説明

円筒体の面取り装置及び面取り方法

【課題】 円筒状永久磁石などの円筒体を面取りする際に用いられる砥石の寿命を延ばし、加工費を低減することのできる円筒体の面取り装置及び面取り方法を提供すること。
【解決手段】 円筒状永久磁石11の面取りをする面取り装置10であって、円筒状永久磁石11の一方端面12が台座面13に接するように円筒状永久磁石11を載置する台座14と、円筒状永久磁石11を台座14の所定位置に固定する凹部15と、所定位置に固定された円筒状永久磁石11の中心軸X1と同一軸上にその回転軸X2が位置している状態で、円筒状永久磁石11の他方端面16の周縁17を面取りする円板状砥石18と、円筒状永久磁石11と台座14により形成される円筒状永久磁石11の内部空間19に研削液20を供給する供給管21とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば円筒状永久磁石やリング磁石などの円筒体の面取り装置及び面取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にモータ等に用いられる円筒状の永久磁石の内外周縁には、表面処理の皮膜の膜厚を均一にするためや、モータの組み立ての際にモータ軸を案内しかつモータ軸との接触による欠けを防止するために、面取り面が形成されている。このような面取り加工をする際には、種々の形状をした砥石が用いられている(特許文献1〜3)。
上述した面取り加工に使用される砥石には、加工時の温度上昇などの負荷、被研削物や砥粒の目詰まりによる砥石の摩滅などを主たる要因として、その寿命が短くなるという問題があった。
このため、砥石の長寿命化などを目的として、加工時に砥石と被加工物の接触面(研磨面)に冷却液をかけ、砥石の温度上昇や砥石の目詰まりを防ぐ技術が提案されている(特許文献4〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001―179580号公報
【特許文献2】特開2008−238278号公報
【特許文献3】特開2008−246627号公報
【特許文献4】特開平7−328922号公報
【特許文献5】特開平10−305421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3には砥石を用いた面取り方法が記載されているが、被加工物の接触面(研磨面)に冷却液をかける手段については記載されていない。
特許文献4には、砥石面に研削液を吹きかけて、砥石の回転による巻き付け作用により、加工面に効率的に研削液を供給する方法が開示されている。この方法は、砥石の摩耗やドレッシングなどにより砥石径が減少した場合でも、研削液の巻き付け作用を安定的に持続させることを目的として、被加工物と一定距離を維持したままの状態で取付けられた研削液供給口から研削液を供給するものである。
しかしこの方法では、円筒状の被加工物の内周縁を面取り加工することが困難である。また、研削液が一方向(砥石の回転方向)からしか供給されないので、円筒状の被加工物の内外周縁に研削液を効率的に供給することができないという問題がある。
特許文献5には、研削工具の外部から研削液を供給した場合に発生する、砥石部と被加工物との当接部に存在すべき研削液が弾けて飛び散るウォータープレーニング現象の防止を目的として、砥石の研削面に穴を開け、砥石内部から穴を介して砥石の研削面と被加工物の被研削面に直接研削液を供給する方法が開示されている。
しかしこの方法では、砥石自体に研削液を排出する穴を開ける必要があることからコストアップとなる。さらに、穴を設けることで砥石の強度や寿命が短くなるという問題もある。
そこで本発明は、研削液を円筒状の被加工物の被加工面の全体に供給することにより、円筒状の永久磁石などの面取りをする際に用いられる砥石の寿命を延ばし、面取りに要する加工費を低減することのできる円筒体の面取り装置及び面取り方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の本発明の円筒体の面取り装置は、円筒体の面取りをする面取り装置であって、前記円筒体の一方端面が台座面に接するように前記円筒体を載置する台座と、前記円筒体を前記台座の所定位置に固定する支持部と、前記所定位置に固定された前記円筒体の中心軸と同一軸上にその回転軸が位置している状態で、前記円筒体の他方端面の周縁を面取りする円板状砥石と、前記円筒体と前記台座により形成される前記円筒体の内部空間に研削液を供給する供給管とを備えていることを特徴とする。
上記の構成によれば、円筒体の内部空間に研削液を供給し内部空間が研削液で満たされた状態とし、さらに研削液を供給しながら円板状砥石で面取りすることにより、円筒体の他方端面における周縁と円板状砥石との接触面を通過して、円筒体内側から外側に噴出する研削液の流れを形成することができるので、円筒体の他方端面に研削液を確実に供給することができる。また、円筒体を回転させることなく、固定したまま他方端面の周縁全体に研削液を供給することができる。
請求項2記載の本発明は、請求項1記載の本発明の円筒体の面取り装置において、前記円筒体が、円筒状永久磁石であることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2記載の円筒体の面取り装置において、前記円板状砥石は円錐台形状であり、前記円筒体の前記他方端面の内周縁を面取りすることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1又は請求項2記載の円筒体の面取り装置において、前記円板状砥石はカップ形状であり、カップの内周面は底部側から開口部側へ外開きの形状を有し、前記円筒体の前記他方端面の外周縁を面取りすることを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項1又は請求項2記載の円筒体の面取り装置において、前記円板状砥石は前記円筒体の前記他方端面との対向面に円周状の溝を有し、前記円筒体の前記他方端面の内周縁及び外周縁を面取りすることを特徴とする。
上記の構成によれば、他方端面の内周縁及び外周縁を同時に面取りできるから、作業効率を向上させることができる。
請求項6記載の本発明は、請求項3乃至請求項5のいずれかに記載の円筒体の面取り装置において、前記溝の断面は前記円筒体の前記周縁に接する部分が直線状であることを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項3乃至請求項5のいずれかに記載の円筒体の面取り装置において、前記溝の断面は前記円筒体の前記周縁に接する部分が曲線状であることを特徴とする。
【0006】
請求項8記載の本発明の円筒体の面取り方法は、円板状砥石により円筒体の面取りをする方法であって、前記円筒体の一方端面と台座面とが接するように前記円筒体を台座に載置する載置工程と、前記一方端面と前記台座面とが接した状態で、前記円筒体を前記台座の所定位置に固定する固定工程と、前記円筒体と前記台座により形成される前記円筒体の内部空間に研削液を供給しながら、前記内部空間が前記研削液で満たされた状態において、前記円筒体の他方端面の周縁を前記円板状砥石により面取りする面取り工程とを備えることを特徴とする。
上記の構成によれば、円筒体の内部空間に研削液を供給し内部空間が研削液で満たされた状態とし、さらに研削液を供給しながら円板状砥石で面取りすることにより、円筒体の他方端面の全体に研削液を確実に供給することができる。また、円筒体の他方端面における周縁と円板状砥石との接触面を通過して、円筒体内側から外側に噴出する研削液の流れを形成することができるので、円筒体の他方端面に研削液を確実に供給することができる。
請求項9記載の本発明は、請求項8記載の円筒体の面取り方法において、前記円筒体が円筒状永久磁石であることを特徴とする。
請求項10記載の本発明は、請求項8又は請求項9記載の円筒体の面取り方法において、研削液を台座に設けられた供給口から供給することを特徴とする。
上記の構成によれば、簡易な構成により内部空間に研削液を供給することができる。
請求項11記載の本発明は、請求項8乃至請求項10のいずれかに記載の円筒体の面取り方法において、前記台座、前記一方端面及び前記他方端面を水平とすることを特徴とする。
上記の構成によれば、内部空間に研削液を供給する圧力が低くても、他方端面の周縁に研削液を均一に行き渡らせることができる。
請求項12記載の本発明は、請求項8乃至請求項11のいずれかに記載の円筒体の面取り方法において、研削液を0.05MPa以上0.50MPa以下の範囲内の圧力で供給することを特徴とする。
上記の構成によれば、円筒体内側から外側に噴出する研削液の流れを、円筒体の他方端面において生じた研削屑などを排出するために適したものとすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の円筒体の面取り装置及び面取り方法によれば、円筒体内側から外側に噴出する研削液の流れを形成することができる。そのため、円筒体の他方端面の全体に研削液を確実に供給することができるから、円板状砥石が高温となることを抑制することができる。また、円筒体の他方端面と円板状砥石との接触面から面取りの際に生じた円筒体の研削屑などを排除し、砥石の目詰まりを抑制することができる。したがって、温度上昇及び目詰まりを原因とする性能劣化を抑制して、円板状砥石の寿命を延ばすことができ、面取りに要する加工費を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態による面取り装置の一例の概要を示す断面図
【図2】本発明の実施形態による面取り装置の他の一例の概要を示す断面図
【図3】本発明の実施形態による面取り装置の他の一例の概要を示す断面図
【図4】本発明の実施形態による面取り装置の他の一例の概要を示す断面図
【図5】図4にAで示した領域の拡大断面図
【図6】図5にAで示した領域を模式的に示した拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の円筒体の面取り装置又は面取り方法を実施する形態について、以下、具体的な実施例を示す図1〜6を参酌しつつ説明する。
図1は、本発明の実施形態による面取り装置の一例の概要を示す断面図である。同図に示す面取り装置10は、円筒状永久磁石11の面取りをするものであって、その一方端面12が台座面13に接するように載置する台座14と、円筒状永久磁石11を台座14の所定位置に固定する支持部としての凹部15と、所定位置に固定された円筒状永久磁石11の中心軸X1と同一軸上にその回転軸X2が位置している状態で、円筒状永久磁石11の他方端面16の周縁17を面取りする円板状砥石18と、円筒状永久磁石11と台座14により形成される円筒状永久磁石11の内部空間19に研削液20を供給する供給管21とを備えている。
【0010】
円筒状永久磁石11は、面取り装置10により面取りがなされる円筒体の一例である。円筒状永久磁石11が、Nd−Fe−B系焼結磁石の場合、電気メッキや電着塗装によりその表面に形成される膜を均一にするために面取り工程により周縁17の面取りがなされる。周縁17を面取りすることにより、電気メッキにより円筒状永久磁石11表面に形成された膜が周縁17において他の領域より厚くなることを防止することができる。また、電着塗装により円筒状永久磁石11表面に形成された膜が、後に加熱される際、周縁17において他の領域より薄くなることを防止することができる。さらに、欠けが発生し易い周縁17を面取りしておくことにより、円筒状永久磁石11に欠けが生じる問題をも抑制することができる。
【0011】
円筒状永久磁石11の一方端面12と台座面13とが接するように円筒状永久磁石11を台座14に載置する(載置工程)。図1に示した面取り装置10では、台座面13が一方端面12の全面と接するようにしている。円筒状永久磁石11の一方端面12には予め研削加工が施されているため、台座面13と一方端面12との接触面から研削液20が外部に漏れることはほとんどない。このため、研削液20を供給することにより、内部空間19を研削液20で満たすことができる。なお、台座面13は、一方端面12の全面において接する必要は無く、研削液20の漏れを防止することができる程度の領域において接していれば良い。すなわち、他方端面16が円板状砥石18により覆われておりかつ内部空間19が研削液20により満たされている状態で供給管21から研削液20を内部空間19にさらに供給した場合に、研削液20を他方端面16側から円筒状永久磁石11の外部に噴出させるのに十分な程度に一方端面12と台座面13とが接していれば良い。
【0012】
上記載置工程の後に、一方端面12と台座面13とが接した状態で、円筒状永久磁石11を台座14の所定位置に固定する(固定工程)。ここで、「所定位置」とは円筒状永久磁石11の中心軸X1と円板状砥石18の回転軸X2とが一致する位置をいう。図1に示した面取り装置10では、台座14は、円筒状永久磁石11を載置するための支持部としての凹部15を備えている。凹部15に円筒状永久磁石11を載置することにより、円筒状永久磁石11の中心軸X1と円板状砥石18の回転軸X2とが一致する位置に、円筒状永久磁石11を固定することができる。また、台座面13の円形の凹部15の中心に、台座面13を貫通するようにして研削液20を供給する供給管21が設置されている。
上記のように円筒状永久磁石11を固定することにより、円筒状永久磁石11の中心軸X1と円板状砥石18の回転軸X2とを一致させるための調整を非常に容易に行うことができる。したがって、調整工程の容易化により、面取り工程に要するコストを低減することができる。なお、支持部は、図1においては凹部15のような構成としたが、円筒状永久磁石11の中心軸X1と円板状砥石18の回転軸X2とが一致する位置に支持できればその構成は特に問わない。例えば、円筒状永久磁石11の一方端面12と台座面13とが接した状態で、V溝を有するブロックなどで円筒状永久磁石11の外周面を両側から挟持するような構成としてもよい。
【0013】
他方端面16は、周縁17が円板状砥石18により面取りされる側の円筒状永久磁石11の端面である。なお、本発明では、円筒状永久磁石11の両端面のうち、台座14に載置される側を一方端面12、円板状砥石18により面取りされる側を他方端面16として特定している。円筒状永久磁石11の上下を逆にして両端面を連続して面取りする場合、最初の面取り工程において一方端面12であったものが、後の面取り工程においては他方端面16となる。
周縁17は、他方端面16の内周縁及び外周縁をいう。本実施例では、円板状砥石18は、他方端面16との対向面に円周状の溝22を有しており、円筒状永久磁石11の周縁17の内周縁及び外周縁を同時に研削することができる。また、円板状砥石18は円板状であり、その回転軸X2が円筒状永久磁石11の中心軸X1と同心軸で回転するものであるから、他方端面16の内周縁及び外周縁を同時に均一に面取りすることができる。なお、図1においては、溝22が断面三角であるものを用いているが、溝22の形状は、周縁17の内周縁及び外周縁を同時に面取りすることができればよい。例えば、溝22の断面において、円筒状永久磁石11の他方端面16における内周縁及び外周縁に接する部分が直線状であるもの、すなわち、溝22の断面形状が三角や台形などであるもの、あるいは、円筒状永久磁石11の他方端面16における内周縁及び外周縁に接する部分が凸状または凹状の曲線状であるもの、すなわち、溝22の断面形状が図4に示すような弧状であるものなどを用いることができる。曲線状の場合は、後の工程において塗装膜の厚みをより均一にして、円筒状永久磁石11の耐食性を向上させる効果を考慮すると、図4に示すような凹状の弧状が好ましい。直線状の場合及び曲線状の場合ともに、溝22の開き角(テーパ角)は得ようとする面取り形状などにより適宜選定すればよい。ここで、「断面」とは、円板状砥石をその回転軸と平行な面で切断したときの断面をいう。断面における溝に相当する部分の形状が三角形であることを溝の断面形状が三角であるという。また、断面における溝に相当する部分の形状が、例えば半円形、半楕円形等のような曲線で構成された形状であることを溝の断面形状が弧状であるという。
【0014】
面取り工程における円板状砥石18の回転数は、面取り加工の対象とする円筒状永久磁石11のサイズに対応させて適切な回転数とすれば良いが、通常、1000〜7000rpmの範囲内で調整される。
なお、図1には内周縁及び外周縁を同時に面取り加工することができる円板状砥石18を示したが、円板状砥石はこれに限定されるものではない。例えば、円板状砥石18以外のものとしては、図2に示した円錐台形状の円板状砥石28、図3に示したカップ形状であり、カップの内周面は底部側から開口部側へ外開きの形状を有する円板状砥石38などが挙げられる。なお、円板状砥石28によれば他方端面16の内周縁17aのみが面取り加工され、円板状砥石38によれば他方端面16の外周縁17bのみが面取り加工されることとなる。図2に示した円錐台形状の円板状砥石28及び図3に示したカップ形状の円板状砥石38のいずれの場合においても、図1に示す円板状砥石18の場合と同様に、円筒状永久磁石11の周縁17に接する部分は直線状であっても曲線状であってもよい。
【0015】
内部空間19とは、円筒状永久磁石11の内側面と台座14の台座面13により形成される空間をいう。他方端面16を円板状砥石18で覆った状態で、供給管21から研削液20を供給することにより、内部空間19を研削液20により満たすことができる。そして、内部空間19が研削液20により満たされた状態で、供給管21から研削液20をさらに供給することにより、他方端面16と円板状砥石18との接触面を通過させて円筒状永久磁石11の外部に研削液20を噴出させることができる。
このように、円筒状永久磁石11と台座面13により形成される内部空間19に研削液20を供給しながら、円筒状永久磁石11の他方端面16の周縁17を円板状砥石18により面取りする(面取り工程)。この面取り工程により、通常、0.2mm〜1.5mm程度の幅で周縁17の面取りがなされる。
なお、上記においては、他方端面16を円板状砥石18で覆った状態で、供給管21から研削液20を供給したが、内部空間19に研削液20を供給し、内部空間19が研削液20で満たされた後、他方端面16を円板状砥石18で覆っても良い。すなわち、円板状砥石18が回転し面取り加工が開始された時点で内部空間19が研削液20で満たされており、研削液20が他方端面16と円板状砥石18との接触面を通過して円筒状永久磁石11の外部に研削液20が噴出される状態であれば良い。
なお、「他方端面16を円板状砥石18で覆った状態」とは、他方端面16の内周縁及び/又は外周縁が円板状砥石18の砥石面と接するように、他方端面16が円板状砥石18により覆われている状態をいう。この状態において、内部空間19にさらに研削液20を供給することにより、研削液20を他方端面16と円板状砥石18との接触面を通過させて円筒状永久磁石11の外部に研削液20を噴出させることができる。
また、一方端面12、台座面13及び他方端面16は水平となっているから、内部空間19に研削液20を供給する圧力が低くても、他方端面16の周縁17の全体に研削液20を均一に行き渡らせることができる。
【0016】
研削液20は、供給管21から一定の圧力で円筒状永久磁石11の内周面側に突出するように供給される。供給管21から内部空間19に研削液20を供給する際の圧力は、
供給管21の配管途中における測定値が、0.05MPa以上であることが好ましく、0.10MPa以上であることがより好ましく、0.15MPa以上であることがさらに好ましい、また、0.50MPa以下であることが好ましく、0.35MPa以下であることがより好ましく、0.25MPa以下であることがさらに好ましい。
0.05MPa以上の圧力とすることが、他方端面16から研削液20を噴出させて、研削液20を効率良く供給するために好適であり、0.50MPa以下とすることが、内部空間19の圧力により、円筒状永久磁石11が損傷することを防止するために好適である。これによって、面取り工程において生じた研削屑などを研削液20の流れによって排出する効率を良好なものとすることができ、円板状砥石18の目詰まりを効果的に防止することができる。また、円板状砥石18の砥粒よりもサイズの大きな研削屑が生じた場合であっても、研削液20により即時に排出して、当該研削屑が円筒状永久磁石11の面取り面に悪影響を及ぼすことを防止することができるという効果が得られる。また、0.15MPa以上0.25MPa以下の範囲内とすると、上記効果をより一層向上させることができ、好ましい。
【0017】
研削液20は、面取り工程において、円板状砥石18が高温になることを防止するものであるが、円筒状永久磁石11に錆が生じることを防止するために水に水溶性防錆油が添加された水溶液が用いられる。用いられる水溶性防錆油としては、一般的に用いられているものを用いることができ、特に限定されるものではない。なお、研削液20は、濾過されながら、回収、分離、再利用というサイクルを経て繰り返し使用すると製造コストの低減につながる。
【0018】
図4は、溝42が断面弧状である円板状砥石48を備えた面取り装置40の断面図を示している。図4の二点鎖線で囲った部分Aの拡大断面図を図5に示す。そして、図5の二点鎖線で囲った部分Aを模式的に示した拡大断面図を図6に示す。これらの図では、図1で説明した部材と同じものについては同じ番号を付し、説明を省略する。図5、図6に示すように、断面弧状すなわち円筒状永久磁石11の周縁17に接する部分が曲面状である溝42を備えた円板状砥石48を用いることにより、面取りにより周縁17を滑らかな面とすることができ、面取りされた円筒状永久磁石11の周縁17が弧を描く。このため、後の工程において周縁17に形成される膜の厚みをより均一にすることが可能となるから、塗装後の耐食性が良い。
円板状砥石48の円筒状永久磁石11の外周縁17bと対向する砥石表面43には、砥粒の結合層44により砥粒45が固着されている。結合層44及び砥粒45は、円板状砥石48用として通常用いられているものを用いれば良い。結合層44としては、ニッケルメッキが好ましいが、他に、セラミック層などを用いることもできる。また、砥粒45の材質としては、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(CBN)、炭化ケイ素(SiC)、アルミナ(Al)などが挙げられる。
本発明によれば、円板状砥石48の砥石表面43に効率的に研削液20を供給することによりその温度上昇を抑制することができるから、温度上昇に伴う硬度低下が著しいダイヤモンドよりなる砥粒45を備えた円板状砥石48の長寿命化に特に有効である。また、砥粒45の粒度は特に限定されないが、例えば円筒状永久磁石11がNd−Fe−B系焼結磁石の場合の面取り加工には、80〜170メッシュ程度のものが用いられ、120〜140メッシュ程度のものが好ましく用いられる。
【0019】
図6は研削時における図5にAで示した領域を模式的に示した拡大断面図である。供給管21から内部空間19側に突出するように供給された研削液20(図4参照)は、円筒状永久磁石11と円板状砥石48との接触面すなわち円板状砥石48の砥石表面43と周縁17(外周縁17b)との間における砥粒45の隙間を、一定の圧力を維持しながら通過する。このため、図6中に実線を用いて示した矢印のごとく、円板状砥石48による研磨の際に生じる磁石片50などを、円筒状永久磁石11と円板状砥石48との接触面から取り除くことができるから、円板状砥石48の目詰まりを防止することができる。
また、この方法により、円板状砥石48により円筒状永久磁石11の面取りがなされる際には、砥石表面43に必ず研削液20が供給されるため、円板状砥石48の温度上昇を抑制することができるから、熱による影響を抑えることができる。
なお、図1〜図3に示した円板状砥石18・28・38も同様に上述した理由により、目詰まり防止効果及び温度上昇を抑制する効果が得られるから、円板状砥石を長寿命化してコストを低下させることができる。
【0020】
研削液20は、一定の圧力で内部空間19に供給されるが、最終的に周縁17と円板状砥石48との接触面の隙間、すなわち、円板状砥石48の砥石表面43における砥粒45間の微細な隙間を通過する。その際、研削液20は、結合層44により砥粒45が結合された砥石表面43と、周縁17の間の極めて狭い空間を通過する必要がある。このため、研削液20の流速及び圧力は、内部空間19に供給されたときと比較して、速く大きくなっている。したがって、研削液20は円板状砥石48で発生する摩擦熱を吸収するとともに、研削により発生した磁石片50や砥石表面43から剥がれた砥粒45等の研削屑を、砥石表面43と周縁17との間から積極的に押し出す効果を持つ。これにより、研削屑が滞留することにより円板状砥石48の目詰まりが生じることや、面取りされた円筒状永久磁石11の面に疵が付くといった悪影響の発生を防止することができる。
以上のとおり、本発明の円筒体の面取り装置及び面取り方法によれば、特別な円板状砥石を用いることなく、上記のような効果を得ることができる。この点は、本発明が従来の装置及び方法に比較して、非常に有利な効果であるといえる。このように、本発明の円筒体の面取り装置及び面取り方法によれば、目詰まりが少なく加工時の温度上昇が抑制されるため、円筒体の外側から研削液を供給していた従来の装置に比べ、円板状砥石の寿命が極めて長くなる。例えば、本発明の面取り装置及び面取り方法を希土類磁石の円筒状永久磁石に用いた場合、通常想定される使用条件の下では、円板状砥石の寿命を従来の2〜10倍程度とすることができた。そのため、面取りに要する加工費を低減することができ、円筒状永久磁石の製造におけるコストダウンに貢献することができる。
【0021】
本発明の面取り装置及び面取り方法は、円筒体の面取りに広く適用できる。
円筒体が円筒状永久磁石の場合、希土類磁石(Sm−Co系焼結磁石、Nd−Fe−B系焼結磁石)あるいはフェライト磁石にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、例えば円筒状永久磁石やリング磁石などの円筒体を面取りする際に用いられる円板状砥石の寿命を延ばし、加工費を低減することのできる円筒体の面取り装置及び面取り方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0023】
10 面取り装置
11 円筒状永久磁石(円筒体)
12 一方端面
13 台座面
14 台座
15 凹部(支持部)
16 他方端面
17 周縁
17a 内周縁
17b 外周縁
18、28、38、48 円板状砥石
19 内部空間
20 研削液
21 供給管
22、42 溝
X1 円筒状永久磁石の中心軸
X2 円板状砥石の回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒体の面取りをする面取り装置であって、
前記円筒体の一方端面が台座面に接するように前記円筒体を載置する台座と、
前記円筒体を前記台座の所定位置に固定する支持部と、
前記所定位置に固定された前記円筒体の中心軸と同一軸上にその回転軸が位置している状態で、前記円筒体の他方端面の周縁を面取りする円板状砥石と、
前記円筒体と前記台座により形成される前記円筒体の内部空間に研削液を供給する供給管とを備えていることを特徴とする円筒体の面取り装置。
【請求項2】
前記円筒体が、円筒状永久磁石であることを特徴とする請求項1記載の円筒体の面取り装置。
【請求項3】
前記円板状砥石は円錐台形状であり、前記円筒体の前記他方端面の内周縁を面取りすることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の円筒体の面取り装置。
【請求項4】
前記円板状砥石はカップ形状であり、カップの内周面は底部側から開口部側へ外開きの形状を有し、前記円筒体の前記他方端面の外周縁を面取りすることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の円筒体の面取り装置。
【請求項5】
前記円板状砥石は前記円筒体の前記他方端面との対向面に円周状の溝を有し、前記円筒体の前記他方端面の内周縁及び外周縁を面取りすることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の円筒体の面取り装置。
【請求項6】
前記溝の断面は前記円筒体の前記周縁に接する部分が直線状であることを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれかに記載の円筒体の面取り装置。
【請求項7】
前記溝の断面は前記円筒体の前記周縁に接する部分が曲線状であることを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれかに記載の円筒体の面取り装置。
【請求項8】
円板状砥石により円筒体の面取りをする方法であって、
前記円筒体の一方端面と台座面とが接するように前記円筒体を台座に載置する載置工程と、
前記一方端面と前記台座面とが接した状態で、前記円筒体を前記台座の所定位置に固定する固定工程と、
前記円筒体と前記台座により形成される前記円筒体の内部空間に研削液を供給しながら、前記内部空間が前記研削液で満たされた状態において、前記円筒体の他方端面の周縁を前記円板状砥石により面取りする面取り工程とを備えることを特徴とする円筒体の面取り方法。
【請求項9】
前記円筒体が円筒状永久磁石であることを特徴とする請求項8記載の円筒体の面取り方法。
【請求項10】
研削液を台座に設けられた供給口から供給することを特徴とする請求項8又は請求項9記載の円筒体の面取り方法。
【請求項11】
前記台座、前記一方端面及び他方端面を水平とすることを特徴とする請求項8乃至請求項10のいずれかに記載の円筒体の面取り方法。
【請求項12】
前記研削液を0.05MPa以上0.50MPa以下の範囲内の圧力で供給することを特徴とする請求項8乃至請求項11のいずれかに記載の円筒体の面取り方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−152864(P2012−152864A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14972(P2011−14972)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】