説明

内釜、この内釜を備えた炊飯器、及び内釜の製造方法

【課題】内釜内の水面位置の視認性が高く、水位調節を行いやすい内釜、この内釜を備えた炊飯器を得る。内釜内の水面位置の視認性が高く、水位調節を行いやすい内釜の製造方法を得る。
【解決手段】内表面にフッ素塗膜層12が設けられた内釜10であって、フッ素塗膜層12と当該内釜10を構成する基材11との間に設けられた空洞32を有する水面表示部30を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内釜、この内釜を備えた炊飯器、及び内釜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炊飯器の内釜には、米に対応した水の水位を示す水位目盛が設けられている。従来の炊飯器の内釜の水位目盛は、水位を示す水位線と数字とを組み合わせて構成されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−10906号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の炊飯器においては、水面の位置を水位目盛に合わせる際、水面の位置が見えづらいものであった。このため、例えば室内が暗い場合や使用者の視力が低下している場合には、水面の位置が見えづらいために水位調節に時間がかかったり、適切な水位調節が行えず炊き上がりのご飯の状態が良くなかったりすることがあった。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、内釜内の水面位置の視認性が高く、水位調節を行いやすい内釜、この内釜を備えた炊飯器を提供するものである。また、本発明は、内釜内の水面位置の視認性が高く、水位調節を行いやすい内釜の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る内釜は、内表面にフッ素塗膜が設けられた内釜であって、前記フッ素塗膜と当該内釜を構成する基材との間に設けられた空洞を有する水面表示部を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る内釜は、内釜内の水面位置の視認性が高いので、使用者は容易に水位調節を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施の形態1に係る炊飯器の上蓋を開放した状態を示す斜視図である。
【図2】実施の形態1に係る内釜の説明図である。
【図3】実施の形態1に係る内釜及び水面表示部の構成を説明する図である。
【図4】実施の形態1に係る水面表示部を拡大して説明する図である。
【図5】実施の形態1に係る内釜の作用を説明する図である。
【図6】水面表示部に入射する光の作用を説明する参考図である。
【図7】実施の形態2に係る水面表示部を拡大して説明する図である。
【図8】実施の形態3に係る水面表示部の構成を説明する図である。
【図9】実施の形態3に係る内釜及び水面表示部の構成を説明する図である。
【図10】実施の形態4に係る水面表示部の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る炊飯器を、家庭用IH式炊飯器に適用した場合を例に図面を参照して説明する。なお、この図面の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る炊飯器の上蓋を開放した状態を示す斜視図である。図1に示すように、炊飯器100は、上部が開口された本体1と、本体1の上部開口を開閉可能な蓋体2とを備える。本体1は、その内部に内釜10を収納可能な内鍋収納部が形成されている。
蓋体2は、上蓋2aと、上蓋2aとの間にヒータ(図示せず)が設けられた中蓋2bと、ほぼ凹状に形成されて上蓋2aに着脱可能に装着される内蓋2cとを備え、ヒンジ(図示せず)により本体1に連結されて、本体1の上部開口部を開閉する。内蓋2cの外周側下面には、パッキン3が装着されている。パッキン3は、蓋体2により内釜10を気密にシールするためのシール部材であり、ゴムなどの弾性を有する素材により構成されている。蓋体2を閉めると、パッキン3の一部が内釜10の内部上部に入り込んで内釜10と内蓋2cとの隙間を埋め、内蓋2cと内釜10との密閉性を確保する。
【0011】
上蓋2aの前面側には係止片4aが、本体1の前面側には係止部4bが設けられており、蓋体2を閉め、係止片4aを係止部4bに係止することで蓋体2と本体1とがロックされる。
また、本体1の前面側には操作部5が設けられており、使用者はこの操作部5を介して炊飯器100に対する動作指示を行うことができる。
【0012】
本体1の内部には、誘導加熱コイル6が設けられている。誘導加熱コイル6は、内釜10を加熱する加熱手段であり、本体1の内鍋収容部の下面近傍に設けられている。また、本体1の内部には、図示しない制御回路が設けられており、この制御回路は、操作部5からの操作指示に基づいて予め格納されたプログラムに従い、誘導加熱コイル6の駆動を制御する。また、本体1の後部側には、誘導加熱コイル6等に電力を供給するための電源コード7を備えている。
【0013】
図2は、実施の形態1に係る内釜の説明図である。内釜10は、ほぼ有底円筒状をなし、側壁の上端部外周にはフランジが設けられている。内釜10の内壁面は、米の色とコントラストの大きい色(例えば、黒、灰色など)に見えるように加工されている。また、内釜10の内壁面には、水位目盛20と、水面表示部30とが設けられている。なお、本実施の形態1では、内釜10の最大炊飯容量が5.5合である場合を例に説明する。
【0014】
水位目盛20は、炊飯時の米量に対応した水量を示す目盛りであり、印刷あるいは刻印により設けられている。本実施の形態1では、水位を示す目盛線20aと、炊飯合数を示す数字20bとにより、水位目盛20を表現している。
【0015】
図3は、実施の形態1に係る内釜及び水面表示部の構成を説明する図であり、水面表示部近傍における内釜の断面模式図である。
図3に示すように、内釜10は多層構造となっており、内釜10の基材11と、内釜10の内表面を構成する無色透明に近いフッ素塗膜層12との間に、米の色とコントラストの大きい色(黒や灰色など)に着色をしたフッ素塗膜用のプライマー層13が設けられている。基材11は、異種金属が積層されたクラッド材にて構成される。例えば、誘導加熱により発熱される基材11の外面10a側の層は、SUS430等の磁性金属にて構成され、内面10b側の層や中間層は熱伝導率の高いアルミニウム等で構成される。フッ素塗膜層12は、内釜10の内面に耐蝕性、非粘着性、耐熱性といった性質を付与する。プライマー層13は、金属との接着性に乏しいフッ素塗膜層12を、金属からなる内釜10の基材11に接着させるためのものであり、フッ素塗膜層12を構成するフッ素樹脂とも基材11とも親和性を有する材料で構成されている。
【0016】
水面表示部30は、内釜10の内面10b側であって水位目盛20の近傍に、縦方向(水の増減方向)に設けられている。水面表示部30の長さを限定するものではないが、本実施の形態1の水面表示部30は、最下位の目盛線20aから最上位の目盛線20aに渡る長さに構成されている(図2参照)。このようにすることで、どの水位を計る場合であっても、水面表示部30における水面の確認が可能となる。また、水面表示部30の幅は、細すぎると水面の視認性が低下するため、例えば5〜10mm程度の幅以上とするのが好ましいが、この数値に限定するものではない。
【0017】
水面表示部30は、フッ素塗膜層12よりも内側(基材11側)の層に溝31を設け、この溝31とフッ素塗膜層12との間に形成された空洞32を備えている。溝31は、基材11とプライマー層13の両方あるいは一方の表面を除去して形成されている。なお、水面表示部30における水面の見え方については後述する。
【0018】
図4は、実施の形態1に係る水面表示部を拡大して説明する図である。図4に示すように、本実施の形態1に係る水面表示部30は、縦縞状に設けられた複数の溝31を備えている。隣り合う溝31と溝31との間は、図3にて説明した基材11、プライマー層13、及びフッ素塗膜層12の積層構造であり、この部分を接合部33と称する。接合部33においては、フッ素塗膜層12は、プライマー層13を介して基材11に接着されている状態である。
【0019】
このように溝31を縦縞状に設けることで、フッ素塗膜層12の剥離や破損を抑制することができる。例えば、水面表示部30全体の幅が5〜10mmであるとして、その一面全体に空洞を形成すると、フッ素塗膜層12の厚みにもよるが、フッ素塗膜層12上に力が加えられたときにフッ素塗膜層12が剥離したり破損したりしやすい。しかし、本実施の形態1のように溝31を縦縞状に設けることで、接合部33によってフッ素塗膜層12が高密度に支持されるので、水面表示部30全体の面積を確保しつつ、フッ素塗膜層12の剥離や破損を抑制することができる。したがって、溝31のそれぞれの幅も、丈夫さの観点からは、なるべく細い方が好ましい。
【0020】
次に、以上のように構成された内釜10の作用を説明する。図5は、実施の形態1に係る内釜の作用を説明する図である。
内釜10内に米と水を入れると、空洞32を有する水面表示部30の水中にあるか否かにより、その見え方が異なる。すなわち、水面Xより下の水中に位置する水面表示部30(図5中、符号30aで示す)と、水面Xより上に位置する水面表示部30(図5中、符号30bで示す)とでは、内釜10を使用者が斜め上方から見下ろしたときの見え方が異なる。これは、水面表示部30のうち水中に位置している部分には後述するように米が写り込み、内釜10の基材11の色とは異なる色に見えるためである。したがって、水面表示部30の水中に位置している部分と、水面上に位置している部分との見え方のコントラストにより、両者の境界部分、すなわち水面Xの視認性が向上する。このため、使用者は、水面表示部30を見ることで、水面Xの位置をよりはっきりと認識することができ、水位調節が容易である。
【0021】
次に、水面表示部30のうち水中に位置している部分の見え方について説明する。
図6は、水面表示部に入射する光の作用を説明する参考図である。図6を参照して、水面表示部30の前面(内釜10の内方)に水がある場合の見え方を説明する。なお、図6及び図6の説明においては、説明の都合上、プライマー層13の記載を省略し、プライマー層13及びフッ素塗膜層12を、「フッ素塗膜層12」にて代表して説明する。
【0022】
光が内釜10に入射する場合(図6参照)、
媒質A(空気)の屈折率をnA(≒1)、空気から水への入射角θ1とすると、媒質A(空気)と媒質B(水)との界面における反射光1の反射角もθ1となる。
媒質B(水)の屈折率をnB(≒1.33)、空気から水への透過角θ2とする。
媒質C(フッ素塗膜層12)の屈折率をnC(仮に、nC=1.40とする)、水からフッ素塗膜層12への入射角θ3とすると、媒質B(水)と媒質C(フッ素塗膜層12)との界面における反射光2の反射角もθ3となる。
屈折の法則(スネルの法則)より、nAsinθ1=nBsinθ2なので、水への入射角、透過角については次の関係がある。
nA<nBなので、θ1>θ2。
水Wからフッ素塗膜層12への透過角θ4とすると、フッ素塗膜層12から空洞32内への入射角もθ4となる。また、媒質C(フッ素塗膜層12)と媒質D(空洞32内の気体)との界面における反射光3の反射角もθ4となる。なお、媒質D(空洞32内の気体)の屈折率nDは、空気の屈折率(≒1)を近似値として用いる。
フッ素塗膜層12から空洞32内への透過角θ5とすると、
nDsinθ5=nCsinθ4=nBsinθ3となる。
ここで、媒質Aにおける屈折率nA、媒質Bにおける屈折率nB、媒質Cにおける屈折率nC、及び媒質Dにおける屈折率nDは、それぞれ真空に対する絶対屈折率である。また、内釜10の水と接するフッ素塗膜層12の面は垂直とし、フッ素塗膜層12の空洞32との境界面とフッ素塗膜層12の水との境界面は平行に対向するものとする。
【0023】
フッ素塗膜層12への入射角θ3、透過角θ4、及びフッ素塗膜層12から空洞32内の気体への透過角θ5については次の関係がある。
nD<nBなので、θ5>θ3
nC>nBなので、θ4<θ3
θ5=90°(臨界角)となる場合の入射角θ1は、
nDsinθ5=1×1=nCsinθ4=1.40sinθ4
∴sinθ4=1/1.40、θ4=sin-1(1/1.40)[rad]
nCsinθ4=nBsinθ3
1.40×1/1.40=1.33sinθ3
∴sinθ3=1/1.33、θ3=sin-1(1/1.33)[rad]
図6より
θ3=π/2-θ2、θ2=π/2-θ3
nAsinθ1=nBsinθ2=nBsin(π/2-θ3)=nBcosθ3
1×sinθ1=1.33×cos(sin-1(1/1.33))=1.33×0.659=0.877
∴θ1=sin-1(1.33×cos(sin-1(1/1.33)))= 61.3°
【0024】
そうすると、媒質A(空気)から媒質B(水)への入射角θ1が61.3°よりも小さいとき、媒質C(フッ素塗膜層12)から媒質D(空洞32内の気体)へ至る透過光がなくなり、媒質C(フッ素塗膜層12)と媒質D(空洞32内の気体)の界面における反射光3のみとなる(全反射)。
【0025】
水W及びフッ素塗膜層12を介して空洞32の奥の内釜10の壁面を見ようとする使用者は、フッ素塗膜層12から空洞32内の気体に至る透過光の先にある内釜10の基材11の表面(図6に符号Mで示す)を見ようとしていることになる。したがって、入射角θ1が61.3°よりも小さい場合には、フッ素塗膜層12から空洞32内に至る透過光がなくなる(反射光3は全反射する)ので、使用者は空洞32の奥の内釜10の壁面が見えないことになる。このように、水面表示部30のうち水中に位置している部分において、反射光3が全反射すると、使用者には、水面表示部30の当該部分に内釜10内の米が写り込んで見える。このため、水面表示部30のうち水中に位置している部分は、内釜10の基材11の表面の色(例えば、灰色や黒)とは異なる見え方となる。
【0026】
一方、空洞32がない場合、使用者は、水W及びフッ素塗膜層12を介して、内釜10の基材11の表面を見ることになる。この場合、媒質C(フッ素塗膜層12)の先には媒質Cよりも屈折率の小さい媒質(図6における媒質Dに相当するもの)が存在せず、フッ素塗膜層12の媒質中の透過光は、入射角θ1が61.3°より小さい場合も存在し、媒質C(フッ素塗膜層12)と内釜10の基材11の表面との界面まで到達する。したがって、フッ素塗膜層12の媒質中の透過光は、媒質C(フッ素塗膜層12)の先に位置する内釜10の基材11に届く。したがって、入射角θ1が61.3°より小さくなっても内釜10の基材11の表面の色(例えば、灰色や黒)が見えることになる。
【0027】
また、水面表示部30のうち水面よりも高い領域を使用者が見る際には、使用者は、媒質A(空気)及びフッ素塗膜層12を介して空洞21の奥の基材11の表面を見ようとすることになるが、この場合も、フッ素塗膜層12の媒質中の透過光は、媒質C(フッ素塗膜層12)の先に位置する内釜10の基材11に届く。したがって、入射角θ1が61.3°より小さくなっても内釜10の基材11の表面の色(例えば、灰色や黒)が見えることになる。
【0028】
以上のような構成により、使用者が斜め上から水面表示部30を見下ろしたとき(ただし、見下ろす角度(図6における入射角θ1に相当)は61.3°より小さいものとする)、水面表示部30のうち水中に位置している領域には、内釜10内の米が写り込んで見えるため、その領域の周囲の領域に対して見え方が異なる。このため、使用者は、水面表示部30において水中に位置している部分を容易に認識することができるので、現在の水位が分かりやすい。
【0029】
次に、上記のような水面表示部30を備えた内釜10の製造方法を説明する。
まず、ステンレスやアルミニウムなどのクラッド材からなる基材11で、内釜10を成形する。この内釜10の内面に、フッ素塗膜用の例えば液体のプライマーを塗布し、この液体プライマーを乾燥させてプライマー層13を形成する。次に、プライマー層13の表面に、フッ素樹脂を粉体塗装して、フッ素塗膜層12を形成する。
【0030】
このように構成された状態の内釜10の内面10bに対し、水面表示部30に相当する位置に、縦方向にレーザー光線を照射する。そうすると、レーザー光線が、ほぼ透明なフッ素塗膜層12を透過し、基材11とプライマー層13のいずれかまたは両方にクラックを形成し、これによって溝31が形成される。溝31が形成されることにより、フッ素塗膜層12と基材11との間に空洞32が形成される。
【0031】
そして、縦方向のレーザー光線の照射を、所定間隔を開けて横方向に複数回行う。これにより、図4に示したように、縦縞状の複数の溝31が形成される。レーザー光線による加工幅(1本の溝31の幅)は、レーザー光線を照射する装置の性能にも依存するが、例えば30〜50μm以上である。レーザー光線の加工幅(1本の溝31の幅)が大きすぎると、内釜10を使用しているときにフッ素塗膜層12が剥がれたり破損したりしやすいことから、レーザー光線の加工幅はなるべく細い方が好ましい。しかし一方で、レーザー光線の加工幅(1本の溝31の幅)を縮小することは、レーザー光線照射装置自体の性能や加工精度の問題から困難な場合もある。したがって、フッ素塗膜層12の厚みも考慮し、内釜10の使用中におけるフッ素塗膜層12の剥離や破損が生じにくい程度にレーザー光線の加工幅(1本の溝31の幅)を設定するとよい。
【0032】
ここで、基材11の厚みは例えば3.0mm程度である。また、プライマー層13の膜圧は、例えば10〜20μmである。また、フッ素塗膜層12の膜圧は、厚いほどその効果が大きいが、例えば約30〜50μmである。また、レーザー光線照射装置としては、例えば、YAGなど波長が500nm〜1μm程度のレーザー光線を照射可能なものを用いることができる。なお、ここで示した数値は一例であって、フッ素塗膜層12と基材11との間に溝31を設けて空洞32を形成可能であればよいのであり、上記の数値に発明を限定するものではない。
【0033】
なお、プライマー層13を構成するプライマーには、カーボンを含有させておくのが好ましい。このようにすることで、レーザー光線が照射されたときにプライマー層13が発熱しやすく、溝31を形成しやすい。
【0034】
以上のように、本実施の形態1に係る水面表示部30を備えた内釜10によれば、水面表示部30における水面の視認性がよく、使用者は水面の位置をよりはっきりと認識することができるので、水位調節を行いやすい。
【0035】
実施の形態2.
実施の形態1では、縦縞状の複数の溝により水面表示部を構成したが、本実施の形態2では水面表示部を構成する溝の他の構成例を説明する。本実施の形態2では、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0036】
図7は、実施の形態2に係る水面表示部を拡大して説明する図である。図7に示すように、本実施の形態2に係る水面表示部30Aは、溝31A及び接合部33Aを、斜線状に設けている。溝31Aの傾きは、内釜10の高さ方向(垂直方向)となす角θが0°<θ≦45°以下、とすることが好ましい。このようにすることで、水面Xと溝31Aとがより直角に近い角度で交わることとなるので、水中に位置している水面表示部30Aからの反射光が使用者に到達しやすく、視認性がよい。
【0037】
実施の形態3.
本実施の形態3では、水面表示部の他の構成例を説明する。本実施の形態3では、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0038】
図8は、実施の形態3に係る水面表示部の構成を説明する図である。図9は、実施の形態3に係る内釜及び水面表示部の構成を説明する図であり、水面表示部近傍における内釜の断面模式図である。図8、図9に示すように、本実施の形態3に係る水面表示部30Bは、プライマー層13の上に、空洞32Bを介して透光性を有する薄膜材14が設けられ、その上にフッ素塗膜層12が設けられている。薄膜材14としては、透光性を有し、また炊飯器の内釜10に用いられるものであることから高い耐熱性を有するものが好ましく、例えば、住友スリーエム社製ポリイミドフィルムを用いることができる。
【0039】
この薄膜材14の端部とプライマー層13とに跨って、水位目盛20の水位線を構成するインク15が塗布され、そのインク15の上にフッ素塗膜層12が形成されている。なお、本実施の形態3に係るフッ素塗膜層12Bは、インク15が透過して使用者に水位目盛20が視認可能な程度の厚みである。
【0040】
このような構成において、内釜10の水面表示部30Bには、薄膜材14とプライマー層13との間に空洞32Bが設けられている。このため、実施の形態1と同様の理由により、水面表示部30Bの水中に位置している部分と水面上に位置している部分との見え方が異なる。したがって、両者のコントラストにより、水面表示部30Bの水中に位置している部分と水面上に位置している部分との境界部分、すなわち水面の視認性がよく、使用者は水面の位置をよりはっきりと認識することができるので、水位調節を行いやすい。
【0041】
次に、上記のような水面表示部30Bを備えた内釜10の製造方法を説明する。
まず、ステンレスやアルミニウムなどからなる基材11で内釜10を成形する。この内釜10の内面に、フッ素塗膜用の例えば液体のプライマーを塗布し、乾燥させてプライマー層13を形成する。ここまでの製造方法は、前述の実施の形態1と同様である。
【0042】
次に、内釜10の内面10b上の、水面表示部30Bに相当する位置に、例えばポリイミドフィルムなどの薄膜材14を載置する。プライマー層13を乾燥させた状態で薄膜材14を載せると、プライマー層13が乾いているため薄膜材14はプライマー層13の表面に密着しない。また、プライマー層13の表面には多少の凹凸があるため、薄膜材14を置くだけで、薄膜材14とプライマー層13との間に、空気が挟み込まれる。このため、薄膜材14とプライマー層13との間に、空洞32Bが形成される。
【0043】
その後、水位目盛20を形成するためのインク15を、薄膜材14の端部表面(フッ素塗膜層12側の表面)とプライマー層13の表面(フッ素塗膜層12側の表面)とに跨るようにして塗布する(図8参照)。次に、プライマー層13、薄膜材14、及びインク15の上から、それらの表面に対してフッ素樹脂を粉体塗装して、フッ素塗膜層12を形成する。上記のような工程により、水面表示部30Bが構成される。
【0044】
フッ素樹脂の粉体塗装においては、まず、粉末状のフッ素樹脂を吹き付けあるいは塗布等の手段により内釜10の内面10bに付着させるが、ごく薄く軽い薄膜材14は、フッ素樹脂を付着させるときに飛んでしまうおそれがあり、製造の手間がかかってしまう。しかし、本実施の形態3では、水位目盛20を形成するためのインク15が、薄膜材14をプライマー層13に付着させる(押さえつける)役割を果たすため、フッ素樹脂の粉体塗装中における薄膜材14の飛散が抑制でき、製造が容易である。また、水位目盛20に用いるインク15を接着剤代わりとしているので、別途接着剤を設ける必要もなく、最小限の材料で構成することができる。なお、インク15を薄膜材14の接着剤代わりに用いるのではなく、別途、接着剤により薄膜材14をプライマー層13に付着させてもよい。
【0045】
以上のように、本実施の形態3に係る水面表示部30Bを備えた内釜10によれば、水面表示部30Bにおける水面の視認性がよく、使用者は水面の位置をよりはっきりと認識することができるので、水位調節を行いやすい。
【0046】
実施の形態4.
前述の実施の形態1〜3では、縦長の長方形に形成された水面表示部を例に説明したが、本実施の形態4では、水面表示部の他の構成例を説明する。なお、本実施の形態4では、実施の形態1〜3との相違点を中心に説明する。本実施の形態4は、実施の形態1〜3のそれぞれと組み合わせることが可能である。
【0047】
図10は、実施の形態4に係る水面表示部の構成を説明する図であり、図10(a)、(b)、(c)にはそれぞれ応用例を示している。図10に示すように、本実施の形態4の水面表示部30Cは、水位目盛20の数字20bに隣接する側の輪郭線が、ジグザグ形状(連続するV字状)となっている。このジグザグ形状の突出部分40は、水位目盛20を構成する各数字20bに対応しており、突出部分40の頂部に水面が位置したときに、その横の数字20bに対応する炊飯合数の水が入れられたこととなる。
【0048】
図10(a)に示すように、水位目盛20の数字20bに対して片側にのみ水面表示部30Cを設けてもよい。また、図10(b)に示すように、水位目盛20の数字20bに対して両側に水面表示部30Cを設けてもよい。このようにすることで、水位調節を行う際に水面を確認可能な部分(水面表示部30C)が増えるので、より水位調節が行いやすい。また、水面表示部30Cを左右に2つ並べて設けることで、例えば内釜10が傾いた状態で水位調節を行っているときには、両者を見比べることで内釜10が傾いていることを認識しやすいので、不正確な水位調節となることを抑制できる。また、図10(c)に示すように、ジグザグ形状の突出部分40と水位目盛20の数値とを結ぶようにして、印刷等により横線41を設けてもよい。この横線41は、目盛線の機能を実現するので、より水位調節が行いやすい。また、この横線41を印刷により設ける場合には、実施の形態3で示したように薄膜材にて空洞を形成する際の、薄膜材の接着剤代わり(実施の形態3におけるインク15に相当)として用いることができる。
【0049】
以上のように、本実施の形態4に係る水面表示部30Cによれば、水面表示部30Cの輪郭の少なくとも一方をジグザグ形状とすることで、内釜10に水を入れながら使用者が水面を目で追っていったときに、突出部分40の頂部に視線が集中しやすく、所望の水位となっているか否かが分かりやすい。また、本実施の形態4の水面表示部30Cは、前述の実施の形態1〜3で示した構成と組み合わせることで、実施の形態1〜3で説明したのと同様の効果を得ることもできる。
【0050】
なお、上述した水面表示部は、炊飯器の内釜のほか、調理用の鍋等に適用することもでき、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 本体、2 蓋体、2a 上蓋、2b 中蓋、2c 内蓋、3 パッキン、4a 係止片、4b 係止部、5 操作部、6 誘導加熱コイル、7 電源コード、10 内釜、10a 外面、10b 内面、11 基材、12 フッ素塗膜層、13 プライマー層、14 薄膜材、15 インク、20 水位目盛、20a 目盛線、20b 数字、30 水面表示部、31 溝、32 空洞、33 接合部、40 突出部分、41 横線、100 炊飯器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内表面にフッ素塗膜が設けられた内釜であって、
前記フッ素塗膜と当該内釜を構成する基材との間に設けられた空洞を有する水面表示部を備えた
ことを特徴とする内釜。
【請求項2】
前記水面表示部は、当該内釜の高さ方向に延びる形状を有する
ことを特徴とする請求項1記載の内釜。
【請求項3】
前記水面表示部は、当該内釜における最下位水位目盛から最上位水位目盛に渡る長さに形成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の内釜。
【請求項4】
前記空洞は、当該内釜を構成する基材、及び当該基材と前記フッ素塗膜との間に介在するプライマー層の少なくともいずれか一方に設けられた溝によって形成されている
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の内釜。
【請求項5】
前記水面表示部は、複数の前記溝を有している
ことを特徴とする請求項4記載の内釜。
【請求項6】
前記水面表示部は、縦縞状に設けられた複数の前記溝を有している
ことを特徴とする請求項4記載の内釜。
【請求項7】
前記水面表示部は、当該内釜の高さ方向に対する角度θが0°<θ≦45°の範囲の斜線状に設けられた複数の前記溝を有している
ことを特徴とする請求項4記載の内釜。
【請求項8】
前記空洞は、前記フッ素塗膜と前記基材との間に介在するプライマー層と、当該プライマー層の上に部分的に設けられた薄膜と、の間に形成されている
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の内釜。
【請求項9】
前記薄膜の端部表面と前記プライマー層とに跨って、水位目盛を形成するインクが設けられている
ことを特徴とする請求項8記載の内釜。
【請求項10】
前記薄膜は、ポリイミドフィルムである
ことを特徴とする請求項8または請求項9記載の内釜。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の内釜を備えた炊飯器。
【請求項12】
内釜の基材の内面にプライマー層を介してフッ素塗膜を形成し、
前記フッ素塗膜を透過するレーザー光線により、前記基材及び前記プライマー層の少なくともいずれか一方を当該内釜の高さ方向に細長く削って溝を形成し、当該溝と前記フッ素塗膜との間に空洞を形成する
ことを特徴とする内釜の製造方法。
【請求項13】
複数の前記溝を、縦縞状に形成する
ことを特徴とする請求項12記載の内釜の製造方法。
【請求項14】
複数の前記溝を、前記内釜の高さ方向に対する角度θが0°<θ≦45°の範囲の斜線状に形成する
ことを特徴とする請求項12記載の内釜の製造方法。
【請求項15】
前記プライマー層は、カーボンを含有している
ことを特徴とする請求項12〜請求項14のいずれか一項に記載の内釜の製造方法。
【請求項16】
内釜の基材の内面に、フッ素塗膜用のプライマー層を形成し、
前記プライマー層の表面との間に空洞を介在させて薄膜を載置し、
前記薄膜の上からフッ素塗膜を形成する
ことを特徴とする内釜の製造方法。
【請求項17】
前記フッ素塗膜を形成する前に、水位目盛を形成するインクを、前記薄膜の端部表面と前記プライマー層とに跨るようにして載置する
ことを特徴とする請求項16記載の内釜の製造方法。
【請求項18】
前記薄膜は、ポリイミドフィルムである
ことを特徴とする請求項16または請求項17記載の内釜の製造方法。

【図1】
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【図8】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−106784(P2013−106784A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253992(P2011−253992)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000176866)三菱電機ホーム機器株式会社 (1,201)
【Fターム(参考)】