説明

再帰反射部材、再帰反射性建材および建築物の建築方法

【課題】従来の再帰反射シートは、特定の方向から入射する入射光を、できる限りその方向へ反射させるように構造化されているので、宇宙空間から到来する太陽光のような、季節、時間によって変化する入射光を、かえって地面方向などの予定外の方向へ反射させてしまう場合が有るという課題があった。
【解決手段】上記課題を解決するために、再帰反射部材は、三角形の開口を底面として頂点を形成する3つの側面を有し、頂点から底面への射影位置が底面の重心位置から三角形の基準辺の側へ偏位した三角斜錘形状の凹部を備え、3つの側面のうち少なくとも一面が反射面に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再帰反射部材、再帰反射性建材および建築物の建築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コーナーキューブ、ビーズ等を平面的に配列して、入射する光線を入射方向へ反射させる再帰反射シートが知られている。再帰反射シートは、例えば道路標識などの保安用品に活用されている。一方、再帰反射部材をビルの壁材に用い、太陽光線を地面方向へ反射させることなく入射方向へ反射することにより、地球の温暖化を防ぐ提案もなされている(例えば特許文献1)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1]特開2006−317648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の再帰反射シートは、特定の方向から入射する入射光を、できる限りその方向へ反射させるように構造化されているので、宇宙空間から到来する太陽光のような、季節、時間によって変化する入射光を、かえって地面方向などの予定外の方向へ反射させてしまう場合が有るという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様における再帰反射部材は、三角形の開口を底面として頂点を形成する3つの側面を有し、頂点から底面への射影位置が底面の重心位置から三角形の基準辺の側へ偏位した三角斜錘形状の凹部を備え、3つの側面のうち少なくとも一面が反射面に形成されている。
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第2の態様における再帰反射性建材は、上記の再帰反射部材を含む。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第3の態様における建築物の建築方法は、三角形の開口を底面として頂点を形成する3つの側面を有し、頂点から底面への射影位置が底面の重心位置から三角形の基準辺の側へ偏位した三角斜錘形状の凹部を備え、3つの側面のうち基準辺を含む基準面が少なくとも反射面に形成されている再帰反射部材を、夏至における南中時刻の太陽光線に対して基準面が直交するように設置する設置段階を含む。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第4の態様における再帰反射部材は、n角形(nは3以上の自然数)の開口を底面として頂点を形成するn個の側面を有し、頂点から底面への射影位置が底面の重心位置からn角形の基準辺の側へ偏位したn角斜錘形状の凹部を備え、n個の側面のうち少なくとも一面が反射面に形成されている。
【0008】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る再帰反射部材を、ビルの壁面に適用した場合を示す図である。
【図2】本実施形態に係る再帰反射部材が入射光線を再帰反射する方向を示す説明図である。
【図3】本実施形態に係る再帰反射部材を示す外観斜視図である。
【図4】再帰反射効率の算出に関する定義図である。
【図5】凹部が直錘形状である場合の各断面と座標値を示す図である。
【図6】直錘形状に対する各季節における反射効率の時間変化を示す図である。
【図7】凹部が南中時の太陽光を受けている様子を示す図である。
【図8】第1の斜錘形状の各断面および座標値を示す図である。
【図9】第1の斜錘形状に対する各季節における反射効率の時間変化を示す図である。
【図10】第2の斜錘形状の各断面および座標値を示す図である。
【図11】第2の斜錘形状に対する各季節における反射効率の時間変化を示す図である。
【図12】第3の斜錘形状の各断面および座標値を示す図である。
【図13】第3の斜錘形状に対する各季節における反射効率の時間変化を示す図である。
【図14】第4の斜錘形状の各断面および座標値を示す図である。
【図15】第4の斜錘形状に対する各季節における反射効率の時間変化を示す図である。
【図16】本実施形態に係る他の再帰反射部材を示す外観図である。
【図17】本実施形態に係る他の再帰反射部材を示す外観図である。
【図18】本実施形態に係る他の再帰反射部材を説明する図である。
【図19】本実施形態に係る再帰反射部材を建材としてビルの壁面へ設置する工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、本実施形態に係る再帰反射部材10を、ビル20の壁面に適用した場合を示す図である。再帰反射部材10は、ビル20の外壁材の一部として利用される。
【0012】
本実施形態に係る再帰反射部材10は、季節、時間によって入射角が変化する太陽光を、例えば1年を通じての総反射量で評価した場合に、良好に宇宙空間の方向へ反射させて太陽光エネルギーを放出させる性質を備える。別言すれば、例えば夏季における地面方向などの、望ましくない方向への反射を軽減させる性質を備える。
【0013】
近時のビルの外壁は、ガラスなどの反射部材で覆われることが多くなってきており、太陽光が反射部材で正反射されることにより、夏の強烈な光と熱が地面方向へ照射されることが社会問題化している。特に、地面に蓄積された熱エネルギーがヒートアイランド現象を引き起こし、さらには地球温暖化の原因のひとつとなっていることは周知の事実である。そこで、本実施形態に係る再帰反射部材10では、ビルに照射される太陽光をできる限り地面方向へ反射させず、特に夏季において、再帰反射させて宇宙空間に太陽光エネルギーを放出させる。
【0014】
具体的には、太陽光である入射光101がビル20の壁面に敷き詰められた再帰反射部材10に入射すると、その多くが、反射光102としてほぼ入射方向に沿って太陽に向けて反射される。反射された反射光102のエネルギーは、一部が大気に吸収されながら、やがて宇宙空間へ放出される。
【0015】
一方で、夏季の地面による太陽光の照り返しもヒートアイランド現象の原因のひとつとなっている。したがって、再帰反射部材が入射方向に関わらず入射方向へ入射光を反射させると、地面による照り返しを再び地面方向へ反射させることになり、地面による蓄熱をより加速する結果となる。
【0016】
そこで、本実施形態に係る再帰反射部材10は、地面に照射される入射光103の照り返し光104が入射した場合は、その表面で乱反射させて拡散する。つまり再帰反射部材10は、太陽光が直接入射する方向からの入射光に対しては再帰反射性を備え、その他の方向から入射する入射光に対しては再帰反射させずに拡散する。
【0017】
図2は、本実施形態に係る再帰反射部材10が入射光線を再帰反射する方向を示す説明図である。再帰反射部材10は、ビル20の南側壁面に敷き詰められている。具体的には後述するが、最も効率よく再帰反射する特定の方向が夏至の南中高度となるように設置されることが好ましい。この場合、所定の再帰反射率の得られる太陽の方角は、夏至の太陽行路111と冬至の太陽行路112に挟まれた、南方の一定の方角に含まれる実効方角110である。
【0018】
次に、再帰反射部材10の構造について説明する。図3は、本実施形態に係る再帰反射部材10を示す外観斜視図である。再帰反射部材10は、一定の大きさでユニット化されており、上述のようにビル20の壁面に敷き詰める場合には、複数のユニットを並べて取り付ける。
【0019】
再帰反射部材10は、ベース部材31、ベース部材31に設けられた複数の凹部32、ベース部材31同士を連結するための接続部33から主に構成される。ベース部材31は、例えばセラミックス、プラスチックなどを素材とする、剛性の高い基材である。凹部32は、ベース部材31に対する三角形の開口を底面とする斜錘形状を成す。つまり、凹部32は、最深部である頂点から開口である底面に向かって垂直に下ろす垂心(射影位置)が、底面の三角形の重心を通らない錐形状である。そして、その表面の少なくとも一部は反射材で形成されている。反射材は、凹部32に貼着、蒸着、塗布された反射素材であっても良いし、反射素材で形成されたベース部材31自身であっても良い。例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア、アルミニウムなどが反射素材として利用される。接続部33は、再帰反射部材10の周縁部に設けられた、他の再帰反射部材10と接続しつつ壁部へ固定するための、例えばボルト貫通穴である。
【0020】
次に凹部32の具体的な錘形状について順次説明する。図4は、再帰反射効率の算出に関する定義図である。凹部32は、南向きを正方向とする南北に延びるx軸、天頂向きを正方向とする天地に延びるy軸、東向きを正方向とする東西に延びるz軸に対し、yz平面上に三角形の底面開口が設けられて定義される。つまり、再帰反射部材10が、南向きの垂直な壁面に設置されている場合を想定する。
【0021】
底面開口となる三角形は、図示するように頂点P10、P11、P12により定められる。すると、3つの側面(内面)の交点として形成される、錘形状の頂点であるP00は、x軸の負領域に存在する。そして、錘形状の3つの内面のうち、P00、P10、P11で囲まれる面をS0とし、P00、P11、P12で囲まれる面をS1(基準面)とし、P00、P12、P10で囲まれる面をS2とする。
【0022】
このように定義付けられる凹部32に対して、各時刻の太陽高度と方位角から、N本の入射光120を底面開口に入射させて、反射光の方向を計算する。このとき、S0〜S2の各面の反射率をR、1本の光線のエネルギーを1とする。このときの入射光120のエネルギーの総和はNとなる。
【0023】
本実施形態における再帰反射光121は、反射後に、入射光120と逆向きの光線に対して許容角度θにより形成される円錐130の内側で直進する光として定義される。この円錐130の外側に向かって反射する光は、非再帰反射光122として定義される。凹部32で反射した光線のうち、この円錐130内に含まれる再帰反射光121の本数をM(0≦M≦N)とすると、個々の再帰反射光121の反射回数を、i(0≦i≦N)を用いてr(i)と表すことができる。このとき再帰反射光121の総エネルギーEは以下で表される。
【数1】

【0024】
そして、再帰反射光121の総エネルギーEを入射光120の総エネルギーで割ることにより、次のように再帰反射効率εを定義する。すなわち、再帰反射効率εは、壁面に設置された再帰反射部材10の凹部32に入射した太陽光のエネルギーに対する、許容角度θの円錐内に反射される反射光のエネルギーの比率である。
【数2】

【0025】
以上の定義を用いて、凹部32の錘形状について説明する。なお本実施形態においては、具体的な数値としてN=100、R=0.9、θ=30°を適用して一連の計算を行う。
【0026】
図5は、凹部32が直錘形状である場合の各断面と座標値を示す図である。直錘形状は、頂点から開口である底面に向かって垂直に下ろす垂心(射影位置)が、底面の三角形の重心と重なる形状である。図5の直錘は、S0〜S1の各面が互いに直交する。図の例では、1辺が25.98mmの正三角形の開口であり、凹部の深さが10.66mmとなる位置にP00が定められている。
【0027】
このような凹部32に対し、東京(北緯34.7°、東経135.5°)における、夏至、春分・秋分、冬至のそれぞれ6時から18時の間の1時間おきの反射効率を計算した。その結果を図6に示す。特に、図6(a)は、各季節における再帰反射効率の時間変化を示し、図6(b)は、非再帰反射光122のうち水平面であるz平面より下へ反射する光線の各季節における反射効率の時間変化を示す。
【0028】
(a)図に示すように、凹部32が直錘形状である場合は、最も高い再帰反射効率が要求される夏至において再帰反射効率が0であり、冬至においても午前と午後で60%超の再帰反射効率が得られるに留まる結果となる。また、(b)図に示すように、朝夕に水平以下の方向へ反射する非再帰反射光122が多く生じる結果となる。水平以下の方向へ反射する非再帰反射光122は、歩行者が不快に感じるなどの弊害が多く、好ましくない反射光である。したがって、直錘形状である凹部32は、再帰反射効率の観点からも、非再帰反射光122の反射方向の観点からも好ましくない。
【0029】
そこで、これらの観点から凹部32の最適形状を以下に説明する。図7は、夏至における東京での南中時の太陽光を凹部32が受けている様子を示す図である。特に図7(a)は斜視図を表し、図7(b)はxy断面図を表す。
【0030】
まず、省エネルギーおよび環境対策の目的からは、夏の正午前後の太陽光を最も効率的に再帰反射させることが望ましい。夏至における太陽の南中高度は、90°−(緯度−23.5°)で表される。東京の緯度を35°として当てはめると、夏至における東京での南中高度は78.5°となる。
【0031】
南中時の太陽光を1回反射で同一方向に反射させるには、S1面がこの角度からの光線に対して直交することと、S0面、S2面が入射光および反射光を遮蔽しないことが条件となる。すなわち、凹部32のxy断面の形状について、「x軸とS1面のなす角度が夏至における太陽の南中高度の補角=緯度−23.5°に等しい」ことと、「S1面と稜線P00−P10のなす角が90°以下であること」の2つの条件が満たされる必要がある。
【0032】
前者の条件は、S1面が南中時の太陽光線に直交する条件であり、後者の条件は、面S0、面S2が入射光および反射光を遮蔽しない条件である。なお、東京の緯度約35°においてはx軸とS1面のなす角度は約11.5°となる。
【0033】
なお、直線P00−P10はxy平面内に含まれることが望ましいが、この位置に無い場合でも夏至の南中時の再帰反射効率にはほとんど影響しない。ただし、春秋の朝夕の反射特性に影響を与える。なお、上記の条件では夏至の太陽の南中時に最大の再帰反射効率を発揮するように最適化しているが、例えば7月、8月の適当な時期の太陽の南中高度に最適化する場合は、夏至における太陽の南中高度の代わりに、当該時期における太陽の南中高度を用いればよい。また、実用的には±3°程度の範囲で成り立てばよい。特に、厳密な最適化ではなく簡易的に反射方向を定める場合であれば、前者の条件は、頂点P00から開口三角形P10−P11−P12への射影位置が、開口三角形の重心位置から基準辺であるP11−P12側へ偏位した位置となるように三角斜錘形状を決定すれば良い。
【0034】
以下に、凹部32の形状について好ましい例を順に説明する。図8は、第1の斜錘形状の各断面および座標値を示す図である。第1の斜錘形状における凹部32は、1辺25.98mmの正三角形の開口を有し、開口からP00までの深さは4.4mmである。また、開口の三角形のP10が天頂を向く形状であり、P00は正三角形の中心から下に6.6mmシフトしている。なお、第1の斜錘形状は、x軸とS1面のなす角度が11.56°であり、S1面と稜線P00−P10のなす角が90°であるので、上述の条件を満たしている。
【0035】
図9は、第1の斜錘形状に対する各季節における反射効率の時間変化を示す図である。計算の前提条件は、図6の結果を導いた条件と同じである。図からわかるように、夏至の正午前後の再帰反射効率は80%以上であり、春分および秋分で最大60%、冬至で最大30%と、比較的高い再帰反射効率を発揮することがわかる。
【0036】
図10は、第2の斜錘形状の各断面および座標値を示す図である。第2の斜錘形状における凹部32は、1辺25.98mmの正三角形の開口を有し、開口からP00までの深さは15mmである。また、開口の三角形のP10が天頂を向く形状であり、P00は正三角形の中心から下に4mmシフトしている。なお、第2の斜錘形状は、x軸とS1面のなす角度が11.56°であり、S1面と稜線P00−P10のなす角が64.84°であるので、上述の条件を満たしている。
【0037】
図11は、第2の斜錘形状に対する各季節における反射効率の時間変化を示す図である。計算の前提条件は、図6の結果を導いた条件と同じである。図からわかるように、夏至の正午前後の再帰反射効率は80%以上であり、春分および秋分・冬至で最大20%以下と、夏季を中心として高い再帰反射効率を発揮することがわかる。
【0038】
図12は、第3の斜錘形状の各断面および座標値を示す図である。第3の斜錘形状における凹部32は、長辺30mm、高さ15mmの直角二等辺三角形の開口を有し、開口からP00までの深さは3mmである。また、開口の三角形のP10が天頂を向く形状であり、P00は底辺から上に4mmシフトしている。なお、第3の斜錘形状は、x軸とS1面のなす角度が11.30°であり、S1面と稜線P00−P10のなす角が90°であるので、上述の条件を満たしている。
【0039】
図13は、第3の斜錘形状に対する各季節における反射効率の時間変化を示す図である。計算の前提条件は、図6の結果を導いた条件と同じである。図からわかるように、夏至の正午前後の再帰反射効率は70%程度であり、春分および秋分で最大40%、冬至で最大20%以下と、夏季に高い再帰反射効率を発揮することがわかる。
【0040】
図14は、第4の斜錘形状の各断面および座標値を示す図である。第4の斜錘形状における凹部32は、長辺30mm、高さ15mmの直角二等辺三角形の開口を有し、開口からP00までの深さは3mmである。また、開口の三角形のP10が地面を向く形状であり、P00は底辺から上に0.6mmシフトしている。なお、第4の斜錘形状は、x軸とS1面のなす角度が11.30°であり、S1面と稜線P00−P10のなす角が90°であるので、上述の条件を満たしている。
【0041】
図15は、第4の斜錘形状に対する各季節における反射効率の時間変化を示す図である。計算の前提条件は、図6の結果を導いた条件と同じである。図からわかるように、夏至の正午前後の再帰反射効率は70%程度であり、春分および秋分で最大40%、冬至で最大20%以下と、夏季に高い再帰反射効率を発揮することがわかる。
【0042】
図16は、本実施形態に係る他の再帰反射部材11を示す外観図である。これまで説明した凹部32は、そのサイズに依存せずにそれぞれの再帰反射効率を発揮する。したがって、ベース部材31に多くの凹部32を設けようとする場合は、大きさの異なる凹部32を敷き詰めればそれだけ再帰反射部材全体としての効率が上がる。すなわち、図示するように、大きな凹部321の間隙に小さな凹部322を設ければ良い。異なる大きさの凹部を敷き詰める場合には、2種類の凹部に限らず、例えば、フラクタルとなるように複数種類の凹部を敷き詰めればより効果的である。もちろん、デザイン的な観点から、規則的な配置に限らず、ランダムな配置を採用しても良い。また、大きさの異なる凹部321、322が、それぞれ一つのみで再帰反射部材11を形成しても良い。この場合、大小様々な再帰反射部材11を組み合わせて敷き詰めることができる。
【0043】
図17は、本実施形態に係る他の再帰反射部材12を示す外観図である。図16を用いて説明したような、異なる大きさの凹部を敷き詰める以外にも、再帰反射効率を上げることができる。具体的には、上述の第3の斜錘形状と第4の斜錘形状は、互いに底面開口の形状が同一の関係にあり、これらを組み合わせるとベース部材31において稠密配列を実現することができる。このように配列したものが図17に示す再帰反射部材12であり、第3の斜錘形状を有する凹部323と第4の斜錘形状を有する凹部324が隣接して稠密に配置されている。再帰反射部材12は、全体として、第3の斜錘形状により発揮される図13で示した再帰反射効率と、第4の斜錘形状により発揮される図15で示した再帰反射効率とを、足し合わせた再帰反射効率を発揮する。
【0044】
図18は、本実施形態に係る他の再帰反射部材13を説明する図である。上述の再帰反射部材においては、底面開口としての三角形が視認される態様で凹部32が配置されていた。しかし、凹部32をより稠密に配置するには、底面開口としての三角形が仮想的に重なり合って配列される構造であっても良い。以下に具体的に説明する。
【0045】
図18(a)は、正三角形である底面開口が、底辺を互いに半分共有するように、仮想的に重なり合った場合を示す図である。すなわち、左側の正三角形P10、P11、P12と右側の正三角形P10'、P11'、P12'は、図示するように、P11−P12'間で底辺を共有する。このとき、それぞれの斜錘形状の頂点は、P00およびP00'である。このように底面開口が重なり合って形成される立体形状は、実際には図の実線で示すように、隣接する2つの三角斜錘形状の一部が切り取られて稜線を共有する形状となる。この場合、外見上は開口が六角形となる。ただし、開口の六角形は、それぞれの辺が同一平面上には存在せず、隣接しない3つの頂点とその他の3つの頂点が、それぞれ異なる平面上に存在する立体構造となる。このように、上下方向にも底面開口を重ね合わせて2次元的に凹部を展開すると、図(b)の再帰反射部材13を形成することができる。なお、図(c)は、図(b)におけるA−A断面図である。このように稠密に配列された立体構造を採用する再帰反射部材13は、ベース部材31に対する平行面が存在しないので、全体として高い再帰反射効率を実現する。
【0046】
以上説明した本実施形態においては、東京を設置場所として説明した。他の設置場所を想定する場合は、上述の条件式に即して、適宜凹部の形状を変更すれば良い。また、底面開口は三角形に限らず、多角形であっても良い。すなわち、凹部の形状は、底面開口がn角形(nは3以上の自然数)であるn角斜錐形状であれば、上述の形状に類似する効果を発揮する。
【0047】
図19は、本実施形態に係る再帰反射部材10を再帰反射性建材としてビル20の壁面へ設置する工程を説明する図である。上述のように再帰反射部材10を組み合わせて壁面へ設置する場合、図19(a)に示すように、夏至における南中時刻の太陽90の太陽光線に対して、基準面であるS1が直交するように設置することが肝要であることは上述のとおりである。
【0048】
再帰反射部材10をビル20の壁面へ設置する場合、図19(b)に示すように、それぞれをボルト40で固定するなどの設置工程を経る。このとき、当該ビル20が立地する緯度から夏至における南中高度を算出して、上記条件を満たす凹部32を有する再帰反射部材10を選択して採用することができる。または、設置する再帰反射部材10が有する凹部32が上記条件を満たすように、ボルト40の締結により角度を調整することもできる。ボルト40を用いず、接着剤等を用いる場合であっても、同様に角度調整を施すことができる。
【0049】
以上の実施形態においては、再帰反射部材10が少なくとも反射外壁材の一部として形成される再帰反射性建材を例として説明したが、再帰反射部材10は、もちろん反射外壁材に限らず、様々な形態をとり得る。反射外壁タイル、反射床材、反射瓦などの形態としての再帰反射性建材であっても十分実用的である。例えば反射床材の場合、設置方向が壁材に比較して直交する方向になるので、上述の条件を満たす床面に適した凹部32を形成すれば良い。
【0050】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0051】
10、11、12 再帰反射部材、20 ビル、31 ベース部材、32 凹部、33 接続部、40 ボルト、90 太陽、101 入射光、102 反射光、103 入射光、104 照り返し光、110 実効方角、111 夏至の太陽行路、112 冬至の太陽行路、120 入射光、121 再帰反射光、122 非再帰反射光、130 円錐、321、322、323、324 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三角形の開口を底面として頂点を形成する3つの側面を有し、前記頂点から前記底面への射影位置が前記底面の重心位置から前記三角形の基準辺の側へ偏位した三角斜錘形状の凹部を備え、
前記3つの側面のうち少なくとも一面が反射面に形成されている再帰反射部材。
【請求項2】
前記3つの側面のいずれもが前記反射面であり、
前記底面に入射する光が、前記反射面のうち前記基準辺を含む基準面で反射された後に、他の反射面で反射されて再帰反射する請求項1に記載の再帰反射部材。
【請求項3】
前記基準面と、前記他の反射面の稜線とがなす角度は、90度以下である請求項2に記載の再帰反射部材。
【請求項4】
前記凹部を複数備える請求項1から3のいずれか1項に記載の再帰反射部材。
【請求項5】
複数の前記凹部は、互いに大きさが異なる相似形を含み、前記基準辺が互いに平行となるように配列されている請求項4に記載の再帰反射部材。
【請求項6】
複数の前記凹部は、前記底面としての前記三角形が重なり合って配置されることにより、隣接する前記凹部と稜線を共有して稠密に配置される請求項4に記載の再帰反射部材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の再帰反射部材を含む再帰反射性建材。
【請求項8】
前記基準辺を含む基準面は、最も再帰反射率が大きくなる方向に対して直交するように設けられている請求項7に記載の再帰反射性建材。
【請求項9】
少なくとも反射外壁タイルの一部として形成される請求項7または8に記載の再帰反射性建材。
【請求項10】
少なくとも反射外壁材の一部として形成される請求項7または8に記載の再帰反射性建材。
【請求項11】
少なくとも反射床材の一部として形成される請求項7または8に記載の再帰反射性建材。
【請求項12】
少なくとも反射瓦の一部として形成される請求項7または8に記載の再帰反射性建材。
【請求項13】
三角形の開口を底面として頂点を形成する3つの側面を有し、前記頂点から前記底面への射影位置が前記底面の重心位置から前記三角形の基準辺の側へ偏位した三角斜錘形状の凹部を備え、前記3つの側面のうち前記基準辺を含む基準面が少なくとも反射面に形成されている再帰反射部材を、夏至における南中時刻の太陽光線に対して前記基準面が直交するように設置する再帰反射部材設置段階を含む建築物の建築方法。
【請求項14】
n角形(nは3以上の自然数)の開口を底面として頂点を形成するn個の側面を有し、前記頂点から前記底面への射影位置が前記底面の重心位置から前記n角形の基準辺の側へ偏位したn角斜錘形状の凹部を備え、
前記n個の側面のうち少なくとも一面が反射面に形成されている再帰反射部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−242508(P2012−242508A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110781(P2011−110781)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】