類似度が高いときには観察距離は一定距離以上の遠景状態にあり、反対に類似度が低いときには観察距離は一定距離未満の近景状態にある。なお、類似度は、青色信号B及び緑色信号Gの各画素間の相関から得られる。
【0030】
色空間設定部61は、被検体における血管深さの算出に用いられ、所定の信号比と血管深さとの関係を表した色空間を設定する。色空間は近景用の第1色空間と遠景用の第2色空間とからなり、過去の診断データ等から予め求められるものである。第1色空間は、図5に示すように、青色信号Bと緑色信号Gの比であるB/Gと血管深さとの関係を表しており、血管深さが大きくなるに従ってB/Gも大きくなる関係を有している。第2色空間は、図6に示すように、青色信号Bと赤色信号Rの比であるB/Rと血管深さとの関係を表しており、表層においては血管深さとB/Rとの関係に規則性はないものの、表層〜粘膜〜中深層血管にかけては、血管深さが大きくなるほどB/Rも大きくなる関係を有している。
【0031】
近景状態と遠景状態で別々の色空間を用いるのは、以下の理由による。図7に示すように、近景状態のときには、撮像信号のうち青色信号B及び緑色信号Gには血管情報が多く乗っている。また、青色信号Bには、表層血管70の情報が中深層血管71の情報よりも多く乗っており、反対に、緑色信号Gには、中深層血管71の情報が表層血管70の情報よりも多く乗っている。したがって、近景状態時には、青色信号B及び緑色信号G間における血管の情報量の差を利用すること、即ち第1色空間を利用することで、表層血管と中深層血管の血管深さを確実に求めることができる。
【0032】
一方、図8に示すように、遠景状態のときに得られる撮像信号のうち、青色信号B及び緑色信号Gは表層血管70及び中深層血管71のいずれについても血管情報があまり乗っておらず、赤色信号Rは近景状態と同様に血管情報がほとんど乗っていない。したがって、遠景状態時には、青色信号B及び緑色信号G間における血管の情報量の差はないため、第1色空間では、表層血管と中深層血管の血管深さを確実に求めることが困難である。そこで、遠景状態時には、血管情報がほとんど乗っていない赤色信号Rと血管情報が多少乗っている青色信号B間における血管の情報量の差を利用すること、即ち第2色空間を利用することで、少なくとも表層血管の有無が識別できる程度に、血管深さを求めることができる。
【0033】
血管深さ情報算出部63は、色空間設定部61で設定した色空間から各画素毎に血管深さを求める。第1色空間が設定された場合には、青色信号B及び緑色信号G間で同じ位置の画素毎に信号比B/Gを求め、求めた比B/Gに対応する血管深さを第1色空間から求める。血管深さは青色信号B及び緑色信号Gの全画素について求める。例えば、図9に示すように、所定の信号比B/Gに対応する血管深さは、表層として求められる。一方、第2色空間が設定された場合には、同様にして、青色信号B及び赤色信号R間の信号比B/Rに対応する血管深さを全画素について求める。
【0034】
血管画像生成部65は、フレームメモリ56に記憶されたベース画像に血管深さ情報を反映させることにより、血管深さ情報を含む血管画像を生成する。生成された血管画像は、表示制御回路58によって、モニタ14に画像表示される。近景状態では、表層血管と中深層血管の血管深さ情報が確実に反映された血管画像が表示されることから、生体組織内における各層の血管構造を詳細に観察し易くなっている。一方、遠景状態では、光量不足な状態にもかかわらず血管の有無がはっきりと写し出された血管画像が表示されていることから、病変部が存在する可能性がある新生血管や表層血管の塊の有無などが把握し易くなっている。
【0035】
次に、本発明の作用について、図10に示すフローチャートを用いて説明する。光源装置13で発せられる広帯域光BB及び狭帯域光NB1は、ライトガイド43を介して、被検体内に同時に照射される。被検体からの反射光は、カラーのCCD44により撮像される。この撮像により得られる青色信号B、緑色信号G、赤色信号Rから、ベース画像を生成する。生成されたベース画像と青色信号B、緑色信号G、赤色信号Rは、フレームメモリ56に一時的に記憶される。
【0036】
次に、青色信号Bと緑色信号Gの類似度から観察距離を求める。類似度が低いときには近景状態とされ、類似度が高い時には遠景状態とされる。そして、観察距離に応じて色空間を設定する。近景状態においては、B/Gと血管深さとの関係を表す第1色空間が、遠景状態においては、B/Rと血管深さとの関係を表す第2色空間が設定される。色空間が設定されると、設定された色空間から血管深さを求める。
【0037】
第1色空間が設定されている場合には、青色信号B及び緑色信号G間で同じ位置の画素毎に信号比B/Gを求め、その求めた信号比B/Gに対応する血管深さを第1色空間から求める。血管深さは、青色信号B及び緑色信号Gの全画素について求める。第2色空間が設定されている場合には、青色信号B及び赤色信号R間で同じ位置の画素毎に信号比B/Rを求め、その求めた信号比B/Rに対応する血管深さを第2色空間から求める。血管深さは、青色信号B及び赤色信号Rの全画素について求める。
【0038】
全画素について血管深さが求まると、フレームメモリ56に記憶されたベース画像に対して血管深さ情報を反映させることにより、血管深さ情報を含む血管画像が生成される。生成された血管画像は、表示制御回路58によってモニタ14に表示される。
【0039】
図11に示す第2実施形態の電子内視鏡システム100では、電子内視鏡の先端部16aの対物レンズユニット51に、被検体を拡大する拡大モードと拡大しない非拡大モードを有するズーム機能を設け、モードに応じて異なる色空間を設定する。拡大モードに設定されているときには観察距離が近い状態にあるとし、反対に非拡大モードに設定されているときには観察距離が遠い状態にあるとする。このように、電子内視鏡システム100は、対物レンズユニットがいずれのモードに設定されているかによって観察距離を決めていることから、電子内視鏡システム100には第1実施形態のような観察距離算出部60が設けられていない。なお、それ以外については電子内視鏡システム100は電子内視鏡システム10と同様である。
【0040】
対物レンズユニット51は、光軸方向に移動可能な結像レンズ51aと、この結像レンズ51aを移動させるレンズ駆動部51bとによって、ズーム機能を構成している。レンズ駆動部51bは、結像レンズ51aを所定量だけ移動させることによって、所定の撮像倍率に設定する。撮像倍率は、プロセッサ装置12のコントローラー59内に設けられたズーム制御部59aで決められる。
【0041】
ズーム制御部59aは、ズームスイッチ101に入力されるズーム機能のモード情報やズーム倍率情報に基づいて、レンズ駆動部51bを駆動制御する。また、ズームスイッチ101からのズーム機能のモード情報は、画像処理部57内の色空間設定部61にも送信される。色空間設定部61が拡大モードの情報を受信したときには、信号比B/Gと血管深さとの関係を表す第1色空間に設定する。一方、非拡大モードの情報を受信したときには、信号比B/Rと血管深さとの関係を表す第2色空間を設定する。色空間を設定した後の処理は、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0042】
図12に示す第3実施形態の電子内視鏡システム200では、キセノンランプ等の広帯域光源の代わりに、レーザ光源201と蛍光体202とによって広帯域光BB´を生成する。レーザ光源201は光源装置13内に設けられており、図13に示すように、中心波長445nm(半値幅は10nm程度)の狭帯域光NB2を発する。蛍光体202は例えばYAG系蛍光体やBAM(BaMgAl1017)からなり、電子内視鏡の先端部16aに設けられている。蛍光体202は、狭帯域光NB2の一部を吸収することにより、図13に示すように、緑色領域から赤色領域に及ぶ励起発光光を発する。この励起発光光と狭帯域光NB2が合波されて広帯域光BB´が生成される。
【0043】
第3実施形態の光源装置13においては、レーザ光源33からの狭帯域光NB1はライトガイド43aに入射するとともに、レーザ光源201からの狭帯域光NB2はライトガイド43bに入射する。ライトガイド43aからの狭帯域光NB1は、照射レンズ48及び照明窓49を介して、被検体に照射される。一方、ライトガイド43bからの狭帯域光NB2は、ライトガイド43bと照明窓204との間に設けられた蛍光体202に照射される。蛍光体202では、狭帯域光NB2の一部を吸収することにより励起発光光を発生させ、その他はそのまま透過する。これにより、蛍光体202からは、励起発光光と狭帯域光NB2が合波された広帯域光BB´が出射する。この広帯域光BB´は照明窓204を介して被検体に照射される。
【0044】
広帯域光BB´と狭帯域光NB1は、所定の光量比で被検体に同時に照射される。光量比は、レーザ光源33及びレーザ光源201の光量を光源制御部210で制御することによって、調整される。光源制御部210は、プロセッサ装置内のコントローラー59からの指示に基づき、レーザ光源33の光量とレーザ光源201の光量との比を示すLD光量比(405/445)が所定値となるように制御を行う。
【0045】
コントローラー59は、フレームメモリ56に記憶された青色信号B等からCCD44における露光量を検出し、検出した露光量に応じてLD光量比を設定するLD光量比設定部59bとを備えている。露光量は観察距離と関連性を有しており、観察距離が近いときには、先端部16aに戻る光の量が多いため、露光量は大きくなる。一方、観察距離が遠くなるほど、先端部16aに戻る光の量は少なくなるため、露光量は小さくなる。
【0046】
したがって、LD光量比設定部59bでは、図14に示すように、露光量が多い場合(観察距離が近い場合(近景状態))にはLD光量比を大きく設定する。即ち、狭帯域光NB1の光量(比率)を広帯域光BB´の光量(比率)よりも大きくする。一方、露光量が少なくなり始めた場合には(観察距離が遠くなり始めた場合)には、LD光量比を徐々に小さくする。そして、露光量が少なくなった場合(観察距離が遠い場合(遠景状態))には、LD光量比を小さく設定する。即ち、広帯域光BB´の光量(比率)を狭帯域光NB1の光量(比率)よりも大きくする。
【0047】
以上のように、LD光量比は観察距離と関連性があることから、第3実施形態ではLD光量比を用いて色空間の切り替えを行う。ここで、LD光量比が閾値Thを上回る一定値以上のとき(近景状態)には、信号比B/Gと血管深さとの関係を表す第1色空間に設定する。一方、LD光量比が閾値Thを下回る一定値未満のとき(近景状態)には、信号比B/Rと血管深さとの関係を表す第2色空間を設定する。色空間を設定した後の処理は、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。なお、電子内視鏡システム200では、LD光量比によって観察距離を決めていることから、電子内視鏡システム200には第1実施形態のような観察距離算出部60が設けられていない。
【符号の説明】
【0048】
10,100,200 電子内視鏡システム
14 モニタ
30 広帯域光源
33,202 レーザ光源
51 対物レンズユニット
57 画像処理部
59 コントローラー
59b LD光量比設定部
60 観察距離算出部
61 色空間設定部
63 血管深さ情報取得部
65 血管画像生成部
101 ズームスイッチ
202 蛍光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に照明光を照射する照明手段と、
互いに光透過特性が異なる複数のカラーフィルタが設けられたカラーの撮像素子を有し、前記被写体からの反射光を前記カラーの撮像素子で撮像することによって複数の撮像信号を取得する撮像手段と、
前記被検体における観察対象との距離を示す観察距離を求める観察距離算出手段と、
所定の2つの撮像信号間の比を示す第1信号比と被検体における血管深さとの関係を表す第1色空間及び前記第1信号比と異なる第2信号比と血管深さとの関係を表す第2色空間を含む複数の色空間の中から、前記観察距離に合った色空間を設定する色空間設定手段と、
前記撮像手段で取得した撮像信号及び前記色空間設定手段で設定した色空間から、血管深さ情報を求める血管深さ情報取得手段と、
前記血管深さ情報を含む血管画像を生成する血管画像生成手段と、
前記血管画像を表示する表示手段とをを備えることを特徴とする内視鏡システム。
【請求項2】
前記カラーの撮像素子は、B色のカラーフィルターが設けられたB画素から青色信号を、G色のカラーフィルターが設けられたG画素から緑色信号を、R色のカラーフィルターが設けられたR画素から赤色信号を出力し、
前記第1色空間は、青色信号及び緑色信号間の第1信号比B/Gと血管深さとの関係を表しており、
前記第2色空間は、青色信号及び赤色信号間の第2信号比B/Rと血管深さとの関係を表しており、
前記色空間設定手段は、前記観察距離が一定距離未満のときには第1色空間を、前記観察距離が一定距離以上のときには第2色空間を自動的に設定することを特徴とする請求項1記載の内視鏡システム。
【請求項3】
前記観察距離算出手段は、前記青色信号と前記緑色信号の類似度が低いときには前記観察距離は近景状態にあるとし、類似度が高いときには前記観察距離は遠景状態にあるとし、
前記色空間設定手段は、前記近景状態にあるときには前記第1色空間を、前記遠景状態にあるときには前記第2色空間を設定することを特徴とする請求項2記載の内視鏡システム。
【請求項4】
前記青色信号と前記緑色信号の信号値の差分値が大きいときには前記類似度は低く、前記差分値が小さいときには前記類似度は高いことを特徴とする請求項3記載の内視鏡システム。
【請求項5】
前記撮像手段は、被検体を所定の倍率で拡大する拡大モードまたは拡大しない非拡大モードのいずれかに切り替えが可能なズーム部を備えており、
前記色空間設定手段は、前記拡大モードに設定されている場合には前記第1色空間を、前記非拡大モードに設定されている場合には前記第2色空間を設定することを特徴とする請求項1または2記載の内視鏡システム。
【請求項6】
前記照明手段は、広帯域光及び狭帯域光で被検体を同時に照明し、
前記色空間設定手段は、前記広帯域光と前記狭帯域光の光量比において前記狭帯域光の比率が一定以上のときには前記第1色空間を設定し、前記狭帯域光の比率が一定未満のときには前記第2色空間を設定することを特徴とする請求項1または2記載の内視鏡システム。
【請求項7】
前記狭帯域光は、青色領域において特定波長を有する第1狭帯域光であり、
前記広帯域光は、前記第1狭帯域光と波長範囲が異なる第2狭帯域光と、前記第2狭帯域光を蛍光体に照射することによってその蛍光体から励起発光される励起発光光とが合波された光であり、
前記色空間設定手段は、前記第1狭帯域光と前記第2狭帯域光の光量比において前記第1狭帯域光の比率が前記第1色空間を設定し、前記第1狭帯域光の比率が一定未満のときには前記第2色空間を設定することを特徴とする請求項6記載の内視鏡システム。
【請求項8】
前記広帯域光と前記狭帯域光の光量比を、前記観察距離に応じて変化させることを特徴とする請求項6記載の内視鏡システム。
【請求項9】
照明光で照明された被検体を、互いに光透過特性が異なる複数のカラーフィルタが設けられたカラーの撮像素子で撮像することによって複数の撮像信号を取得する電子内視鏡から、前記複数の撮像信号を受信する受信手段と、
前記被検体における観察対象との距離を示す観察距離を求める観察距離算出手段と、
所定の2つの撮像信号間の比を示す第1信号比と被検体における血管深さとの関係を表す第1色空間及び前記第1信号比と異なる第2信号比と血管深さとの関係を表す第2色空間を含む複数の色空間の中から、前記観察距離に合った色空間を設定する色空間設定手段と、
前記撮像手段で取得した撮像信号及び前記色空間設定手段で設定した色空間から、血管深さ情報を求める血管深さ情報取得手段と、
前記血管深さ情報を含む血管画像を生成する血管画像生成手段とを備えることを特徴とする内視鏡システムのプロセッサ装置。
【請求項10】
照明光で照明された被検体を、互いに光透過特性が異なる複数のカラーフィルタが設けられたカラーの撮像素子で撮像することによって複数の撮像信号を取得する電子内視鏡から送信される前記複数の撮像信号を画像処理する画像処理方法において、
前記被検体における観察対象との距離を示す観察距離を求め、
所定の2つの撮像信号間の比を示す第1信号比と被検体における血管深さとの関係を表す第1色空間及び前記第1信号比と異なる第2信号比と血管深さとの関係を表す第2色空間を含む複数の色空間の中から、前記観察距離に合った色空間を設定し、
前記撮像手段で取得した撮像信号及び前記色空間設定手段で設定した色空間から、血管深さ情報を求め、
前記血管深さ情報を含む血管画像を生成することを特徴とする画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−213552(P2012−213552A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81756(P2011−81756)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】