説明

円筒型ニッケル−水素蓄電池

【課題】SOC50%においても、あるいはSOC20%においても、共に高い放電出力密度を有する円筒型ニッケル水素蓄電池を提供する。
【解決手段】本発明のアルカリ蓄電池10は、長方形状に形成されたニッケル正極11の短辺の長さをXとし、長辺の長さをYとした場合、短辺の長さに対する長辺の長さの比(Y/X)が25以上で40以下(25≦Y/X≦40)であるとともに、短辺の長さが25mm以上で45mm以下(25mm≦X≦45mm)であり、かつ、電池容量が3Ah以上で7Ah以下になるように規制している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(PEV)などの車両用途に好適なアルカリ蓄電池に係り、特に、正極活物質が充填されて長方形状に形成されたニッケル正極と、負極活物質が充填されて長方形状に形成された負極と、長方形状に形成されたセパレータとからなる渦巻状電極群が、アルカリ電解液とともに電池容器内に収納されて密閉された円筒型ニッケル−水素蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池の用途は、例えば、携帯電話、パーソナルコンピュータ、電動工具、ハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(PEV)など多岐に亘るようになり、これらの用途にアルカリ蓄電池が用いられるようになった。これらのうち、特に、ハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(PEV)などの車両の用途に用いられるアルカリ蓄電池においては、さらなる高出力化の市場要望が一層高まっている。
【0003】
これら要望に対する高出力化の手段として、長方形状に形成されたニッケル正極の短辺の長さ(C)に対する長辺の長さ(D)の比(D/C)が16〜24で、短辺の長さ(C)が30mm〜45mmで、電池容量を4〜7Ahとした円筒型ニッケル−水素蓄電池が特許文献1(特許第4235805号)にて提案されている。この特許文献1にて提案された円筒型ニッケル−水素蓄電池においては、SOC(State Of Charge:充電深度)が50%付近で高い放電出力密度を示すことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4235805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1にて提案された円筒型ニッケル−水素蓄電池において規定された数値範囲、即ち、D/Cが16〜24で、Cが30mm〜45mmで、電池容量が4〜7Ahという数値範囲では、SOC50%に対するSOC20%の放電出力密度が大きく低下することが本発明者等の検討で確認された。
そこで、本発明は、ハイブリッド自動車(HEV)の用途に好適な、SOC50%においても、あるいはSOC20%においても、共に高い放電出力密度を有する円筒型ニッケル水素蓄電池を提供できるようにすることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の円筒型ニッケル−水素蓄電池においては、長方形状に形成されたニッケル正極の短辺の長さをX(mm)とし、長辺の長さをY(mm)とした場合、短辺の長さに対する長辺の長さの比(Y/X)が25以上で40以下(25≦Y/X≦40)であるとともに、短辺の長さが25mm以上で45mm以下(25mm≦X≦45mm)であり、かつ、当該円筒型ニッケル−水素蓄電池の電池容量が3Ah以上で7Ah以下になるように規制している。
【0007】
ここで、電池試験(放電出力密度特性試験)を行ったところ、ニッケル正極の短辺の長さXと長辺の長さYの比Y/Xが25〜40であって、短辺の長さが25mm〜45mmであり、かつ電池容量が3.0〜7.0Ahを満たすニッケル−水素蓄電池においては、SOC50%での放電出力密度(Z1)が1420W/kg以上で、SOC20%での放電出力密度(Z2)も1100W/kg以上という高い出力密度が得られているとともに、SOC50%での放電出力密度(Z1)に対するSOC20%での放電出力密度(Z2)の比率(Z2/Z1)が0.8以上と高い値を示していることが分かった。
【0008】
このことから、ニッケル正極の短辺の長さXと長辺の長さYの比Y/Xが25〜40で、短辺の長さが25mm〜45mmで、かつ電池容量を3.0〜7.0Ahに規制するのが望ましいということができる。
【0009】
この場合、ニッケル正極は、ニッケル焼結基板の多孔内に少なくとも主正極活物質となる水酸化ニッケルと亜鉛が含浸液の含浸処理とアルカリ処理とにより充填されたもの、即ち、焼結式ニッケル正極であるのが望ましい。これは、焼結式ニッケル正極においては焼結基板を用いていることから導電性に優れているのに対して、非焼結式ニッケル正極(例えば、発泡ニッケルに正極活物質ペーストを充填して形成したもの)においては、焼結式に比較して導電性に劣るため、導電性低下の影響が顕著に現れるからである。
【0010】
また、この種の円筒型ニッケル−水素蓄電池でより大きい電池容量まで取り出せるようにするためには、メモリー効果による容量低下を抑える必要がある。そこで、種々検討した結果、ニッケル正極に添加される亜鉛(Zn)の添加量を正極活物質中のニッケル質量に対して8質量%以下とし、かつアルカリ電解液のアルカリ濃度を6.5mo1/L以下で、当該アルカリ電解液中に含有されるリチウム(Li)量を0.3mo1/L以上となるように規制すると、メモリー効果による容量低下が抑えられることが明らかになった。このため、ニッケル正極に添加される亜鉛(Zn)の添加量を正極活物質中のニッケル質量に対して8質量%以下とし、かつアルカリ電解液のアルカリ濃度を6.5mo1/L以下で、当該アルカリ電解液中に含有されるリチウム(Li)量を0.3mo1/L以上にするのが望ましいということができる。
【0011】
また、ニッケル正極に添加される亜鉛の添加量を正極活物質中のニッケル質量に対して8質量%以下とし、かつアルカリ電解液のアルカリ濃度を7.5mo1/L以下で、アルカリ電解液中に含有されるナトリウム(Na)量を0.4mo1/L以上、5.3mo1/L以下とし、リチウム(Li)量を0.3mo1/L以下となるように規制しても、メモリー効果による容量低下が抑えられることが明らかになった。このため、ニッケル正極に添加される亜鉛の添加量を正極活物質中のニッケル質量に対して8質量%以下とし、かつアルカリ電解液のアルカリ濃度を7.5mo1/L以下で、アルカリ電解液中に含有されるナトリウム(Na)量を0.4mo1/L以上、5.3mo1/L以下とし、リチウム(Li)量を0.3mo1/L以下にするのが望ましいということができる。
【0012】
また、この種の円筒型ニッケル−水素蓄電池の負極活物質として、希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金(CaCu5型以外のCe2Ni7型やCeNi3型やPr5Co15型等の結晶構造を有する)が用いられる。この場合、水素吸蔵合金組成にMnとCoが含有されていると、長期間の放置によりMnやCoが電解液中に溶出するようになる。この溶出したMnやCoに起因して、セパレータの薄型化に伴うマイクロショートが発生し、長期間の放置に伴い、残存容量が大幅に低下するという問題を生じた。このため、水素吸蔵合金においては、MnとCoが含有されないことが望ましいこととなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、特定のサイズのニッケル正極を用い、かつ特定の電池容量の範囲になるように規制されているので、SOC50%においても、あるいはSOC20%においても、共に高い放電出力密度を有する円筒型ニッケル水素蓄電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のアルカリ蓄電池の一実施例となるニッケル−水素蓄電池を模式的に示す断面図である。
【図2】ニッケル正極の短辺に対する長辺の比(Y/X)と、SOC50%放電出力密度Z1(W/kg)およびSOC20%放電出力密度Z2(W/kg)並びにその比率Z2/Z1との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ついで、本発明の実施の形態を以下に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0016】
1.ニッケル正極
(1)焼結基板
ニッケル焼結基板は以下のようにして作製したものを用いている。例えば、ニッケル粉末に、増粘剤となるメチルセルロース(MC)と高分子中空微小球体(例えば、孔径が60μmのもの)と水とを混合、混練してニッケルスラリーを作製した。ついで、ニッケルめっき鋼板からなるパンチングメタルの両面にニッケルスラリーを所定の厚みになるように塗布した後、還元性雰囲気中で1000℃で加熱して、塗布されている増粘剤や高分子中空微小球体を消失させるとともにニッケル粉末同士を焼結させることにより作製した。ここで、焼結後の厚みが0.36mmになるように作製されたものをニッケル焼結基板αとし、焼結後の厚みが0.30mmになるように作製されたものをニッケル焼結基板βとした。
【0017】
(2)焼結式ニッケル正極
焼結式ニッケル正極11は、上述のようにして作製されたニッケル焼結基板α,βの多孔内に水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とが所定の充填量(ここでは、亜鉛の充填量がニッケルとの質量比率で7質量%とした)になるように充填して作製した。この場合、得られたニッケル焼結基板α,βに以下のような含浸液を含浸する含浸処理と、アルカリ処理液によるアルカリ処理とを所定回数繰り返すことにより、ニッケル焼結基板の多孔内に所定量の水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とを充填した後、所定の寸法に裁断することにより、正極活物質が充填された焼結式ニッケル正極11(a1〜a11,b1〜b3)をそれぞれ作製した。
【0018】
この場合、含浸液としては、硝酸ニッケルと硝酸亜鉛を所定のモル比となるように調製した混合水溶液を用い、アルカリ処理液としては、比重が1.3の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いた。なお、高温特性を高めるなどの目的で、硝酸コバルトや硝酸イットリウムや硝酸イッテルビウムなども添加した含浸液を用いるようにしてもよい。そして、ニッケル焼結基板を含浸液に浸漬して、ニッケル焼結基板の細孔内に含浸液を含浸させた後、乾燥させ、ついで、アルカリ処理液に浸漬してアルカリ処理を行った。これにより、ニッケル塩や亜鉛塩を水酸化ニッケルや水酸化亜鉛に転換させた。この後、充分に水洗してアルカリ溶液を除去した後、乾燥させた。このような、含浸液の含浸、乾燥、アルカリ処理液への浸漬、水洗、および乾燥という一連の正極活物質の充填操作を数回繰り返すことにより、所定量の正極活物質をニッケル焼結基板α,βに充填させた。
【0019】
なお、ニッケル焼結基板α(厚みが0.36mmのもの)を用い、短辺の長さ(X)が20.0mmで長辺の長さ(Y)が990mmの寸法(Y/X=50)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極a1とした。同様に、ニッケル焼結基板αを用いるとともに、短辺の長さ(X)が22.0mmで長辺の長さ(Y)が990mmの寸法(Y/X=45)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極a2とし、短辺の長さ(X)が25.0mmで長辺の長さ(Y)が990mmの寸法(Y/X=40)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極a3とし、短辺の長さ(X)が27.5mmで長辺の長さ(Y)が990mmの寸法(Y/X=36)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極a4とし、短辺の長さ(X)が30.0mmで長辺の長さ(Y)が990mmの寸法(Y/X=33)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極a5とし、短辺の長さ(X)が35.5mmで長辺の長さ(Y)が990mmの寸法(Y/X=28)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極a6とし、短辺の長さ(X)が40.0mmで長辺の長さ(Y)が990mmの寸法(Y/X=25)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極a7とし、短辺の長さ(X)が44.0mmで長辺の長さ(Y)が990mmの寸法(Y/X=23)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極a8とし、短辺の長さ(X)が50.0mmで長辺の長さ(Y)が990mmの寸法(Y/X=20)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極a9とし、短辺の長さ(X)が65.0mmで長辺の長さ(Y)が990mmの寸法(Y/X=15)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極a10とし、短辺の長さ(X)が90.0mmで長辺の長さ(Y)が990mmの寸法(Y/X=11)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極a11とした。
【0020】
また、ニッケル焼結基板β(厚みが0.30mmのもの)を用いるとともに、短辺の長さ(X)が20.0mmで長辺の長さ(Y)が1200mmの寸法(Y/X=60)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極b1とし、短辺の長さ(X)が40.0mmで長辺の長さ(Y)が1200mmの寸法(Y/X=30)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極b2とし、短辺の長さ(X)が45.0mmで長辺の長さ(Y)が1200mmの寸法(Y/X=27)になるように裁断して作製されたものを焼結式ニッケル正極b3とした。
【0021】
2.水素吸蔵合金負極
水素吸蔵合金負極12はパンチングメタルからなる負極芯体に水素吸蔵合金スラリーを塗布して作製した。この場合、希土類元素(Ln;La,Pr,Ndなど)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)などの金属元素を所定のモル比となるように混合した後、これらの混合物をアルゴンガス雰囲気の高周波誘導炉に投入して溶解させた後、これを溶湯急冷して水素吸蔵合金のインゴットを作製した。ついで、得られた水素吸蔵合金のインゴットを不活性ガス雰囲気中で機械的に粉砕して水素吸蔵合金粉末とした。製作した水素吸蔵合金の組成式はLa0.63Nd0.27Mg0.10Ni3.55Al0.20で示され、質量積分50%にあたる平均粒径は25μmであることを確認した。
【0022】
この後、得られた水素吸蔵合金粉末100質量部に対し、非水溶性高分子結着剤としてのSBR(スチレンブタジエンラテックス)を0.5質量部と、増粘剤としてCMC(カルボキシメチルセルロース)を0.03質量部と、適量の純水を加えて混練して、水素吸蔵合金スラリーを調製した。そして、得られた水素吸蔵合金スラリーをパンチングメタル(ニッケルメッキ鋼板製)からなる負極芯体の両面に塗布した後、乾燥させ、所定の充填密度になるように圧延した後、所定の寸法に裁断して水素吸蔵合金負極12(c1〜c11,d1〜d3)をそれぞれ作製した。
【0023】
ここで、厚みが0.19mmであるとともに、短辺の長さが20.0mmで長辺の長さが1065mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極c1とし、短辺の長さが22.0mmで長辺の長さが1065mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極c2とし、短辺の長さが25.0mmで長辺の長さが1065mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極c3とし、短辺の長さが27.5mmで長辺の長さが1065mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極c4とし、短辺の長さが30.0mmで長辺の長さが1065mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極c5とし、短辺の長さが35.5mmで長辺の長さが1065mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極c6とし、短辺の長さが40.0mmで長辺の長さが1065mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極c7とし、短辺の長さが44.0mmで長辺の長さが1065mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極c8とし、短辺の長さが50.0mmで長辺の長さが1065mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極c9とし、短辺の長さが65.0mmで長辺の長さが1065mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極c10とし、短辺の長さが90.0mmで長辺の長さが1065mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極c11とした。
また、厚みが0.16mmであるとともに、短辺の長さが20.0mmで長辺の長さが1290mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極d1とし、短辺の長さが40.0mmで長辺の長さが1290mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極d2とし、短辺の長さが45.0mmで長辺の長さが1290mmの寸法になるように裁断して作製されたものを水素吸蔵合金負極d3とした。
【0024】
3.ニッケル−水素蓄電池
ついで、上述のようにして作製したニッケル正極11(a1〜a11,b1〜b3)と、水素吸蔵合金負極12(c1〜c11,d1〜d3)とを用い、これらの間に、ポリオレフィン製不織布からなるセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。なお、このようにして作製された渦巻状電極群の上部にはニッケル正極11の芯体露出部11cが露出しており、その下部には水素吸蔵合金電極12の芯体露出部12cが露出している。ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部12cに負極集電体14を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル電極11の芯体露出部11cの上に正極集電体15を溶接して、電極体とした。
【0025】
ついで、得られた電極体を鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)17内に収納した後、負極集電体14を外装缶17の内底面に溶接した。一方、正極集電体15より延出する集電リード部15aを正極端子を兼ねるとともに外周部に絶縁ガスケット19が装着された封口体18の底部に溶接した。なお、封口体18には正極キャップ18aが設けられていて、この正極キャップ18a内に所定の圧力になると変形する弁体18bとスプリング18cよりなる圧力弁(図示せず)が配置されている。
【0026】
ついで、外装缶17の上部外周部に環状溝部17aを形成した後、アルカリ電解液を注液し、外装缶17の上部に形成された環状溝部17aの上に封口体18の外周部に装着された絶縁ガスケット19を載置した。この後、外装缶17の開口端縁17bをかしめることにより、ニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L,M,N)を作製した。なお、アルカリ電解液のアルカリ濃度は6.2mol/Lで、このアルカリ電解液中のLi含有量を0.40mol/Lとし、K含有量を5.43mol/Lとし、Na含有量を0.37mol/Lとした。
【0027】
ここで、ニッケル正極a1と水素吸蔵合金負極c1とを用いたものを電池Aとした。同様に、ニッケル正極a2と水素吸蔵合金負極c2とを用いたものを電池Bとし、ニッケル正極a3と水素吸蔵合金負極c3とを用いたものを電池Cとし、ニッケル正極a4と水素吸蔵合金負極c4とを用いたものを電池Dとし、ニッケル正極a5と水素吸蔵合金負極c5とを用いたものを電池Eとした。また、ニッケル正極a6と水素吸蔵合金負極c6とを用いたものを電池Fとし、ニッケル正極a7と水素吸蔵合金負極c7とを用いたものを電池Gとし、ニッケル正極a8と水素吸蔵合金負極c8とを用いたものを電池Hとし、ニッケル正極a9と水素吸蔵合金負極c9とを用いたものを電池Iとし、ニッケル正極a10と水素吸蔵合金負極c10とを用いたものを電池Jとし、ニッケル正極a11と水素吸蔵合金負極c11とを用いたものを電池Kとした。さらに、ニッケル正極b1と水素吸蔵合金負極d1とを用いたものを電池Lとし、ニッケル正極b2と水素吸蔵合金負極d2とを用いたものを電池Mとし、ニッケル正極b3と水素吸蔵合金負極d3とを用いたものを電池Nとした。
【0028】
ついで、これらの各電池(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L,M,N)を25℃の温度雰囲気で、ニッケル正極の活物質量から算出される0.5Itの充電電流でSOC120%まで充電し、25℃の温度雰囲気で1時間休止し、60℃の温度雰囲気で24時間放置した。この後、40℃の温度雰囲気で、1Itの放電電流で電池電圧が0.9Vになるまで放電させるサイクルを2サイクル繰り返して各電池を活性化した。
ついで、25℃の温度雰囲気で、0.5Itの充電電流でピーク電圧からΔV=10mV低下するまで充電した後、25℃の温度雰囲気で1時間休止し、1.0Itの放電電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電し、このときの放電容量を各電池の電池容量として求めると、下記の表1に示すような結果となった。
【0029】
【表1】

【0030】
4.電池試験
上述のように作製した各電池A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L,M,Nを用いて、25℃の温度雰囲で、電池容量(公称容量)に対して1Itの充電レートで電池容量の50%まで充電(SOC50%)を行った。この後、40A放電→休止→20A充電→休止→80A放電→休止→40A充電→休止→120A放電→休止→60A充電→休止→160A放電→休止→80A充電→休止→200A放電→休止→100A充電の順に、10秒間の放電と20秒間の充電、および30分間の休止を繰り返し行った。そして、各10秒間の放電を行った時点の電池電圧(V)を放電電流(A)に対しプロットし、最小二乗法で求めた直線が0.9Vに達するときの電流値(A)と0.9Vの積を放電出力(W)として求め、放電出力と電池質量の商を放電出力密度Z1(W/kg)として求めると、下記の表2に示すような結果が得られた。
【0031】
ついで、これらの電池を用いて、25℃の温度雰囲で、電池容量(公称容量)に対して1Itの充電レートで電池容量の20%まで充電(SOC20%)を行った。この後、上述と同様にして、40A放電→休止→20A充電→休止→80A放電→休止→40A充電→休止→120A放電→休止→60A充電→休止→160A放電→休止→80A充電→休止→200A放電→休止→100A充電の順に、10秒間の放電と20秒間の充電、および30分間の休止を繰り返し行った。そして、各10秒間の放電を行った時点の電池電圧(V)を放電電流(A)に対しプロットし、最小二乗法で求めた直線が0.9Vに達するときの電流値(A)と0.9Vの積を放電出力(W)として求め、放電出力と電池質量の商を放電出力密度Z2(W/kg)として求めると、下記の表2に示すような結果が得られた。
【0032】
そして、得られた表2の結果に基づいて、SOC50%放電出力密度Z1(W/kg)と、SOC20%放電出力密度Z2(W/kg)と、その比率Z2/Z1とをY/Xに対してプロットすると、図2に示すような結果となった。なお、図2においては、従来例(特許文献1に記載のもの)のSOC50%放電出力密度(図2の黒三角印参照)も参考のために示している。この従来例のSOC50%放電出力密度は特許文献1の表1の記載に基づいて作成したものである。
【0033】
【表2】

【0034】
上記表2および図2の結果から明らかなように、ニッケル正極の短辺の長さXと長辺の長さYの比Y/Xが25〜40であって、短辺の長さXが25mm〜45mmであり、電池容量が3.0〜7.0Ahを満たす電池C,D,E,F,Gおよび電池M,Nにおいては、SOC50%での放電出力密度Z1が1420W/kg以上で、SOC20%での放電出力密度Z2が1100W/kg以上という高い出力密度が得られているとともに、Z1に対するZ2の比率(Z2/Z1)が0.8以上と高い値を示していることが分かる。
【0035】
これに対して、ニッケル正極の短辺の長さXと長辺の長さYの比Y/Xが40より大きいかあるいは25より小さく、短辺の長さXが25mmより小さいかあるいは40mmよりも大きく、かつ電池容量が3.0Ahより小さいかあるいは7.0Ahより大きい電池A,B,H,I,J,K,Lにおいては、SOC50%での放電出力密度Z1が1420W/kg未満で、SOC20%での放電出力密度Z2が1100W/kg未満で、Z1に対するZ2の比率(Z2/Z1)が0.78以下を示していることが分かる。
【0036】
ここで、ニッケル正極の短辺の長さXと長辺の長さYの比Y/Xが25に満たない電池H,I,J,Kにおいて、SOC50%での放電出力密度Z1およびSOC20%での放電出力密度Z2が低下し、Z1に対するZ2の比率(Z2/Z1)が大きく低下したのは、以下のような理由によるものと考えられる。即ち、ニッケル正極の短辺の長さXが長くなるにつれて、短辺方向の電子の移動距離も長くなる。この場合、SOC50%や20%においては、特に、SOC20%においては、水酸化ニッケルや水酸化コバルトの金属イオンの価数が低下するため、ニッケル正極の導電性が低下するようになる。この結果、短辺の長さXが長くなった影響を受け易くなって、SOC50%での放電出力密度Z1およびSOC20%での放電出力密度Z2が低下し、Z1に対するZ2の比率(Z2/Z1)が大きく低下したと考えられる。
【0037】
一方、ニッケル正極の短辺の長さXと長辺の長さYの比Y/Xが40より大きい電池A,B,Lにおいて、SOC50%での放電出力密度Z1およびSOC20%での放電出力密度Z2が低下し、Z1に対するZ2の比率(Z2/Z1)が大きく低下したのは、以下のような理由によるものと考えられる。即ち、これらの電池A,B,Lの電池容量が3.0Ah未満と少ないため、同容量を放電すると低いSOC域まで放電されることとなる。このため、ニッケル正極の短辺の長さXが短くても、SOC50%や20%においては、特に、SOC20%では正極の導電性低下の影響を受け易くなって、SOC50%での放電出力密度Z1およびSOC20%での放電出力密度Z2が低下し、Z1に対するZ2の比率(Z2/Z1)が大きく低下したと考えられる。
【0038】
この場合、電池Lのように、長辺の長さYを長くすることで比較的高い出力密度が得られる可能性があるが、そのためには極板を薄くする必要がある。このため、本発明においては、加工性や操作性等を考慮し、長辺の長さYは1200mmを上限とすることにしている。
以上の結果を総合勘案すると、ニッケル正極の短辺の長さXと長辺の長さYの比Y/Xが25〜40であって、短辺の長さXが25mm〜45mmであり、電池容量が3.0〜7.0Ahを満たすことにより、従来より高い放電出力密度のニッケル−水素蓄電池を提供することが可能となる。なお、ニッケル正極における導電性低下の影響は、発泡ニッケルの正極基板に正極活物質を充填してなる非焼結式正極で顕著に現れるので、本発明のような効果を得るためには焼結式ニッケル正極に適用するのが望ましい。
【0039】
5.ニッケル正極の亜鉛の添加量、およびアルカリ電解液のアルカリ濃度とLi含有量の検討
ついで、ニッケル正極への亜鉛の添加量と、アルカリ電解液のアルカリ濃度とLi含有量についての検討を行った。そこで、ニッケル正極a3と同サイズで、上述したニッケル焼結基板αの多孔内に水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とが所定の充填量(ここでは、亜鉛の充填量がニッケルとの質量比率で7質量%から8質量%に増加させた)になるように充填して作製されたニッケル正極と水素吸蔵合金負極c3とを用いて渦巻状電極群を作製した。そして、得られた渦巻状電極群を用い、かつアルカリ濃度が6.2mol/Lから6.5mol/Lに増加させ、Li含有量を0.40mol/Lから0.30mol/Lに減少させて調製されたアルカリ電解液を用いて、上述と同様にしてニッケル−水素蓄電池を作製し、これを電池Oとした。この場合、アルカリ電解液中のK含有量は5.81mol/Lとし、Na含有量は0.39mol/Lとした。
【0040】
同様に、ニッケル正極a3と同サイズで、上述したニッケル焼結基板αの多孔内に水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とが所定の充填量(ここでは、亜鉛の充填量がニッケルとの質量比率で7質量%から8質量%に増加させた)になるように充填して作製されたニッケル正極と水素吸蔵合金負極c3とを用いて渦巻状電極群を作製した。そして、得られた渦巻状電極群を用い、かつアルカリ濃度が6.2mol/Lから6.7mol/Lに増加させ、Li含有量を0.40mol/Lから0.25mol/Lに減少させて調製されたアルカリ電解液を用いて、上述と同様にしてニッケル−水素蓄電池を作製し、これを電池Pとした。この場合、アルカリ電解液中のK含有量は6.05mol/Lとし、Na含有量は0.40mol/Lとした。
【0041】
また、ニッケル正極a3と同サイズで、上述したニッケル焼結基板αの多孔内に水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とが所定の充填量(ここでは、亜鉛の充填量がニッケルとの質量比率で7質量%から11質量%に増加させた)になるように充填して作製されたニッケル正極と水素吸蔵合金負極c3とを用いて渦巻状電極群を作製した。そして、得られた渦巻状電極群を用い、かつアルカリ濃度が6.2mol/Lから6.5mol/Lに増加させ、Li含有量を0.40mol/Lから0.30mol/Lに減少させて調製されたアルカリ電解液を用いて、上述と同様にしてニッケル−水素蓄電池を作製し、これを電池Qとした。この場合、アルカリ電解液中のK含有量は5.81mol/Lとし、Na含有量は0.39mol/Lとした。
【0042】
また、ニッケル正極a3と同サイズで、上述したニッケル焼結基板αの多孔内に水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とが所定の充填量(ここでは、亜鉛の充填量がニッケルとの質量比率で7質量%から16質量%に増加させた)になるように充填して作製されたニッケル正極と水素吸蔵合金負極c3とを用いて渦巻状電極群を作製した。そして、得られた渦巻状電極群を用い、かつアルカリ濃度が6.2mol/Lから6.5mol/Lに増加させ、Li含有量を0.40mol/Lから0.30mol/Lに減少させて調製されたアルカリ電解液を用いて、上述と同様にしてニッケル−水素蓄電池を作製し、これを電池Rとした。この場合、アルカリ電解液中のK含有量は5.81mol/Lとし、Na含有量は0.39mol/Lとした。
【0043】
さらに、ニッケル正極a3と同サイズで、上述したニッケル焼結基板αの多孔内に水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とが所定の充填量(ここでは、亜鉛の充填量がニッケルとの質量比率で7質量%から16質量%に増加させた)になるように充填して作製されたニッケル正極と水素吸蔵合金負極c3とを用いて渦巻状電極群を作製した。そして、得られた渦巻状電極群を用い、かつアルカリ濃度が6.2mol/Lから6.7mol/Lに増加させ、Li含有量を0.40mol/Lから0.25mol/Lに減少させて調製されたアルカリ電解液を用いて、上述と同様にしてニッケル−水素蓄電池を作製し、これを電池Sとした。この場合、アルカリ電解液中のK含有量は6.05mol/Lとし、Na含有量は0.40mol/Lとした。
【0044】
そして、上述した電池Cと得られた電池O,P,Q,R,Sとを用いて、これらの電池を15Itの充電電流にてSOCが80%となる電圧まで充電した後、15Itの放電電流にてSOCが20%となる電圧まで放電させるというサイクルを繰り返す部分充放電サイクル試験を放電電気量が40kAhとなるまで繰り返し行い、初期の放電容量に対する40kAh後での放電容量の比率を部分放電容量比率として求めると、下記の表3に示すような結果が得られた。
【0045】
【表3】

【0046】
上記表3の結果から明らかなように、電池P,Q,R,Sにおいては、40kAh放電後での放電容量の比率(部分放電容量比率)が大幅に低下していることが分かる。これとは逆に、電池C,Oにおいては、40kAh後での放電容量の比率(部分放電容量比率)が大幅に向上していることが分かる。換言すると、電池C,Oのような正極中の亜鉛(Zn)の添加量となり、かつ電池C,Oのようなアルカリ電解液の濃度で、そのアルカリ電解液に含有されるリチウム(Li)濃度とすることにより、40kAh放電後の容量低下(メモリー効果)を大きく抑制できるようになるということができる。
【0047】
即ち、この種のニッケル−水素蓄電池でより大きい電池容量を取り出せるようにするためには、メモリー効果による容量低下を抑える必要がある。そして、上記表3の結果においては、ニッケル正極に添加される亜鉛(Zn)の添加量を正極活物質中のニッケル質量に対して8質量%以下とし、かつアルカリ電解液のアルカリ濃度を6.5mo1/L以下で、当該アルカリ電解液中に含有されるリチウム(Li)量を0.3mo1/L以上となるように規制すると、メモリー効果による容量低下が抑えられることを示しているということができる。このことから、ニッケル正極に添加される亜鉛(Zn)の添加量を正極活物質中のニッケル質量に対して8質量%以下とし、かつアルカリ電解液のアルカリ濃度を6.5mo1/L以下で、当該アルカリ電解液中に含有されるリチウム(Li)量を0.3mo1/L以上にするのが望ましいということできる。
【0048】
6.ニッケル正極の亜鉛の添加量を8質量%以下とし、アルカリ電解液中のLi含有量を0.3mo1/L以下とした場合のアルカリ電解液のアルカリ濃度とNa含有量の検討
ついで、ニッケル正極への亜鉛の添加量と、アルカリ電解液のアルカリ濃度とNa含量についての検討を行った。そこで、ニッケル正極a3と同サイズで、上述したニッケ焼結基板αの多孔内に水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とが所定の充填量(ここでは、亜鉛充填量がニッケルとの質量比率で7質量%から8質量%に増加させた)になるように充填して作製されたニッケル正極と水素吸蔵合金負極c3とを用いて渦巻状電極群を作製した。そして、得られた渦巻状電極群を用い、かつアルカリ濃度が6.2mol/Lで、K含有量が5.55mol/Lで、Na含有量が0.40mol/Lで、Li含有量が0.25mol/Lになるように調製されたアルカリ電解液を用いて、上述と同様にしてニッケル−水素蓄電池を製し、これを電池O1とした。
【0049】
同様に、ニッケル正極a3と同サイズで、上述したニッケル焼結基板αの多孔内に水化ニッケルと水酸化亜鉛とが所定の充填量(ここでは、亜鉛の充填量がニッケルとの質比率で7質量%から8質量%に増加させた)になるように充填して作製されたニッケル極と水素吸蔵合金負極c3とを用いて渦巻状電極群を作製した。そして、得られた渦巻電極群を用い、かつアルカリ濃度が6.5mol/Lで、K含有量が5.30mol/Lで、Na含有量が0.98mol/Lで、Li含有量が0.23mol/Lになるように調製されたアルカリ電解液を用いて、上述と同様にしてニッケル−水素蓄電池を製し、これを電池O2とした。
【0050】
また、ニッケル正極a3と同サイズで、上述したニッケル焼結基板αの多孔内に水酸ニッケルと水酸化亜鉛とが所定の充填量(ここでは、亜鉛の充填量がニッケルとの質量率で7質量%から11質量%に増加させた)になるように充填して作製されたニッケル極と水素吸蔵合金負極c3とを用いて渦巻状電極群を作製した。そして、得られた渦巻電極群を用い、かつアルカリ濃度が6.7mol/Lで、K含有量が3.82mol/Lで、Na含有量が2.68mol/Lで、Li含有量が0.20mol/Lになるように調製されたアルカリ電解液を用いて、上述と同様にしてニッケル−水素蓄電池を製し、これを電池O3とした。
【0051】
また、ニッケル正極a3と同サイズで、上述したニッケル焼結基板αの多孔内に水酸ニッケルと水酸化亜鉛とが所定の充填量(ここでは、亜鉛の充填量がニッケルとの質量率で7質量%から16質量%に増加させた)になるように充填して作製されたニッケル極と水素吸蔵合金負極c3とを用いて渦巻状電極群を作製した。そして、得られた渦巻電極群を用い、かつアルカリ濃度が7.5mol/Lで、K含有量が1.98mol/Lで、Na含有量が5.30mol/Lで、Li含有量が0.22mol/Lになるように調製されたアルカリ電解液を用いて、上述と同様にしてニッケル−水素蓄電池を製し、これを電池O4とした。
【0052】
そして、上述した電池Cと電池Oと、得られた電池O1,O2,O3,O4とを用いて、これらの電を15Itの充電電流にてSOCが80%となる電圧まで充電した後、15Itの放電流にてSOCが20%となる電圧まで放電させるというサイクルを繰り返す部分充放電イクル試験を放電電気量が40kAhとなるまで繰り返し行い、初期の放電容量に対す40kAh後での放電容量の比率を部分放電容量比率として求めると、下記の表4に示ような結果が得られた。
【0053】
【表4】

【0054】
上記表4の結果から明らかなように、電池Oと、電池O1、O2、O3、O4とを比較しても、40kAh放後での放電容量の比率(部分放電容量比率)がそれほど変わらないことが分かる。これは、ニッケル正極に添加される亜鉛(Zn)の添加量を正極活物質中のニッケル質に対して8質量%以下とし、かつアルカリ電解液のNa含有量が0.4mo1/L以上、5.3mo1/L以下で、アルカリ濃度を7.5mo1/L以下とすることで、当該アルカリ電解液中に含有されるリチウム(Li)量が0.3mo1/L以下であっても、メモリー効果による容量低下が抑えられることを示しているということができる。
【0055】
即ち、アルカリ電解液中に含有されるリチウム(Li)量が0.3mo1/L以下であっても、電池O1、O2、O3、O4のようなNa含有量(0.4mo1/L以上、5.3mo1/L以下)およびアルカリ濃度(7.5mo1/L以下)のアルカリ電解液を用いれば、充放電耐久に伴う充電効率低下を抑制できるようになる。このことから、ニッケル正極に添加される亜鉛(Zn)の添加量を正極物質中のニッケル質量に対して8質量%以下とし、かつアルカリ電解液のアルカリ濃度が6.5mo1/L以下で、当該アルカリ電解液中に含有されるリチウム(Li)量を0.3mo1/L以上としたときと同等の充放電耐久後の部分放電容量を得ることが可能となる。
【0056】
7.水素吸蔵合金の組成についての検討
ついで、負極活物質となる水素吸蔵合金の組成についての検討を行った。そこで、水素吸蔵合金負極c3(負極活物質となる水素吸蔵合金の一般式はLa0.63Nd0.27Mg0.10Ni3.55Al0.20である)と同サイズで、合金組成が一般式でLa0.63Nd0.27Mg0.10Ni3.55Al0.05Mn0.05Co0.10と表される水素吸蔵合金を用いて水素吸蔵合金負極を作製した。ついで、上述したニッケル正極a3と得られた水素吸蔵合金負極とを用いて渦巻状電極群を作製して、上述同様にしてニッケル−水素蓄電池(アルカリ濃度が6.2mol/Lで、Li濃度が0.40mol/Lに調製されたアルカリ電解液を用いた)を作製し、これを電池Tとした。
【0057】
そして、上述した電池Cと得られた電池Tとを用いて、これらの電池をSOCの80%の電圧まで充電した後、60℃の環境温度に3ケ月間放置した。その後、25℃の環境温度で1Itの放電々流で電池電圧が1.0V(カット電圧)になるまで放電させて、放電時間から残存放電容量を求め、初期の放電容量との比率を残存放電容量比率(%)として求めると、下記の表5に示すような結果が得られた。
【0058】
【表5】

【0059】
上記表5の結果から明らかなように、電池Cにおいては、3ケ月間放置後の残存放電容量比率が24%と大きいのに対して、電池Tにおいては、3ケ月間放置後の残存放電容量比率が2%と小さいことが分かる。ここで、電池Tが3ケ月間放置後の残存放電容量比率が2%と極めて小さいのは、以下のような理由によるものと考えられる。
【0060】
即ち、希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金(CaCu5型以外のCe2Ni7型やCeNi3型やPr5Co15型等の結晶構造を有する)において、MnとCoが含有されていると、長期間の放置により添加されたMnやCoからなるM元素が電解液中に溶出するようになる。一方で、電池の高出力化に伴い、セパレータが薄型化されてショートに対する懸念が生じているが、電解液中に溶出したMnやCoはセパレータに蓄積されてマイクロショートが発生し易い状態になる。
【0061】
このため、MnやCoが含有された水素吸蔵合金を用いた電池Tにおいては、MnやCoの電解液中への溶出とセパレータの薄型化に起因して、マイクロショートが発生し、3ケ月間放置後の残存放電容量比率が低下したと考えられる。一方、MnやCoが含有されていない水素吸蔵合金を用いた電池Cにおいては、MnやCoの電解液中への溶出がないため、セパレータが薄型化していてもマイクロショートが発生することはない。この結果、電池Cにおいては、3ケ月間放置後の残存放電容量比率の低下が抑制されたと考えられる。
これらのことから、希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金(CaCu5型以外のCe2Ni7型やCeNi3型やPr5Co15型等の結晶構造を有する)においては、MnとCoが含有されないことが望ましいこととなる。
【符号の説明】
【0062】
11…ニッケル正極、11c…芯体露出部、12…水素吸蔵合金負極、12c…芯体露出部、13…セパレータ、14…負極集電体、15…正極集電体、15a…集電リード部、17…外装缶、17a…環状溝部、17b…開口端縁、18…封口体、18a…正極キャップ、18b…弁板、18c…スプリング、19…絶縁ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質が充填されて長方形状に形成されたニッケル正極と負極活物質が充填されて長方形状に形成された負極と長方形状に形成されたセパレータとからなる渦巻状電極群がアルカリ電解液とともに電池容器内に収納されて密閉された円筒型ニッケル−水素蓄電池であって、
前記長方形状に形成されたニッケル正極の短辺の長さをX(mm)とし、長辺の長さをY(mm)とした場合、短辺の長さに対する長辺の長さの比(Y/X)が25以上で40以下(25≦Y/X≦40)であるとともに、前記短辺の長さが25mm以上で45mm以下(25mm≦X≦45mm)であり、
かつ、当該円筒型ニッケル−水素蓄電池の電池容量が3Ah以上で7Ah以下であることを特徴とする円筒型ニッケル−水素蓄電池。
【請求項2】
前記ニッケル正極は、ニッケル焼結基板の多孔内に少なくとも主正極活物質となる水酸化ニッケルと亜鉛が含浸液の含浸処理とアルカリ処理とにより充填されたものであることを特徴とする請求項1に記載の円筒型ニッケル−水素蓄電池。
【請求項3】
前記亜鉛の添加量は当該正極活物質中のニッケル質量に対して8質量%以下であり、かつ前記アルカリ電解液のアルカリ濃度は6.5mo1/L以下で、当該アルカリ電解液中に含有されるリチウム(Li)量が0.3mo1/L以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の円筒型ニッケル−水素蓄電池。
【請求項4】
前記亜鉛の添加量は当該正極活物質中のニッケル質量に対して8質量%以下であり、かつ前記アルカリ電解液のアルカリ濃度は7.5mo1/L以下で、当該アルカリ電解液中に含有されるナトリウム(Na)量が0.4mo1/L以上、5.3mo1/L以下で、リチウム(Li)量が0.3mo1/L以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の円筒型ニッケル−水素蓄電池。
【請求項5】
前記負極活物質は希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金(CaCu5型以外のCe2Ni7型やCeNi3型やPr5Co15型等の結晶構造を有する)であって、マンガン(Mn)とコバルト(Co)が含有されていないことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の円筒型ニッケル−水素蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−69510(P2012−69510A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163384(P2011−163384)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】