説明

内視鏡装置

【課題】切開した粘膜の下部に位置する粘膜下層を切断する粘膜剥離を、観察視野に加えられる制約を最小限に抑制し、かつより広い観察視野を確保することができ、しかも高周波処置具による操作の安全性や操作性を改善する。
【解決手段】内視鏡20の挿入部22の処置具挿通チャンネル27に挿通される高周波処置具1の高周波ナイフ13で粘膜を切開した後、この粘膜を?離する際に、レトラクタ部材31の可撓容袋33内に加圧流体を供給して、弾性板片32を挿入部22の軸中心から離反する方向に湾曲させることによって、粘膜を持ち上げるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端に照明窓及び観察窓と、少なくとも処置具導出口を設けた挿入部に、本体操作部を連結して設けた内視鏡を含み、特にその処置具挿通チャンネルの処置具導出口から導出させて、粘膜剥離等の処置を行うための高周波処置具を挿通可能な内視鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内視鏡検査によって、食道,胃,十二指腸,大腸等の体腔内壁における粘膜部分に腫瘍等といった病変部が発見されると、病変粘膜を切除する処置が施される。この処置のひとつとして、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic Submucosal Dissection)と呼ばれる処置がある。このESD処置は、通常、次のようにして行われる。まず、切除しようとする粘膜の部位をマーキングし、局注により病変粘膜の部位を膨隆させる。この状態で、高周波処置具を用いてマーキングに沿って粘膜を切開して、粘膜下層を構成する線維を切断して粘膜を筋層から剥離する。
【0003】
以上の処置に用いられる高周波処置具は、可撓性コードの先端に電極部材を設けた高周波ナイフを可撓性シース内に装着することにより構成されるものである。可撓性シースの基端部には操作手段が連結されており、この操作手段によって高周波ナイフが可撓性シースの先端から出没操作が行われる。この高周波処置具は、本体操作部に挿入部を連結して設けた内視鏡に設けた処置具挿通チャンネルに挿入されて、体内に導かれるものであり、処置具挿通チャンネルは挿入部の先端において、処置具導出口として開口している。従って、処置具挿通チャンネル内に挿通させた高周波処置具は、処置具導出口から所定長さ突出させ、かつ高周波ナイフを可撓性シースから導出させて、高周波ナイフに通電することによって、粘膜の切開及び剥離を行うことができる。
【0004】
ここで、このESDに用いられる高周波処置具を構成するナイフとしては、針状ナイフやフックナイフが一般的に用いられる。ESD処置は、粘膜を切開した後に、切開部の粘膜を剥離する操作が行われるものであって、針状ナイフであれ、フックナイフであれ、粘膜の切開及び剥離の2つの処置を行うことは可能である。粘膜の切開は粘膜表面側から所定の深さ分だけナイフを差し込むようにして行うものであり、その差し込み深さについては十分な注意を要するが、この操作時には高周波ナイフは内視鏡の観察部における観察視野の下で行われるので、操作の安全性が確保される。
【0005】
一方、粘膜剥離は、高周波ナイフを粘膜の下部に位置する粘膜下層を構成する線維を切断するようにして行われる。このときには、高周波ナイフは粘膜下層に位置しており、内視鏡の観察部から得られる視野が粘膜の表面であり、このために実際に処置を行っている高周波処置具を内視鏡による視野に捉えられないことがある。より正確に、しかもより安全に粘膜剥離を行うためには、粘膜より下部に位置している高周波ナイフを観察部により観察できるようにする必要がある。
【0006】
特許文献1に、粘膜剥離を行う際に、内視鏡の挿入部を粘膜下層に潜り込ませることができる構成としたものが開示されている。即ち、挿入部の先端にフードを装着し、このフードの外面を先端側が細くなる裁頭円錐形からなるテーパ状とすることによって、フードの先端から粘膜下層に潜り込ませることができるようにしている。
【特許文献1】特開2003−204919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、テーパ状フードの作用によって、挿入部の先端部を粘膜下層に潜り込ませると、高周波ナイフで線維を切断する粘膜剥離を安全で、効率的に行うことができるが、なお問題がない訳ではない。即ち、挿入部の先端に先細りのフードを装着すると、たとえフードを透明部材で構成したとしても、観察部による前方における観察視野が不鮮明になるのが避けられない。しかも、これは粘膜剥離の処置を行っている間だけでなく、挿入部を挿入している間中、挿入部の先端にフードが装着されており、勿論内視鏡による検査や観察も先細のフードが装着されている状態で行われる。
【0008】
しかも、フードは挿入部の先端に固定的に設けられているので、テーパ形状の部位で粘膜下層に潜り込ませることができるものの、潜り込ませたフードで粘膜を持ち上げるような動作を行うことはできない。例えば、フードそのものとして、または別個の部材として、バイメタルからなるアクチュエータ部材を装着すれば、粘膜を持ち上げるのは不可能ではないが、そうするとこのアクチュエータ部材に通電する必要があり、安全性の観点から、挿入部の先端に通電される部材を設けるのは望ましくはない。
【0009】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、切開した粘膜の下部に位置する粘膜下層を切断する粘膜剥離を、観察視野に加えられる制約を最小限に抑制し、かつより広い観察視野を確保することができ、しかも高周波処置具による操作の安全性や操作性をさらに改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するために、本発明は、本体操作部に挿入部を連結して設けた内視鏡を含む内視鏡装置であって、前記挿入部の先端硬質部には、弾性板片の一側面に可撓膜部材を固着して設け、前記弾性板片と前記可撓膜部材との間に流体が封入される空間を有する1または複数のレトラクタ部材が設けられており、前記レトラクタ部材は前記可撓膜部材を設けた側を前記挿入部の軸中心方向に向け、かつこの挿入部の先端から前方に向けて突出するようにして装着されており、前記空間には流体供給路が接続されて、前記空間内に流体を供給して膨出させることにより前記レトラクタ部材の先端側を前記挿入部の軸中心から離反する方向に湾曲させる構成としたことをその特徴とするものである。
【0011】
レトラクタ部材は、内視鏡の挿入部における先端部分に装着されるが、挿入部の構成によっては、外周面に直接装着することができ、また流体供給部材を介して装着することもできる。レトラクタ部材は、その弾性板片の片側面に可撓膜部材を固着して設けるが、弾性板片は長方形状の薄板部材から構成する。そして、可撓膜部材は、可撓性を有するバッグからなる可撓容袋で構成することができ、また弾性板片に可撓膜を貼り付けることもできる。弾性板片と可撓膜部材との間に形成される空間は、流体が封入されて、この流体圧が作用するものであり、この流体圧は可撓膜部材側にも、また弾性部材側にも作用することになる。ここで、この可撓膜部材は可撓性があることは必要であるが、伸縮性を有するか否かは問わない。レトラクタ部材は、その一端側が内視鏡の挿入部側に固定的に保持され、他端側は挿入部の先端面から突出させる。外向きに反るように湾曲させるには、幅寸法を細くし、長さを長くするのが望ましい。ただし、粘膜を持ち上げる操作時の操作力を大きくするには、ある程度の幅を持たせる。レトラクタ部材は挿入部に1箇所設けるようにしても良いが、作動の面からも、また観察視野の面からも、ある程度細長い部材で形成したものを複数個所設ける方が望ましい。そして、レトラクタ部材はその全体が透明部材で構成するのが望ましい。
【0012】
レトラクタ部材の内視鏡の挿入部から突出している先端部は自由状態とする。これによって、弾性板片は挿入部に固定されている基端部より先端側の方が曲げに対する弾性の度合いが高くなっている。弾性板片と可撓膜部材との間の空間内に流体を封入すると、弾性板片に対して押圧力が作用することになり、この押圧力に対する抵抗は弾性部材の先端側から基端側に向けて連続的に大きくなるので、先端側がより大きく押圧変形し、基端側の方は変形の度合いが少ないものとなる。これによって、先端側が挿入部の中心軸線から離反する方向に湾曲することになり、外側に向けて反るように変形する。この動作を粘膜下層の部位で行わせると、粘膜が持ち上がることになる。弾性板片は全長にわたって可撓性の度合いが均一なものであっても良いが、例えば先端側に向かうに応じて薄肉化することにより、先端側の方が基端側より可撓性を高めるように構成することもできる。
【0013】
弾性板片と可撓膜部材との間の空間内には、流体の給排を行う手段を設ける。ここで、内視鏡には、挿入部の先端面(例えばウォータジェット口)または先端側面(例えば先端にバルーンが装着されるタイプの内視鏡)に流体の噴射口が開口しているものがあり、この噴射口を流体の供給経路とすることができる。また、挿入部に噴射口が設けられていない場合には、挿入部の外面に沿って流体供給チューブを設ける。一方、弾性板片から空間内に向けて流体供給路を設けるが、弾性板片の一端側に連結部材を設けて、この連結部材の端面部に流体供給路を開口して設けることができる。この流体供給路の端部を直接噴射口なり、流体供給チューブに接続することもできるが、内視鏡挿入部の外周部に、前述した噴射口または流体供給チューブに連通させた円環状の流体供給部材を装着し、この流体供給部材に連結部材を着脱可能に連結するように構成することができる。従って、流体供給部材には流体供給口が、また連結部材には、この流体供給口に着脱可能に接続される流体接続部が設けられる。
【0014】
さらに、連結部材を流体供給部材に連結した状態に保持するために、これら連結部材及び流体供給部材を囲繞するようにホルダリングを設ける構成とすることができる。また、ホルダリングに代えて、粘着テープを巻き付けるようにしても良い。
【0015】
可撓容袋内に供給される流体としては、液体であっても良いが、重量を有さない気体を供給する方が望ましい。そして、気体としては、空気であっても良く、また生体に対する適合性の観点からは二酸化炭素(CO)とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の構成を採用することによって、粘膜を切開した後に、この粘膜の下部に位置する粘膜下層を切断する粘膜剥離を行うに当って、観察視野に加えられる制約が最小限のものとなって、広い観察視野を確保することができるだけでなく、粘膜を持ち上げた状態で切開できるので、高周波処置具の操作性及び効率が著しく向上し、また処置を行う際における安全性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。まず、図1に高周波処置具の全体構成を示し、図2にその要部拡大断面を示す。これら図1及び図2において、1は高周波処置具であって、この高周波処置具1は長尺の可撓性シース2を有し、この可撓性シース2の基端部には接続パイプ3が連結されており、さらにこの接続パイプ3の他端には操作手段4が連結されている。操作手段4は接続パイプ3に連結した本体軸4aと、この本体軸4aに嵌合されて、本体軸4aの軸線方向に摺動可能に設けたスライダ4bとから構成されている。スライダ4bには処置具本体10を構成する可撓性コード11の基端部が連結して設けられている。この可撓性コード11の基端部はスライダ4bへの連結部から所定長さ突出して、接点部12が形成されている。そして、この接点部12は図示しない高周波電源装置に着脱可能に接続されるものである。可撓性コード11の先端部には高周波ナイフ13が設けられており、この高周波ナイフ13は操作手段4の操作によって、可撓性シース2の先端から出没可能となっている。
【0018】
以上の構成を有する高周波処置具1は、図3に示したように、内視鏡20に挿通されるものであり、従ってこれら内視鏡20と高周波処置具1とによりESD処置を行うことができる内視鏡装置が構成される。内視鏡20は、本体操作部21に体腔内への挿入部22を連結して設けたものであり、挿入部22は本体操作部21への連結部から所定の長さ分は軟性部22aで、この軟性部22aの先端に湾曲部22bが、湾曲部22bの先端に先端硬質部22cが連結されている。
【0019】
図4に挿入部22の先端部分の外観を示す。同図から明らかなように、挿入部22の先端硬質部22cの先端面には、左右一対の照明部23,23が設けられており、両照明部23,23間の位置には観察部24が設けられている。また、この観察部24に向けて洗浄用流体を噴射する洗浄ノズル25が装着されている。さらに、先端硬質部22cの先端面には処置具導出口26が開口している。そして、挿入部22の内部には処置具挿通チャンネル27が挿通されており、この処置具挿通チャンネル27の他端は本体操作部21内にまで延在されて、本体操作部21に設けた処置具導入部28に接続されている。さらに、処置具挿通チャンネル27は処置具導入部28の近傍位置で吸引通路29と連通しており、この吸引通路29は図示しない吸引源に接続されている。
【0020】
内視鏡20を被検者の体腔内に挿入して、その先端硬質部22cに設けた観察部24から体内の検査が行われる。その結果、粘膜に病変部が発見されたときには、この病変部の周囲をマーキングして、このマーキングの内側に沿って切開を行い、次いで切開した部位を?離して除去する処置が行われる。これがESD処置である。粘膜の切開を行うために、また粘膜剥離を行うためにも、高周波処置具1が用いられる。高周波処置具1は、その可撓性シース2が処置具導入部28から処置具挿通チャンネル27内に挿入され、可撓性シース2の先端部分を所定長さだけ先端硬質部22cから突出させて、高周波電流を流しながら、体内組織に接触させることによって、粘膜の切開及び?離が行われる。
【0021】
内視鏡20には、粘膜?離を行う際に、その操作を円滑に行うための粘膜持ち上げ手段30が設けられている。この粘膜持ち上げ手段30はレトラクタ部材31を有するものである。レトラクタ部材31は、図5に示したように、弾性板片32と、この弾性板片32の表面に設けた流体を封入するための可撓容袋33及び連結部材34から構成されている。従って、可撓容袋33が可撓膜部材を構成し、また可撓容袋33の内部空間が流体が封入されて、流体圧が作用する空間となる。ここで、弾性板片32に固着した可撓容袋33内に供給される流体は、空気とするが、これ以外にもCOガスであっても良い。弾性板片32はゴム等の弾性部材を薄肉長尺であって、長方形部材からなり、その一側面には可撓容袋33が固着して設けられている。そして、この弾性板片32の基端部は連結部材34に連結・固定されている。また、これら弾性板片32と可撓容袋33とは透明部材から構成されており、観察部24からこれら弾性板片32及び可撓容袋33を透視できるようになっている。
【0022】
また、挿入部22の先端硬質部22cには円環状の部材からなる流体供給部材35が嵌合されるようになっており、この流体供給部材35は円環状のチャンバ36を有する中空部材から構成される。流体供給部材35の内面には流体導入孔37が設けられている。一方、先端硬質部22cの先端側の外周面には通気口38が開口している。この通気口38は、先端硬質部22cにバルーンを装着したときに、このバルーン内に流体を供給して膨出させ、または排出して元の状態に戻すために、通気口38には流体供給源と接続されている。流体供給部材35は、その流体導入孔37が通気口38と一致する位置に連結されており、流体供給源から供給される加圧流体は通気口38から流体供給部材35のチャンバ36内に供給可能となっている。
【0023】
レトラクタ部材31は流体供給部材35に着脱可能となっている。このために、流体供給部材35には、その先端側から基端側に向けて凹状となったレトラクタ装着部39が形成されている。ここで、本実施の形態では、図6に示したように、レトラクタ装着部39は円周方向に位置を違えて2箇所形成されており、従ってレトラクタ部材31はこの流体供給部材35に2箇所接続されている。レトラクタ部材31は、その基端部に設けた連結部材34がレトラクタ装着部39に装着されるようになっており、弾性板片32は挿入部22の前方に向けて延在されて、その先端は自由端となっている。
【0024】
レトラクタ部材31は、先端硬質部22cに2箇所設けられるが、それらの位置は、先端硬質部22cの外周部であって、観察部24の位置の斜め上方の左右に偏寄した位置となっている。ここで、処置具導出口26はレトラクタ部材31と観察部24を挟んで反対側の位置に設けられている。
【0025】
流体供給部材35におけるレトラクタ装着部39の端面部には、流体供給口40が前方に向けて突出するように設けられており、この流体供給口40には連結部材34に設けた流体接続部41に挿入される。そして、流体接続部41から弾性板片32にかけての部位には流体供給路42が形成されている。この流体供給路42は、弾性板片32の基端側の部位で直角に折れ曲がって、可撓容袋33に設けた穿孔部を介してこの可撓容袋33の内部と連通している。従って、先端硬質部22cに粘膜持ち上げ手段30を構成する流体供給部材35を装着し、またこの流体供給部材35にレトラクタ部材31を接続することによって、この先端硬質部22cに設けた通気口38から可撓容袋33内に向けて加圧した流体が封入されるようになっている。さらに、図7に示したように、流体供給部材35からレトラクタ部材31における連結部材34の部位までの外周部を囲繞するようにホルダリング43が設けられるようになっており、このホルダリング43によって、レトラクタ部材31が流体供給部材35から分離しないように、また流体供給部材35が先端硬質部22cから脱落しないように保持する構成としている。
【0026】
以上の構成において、粘膜持ち上げ手段30を構成するレトラクタ部材31は、図5に示したように、その可撓容袋33内に流体が供給されていないときには、弾性板片32は直進状態に保たれており、従って挿入部22の先端から突出している。ただし、突出部分は弾性部材であるから、挿入部22を挿入する際において、障害物等があれば、容易に撓むことになり、挿入操作に対する影響は殆どない。また、レトラクタ部材31は挿入部22の前方に突出しているものの、観察部24によって前方を観察する際には、前方視野は阻害されない。しかも、弾性板片32及び可撓容袋33は透明部材で構成されているので、周辺視野もある程度は得られる。
【0027】
内視鏡20の観察部24を介しての観察時に病変粘膜が発見されると、この病変した粘膜に限定して、切開し、剥離して取り除く。このために、高周波処置具1が内視鏡20の処置具挿通チャンネル27内に挿入されて、この処置具挿通チャンネル27の先端に設けた処置具導出口26から高周波ナイフ13を所定長さ導出させて、病変粘膜部分を切開する。そして、切開が行われると、この切開した粘膜の内側の部分を?離する。この粘膜剥離を行う際には、粘膜持ち上げ手段30によって、切開した粘膜を持ち上げるように操作する。
【0028】
今、図5に示したように、可撓容袋33の内部に流体が供給されていないときには、弾性板片32は真っ直ぐ前方に延在されている。しかしながら、先端硬質部22cの外周面に開口する通気口38から流体導入孔37を介して加圧した流体をチャンバ36に供給すると、この加圧流体はさらに流体供給口40から流体接続部41及び流体供給路42を順次通過して、可撓容袋33内に供給される。その結果可撓容袋33が膨出することになり、この圧力で弾性板片32を押動することになる。
【0029】
ここで、弾性板片32の基端側は連結部材34に連結されており、先端側は自由状態となっているので、先端側の方が曲げ方向の可撓性が高くなるように、連続的に可撓性が変化している。従って、弾性板片32に対する流体圧による押圧による撓み量は先端側の方が大きくなる。しかも、可撓容袋33内に流体圧が作用したときに、可撓容袋33は先端側に向けて伸びることになるが、弾性板片32は伸長しないことから、流体圧の作用で弾性板編32がその弾性により反る方向に押圧される。その結果、図8に示したように、レトラクタ部材31は先端側に向けて挿入部22の軸中心から離反する方向に湾曲することになる。
【0030】
そこで、図9に示したように、挿入部22の先端硬質部22cを粘膜Aと筋層Cとの間の粘膜下層Bの位置に配置し、高周波ナイフ13を有する高周波処置具1を先端硬質部22cに設けた処置具導出口26から突出させて、粘膜下層Bの部位を切断しながら挿入部22を前進させて行き、切断した粘膜Aが挿入部22の先端硬質部22cに覆いかぶさるようになる。このときには、図10に示したように、流体を可撓容袋33内に供給して膨出させ、弾性板片32を外向きに湾曲させることによって、粘膜Aを持ち上げられる。これにより観察部24における前方視野が確保されると共に、切断した粘膜Aが高周波ナイフ13にまとわりつくようなことがなく、円滑で効率的に粘膜下層Bを切断しながら進行させることができる。
【0031】
従って、可撓容袋33を縮小状態にして、高周波ナイフ13で粘膜下層Bを切断しながら挿入部22を前進させ、ある程度まで進行したときに、可撓容袋33を膨出させることによって、レトラクタ部材31により粘膜Aを持ち上げるようになし、可撓容袋33から加圧流体を排除するようになし、この操作を繰り返し行う。これによって、粘膜Aの剥離を安全に、しかも迅速かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の一形態を示すものであって、高周波処置具の全体構成図である。
【図2】図1の要部拡大断面図である。
【図3】本発明の実施の形態を示す高周波処置具を挿通させた内視鏡からなる内視鏡装置の全体構成図である。
【図4】粘膜持ち上げ手段と共に示す挿入部の先端部分の外観図である。
【図5】粘膜持ち上げ手段の断面図である。
【図6】粘膜持ち上げ手段を装着した挿入部の正面図である。
【図7】粘膜持ち上げ手段を装着した挿入部の側面図である。
【図8】図5とは異なる作動状態を示す粘膜持ち上げ手段の断面図である。
【図9】本発明による内視鏡装置を用いて粘膜剥離を行っている状態を示す作用説明図である。
【図10】図9の粘膜剥離時に、剥離した粘膜を持ち上げている状態を示す作用説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 高周波処置具 2 可撓性シース
10 処置具本体 11 可撓性コード
13 高周波ナイフ 20 内視鏡
21 本体操作部 22 挿入部
22c 先端硬質部 26 処置具導出口
30 粘膜持ち上げ手段 31 レトラクタ部材
32 弾性板片 33 可撓容袋
34 連結部材 35 流体供給部材
36 チャンバ 38 噴射口
40 流体供給口 41 流体接続部
42 流体供給路 43 ホルダリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体操作部に挿入部を連結して設けた内視鏡を含む内視鏡装置において
前記挿入部の先端硬質部には、弾性板片の一側面に可撓膜部材を固着して設け、前記弾性板片と前記可撓膜部材との間に流体が封入される空間を有する1または複数のレトラクタ部材が設けられており、
前記レトラクタ部材は前記可撓膜部材を設けた側を前記挿入部の軸中心方向に向け、かつこの挿入部の先端から前方に向けて突出するようにして装着されており、
前記空間には流体供給路が接続されて、前記空間内に流体を供給して膨出させることにより前記レトラクタ部材の先端側を前記挿入部の軸中心から離反する方向に湾曲させる
構成としたことを特徴とする内視鏡装置。
【請求項2】
前記弾性板片は長方形の薄板からなり、前記可撓膜部材はこの弾性板片の一側面に固着して設けた可撓容袋からなり、また前記弾性部材の一端部には連結部材が連結して設けられて、真っ直ぐ前方に向けて延在されており、他端部は自由状態となるように構成したことを特徴とする請求項1記載の内視鏡装置。
【請求項3】
前記内視鏡の先端硬質部には前記挿入部の内部に設けた流体通路またはこの挿入部の外周部に沿って延在させた流体通路と連通する円環状の流体供給部材が装着されており、この流体供給部材には流体供給口が設けられ、前記連結部材には、この流体供給口に着脱可能に接続される流体接続部が設けられ、前記流体供給路は、この流体接続部から前記空間内と連通させる構成としたことを特徴とする請求項2記載の内視鏡装置。
【請求項4】
前記連結部材を前記流体供給部材に連結した状態に保持するために、これら連結部材から流体供給部材の外面を囲繞するようにホルダリングを設ける構成としたことを特徴とする請求項3記載の内視鏡装置。
【請求項5】
前記空間の内部には気体が封入されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の内視鏡装置。
【請求項6】
前記内視鏡には処置具挿通チャンネルが設けられており、この処置具挿通チャンネル内には、可撓性シースの先端に高周波電流が印加される高周波ナイフを有する高周波処置具が挿通されて、この高周波ナイフにより粘膜?離処置を行うことができる構成としたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の内視鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−219743(P2009−219743A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69174(P2008−69174)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(504177284)国立大学法人滋賀医科大学 (41)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】