説明

内視鏡用把持装置

【課題】切断されたループワイヤが体内に落ちることがない内視鏡用把持装置を提供する。
【解決手段】内視鏡の鉗子チャンネル内に挿通可能な導入管70、アンカー30、把持クリップ10、外筒管40とを有し、更にアンカーと把持鉗子ユニット100を接続する柔軟連結部材20、導入管内に挿通された操作ワイヤ80、この操作ワイヤ先端のフック81と、把持鉗子ユニットとワイヤ掛止部10aとを接続するループワイヤ50、導入管内に配置された、把持鉗子ユニットとアンカーを該導入管から押し出す押出部材71を備え、該押出部材によりループワイヤを引き該ループワイヤを切断して、アンカーと把持鉗子ユニットを導入管から自由とする装置であって、フックとワイヤ掛止部との間にループワイヤを引っ張る力を加えたとき該ワイヤ掛止部部分でループワイヤが切断されるワイヤ切断容易部を設け、フックに同ループワイヤが切断されにくいワイヤ部分83を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡観察下で病変部を切除する際に、磁界によって誘導可能な磁気アンカーを用いて、患者の病変部を把持するための内視鏡用把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡を用いた手術の一態様として従来磁気アンカーを用いて病変部を持ち上げて切除する手法が知られており、本出願人は、この手法に用いる内視鏡用把持装置を出願している(特許文献1、2)。このうち特許文献2の内視鏡用把持用装置は、内視鏡の鉗子チャンネル内に挿通可能な導入管の先端部に磁気アンカーを保持し、同導入管の内部に、柔軟連結部材でアンカーに接続した把持鉗子ユニットを挿入している。把持鉗子ユニットは、対象物内部の対象部位を把持する開き角可変の把持クリップと、この把持クリップを保持し該保持クリップとの軸方向の相対位置で開き角を制御する外筒管とを有している。導入管内にはさらに、牽引操作可能な操作ワイヤと押出部材が挿通されており、操作ワイヤ先端のフックと、把持鉗子ユニットのワイヤ掛止部とは、ループワイヤで接続されている。この内視鏡用把持装置では、押出部材によりアンカーと把持鉗子ユニットとを導入管から押し出し、操作ワイヤを介してループワイヤを引くことにより対象部位を把持しさらに該ループワイヤを切断して柔軟連結部材で接続されているアンカーと把持鉗子ユニットを導入管から自由とすることで、アンカーを用いた対象部位の操作を可能とする。
【特許文献1】特開2004-105247号公報
【特許文献2】特願2003-95348号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この内視鏡用把持装置ではループワイヤを切断することにより、アンカーと把持鉗子ユニットを導入管から自由とする。しかし、従来品においては、このループワイヤの切断箇所が区々であり、このため、体内に切断されたループワイヤが落ちることがあった。ループワイヤが体内に落ちると、粘膜を傷つけるおそれがある。また、把持鉗子ユニットの把持クリップは、金属材料のプレス成形品で形成されることがある。その場合、プレス成形把持クリップには打ち抜きばりが形成される。したがって、プレス成形把持クリップの打ち抜きばりを外側に向けて曲折すると、体内に露出させた把持クリップは粘膜を傷つけるおそれがある。
【0004】
そこで本発明の目的は、切断されたループワイヤが導入管内に確実に残される内視鏡用把持装置を得ることである。また本発明は、プレス成形把持クリップに形成される打ち抜きばりが粘膜を傷つけるおそれがない内視鏡用把持装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の内視鏡用把持装置は、ループワイヤが導入管内に確実に残される態様では、内視鏡の鉗子チャンネル内に挿通可能な導入管;この導入管の先端部に保持されるアンカー;対象物内部の対象部位を把持する開き角可変の把持クリップと、この把持クリップを保持し該把持クリップとの軸方向の相対位置で開き角を制御する外筒管とを有し、導入管の内部に保持される把持鉗子ユニット;アンカーと把持鉗子ユニットを接続する柔軟連結部材;導入管内に牽引操作可能に挿通された操作ワイヤ;この操作ワイヤ先端のフックと、把持鉗子ユニットのワイヤ掛止部との間に掛け止められて両者を接続するループワイヤ;導入管内に配置された、把持鉗子ユニットとアンカーを該導入管から押し出す押出部材;を備え、該押出部材によりアンカーと把持鉗子ユニットとを導入管から押し出し、操作ワイヤを介してループワイヤを引くことにより該ループワイヤを切断して柔軟連結部材で接続されているアンカーと把持鉗子ユニットを導入管から自由とする内視鏡用把持装置であって、ループワイヤが掛け止められる、操作ワイヤ先端の上記フックと把持鉗子ユニットのワイヤ掛止部とのうち、該ワイヤ掛止部に、該フックとワイヤ掛止部との間にループワイヤを引っ張る力を加えたとき該ワイヤ掛止部部分でループワイヤが切断されるワイヤ切断容易部を設け、フックに同ループワイヤが切断されにくいワイヤ切断困難部を設けたことを特徴としている。
【0006】
「ワイヤ切断容易」と「ワイヤ切断困難」は相対的な概念であり、通常の使用態様では切断容易部側でループワイヤの切断が生じ、切断困難部側では切断が生じない構成を意味する。具体的には例えば、ワイヤ切断容易部をナイフエッジから構成し、ワイヤ切断困難部をフックから構成することができる。あるいは、別の表現では、ワイヤ切断容易部をループワイヤが急峻に曲がる急峻曲折エッジ部から構成し、ワイヤ切断困難部を同ループワイヤが緩やかに曲がる緩曲折案内部とから構成することができる。ナイフエッジといい急峻曲折エッジ部といっても、ループワイヤに張力をかけたとき直ちに切断されるほどの切断性は不要で(があってはだめで)あり、把持クリップによる病変部の把持作業が終了した後にさらに張力を加えると初めて切断されるほどの切断性を与えるものとする。
【0007】
具体的には例えば、ワイヤ掛止部は、金属材料をプレス成形した把持クリップの曲折部とすることができ、ワイヤ切断容易部は、該プレス成形把持クリップの打ち抜きばりを内側にした該曲折部とすることができる。
【0008】
ループワイヤは、以上のような切断性(非切断性)を有するものであれば、樹脂材料または金属材料のなかから選択することができる。つまり、ワイヤ切断容易部と切断困難部の構成は、ループワイヤの性質に応じて定めることができる。
【0009】
また本発明は、プレス成形把持クリップに形成される打ち抜きばりが粘膜を傷つけるおそれがない内視鏡用把持装置の態様では、内視鏡の鉗子チャンネル内に挿通可能な導入管;この導入管の先端部に保持されるアンカー;対象物内部の対象部位を把持する開き角可変の把持クリップと、この把持クリップを保持し該保持クリップとの軸方向の相対位置で開き角を制御する外筒管とを有し、導入管の内部に保持される把持鉗子ユニット;アンカーと把持鉗子ユニットを接続する柔軟連結部材;導入管内に牽引操作可能に挿通された操作ワイヤ;この操作ワイヤ先端のフックと、把持鉗子ユニットのワイヤ掛止部との間に掛け止められて両者を接続するループワイヤ;導入管内に配置された、把持鉗子ユニットとアンカーを該導入管から押し出す押出部材;を備え、該押出部材によりアンカーと把持鉗子ユニットとを導入管から押し出し、操作ワイヤを介してループワイヤを引くことにより該ループワイヤを切断して柔軟連結部材で接続されているアンカーと把持鉗子ユニットを導入管から自由とする内視鏡用把持装置であって、把持クリップは、金属材料のプレス成形品からなり、このプレス成形把持クリップは、打ち抜きばりを内側にして曲折されており、該曲折部が外筒管内に挿入されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、ループワイヤは、所定以上の強い力で牽引したときに、ワイヤ切断容易部側で切断されるため、切断されたループワイヤは把持鉗子ユニットに伴って体内に残ることがなく、そのループワイヤが体内の粘膜を傷つけるおそれを少なくすることができる。また、プレス成形した把持クリップの打ち抜きばりを内側にして曲折させるため、把持クリップが粘膜を傷つけるおそれを少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る内視鏡用把持装置1の一実施形態について説明する。
図1は、患者(対象物)の病変部(対象部位)130(図9から図14参照)を観察および処置することができる内視鏡2内に、内視鏡用把持装置1を挿通した状態を示している。内視鏡2は、患者の体内に挿入する挿入部3と、挿入部3の先端部に配置される先端硬性部60と、挿入部3の後方に内視鏡用把持装置1などの処置具を挿入する鉗子挿入口90と、鉗子挿入口90と先端硬性部60の間に連通する鉗子チャンネル61(図9参照)とを有する。
【0012】
図2、図3に示すように、内視鏡用把持装置1は、鉗子チャンネル61内に挿通される中空円筒状の導入管70と、導入管70の内壁に沿って設けられる押出部材71と、押出部材71の内側に挿通する操作ワイヤ80と、導入管70の先端部に嵌められる磁気アンカー30と、磁気アンカー30の後方に配置される把持鉗子ユニット100とを有する。
【0013】
磁気アンカー(アンカー)30は、強磁性体からなり、導入管70の先端部に保持されている。強磁性体としては、例えば電磁石、永久磁石などの磁気誘導部材を用いることができる。これらの磁気誘導部材を用いることによって、操作者は、患者の体外から磁気アンカー30を吸引制御することができる。さらに、磁気アンカー30に用いる磁性体としては、純鉄、鉄合金のほか、プラチナマグネット、希土類磁石、テルビウム・ディスプロシウム・鉄合金などの磁石を使用することができる。
【0014】
把持鉗子ユニット100は、把持クリップ10と外筒管40からなり、導入管70の内側に位置して磁気アンカー30の後方に配置されている。
図4から図6は、金属材料からなる可撓性を有する把持クリップ10を示している。プレス成形把持クリップ10は、図4のようにプレス型によって所定の平面形状にプレス成形した素材を略U字形状に曲折して得られる。プレス成形把持クリップ10を曲折するときには、プレス成形によって形成される打ち抜きばりが内側になるようにする。このようにして得られる把持クリップ10は、対向する長い板状部材11、12とワイヤ掛止部(曲折部)10aを備える。ワイヤ掛止部10aは、図6の断面形状に示すように、打ち抜きばり(急峻曲折エッジ部)14を内側に有する曲折部分であり、この打ち抜きばりは、ワイヤ切断容易部13を形成している。
【0015】
板状部材11、12のワイヤ掛止部10aとは反対側の先端部には、それぞれ内側へ屈曲させた爪部11a、12aが形成されている。板状部材11、12の長手方向の同一位置においては、板状部材11、12を屈曲させることにより、その前後部分よりも外方へ突出した凸部11b、12bと、内方へ狭まった凸部11b、12bの前方端から再び外方へ広がる傾斜部11c、12cと、傾斜部11c、12cの前方端から爪部11a、12aへ延びる平面先端部11d、12dが設けられている。このため、板状部材11、12を互いに近づくように付勢すると、爪部11a、12aは、患者内部の病変部130を把持することができる。病変部130を把持する把持クリップ10の開き角は、自在に変えることができる。なお、把持クリップ10は、病変部130を把持できれば板状部材の数は3枚以上であってもよい。
【0016】
図7に示すように、把持クリップ10は、ワイヤ掛止部10aの近傍に位置する後部11e、12eが略円筒状の外筒管40内に保持されている。外筒管40は、把持クリップ10の外面が当接可能な内径を有しており、例えばステンレスパイプ、プラスチックチューブや超弾性合金により形成することができる。外筒管40は、把持クリップ10のワイヤ掛止部10aおよび後部11e、12eが挿入されている大径部46と、大径部46の後方に設ける小径部47と、小径部47に位置して径方向に対向する一対のスリット41、42を有する円筒形状である。スリット41、42は、外筒管40の軸に平行に延びており、その後端部は開放されている。
外筒管40は、把持クリップ10と当接して軸方向に移動自在である。したがって、把持クリップ10が上記のような形状を有するため、外筒管40は、軸方向に移動して把持クリップ10との相対位置を変化することによって把持クリップ10の開き角を制御することができる。なお、小径部47に設けるスリットは1つでもよい。
【0017】
磁気アンカー30と把持クリップ10(把持鉗子ユニット100)は、柔軟性を有する柔軟連結部材20によって接続されている。柔軟連結部材20は、ワイヤ掛止部10aの内側に通されて、スリット41、42を介して外筒管40(把持鉗子ユニット100)外に配置された後に、磁気アンカー30の一端に設けられた孔部31に挿入固定されている。柔軟連結部材20としては、例えば、手術用縫合糸、釣糸、金属製ワイヤを使用することができる。
このように、柔軟連結部材20を介して把持クリップ10(把持鉗子ユニット100)と磁気アンカー30とを連結しているため、術者は患者の体外から磁気アンカー30を吸引制御することによって、把持クリップ10を所望の方向に牽引することができる(図14参照)。
【0018】
導入管70内に牽引操作可能に挿通されている操作ワイヤ80の先端には、フック81が設けられている。フック81は、接着剤、はんだ、ロウ付けなどの接合手段によって、操作ワイヤ80に固定されている。操作ワイヤ80は導入管70よりも充分長く、その後端部は内視鏡2の鉗子挿入口90から外部に突出した導入管70から、さらに延出している。フック81の中央部分には凹部82が形成されている。この凹部82は、把持クリップ10のワイヤ掛止部10aに形成した打ち抜きばりによる急峻曲折エッジ部14(ワイヤ切断容易部13)よりも曲率が大きいワイヤ切断困難部83を構成する。
【0019】
フック81の凹部82と把持鉗子ユニット100のワイヤ掛止部10aとの間には、これらを接続するループワイヤ50が掛け止められている。ループワイヤ50は、所定以上の強い力で牽引したときに切断する材料であれば、例えば合成樹脂材料、または金属材料から構成することができる。ループワイヤ50は、ワイヤ掛止部10aのワイヤ切断容易部13および凹部82のワイヤ切断困難部83に当接している。ワイヤ切断容易部13は、ループワイヤ50を急峻に曲げ、応力を曲折部に集中させるのに対し、ワイヤ切断困難部83は、ループワイヤ50を緩やかに曲げ、応力を一箇所に集中させない。すなわち、ワイヤ切断容易部13は、ループワイヤ50に対して大きい応力集中を生じさせる形状であり、ワイヤ切断困難部83は、相対的に応力集中を生じさせない形状である。
【0020】
図8は、ワイヤ切断容易部13(急峻曲折エッジ部14)にループワイヤ50が掛け止められた状態を示している。急峻曲折エッジ部14は、この実施形態では、把持クリップ10のプレス成形の際に形成される打ち抜きばりであるので、フック81とワイヤ掛止部10aとの間にループワイヤ50を引っ張る力を加えたとき、ワイヤ掛止部10aの急峻曲折エッジ部14に応力が集中しループワイヤ50が切断される。一方、ワイヤ切断困難部83は、緩やかな曲面を有する凸面であり、ループワイヤ50が緩やかに曲がる緩曲折案内部84を備えているので、ループワイヤ50には大きな応力集中が生じることがなく、切断がこのワイヤ切断困難部83で生じることがない。
【0021】
導入管70の内壁には、導入管70の長手方向において、押出部材71が配置されている。押出部材71は、導入管70に対して相対移動可能であり、把持鉗子ユニット100と磁気アンカー30をこの導入管70から押し出す。押出部材71の先端硬性部60側先端には、規制管72が接着剤、はんだ、ロウ付けなどの固定手段によって固定されている。規制管72には段部73が設けられており、段部73の前方部分74の外径は導入管70の内径とほぼ同一である。一方、前方部分74より外径の小さい後方部分75の外径は、押出部材71が形成する中空円筒の内径とほぼ同一である。したがって、後方部分75の外周に押出部材71を固定すると、押出部材71が形成する中空円筒の外周と前方部分74の外周がほぼ同一面となる。
【0022】
前方部分74の内径は、後方部分75の内径より大きく設定されている。さらに前方部分74の内径及び後方部分75の内径は、それぞれ、外筒管40の大径部46の外径及び小径部47の外径とほぼ同一である。このため、規制管72内に外筒管40を挿入することができ、かつ、段差部45が規制管72の先端面76に当接することによって外筒管40の移動が規制される。
【0023】
図9から図14は、磁気アンカー30と把持鉗子ユニット100の体内への導入操作、把持クリップ10による病変部130の把持操作、磁気アンカー30(病変部130)の牽引操作を示している。把持鉗子ユニット100と磁気アンカー30の体内への導入は、体内に内視鏡2の挿入部3を導入することによって行う。挿入部3の先端硬性部60内には、導入管70が挿通されており、導入管70の先端には磁気アンカー30が配置され、この磁気アンカー30の後方に把持鉗子ユニット100が配置されている。把持鉗子ユニット100は、把持クリップ10の爪部11a、12aを先端硬性部60の先端側に向けて配置している。
【0024】
患者の体内に磁気アンカー30と把持鉗子ユニット100を導入する前に、以下のように、把持鉗子ユニット100と磁気アンカー30を導入管70内に配置する。
把持鉗子ユニット100と磁気アンカー30は、柔軟連結部材20を介して連結された状態で導入管70内に挿入される。挿入の際には、あらかじめ把持クリップ10内に通されたループワイヤ50を、導入管70内に挿通された操作ワイヤ80の先端に固定されたフック81の凹部82に掛け止める。この状態で、外筒管40の後端部を規制管72内に挿入する。この挿入動作は、外筒管40の段差部45と前方部分74の先端部とが突き当たること、および規制管72の段部73と小径部47の後端部とが突き当たることによって、外筒管40の挿入が規制されて終了する。
このように、把持鉗子ユニット100がまず導入管70内に挿入され、次に磁気アンカー30の一部が導入管70の先端部に嵌合する。また、柔軟連結部材20は、磁気アンカー30を把持クリップ10の前方に配置することを妨げないだけの十分な長さを有しているため、挿入動作完了時には磁気アンカー30、把持鉗子ユニット100(把持クリップ10および外筒管40)が一直線上に配置される。
【0025】
把持クリップ10と磁気アンカー30の患者の体内への導入は以下のように行う。まず、内視鏡2の挿入部3を患者の体内に挿入する。その後、先端硬性部60から導入管70の先端部を体内に露出させる。押出部材71により磁気アンカー30と把持鉗子ユニット100とを導入管70から押し出す。
すなわち、押出部材71によって規制管72を前方側へ付勢し、把持鉗子ユニット100が前方へ押される。把持鉗子ユニット100の把持クリップ10の先端が磁気アンカー30の後端に当接する。この状態から、さらに規制管72を前方に付勢すると、導入管70の先端部に嵌合している磁気アンカー30が外れる。
図9に示すように、把持鉗子ユニット100は、導入管70の先端から患者の体内に露出し、把持鉗子ユニット100の把持クリップ10および外筒管40が導入管70の長手方向において、一直線上に配置される。磁気アンカー30は、重力によって下方に垂れ下がる。したがって、先端硬性部60を病変部130に対向するように内視鏡2を操作すれば、先端硬性部60内に配置された導入管70も病変部130に対向するため、術者は、容易に把持クリップ10の先端を病変部130に向けることができる。
【0026】
図10、図11に示すように、把持クリップ10の病変部130への把持操作は以下のように行う。
まず、平面先端部11d、12dを開くために、操作ワイヤ80を押出部材71及び規制管72に対して相対的に移動させることによって操作ワイヤ80を牽引して凸部11b、12bを外筒管40内に引き込む。外筒管40内に引き込まれた凸部11b、12bは、外筒管40の内壁に当接するため、互いに近づく方向に撓む。凸部11b、12bがこのように撓むことによって、平面先端部11d、12dは互いに離間して、図10に示すように、外筒管40から露出した把持クリップ10の先端側が開くことになる。
【0027】
このように開いた把持クリップ10を、把持クリップ10と外筒管40の相対位置が変化しないようにして、押出部材71、規制管72及び操作ワイヤ80を一体に移動させて病変部130に向けて進行させる。把持クリップ10の先端が所望の位置に来たところで把持クリップ10を閉じることによって、病変部130を把持クリップ10で把持することができる。
把持クリップ10を閉じるためには、操作ワイヤ80を牽引して押出部材71及び規制管72に対して相対的に移動させることによって、把持クリップ10の傾斜部11c、12cを外筒管40内に引き込む。外筒管40内に引き込まれた傾斜部11c、12cは、外筒管40の内壁に当接するため、互いに近づく方向に撓み、これに伴って平面先端部11d、12dは互いに近づくように動く。したがって、図11に示すように、外筒管40から露出した把持クリップ10の先端側が閉じることになる。このようにして、把持鉗子ユニット100および磁気アンカー30の病変部130への把持操作は完了する。
【0028】
次に、図12、図13に示すように、把持鉗子ユニット100および磁気アンカー30の分離動作は、以下のように行う。操作ワイヤ80を介してループワイヤ50を強く引くと、ループワイヤ50は、ワイヤ切断容易部13の急峻曲折エッジ部14に当接する位置で切断する。したがって、ループワイヤ50によって導入管70内に拘束されていた磁気アンカー30と把持鉗子ユニット100は、導入管70から自由となる。その後、ループワイヤ50がフック81に係り止められた状態において、押出部材71、規制管72、操作ワイヤ80を導入管70内に後退させることによってこれらを回収する。
ループワイヤ50がワイヤ切断容易部13において切断されるのは、前述のように、ワイヤ切断困難部83ではループワイヤ50に係る力が分散される(応力集中が生じない)の対し、ワイヤ切断容易部13ではループワイヤ50に係る力が集中する(応力集中が生じる)ことによる。
【0029】
ワイヤ切断容易部13は、プレス成形の成形バリによることなく、特別に形成したナイフエッジから構成することも可能である。図6に鎖線で示すナイフエッジ13Xは、ループワイヤ50の切断を容易にするため(ループワイヤ50に大きい応力集中を生じさせるため)に、ワイヤ掛止部10aの内側に特別に形成したものを模式的に示している。
【0030】
図14に示すように、病変部130は、患者の体外から磁気アンカー30に吸引力を及ぼすことにより牽引される。持ち上げられた病変部130は、高周波メスなどの切開具によって切除することができる。
【0031】
なお、金属材料をプレス成形した把持クリップ10において、その成形バリを内側に曲折成形すると、ループワイヤ50の切断容易性という効果とは独立した効果として、把持クリップが粘膜を傷つけるおそれがないという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る内視鏡の全体構成を示す概観図である。
【図2】本発明の実施形態に係るアンカー、把持鉗子ユニット、柔軟連結部材、及びループワイヤの構成を示す縦断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るアンカー、把持鉗子ユニット、柔軟連結部材、及びループワイヤの構成を示す横断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る把持クリップのプレス打ち抜き状態を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る把持クリップの外観図である。
【図6】図5のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る把持鉗子ユニットおよび柔軟連結部材の導入管の収容状態を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る把持鉗子ユニットおよび柔軟連結部材を接続した状態を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係る把持クリップおよびアンカーを導入管の外部に露出させた状態を示す図である。
【図10】本発明の実施形態に係る把持クリップが開いた状態を示す一部断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る把持クリップが対象部位を把持した状態を示す一部断面図である。
【図12】本発明の実施形態に係るループワイヤの一部が切断された状態を示す側面図である。
【図13】本発明の実施形態に係る把持鉗子ユニットとアンカーが導入管から自由とされた状態を示す側面図である。
【図14】本発明の実施形態に係るアンカーが牽引されている状態を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 内視鏡用把持装置
2 内視鏡
10 把持クリップ
10a ワイヤ掛止部
11 12 板状部材
11a 12a 爪部
11b 12b 凸部
11c 12c 傾斜部
11d 12d 平面先端部
11e 12e 後部
13 ワイヤ切断容易部
13X ナイフエッジ
14 急峻曲折エッジ部
20 柔軟連結部材
30 磁気アンカー(アンカー)
31 孔部
40 外筒管
41 42 スリット
45 段差部
46 大径部
47 小径部
50 ループワイヤ
60 先端硬性部
61 鉗子チャンネル
70 導入管
71 押出部材
72 規制管
73 段部
74 前方部分
75 後方部分
80 操作ワイヤ
81 フック
82 凹部
83 ワイヤ切断困難部
84 緩曲折案内部
90 鉗子挿入口
100 把持鉗子ユニット
130 病変部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の鉗子チャンネル内に挿通可能な導入管;
この導入管の先端部に保持されるアンカー;
対象物内部の対象部位を把持する開き角可変の把持クリップと、この把持クリップを保持し該把持クリップとの軸方向の相対位置で開き角を制御する外筒管とを有し、上記導入管の内部に保持される把持鉗子ユニット;
上記アンカーと把持鉗子ユニットを接続する柔軟連結部材;
上記導入管内に牽引操作可能に挿通された操作ワイヤ;
この操作ワイヤ先端のフックと、上記把持鉗子ユニットのワイヤ掛止部との間に掛け止められて両者を接続するループワイヤ;
上記導入管内に配置された、上記把持鉗子ユニットとアンカーを該導入管から押し出す押出部材;
を備え、
該押出部材によりアンカーと把持鉗子ユニットとを導入管から押し出し、操作ワイヤを介してループワイヤを引くことにより該ループワイヤを切断して上記柔軟連結部材で接続されているアンカーと把持鉗子ユニットを導入管から自由とする内視鏡用把持装置であって、
上記ループワイヤが掛け止められる、操作ワイヤ先端の上記フックと把持鉗子ユニットの上記ワイヤ掛止部とのうち、該ワイヤ掛止部に、該フックとワイヤ掛止部との間にループワイヤを引っ張る力を加えたとき該ワイヤ掛止部部分でループワイヤが切断されるワイヤ切断容易部を設け、上記フックに同ループワイヤが切断されにくいワイヤ切断困難部を設けたことを特徴とする内視鏡用把持装置。
【請求項2】
請求項1記載の内視鏡用把持装置において、上記ワイヤ切断容易部はループワイヤが急峻に曲がる急峻曲折エッジ部であり、ワイヤ切断困難部は同ループワイヤが緩やかに曲がる緩曲折案内部からなっている内視鏡用把持装置。
【請求項3】
請求項2記載の内視鏡用把持装置において、上記急峻曲折エッジ部は、ナイフエッジ状のエッジからなっている内視鏡用把持装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の内視鏡用把持装置において、上記ワイヤ掛止部は、金属材料をプレス成形した把持クリップの曲折部であり、上記ワイヤ切断容易部は、該プレス成形把持クリップの打ち抜きばりを内側にした該曲折部である内視鏡用把持装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項記載の内視鏡用把持装置において、上記ループワイヤは、樹脂材料または金属材料からなっている内視鏡用把持装置。
【請求項6】
内視鏡の鉗子チャンネル内に挿通可能な導入管;
この導入管の先端部に保持されるアンカー;
対象物内部の対象部位を把持する開き角可変の把持クリップと、この把持クリップを保持し該保持クリップとの軸方向の相対位置で開き角を制御する外筒管とを有し、上記導入管の内部に保持される把持鉗子ユニット;
上記アンカーと把持鉗子ユニットを接続する柔軟連結部材;
上記導入管内に牽引操作可能に挿通された操作ワイヤ;
この操作ワイヤ先端のフックと、上記把持鉗子ユニットのワイヤ掛止部との間に掛け止められて両者を接続するループワイヤ;
上記導入管内に配置された、上記把持鉗子ユニットとアンカーを該導入管から押し出す押出部材;
を備え、
該押出部材によりアンカーと把持鉗子ユニットとを導入管から押し出し、操作ワイヤを介してループワイヤを引くことにより該ループワイヤを切断して上記柔軟連結部材で接続されているアンカーと把持鉗子ユニットを導入管から自由とする内視鏡用把持装置であって、
上記把持クリップは、金属材料のプレス成形品からなり、このプレス成形把持クリップは、打ち抜きばりを内側にして曲折されており、該曲折部が外筒管内に挿入されている内視鏡用把持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−61363(P2006−61363A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246768(P2004−246768)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【出願人】(590001452)国立がんセンター総長 (80)
【Fターム(参考)】