説明

円筒形スパッタリングターゲットおよびその製造方法

【課題】円筒形のセラミックスのターゲット材の接合面を電解還元することによって金属層を形成させ、これを下地層とすることによって、接合の際に接合部を押圧しなくても、冷却固化させるだけで、十分な接合率および強度が得られ、かつスパッタリング中の熱の影響で剥離や割れのない円筒形スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】円筒形セラミックスターゲット材21の内周面を電界還元して、ターゲット材の還元金属から成る下地層31を形成し、次いで円筒形支持基材11の外周面に円筒形セラミックスターゲット材を接合することにより、円筒形スパッタリングターゲットを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロン型回転カソードスパッタリング装置等に用いられる円筒形セラミックススパッタリングターゲットおよびその製造に関するものであり、スパッタリングターゲット材の接合面に電解還元により金属層から成る下地層を設けたスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロン型回転カソードスパッタリング装置等に用いられるセラミックスターゲットの製造方法として、例えば、別途作製したセラミックス焼結体からなる円筒形ターゲット材を円筒形支持基材に組み込み、低融点半田等の接合材を用いて接合する方法がある(特許文献1参照)。この形態の円筒形ターゲットは比較的低コストで作製でき、高密度のセラミックス焼結体を使用できることから高品位な成膜が可能であり、今後の普及が見込まれている。
【0003】
しかし、一方で、この形態の円筒形ターゲットは熱膨張率の異なる二つの円筒形状物を組み合わせ、その間隙を接合材で固定するため、高温となる接合時と冷却固化後では双方の体積収縮量の違いから内部応力が生じ、接合部に剥離等の不具合が発生しやすい。接合が不十分な状態のターゲットでスパッタリングを行なうとターゲット材の冷却効率が低下し、ターゲット材が割れる恐れがある。それゆえ、接合率および接合強度を高められる簡便な接合方法の開発が望まれている。
【0004】
元来、セラミックスと金属は接合しづらく、低融点半田等の接合材を溶融し、セラミックスに接触させ冷却固化しただけでは接合できない。一方、支持基材は、材料が金属であっても接合時には接合材の融点以上に加熱されるため表面酸化が進行し、溶融した接合材との濡れ性が悪くなり、冷却固化後の接合材の密着力が低下する。
【0005】
この問題を解決する手段として、予めアルミまたはアルミ合金等の金属または酸でスパッタリングターゲットの表面を処理した後、スパッタリングターゲット材の接合面または、スパッタリングターゲット材と支持基体の両接合面に半田層を電気メッキにより形成した後、半田層を溶融させた状態で両接合面を密着させ、一体化した状態で冷却して固着する方法が知られている(特許文献2参照)。しかしこの方法では、スパッタリングターゲットの材料がセラミックスである場合、電気メッキにより形成した半田層はセラミックスへの密着力が弱く、十分な接合強度を得ることが困難である。
【0006】
一般にセラミックスへ金属をめっきする場合、密着性がよい金属は限られており、それらはニッケル(Ni)や銅(Cu)などである。ただし、NiやCuは接合時に表面酸化が進行し、低融点半田との濡れ性が低下するため、これらの金属で下地層を形成しても十分な接合強度を得ることはできない。
【0007】
また、接合強度の高いスパッタリングターゲットを得る接合方法として、チタン(Ti)またはチタン合金(Ti合金)のスパッタリングターゲット材およびCu、Cu合金、TiおよびTi合金などの支持基材両接合面にNiあるいはCuをメッキ処理した後、ターゲット材および支持基材両面に接合する半田材の一部分を超音波メタライジング法により半田処理し、ターゲット材と支持基材とを強固に接合する方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
しかしこの方法は、スパッタリングターゲットが平板構造である場合においては可能な手段であるが、たとえば円筒形ターゲットに関しては、円筒形ターゲット材の内周側半径が小さい場合、あるいは円筒形ターゲット材の中心軸方向の長さが長い場合において、接合面に超音波メタライジングの超音波振動子が有効に接触できない部分が生じ、接合面全体にくまなく超音波メタライジング処理を施すことが困難となる。また、平板構造のターゲットを接合する場合、ターゲット材と支持基材の間隙に溶融した接合材を満たし、ターゲット材と支持基材を互いに近づけるように押圧することで接合材の密着性を高めることも可能であるが、円筒形ターゲットでは構造上、そのような押圧操作が行えないということも接合が難しい要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3618005号明細書
【特許文献2】特開平11−106904号公報
【特許文献3】特開平08−67978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、円筒形のセラミックスのターゲット材の接合面を電解還元することによって金属層を形成させ、これを下地層とすることによって、接合の際に接合部を押圧しなくても冷却固化させるだけで十分な接合率および強度が得られ、スパッタリング中の熱の影響で剥離や割れのないスパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、以下のことを見出し、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、以下のとおりである。
(1)円筒形支持基材の外周面に円筒形セラミックスターゲット材を接合してなる円筒形スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット材の内周面にターゲット材の還元金属から成る下地層を有することを特徴とする、円筒形スパッタリングターゲット。
(2)下地層の上に1層以上の金属層を有する、(1)に記載の円筒形スパッタリングターゲット。
(3)金属層の1層がスズ(Sn)から成る、(2)に記載の円筒形スパッタリングターゲット。
(4)金属層の厚みが10〜300μmである、(2)または(3)に記載のスパッタリングターゲット。
(5)インジウム合金半田により接合してなる、(1)から(4)いずれかに記載の円筒形スパッタリングターゲット。
(6)円筒形セラミックスターゲット材の内周面を電界還元して、ターゲット材の還元金属から成る下地層を形成し、次いで円筒形支持基材の外周面に円筒形セラミックスターゲット材を接合することを特徴とする、(1)に記載の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明おける円筒形のセラミックスのターゲット材は、特に限定されるものではないが、例えば、透明導電膜などに用いられる光学薄膜材料である、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnO(Zinc Oxide)、AZO(Aluminium Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、Ta、Nb、TiO等を挙げることができる。
【0014】
支持基材としては、ステンレス、チタン、チタン合金、銅、銅合金などである。支持基材は濡れ性を改善するため、接合する前に十分に洗浄しておくおことが望ましい。
【0015】
接合には、例えば低融点半田が用いられ、より好ましくは鉛フリーのインジウム(融点157℃)や錫−インジウム合金(117℃)が用いられる。
【0016】
ターゲット材の内周面にターゲット材の還元金属から成る下地層を形成する方法には特に限定はないが、例えば、ターゲット材の内周面を電界還元する方法があげられる。このとき、ターゲット材の内周面は、良好な金属面を得る為に予め洗浄しておくことが好ましい。電解還元して金属層を形成するに際し、還元剤としては水酸化ナトリウムなどの水溶液が望ましく、電流密度は低いと還元に時間を要し、余り高いと時間の制御が難しくなるので0.5〜5A/dmが望ましく、より好ましくは2A/dmである。また、電解時間は電流密度、還元剤の濃度にもよるが生産性を考慮すると概ね1〜10分程度が好ましい。
【0017】
この方法により、例えばセラミックスターゲット材としてITOを用いた場合、ターゲット材内周面の最表面は還元されてインジウム−スズ合金層が形成されているものと推定される。
【0018】
ターゲット材の内周面を電解還元してターゲット材の還元金属から成る下地層を形成させ、ターゲット材と支持基材とを接合する。またターゲット材の下地層の上に、スパッタ法、蒸着法、メッキ法などで1層以上の金属層を形成してから、支持基材を接合してもよい。
【0019】
この金属層は接合層とは異なるものであり、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銅(Cu)、スズ(Sn)などが好ましい。金属層の厚みとしては余り薄いと効果がなく、厚過ぎると形成に時間がかかるので、10〜300μmが望ましい。
【0020】
円筒型ターゲット材を円筒形支持基材に接合するには、円筒形支持基材の外側に、内周面に金属下地層を形成した円筒形ターゲット材を配置し、接合すればよい。接合方法としてはターゲット材を加熱し、円筒形ターゲット材の内周面と円筒形基材の外周面の間に形成される空隙に溶融させた半田を注入し、冷却固化させればよい。このとき、両者の中心軸が一致するように接合してもよいし、また複数のターゲット材を接合する場合には、隣接するターゲット材の表面の段差ができるだけ小さくなるように接合してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、接合率と接合強度が高い円筒形セラミックスのターゲットを得ることができ、スパッタ時の剥離や割れの発生が著しく抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の円筒形スパッタリングターゲットの一例を示す図である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例をもって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、放電試験はスパッタリングガスにアルゴンを使用し、スパッタリング圧力:0.3Pa、電力4500Wで行った。
【0024】
(実施例1)
円筒形ITOターゲット材(外径:150mmφ、内径:130mmφ、長さ:300mm)を1個、Ti製円筒形基材(外径:128mmφ、内径:122mmφ、長さ:400mm)を1個用意した。円筒形ITOターゲット材およびTi製円筒基材を十分に洗浄した。円筒形ITOターゲット材の電解還元は水酸化ナトリム10%水溶液を還元剤とし、ターゲット材を陰極、カーボン電極を陽極として繋ぎ、25℃、電流密度2A/dmの条件で5分間行い、ターゲット材内周面に金属下地層を形成した。また、Ti製円筒基材については、外周面を超音波メタライジング処理によってIn半田を下塗りした。
【0025】
Ti製円筒形基材を垂直に立て、その外側に円筒形ITOターゲット材を配置し、両者の中心軸が一致するように組み合わせ、固定した。この組み立て品をリボンヒーターを用いて180℃まで加熱し、円筒形ITOターゲット材の内周面とTi製円筒形基材の外周面の間に形成される空隙に溶融させたIn半田を流し込み、その後、冷却固化させた。この方法によって作製した円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を行なった結果、割れは認められなかった。
【0026】
(実施例2)
実施例1において、円筒形ITOターゲット材の金属下地層の上に、Snをスパッタ法で10μm形成した以外は、実施例1と同様に作製した。この方法によって作製した円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を行なった結果、割れは認められなかった。
【0027】
(実施例3)
実施例1において、円筒形ITOターゲット材の金属下地層の上に、Ni層を5μm、次いでSn層を15μmの厚みに電気めっきで形成した以外は、実施例1と同様に作製した。この方法によって作製した円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を行なった結果、割れは認められなかった。
【0028】
(比較例1)
実施例1において、円筒形ITOターゲット材の内周面を電解還元することなく、直接In半田を流し込み作製したところ、ターゲット材内周面の濡れ性が悪く、基材と全く接合できなかった。
【0029】
(比較例2)
実施例1において、電界還元を行わずに、円筒形ITOターゲット材内周面についても超音波メタライジング処理によりIn半田を下塗りし、それ以外は実施例1と同様にしてIn半田の流し込みを行った。この円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を行ったところ、ターゲット表面の一部に割れが観察された。
【符号の説明】
【0030】
11:円筒形支持基材
21:円筒形セラミックスターゲット材
31:電解還元金属下地層
41:金属層(1)
51:金属層(2)
61:空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形支持基材の外周面に円筒形セラミックスターゲット材を接合してなる円筒形スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット材の内周面にターゲット材の還元金属から成る下地層を有することを特徴とする、円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項2】
下地層の上に1層以上の金属層を有する、請求項1に記載の円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項3】
金属層の1層がスズ(Sn)から成る、請求項2に記載の円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項4】
金属層の厚みが10〜300μmである、請求項2または3に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
インジウム合金半田により接合してなる、請求項1から4いずれかに記載の円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項6】
円筒形セラミックスターゲット材の内周面を電界還元して、ターゲット材の還元金属から成る下地層を形成し、次いで円筒形支持基材の外周面に円筒形セラミックスターゲット材を接合することを特徴とする、請求項1に記載の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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