説明

再充電可能なリチウム−イオン電池のためのレドックスシャトル

少なくとも1つの第三級炭素有機基および少なくとも1つのアルコキシ基で置換された芳香族化合物(例えば、2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼン)を含むレドックス化学シャトルが、再充電可能なリチウム−イオン電池において反復過充電保護を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年、4月1日に出願された米国仮出願第60/558,368号の出願日の利益を主張するものであり、その開示内容を参照により本願明細書に援用するものとする。
【0002】
本発明は、再充電可能なリチウム−イオン電池の過充電保護に関する。
【背景技術】
【0003】
適切に設計および構成されるとき、リチウム−イオン電池は、すぐれた充電−放電サイクル寿命を示すことができ、ほとんどまたは全く記憶効果を示さず、高い比エネルギーおよび体積エネルギーを示すことができる。しかしながら、リチウム−イオン電池は、サイクル寿命の低下、製造元によって推奨される再充電電位を超える電位まで再充電された電池の過熱、火災または爆発の危険を伴わずに推奨される再充電電位を超える電位まで再充電を許容できないことや、消費者の使用の電気的および機械的誤用に対する十分な許容度を有する大きな電池の製造が難しいことなど、いくつかの欠点がある。単一および接続された(例えば、直列接続された)リチウム−イオン電池は典型的に、個々の電池が推奨される再充電電位を超えないようにするために電荷制御電子機器を組み込む。この回路はコストがかかり、リチウム−イオン電池およびバッテリーを複雑にし、低コストの量販の電気および電子デバイス、例えばフラッシュライト、ラジオ、CDプレーヤー等におけるそれらの使用を阻んでいる。代わりに、これらの低コストのデバイスは典型的に、例えばアルカリ電池などの非再充電可能なバッテリーによって電力供給される。
【0004】
過充電保護を再充電可能なリチウム−イオン電池に与えるための様々な化学部分が提案されている。「レドックスシャトル」または「シャトル」と呼ばれる化学部分は、理論的には、充電電位が所望の値に達すると負電極と正電極との間で電荷を繰り返して輸送することができる酸化可能なおよび還元可能な電荷輸送種を提供する。ヒューズまたはシャントとして機能して一回限りまたは限定された時間の電池の過充電保護を与える材料もまた、提案されている。再充電可能なリチウム−イオン電池添加剤または再充電可能なリチウム−イオン電池構成に関する文献には、米国特許第4,857,423号明細書(アブラハム(Abraham)らの‘423号)、米国特許第4,888,255号明細書(ヨシミツ(Yoshimitsu)ら)、米国特許第4,935,316号明細書(レデイ(Redey))、米国特許第5,278,000号明細書(ホワン(Huang)ら)、米国特許第5,536、599号明細書(アラムギア(Alamgir)ら)、米国特許第5,709,968号明細書(シミズ(Shimizu))、米国特許第5,763,119号明細書(アダチ(Adachi))、米国特許第5,858,573号明細書(アブラハムらの‘573号)、米国特許第5,879,834号明細書(マオ(Mao))、米国特許第5,882,812号明細書(ヴィスコ(Visco)らの‘812号)、米国特許第6,004,698号明細書(リチャードソン(Richardson)らの‘698号)、米国特許第6,045,952号明細書(カー(Kerr)ら)、米国特許第6,074,776号明細書(マオら)、米国特許第6,074,777号明細書(ライマーズ(Reimers)ら)、米国特許第6,228,516B1号明細書(デントン(Denton),IIIら)、米国特許第6,248,481B1号明細書(ヴィスコらの‘481号)、米国特許第6,387,571B1号明細書(ライン(Lain)ら)、米国特許第6,596,439B1号明細書(ツカモト(Tsukamoto)ら)および米国特許第6,503,662B1号明細書(ハマモト(Hamamoto)ら)、米国特許出願公開第2002/0001756A1号明細書(ハマモトらの‘756号)、米国特許出願公開第2003/0068561A1号明細書(オカハラ(Okahara)ら)、米国特許出願公開第2004/0028996A1号明細書(ハマモトらの‘996号)および米国特許出願公開第2004/0121239A1号明細書(アベ(Abe)ら)、欧州特許第0776058B1号明細書(モリ・エナジー社(Moli Energy Ltd.)(1990))、特願平4−055585号公報(富士電気化学株式会社(Fuji Electro Chemical Co. Ltd.))、特開平5−036439号公報(ソニー・コーポレーション(Sony Corp.))、特開平5−258771号公報(富士電工株式会社(Fuji Denko、Co.Ltd.))、特開平6−338347号公報(ソニー・コーポレーション)、特開平7−302614号公報(ソニー・コーポレーション)、特開平8−115745号公報(日本電池株式会社)、特開平9−050822号公報(ソニー・コーポレーション)、特開平10−050342号公報(ソニー・コーポレーション)、特開平10−321258号公報(NECモリ・エナジー・カナダ社)、特開2000−058116号公報(三洋電機株式会社(Sanyo Electric Co.Ltd.))、特開2000−058117号公報(三洋電機株式会社)、特開2000−156243号公報(ソニー・コーポレーション)、特開2000−228215号公報(三洋電機株式会社)、特開2000−251932号公報(ソニー・コーポレーション)、特開2000−277147号公報(ソニー・コーポレーション)および特開2001−2103645号公報(三菱化学株式会社(Mitsubishi Chemicals Corp.))、PCT出願国際公開第01/29920A1号パンフレット(リチャードソンらの‘920号)および国際公開第03/081697A1号パンフレット(ゴー(Goh)ら);K.M.アブラハムら著、J.Electrochem.Soc.,137,1856(1988年)、L.レデイ著、The Electrochemical Society Fall Meeting,イリノイ州、シカゴ(Chicago,Illinois),Extended Abstracts,88−2(10月9−14、1988年)、K.M.コルボウ(K.M.Colbow)ら著、J.Power Sources 26,397−402(1989年)、S.R.ナラヤナン(S.R.Narayanan)ら著、J.Electrochem.Soc.,138,2224(1991年)、M.N.ゴロビン(M.N.Golovin)ら著、J.Electrochem.Soc.,139,5(1992年)、NTIS Funding Report No.17908,Optimization of Electrolyte Batteries、主調査員K.M.アブラハム(K.M.Abraham)著、Eic Laboratory,Inc.,(1992年)、A.M.ウィルソン(A.M.Wilson)ら著、J.Electrochem.Soc.,142,326−332(1995年)、T.J.リチャードソンら著、J.Electrochem.Soc.,143,3992−96(1996年)、「新技術:再充電可能な電池の過充電保護(“NEW TECHNOLOGY:Rechargeable Cell Overcharge Protection”)」,Battery & EV Technology,21,3(2月1日、1997年)、M.アダチら著、J.Electrochem.Soc.146,1256(1999年)、T.D.ハチャード(T.D.Hatchard)ら著、Electrochemical and Solid−State Letters,3(7)305−308(2000年)、D.D.マクネイル(D.D.MacNeil)ら著、A DSC Comparison of Various Cathodes for Li−ion Batteries,J.Power Sources,108(1−2):8−14(2002年)、D.Y.リー(D.Y.Lee)ら著、Korean Journal of Chemical Engineering,19,645(2002年)、スー(Xu)ら著、Electrochemical and Solid−State Letters,5(11)A259−A262(2002年)およびスーら著、Electrochemical and Solid−State Letters,6(6)A117−A120(2003年)などがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
提案されているレドックスシャトルのいくつかの評価は、反復過充電条件にかけるとき、それらの有効性を低下させるかあるいは他の方法で失い、従って不十分な反復過充電保護を提供することがあることを示す。また、いくつかの提案されたレドックスシャトルは、特定のリチウム−イオン電池化学に最も適した酸化電位を有するが、他のリチウム−イオン電池化学と共に使用するためにあまり適していない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1つの態様において、電荷保持媒体と、リチウム塩と、少なくとも1つの第三級炭素有機基および少なくとも1つのアルコキシ基で置換された芳香族化合物を含む循環可能なレドックス化学シャトルとを含む、リチウムイオンバッテリー電解質を提供する。
【0007】
本発明は、別の態様において、負電極;正電極;電荷保持媒体と、リチウム塩と、少なくとも1つの第三級炭素有機基および少なくとも1つのアルコキシ基で置換された芳香族化合物を含むと共にLi/Li+に対して正電極材料の電気化学的電位よりも大きい電気化学的電位を有する循環可能なレドックス化学シャトルと、を含む電解質を含む、再充電可能なリチウム−イオン電池を提供する。
【0008】
記載されたレドックス化学シャトルの例示的な実施態様は、すぐれた反復過充電安定性を示している。Li/Li+に対して約3.7〜約4.0Vの電位を有するレドックス化学シャトルの実施態様は、LiFePO4正電極に基づいた再充電可能な電池に使用するために特に適している。従って本発明は、さらに別の態様において、負電極と、LiFePO4を含む正電極と、電解質と、少なくとも1つの第三級炭素有機基および少なくとも1つのアルコキシ基で置換された芳香族化合物を含むと共にLi/Li+に対してLiFePO4の電気化学電位よりも大きい電気化学電位を有する循環可能なレドックス化学シャトルとを含む、再充電可能なリチウム−イオン電池を提供する。
【0009】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下の詳細な説明から明白であろう。しかしながら、いずれにしても、上記の概要は特許請求の範囲に記載される主題を限定するものとして解釈されるべきではなく、この主題は、添付の特許請求の範囲によってのみ定義され、出願手続中に補正されてもよい。
【0010】
様々な図面の同じ参照符号は同じ要素を示す。図面中の要素は縮尺通りではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
用語「負電極」は、普通の状況下でおよび電池が完全に充電される時に最低電位を有する一対の再充電可能なリチウム−イオン電池電極の一方を指す。このような電極が一時的に(例えば、電池の過放電のために)駆動されるかまたは他方の(正)電極の電位を超える電位を示す場合でも全ての電池動作条件下で同じ物理的電極を指すためにこの術語を用いる。
【0012】
用語「正電極」は、普通の状況下でおよび電池が完全に充電される時に最高電位を有する一対の再充電可能なリチウム−イオン電池電極の一方を指す。このような電極が一時的に(例えば、電池の過放電のために)駆動されるかまたは他方の(負)電極の電位を下回る電位を示す場合でも全ての電池動作条件下で同じ物理的電極を指すためにこの術語を用いる。
【0013】
用語「レドックス化学シャトル」は、リチウム−イオン電池を充電する間、電池の正電極において酸化され、電池の負電極に移動し、負電極において還元されて酸化されていない(またはより少なく酸化された)シャトル種を改質し、正電極に移動して戻ることができる電気化学的に可逆的な部分を指す。
【0014】
用語「循環可能な」は、レドックス化学シャトルと併せて使用されるとき、前記シャトルをそのラジカルカチオンに酸化するために十分な充電電圧および電池容量の100%に等しい過充電の充電流に暴露される時に少なくとも2サイクルの過充電保護を提供するシャトルを指す。
【0015】
用語「少なくとも1つの第三級炭素有機基で置換された」は、その第三級炭素原子を介して(すなわち、3個の他の炭素原子に結合した炭素原子を介して)有機基に結合した環原子を有する芳香族化合物を指す。第三級炭素有機基は例えば式−CR3で表すことができ、Rは、10個までの炭素原子、6個までの炭素原子、4個までの炭素原子、3個までの炭素原子、2個までの炭素原子または1個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0016】
用語「少なくとも1つのアルコキシ基で置換された」は、その酸素原子を介してアルコキシ基に結合した環原子を有する芳香族化合物を指す。アルコキシ基は例えば式−OR’で表すことができ、R’は、10個までの炭素原子、6個までの炭素原子、4個までの炭素原子、3個までの炭素原子、2個までの炭素原子または1個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0017】
文献(リチャードソンら著、J.Electrochem.Soc.Vol.143,3992(1996年))によって、単独にイオン化されたシャトルの最大シャトル電流は、
max=FADC/d, [1]
で求められ、上式中、Fがファラデー数であり、Aが電極面積であり、Dが(シャトルの酸化された形および還元された形の両方を考慮する)シャトル種の有効拡散定数であり、Cがシャトル種の全濃度であり、dが電極間の距離である。大きなシャトル電流を得るために、電解質は、大きな拡散定数Dをシャトルに与え、高いシャトル濃度、Cを維持するのがよい。シャトル拡散定数は通常、電解質溶液の粘度が減少するにつれて増加する。様々な電荷保持媒体が電解質中で使用されてもよい。例示的な媒体は、適した量の電荷を正電極から負電極に輸送するためにリチウム塩およびレドックス化学シャトルの十分な量を可溶化することができる液体またはゲルである。例示的な電荷保持媒体は、凍結または沸騰せずに広い温度範囲、例えば、約−30℃〜約70℃で使用可能であり、電池電極およびシャトルが動作する電気化学手段において安定している。代表的な電荷保持媒体には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−メチルカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピレンカーボネート、γ−ブチルロラクトン、メチルジフルオロアセテート、エチルジフルオロアセテート、ジメトキシエタン、ジグライム(ビス(2−メトキシエチル)エーテル)およびそれらの組合せなどがある。
【0018】
様々なリチウム塩を電解質中で使用してもよい。例示的なリチウム塩は選択された電荷保持媒体中で安定かつ可溶性であり、選択されたリチウム−イオン電池中で十分に機能し、LiPF6、LiBF4、LiClO4、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiAsF6、LiC(CF3SO23およびそれらの組合せなどが挙げられる。
【0019】
様々なレドックス化学シャトルを電解質中で使用してもよい。例示的なシャトルは、電池の所望の再充電電位よりもわずかに高いレドックス電位を有する。一般的な数の規準として、シャトルは例えば、正電極の再充電プラトーよりも約0.3〜約0.6V高いレドックス電位、例えば、Li/Li+に対して約3.7〜約4.7V、Li/Li+に対して約3.7〜約4.4V、Li/Li+に対して約3.7〜約4.2V、またはLi/Li+に対して約3.7〜約4.0Vを有する。例えば、LiFePO4正電極は、Li/Li+に対して約3.45Vの再充電プラトーを有し、このような電極と共に使用するための例示的なシャトルは、Li/Li+に対して約3.75〜約4.05Vのレドックス電位を有してもよい。同様に、LiMnPO4およびLiMn24電極は、Li/Li+に対して約4.1Vの再充電プラトーを有し、このような電極と共に使用するための例示的なシャトルは、Li/Li+に対して約4.4〜約4.7Vのレドックス電位を有してもよい。電池をシャトルのレドックス電位よりも充電させる場合、酸化されたシャトル分子は、印加された充電電流に相当する電荷量を負電極に搬送し、従って電池の過充電を防ぐ。特に好ましいシャトルは、各サイクルの間、前記シャトルをそのラジカルカチオンに酸化するために十分な充電電圧および電池容量の100%に等しい過充電の充電流において少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも35、少なくとも50または少なくとも100サイクルの過充電保護を提供するために十分に循環可能である。
【0020】
シャトルは、少なくとも1つの第三級炭素有機基および少なくとも1つのアルコキシ基で置換された芳香族化合物を含有する。上述のように、第三級炭素有機基は、式−CR3で表すことができ、各R基は独立に、10個まで、6個まで、4個まで、2個まで、または1個の炭素原子を有する。例示的な第三級炭素有機基は例えば12個まで、10個まで、8個まで、6個、5個、または4個までの炭素原子を有してもよい。いくつかのシャトルは、同一または異なっていてもよい2つまたは少なくとも2つの第三級炭素有機基を含有してもよい。同一の芳香環(例えば、ベンゼン環)上に位置している場合、第三級炭素有機基は例えば、互いにオルト、メタまたはパラに位置していてもよい。
【0021】
上述のように、アルコキシ基は式−OR’で表すことができ、R’は、10個まで、6個まで、4個まで、3個まで、2個まで、または1個の炭素原子を有するアルキル基である。例示的なアルコキシ基は例えば、1〜10個、1〜6個、2〜6個、1〜4個、1〜3個または1個の炭素原子を有してもよい。いくつかのシャトルは、同一または異なっていてもよい2つまたは少なくとも2つのアルコキシ基を含有してもよい。同一の芳香環上に位置している場合、アルコキシ基は例えば、互いにオルト、メタまたはパラに位置していてもよい。
【0022】
例示的なシャトルは例えば、接合または連結されている1〜3個の芳香環を含有してもよい。各芳香環は例えば炭素環であってもよい。このような芳香環の例には、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル等がある。
【0023】
他の置換基は、このような置換基がシャトルの電荷保持能力、酸化電位または安定性などの因子を不当に妨げない限り、シャトル芳香環上または第三級炭素有機基またはアルコキシ基上に存在してもよい。このような置換基の存在または非存在、および第三級炭素有機基およびアルコキシ基の相対的な向きがこのような因子に影響を与えることがある。例えば、電子吸引基はシャトルの酸化電位を上げることがあり、電子供与基はそれを低下させることがある。理論に縛られるものではないが、置換基、例えばハロゲン原子(例えば、塩素原子)、アミノ基、第一級炭素有機基(例えば、メチル基)、第二級炭素有機基(例えば、イソプロピル基)または容易に重合可能な基(例えば、アリル基)がいくつかの実施態様において安定性を低減することがあり、従ってシャトルがこのようないずれかのまたは全ての置換基を含有しないかまたはほとんど含有しないことが望ましい場合がある。また、理論に縛られるものではないが、第三級炭素有機基ほどバルキーでなく、電池動作条件下で低減された反応性を有する部分(例えば、ニトロ基、シアノ基、アルキルエステル基、または他の公知の電子吸引基)で環水素原子を置換する置換基が、いくつかの実施態様において安定性を増加させることができ、従って、4個以下、3個以下、2個以下、1個または0個の有効な環水素原子を有するシャトルを使用することが有用である場合があり、残りの環位置は、1つ以上のこのような置換基によって、および第三級炭素有機基およびアルコキシ基によって占められている。また、理論に縛られるものではないが、第三級炭素有機基およびアルコキシ基が互いに芳香環上にオルトに配置されるとき、いくつかの実施態様において、アルコキシ基に対してオルトの他の環原子が非置換であるかまたは第三級炭素有機基ほどバルキーでない置換基で置換されることが望ましい場合がある。また、シャトルは塩の形態であってもよい。
【0024】
代表的なシャトルには、置換アニソール(またはメトキシベンゼン)、例えば2−t−ブチル−アニソール、3−t−ブチル−アニソール、4−t−ブチル−アニソール、1−ニトロ−3−t−ブチル−2−メトキシベンゼン、1−シアノ−3−t−ブチル−2−メトキシベンゼン、1,4−ジ−t−ブチル−2−メトキシベンゼン、5−t−ブチル−1,3−ジニトロ−2−メトキシベンゼン、1,3,5−トリ−t−ブチル−2−メトキシベンゼンおよび2−t−ペンチル−アニソール;置換ジアルコキシベンゼン、例えば2−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼン、2,3−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼン、2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼン、2,5−ジ−t−ペンチル−1,4−ジメトキシベンゼン、2,5−ジ−t−ブチル−3,6−ジ−ニトロ−1,4−ジメトキシベンゼン、2,5−ジ−t−ブチル−3,6−ジ−シアノ−1,4−ジメトキシベンゼン、2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジエトキシベンゼン、4−t−ブチル−1,2−ジメトキシベンゼン、4,5−ジ−t−ブチル−1,2−ジメトキシベンゼン、4,5−ジ−t−ペンチル−1,2−ジメトキシベンゼンおよび4,5−ジ−t−ブチル−1,2−ジエトキシベンゼン;および置換アルコキシナフタレン、例えば4,8−ジ−t−ブチル−1,5−ジメトキシナフタレンなどがある。
【0025】
Li/Li+に対して異なった電気化学的電位を有する2つ以上のシャトルの混合物もまた、使用される。例えば、3.8Vにおいて機能する第1のシャトルおよび3.9Vにおいて機能する第2のシャトルの両方が単一電池において使用されてもよい。多くの充電/放電サイクル後に第1のシャトルが分解してその有効性を失う場合、第2のシャトル(第1のシャトルが機能している間、その間に酸化されてそのラジカルカチオンを形成していない)が取って代わり、過充電の損傷に対して安全性の付加的な(より高い電位ではあるが)許容範囲を与える。
【0026】
また、「再充電可能なリチウム−イオンバッテリーの過放電保護のためのレドックスシャトル(“REDOX SHUTTLE FOR OVERDISCHARGE PROTECTION IN RECHARGEABLE LITHIUM−ION BATTERIES”)」と題された2004年4月1日に出願された米国特許仮出願第60/558,509号明細書(その開示内容を参照により本願明細書に援用するものとする)にさらに記載されているように、シャトルは電池に対してまたは直列接続された電池のバッテリーに対して過放電保護を提供することができる。
【0027】
シャトルの電解質溶解度は、適した補助溶剤を添加することによって改良されてもよい。例示的な補助溶剤には、環状エステル系電解質を含有するLi−イオン電池と親和性の芳香族材料がある。代表的な補助溶剤には、トルエン、スルホラン、ジメトキシエタンおよびそれらの組合せがある。電解質は、当業者に公知の他の添加剤を含有してもよい。
【0028】
様々な負電極および正電極が本発明のリチウム−イオン電池において使用されてもよい。代表的な負電極には、Li4/3Ti5/34、米国特許第6,203,944号明細書(ターナー(Turner)の‘944号)、米国特許第6,255,017号明細書(ターナーの‘017号)、米国特許第6,436,578号明細書(ターナーらの‘578号)、米国特許第6,664,004号明細書(クラウス(Krause)らの‘004号)および米国特許第6,699,336号明細書(ターナーらの‘336号)、米国特許出願公開第2003/0211390A1号明細書(ダーン(Dahn)らの‘390号)、米国特許出願公開第2004/0131936A1号明細書(ターナーら)および2005/0031957A1(クリステンセン(Christensen)ら)、2004年9月1日に出願された係属中の米国特許出願第10/962,703号明細書に記載されたリチウム合金組成物、黒鉛状炭素、例えば、(002)結晶面の間の間隔d002が3.45Å>d002>3.354Åであり、粉末、フレーク、ファイバーまたは球(例えば、メソカーボンマイクロビード)などの形態で存在する黒鉛状炭素、当業者に公知の他の材料;およびそれらの組合せなどがある。代表的な正電極には、LiFePO4、LiMnPO4、LiMn24、LiCoPO4、およびLiCoO2、米国特許第5,858,324号明細書(ダーンらの‘324号)、米国特許第5,900,385号明細書(ダーンらの‘385号)、米国特許第6,143,268号明細書(ダーンらの‘268号)および米国特許第6,680,145号明細書(オブロヴァック(Obrovac)らの‘145号)、米国特許出願公開第2003/0027048A1号明細書(ルー(Lu)ら)、米国特許出願公開第2004/0121234A1号明細書(リ(Le))および米国特許出願公開第2004/0179993A1号明細書(ダーンらの‘993号)、2003年11月26日に出願された係属中の米国特許出願第10/723,511号明細書、2004年9月1日に出願された係属中の米国特許出願第10/962,703号明細書、および2005年2月7日に出願された係属中の米国特許出願第11/052,323号明細書に開示されているようなリチウム遷移金属酸化物、それらの組合せおよび当業者に公知の他の材料がある。いくつかの実施態様において、正電極がLiFePO4など、Li/Li+に対して約3.45VまたはLiMnPO4またはLiMn24など、Li/Li+に対して約4.1Vの再充電プラトーを有することが望ましいことがある。負電極または正電極は、当業者に公知であるような添加剤、例えば、負電極についてはカーボンブラックおよび正電極についてはカーボンブラック、フレーク黒鉛等を含有してもよい。
【0029】
開示された電池は、ポータブルコンピュータ、タブレットディスプレイ、パーソナルディジタルアシスタント、移動電話、モーターを備えた装置(例えば、個人用または家庭電気器具および車)、器具、照明装置(例えば、フラッシュライト)および加熱装置など、様々なデバイスに使用されてもよい。開示された電池は、フラッシュライト、ラジオ、CDプレーヤー等の低コストの量販の電気および電子デバイスに特に有用である場合があり、それらはこれまでは通常、アルカリ電池などの非再充電可能なバッテリーによって電力供給されている。電解質の使用および再充電可能なリチウム−イオン電池の構成および使用に関するさらなる詳細は当業者に公知である。
【0030】
本発明は以下の具体的な実施例においてさらに説明され、特に記載しない限り、全ての部およびパーセンテージは重量に基づいている。
【実施例】
【0031】
実施例1〜6および比較例1〜4
負電極を以下の手順を用いてLi4/3Ti5/34(K.M.コルボウ(K.M.Colbow)、R.R.ヘーリング(R.R.Haering)およびJ.R.ダーン(J.R.Dahn)著、「スピネル酸化物LiTi24とLi4/3Ti5/34との構造および電気化学(“Structure and Electrochemistry of the Spinel Oxides LiTi24 and Li4/3Ti5/34”)」J.Power Sources,26,397−402(1989年)に示された手順によって合成された)から作製するかまたはメソカーボンマイクロビード(カナダ、B.C、メイプル リッジのE・ワン/モリ・エナジー・カナダ(E−One/Moli Energy Canada)から得られた「MCMB」、3.45>d002>3.354Åの黒鉛状炭素)から作製した。100部の負電極活性材料(すなわち、Li4/3Ti5/34またはMCMB)、5部のキナル(KYNAR)(登録商標)301Pポリフッ化ビニリデン(ペンシルベニア州、フィラデルフィアのアトフィナ・ケミカルズ(Atofina Chemicals,Philadelphia,PA)から市販されている)および5部のスーパー(SUPER) S(登録商標)カーボンブラック(ベルギー、タートルのMMMカーボン(MMM Carbon,Tertre,Belgium)から市販されている)をN−メチルピロリジノンと混合してスラリーを形成した。直径6.35mmの酸化ジルコニウム結合サテライト球状媒体(zirconium oxide banded satellite spherical media)であるジルコア(ZIRCOA(登録商標))(オハイオ州、ソロンのジルコア社(Zircoa,Inc.,Solon,OH)から市販されている)の球を保有するポリエチレン瓶中で十分に混合した後、スラリーを銅箔集電体上に薄いフィルムとしてコーティングした。得られたコーティングされた電極箔を空気中で一晩、90℃において乾燥させた。個々の直径1.3cmの電極ディスクを、パンチを用いて電極箔から切り分けた。LiFePO4(カナダ、ケベック州、ステ・フォイのホステック・リチウム(Phostech Lithium,Ste−Foy,Quebec,Canada)から市販されている)を活性材料として用いて同じ方法で正電極を作製したが、ただし、コーティングをアルミニウム箔に適用した。
【0032】
電解質を調製するために、リチウムビソキサラトボレート(ドイツ、トロイスドルフのディナミト・ノーベル・AGのケメタル・グループ(Chemetall Group,Dynamit Nobel AG,Troisdorf,Germany)から市販されている「LiBOB」)およびLiPF6(日本のステラ・ケミファ・コーポレーション(Stella Chemifa Corp.,Japan)によって製造され、E・ワン/モリ・エナジーから得られた)から選択されたリチウム塩を用いて、表1に示された成分を一緒に混合した。また、電解質は、エチレンカーボネート(E・ワン/モリ・エナジーから得られた「EC」)、プロピレンカーボネート(E・ワン/モリ・エナジーから得られた「PC」)、ジエチルカーボネート(E・ワン/モリ・エナジーから得られた「DEC」)およびジメチルカーボネート(E・ワン/モリ・エナジーから得られた「DMC」)から選択された電荷保持媒体を含有した。電解質Cはさらに、可溶化助剤としてトルエン(ウィスコンシン州、ミルウォーキーのアルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Co.,Milwaukee,WI)から市販されている)を含有した。様々な量の循環可能なレドックス化学シャトル2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼン(CASNo.7323−63−9、ウィスコンシン州、ミルウォーキーのアルドリッチ・ケミカル・カンパニーからカタログ番号S661066として市販されている)を場合により各電解質に添加した。
【0033】
A.M.ウィルソン(A.M.Wilson)およびJ.R.ダーン(J.R.Dahn)著、J.Electrochem.Soc.,142,326−332(1995年)に記載されているようにコイン型試験電池を2325コイン電池器材に組み込んだ。2325コイン電池10の分解斜視略図が図9に示される。ステンレス鋼キャップ24および耐酸化性ケース26が電池を含有し、それぞれ、負および正のターミナルとして役立つ。負電極14は、上述のように銅箔集電体18上にコーティングされたLi4/3Ti5/34またはMCMBから形成された。正電極12は、上述のようにアルミニウム箔集電体16上にコーティングされたLiFePO4から形成された。セパレータ20は、電解質で湿潤された、25マイクロメートルの厚さを有するセルガード(CELGARD(登録商標))No.2500微孔性材料から形成された。ガスケット27がシールを設け、2つのターミナルを分離した。電池が閉じられるまでクリンプされるとき、強固に圧縮された積層体が形成された。特に記載しない限り、すべての電池を大体「バランスのとれた」構成で組み立てて、すなわち、負電極容量が正電極の容量に等しい。E・ワン/モリ・エナジーによって製造されたコンピュータ制御された充電−放電試験装置を用いて、組み立てられた電池を30℃または55℃において「C/5」(5時間の充電および5時間の放電)または「C/2」(2時間の充電および2時間の放電)の率でサイクルにかけた。Li4/3Ti5/34から作製された負電極およびLiFePO4から作製された正電極は各々、140mAh/gの比容量を有した。従って140mA/gの比電流が完全に充電された電極を1時間で放電することができ、140mA/gは、これらの電極について“1C”の率を表す。これらの電池は、1.0または1.3Vに放電され、定容量のためにまたは2.65Vの上方カットオフが達せられるまで充電された。Li4/3Ti5/34はLi/Li+に対して1.56V付近のプラトー電位を有するので、Li4/3Ti5/34に対して1.0、1.3および2.65Vのカットオフ電位はLi/Li+に対して約2.56、2.86および4.21Vの電位に相当する。MCMBから作製された負電極は280mAh/gの比容量を有した。従って280mA/gの比電流が完全に充電された電極を1時間で放電することができ、280mA/gはこれらのMCMB電極について1Cの率を表す。LiFePO4正電極およびMCMB負電極を用いる電池は正電極に関係づけられたC率で充電および放電されたが、電池のバランスのとれた電極構成のために、負電極に関係づけられたC率はほとんど同じであった。MCMB負電極の電池が2.5Vに放電され、定容量のためにまたは4.0Vの上方カットオフが達せられるまで充電された。バランスのとれた電極構成のために、LiFePO4が完全に充電される時にMCMB電極はLi/Li+に対して0.0Vに達し、従ってMCMBに対して4.0Vのカットオフ電位はLi/Li+に対して約4.0Vである。
【0034】
結果を以下の表1および図1a〜図6に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
図1aおよび図1bの上側の欄はそれぞれ、試験中の実施例1の電池および比較例1の電池の充電(曲線「C」)および放電(曲線「D」)のカソード容量を示す。概して、過充電シャトルを含有する電池については、平らなおよび広範囲に分離されたCおよびD曲線が望ましい。下側の欄はそれぞれ、試験中の実施例1の電池および比較例1の電池の電位対カソード比容量の重ね合わせたものを示す。概して、充電電圧においてオーバーシュート(すなわち、電圧ノイズ)がなく、平らなプラトー(すなわち、傾きが小さいかまたは無い電圧プロット)が望ましい。実施例1および比較例1の電池は、Li4/3Ti5/34負電極、LiFePO4正電極およびLiBOBベースの電解質を使用した。電池を30℃においてC/5でサイクルにかけた。(図1bに示された)比較例1の電池は、その電解質にシャトルを含有しなかった。電池の電圧は、充電する間、2.4Vよりも増加した。対照的に、(図1aに示された)実施例1の電池はシャトルをその電解質に含有し、過充電する間、その電圧が約2.4Vに固定された(図1aの下側の欄の2.4Vにおける平らなプラトーによって示される)。シャトルの段階の初めに、実施例1の電池の電位は短い間、2.4Vを超えた。これは、正電極および負電極の容量のわずかな不均衡によってもたらされたと考えられる。この場合、負電極容量はわずかに小さかった。それにもかかわらず、安定なシャトル効果が多くのサイクルにわたって観察された。
【0037】
図2aおよび図2bは、実施例2の電池および比較例2の電池の充電−放電サイクル挙動を示す。これらの電池は、実施例1および比較例1の電池に似ているが、よりバランスのとれた電極構成において使用され、55℃においてサイクルにかけられた。(図2bに示された)比較例2の電池は、その電解質にシャトルを含有しなかった。充電する間、電池の電圧を2.4Vよりも増加させることができた。対照的に、(図2aに示された)実施例2の電池は、その電解質にシャトルを含有し、過充電する間、その電圧が約2.4Vに固定された。シャトル効果は55℃においても維持され、図1aにおいて見られた不均衡に引き起こされた初期電圧ノイズは存在しなかった。
【0038】
図3aおよび図3bは、実施例3の電池および比較例3の電池の充電−放電サイクル挙動を示す。これらの電池は実施例2および比較例2の電池に似ていたが、トルエン補助溶剤とより高いシャトル濃度を含有するLiPF6ベースの電解質を使用した。電池を30℃においてサイクルにかけた。(図3bに示された)比較例3の電池はその電解質にシャトルを含有しなかった。充電する間、電池の電圧を2.4Vよりも増加させることができた。対照的に、(図3aに示された)実施例3の電池はその電解質にシャトルを含有し、過充電する間、その電圧が約2.4Vに固定された。シャトル効果は、トルエンが電解質中に存在する時でも維持され、0.22Mのシャトル濃度は、実施例1および実施例2の電解質中の2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼンの約0.09Mの室温での最大溶解度よりも実質的に大きかった。図3cはその下側の右隅に、1.3MのLiPF6PC:DMC 1:2、トルエンおよび2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼンの混合物から生じる単一相電解質系の影付き領域を示す。この領域において、トルエンの添加により、開示された電解質中の2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼンの溶解度を改良することができる。
【0039】
図4aおよび図4bは、実施例4の電池および比較例4の電池の充電−放電サイクル挙動を示す。これらの電池は、MCMB負電極、LiFePO4正電極およびLiBOBベースの電解質を使用した。電池を30℃においてC/2でサイクルにかけた。(図4bに示された)比較例4の電池はその電解質にシャトルを含有しなかった。充電する間、電池の電圧を4.0Vよりも増加させることができた。対照的に、(図4aに示された)実施例4の電池はその電解質にシャトルを含有し、過充電する間、その電圧が約3.9Vに固定された。シャトル効果は、C/2の率においても維持された。
【0040】
図5は、実施例5の電池の充電−放電サイクル挙動を示す。この電池は、Li4/3Ti5/34負電極、LiFePO4正電極およびLiPF6ベースの電解質を使用した。電池を30℃においてC/5でサイクルにかけた。電池の放電容量は充電−放電サイクル数によって減少したが、安定な充電容量(上側の欄)および下側の欄の2.4V(Li/Li+に対して約3.9V)における長い過充電プラトーによって示されるような安定なシャトル効果を提供することによって、シャトルは適切に機能し続けた。
【0041】
図6は、実施例6の電池の充電−放電サイクル挙動を示す。この電池は、MCMB負電極、LiFePO4正電極およびLiPF6ベースの電解質を使用した。電池を30℃においてC/5でサイクルにかけた。電池の放電容量は充電−放電サイクル数によって減少したが、安定な充電容量(上側の欄)および下側の欄のLi/Li+に対して約3.9Vにおける長い過充電プラトーによって示されるような安定なシャトル効果を提供することによって、シャトルは適切に機能し続けた。
【0042】
実施例7
実施例4において作製されたコイン電池と同様な2325コイン電池を、“C/2.5”(2.5時間の充電および放電率)試験サイクルを用いて評価した。結果を図7aおよび図7bに示し、図7bは、試験中の4回の時間範囲についてサイクル毎の電池の電位を示す。シャトルは、200サイクル後でもすぐれた安定性を示し、1440時間においても比較的平らな充電電圧プラトーを提供し続けた。図7aおよび図7bの調製の後、電池をモニタし続けた。電池は3000時間のサイクルを上回り、シャトルはすぐれた安定性を示し続け、比較的平らな充電プラトーを提供した。
【0043】
実施例8
実施例1の電池と同様な2325コイン電池を、よりきついシールを提供する2段階クリンプ手順を用いて作製した。電池はLi4/3Ti5/34負電極を使用し、PC:DMC:EC:DECの1:2:1:2モル比の混合物において電解質として0.8M LiBOBを含有した。電池を55℃において過充電/放電試験にかけた。結果は図8aおよび図8bに示されるが、45サイクルおよび約1200時間後にすぐれたシャトル安定性を示す。
【0044】
実施例9〜11および比較例5
様々なシャトル分子(アルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Co.)から得られ、追加的に精製せずに使用した)をLiFePO4/黒鉛およびLiFePO4/Li4/3Ti5/34コイン電池において試験した。LiFePO4は実施例1の場合と同様にホステック・リチウム(Phostech Lithium)から得られ、Li4/3Ti5/34はNEI・コーポレーション(NEI Corp.)(米国、ニュージャージー州のピスキャタウェイ(Piscataway,NJ,USA))から得られた。使用された黒鉛は、2650℃付近に熱処理されたメソカーボンマイクロビード(MCMB)であった。電極は、活性材料の10重量%のスーパー・S・カーボンブラック(ベルギーのMMMカーボン)および10重量%のPVDFバインダーから作製された。LiFePO4およびLi4/3Ti5/34電極はアルミニウム箔上にコーティングされ、MCMB電極は銅箔上にコーティングされた。負電極の20%容量超過を使用し、Li−イオン電池がLi0FePO4に相応する完全に充電された状態に達した時に負電極がLi/Li+に対して安定なおよび公知の電位を有することを確実にした。電解質は、PC:DMC:EC:DECの1:2:1:2体積比の混合物中の0.7M LiBOBであった。シャトル分子を0.1Mの濃度において添加した。標準再充電に相当する電流を用いて10時間で(C/10)それらの標準充電容量の200%まで(100%の過充電)、または規定上方カットオフ電位(通常、Li/Li+に対して4.9V)が達せられ、それが最初に起こるまでコイン電池を充電し、シャトルが機能し終わるまで試験した。4つのシャトル、すなわち、1,3,5−トリ−t−ブチル−2−メトキシベンゼン(実施例9)、5−t−ブチル−1,3−ジニトロ−2−メトキシベンゼン(実施例10)、2−t−ブチル−4,6−ジニトロ−5−メチルアニソール(実施例11)および4−t−ブチル−2,6−ジアミノアニソール(比較例10)を使用した。コイン電池の試験結果を以下の表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果は、様々な置換基の効果を示す。比較例10において、付加された電子供与アミノ置換基の数および位置は、選択された電池化学において置換アニソールがシャトルとして機能するのを明らかに妨げた。
【0047】
実施例12
図10は、PC:DECの1:2(体積比)混合物、EC:DECの1:2混合物、PC:DMCの1:2混合物またはPC:DMCの1:1混合物に溶解されたLiPF6またはLiBOBリチウム塩の様々なモル濃度溶液中の2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼンの最大溶解度を示す。溶解度の限界は、長時間にわたって混合した後、目視により確認された。図10は、全ての場合において、リチウム塩濃度が増加する時にシャトル溶解度が減少することと、同一のモル濃度を有するLiPF6またはLiBOBの溶液においてシャトル溶解度は大きく異ならなかったこととを示す。
【0048】
1:2PC:DEC中の0.2M 2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼンおよび0.5M LiBOBを用いて作製されたコイン電池でさらに試験を実施した。電池をシャトルの機能に相当する電圧プラトー(すなわち、シャトルがLiFePO4正電極において酸化された電位、この場合、Li/Li+に対して約3.9Vの電位)まで充電し、次いで電流を順次に増加させた。図11は、Imax(上の式1を参照のこと)が3.0mA〜3.5mAであったことを示す。この電池については、シャトルは単独でイオン化され、初期に推定された電極面積は1.3cm2であり、初期に推定された電極間隔は、25μmのセパレータによって画定された。シャトルの電位対印加電流の測定に基づいて、有効拡散定数Dは約7×10-7cm2/秒であると推定され、シャトルによって保持された最大電流密度は、約2.3mA/cm2であると推定された。サイクリックボルタンメトリーを用いて、シャトル拡散定数を測定すると1.6×10-6cm2/秒であった。セパレータが100%多孔性ではなく、その細孔がくねり(toruosity)を示す(すなわち、細孔が、セパレータを通して直線路を提供しない)ことを知ることによって推定されたシャトル拡散定数と実際のシャトル拡散定数とを調整することができる。従って、有効面積は1.3cm2未満であり、有効長は25μmより大きい。
【0049】
拡大シャトル保護過充電試験においてImaxの1/3まで電流を測定するためにさらに試験を実施した。図12は、各サイクルの間100%の過充電を有する長時間のサイクルを行なう間、1:2PC:DEC中に0.2M 2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼンおよび0.5M LiBOBを含有するLiFePO4/黒鉛電池について電位対時間を示す。Li−イオンコイン電池が完全に充電される時に黒鉛電極はLi/Li+に対して0V付近であるので、シャトルプラトーは3.9V付近である。充電電流は0.55mAであったが、それはこの電池の電極について約C/2率に相当する。シャトルは、200回の充電放電サイクルの後に十分に機能し続ける。図13は、この電池の電極について約C−率に相当する、1.1mAの充電電流における電位対時間を示す。この場合、シャトルは、約190サイクルの間、過充電に対して保護することができ、その後、次の数サイクルについてシャトル効果の消失があった。過充電保護の終わり近く、シャトルプラトーが徐々に増え、次いで最終的に急速に増加した。印加電流がC/10に低減されたとき、シャトル効果が再び出現し、かなりの濃度のシャトル分子がまだ電池内に残っていることを示した。高いC率におけるシャトル効果の損失は、完全に放電された状態に達する前にLi4/3Ti5/34負電極がそのプラトー電位(1.55V)を下回ったためであった可能性がある。
【0050】
シャトル保護過充電または過放電の間に生じた熱は極小熱量測定を用いて測定され、電流源によって電池に供給された電力(I×V、Iが電流であり、Vが電圧である)に関連していることがわかった。18650電池の公知の熱パラメータを用いて、シャトル保護過充電の間約400mAより大きい電流で充電することによって、電池が積極的に冷却されなければ電池温度が50℃を超えることが推計された。
【0051】
図14は、C/2およびC充電率において図12および図13に示された電池について、およびLi4/3Ti5/34電極を用いて作製された同様な電池について放電容量対サイクル数を示した。各々の場合において非常に良好な容量の保持が観察された。
【0052】
本発明の多数の実施態様が記載されている。それにもかかわらず、様々な改良が本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく実施できることは理解されよう。したがって、他の実施態様は、特許請求の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1a】実施例1の電池についての容量対サイクル数(上欄)および電池の電位対カソード比容量(下欄)を示すプロットである。
【図1b】比較例1の電池についての容量対サイクル数および電池の電位対カソード比容量を示すプロットである。
【図2a】実施例2の電池についての容量対サイクル数および電池の電位対カソード比容量を示すプロットである。
【図2b】比較例2の電池についての容量対サイクル数および電池の電位対カソード比容量を示すプロットである。
【図3a】実施例3の電池についての容量対サイクル数および電池の電位対カソード比容量を示すプロットである。
【図3b】比較例3の電池についての容量対サイクル数および電池の電位対カソード比容量を示すプロットである。
【図3c】実施例3の電解質系の単一相領域を示す三角形のプロットである。
【図4a】実施例4の電池についての容量対サイクル数および電池の電位対カソード比容量を示すプロットである。
【図4b】比較例4の電池についての容量対サイクル数および電池の電位対カソード比容量を示すプロットである。
【図5】実施例5の電池についての容量対サイクル数および電池の電位対カソード比容量を示すプロットである。
【図6】実施例6の電池についての容量対サイクル数および電池の電位対カソード比容量を示すプロットである。
【図7a】実施例7の電池についての容量対サイクル数および電池の電位対カソード比容量を示すプロットである。
【図7b】実施例7の電池の充電−放電試験の4つの異なった時間間隔についての連続充電−放電サイクルの間の電池の電位を示すプロットである。
【図8a】実施例8の電池についての容量対サイクル数および電池の電位対カソード比容量を示すプロットである。
【図8b】実施例8の電池の充電−放電試験の4つの異なった時間間隔についての連続充電−放電サイクルの間の電池の電位を示すプロットである。
【図9】電気化学電池の分解斜視略図である。
【図10】様々な電解質溶液への実施例1のシャトルの溶解度を示すプロットである。
【図11】実施例12の電池について充電電流の増加時の電位を示すプロットである。
【図12】実施例12の電池について放電容量対サイクル数を示すプロットである。
【図13】実施例12の電池について放電容量対サイクル数を示すプロットである。
【図14】実施例12の電池について容量対サイクル数を示すプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷保持媒体と、リチウム塩と、少なくとも1つの第三級炭素有機基および少なくとも1つのアルコキシ基で置換された芳香族化合物を含む循環可能なレドックス化学シャトルとを含む、リチウムイオン電池電解質。
【請求項2】
前記電荷保持媒体が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタンまたはそれらの組合せを含み、前記リチウム塩が、LiPF6、リチウムビス(オキサラト)ボレートまたはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
前記芳香族化合物が単一有機環を有する、請求項1に記載の電解質。
【請求項4】
前記芳香族化合物が2つの第三級炭素基で置換され、各々の第三級炭素基が12個までの炭素原子を独立に有する、請求項1に記載の電解質。
【請求項5】
前記第三級炭素基がt−ブチルである、請求項1に記載の電解質。
【請求項6】
前記芳香族化合物が2つのアルコキシ基で置換され、各々のアルコキシ基が10個までの炭素原子を独立に有する、請求項1に記載の電解質。
【請求項7】
前記芳香族化合物が2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼンを含む、請求項1に記載の電解質。
【請求項8】
前記レドックス化学シャトルがLi/Li+に対して約3.7〜約4.7Vの電気化学的電位を有する、請求項1に記載の電解質。
【請求項9】
前記レドックス化学シャトルが、各サイクルの間、前記シャトルをそのラジカルカチオンに酸化するために十分な充電電圧および電池容量の100%に等しい過充電の充電流において少なくとも20回の充電−放電サイクル後、リチウム−イオン電池の過充電保護を提供することができる、請求項1に記載の電解質。
【請求項10】
前記レドックス化学シャトルが、各サイクルの間、前記シャトルをそのラジカルカチオンに酸化するために十分な充電電圧および電池容量の100%に等しい過充電の充電流において少なくとも100回の充電−放電サイクル後、リチウム−イオン電池の過充電保護を提供することができる、請求項1に記載の電解質。
【請求項11】
負電極;正電極;電荷保持媒体と、リチウム塩と、少なくとも1つの第三級炭素有機基および少なくとも1つのアルコキシ基で置換された芳香族化合物を含むと共にLi/Li+に対して前記正電極の材料の電気化学的電位よりも大きい電気化学的電位を有する循環可能なレドックス化学シャトルとを含む電解質を含む、再充電可能なリチウム−イオン電池。
【請求項12】
前記負電極が黒鉛またはLi4/3Ti5/34を含み、前記正電極がLiFePO4、LiMnPO4またはLiMn24を含む、請求項11に記載の再充電可能なリチウム−イオン電池。
【請求項13】
前記芳香族化合物が単一有機環を有する、請求項11に記載の再充電可能なリチウム−イオン電池。
【請求項14】
前記芳香族化合物が少なくとも2つの第三級炭素基および少なくとも2つのアルコキシ基で置換され、各々の第三級炭素基が12個までの炭素原子を独立に有し、各々のアルコキシ基が10個までの炭素原子を独立に有する、請求項11に記載の再充電可能なリチウム−イオン電池。
【請求項15】
前記芳香族化合物が、2−t−ブチル−アニソール、3−t−ブチル−アニソール、4−t−ブチル−アニソール、1−ニトロ−3−t−ブチル−2−メトキシベンゼン、1−シアノ−3−t−ブチル−2−メトキシベンゼン、1,4−ジ−t−ブチル−2−メトキシベンゼン、5−t−ブチル−1,3−ジニトロ−2−メトキシベンゼン、1,3,5−トリ−t−ブチル−2−メトキシベンゼン、2−t−ペンチル−アニソール、2−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼン、2,3−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼン、2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼン、2,5−ジ−t−ペンチル−1,4−ジメトキシベンゼン、2,5−ジ−t−ブチル−3,6−ジ−ニトロ−1,4−ジメトキシベンゼン、2,5−ジ−t−ブチル−3,6−ジ−シアノ−1,4−ジメトキシベンゼン、2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジエトキシベンゼン、4−t−ブチル−1,2−ジメトキシベンゼン、4,5−ジ−t−ブチル−1,2−ジメトキシベンゼン、4,5−ジ−t−ペンチル−1,2−ジメトキシベンゼン、4,5−ジ−t−ブチル−1,2−ジエトキシベンゼンまたは4,8−ジ−t−ブチル−1,5−ジメトキシナフタレンを含む、請求項11に記載の再充電可能なリチウム−イオン電池。
【請求項16】
前記芳香族化合物が2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼンを含む、請求項11に記載の再充電可能なリチウム−イオン電池。
【請求項17】
前記正電極が再充電プラトーを有し、前記レドックス化学シャトルが正電極の再充電プラトーよりも約0.3〜約0.6V高いレドックス電位を有する、請求項11に記載の再充電可能なリチウム−イオン電池。
【請求項18】
前記レドックス化学シャトルが、各サイクルの間、前記シャトルをそのラジカルカチオンに酸化するために十分な充電電圧および電池容量の100%に等しい過充電の充電流において少なくとも100回の充電−放電サイクル後、リチウム−イオン電池の過充電保護を提供することができる、請求項11に記載の再充電可能なリチウム−イオン電池。
【請求項19】
過充電保護電子回路のない、請求項11に記載の再充電可能なリチウム−イオン電池を含む電気または電子デバイス。
【請求項20】
負電極と、LiFePO4を含む正電極と、電解質と、少なくとも1つの第三級炭素有機基および少なくとも1つのアルコキシ基で置換された芳香族化合物を含むと共にLi/Li+に対してLiFePO4の電気化学電位よりも大きい電気化学電位を有する循環可能なレドックス化学シャトルとを含む、再充電可能なリチウム−イオン電池。
【請求項21】
前記正電極が再充電プラトーを有し、前記レドックス化学シャトルが、正電極の再充電プラトーよりも約0.3〜約0.6V高いレドックス電位を有する、請求項20に記載の再充電可能なリチウム−イオン電池。
【請求項22】
前記レドックス化学シャトルが2,5−ジ−t−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼンを含む、請求項20に記載の再充電可能なリチウム−イオン電池。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図3c】
image rotate

【図4a】
image rotate

【図4b】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7a】
image rotate

【図7b】
image rotate

【図8a】
image rotate

【図8b】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公表番号】特表2007−531972(P2007−531972A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506585(P2007−506585)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2005/010993
【国際公開番号】WO2005/099024
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】