説明

円すいころ軸受の保持器ポケットすきま測定装置およびその測定方法

【課題】 円すいころ軸受の保持器ポケットすきま寸法を精度良く測定でき、その測定が容易で、構成が簡単な装置を提供する。
【解決手段】 保持器ポケットすきま寸法測定装置10は、支持手段12と、測定治具13と、軸方向位置測定手段14とを有する。支持手段12は、円すいころ軸受から分離された保持器5および円すいころ4でなる保持器・ころ組立体11を支持する。測定治具13は、支持手段12に支持された保持器・ころ組立体11の円すいころ4列の内周に配置され、テーパ状の外周面13aが各円すいころ4の転動面4aに接する。軸方向位置測定手段14は、前記測定治具13の軸方向位置を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円すいころ軸受における保持器と円すいころ間のすきまの寸法である保持器ポケットすきま寸法を測定する円すいころ軸受の保持器ポケットすきま寸法測定装置、およびその測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば図1に示すような円すいころ軸受1では、保持器5のポケット5a内での円すいころ4の挙動を妨げないように、軸受内で保持器5が内輪2および外輪3に対して中立位置にある状態で、図2に示すように、保持器5と円すいころ4との間に適度のすきま6ができるように設計されている。このすきま6が小さ過ぎると、円すいころ4の円滑な運動を阻害する。逆に、前記すきま6が大き過ぎても、保持器5自身の振れ回りが大きくなり、軸受の機能に悪影響を及ぼす。したがって、保持器5の製作に当たっては、保持器5と円すいころ4間のすきま6の寸法である保持器ポケットすきま寸法Sが適正な範囲内にあることを確認する必要がある。なお、ここで言う保持器5の中立位置とは、円すいころ4を内輪2の軌道面2aおよび大つば2bに当てた状態に配置したうえで、保持器5を内輪2と同軸上で円すいころ4の小径側端面4bに当てた状態とした位置のことである。
【0003】
従来、上記保持器ポケットすきま寸法Sの測定は、慣例的に、以下に記す方法で行われていた。すなわち、図10に示すように、各部の寸法が正確な模範となる円すいころ4を保持器5の各ポケット5aに組み込んで、各円すいころ4の内接円径Diおよび外接円径Doのいずれか、または両方を測定して行うものである。保持器ポケットすきま寸法Sが変化すると、円すいころ4の径方向位置も変化するため、各円すいころ4の内接円径Diや外接円径Doを測定することで、保持器ポケットすきま寸法Sが求められるのである。
【特許文献1】特開平11−166543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の保持器ポケットすきま寸法の測定方法は、模範となる円すいころ4の小径側または大径側のエッジ部の位置を目視で確認しながら内接円径D1または外接円径D2を測定することになるため、正確に測定するのは容易ではなく、測定に熟練を要する。それでも、円すいころ4の数が偶数である円すいころ軸受の場合は、図10に示されているように、中心線を挟んで対向する位置に一対の円すいころ4が存在するため、内接円径Diや外接円径Doを比較的測定し易い。しかし、円すいころ4の数が奇数である円すいころ軸受の場合は、中心線を挟んで対向する位置に一対の円すいころ4が存在しないため、内接円径Diや外接円径Doの測定がより一層困難になる。
【0005】
また、上記従来の保持器ポケットすきま寸法の測定方法は、円すいころ4の小径側または大径側のエッジ部で内接円径Diや外接円径Doを測定するものであるため、エッジ部が面取りされた量産タイプの円すいころを測定に用いることができない。よって、測定のために、エッジ部が面取りされていない円すいころ、およびその円すいころ用の保持器を用意しなければならない。
【0006】
この発明は、上記背景下でなされたものであり、その目的は、円すいころ軸受の保持器ポケットすきま寸法を精度良く測定でき、その測定が容易で、構成が簡単な装置、およびその方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる円すいころ軸受の保持器ポケットすきま寸法測定装置は、円周方向複数箇所にポケットを有するリング状の保持器と、この保持器の各ポケットに保持された複数の円すいころとを備え、前記ポケットの外径縁の幅が前記円すいころの直径よりも狭い円すいころ軸受における、前記保持器と円すいころ間のすきまの寸法である保持器ポケットすきま寸法を測定する装置であって、前記円すいころ軸受から分離された前記保持器および円すいころでなる保持器・ころ組立体を支持する支持手段と、この支持手段に支持された前記保持器・ころ組立体の円すいころ列の内周に配置され、テーパ状の外周面が各円すいころの転動面に接する測定治具と、この測定治具の軸方向位置を測定する軸方向位置測定手段とを有することを特徴とする。
【0008】
この構成の保持器ポケットすきま寸法測定装置によれば、支持手段により、円すいころ軸受から分離された保持器および円すいころでなる保持器・ころ組立体を支持し、この保持器・ころ組立体の円すいころ列の内周に測定治具を、テーパ状の外周面が、保持器の各ポケットの小径側端に位置する各円すいころの転動面に接する状態で配置する。そして、軸方向位置測定手段により、測定治具の軸方向位置を測定する。測定治具の軸方向位置の測定は、各円すいころの内接円径や外接円径の測定に比べて容易である。
円すいころの径方向位置が異なると、それに比例して測定治具の軸方向位置も変化する。よって、円すいころの径方向位置と測定治具の軸方向位置との関係を数式化しておき、軸方向位置測定手段の測定結果を前記数式に代入することにより、保持器ポケットすきま寸法を求めることができる。または、円すいころの径方向位置と測定治具の軸方向位置との関係を相関表に表示しておき、軸方向位置測定手段の測定結果を前記相関表で照合することによっても、保持器ポケットすきま寸法を求めることができる。
このように、測定治具の軸方向位置を測定することで保持器ポケットすきま寸法を求めるため、円すいころ数が偶数、奇数に関係なく、ポケットすきま寸法を精度良く測定でき、その測定が容易である。また、保持器ポケットすきま寸法測定装置を簡単な構成とすることができる。
【0009】
具体的に測定治具の軸方向位置を測定する手法として、次の2つが挙げられる。1つは、予め保持器ポケットすきま寸法が分かっている保持器・ころ組立体の基準品を用いて測定治具の軸方向基準位置を測定しておき、その後、被測定品である保持器・ころ組立体を用いて測定治具の前記基準品に対する軸方向相対位置を測定する手法である。この場合、軸方向基準位置と軸方向相対位置の和が測定治具の軸方向位置になる。もう1つは、被測定品ごとに測定治具の軸方向位置を直接測定する手法である。
前者の手法は、保持器・ころ組立体の基準品が必要であるが、それ以外は測定治具の外周面形状さえ正確に把握されていれば測定が行えるため、保持器ポケットすきま寸法測定装置の設計等は簡便である。後者の手法は、保持器・ころ組立体の基準品を作成する必要がないが、保持器ポケットすきま寸法測定装置の各部の加工精度を高く保つ必要があるため、保持器ポケットすきま寸法測定装置の設計や取扱いは前者に比べて難しい。これら2つの手法は、対象となる円すいころ軸受の種類や各種状況等に応じて使い分けるのが良い。
【0010】
この発明において、前記測定治具は、その外周面の母線を、前記円すいころの転動面に対して凸状とすることができる。
通常、保持器のポケットの形状は、円すいころの転動面のテーパ形状に合わせられており、ポケットの内壁面と円すいころの転動面は線接触する。そのため、円すいころに対して測定治具が1点で当たりさえすれば、円すいころがポケットの内壁面に押し当てられた状態となる。したがって、外周面の母線が円すいころの転動面に対して凸状である測定治具を使用することができる。測定治具の外周面の母線が円すいころの転動面に対して凸状であれば、内輪のテーパ角が異なる円すい転がり軸受についても、同じ測定治具を使用して保持器ポケットすきま寸法を測定することができる。
【0011】
この発明において、前記円すいころを、前記保持器の小径側に押し付ける押付け手段を設けてもよい。
上記押付け手段を設けると、重力に関係なく、円すいころが常に保持器の小径側に押し付けられた状態になるので、保持器ポケットすきま寸法測定装置を任意の姿勢で使用することができる。
【0012】
前記測定治具はセラミックで作成することができる。
径が大きい保持器の場合、その保持器ポケットすきま寸法の測定に用いる測定治具の径も大きくなる。径が大きい測定治具は重量が重いので、その重みで保持器がたわみ変形するおそれがある。測定治具をセラミック等の軽くて硬い素材で作成すれば、測定治具の強度を保ちつつ、保持器への影響を軽減させることができる。
【0013】
前記支持手段として、前記保持器・ころ組立体を、その保持器の小径側の端面に接する状態で載せる保持器載せ台を備える場合、この保持器載せ台は、前記各円すいころの転動面に接する測定治具の、前記保持器の小径側の端面よりも突出する箇所が挿入される治具挿入空間を有していてもよい。
保持器載せ台が治具挿入空間を有すると、軸方向に長い測定治具を使用することができる。測定治具が軸方向に長いと、そのテーパ状外周面の径の変化幅を広くとることができるので、様々な径の保持器について保持器ポケットすきま寸法の測定を行うことができる。
【0014】
この発明にかかる円すいころ軸受の保持器ポケットすきま寸法測定方法は、円周方向複数箇所にポケットを有するリング状の保持器と、この保持器の各ポケットに保持された複数の円すいころとを備え、前記ポケットの外径縁の幅が前記円すいころの直径よりも狭い円すいころ軸受における、前記保持器と円すいころ間のすきまの寸法である保持器ポケットすきま寸法を測定する方法であって、
前記円すいころ軸受から、前記保持器および円すいころでなる保持器・ころ組立体を取り出し、この保持器・ころ組立体の円すいころ列の内周に、テーパ状の外周面が各円すいころの転動面に接する測定治具を配置し、この測定治具の軸方向位置を測定し、その測定結果から前記保持器ポケットすきま寸法を求めることを特徴とする。
【0015】
保持器・ころ組立体の円すいころ列の内周に測定治具を配置した場合、円すいころの径方向位置が異なると、それに比例して測定治具の軸方向位置も異なる。よって、円すいころの径方向位置と測定治具の軸方向位置との関係を数式化しておき、測定治具の軸方向位置を測定した測定結果を、前記数式に代入することにより、保持器ポケットすきま寸法を求めることができる。または、円すいころの径方向位置と測定治具の軸方向位置との関係を相関表に表示しておき、測定治具の軸方向位置を測定した測定結果を、前記相関表で照合することにより、保持器ポケットすきま寸法を求めることができる。
このように、測定治具の軸方向位置を測定することで保持器ポケットすきま寸法を求めるため、円すいころ数が偶数、奇数に関係なく、ポケットすきま寸法を精度良く測定できる。また、測定治具の軸方向位置の測定は、各円すいころの内接円径や外接円径の測定に比べて容易であるため、この方法による保持器ポケットすきま寸法の測定は容易である。
【発明の効果】
【0016】
この発明の円すいころ軸受の保持器ポケットすきま寸法測定装置は、円周方向複数箇所にポケットを有するリング状の保持器と、この保持器の各ポケットに保持された複数の円すいころとを備え、前記ポケットの外径縁の幅が前記円すいころの直径よりも狭い円すいころ軸受における、前記保持器と円すいころ間のすきまの寸法である保持器ポケットすきま寸法を測定する装置であって、前記円すいころ軸受から分離された前記保持器および円すいころでなる保持器・ころ組立体を支持する支持手段と、この支持手段に支持された前記保持器・ころ組立体の円すいころ列の内周に配置され、テーパ状の外周面が各円すいころの転動面に接する測定治具と、この測定治具の軸方向位置を測定する軸方向位置測定手段とを有するため、円すいころ軸受の保持器ポケットすきま寸法を精度良く測定でき、その測定が容易で、構成が簡単である。
【0017】
この発明の円すいころ軸受の保持器ポケットすきま寸法測定方法は、円周方向複数箇所にポケットを有するリング状の保持器と、この保持器の各ポケットに保持された複数の円すいころとを備え、前記ポケットの外径縁の幅が前記円すいころの直径よりも狭い円すいころ軸受における、前記保持器と円すいころ間のすきまの寸法である保持器ポケットすきま寸法を測定する方法であって、前記円すいころ軸受から、前記保持器および円すいころでなる保持器・ころ組立体を取り出し、この保持器・ころ組立体の円すいころ列の内周に、テーパ状の外周面が各円すいころの転動面に接する測定治具を配置し、この測定治具の軸方向位置を測定し、その測定結果から前記保持器ポケットすきま寸法を求めるため、円すいころ軸受の保持器ポケットすきま寸法を精度良く測定でき、その測定が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1および図2に示す円すいころ軸受の保持器ポケットすきま寸法を測定する保持器ポケットすきま寸法測定装置について説明する。図1において、円すいころ軸受1は、内輪2と、外輪3と、これら内外輪2,3間に介在する複数個の円すいころ4と、円すいころ4を保持する保持器5とを備えている。内輪2は、外周に円すい面からなる軌道面2aが形成されたものであり、軌道面2aの大径側に大つば2b、小径側に小つば2cをそれぞれ有する。外輪3は、内周に内輪2の軌道面2aに対向する軌道面3aが形成されたものであり、つば無しとされている。円すいころ4は、外周が転動面4aとして形成され、上記両軌道面2a,3a間で転動自在となっている。各円すいころ4は、保持器5のポケット5a内に入れられ、円周方向に所定の間隔を隔てて保持されている。
図2に示すように、任意の断面において、保持器ポケット5aの外径縁の幅bは円すいころ4の直径dよりも狭く、円すいころ4が外径側へ抜けないようになっている。また、保持器5の柱部5bの内径側角部には、円すいころ4の外周面の接線とほぼ平行に面取り7が施されている。
【0019】
図3は、保持器ポケットすきま寸法測定装置の概略構成を示す図である。この保持器ポケットすきま寸法測定装置10は、上記円すいころ軸受1から円すいころ4および保持器5を取り出したものである保持器・ころ組立体11を支持する支持手段12と、この支持手段12に支持された保持器・ころ組立体11の円すいころ4列の内周に配置される測定治具13と、この測定治具13の軸方向位置を測定する軸方向位置測定手段14とを有する。
【0020】
この実施形態では、前記支持手段12は床面Fに設置された保持器載せ台であり、この保持器載せ台は、上面12aが水平に成形されている。保持器・ころ組立体11は、保持器5の小径側の端面5bが保持器載せ台の上面12aに接する状態で支持される。この支持状態において、各円すいころ4は、重力によって保持器5のポケット5aの小径側端に位置している。
【0021】
測定治具13は、下側が先細りになった円すい台状であり、その外周面13aが、保持器・ころ組立体11の各円すいころ4の転動面4aに接するテーパ状に形成されている。測定治具13の素材としては、比較的軽くて硬いセラミック等が適している。径が大きい保持器5の場合、測定治具13の径も大きくなる。径が大きい測定治具13は重量が重いので、その重みで保持器5がたわみ変形するおそれがある。測定治具13をセラミック等の軽くて硬い素材で作成すれば、測定治具13の強度を保ちつつ、保持器5への影響を軽減させることができる。
【0022】
軸方向位置測定手段14としては、例えばマイクロメータ、またはレーザ測長器等を使用することができる。軸方向位置測定手段14により測定治具13の軸方向位置を測定する手法としては、次の2つがある。1つは、図5(A)に示すように、予め保持器ポケットすきま寸法が分かっている保持器・ころ組立体の基準品11Aを用いて、測定治具13の軸方向基準位置l、例えば保持器5の小径側端と測定治具13の大径側端間の軸方向距離を測定しておき、その後、図5(B)に示すように、被測定品である保持器・ころ組立体11Bを用いて、測定治具13の前記基準品11Aに対する軸方向相対位置δを測定する手法である。この場合、軸方向基準位置lと軸方向相対位置δの和が測定治具の軸方向位置lになる(l=l+δ)。もう1つは、図6に示すように、被測定品である保持器・ころ組立体11Bを用いて、測定治具13の軸方向位置lを直接測定する手法である。
【0023】
図5の手法は、保持器・ころ組立体の基準品11Aが必要であるが、それ以外は測定治具13の外周面形状さえ正確に把握されていれば測定が行えるため、保持器ポケットすきま寸法測定装置10の設計等は簡便である。図6の手法は、保持器・ころ組立体の基準品11Aを作成する必要がないが、保持器ポケットすきま寸法測定装置10の各部の加工精度を高く保つ必要があるため、保持器ポケットすきま寸法測定装置10の設計や取扱いは前者に比べて難しい。これら2つの手法は、対象となる円すいころ軸受の種類や各種状況等に応じて使い分けるのが良い。
【0024】
この保持器ポケットすきま寸法測定装置10の原理を、図5の手法で測定治具13の軸方向位置を測定する場合を例にとって説明する。図4は、そのときの保持器ポケットすきま寸法測定装置10の部分拡大図である。ここでは、各円すいころ4の内接円径Diや外接円径Doの基準値と最大値の差の半分に相当する径方向の保持器ポケットすきま寸法Sを求める。
保持器5が中立位置にあるとき、すなわち円すいころ4を内輪2の軌道面2aおよび大つば2bに当てた状態に配置したうえで、保持器5を内輪2と同軸上で円すいころ4の小径側端面4bに当てた状態に配置したときに、内接円径Diおよび外接円径Doが基準値を示す。この中立位置から、保持器5を円すいころ4の小径側端面4bに押し当てたまま、転動面4aが保持器ポケット5aの内壁面に当たるまで円すいころ4を移動させると、内接円径Diおよび外接円径Doが最大値となる。
【0025】
仮に、被測定品である保持器・ころ組立体11の径方向の保持器ポケットすきま寸法Sは、保持器・ころ組立体の基準品(図示せず)の径方向の保持器ポケットすきま寸法よりもδだけ大きいとする。このとき、円すいころ4は、ポケット5aの内壁面との本来の接触位置15からδだけ外側へ移動した位置で、ポケット5aの内壁面と接触して静止している。この円すいころ4の移動に伴い、測定治具13は軸方向にδだけ移動しているとする。円すいころ4の移動量がδのとき、円すいころ4の鉛直方向(軸方向)および水平方向の移動量は、それぞれδsin(α+α)、δcos(α+α)である。ここで、αは円すいころ4の転動面4aのテーパ角、αは内輪1のテーパ角である。このとき、測定治具13の軸方向移動量δと円すいころ4の移動量δとは式1の関係がある。
【0026】
【数1】

【0027】
ただし、式1において、第1項は円すいころ4の軸方向移動による測定治具13の軸方向移動量、第2項は円すいころ4の水平方向移動による測定治具13の軸方向移動量である。これをδについて解くと、式2のようになる。
【0028】
【数2】

【0029】
また、円すいころ4の移動量δのうち、水平方向の移動量が径方向の保持器ポケットすきまの増分δに相当するので、式3の関係が成り立つ。
【0030】
【数3】

【0031】
これと式2より、δとδの関係式は式4の通りとなる。
【0032】
【数4】

【0033】
ここで、αとαは定数であるので、δとδは比例関係となる。この関係より、測定治具13の軸方向移動量δから、径方向の保持器ポケットすきまの増分δを計算することができる。例えば、α=2°、α=8.9528°である場合、δ=0.1529δとなり、測定治具13の軸方向移動量δは径方向の保持器ポケットすきまの増分δを6.5倍に増幅したものと言える。このように、増幅された測定治具13の軸方向移動量δを測定して径方向の保持器ポケットすきまの増分δを求めるため、径方向の保持器ポケットすきまSの寸法を精度良く測定することができる。被測定品である保持器・ころ組立体11の径方向の保持器ポケットすきま寸法Sは、保持器・ころ組立体の基準品(図示せず)の径方向の保持器ポケットすきま寸法に前記増分δを加算したものである。
【0034】
被測定品である保持器・ころ組立体11ごとに式2を用いて計算する代わりに、測定治具13の軸方向移動量δと径方向の保持器ポケットすきまの増分δとの関係を相関表(図示せず)に表示しておき、軸方向位置測定手段14により測定された測定治具13の軸方向移動量δを前記相関表で照合することにより、径方向の保持器ポケットすきまの増分δを求めるようにしてもよい。
また、図6の手法で測定治具13の軸方向位置を測定し、その測定結果から径方向の保持器ポケットすきま寸法を求めてもよい。
【0035】
径方向の保持器ポケットすきま寸法Sとポケット5の内壁面に対して垂直な保持器ポケットすきま寸法S(図2)との関係は、軸受や保持器5の形状に深く関係するために一般式化することは難しいが、径方向の保持器ポケットすきま寸法Sを求めることで、おおよその保持器ポケットすきま寸法Sを知ることができる。
【0036】
図7は測定治具13の異なる例を示す図であり、この測定治具13は、その外周面13aの母線が、円すいころ4の転動面4aに対して凸状とされている。通常、保持器5のポケット5aの形状は、円すいころ4の転動面4aのテーパ形状に合わせられており、ポケット5aの内壁面と円すいころ4の転動面4aは線接触する。そのため、円すいころ4に対して測定治具13が1点Pで当たりさえすれば、円すいころ4がポケット5aの内壁面に押し当てられた状態となる。したがって、外周面13aの母線が円すいころ4の転動面4aに対して凸状である測定治具13を使用することができる。測定治具13の外周面13aの母線が円すいころ4の転動面4aに対して凸状であれば、内輪2のテーパ角αが異なる円すい転がり軸受1についても、同じ測定治具13を使用して保持器ポケットすきま寸法を測定することができる。
【0037】
図8は、保持器ポケットすきま寸法測定装置の異なる実施形態を示す。この保持器ポケットすきま寸法測定装置10は、各円すいころ4を保持器5の小径側に押し付ける押付け手段16が設けられている。この例では、押付け手段16は、支持手段12に固定した支柱16aの上端と円すいころ4の大径側端面間に圧縮ばね16bを介在させたものである。押付け手段16を設けると、重力に関係なく、各円すいころ4が常に保持器5の小径側に押し付けられた状態になるので、保持器5の小径側が下側になるように保持器・ころ組立体11を支持手段12で支持する必要がない。言い換えれば、保持器ポケットすきま寸法測定装置10を任意の姿勢で使用することができる。
【0038】
図9は、保持器ポケットすきま寸法測定装置のさらに異なる実施形態を示す。この保持器ポケットすきま寸法測定装置10は、支持手段12としての保持器載せ台を、それぞれが配置を変更可能な複数の分割台12aからなるものとし、各分割台12a間に治具挿入空間17を設けたものである。治具挿入空間17には、外周面13aが各円すいころ4の転動面4aに接する測定治具13の、保持器5の小径側の端面5bよりも下方に突出する箇所が挿入される。支持手段12である保持器載せ台が治具挿入空間17を有すると、図に示されているような軸方向に長い測定治具13を使用することができる。測定治具13が軸方向に長いと、そのテーパ状外周面13aの径の変化幅を広くとることができるので、様々な径の保持器5について保持器ポケットすきま寸法Sの測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】円すいころ軸受の断面図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】この発明の実施形態にかかる保持器ポケットすきま寸法測定装置の概略構成を示す図である。
【図4】図3の部分拡大図である。
【図5】測定治具の軸方向位置を測定する第1の手法の説明図である。
【図6】測定治具の軸方向位置を測定する第2の手法の説明図である。
【図7】この発明の異なる実施形態にかかる保持器ポケットすきま寸法測定装置の部分拡大図である。
【図8】この発明のさらに異なる実施形態にかかる保持器ポケットすきま寸法測定装置の概略構成を示す図である。
【図9】この発明のさらに異なる実施形態にかかる保持器ポケットすきま寸法測定装置の概略構成を示す図である。
【図10】従来の保持器ポケットすきま寸法測定方法の説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1…円すいころ軸受
2…内輪
3…外輪
4…円すいころ
4a…転動面
5…保持器
5a…ポケット
10…保持器ポケットすきま寸法測定装置
11…保持器・ころ組立体
12…支持手段
13…測定治具
13a…外周面
14…軸方向位置測定手段
16…押付け手段
17…治具挿入空間
S…保持器ポケットすきま寸法
δ…径方向の保持器ポケットすきまの増分
δ…円すいころの移動量
δ…測定治具の軸方向移動量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向複数箇所にポケットを有するリング状の保持器と、この保持器の各ポケットに保持された複数の円すいころとを備え、前記ポケットの外径縁の幅が前記円すいころの直径よりも狭い円すいころ軸受における、前記保持器と円すいころ間のすきまの寸法である保持器ポケットすきま寸法を測定する装置であって、
前記円すいころ軸受から分離された前記保持器および円すいころでなる保持器・ころ組立体を支持する支持手段と、この支持手段に支持された前記保持器・ころ組立体の円すいころ列の内周に配置され、テーパ状の外周面が各円すいころの転動面に接する測定治具と、この測定治具の軸方向位置を測定する軸方向位置測定手段とを有することを特徴とする円すいころ軸受の保持器ポケットすきま寸法測定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記測定治具は、その外周面の母線が、前記円すいころの転動面に対して凸状である円すいころ軸受の保持器ポケット寸法測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記円すいころを、前記保持器の小径側に押し付ける押付け手段を設けた円すいころ軸受の保持器ポケット寸法測定装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記測定治具はセラミックで作成されている円すいころ軸受の保持器ポケット寸法測定装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記支持手段として、前記保持器・ころ組立体を、その保持器の小径側の端面に接する状態で載せる保持器載せ台を備え、この保持器載せ台は、前記各円すいころの転動面に接する測定治具の、前記保持器の小径側の端面よりも突出する箇所が挿入される治具挿入空間を有する円すいころ軸受の保持器ポケット寸法測定装置。
【請求項6】
円周方向複数箇所にポケットを有するリング状の保持器と、この保持器の各ポケットに保持された複数の円すいころとを備え、前記ポケットの外径縁の幅が前記円すいころの直径よりも狭い円すいころ軸受における、前記保持器と円すいころ間のすきまの寸法である保持器ポケットすきま寸法を測定する方法であって、
前記円すいころ軸受から、前記保持器および円すいころでなる保持器・ころ組立体を取り出し、この保持器・ころ組立体の円すいころ列の内周に、テーパ状の外周面が各円すいころの転動面に接する測定治具を配置し、この測定治具の軸方向位置を測定し、その測定結果から前記保持器ポケットすきま寸法を求めることを特徴とする円すいころ軸受の保持器ポケットすきま寸法測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−229190(P2009−229190A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73816(P2008−73816)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】