説明

円偏波複合モノポールアンテナ

【課題】給電素子と無給電素子と接地板との組み合わせにより、円偏波或いはこれに近似する偏波を発生させる。
【解決手段】給電素子と、無給電素子と、接地板とを有しており、前記給電素子と前記接地板との間に、送受信用電力を給電・受電する。前記無給電素子は、前記接地板に電気的に接続されている。前記給電素子と前記無給電素子とが電磁結合することにより、前記給電素子に流れる電流に対する前記無給電素子に流れる電流の位相遅れが同一面内に生じさせ、円偏波或いはこれに近似する偏波を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電素子と無給電素子との組み合わせにより円偏波或いはこれに近似する楕円偏波を励起する円偏波複合モノポールアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
GPSを使って情報の遣り取りを行うものとして例えばカーナビや携帯電話が普及している。前記カーナビは自動車に搭載されて自動車の運行に伴って位置移動をする特性を有しており、携帯電話はユーザの行動に伴って位置移動する特性を有している。
【0003】
前記カーナビや前記携帯電話による情報の授受には円偏波を用いることが有効である。前記円偏波を発生させるアンテナとしてはヘリカルアンテナが一般的であるが、前記ヘリカルアンテナは、導線を筒状に巻き付けることにより円偏波を発生させている。したがって、前記ヘリカルアンテナでは、横向きで使用する場合、横方向の寸法が必要であり、縦向きで使用する場合、縦方向の寸法が必要であり、いずれでの使用でもその寸法が問題となる。
【0004】
ヘリカルアンテナの問題を解決する低姿勢のアンテナとして、特許文献1,特許文献2及び特許文献3に開示されたような円偏波アンテナが開発されている。
【特許文献1】特開2000−86885号公報
【特許文献2】特開昭59−75704号公報
【特許文献3】特開昭58−182305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された円偏波アンテナは、2本のアンテナ素子を略V字状に配置し、それらのアンテナ素子にそれぞれ給電を行うことにより、円偏波を励起させるものであるが、2本のアンテナ素子にそれぞれ給電を行うものであるため、給電構造が複雑になるという課題がある。
【0006】
特許文献2に開示された円偏波アンテナは、位相器を用いることにより2本のアンテナ素子に給電される電流位相差を持たせて円偏波を励起するものであるが、アンテナ素子へ給電を行う際に位相器による位相差を持たせるため、給電構造が複雑になるという課題がある。
【0007】
特許文献3に開示された円偏波アンテナは、特許文献1と同様に2本のアンテナ素子にそれぞれ給電を行うことにより、円偏波を励起するものであるため、特許文献1と同様な課題を有している。
【0008】
本発明の目的は、給電素子と無給電素子との組み合わせにより円偏波或いはこれに近似する楕円偏波を発生させる円偏波複合モノポールアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明に係る円偏波複合モノポールアンテナは、給電素子と、無給電素子と、接地板とを有し、
前記給電素子と前記接地板との間に、送受信用電力を給電・受電するものであり、
前記無給電素子は、前記接地板に電気的に接続され、前記給電素子と前記無給電素子とが電磁結合することにより、前記給電素子に流れる電流に対する前記無給電素子に流れる電流の位相遅れが同一面内に生することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、給電素子にのみ給電を行い、給電素子と無給電素子とを電磁結合させることにより、前記給電素子に流れる電流に対する前記無給電素子に流れる電流の位相遅れを同一面内に生じさせ、円偏波或いは軸比が1に近似した偏波を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。
【0012】
本発明の実施形態に係る円偏波複合モノポールアンテナは図1に示すように、基本的な構成として、給電素子1と、無給電素子2と、接地板5とを組み合わせ、接地板5と給電素子1との間に送受信電力を給電・受電するものである。送信アンテナとして用いる場合、接地板5と給電素子1との間に点3から送信用電力を給電している。また、受信アンテナとして用いる場合、接地板5と給電素子1との間から受信用電力を取り出している。以下の説明では、送信アンテナとして用いる場合を例にとって説明する。すなわち、前記例では、点3は給電点として作用し、接地板5と給電素子1との間に送信用電力を給電し、給電素子1と無給電素子2とが電磁結合することにより、給電素子1に流れる電流に対する無給電素子2に流れる電流の位相遅れを同一面内に生じ、円偏波或いは軸比が1に近似した偏波(以下、これらの偏波を円偏波という)が発生する。なお、受信アンテナとして用いた場合でも、給電素子1と無給電素子2とが電磁結合することにより、給電素子1に流れる電流に対する無給電素子2に流れる電流の位相遅れを同一面内に生じる点においては、送信アンテナと同様である。
【0013】
次に、本発明の実施形態を具体例に基づいてさらに詳細に説明する。図1に示すように、例えばシリコン基板のような板状の誘電体6の下面6aに接地板5を形成する。図1において、接地板5が斜線で示しており、その接地板5が導電体で形成されている。
【0014】
給電素子1と無給電素子2とは逆L型に折り曲げて形成している。給電素子1の立ち上がり辺1aと、無給電素子2の立ち上がり辺2aとが、誘電体6の接近した図示しないスルーホールを上下方向に貫通して接地板5に至る位置まで延長している。そして、無給電素子2の下端2bが接地板5に電気的に接続されている。また、給電素子1の下端1bは、接地板5の貫通孔7に通して接地板5との間が電気的に絶縁されている。
【0015】
さらに、給電素子1の屈曲辺1cと、無給電素子2の屈曲辺2cとが誘電体6の上面に沿わせて配置されており、前記屈曲辺1c,2c同士が開き角θをもってハ字状に向きを変えて配置されている。また、接地板5は、給電素子1及び無給電素子2の後方に配置してある。
【0016】
図1では、給電素子1の立ち上がり辺1aと屈曲辺1cとによるアンテナ素子として実効な範囲を太線で示しており、その実効有効長をL1に設定している。同様に、無給電素子2の立ち上がり辺2aと屈曲辺2cとによるアンテナ素子として実効な範囲を太線で示しており、その実効有効長をL2に設定している。本発明の実施形態では、給電素子1の実効有効長L1を1/4λ(λ;使用波長)或いはその近傍に設定している。理論上の実効有効長L1は1/4λであるが、許容される製造公差を考慮した場合、1/4λを中心として±数%の範囲に変動するため、1/4λ或いはその近傍として実効有効長L1を特定している。
【0017】
また、無給電素子2の実効有効長L2は、給電素子1の実効有効長L1より短く設定している、すなわちL2≦L1の関係に設定している。実効有効長L1,L2の関係をシミュレーションにより求めた結果では、開き角θが54°の場合、実効有効長L1×0.94=実効有効長L2(L2<L1)となった。このシミュレーションの結果、無給電素子2の実効有効長L2は給電素子1の実効有効長L1より短い、すなわち、給電素子1の屈曲辺1cと無給電素子2の屈曲辺2cとの開き角θとの関係でL2≦L1の関係に設定することが望ましいとの結論を得た。上記のように設定することで、給電素子1と無給電素子2とが電磁結合することにより、給電素子1に流れる電流に対する無給電素子2に流れる電流の位相遅れを同一面内に生じるというシミュレーションの結果を得ている。なお、前記位相遅れは、90°或いは90°に近似した遅れ量である。
【0018】
前記給電素子1と前記無給電素子2とが逆L型に屈曲してあるため、立ち上がり辺1a,2aに対して横向きの長さが長くなり、全体として低姿勢を保持している。
【0019】
次に、本発明の実施形態において、前記給電素子1及び前記無給電素子2と前記接地板5との組み合わせにより円偏波或いは楕円偏波が発生することを検証する。
【0020】
給電素子1に対して1本の無給電素子2を用いる例をシミュレーションにより求め、電界ベクトルの先端の軌跡を図4に示す。図4のシミュレーションでは、給電素子1と無給電素子2との開き角θを54°、給電素子1の実効有効長L1を1/4λ(λ;使用周波数)に設定し、無給電素子2の実効有効長L2をL1×0.94に設定している。この場合、軸比は1.23(約1.8dB)である。
【0021】
図4から明らかなように、給電素子1と無給電素子2とを使って電磁波を発生させると、楕円偏波であることが明らかになった。このシミュレーションの結果からして、本発明の実施形態では、前記給電素子1及び前記無給電素子2と前記接地板5との組み合わせにより、円偏波が発生することが検証された。
【0022】
次に、図4に示したシミュレーションの結果に基づいて、図1に示す構成の円偏波複合アンテナを構築して、その偏波特性を実測した。その実測結果を図3に示す。図3に示す偏波特性は、図4に示す電界ベクトルの先端の軌跡に対応するものであり、図3に示す実測の場合、電界ベクトルそのものではなく、送信アンテナのビームの先端を見ている。
【0023】
図3では、給電素子1と無給電素子2との開き角θを45°、給電素子1の実効有効長L1を約1/4λ、使用周波数λを1.9GHzに設定し、無給電素子2の実効有効長L2をL1=L2(約1/4λ)に設定している。この場合、軸比は約5dBである。
【0024】
図3において、符号T1で示す偏波特性は、送信アンテナの正面に対して25°の角度で実測したものであり、符号T2で示す偏波特性は、送信アンテナの正面に対して45°の角度で実測したものであり、符号T3で示す偏波特性は、送信アンテナの正面に対して65°の角度で実測したものである。
【0025】
図3に示す偏波特性からして、本発明の実施形態に係るアンテナは円偏波アンテナとして機能していることが検証できた。
【0026】
以上説明したように本発明の実施形態によれば、給電素子と無給電素子とが電磁結合することにより、前記給電素子に流れる電流に対する前記無給電素子に流れる電流の位相遅れが同一面内に生じ、円偏波或いはこれに近似した偏波を発生させることができ、円偏波アンテナとして用いることができる。
【0027】
さらに本発明の実施形態によれば、給電素子と無給電素子とを電磁結合させる構成であるため、給電構造を単純化することができ、しかも電流に位相差を持たせる位相器も不要であるため、全体構造を簡素化することができる。
【0028】
また、前記給電素子と前記無給電素子とを折り曲げて低姿勢に保持することにより、アンテナの高さ方向での寸法を極力低くすることができる。さらに、各素子の一部を立ち上げることにより、横方向に張り出す素子の長さを短縮することができ、横方法及び縦方向での寸法を可及的に小さくすることができる。
【0029】
また、接地板が給電素子及び無給電素子の後方に配置してあるため、接地板が反射板としてきのうすることにより、送信特性及び受信特性を改善できる。
【0030】
以上の説明では、給電素子1に対して1本の無給電素子2を用いた例を説明したが、無給電素子2の本数は1本に限られるものではない。無給電素子2の本数を増やした例を図5及び図6に基づいて説明する。
【0031】
図5に示す例では、前記給電素子1と前記無給電素子2との間に他の無給電素子4を介在させて3素子とし、前記誘電素子1と前記無給電素子4との間を電磁結合させ、さらに前記無給電素子4と前記無給電素子2との間を電磁結合させることにより、前記給電素子1に流れる電流に対する前記無給電素子2,4にそれぞれ流れる電流の位相遅れを同一面内に生じさせている。
【0032】
3素子による電界ベクトルの先端の軌跡をシミュレーションした結果を図6に示す。シミュレーションでは、給電素子1と無給電素子4との開き角θ1を約74°、給電素子1と無給電素子2との開き角θ2を約90°にそれぞれ設定している。さらに、給電素子1と無給電素子2との実効有効長L1,L2を約1/4λ(λ;使用周波数)、無給電素子4の実効有効長L3をL1(L2)×0.9にそれぞれ設定している。この場合、軸比は約2.1dBである。
【0033】
図6から明らかなように、給電素子1と無給電素子2及び4とを使って電磁波を発生させると、楕円偏波であることが明らかになった。このシミュレーションの結果からして、本発明の実施形態では、前記給電素子1及び前記無給電素子2,4と前記接地板5との組み合わせにより円偏波が発生することが検証された。
【0034】
図6から明らかなように、給電素子と無給電素子との開き角及び長さに加えて、無給電素子の本数を変化させることにより、前記位相遅れを調整できるものである。
【0035】
なお、図5においては、給電素子1と2本の無給電素子2,4との3素子としたが、これに限られるものではない。シミュレーションの結果、給電素子1と無給電素子2との間に介在させる無給電素子4は、1以上の本数であってもよいことが分かっている。なお、素子同士を電磁結合した際のロス等を考慮すると、介在させる無給電素子の本数は1本であることが望ましいものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、給電構造が簡素化され低姿勢化も可能であり、例えばモバイル端末のような情報の授受を行う機器に幅広く適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る円偏波複合モノポールアンテナを示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に断面図である。
【図3】図1に示す円偏波複合モノポールアンテナの偏波特性を実測した特性図である。
【図4】図1に示す円偏波複合モノポールアンテナをシミュレーションした結果を示す特性図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る円偏波複合モノポールアンテナを示す斜視図である。
【図6】図5に示す円偏波複合モノポールアンテナをシミュレーションした結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0038】
1 給電素子
2,4 無給電素子
3 点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電素子と、無給電素子と、接地板とを有し、
前記給電素子と前記接地板との間に、送受信用電力を給電・受電するものであり、
前記無給電素子は、前記接地板に電気的に接続され、
前記給電素子と前記無給電素子とが電磁結合することにより、前記給電素子に流れる電流に対する前記無給電素子に流れる電流の位相遅れが同一面内に生じることを特徴とする円偏波複合モノポールアンテナ。
【請求項2】
前記給電素子と前記無給電素子との開き角と、前記給電素子と前記無給電素子との長さとにより、前記位相遅れを調節する請求項1に記載の円偏波複合モノポールアンテナ。
【請求項3】
前記給電素子と前記無給電素子との間に他の無給電素子を介在させ、前記素子間を電磁結合させて前記位相遅れを調節する請求項1に記載の円偏波複合モノポールアンテナ。
【請求項4】
前記給電素子の実効有効長を、1/4λ(λ;使用周波数)或いはその近傍の長さに設定し、前記無給電素子の実効有効長を、前記給電素子の実効有効長より短く設定した請求項1に記載の円偏波複合モノポールアンテナ。
【請求項5】
前記給電素子と前記無給電素子とを逆L型に折り曲げて低姿勢に保持した請求項1に記載の円偏波複合モノポールアンテナ。
【請求項6】
前記接地板を前記給電素子及び前記無給電素子の後方に配置した請求項1に記載の円偏波複合モノポールアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−225068(P2009−225068A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66864(P2008−66864)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】