説明

内視鏡用撮影レンズユニット及びカメラモジュール

【課題】内視鏡用撮影レンズユニットの各部品の寸法精度を見直し、製品歩留りを向上させる。
【解決手段】カム軸25に第1レンズ移動枠26、第2レンズ移動枠27を係合させ、カム軸25の回転により、第1及び第2可動レンズ22,23を個別に光軸方向に移動させる。移動穴35に第1連結面51と、その奥側に第2連結面52を形成する。第1連結面の面間距離よりも第2連結面52の面間距離を小さくし、両者を段状に形成する。移動穴35が第1連結面51と第2連結面52とに分断されるため、微小で且つ細長い移動穴35の切削加工時に一気に切削加工することがなくなる。切削加工中のエンドミルの暴れが無くなり、連結面51,52を精度良く加工することができ、製品歩留り率が向上する。ワイヤ駆動による低トルク回転でも円滑なレンズ移動が行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内視鏡用撮影レンズユニット及びカメラモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療分野では、電子内視鏡を用いた診断や治療が数多く行われている。電子内視鏡は、挿入部の先端にカメラモジュールを備えており、患者の体内の像光を取り込みモニタなどに表示することができる。
【0003】
カメラモジュールとしては、撮影レンズの焦点距離を可変する機構を備え、通常観察及び拡大観察の間で焦点距離を切り換えることが可能なもの(例えば、特許文献1,2参照)がある。このようなカメラモジュールでは、撮影レンズユニットとカメラユニットが一体化されている。また、撮影レンズユニットは、撮影レンズの一部のレンズを光軸方向に移動させて焦点距離を変えるために駆動部を有する。
【0004】
駆動部は、特許文献1のようにカム軸の回転変位によりレンズ移動枠を光軸方向で変位させるカム軸駆動タイプや、特許文献2のように、形状記憶合金を有する駆動部を電気制御することにより、レンズ移動枠を光軸方向に変位させる直接駆動タイプがある。ただし、直接駆動タイプの場合には、カム軸タイプと異なり、移動対象のレンズが1個に限定されてしまう。これに対して、カム軸タイプはカム溝とこれに係合するレンズ移動枠を増やすことで、複数のレンズを同時に移動させることができるメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−58635号公報
【特許文献2】特開2009−294540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
いずれの駆動方式を採用するにしても、外径寸法(縦×横×長さ)が例えば略7mm×4mm×15mm程度の微小なカメラモジュールを製造する場合には、各部品の寸法精度が問題となる。特に、カム軸タイプでは、レンズ移動枠が二つの筒心に沿ってハウジング内で撮影光軸方向に摺動するため、この摺動部分の寸法精度が問題になる。例えばレンズ移動枠とハウジングの摺動案内面との隙間が小さければ、その作動性が低下し動きが悪くなる。カム軸にトルクを伝達するモータが挿入部先端にあれば、トルクがカム軸に十分に伝わり、少し嵌合精度がきつく隙間が小さい場合でもそれほど問題にはならない。しかし、内視鏡用カメラモジュールでは、患者への負担を考慮した内視鏡挿入部の細径化の要請によって、カム軸を回転させるモータを挿入部先端に配置することは困難である。したがって、手元操作部にモータ等を配置しワイヤによりトルクをカム軸に伝達するものでは、十分なトルクをカム軸に伝達することができないため、レンズ移動枠と摺動案内面との間の隙間が小さいと、レンズ移動枠が移動不能となる問題がある。
【0007】
逆に、作動性を上げて動きやすくために、レンズ移動枠と摺動案内面との隙間を大きくすると、可動レンズが作動中に揺れてしまい、ズーム作動中に画面が揺れてしまう像ブレが発生してしまう。ぶれが大きくなると、傾いた状態での移動となり、低トルクでの駆動が困難になり、最悪の場合にはレンズ移動枠が移動不能となる。
【0008】
また、カム軸方式では、撮影光軸と平行にカム軸を設け、このカム軸にレンズ移動枠を係合させる必要があり、カム軸と撮影光軸とに跨がるようにレンズ移動枠が配置される。そして、レンズ移動枠を移動自在に保持するハウジングは、レンズ移動枠とハウジング内面とが接触する摺動案内面の面積が大きくなり、この摺動案内面の加工精度を設計値範囲内に維持する必要がある。しかも、例えば4mmφと3.2mmφの2本の円柱体を横方向に並べて連結したような形状であって、その長さが15mm程度の微小なハウジングに対し、撮影レンズ収納穴とカム軸収納穴を形成し、さらにその間をくり抜き加工し、例えば入口の開口高さが1mmで開口幅が1.5mm、奥行きが10mm弱の摺動空間(移動穴)を形成する必要がある。この摺動空間の摺動案内面とレンズ移動枠の摺動面とは例えば幅(高さ)が1mmで奥行きが10mmの面積となり、その平坦度において±3μm程度の寸法精度が必要となる。
【0009】
近年は切削加工機の性能の向上によって、±3μmの寸法精度も実現可能な範囲内ではあるが、現実には熟練を要し、失敗品もできてしまうため、依然として製品歩留り率(完成合格品の数量/製作品の総量)が低下する原因となっている。加工が難しい原因の一つとして、摺動案内面が細く奥に長いことが挙げられる。摺動案内面が細く長いと、例えばフライス加工中にエンドミルが暴れてしまい、真っ直ぐに加工することが難しくなる。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、各部品の寸法精度を高精度に維持して、内視鏡用撮影レンズユニットの可動レンズを円滑に摺動させることができ、しかも製品歩留り率を向上させることもできる内視鏡用撮影レンズユニット及びカメラモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、光軸方向に移動自在な可動レンズを有する撮影レンズと、前記可動レンズを保持し、前記光軸方向に移動させるレンズ移動枠と、前記撮影レンズの光軸に平行に設けられ、前記レンズ移動枠が係合するカム軸と、前記撮影レンズを収納する撮影レンズ収納穴、前記カム軸を収納するカム軸収納穴、これら収納穴を連結し前記レンズ移動枠が移動する移動穴を有するハウジングと、前記移動穴の開口側に形成され、前記撮影レンズ収納穴と前記カム軸収納穴とを連結する第1連結面と、前記第1連結面の奥で前記撮影レンズ収納穴と前記カム軸収納穴とを連結するように前記移動穴に形成され、前記第1連結面よりも面間距離が小さく形成され、前記レンズ移動枠を摺動案内する第2連結面とを備えることを特徴とする。
【0012】
なお、前記撮影レンズは、光軸方向に順に配置される第1固定レンズ、第1可動レンズ、第2可動レンズ、第2固定レンズを有し、前記レンズ移動枠は、第1可動レンズを保持する第1レンズ移動枠と、第2可動レンズを保持する第2レンズ移動枠とを個別に有し、前記カム軸は第1及び第2のカム溝を有し、前記第1カム溝に第1レンズ移動枠が係合し、前記第2カム溝に第2レンズ移動枠が係合し、前記第1可動レンズを前記第1連結面で摺動案内し、前記第2可動レンズを前記第2連結面で摺動案内することが好ましい。
【0013】
前記第1固定レンズ、第1可動レンズ、第2可動レンズ、第2固定レンズは黒染め加工品であり、前記第1連結面及び第2連結面は切削加工面であることが好ましい。前記撮影レンズ収納穴には、前記第1固定レンズと前記第2固定レンズとの間で、前記レンズ移動枠が通過するスリットを光軸方向に有する筒状に形成され、表面が黒染め処理されている第1反射防止筒及び第2反射防止筒を有し、前記第1反射防止筒は第2反射防止筒側の端部に絞り板を有し、前記第1レンズ移動枠のレンズ保持部を囲むように配置され、前記第2反射防止筒は前記第2レンズ移動枠のレンズ保持部を囲むように配置されることが好ましい。また、前記カム軸は、一端にワイヤ連結部を有し、該ワイヤ連結部を介して連結されるワイヤにより回転されることが好ましい。
【0014】
本発明の内視鏡用カメラモジュールは、上記の撮影レンズユニットと撮像素子ユニットとを備え、撮像素子ユニットは、前記撮影レンズ収納穴に近いハウジング外周に外嵌されるプリズム保持具、前記プリズム保持具に保持されるプリズム、前記撮影レンズから入射する光を前記プリズムで反射させて受光する撮像素子、前記撮像素子に接続される信号ケーブル、前記信号ケーブルの保護チューブと前記プリズム保持具とを接続するケーブル補強板を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ハウジングの移動穴に、第1連結面と、この第1連結面よりも面間距離が小さい第2連結面を形成したから、第1連結面と第2連結面とを個別に切削加工することができる。したがって、例えば略1.5mm角で深さが10mm弱程度の微小な穴を切削加工する場合に、従来のように連結面をエンドミルで一気に形成する必要がなくなり、2度に分けて切削加工することができ、その分だけ加工精度が出しやすくなる。したがって、精度よく各連結面を切削加工することができ、製品歩留り率を向上させることができる。しかも寸法精度を維持することができ、可動レンズをカム軸の回転により光軸方向に円滑に移動することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の撮影レンズユニットを分解して示す斜視図である。
【図2】ハウジングを正面から斜めに見た斜視図である。
【図3】撮影レンズユニットを分解して示す断面図である。
【図4】移動穴の第1及び第2連結面と、第1及び第2レンズ移動枠との摺動案内状態を示す図2におけるIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】標準位置のカメラモジュールの要部断面図である。
【図6】拡大位置のカメラモジュールの要部断面図である。
【図7】本発明のカメラモジュールを分解して示す斜視図である。
【図8】カメラモジュールの全体の外観を示す斜視図である。
【図9】電子内視鏡システムの構成を示す斜視図である。
【図10】電子内視鏡の先端部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1〜図3に示すように、本発明の撮影レンズユニット11は、ハウジング13と、これらハウジング13内に収納される撮影レンズ14、レンズ移動部15とを有する。
【0018】
撮影レンズ14は、第1固定レンズ21、第1可動レンズ22、第2可動レンズ23、第2固定レンズ24を光軸方向に順に配置して構成されている。各固定レンズ21,24、各可動レンズ22,23は、レンズ枠21a〜24aと、これらレンズ枠21a〜24aで保持される1枚または複数枚のレンズ本体21b〜24bとから構成される。
【0019】
レンズ移動部15は、カム軸25と、このカム軸25上で摺動移動する第1レンズ移動枠26及び第2レンズ移動枠27とを有する。このレンズ移動部15は、可動レンズ22,23を光軸方向に移動させ、撮影レンズ14の焦点距離を変えて変倍撮影を可能にする。
【0020】
ハウジング13は、第1筒部30と第2筒部31とを筒心方向に直交する方向で並べて連結部32で連結して構成されている。図2に示すように、第2筒部31の外径は第1筒部30の外径より少し小さくされており正面から見て8の字形になっている。第1筒部30には撮影レンズ収納穴33が形成されて、この穴33に撮影レンズ14が収納される。第2筒部31にはレンズ移動部収納穴34が形成されて、レンズ移動部15が収納される。図3に示すように、レンズ移動部収納穴34内には、係止リング34aが突出して形成されている。
【0021】
図2及び図3に示すように、連結部32内には撮影レンズ収納穴33とレンズ移動部収納穴34を連結する移動穴35が形成されている。移動穴35は、開口側から順に、摺動案内面としての第1連結面51と、第2連結面52とを有する。図4に示すように、第1連結面51は、第1レンズ移動枠26のアーム26bを両側から挟持して、第1レンズ移動枠26を摺動案内する。第2連結面52は、第2レンズ移動枠27のアーム27bを両側から挟持して、第2レンズ移動枠27を摺動案内する。第2連結面52の面間距離W2は、第1連結面51の面間距離W1よりも小さく形成される。
【0022】
図1及び図3に示すように、カム軸25は外周面に2個のカム溝25a,25bを有し、後端に軸心に沿ってワイヤ連結穴25c、後端部外周面に係止フランジ25dを有する。図5に示すように、ワイヤ連結穴25cには回転駆動用のワイヤ18の先端が固定される。ワイヤ18は保護チューブ19に入れられて手元操作部67内のモータ80(図9参照)に連結されている。モータ80は手元操作部67のシーソースイッチ79の操作によって正転または逆転するように図示しないコントローラにより駆動制御される。
【0023】
図1及び図3に示すように、カム軸25の先端には固定リング29が取り付けられている。この固定リング29により、図5に示すように、レンズ移動部収納穴34内でカム軸25が傾くことなく円滑に回転する。カム軸25の後端側の係止フランジ25dは、係止リング34aに係止し、カム軸25はワイヤ18の先端に固着されるため、レンズ移動部収納穴34からカム軸25が抜け出すことがない。
【0024】
図1及び図3に示すように、第1レンズ移動枠26は、ガイド筒26aとレンズ枠22aとこれらを連結するアーム26bとを有し、これらが一体に形成されている。同様にして、第2レンズ移動枠27も、ガイド筒27a、レンズ枠23a、アーム27bを有し、一体に形成されている。第1レンズ移動枠26のガイド筒26aには第1係合ピン28aが取り付けられ、この第1係合ピン28aの先端は第1カム溝25aに入り込む。また、第2レンズ移動枠27のガイド筒27aには第2係合ピン28bが取り付けられ、この第2係合ピン28bは第2カム溝25bに入り込む。
【0025】
カム軸25が正転または逆転すると、この回転変位によって各係合ピン28a,28bを介して、第1及び第2レンズ移動枠26,27がハウジング13内で光軸方向に移動する。
【0026】
図5及び図6は撮影レンズの焦点距離の切り換えを説明するもので、図5は標準位置を示し、図6は拡大位置を示している。拡大位置では、第1レンズ移動枠26が標準位置よりも前側に移動し、第2レンズ移動枠27が標準位置よりも後ろ側に移動する。
【0027】
図4に示すように、第1及び第2レンズ移動枠26,27がカム軸25の回転により光軸方向で円滑に移動するように、本実施形態では、第1及び第2レンズ移動枠26,27のアーム26b,27bの厚みt1,t2と、移動穴35の各連結面同士の面間距離W1,W2の嵌合時の隙間(W1−t1),(W2−t2)が例えば3±3μmになるように、これら各部品を採寸して3±3μmの隙間内で組み合わさるもの同士を選択して、これらを組(ペア)として使用する。
【0028】
図3に示すように、撮影レンズ収納穴33は、ハウジング13の先端から後端に向かって順に、第1固定レンズ21及び第1可動レンズ22を収納する第1収納部33a、第2可動レンズ23を収納する第2収納部33b、第2固定レンズ24を収納する第3収納部33cが形成されている。第2収納部33bと第3収納部33cとの間には、仕切りとなるリング突起33dが形成されている。第2収納部33bは第1収納部33aの内径よりも少し小さく形成されており、第2収納部33bと第3収納部33cとは同じ内径で形成されている。
【0029】
前記第2収納部33bには、第2反射防止筒37が収納される。第2反射防止筒37は筒状に形成されており、光軸方向にスリット37aを有する。このスリット37aに第2レンズ移動枠27のアーム27bが入り、筒内には、第2レンズ移動枠27のレンズ枠23aが入る。筒内径は、レンズ枠23aの外径よりも僅かに大きく形成されており、レンズ枠23aが筒部内を移動する際に、筒部内周面にレンズ枠23aが接触することはない。
【0030】
第1収納部33aには、第1反射防止筒36が収納される。第1反射防止筒36も、第2反射防止筒37と同様に形成されており、スリット36aを有する。第2反射防止筒37と異なっている点は後端に絞り板38が一体形成されている点である。この第1反射防止筒36は、第1収納部33aと第2収納部33bとの間の段差面33eによって、その後端面が係止し、収納時に位置決めされる。第1反射防止筒36内では、第1レンズ移動枠26のレンズ枠21aが移動する。
【0031】
図4に示すように、連結面が開口側から順に第1連結面51、第2連結面52のように二つの面に段状に分断されるため、ハウジング13を切削加工して移動穴35を形成する際に、連結面を一気に形成する必要がなくなる。したがって、例えば第1連結面51を形成した後に第2連結面52を順に形成していくため、例えばフライス加工中のエンドミルの暴れが少なくなり、各連結面51,52の加工精度を上げることができる。また、これらの面間距離(W1−t1),(W2−t2)を設計値の範囲に収めるように加工することができ、ハウジングの失敗品の発生が少なくなり、歩留り率が向上する。このため、各連結面51,52と、これら各連結面51,52で摺動案内される第1レンズ移動枠26、第2レンズ移動枠27との組み合わせの数が、従来の一気に連結面を切削加工するものに比べて、増えるため組立後の撮影レンズユニット11の製品歩留り率を向上させることができる。
【0032】
また、各連結面51,52を段状に構成したため、第2連結面52の形成部分は第1連結面51の形成部分よりも肉厚に形成することができ、強度を上げることができる。したがって、強度の向上によっても加工性が改善され、歩留り率の低下を防ぐことができる。
【0033】
また、第1固定レンズ21のレンズ枠21a、第1可動レンズ22のレンズ枠22aを一体に有する第1レンズ移動枠26と、第2可動レンズ23のレンズ枠23aを一体に有する第2レンズ移動枠27と、第2固定レンズ24のレンズ枠24a、及びカム軸25が黒染め加工されて、その表面に黒色層39が形成されている。これらの部品は基本的には両端が開口した筒状であり、形状がそれほど複雑ではないことから、黒染め加工しても黒色層39はほぼ均一に形成されるので、切削加工時の寸法精度はほぼ維持される。黒染め加工は周知の方法のいずれを使用してもよく、例えば黒染め処理液を用いた化学処理にて黒色層39が形成される。なお、黒色層39は僅かな厚みの断面として現れるため、厚みを付けた図示は省略してある。
【0034】
これに対して、ハウジング13は、二つの筒部30,31を並べて連結し、しかも連結部32の内側に袋状の移動穴35が形成されている複雑な形状を呈し、外径寸法が7mm×4mm×15mm程度の微小な部品である。したがって、黒染め加工すると、ハウジング13の内面、特に移動穴35の両側の第1及び第2連結面51,52は黒染め加工時の処理液などが円滑に循環することがないため、所望の厚さの黒色層39が形成されなかったり、形成されても僅かであったり、逆に厚く形成されたりして、その厚みが連結面51,52の全領域では不均一になってしまう。したがって、切削加工により寸法精度を出しても、この黒染め加工により寸法精度にバラツキが生じてしまう。この寸法精度のばらつきによって、加工精度が一定範囲内にあるもの同士を組み合わせて作成するペアの数が減ってしまい、製品歩留り率が低下する問題が発生する。
【0035】
このため、ハウジング13は黒染め加工することなく、切削加工面の状態で組み立てる。従来の場合には、ハウジング13の内面も黒染め加工していたため、第1及び第2レンズ移動枠26,27と、これらを保持して摺動させる各連結面51,52との間での寸法精度が出しにくい状態であったが、一方のハウジング13の各連結面51,52(ハッチングを付した部分)は切削加工面の状態であり、他方のレンズ移動枠26,27は黒染め処理がやりやすく、ほぼ均一に黒色層39が形成されて、両者の寸法精度が維持されるため、各連結面51,52にて第1及び第2レンズ移動枠26,27が円滑に摺動することができ、ワイヤ18の接続によるカム軸25の回転駆動のように低トルクでの回転付与であっても、各レンズ移動枠26,27を確実に光軸方向に移動させることができる。しかも、黒染め加工はハウジング13自体には行うことがないので、その分、ハウジング13の加工精度が維持されるため、合格範囲内のペアを増加させることができ、製品歩留り率が向上する。また、ワイヤによる回転伝達によっても円滑なレンズ移動が行える。
【0036】
なお、ハウジング13を黒染め加工することなく、その摺動案内面としての連結面51,52を切削加工面として、仕上がり寸法の精度を維持するようにしたが、これに代えて、ハウジング13も黒染め加工してもよい。この場合には、例えば移動穴35に嵌合する例えばゴム製のマスキング部材(図示省略)を配置し、各連結面51,52に黒染め加工液が接触することがないようにして、各連結面51,52の加工精度を維持する。なお、移動穴35のマスキング方法は各連結面51,52をマスキングすることができるものであればよく、他の方法でマスキングしたものであってもよい。この場合には、ハウジング13にも黒色層が形成されるため、反射防止筒36,37が不要になり、その分だけ構成が簡単になる他に、組み立ても容易になる。
【0037】
また、ハウジング13の各連結面51,52をマスキングして黒染め加工をする代わりに、マスキングをすることなくハウジング13をそのまま黒染め加工し、この後に寸法精度が必要な各連結面51,52を再度切削加工してもよい。この場合には、再切削の工程が増えるものの、切削で仕上げることができるため、精度良く仕上がり、上記同様にして製品歩留り率が向上する他に、可動レンズ22,23を低トルクにて確実に移動させることができる。
【0038】
図3に示すように、第2筒部31はカム軸25を収納する関係で第1筒部30よりも長く形成されている。そして、互いの先端は揃えてあり、後端は、第1筒部30の後端よりも第2筒部31の後端が後方に突出した段違いに形成されている。この二つの筒部30,31による後端の段違い部分によって、第1筒部30の後端側にはスペースが生じる。このスペースを利用して、図7に示すように、撮影レンズユニット11にはCCDユニット(撮像素子ユニット)12が取り付けられ、カメラモジュール10が構成される。
【0039】
このため、ハウジング13の第1筒部30の外周面の後半分30aは、外周面の前半分30bよりも外径を僅かに小さく形成してあり、前半分30bと後半分30aとの間に段差面30cが形成される。この外周面の後半分30aには、CCDユニット12のプリズム保持具40の取付筒部40aが外嵌して取り付けられる。このように、第1筒部30の後端側のスペースにプリズム41を配置することにより、全体として、カメラモジュール10をコンパクトに構成することができる。
【0040】
CCDユニット12は、プリズム保持具40、プリズム41、CCD(CCD型イメージセンサ)42、回路基板43、伝送ケーブル44、ケーブル連結具45、及び配線類を封止する封止剤(図示省略)を有する。なお、ハウジング13に形成される穴48は、反射防止筒36,37や第2固定レンズ24を撮影レンズ収納穴33内に固定するときの、接着剤注入やネジ挿入のためのものであり、必要に応じて設けられる。
【0041】
プリズム保持具40は、取付筒部40aとプリズム取付枠40bとを有する。図5に示すように、プリズム41は、直角に交差する入射面41a,出射面41bと、斜面からなる反射面41cと、両側面41dとの5面を有する直角プリズムから構成されている。プリズム取付枠40bは撮影レンズ14からの入射光が通る開口部40cを有し、後端面には第1及び第2のプリズム取付位置規制片40d,40e(図5,図8参照)を有する。図8に示すように、第1位置規制片40dはプリズム41の側面41dに当接し、第2位置規制片40eは、入射面41aと出射面41bとが直交する稜線41fに当接する。これら二つの位置規制片40d,40eにプリズム41の側面41dと稜線41fとが接触することにより、プリズム41をプリズム取付枠40bに位置決めすることができる。
【0042】
プリズム41の出射面41bにはCCD42が、プリズム41の斜面にはCCD42を駆動するための回路基板43が接着剤にて取り付けられる。CCD42及び回路基板43は結線やフレキシブル配線回路基板などが接続されている。回路基板43には、伝送ケーブル44の結線が接続される。伝送ケーブル44は信号線をシールド線で覆って形成されており、シールド線は被覆コードで覆われている。なお、回路基板43は分割して適宜位置に配置してよい。
【0043】
伝送ケーブル44の被覆コードにはケーブル連結具45の一端が接着剤により固着される。また、ケーブル連結具45の他端は係止爪45aが折曲形成されており、この係止爪45aは、第2位置規制片40eに形成される係止穴47に係止する。ケーブル連結具45やCCD42及び回路基板43に覆われた結線などを保護するために、これらの隙間には必要に応じて、封止剤(図示省略)が注入されて固化される。ケーブル連結具45は板状の他に枠状のものであってもよい。
【0044】
上記のように構成されるカメラモジュール10は、図9に示すように、電子内視鏡60の先端部66aに取り付けられる。電子内視鏡システム59は、電子内視鏡60、プロセッサ装置61、光源装置62を有する。電子内視鏡60は、患者の体腔内に挿入される可撓性の挿入部66と、挿入部66の基端部分に連設された手元操作部67と、プロセッサ装置61および光源装置62に接続されるコネクタ69aと、手元操作部67、コネクタ69a間を繋ぐユニバーサルコード69とを有する。
【0045】
挿入部66は、先端から順に、先端部66a、湾曲部66b、及び軟性部66cとなっている。先端部66aは、硬質樹脂製の先端部本体に、軟質樹脂製の先端キャップを被せ、先端部本体とこれに続く湾曲部66bの金属製先端筒をチューブにより被覆して構成される。湾曲部66bは各節輪がピン結合されたユニットを有し、全体が湾曲する。湾曲部66bは、手元操作部67のアングルノブ70の回転操作により、上下左右方向に任意角度で湾曲する。これにより、先端部66aを体腔内の所望の方向に向けて、体腔内の観察部位をカメラモジュール10で撮像することができる。軟性部66cは、手元操作部67と湾曲部66bとの間を細径で長尺状に繋ぐ部分であり、可撓性を有している。
【0046】
図10に示すように、先端部66aの先端面には、鉗子出口72の他に、観察窓73、照明窓74a,74b、及び送気・送水ノズル75が設けられる。また、必要に応じて、ウォータジェット噴き出し口やその他のノズルなどが設けられる。
【0047】
手元操作部67は、アングルノブ70、送気・送水ボタン76、吸引ボタン77、レリーズボタン78、ズーム操作用のシーソースイッチ79などの各種操作部材を備えている。アングルノブ70は、回転操作によって挿入部66の先端部66aを上下左右方向に湾曲させる。送気・送水ボタン76は、押圧操作によって送気・送水ノズル75からエアーまたは水を噴出させる。吸引ボタン77は、押圧操作によって、体内の液体や組織等の被吸引物を鉗子出口72から吸引する。レリーズボタン78は、押圧操作によってカメラモジュール10により観察画像を静止画記録する。シーソースイッチ79は、モータ80を正転または逆転させて、この回転をワイヤ18を介してカム軸25に伝達し、撮影レンズ14を標準及び拡大撮影に切り換える。
【0048】
プロセッサ装置61は、光源装置62と電気的に接続され、電子内視鏡システム59の動作を統括的に制御する。プロセッサ装置61は、ユニバーサルコード69や挿入部66内に挿通された伝送ケーブル44を介して電子内視鏡60に給電を行い、先端部66aのカメラモジュール10の駆動を制御する。また、プロセッサ装置61は、伝送ケーブル44を介してカメラモジュール10からの信号を受信し、各種処理を施して画像データを生成する。プロセッサ装置61にはモニタ81が接続されている。モニタ81は、プロセッサ装置61からの画像データに基づき観察画像を表示する。
【0049】
なお、上記実施形態では、撮影レンズユニット11として、可動レンズ22,23を2個用いる例で説明したが、可動レンズは1個以上であればよい。この場合には、前記第2連結面にてレンズ移動枠を摺動案内する。また、変倍処理の他に合焦制御でレンズ枠を移動するものに本発明を適用してもよい。また、カム軸25をワイヤ18によって回転駆動するもので説明したが、挿入部先端にモータを収納しても良いタイプの場合には、ワイヤ駆動に代えてモータにより直接駆動してもよい。また、撮像素子としてCCDを用いる例で説明をしたが、撮像素子として、CMOSイメージセンサを用いてもよい。また、上記実施形態では、本発明を医療用の内視鏡に適用する例で説明をしたが、本発明を工業用の内視鏡に適用してもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 カメラモジュール
11 撮影レンズユニット
12 CCDユニット
13 ハウジング
14 撮影レンズ
15 レンズ移動部
21 第1固定レンズ
22 第1可動レンズ
23 第2可動レンズ
24 第2固定レンズ
25 カム軸
26 第1レンズ移動枠
27 第2レンズ移動枠
28a,28b 係合ピン
30,31 筒部
32 連結部
35 移動穴
37,38 反射防止筒
39 黒色層
40 プリズム保持具
41 プリズム
42 CCD(CCD型イメージセンサ)
44 伝送ケーブル
45 ケーブル連結具
51 第1連結面
52 第2連結面
59 電子内視鏡システム
60 内視鏡
66 挿入部
67 手元操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸方向に移動自在な可動レンズを有する撮影レンズと、
前記可動レンズを保持し、前記光軸方向に移動させるレンズ移動枠と、
前記撮影レンズの光軸に平行に設けられ、前記レンズ移動枠が係合するカム軸と、
前記撮影レンズを収納する撮影レンズ収納穴、前記カム軸を収納するカム軸収納穴、これら収納穴を連結し前記レンズ移動枠が移動する移動穴を有するハウジングと、
前記移動穴の開口側に形成され、前記撮影レンズ収納穴と前記カム軸収納穴とを連結する第1連結面と、
前記第1連結面の奥で前記撮影レンズ収納穴と前記カム軸収納穴とを連結するように前記移動穴に形成され、前記第1連結面よりも面間距離が小さく形成され、前記レンズ移動枠を摺動案内する第2連結面とを備えることを特徴とする内視鏡用撮影レンズユニット。
【請求項2】
前記撮影レンズは、光軸方向に順に配置される第1固定レンズ、第1可動レンズ、第2可動レンズ、第2固定レンズを有し、
前記レンズ移動枠は、第1可動レンズを保持する第1レンズ移動枠と、第2可動レンズを保持する第2レンズ移動枠とを個別に有し、
前記カム軸は第1及び第2のカム溝を有し、前記第1カム溝に第1レンズ移動枠が係合し、前記第2カム溝に第2レンズ移動枠が係合し、
前記第1可動レンズを前記第1連結面で摺動案内し、
前記第2可動レンズを前記第2連結面で摺動案内することを特徴とする請求項1記載の内視鏡用撮影レンズユニット。
【請求項3】
前記第1固定レンズ、第1可動レンズ、第2可動レンズ、第2固定レンズは黒染め加工品であり、前記第1連結面及び第2連結面は切削加工面であることを特徴とする請求項2記載の内視鏡用撮影レンズユニット。
【請求項4】
前記撮影レンズ収納穴には、前記第1固定レンズと前記第2固定レンズとの間で、前記レンズ移動枠が通過するスリットを光軸方向に有する筒状に形成され、表面が黒染め処理されている第1反射防止筒及び第2反射防止筒を有し、
前記第1反射防止筒は第2反射防止筒側の端部に絞り板を有し、前記第1レンズ移動枠のレンズ保持部を囲むように配置され、
前記第2反射防止筒は前記第2レンズ移動枠のレンズ保持部を囲むように配置されることを特徴とする請求項2または3記載の内視鏡用撮影レンズユニット。
【請求項5】
前記カム軸は、一端にワイヤ連結部を有し、該ワイヤ連結部を介して連結されるワイヤにより回転されることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の内視鏡用撮影レンズユニット。
【請求項6】
請求項1から5いずれか1項記載の内視鏡用撮影レンズユニットと、
前記撮影レンズ収納穴に近いハウジング外周に外嵌されるプリズム保持具、
前記プリズム保持具に保持されるプリズム、
前記撮影レンズから入射する光を前記プリズムで反射させて受光する撮像素子、
前記撮像部に接続される信号ケーブル、
前記信号ケーブルの保護チューブと前記プリズム保持具とを接続するケーブル補強板を含む撮像素子ユニットとを有することを特徴とする内視鏡用カメラモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−75028(P2013−75028A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216679(P2011−216679)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】