説明

内面フィン付管の製造方法

【課題】管内面に形成するフィン部の数が少なく、さらにフィン部の高さが高い場合であっても、熱間押出による製管時に焼付きやフィン部の欠肉の発生を防止できる内面フィン付管の製造方法を提供する。
【解決手段】熱間押出により、管内面に管軸方向に延びる3個または4個の直線状フィン部が形成された内面フィン付管を製造する際、中空の被押出素材の内面に潤滑剤として押出管内面の単位表面積当たりで1〜2g/cm2のガラス粉を投入し、押出管速度を3m/秒以下として熱間押出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間押出による内面フィン付管の製造方法に関し、特に、エチレンプラントの伝熱管等として使用するのに好適な内面フィン付管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンプラントは、原料炭化水素(例:ナフサ、LPG、エタン)を熱分解し、分離精製して種々のオレフィン系炭化水素(例:エチレン、プロピレン)を生産する設備である。その設備において、原料炭化水素の熱分解は、当該原料と水蒸気の混合物を加熱炉内の反応管に導入し、この反応管を外側から加熱することによって反応が進行する。このため、反応管は伝熱管として機能し、反応管には内面フィン付管が使用される。
【0003】
図1は、従来の内面フィン付管の一例を示す横断面図である。同図に示すように、内面フィン付管101は、その内面にフィン部102を有する。フィン部102は、管軸と直角な断面形状が概ね円弧状であり、管軸方向に全長にわたって直線状に延び、管周方向に谷部103を挟んで複数形成されている。従来のエチレンプラントでは、8個〜12個のフィン部102を有する内面フィン付管101が使用されている。
【0004】
このようなフィン部を管内面に有する内面フィン付管は、その管内面形状に合致する外面形状のマンドレルを用いて熱間押出により製造される。熱間押出による内面フィン付管の製造では、管内面が異形であることに加え、材質的に耐熱性と耐食性が要求されるため、被押出素材としてCrを15〜55質量%、Niを20〜70質量%で含有するCr−Ni合金が多用される。このような高合金は、熱間加工時の変形抵抗が大きく、熱間加工性が悪いため、管内面にフィン部を形成する熱間押出にはいくつかの問題がある。
【0005】
熱間押出により、管内面にフィン部のない通常の管を製造する場合、軸心に貫通孔が形成された中空の被押出素材(以下、「ビレット」ともいう)を加熱し、ビレットの孔に内面潤滑剤としてガラス粉を供給する。この場合には、製品管内面の断面形状が円形であるため、マンドレル外面の断面形状も円形である。したがって、マンドレルと被押出素材との間において、仮に局部的に潤滑剤の膜切れが発生しても、その周りから潤滑剤が円滑に補充されるので、焼付きは起こり難い。
【0006】
これに対し、内面フィン付管を製造する場合は、管内面にフィン部を形成しなければならないので、熱間押出で用いるマンドレルの外面には、管内面に形成するフィン部と谷部の形状にほぼ対応した形状で溝部と山部が設けられている。また、上記のように、被押出素材である高合金は熱間加工時の変形抵抗が大きいことから、熱間押出時にマンドレルに与えられる加工負荷は極めて大きく、特にマンドレル外面の山部には大きな荷重が加わる。
【0007】
このため、マンドレルには、圧壊強度に優れた5Cr系工具鋼(JIS SKD61)が用いられる。また、焼付き防止のため、マンドレル外面にはクロムメッキ等の表面処理が施され、さらにガラス粉による管内面の潤滑にも充分な注意が払われる。
【0008】
しかし、マンドレル外面へのクロムメッキやガラス潤滑による配慮にもかかわらず、マンドレル外面の山部でしばしば潤滑剤の膜切れが生じ、焼付きを避けられない。マンドレル外面の山部で焼付きが生じると、この部分にビレット材料がスティックし、材料流動が阻害されることから、マンドレル外面の溝部に対応する管内面のフィン部で欠肉が発生する。
【0009】
潤滑剤の膜切れによる焼付きや管フィン部の欠肉の防止を図る技術は、下記のものがある。
【0010】
特許文献1には、マンドレルの外面に、クロムメッキに代え、大気中での焼入れ焼戻し処理により厚さ5μm以上の酸化スケール層を生成させ、さらにそのスケール層の厚さを5〜25μmに調整して熱間押出を行う内面フィン付管の製造方法が提案されている。
【0011】
特許文献2には、内面フィン付管のフィン部に対応するマンドレル外面の溝部の底に潤滑剤溜め用の凹部を備えたマンドレルを用い、その凹部に潤滑剤として水ガラスを充填して熱間押出を行う内面フィン付合金管の熱間押出方法が提案されている。
【0012】
特許文献3には、孔偏芯のないビレットを作製し、このビレットを加熱して均熱化するとともに、ビレットの内面に供給する潤滑ガラス粉の量を製品管内面の単位表面積あたりで5〜6g/cm2として熱間押出を行う内面フィン付金属管の熱間押出加工方法が提案されている。
【0013】
ところで、エチレンプラントで使用される内面フィン付管には、少ないエネルギーでオレフィン系炭化水素の収率を向上させるため、高い熱交換特性および熱分解反応特性が求められる。この要求を応える技術として、特許文献4には、3個または4個のフィン部を有する熱分解反応用金属管(内面フィン付管)が提案されている。同文献に提案される内面フィン付管は、フィン部の横断面で、フィン部の高さをh、フィン部の谷底での幅をw、および管の谷底における内径をDiとするとき、h/Diが0.1〜0.2で、h/wが0.25〜1.0に規定されるものである。
【0014】
しかし、特許文献4に提案される内面フィン付管は、従来のものと比較して、フィン部の数が少なく、これに伴いフィン部の高さも高いため、前記特許文献1〜3に提案される熱間押出方法では、潤滑剤の膜切れによる焼付きやフィン部の欠肉が発生し、フィン部の高さが目標値に達しなかったり、フィン部の頂部で欠けが生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平5−228529号公報
【特許文献2】特開平10−94824号公報
【特許文献3】特開平10−29011号公報
【特許文献4】国際公開WO2008/004574号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、次の特性を有する内面フィン付管の製造方法を提供することを目的とする:
管内面に形成するフィン部の数が少なく、さらにフィン部の高さが高い場合であっても、熱間押出による製管時に焼付きやフィン部の欠肉の発生を防止すること。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の要旨は、次の通りである。
【0018】
熱間押出により、管内面に管軸方向に延びる3個または4個の直線状フィン部が形成された内面フィン付管を製造する方法であって、
中空の被押出素材の内面に潤滑剤として押出管内面の単位表面積当たりで1〜2g/cm2のガラス粉を投入し、押出管速度を3m/秒以下として熱間押出を行う
ことを特徴とする内面フィン付管の製造方法。
【0019】
この製造方法では、熱間押出に際し、マンドレルを200℃以上に予熱することが好ましい。
【0020】
また、上記の製造方法では、被押出素材として、質量%で、Cr:15〜55%およびNi:20〜70%を含有するCr−Ni合金を用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の内面フィン付管の製造方法は、下記の顕著な効果を有する:
管内面に形成するフィン部の数が少なく、さらにフィン部の高さが高い場合であっても、熱間押出による製管時に焼付きやフィン部の欠肉の発生を防止できること。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来の内面フィン付管の一例を示す横断面図である。
【図2】本発明で製造対象とする内面フィン付管の一例を示す横断面図であり、同図(a)は3個のフィン部を、同図(b)は4個のフィン部をそれぞれ有する場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者は、上記目的を達成するため、熱間押出により、管内面に3個または4個と少ないフィン部を有する内面フィン付管を製造することを前提として、鋭意検討を重ねた。その結果、製管時に焼付きやフィン部の欠肉の発生を防止すると同時に所定のフィン部の高さを得るには、後述する実施例で実証するように、ビレットの内面に投入する潤滑ガラス粉の量を少なめに規定するとともに、押出管速度を低速に規定するのが有効であることを知見した。さらに、熱間押出に際してマンドレルを予熱することにより、それらの有効性が一層高まることを知見した。そして、それらの有効性は、熱間加工時の変形抵抗が大きいCr−Ni合金を熱間押出する場合でも発揮できることを知見した。
【0024】
本発明の内面フィン付管の製造方法は、以上の知見に基づき完成させたものである。以下に、本発明の製造方法を上記のように規定した理由および好ましい態様について説明する。
【0025】
1.内面フィン付管の形状
図2は、本発明で製造対象とする内面フィン付管の一例を示す横断面図であり、同図(a)は3個のフィン部を、同図(b)は4個のフィン部をそれぞれ有する場合を示す。同図に示すように、本発明で製造対象とする内面フィン付管1は、管内面に管軸方向に延びる3個または4個のフィン部2を有する。フィン部2は、管軸方向に平行で全長にわたって直線状に延び、管周方向に谷部3を挟んで等間隔に形成されている。
【0026】
管軸と直角な断面において、フィン部2の断面形状は、三角形状や台形状等の様々な形状を採用することができる。図2では、フィン部2の断面形状が二等辺三角形状である場合を例示している。
【0027】
ここで、三角形状や台形状は、それぞれ厳密な意味での三角形や台形だけでなく、実質的に三角形や台形とみなし得る形状を含む。例えば、図2に示すように、二等辺三角形状のフィン部2の頂部が丸みを帯びていてもよい。台形状においても同じであり、上辺と斜辺との接合部が丸みを帯びた状態であってよい。また、フィン部2の谷底までに到る斜辺は必ずしも直線である必要はない。特にフィン部2の斜辺の谷底と谷部3との間は、なだらかな曲線で結ぶのがよい。
【0028】
このような内面フィン付管1は、外径Dが50〜120mm程度、肉厚(フィン部2の谷底、すなわち谷部3での肉厚)tが6.0〜10.0mm程度、フィン部2の高さhが5.0〜10.0mm程度である。また、内面フィン付管1をエチレンプラントの反応管に用いる場合、熱交換特性と熱分解反応特性を同時に確保するため、フィン部2の高さhと内面フィン付管1の内径(フィン部2の谷底、すなわち谷部3での直径)Diとの比「h/Di」を0.1〜0.2の範囲とし、フィン部2の高さhとフィン部2の谷底における幅wとの比「h/w」を0.25〜1.0の範囲とするのが好ましい。
【0029】
内面フィン付管1は、上記の通りにフィン部2が管軸方向と平行に形成されているが、エチレンプラントの反応管に用いる場合は、より熱分解反応特性を向上させるため、さらにねじり加工を施して、管内面にらせん状にフィン部を形成することができる。この場合の管軸方向に対するフィン部の傾斜角度は20〜35°の範囲とするのが好ましい。
【0030】
2.熱間押出の条件
2−1.潤滑ガラス粉の投入量
本発明の製造方法では、ビレットの内面に潤滑剤として投入するガラス粉の量は、押出管内面の単位表面積当たりで1〜2g/cm2の範囲とする。
【0031】
従来の内面フィン付管の製造では、管内面に形成するフィン部の数が8個〜12個と多いため、焼付きを防止すべく多量の潤滑剤が必要であり、例えば特許文献3に記載されるように、ビレットの内面に供給する潤滑ガラス粉の量を5〜6g/cm2としていた。しかし、本発明では、フィン部の数が3個または4個と少ない内面フィン付管を製造対象とするため、潤滑剤の量が多い場合、フィン部に対応するマンドレル外面の溝部に潤滑剤が封じ込められ、この潤滑剤により溝部底へのビレット材料の充満が阻止されることから、フィン部が所望の高さまで達しない。このため、潤滑ガラス粉の投入量の上限は、従来よりも著しく少ない2g/cm2とする。
【0032】
一方、潤滑ガラス粉の投入量があまりに少ないと、マンドレル外面の山部で焼付きが生じ、マンドレル外面の溝部へのビレット材料の流動が阻害される。このため、潤滑ガラス粉の投入量の下限は、1g/cm2とする。
【0033】
2−2.押出管速度
本発明の製造方法では、押出管速度は、3m/秒以下とする。
【0034】
上記の通りに内面潤滑剤としてのガラス粉を単純に少なくしたのでは、潤滑剤の膜切れにより焼付きやフィン部の欠肉が発生するおそれがある。これを防止するため、押出管速度は、3m/秒以下の低速とする。押出管速度の下限は特に設けないが、生産性を考慮して、1m/秒以上とするのが好ましい。
【0035】
2−3.マンドレルの予熱
本発明の製造方法では、200℃以上に予熱したマンドレルを用いて熱間押出するのが好ましい。
【0036】
熱間押出に際し、ビレットは加熱され、その内面に投入したガラス粉は溶融状態となるが、コンテナ内に装入されたビレットが押出開始に伴ってフィルアップしたとき、すなわちビレット材料がコンテナおよびマンドレルとの隙間に充満したとき、上記の通りに押出管速度が低速で、マンドレルの温度が低いと、溶融状態の潤滑ガラスが固化して焼付きが生じ、ひいてはフィン部の欠肉が発生する。このため、マンドレルを200℃以上に予熱することが好ましい。予熱温度の上限は特に設けないが、エネルギーコストおよび生産性を考慮して、400℃以下とするのが好ましい。
【0037】
3.被押出素材(ビレット)の材質
以下の記述において、成分含有量の「%」は「質量%」を意味する。
【0038】
本発明の製造方法では、被押出素材として、Cr:15〜55%およびNi:20〜70%を含有するCr−Ni合金を用いることができる。この高合金は、熱間加工時の変形抵抗が大きく、焼付きやフィン部の欠肉が発生し易いが、この問題は、本発明の製造方法を適用することにより解消できるからである。
【0039】
また、エチレンプラントの反応管では、通常、原料炭化水素の熱分解反応に伴って不可避的に炭素が生成し、この炭素が管内面に付着し堆積する。この現象はコーキングと称される。コーキングが起こると、管内面に堆積した炭素が管外面から加えられる熱の伝達を妨げ、熱分解反応効率が低下するばかりか、その堆積炭素が反応管の内部に拡散して浸炭が起こり、浸炭部分で反応管が脆化し割れが生じる。このような問題に対し、Cr−Ni合金は、耐浸炭性や耐コーキング性に優れることから、反応管としての内面フィン付管に採用するのが好ましい。
【0040】
本発明で採用するのが好ましいCr−Ni合金の具体的な組成は、以下の通りである。
C:0.01〜0.6%、Si:0.01〜5%、Mn:0.1〜10%、P:0.08%以下、S:0.05%以下、Cr:15〜55%、Ni:20〜70%およびN:0.001〜0.25%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるCr−Ni合金である。
【0041】
このCr−Ni合金は、必要に応じ、Feの一部に代えて、下記の(i)〜(vi)のグループのうちの少なくとも1つから選んだ1種または2種以上の元素を含有してもよい。
(i) Cu:5%以下、Co:5%以下、
(ii) Mo:3%以下、W:6%以下、Ta:6%以下、
(iii) Ti:1%以下、Nb:2%以下、
(iv) B:0.1%以下、Zr:0.1%以下、Hf:0.5%以下、
(v) Mg:0.1%以下、Ca:0.1%以下、Al:5%以下、
(vi) 希土類元素(REM):0.15%以下。
【0042】
なお、残部としての不純物とは、合金を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0043】
以下では、各成分の作用効果と含有量の限定理由について説明する。
【0044】
Cr:15〜55%
Crは、耐酸化性確保のための主要な元素であり、15%以上の含有が必要である。耐酸化性や耐浸炭性の点からCrの含有量は多い程好ましいが、過剰な添加は管の製造性や使用中の高温での組織安定性を低下させるので、含有量の上限を55%とする。加工性とともに組織安定性の劣化を防止するためには、上限を35%とすることが好ましい。より好ましい範囲は、20〜33%である。
【0045】
Ni:20〜70%
Niは、安定したオーステナイト組織を得るために必要な元素であり、Cr含有量に応じて20〜70%の含有量が必要である。しかしながら、必要以上の含有は、コスト高と管の製造上の困難を招くので、より好ましい範囲は20〜60%であり、もっとも好ましい範囲は23〜50%である。
【0046】
C:0.01〜0.6%
Cは、高温強度を確保するために0.01%以上の含有が有効である。一方、0.6%を超えると靱性が極端に悪くなるため、上限を0.6%とする。より好ましいのは0.02%〜0.45%、さらに好ましい範囲は0.02%〜0.3%である。
【0047】
Si:0.01〜5%
Siは、脱酸元素として必要であるが、さらに、耐酸化性や耐浸炭性の向上にも有効な元素である。この作用は、0.01%以上の含有量で発揮される。ただし、5%を超えると溶接性が劣化し、組織も不安定になるので、上限を5%とする。より好ましい範囲は0.1〜3%であり、もっとも好ましい範囲は0.3〜2%である。
【0048】
Mn:0.1〜10%
Mnは、脱酸および加工性改善のために添加するものであり、このためにはその含有量を0.1%以上にする必要がある。またMnはオーステナイト生成元素であることからNiの一部をMnで置換することも可能であるが、過剰の含有では加工性が劣化することから、上限を10%とする。より好ましい範囲は0.1〜5%であり、もっとも好ましい範囲は0.1〜2%である。
【0049】
P:0.08%以下、S:0.05%以下
PおよびSは、結晶粒界に偏析し、熱間加工性を劣化させる。そのため、極力低減することが好ましいが、過剰な低減は製造コストの高騰を招くため、Pは0.08%以下、Sは0.05%以下とする。より好ましいのは、Pは0.05%以下、Sは0.03%以下であり、もっとも好ましいのは、Pは0.04%以下、Sは0.015%以下である。
【0050】
N:0.001〜0.25%
Nは、高温強度改善に有効な元素である。この効果を得るためには0.001%以上含有させることが必要である。一方、過剰な添加は加工性を大きく阻害するため、含有量の上限を0.25%とする。より好ましいNの含有量は0.001〜0.2%である。
【0051】
Cu:5%以下、Co:5%以下
CuおよびCoはオーステナイト相を安定にする他、高温強度向上に有効であり、その効果を発揮させるためには、それぞれ0.01%以上含有させてもよい。一方、それぞれの含有量が5%を超えると熱間加工性を著しく低下させるため、5%以下とするのが好ましい。より好ましい上限は3%である。
【0052】
Mo:3%以下、W:6%以下、Ta:6%以下
Mo、WおよびTaはいずれも固溶強化元素として高温強度向上に有効であり、その効果を発揮させるためには、それぞれの含有量を少なくとも0.01%以上とするのが好ましい。一方、過剰の含有は加工性の劣化と組織安定性を阻害するので、それぞれの上限をMoは3%、WおよびTaはそれぞれ6%以下にする必要がある。Mo、W、Taのいずれも、より好ましい上限は2.5%、さらに好ましい上限は2%である。
【0053】
Ti:1%以下、Nb:2%以下
TiおよびNbは、極微量の添加でも高温強度および延性、靱性の改善に有効であり、その効果を発揮させるためには、それぞれの含有量を少なくとも0.01%以上とするのが好ましい。一方、Tiでは1%を超えると、Nbは2%を超えると加工性や溶接性が低下する。
【0054】
B:0.1%以下、Zr:0.1%以下、Hf:0.5%以下
B、ZrおよびHfはいずれも粒界を強化し、熱間加工性および高温強度特性を改善するのに有効な元素であり、その効果を発揮させるためには、それぞれの含有量を少なくとも0.001%以上とするのが好ましい。一方、含有量が過剰になると溶接性を劣化させるので、含有量の上限はBおよびZrについては0.1%、Hfについては0.5%とする。
【0055】
Mg:0.1%以下、Ca:0.1%以下、Al:5%以下
Mg、CaおよびAlはいずれも熱間加工性を改善するのに有効な元素であり、その効果を得たい場合は、MgおよびCaは0.0005%以上、Alは0.001%以上の含有量とするのが好ましい。Alはまた、浸炭性ガス環境に曝された場合に、CrとAlが主体の酸化スケールが生成するため金属管の耐浸炭性を著しく高めることができる。このためには、1.5%以上のAlを含有させることが有効である。一方、MgおよびCaの過剰な添加は溶接性を劣化させるため、含有量の上限をMgおよびCaでは0.1%とする。また、Alは5%を超えて含有されると、金属間化合物が合金中に析出するため靭性やクリープ延性が著しく低下する。より好ましい含有量の範囲は、MgおよびCaでは0.0008〜0.05%、耐浸炭性を改善するために含有させる場合のAlでは2〜4%である。
【0056】
希土類元素(REM):0.15%以下
希土類元素は、耐酸化性の向上に有効な元素であり、その効果を得たい場合は、0.0005%以上の含有量とするのが好ましい。一方、過剰な含有は加工性を低下させるので含有量の上限を0.15%とする。希土類元素とは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称であり、その中では特にY、La、CeおよびNdのうちの1種以上を用いることが好ましい。希土類元素の含有量は、含有させた各希土類元素の合計含有量を意味する。
【実施例】
【0057】
本発明の製造方法による効果を確認するため、ユジーンセジュルネ製管法による熱間押出試験を実施し、管内面に3個のフィン部を有する内面フィン付管を製作した。共通する試験条件は下記の通りである。
・ビレットの寸法:外径176mm、内径53mm、長さ645mm
・ビレットの材質:下記表1に示す成分組成のCr−Ni合金
・ビレットの加熱温度:1100℃
・マンドレルの材質:5Cr系工具鋼(JIS SKD61)
・内面フィン付管の仕様寸法:外径61mm、肉厚6.9mm、フィン部高さ6mm
【0058】
【表1】

【0059】
熱間押出試験を行うに際し、下記表2に示す通りに、ビレット内面に投入するガラス粉の量、押出管速度、およびマンドレルの予熱温度の各条件を種々変更した。そして、各試験条件で製作した押出管内面のフィン部を内視鏡を用いて管軸方向の全長にわたり観察するとともに、押出管の端面から300mm位置でフィン部の高さを測定した。その調査結果および評価結果を下記表2に併せて示す。なお、表中のフィン部高さは端面から300mm位置の断面で個々のフィン部を測定した値の中で一番小さい値を記載した。
【0060】
表2中で、「評価」の欄の記号の意味は次の通りである。
○:優。フィン部の高さが目標値(5.8mm)以上であり、管軸方向の全長にわたりフィン部頂部の欠けが発生しなかったことを示す。
△:良。フィン部の高さが目標値(5.8mm)以上であり、管軸方向の一部でフィン部頂部の軽微な欠けが発生したことを示す。
×:不可。フィン部の高さが目標値(5.8mm)に達しないか、管軸方向の全長または一部でフィン部頂部の著しい欠けが発生したことを示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示す結果から次のことが示される。
【0063】
試験番号19〜24、および31〜36では、ガラス粉の投入量が1〜2g/cm2の範囲内で、かつ押出管速度が3m/秒以下であり、本発明で規定する条件を満足するため、フィン部の高さが目標値以上となり、フィン部頂部の欠けも全く発生しないか、軽微なものであった。これらのうち、試験番号20、21、23、24、32、33、35および36では、さらにマンドレルの予熱温度が200℃以上であったため、フィン部頂部の欠けが全く発生することなく健全であった。
【0064】
一方、試験番号1〜18、25〜30、および37〜48では、ガラス粉の投入量および押出管速度のうちの少なくとも一方が本発明で規定する条件を満たさないため、フィン部の高さが目標値に達しないか、フィン部頂部の著しい欠けが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の内面フィン付管の製造方法によれば、熱間押出による製管時に焼付きやフィン部の欠肉の発生を防止することができ、内面品質に優れた内面フィン付管を製造することが可能になる。したがって、本発明の製造方法は、熱間押出による内面フィン付管の製造に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1:内面フィン付管、 2:フィン部、 3:谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間押出により、管内面に管軸方向に延びる3個または4個の直線状フィン部が形成された内面フィン付管を製造する方法であって、
中空の被押出素材の内面に潤滑剤として押出管内面の単位表面積当たりで1〜2g/cm2のガラス粉を投入し、押出管速度を3m/秒以下として熱間押出を行う
ことを特徴とする内面フィン付管の製造方法。
【請求項2】
熱間押出に際し、マンドレルを200℃以上に予熱する
ことを特徴とする請求項1に記載のフィン付管の製造方法。
【請求項3】
被押出素材として、質量%で、Cr:15〜55%およびNi:20〜70%を含有するCr−Ni合金を用いる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の内面フィン付管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−245513(P2011−245513A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121475(P2010−121475)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】