説明

円錐摩擦車リング式無段変速装置

【課題】正逆回転にあっても変速操作が可能であり、かつリングの摩擦車接触部の回転上流側を摘むように支持して、自律的に変速又は中立位置となり、制御を必要としない。
【解決手段】摩擦車との接触部を挟んでリング25の回転上流側及び下流側にそれぞれ支持部材69,67を配置する。回転上流側に位置する支持部材の作動部70は、リング25の回転に引きずられてリングの軸方向位置を規定し、下流側の作動部は、リングに押されて回動し、リングの軸方向移動を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに平行に配置されかつ大径側と小径側とが軸方向に逆になるように配置された1対の円錐形状の摩擦車と、これら両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリングとを有し、前記リングを軸方向に移動して無段変速する円錐摩擦リング式無段変速装置に係り、詳しくは前記リングを軸方向に移動する変速操作装置(手段)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力側となる円錐形状の摩擦車と、出力側となる円錐形状の摩擦車と、両摩擦車の対向する傾斜面に挟持される金属製のリングと、を有し、上記両摩擦車の軸線を平行にかつその大径部と小径部とが軸方向に逆になるように配置し、前記リングを軸方向に移動することにより無段に変速する円錐摩擦リング式無段変速装置(コーンリング式CVTという)が知られている。
【0003】
上記コーンリング式CVTの変速操作装置として下記特許文献1及び特許文献2に記載されたものがある。特許文献1に記載の変速操作装置は、上記リングを挟んで該リングを回転自在かつ軸方向に一体に移動し得るフォークと、該フォークを移動方向にピンを介して揺動自在に支持する送りナットと、該送りナットを前記移動方向に送る送りねじ軸と、を備え、該送りねじ軸により送りナットを軸方向に移動することにより、前記フォークをピンを中心に移動方向に傾かせて、前記入力側摩擦車と出力側摩擦車との間で挟持されて回転しているリングをその回転軸に対して傾ける。これにより、リングは、摩擦車に対してヘリカルラインとなり、軸方向に移動して変速操作される。
【0004】
引用文献2に記載の変速操作装置は、2本の平行軸により軸方向移動自在に支持されたフレームに回転自在に前記リングを支持すると共に、該フレームを前記両摩擦車の軸線を含む平面内でかつ上記軸線に直交する回転軸を中心に回転自在に支持する。上記フレームを上記回転軸を中心に傾けることにより、前記リングは、摩擦車に対してヘリカルラインとなり、軸方向に移動して変速操作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−288049号公報
【特許文献2】特表2006−501425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載の変速操作装置は、リングが入力側及び出力側の両摩擦車に挟持される側に前記フォークを配置し、該フォークをピンにより揺動自在に支持したので、送りねじ軸により送りナットを移動することにより容易に変速操作が可能であると共に、送りねじ軸による送りナットの軸方向移動を停止することにより、リングは自律的に摩擦車の回転軸に対して直交する平面に位置することになり、変速操作を停止した中立位置を容易に得ることができる。
【0007】
しかし、上記フォークは、リングを一体に傾ける揺動支点となるピンが1個所に位置するため、該ピンがリングの摩擦車に対する接触点の上流側となる前記摩擦車の回転方向に対しては、上記変速操作及び変速停止操作がスムースに行われるが、上記回転方向と反対方向に摩擦車が回転する場合は、上記スムースな変速操作及び変速停止操作は困難となる。即ち、上記特許文献1に記載の変速操作装置は、正逆転を必要とするコーンリング式CVTに適用することはできない。
【0008】
一方、特許文献2に記載の変速操作装置は、リングを支持するフレームが前記回転軸を中心に揺動するため、リングを両摩擦車の軸線を含む平面に対して強制的に傾けることができ、摩擦車が正逆転しても同様に変速操作が可能である。しかし、該変速操作装置は、フレームを上記回転軸を中心に強制的に回動して変速操作するため、入出力側の両摩擦車の回転比(変速比)を常に検出して前記フレームの回転角度を制御する必要がある。例えば、変速操作を停止した中立位置に保持する場合も、定められた回転比を保つように上記フレームの回転角を常に制御する必要がある。
【0009】
そこで、本発明は、摩擦車の回転方向(正逆)に拘らず、変速操作が可能であると共に、リングは軸方向の移動及び移動停止により自律的に所定位置に保持される円錐摩擦リング式無段変速装置(コーンリング式CVT)を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、互いに平行な軸線(l−l)(n−n)上に配置されかつ大径側と小径側とが逆になるように配置された1対の円錐形状の摩擦車(22)(23)と、これら両摩擦車の一方(22)を囲むようにして両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリング(25)と、該リングを軸方向に移動して変速操作する変速操作手段(60)と、を備えてなる円錐摩擦車リング式無段変速装置(3)において、
前記変速操作手段(60)は、前記リング(25)の変速操作方向である前記軸方向に沿って平行に移動し得る移動部材(63)と、
前記移動部材(63)に、少なくとも該移動部材の移動方向に対して一体に配置され、かつ前記リング(25)を回転自在に支持し得る支持部材(67)(69)と、を備え、
前記支持部材は、前記リング(25)の回転方向に応じて、前記両摩擦車(22)(23)の軸線(l−l)(n−n)を含む平面に対して異なる位置における、前記リングが前記両摩擦車に挟持される接触部に対して回転上流側に近い側にて該リングを前記軸方向に位置決めして支持してなる、
ことを特徴とする円錐摩擦車リング式無段変速装置にある。
【0011】
なお、移動部材(63)の移動方向は、一般に、両摩擦車(22)(23)がリング(25)に接触する傾斜面に沿うように移動する。従って、前記リングの変速操作方向である軸方向とは、上記移動部材の移動方向を意味し、必ずしも摩擦車の軸線とは一致しない。
【0012】
例えば図2〜図11を参照して、前記支持部材は、前記両摩擦車(22)(23)の軸線(l−l)(n−n)を含む平面に対してそれぞれ異なる位置に配置された第1の支持部材(67)及び第2の支持部材(69)からなり、
前記第1及び第2の支持部材は、前記リング(25)が前記接触部に対して回転上流側に位置する状態では、前記リングを前記軸方向に位置決めし、かつ前記リングが前記接触部に対して回転下流側に位置する状態では、前記リングの前記軸方向の移動を許容するように支持する1対の作動部(70・・・)をそれぞれ有する。
【0013】
例えば図4及び図6ないし図11を参照して、前記作動部(70,70,70〜70)は、前記移動部材に回動自在に支持されたアーム(85)を有し、
前記第1及び第2の支持部材のうち前記回転上流側に位置する支持部材の前記アームは、その先端側が前記リング(25)の回転方向に順ずる方向の回動にて前記リングに近づき、かつストッパ(76)にて該近づいた位置に規定されて、前記リングを軸方向に位置決めし、
前記第1及び第2の支持部材のうち前記回転下流側に位置する支持部材の前記アームは、その先端側が前記リングの回転方向に順ずる方向の回動にて前記リングの軸方向移動を許容してなる。
【0014】
例えば図6ないし図10を参照して、前記アーム(85)は、その先端に回転部材(86)(93)(96)(100)(103)を少なくとも前記リング回転方向に順ずる方向に回転自在に支持してなる。
【0015】
例えば図4,図11を参照して、前記アーム(85)は、その先端に前記リング(25)に滑らかに摺接する摺接面(75)(105)を有してなる。
【0016】
例えば図5を参照して、前記作動部は(70)(70)、底面が傾斜面(80a)となる収容空間を有するケージ(80)と、該ケージの収容空間に、前記リング(25)の回転方向に移動自在に収納されるスプラグ(例えばボール81又は駒82)と、を備え、
前記第1及び第2の支持部材のうち前記回転上流側に位置する支持部材の前記スプラグは、前記リング(25)の回転方向に順じて前記収容空間の幅狭側に移動して、前記リングを軸方向に位置決めし、
前記第1及び第2の支持部材のうち前記回転下流側に位置する支持部材の前記スプラグは、前記リングの回転方向に順じて前記収容空間の幅広側に移動して、前記リングの軸方向移動を許容してなる。
【0017】
例えば図3及び図7ないし図11を参照して、前記リング(25)は、前記一方の摩擦車(22)の軸線(l−l)に直交する平面(m−m)にて回転するように、その断面が平行四辺形からなり、
前記1対の作動部(70,70〜70)は、前記リングの径方向に異なる両側面に対応するように、径方向に位置又は径方向長さが異なるように配置されてなる。
【0018】
例えば図2,図3を参照して、前記支持部材(67)(69)は、前記両摩擦車の軸線を含む平面に対して最も離れた位置において前記リング(25)を支持してなる。
【0019】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に記載の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る本発明によると、円錐摩擦車リング式無段変速装置が正逆転いずれにあっても、摩擦車との接触部の回転上流側に近い側にて支持部材によりリングを軸方向に位置決めして支持するので、無段変速装置の正逆転いずれの側でもリングを傾斜して滑らかに変速操作をすることができ、かつ面倒な制御を必要とすることなく、容易に変速操作及び中立位置で一定速保持を行うことができる。
【0021】
請求項2に係る本発明によると、無段変速装置の正逆いずれの回転であっても、摩擦車との接触部の回転上流側に位置する第1又は第2の支持部材が、その作動部によりリングの軸方向位置を規定し、かつ回転下流側に位置する第2又は第1の支持部材は、その作動部がリングに押されて軸方向に移動するので、移動部材の移動によりリングが傾斜して変速操作することができる。
【0022】
また、第1又は第2の支持部材は、リングの回転上流側を摘むように支持してリングを傾斜するので、移動部材の移動速度に追従した変速速度により変速操作され、かつ移動部材の移動を停止すると、リングは自律的に中立位置に保持され、無段変速装置は一定速状態となり、両摩擦車の回転速度を監視する等によるフィードバック等の制御を必要とすることなく、容易に変速操作を行うことができる。
【0023】
請求項3に係る本発明によると、作動部が回転自在に支持されたアームからなるので、リングの回転方向に応じて、アームは、リングの軸方向位置を規定する状態と、リングの軸方移動を許容する状態に自動的に容易かつ確実に切換えることができる。
【0024】
請求項4に係る本発明によると、アームの先端に回転部材を支持したので、該回転部材がリングに当接して回転して、作動部によるリングの軸方向位置を正確に規定することができると共に、リングの滑らかな回転を保持して、リング及び作動部の摩耗を減少して無段変速装置の耐久性を向上することができる。
【0025】
請求項5に係る本発明によると、アームの先端に、リングと滑らかに摺接するシュー等の摺接面を設けたので、比較的簡単な構成にてリングの滑らかな回転を保持することができる。
【0026】
請求項6に係る本発明によると、作動部が、ケージ及びスプラグからなるワンウェイクラッチ様からなるので、簡単でコンパクトな構成でもって、リングの軸方向位置決め及び軸方向の移動許容を確実に切換えることができる。
【0027】
請求項7に係る本発明によると、左右の作動部は、断面平行四辺形からなるリングの両側面に合せて、径方向位置又は長さを異ならせたので、作動部からの力は、リングの両側面の径方向中央に作用して、作動部からリングにモーメントを作用することがない。
【0028】
請求項8に係る本発明によると、リングの摩擦車との接触部に対して最も離れた位置にて、リングが支持部材により軸方向に規定されるので、リングの傾斜角(軸線に垂直な状態も含む)を安定して、変速操作及び一定速の保持操作を容易かつ確実に行うことができると共に、素早い応答で変速操作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明を適用し得るハイブリッド駆動装置を示す展開断面図。
【図2】本発明に係る円錐摩擦車リング式無段変速装置(コーンリング式CVT)を示す側面図。
【図3】上記コーンリング式CVTの変速操作手段部分を示す一部断面した正面図。
【図4】支持部材の作動部を示す概略図で、(A)はリングの軸方向位置を規定した状態、(B)はリングの軸方向移動を許容した状態を示す。
【図5】ワンウェイクラッチ方式による支持部材を示す正面断面図で、(A)は作動部がボールであり、(B)は作動部が駒である実施の形態を示す。
【図6】スイングローラ方式による支持部材を示す概略図。
【図7】作動部にボールベアリングを用いた支持部材を示し、(A)は正面断面図、(B)はそのB矢視図。
【図8】作動部にニードルベアリングを用いた支持部材を示し、(A)は正面断面図、(B)はそのB矢視図。
【図9】作動部にはローラを用いた支持部材を示し、(A)は正面断面図、(B)はそのB矢視図。
【図10】作動部にブッシュを用いた支持部材を示し、(A)は正面断面図、(B)はそのB矢視図。
【図11】作動部にシューを用いた支持部材を示し、(A)は正面断面図、(B)はそのB矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図面に沿って、本発明を適用したハイブリッド駆動装置を説明する。ハイブリッド駆動装置1は、図1に示すように、電気モータ2と、円錐摩擦車リング式無段変速装置(コーンリング式CVT)3と、ディファレンシャル装置5と、図示しないエンジンの出力軸と連動する入力軸6と、ギヤ伝動装置7とを有する。上記各装置及び軸は、2個のケース部材9,10を合せて構成されるケース11に収納されており、かつ該ケース11は、隔壁12により第1の空間Aと第2の空間Bとに油密状に区画されている。
【0031】
電気モータ2は、第1のケース部材9に固定されたステータ2aと出力軸4に設けられたロータ2bとを有し、出力軸4は、一方側端部が第1のケース部材9にベアリング13を介して回転自在に支持されていると共に他方側端部が第2のケース部材10にベアリング15を介して回転自在に支持される。出力軸4の一方側には歯車(ピニオン)からなる出力ギヤ16が形成されており、該出力ギヤ16はアイドラ歯車17を介して入力軸6に設けられた中間ギヤ(歯車)19に噛合している。
【0032】
コーンリング式CVT3は、入力部材である円錐形状の(一方の円錐形)摩擦車22と、出力部材である同じく円錐形状の(他方の円錐形)摩擦車23と、金属製のリング25とからなる。前記両摩擦車22,23は、その軸線l−l,n−nが互いに平行にかつ大径側と小径側が軸方向に逆になるように配置されており、上記リング25が、これら両摩擦車22,23の対向する傾斜面に挟持されるようにかつ両摩擦車のいずれか一方例えば入力側摩擦車22を取囲むように配置されている。両摩擦車の少なくとも一方には大きなスラスト力が作用しており、上記リング25は上記スラスト力に基づく比較的大きな挟圧力により挟持されている。具体的には、出力側摩擦車23と無段変速装置出力軸24との間には軸方向で対向する面にボールを介在した傾斜カムからなる軸力付与手段(図示せず)が形成されており、出力側摩擦車23に、伝達トルクに応じた矢印D方向のスラスト力が発生し、該スラスト力に対抗する方向に支持されている入力側摩擦車22との間でリング25に大きな挟圧力が生じる。
【0033】
入力側摩擦車22は、その一方側(大径側)端部がローラベアリング26を介して第1のケース部材9に支持されると共に、その他方側(小径側)端部がテーパードローラベアリング27を介して隔壁12に支持されている。出力側摩擦車23は、その一方側(小径側)端部がローラ(ラジアル)ベアリング29を介して第1のケース部材9に支持されると共に、その他方側(大径側)端部がローラ(ラジアル)ベアリング30を介して隔壁12に支持されている。該出力側摩擦車23に上述した矢印D方向のスラスト力を付与した出力軸24は、その他方側端がテーパードローラベアリング31を介して第2のケース部材10に支持されている。入力側摩擦車22の他方側端部は、ベアリング27のインナレースを段部及びナット32により挟持されており、該入力側摩擦車22にリング25を介して作用する出力側摩擦車23からのスラスト力が、上記テーパードローラベアリング27により担持される。一方、出力軸24には、出力側摩擦車23に作用するスラスト力の反力が反矢印D方向に作用し、該スラスト反力が上記テーパードローラベアリング31により担持される。
【0034】
上記リング25は、本発明に係る変速操作手段(後述)により軸方向に移動して、入力側摩擦車22及び出力側摩擦車23の接触位置を変更して、入力部材22と出力部材23との間の回転比を無段に変速する。上記伝達トルクに応じたスラスト力Dは、上記両テーパードローラベアリング27,31を介して一体的なケース11内にて互いに打消され油圧等の外力としての平衡力を必要としない。
【0035】
ディファレンシャル装置5はデフケース33を有しており、該デフケース33は、その一方側端部が第1のケース部材9にベアリング35を介して支持されていると共に他方側端部が第2のケース部材10にベアリング36を介して支持されている。該デフケース33の内部には軸方向に直交するシャフトが取付けられており、該シャフトにデフキャリヤとなるベベルギヤ37,37が係合されており、また左右のアクスル軸39l,39rが支持され、これらアクスル軸に上記デフキャリヤと噛合するベベルギヤ40,40が固定されている。更に、上記デフケース33の外部には大径のデフリングギヤ(歯車)41が取付けられている。
【0036】
前記無段変速装置出力軸24にギヤ(ピニオン)44が形成されており、該歯車44に前記デフリングギヤ41が噛合している。前記モータ出力ギヤ(ピニオン)16、アイドラ歯車17及び中間ギヤ(歯車)19、並びに無段変速装置出力ギヤ(ピニオン)44及びデフリングギヤ(歯車)41が前記ギヤ伝動装置7を構成している。上記モータ出力ギヤ16とデフリングギヤ41とが、軸方向でオーバラップするように配置されており、更に中間ギヤ19及び無段変速装置出力ギヤ44が、モータ出力ギヤ16及びデフリングギヤ41と軸方向でオーバラップするように配置されている。なお、無段変速装置出力軸24にスプライン係合されているギヤ45は、シフトレバーのパーキング位置にて出力軸をロックするパーキングギヤである。また、ギヤとは、歯車及びスプロケットを含む噛合回転伝達手段を意味するが、本実施の形態においては、ギヤ伝動装置は、すべて歯車からなる歯車伝動装置である。
【0037】
前記入力軸6は、ローラベアリング48にて第2のケース部材10に支持され、かつその一端にて無段変速装置3の入力部材22にスプラインSにより係合(駆動連結)しており、かつその他端側は、第2のケース部材10により形成される第3の空間C内に収納されるクラッチ(図示せず)を介してエンジンの出力軸に連動している。第2のケース部材10の上記第3の空間C側は開放されており、図示しないエンジンに連結される。
【0038】
前記ギヤ伝動装置7は、電気モータ2及び前記第1の空間Aと第3の空間Cとの軸方向間部分となる第2の空間B内に収納されており、該第2の空間Bは、第2のケース部材10と隔壁12とにより形成される。前記隔壁12の軸支持部分(27,30)は、オイルシール47,49により油密状に区画されていると共に、第2のケース部材10及び第1のケース部材9の軸支持部分もオイルシール50,51,52により軸封されて、上記第2の空間Bは油密状に構成されており、該第2の空間BにはATF等の潤滑用オイルが所定量充填されている。第1のケース部材9及び隔壁12で形成される第1の空間Aも、同様に油密状に構成されており、該第1の空間Aには、剪断力、特に極圧状態における剪断力の大きなトラクション用オイルが所定量充填されている。
【0039】
ついで、上述したハイブリッド駆動装置1の作動について説明する。本ハイブリッド駆動装置1は、ケース11の第3の空間C側を内燃エンジンに結合され、かつ該エンジンの出力軸をクラッチを介して入力軸6に連動して用いられる。エンジンからの動力が伝達される入力軸6の回転は、スプラインSを介してコーンリング式無段変速装置3の入力側摩擦車22に伝達され、更にリング25を介して出力側摩擦車23に伝達される。
【0040】
この際、両摩擦車22,23とリング25との間は、出力側摩擦車23に作用する矢印D方向のスラスト力により大きな接触圧が作用し、かつ第1の空間Aはトラクション用オイルが充填されているので、上記両摩擦車とリングとの間には、該トラクション用オイルの油膜が介在した極圧状態となる。この状態では、トラクション用オイルは大きな剪断力を有するので、該油膜の剪断力により両摩擦車とリングとの間に動力伝達が行われる。これにより、金属同士の接触でありながら、摩擦車及びリングが摩耗することなく、所定のトルクを滑ることなく伝達し得、かつリング25を軸方向に滑らかに移動することにより、両摩擦車との接触位置を変更して無段に変速する。
【0041】
該無段変速された出力側摩擦車23の回転は、その出力軸24、出力ギヤ44及びデフリングギヤ41を介してディファレンシャル装置5のデフケース33に伝達され、左右のアクスル軸39l,39rに動力分配されて、車輪(前輪)を駆動する。
【0042】
一方、電気モータ2の動力は、出力ギヤ16、アイドラ歯車17及び中間ギヤ19を介して入力軸6に伝達される。該入力軸6の回転は、先の説明と同様に、コーンリング式無段変速装置3を介して無段に変速され、更に出力ギヤ44、デフリングギヤ41を介してディファレンシャル装置5に伝達される。上記各ギヤ16,17,19,44,41,37,40からなるギヤ伝動装置7は、潤滑用オイルが充填される第2の空間Bに収納されており、各ギヤの噛合に際して潤滑用オイルが介在して滑らかに動力伝達される。この際、第2の空間Bの下方位置に配置されたデフリングギヤ41は、大径ギヤからなることと相俟って、潤滑用オイルをかき上げ、他のギヤ(歯車)16,17,19,44並びベアリング27,30,20,21,31,48に確実にかつ充分な量の潤滑用オイルを供給する。
【0043】
上記エンジン及び電気モータの作動形態、即ちハイブリッド駆動装置1として作動形態は、必要に応じて各種採用可能である。一例として、車輌発進時、クラッチを切断すると共にエンジンを停止し、電気モータ2のトルクのみにより発進し、所定速度になると、エンジンを始動して、エンジン及び電気モータの動力により加速し、巡航速度になると、電気モータをフリー回転又は回生モードとして、エンジンのみにより走行する。減速、制動時は、電気モータを回生してバッテリを充電する。また、クラッチを発進クラッチとして使用し、エンジンの動力により、モータトルクをアシストとして用いつつ発進するように用いてもよい。
【0044】
ついで、図2及び図3に沿って、本発明に係る円錐摩擦リング式無段変速装置(コーンリング式CVT)3について説明する。該無段変速装置3は、前述したように、入力側摩擦車22、出力側摩擦車23及びリング25からなり、これら両摩擦車及びリングが鋼等の金属からなる。両摩擦車22,23は、その軸線l−l、n−n(図1参照)が水平方向にあって互いに平行になるように配置され、かつ傾斜面が直線からなる円錐形状からなり、対向する両傾斜面の間にリング25が挟持される。リング25は、両摩擦車のいずれか一方、具体的には入力側(第1の円錐形)摩擦車22を囲むように配置され、その周方向に垂直な面での断面が略々平行四辺形からなり、その回転面m−mは、軸線l−lに対して略々直交するように設定されている。
【0045】
上記コーンリング式CVT3は、有底筒状の第1のケース部材9により一端側及びその全周側を覆われており、上記第1のケース部材9の開口側は隔壁12により蓋されて、第1の空間Aに油密状に収納されている。出力側(他方の円錐形)摩擦車23の軸23aが入力側(一方の円錐形)摩擦車22の軸22aより所定量上方に位置するように、両摩擦車は斜めに配置されており、入力側摩擦車22は、その上方、下方及び出力側摩擦車22と反対方向側方においてケース部材9との間に余裕をもって配置されている。上記入力側摩擦車22を囲んでいるリング25は、該入力側摩擦車とケース部材9との間の空間に配置されると共に、該リング25を軸方向に移動する変速操作手段60が配置されている。なお、図2において、ケース部材9の上方部分9Aは、電気モータ2が配置される部分、9Bは、ディファレンシャル装置5が配置される部分である。また、上記ケース部材9との間の上記入力側摩擦車22の下方空間Jはトラクション用オイルのオイル溜り59(オイルレベルを59aで表記)となっている。
【0046】
前記変速操作手段60は、入力側摩擦車22の上方空間Fに配置された送りねじ軸61と、前記オイル滑り59となる下方空間Jに配置されたガイドレール62と、入力側摩擦車22の出力側摩擦車23反対面を囲むように側方空間Gに配置された移動部材63と、を有する。送りねじ軸61及びガイドレール62は前記入力側摩擦車22を挟んだ上下位置にあって互いに平行に配置されており、かつ両円錐形摩擦車22,23が対向する斜面に沿うように平行に配置されている。送りねじ軸61は、ケース部材9に回転自在に支持されていると共に、モータ等の変速駆動手段が連動されており、アクセルペダル等の運転者の意思及び車輌の走行状況に応じた制御部からの駆動信号により適宜回転駆動される。
【0047】
移動部材63は、前記送りねじ軸61及びガイドレール62に亘って軸方向移動自在に支持されており、その上部に送りねじ軸61に螺合するボールナット65が固定されていると共に、その下部に前記ガイドレール62に軸方向移動自在に支持されるガイド部材66が固定されている。そして、上記移動部材63におけるボールナット65と反対面である内面側に上(第1の)支持部材67が設置されており、上記ガイド部材66の反対側である内面側に下(第2の)支持部材69が設置されている。上記上支持部材67と下支持部材69とは、入力側及び出力側の両摩擦車22,23の軸線l−l,n−nを含む平面に対して、異なる側に配置されることになるが、両支持部材67,69は、それぞれ上記軸線平面から最も離れた位置にてリング25を支持するように配置されている。
【0048】
前記上支持部材67及び下支持部材69は、リング25を挟むように支持し得ると共に、移動部材63と一体に移動して、リング25を軸方向に移動するものであるが、上及び下支持部材67,69は、リング25が両摩擦車22,23との接触部に引込まれる回転方向上流側にあってはリング25を両面から支持して軸方向に規定するように(摘むように)連動するが、上記接触部から押出される回転方向下流側にあってはリング25の軸方向移動(振れ)を許容する構造からなる。従って、リング25は、摩擦車の正逆どちらの回転にあっても、その上流側に位置する上下いずれかの支持部材67又は69により摘むように支持され、移動部材63の移動又は停止に基づく位置に応じて位置決めされ、上下いずれか他方の支持部材69又は67は、その際の上記移動又は停止におけるリング25の振れを許容して、リング25は自律的に支持される。
【0049】
なお、上下の支持部材67,69は、図3に示すように、同じ構成からなり、リング25の左右に配置される1対の作動部70,70を有するが、左右の作動部70,70の厚さ(径方向長さ)又は作用位置が異なるのは、リング25が摩擦車の軸線l−lに垂直な平面m−mになるように構成するため、断面を平行四辺形に形成したことに起因し、リング25の左右においてその中央部に支持力を作用するようにして、リングにモーメントが作用しないようにするためである。
【0050】
また、リング25は、軸方向移動を規定する回転上流側の支持部材67又は69と両摩擦車との接触部とでその傾斜角(軸線に直交する傾斜角0も含む)が定まるが、上記支持部材は、接触部と最も離れた位置にてリングを支持するので、リングの傾斜角は安定して、正確な変速操作並びに一定速の速度維持操作を容易に行うことができ、かつ移動部材63の移動速度に応じたリングの傾斜角が容易かつ確実に設定でき、素速い応答速度での変速が可能となる。
【0051】
ついで、前記支持部材67,69の具体的な構成について、図4〜図11に沿って説明する。なお、上下の支持部材は同じ構成からなるので、一方のみ示して他方を省略する場合がある。
【0052】
図4は、スイングアーム方式の支持部材67,69を示す。該支持部材の左右作動部70,70は、枢支軸73を中心に回動自在に支持されているスイングアーム85からなる。左右スイングアーム85,85は、リング25に対して鏡面対称に構成され、それぞれ移動部材63に固定された枠71に枢支軸73を介して回転自在に支持され、その先端にリング側面に接触し得るカム面(摺接面)75が形成されており、リングに近づく方向に回動に対してそれ以上の回動を規制するストッパ76が移動部材63の枠71等により形成されている。
【0053】
ハイブリッド駆動装置1を搭載した車輌が前進している状態では、図4(A)に示すように、コーンリング式CVT3が正転方向(リング25が矢印方向)に回転し、摩擦車との接触部に対してリング25の回転方向上流側となる下支持部材69が作動する。即ち、リング25が矢印方向の回転により、両スイングアーム85,85は、それぞれ引きずられてリング25に互いに近づく方向に回転し、ストッパ76に当接する。この状態では、両スイングアーム85,85の先端カム面75がリング25の両側面を支持するように軸方向位置を規定し、リング25は、該支持部材69によりその回転上流側を位置決め支持されて回転する。なお、この状態での両スイングアームカム面75,75の間隙は、リング25の幅より僅かに広く設定されており、オイルを介在してリング25の回転を許容しつつ軸方向移動を規制するようになっている。従って、上記アーム先端のカム面75は、リング25に滑らかに摺接する摺接面を構成する。右スイングアーム85に示されるように、スイングアームをリングに近づける方向に回転付勢するスプリング77を設けて、スイングアームが作動位置になるように付勢することが好ましい。なお、該スプリング77はなくてもよい。
【0054】
一方、摩擦車接触部に対するリング25の回転方向下流側となる上支持部材67は、図4(B)に示すように、リング25に当接するスイングアーム85(右側参照)は、該リング25の回転により引きずられてストッパ76から離れる方向に回動する。従って、スイングアーム85は、リング25の軸方向移動(振れ)を妨げることなく、リング25は自由に軸方向に移動して、リングの傾斜を妨げることはない。
【0055】
従って、送りねじ軸61の回転によりボールナット65を移動することにより、移動部材63は、ガイドレール62に案内されて、両摩擦車22,23の対向傾斜面に沿って平行に移動する。この状態で、リング回転の上流側となる下支持部材69は、その作動部である左右スイングアーム85がストッパ76に近接した状態にあってリング25を軸方向に位置決め支持しているので、リング25は、その回転上流側を下支持部材69に摘まれた状態で軸方向に移動し、上支持部材67がリング25の軸方向移動を許容していることが相俟って、上記移動部材63の移動速度に対応した角度で傾斜する。これにより、リング25は、入力側摩擦車22に対してヘリカル状になるので、上記角度に応じた速度で軸方向に移動し、入力側及び出力側の両摩擦車22,23との接触位置を変更することによりコーンリング式CVT3は変速操作される。
【0056】
送りねじ軸61を停止することにより、移動部材63の軸方向移動を停止すると、上下支持部材67,69も停止する。この状態では、回転上流側である下支持部材69のスイングアーム85はリング25を軸方向に位置決め支持した状態にあってその位置に停止しており、上支持部材67の両スイングアーム85はリング25の軸方向移動を許容する状態にある。従って、リング25は、回転上流側を一定位置に摘まれた状態で回転を続けるので、自律的にヘルカル角度が0、即ち両摩擦車の軸線l−l,n−nに対して垂直となる平面m−mで回転することになり、該位置での所定回転比に保持されて一定回転での回転を継続する。
【0057】
車輌が後進して、コーンリング式CVT3が逆転すると、上支持部材67が、図4(A)に示す摩擦車接触部に対するリング25の回転方向上流側となり、下支持部材69が、図4(B)に示す、リング25の回転方向下流側となり、前述した正転時と同様に、逆転時も作動する。
【0058】
図5は、ワンウェイクラッチ(OWC)方式の支持部材67,69を示す。支持部材は、リング25を挟むように配置され、移動部材63に固定して設けられた左右のケージ80を有しており、これらケージ80は、それぞれスプラグ(ボール又は駒)を収納しており、その収納空間の底面がリング25の回転面(m−m)に対して傾斜した傾斜カム面80aからなる。図5(A)は、上記ケージ80にそれぞれボール81が収納されており、図5(B)は、上記ケージにそれぞれ、前記カム面80aに沿って径方向に移動自在に駒(シュー)82が収納されている。上記ケージ80及びボール81又は駒82がリング25の回転方向により係脱するワンウェイクラッチのように作用し、左右の作動部70,70を構成する。
【0059】
図5(A)に沿ってボール作動部70からなる支持部材69,67について説明するに、車輌前進時にあってリング25が正転方向に回転する場合、リング25の回転に引きずられて下支持部材69のボール81はケージ80の傾斜カム面80aの幅狭方向に移動され、その収納空間の端面であるストップ面80bに当接する。リング25の回転下流側に位置する上支持部材67のボール81は、リング25の回転に引きずられて傾斜カム面80aの幅広方向に移動される。この状態では、下支持部材69がリング25を摘むように軸方向位置を位置決めし、上支持部材67がリング25の軸方向移動を許容する。
【0060】
一方、車輌の後進に伴うコーンリング式CVTの逆回転時にあっては、上支持部材67のボール81が規定位置となり、下支持部材69のボールが自由位置となる。これにより、先の実施の形態と同様に、正転時にあっては、リング回転の上流側に位置する下支持部材69のボール81によりリング25が位置決めされて変速又は定速保持し、逆転時にあっては、リング回転の上流側に位置する上支持部材67がボール81のリング25を位置決め支持して、変速又は定速保持する。なお、リングの軸方向に位置決めしている側の支持部材にあっても、ボール81はストップ面80bにより移動が制限され、ボール81はリング25との接触により空転して、リング25の回転を妨げるものではない。
【0061】
図5(B)の駒作動部70からなる支持部材67,69も、先のボール作動部と同様に、リング25の回転に引きずられて規定位置又は自由位置となる。更に加えて、リング25の回転方向により該リングに付着したオイルが、ケージ80の隙間gからケージ内の収納空間に導かれる。リング25が正転方向に回転する場合、下支持部材69のケージ80の収納空間にオイルが導入され、駒82に対して矢印で示す動圧pとして作用し、駒82を傾斜カム面80aの幅狭方向に移動する。この際、駒82とリング25との間には上記オイルが介在して潤滑状態となり、リング25の回転を妨げることはない。また、上支持部材67は、リング25の回転方向により上記オイルによる動圧pが駒82を傾斜カム面80aの幅広方向に移動して、リング25が自由に軸方向に振れることを可能とする自由状態となる。
【0062】
図6は、スイングローラ方式の支持部材を示し、リング25の正転で作動する支持部材67,69を示している。左右の作動部70は、移動部材63に固定された枠に軸73により回転自在に支持されたアーム85を有しており、該アームの先端にはローラ86が配置されている。両アーム85はリング25に近づく方向にスプリング77により付勢されており、かつ近づいた所定位置にて当接してそれ以上の回転を阻止するストッパ76が上記枠等により構成されている。該ストッパ76の位置は、アーム85がリング25の回転平面m−mに対して僅かに越える位置に設定されている。また、アーム85はリング25から離れる方向に対しても例えば10度程度で規制する規制部87が設けられている。
【0063】
そして、本実施の形態にあっては、ローラ86とアーム85先端の支持軸84との間にワンウェイクラッチ89が介在しており、これらワンウェイクラッチは、下支持部材69にあってはリング25の正転方向で該リングに接して自由回転を許容する方向であり、上支持部材67にあってはリングの逆転方向で該リングに接して自由回転を許容する方向である。
【0064】
従って、リング25が正転の場合、回転上流側に位置する下支持部材69(図6の右側参照)は、アーム85がスプリング77によりリング25に近づく方向に回動してストッパ76により位置決めされ、両ローラ86はリング25を支持して軸方向に位置決めする。この際、左右両ローラ86がリング25を軸方向に位置決めする位置にあり、該リング25に接触すると、ローラ86はワンウェイクラッチ89により自由回転し、リング25の回転を妨げることはない。
【0065】
一方、リング25が逆転の場合、下支持部材69(図6の左側参照)は、ローラ86がリング25に当接すると、アーム85がスプリング77に抗して回動して、リング25の軸方向移動(振れ)を許容する。この際、ローラ86は、リング25に当接して回転しようとするが、ワンウェイクラッチ89により回転は阻止され、リング25の逆方向回転に引きずられて、アーム85を回動する。
【0066】
上述説明は、正転及び逆転時について説明したが、正転時における上支持部材87が図面左側の作動部70に相当し、逆転時における上支持部材87が図面右側の作動部70に相当する。
【0067】
図7〜図11に沿って、支持部材67,69の各種具体例を説明する。支持部材67,69は、移動部材63における枠71の内径側に2本の頭付軸73,73が植設され、かつ止めピン90により枠71に抜止めされている。これら軸73にはそれぞれアーム85,85が回転自在に支持されており、かつアームボス85aと上記枠71との間にトーションスプリング91が介在して、両アームをリング25に近づく方向に付勢している。また、アーム85がリング25に近づく所定位置において、該アームが当接してその位置に保持されるストッパ76が上記枠71に設けられている。各両アーム85,85は、下支持部材69にあっては、リング25の正転方向にてそれぞれ先端が近づく方向に回動付勢されており、上支持部材67にあっては、リング25の逆転方向にてそれぞれ先端が近づく方向に回動付勢されている。
【0068】
図7(A),(B)に示す作動部70は、上記アーム85の先端に支持軸92が固定されており、該支持軸92にはその頭92aとアーム85との間に挟持されてボール(又はローラ)ベアリング93が装着されている。なお、左右のボールベアリング93は、断面が平行四辺形からなるリング25の側面に丁度当接するように、枠71の肉厚を変えることにより径方向位置が異なっている。
【0069】
従って、リング25の摩擦車接触部に対して回転上流側に位置する支持部(正転であっては下支持部材69、逆転であっては上支持部材67)の作動部70は、アーム85がトーションスプリング91により該リングに近づく方向に回転してストッパ76に当接した位置となる。この状態では、両ボールベアリング93,93がリング25を挟持して軸方向に位置決めされる。この際、ボールベアリング93は、そのアウタレースがリング25の側面に当接して回転し、リング25の回転を損うことがなく、かつ該リング25の軸方向位置を正確にかつ長期に亘って摩耗することなく位置決めすることができる。
【0070】
一方、リング25の回転下流側に位置する支持部材(正転であっては上支持部材67、逆転であっては下支持部材69)の作動部70は、リング25に引きずられてアーム85がストッパ76から離れるように回動して、リング25に押されて該リングの軸方向移動を許容する。この際も同様に、当接側のボールベアリング93は、リングに当接して回転し、リング25の回転を損うことがない。
【0071】
図8(A),(B)に示す作動部70は、上記アーム85が本体85cと蓋体85dの2つ割構造となっており、本体85cの先端に切欠き95を形成して、該切欠きと蓋体85dとの間でニードルベアリング96を装着支持する。上記本体85cと蓋体85dとは、上記ニードルベアリング96を装着した状態でねじ97により一体に固定される。
【0072】
本実施の形態にあっても、作動部であるニードルベアリング96がリング25に当接して回転し、リング25をスムースに回転すると共に正確に軸方向位置を位置決めする。
【0073】
図9(A),(B)に示す作動部70は、上記アーム85に凹部85eが形成されており、該凹部にローラ100が収納されて、頭付きピン101を介して回転自在に支持されている。上記ローラ100は、軸受鋼、合成樹脂、筒状の鉄の外周に自己潤滑性の優れたフッ素樹脂(PTFE)をコーティングしたもの又はセラミックからなる。
【0074】
本実施の形態は、作動部であるローラ100がリング25に当接して回転し、リングをスムースに回転するものでありながら、比較的簡単な構造で安価かつコンパクトに構成できる。
【0075】
図10(A),(B)に示す作動部70は、アーム85の先端がL字状に屈曲して支軸102として一体に形成しており、該支軸102に鋼等からなるブッシュ103が回転自在に嵌合している。
【0076】
本実施の形態も、作動部であるブッシュ103がローラチェーンのローラのように回転して、リング25のスムースな回転を保持すると共に、比較的簡単な構成からなる。
【0077】
図11(A),(B)に示す作動部70は、アーム85の先端に凹部85eが形成されており、該凹部にシュー105の脚部105aが収納されて、上記アーム85の先端にシュー105が頭付きピン101により取付けられている。シュー105は、鉄を基台としてその表面にフッ素コーティングを施したもの又はセラミックからなる。
【0078】
本実施の形態は、シュー105がリング25の側面に接触してリングを軸方向に位置決め又はリングによる押圧によりリングの軸方向移動を許容するが、この際シュー105が優れた自己潤滑状態により滑って、リング25の滑らかな回転を保持する。
【符号の説明】
【0079】
3 円錐摩擦車リング式無段変速装置(コーンリング式CVT)
22 一方の(入力側)摩擦車
23 他方の(出力側)摩擦車
25 リング
60 変速操作手段
61 送りねじ軸
62 ガイドレール
63 移動部材
67 第1の(上)支持部材
69 第2の(下)支持部材
70,70〜70 作動部
85 アーム
86,93,96,100,103 回転部材(ローラ、ボールベアリング、ニードルベアリング、ローラ、ブッシュ)
75,105 摺接面(カム面、シュー)
l−l,n−n 軸線
m−m 平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な軸線上に配置されかつ大径側と小径側とが逆になるように配置された1対の円錐形状の摩擦車と、これら両摩擦車の一方を囲むようにして両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリングと、該リングを軸方向に移動して変速操作する変速操作手段と、を備えてなる円錐摩擦車リング式無段変速装置において、
前記変速操作手段は、前記リングの変速操作方向である前記軸方向に沿って平行に移動し得る移動部材と、
前記移動部材に、少なくとも該移動部材の移動方向に対して一体に配置され、かつ前記リングを回転自在に支持し得る支持部材と、を備え、
前記支持部材は、前記リングの回転方向に応じて、前記両摩擦車の軸線を含む平面に対して異なる位置における、前記リングが前記両摩擦車に挟持される接触部に対して回転上流側に近い側にて該リングを前記軸方向に位置決めして支持してなる、
ことを特徴とする円錐摩擦車リング式無段変速装置。
【請求項2】
前記支持部材は、前記両摩擦車の軸線を含む平面に対してそれぞれ異なる位置に配置された第1の支持部材及び第2の支持部材からなり、
前記第1及び第2の支持部材は、前記リングが前記接触部に対して回転上流側に位置する状態では、前記リングを前記軸方向に位置決めし、かつ前記リングが前記接触部に対して回転下流側に位置する状態では、前記リングの前記軸方向の移動を許容するように支持する1対の作動部をそれぞれ有する、
請求項1記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置。
【請求項3】
前記作動部は、前記移動部材に回動自在に支持されたアームを有し、
前記第1及び第2の支持部材のうち前記回転上流側に位置する支持部材の前記アームは、その先端側が前記リングの回転方向に順ずる方向の回動にて前記リングに近づき、かつストッパにて該近づいた位置に規定されて、前記リングを軸方向に位置決めし、
前記第1及び第2の支持部材のうち前記回転下流側に位置する支持部材の前記アームは、その先端側が前記リングの回転方向に順ずる方向の回動にて前記リングの軸方向移動を許容してなる、
請求項2記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置。
【請求項4】
前記アームは、その先端に回転部材を少なくとも前記リング回転方向に順ずる方向に回転自在に支持してなる、
請求項3記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置。
【請求項5】
前記アームは、その先端に前記リングに滑らかに摺接する摺接面を有してなる、
請求項3記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置。
【請求項6】
前記作動部は、底面が傾斜面となる収容空間を有するケージと、該ケージの収容空間に、前記リングの回転方向に移動自在に収納されるスプラグと、を備え、
前記第1及び第2の支持部材のうち前記回転上流側に位置する支持部材の前記スプラグは、前記リングの回転方向に順じて前記収容空間の幅狭側に移動して、前記リングを軸方向に位置決めし、
前記第1及び第2の支持部材のうち前記回転下流側に位置する支持部材の前記スプラグは、前記リングの回転方向に順じて前記収容空間の幅広側に移動して、前記リングの軸方向移動を許容してなる、
請求項2記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置。
【請求項7】
前記リングは、前記一方の摩擦車の軸線に直交する平面にて回転するように、その断面が平行四辺形からなり、
前記1対の作動部は、前記リングの径方向に異なる両側面に対応するように、径方向に位置又は径方向長さが異なるように配置されてなる、
請求項2ないし6のいずれか記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置。
【請求項8】
前記支持部材は、前記両摩擦車の軸線を含む平面に対して最も離れた位置において前記リングを支持してなる、
請求項1ないし7のいずれか記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−185349(P2011−185349A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50645(P2010−50645)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】