説明

再生コラーゲン系人工毛髪用繊維

【課題】再生コラーゲン繊維の有する人毛に極めて近い触感を損なうことなく、光沢が抑制されボリュームの優れた人工毛髪用繊維を得る。
【解決手段】Y字形、S字形、C字形、繭形、4〜8葉形、キ形よりなる群から選ばれる少なくとも1種の断面形状を有する再生コラーゲン系人工毛髪用繊維であり、再生コラーゲン繊維が単官能エポキシ化合物及び金属アルミニウム塩を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人毛に近い自然な光沢を有し、ボリューム感に優れた再生コラーゲン系人工毛髪繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
再生コラーゲン繊維は、蛋白繊維の中では絹と同様に高強度を発現することから、従来から様々な分野に応用されている。特に、再生コラーゲン繊維は、コラーゲン由来の特徴的な分子構造を保持した蛋白繊維であることから、天然の蛋白繊維でありきわめて複雑な微細構造を有している人毛と風合い及び触感が近似している。そのため、頭髪や、毛皮用などの獣毛調繊維に用いる試みがなされている(例えば、特許文献1、2)。一般に人毛の断面形状は短軸と長軸の比が1:1〜1:1.75の楕円形であるが、再生コラーゲンからなり人毛と同様な断面形状を有する繊維は、人毛と異なり光沢が強く自然な外観を呈しているとは言えないのが現状である。
【0003】
また、天然原料を使用した蛋白系繊維において、淡色の繊維を得るためには原料の純度を向上したり、着色しない架橋剤を用いて繊維を製造する必要があるが、このような方法で作製した繊維は人毛と比較して透明感が強く、光沢が強過ぎる傾向にある(特許文献3)。
【0004】
光沢を抑制するために艶消し操作を施す場合には、金属化合物等の艶消し剤の添加が一般的に行われるが、反応基を多数有する蛋白質素材において金属化合物の艶消し剤の添加は紡糸原液中で蛋白質分子間の架橋反応が起こり、紡糸原液がゲル化して繊維化できなくなるという問題点がある。
【特許文献1】特開平10−168628号
【特許文献2】特開平10−168629号
【特許文献3】WO01/006045
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の再生コラーゲン繊維で課題であった、光沢及びボリューム感の優れた人工毛髪を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、繊維断面に明確な凹部を有することで、光沢及びボリューム感を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
Y字形、S字形、C字形、繭形、4〜8葉形、キ形よりなる群から選ばれる少なくとも1種の断面形状を有することを特徴とする再生コラーゲン系人工毛髪用繊維に関する(請求項1)、
再生コラーゲン繊維が単官能エポキシ化合物及び金属アルミニウム塩を含むことを特徴とする請求項1に記載の再生コラーゲン系人工毛髪用繊維に関する(請求項2)、
単官能エポキシ化合物が下記一般式(1)で表される単官能エポキシ化合物である請求項2に記載の再生コラーゲン系人工毛髪用繊維に関する(請求項3)、
再生コラーゲン繊維が金属アルミニウム塩で架橋されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の再生コラーゲン系人工毛髪用繊維に関する(請求項4)、
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の再生コラーゲン系人工毛髪用繊維を含む、人工毛髪に関する(請求項5)、
ものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光沢及びボリュームの優れたコラーゲン系人工毛髪用繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の人工毛髪用繊維は、Y字形、S字形、C字形、繭形、4〜8葉形、キ形から選ばれる少なくとも1種の断面形状を有するものである。
【0010】
Y字形の代表的なものを図1に示す。図1でq/pの比は特に限定されるものではないが、繊維の触感、強度、紡糸性の観点から通常はq/p=0.3〜8である。また、突起部のなす角度(α、β、γ)についても特に限定されるものではない。
【0011】
S字形の代表的なものを図2(2−1)、(2−2)、(2−3)に示す。S字状の形状をしていればよく、また図2(2−1)、(2−2)、(2−3)中の太さaについても特に限定されるものではない。
【0012】
C字形の代表的なものを図3に示す。C字の形状を形成していればよいが、C字形を保持しやすいという理由から、図3の開口部の長さbは大きい方が好ましい。小さくなりすぎると中空の円形状に近づき、光沢抑制の点から好ましくない。図3に示す外径cとbの関係については特に限定されないが、以上の観点から、b/c=0.05〜0.8が好ましい。
【0013】
繭形の代用的なものを図4に示す。繭形形状とは、楕円または卵型形状を連結したものである。図4で繭形状の長さdと窪み部分の長さeの大きさは特に限定されないが、光沢、触感の観点からe/d=0.2〜0.95が好ましい。
【0014】
4〜8葉形の代表的なものを図5(5−1)、(5−2)、(5−3)、(5−4)、(5−5)に示す。触感の観点から、4〜8葉形におけるL/Wは、L/W=0.3〜3であることが好ましい。
【0015】
キ形の代表的なものを図6に示す。キ形の形状を形成していればよいが、図6でf(またはg、h、i)がjに対して大きくなりすぎるとがさついた触感になるため、f(またはg、h、i、)/j=3〜0.2にすることが好ましい。
【0016】
本発明に用いるコラーゲンの原料は、例えば牛などの動物から得られるフレッシュな床皮や塩漬けした生皮より得られる床皮の部分を用いるのが好ましい。これら床皮などは、大部分が不溶性コラーゲン繊維からなる。
【0017】
この不溶性コラーゲン繊維には、脂質、糖タンパク質、コラーゲン以外のタンパク質など、不純物が存在しているため、繊維化にあたって紡糸安定性、光沢や強伸度などの品質、臭気などに多大な影響を及ぼすため、例えば石灰漬けにして不溶性コラーゲン繊維中の脂肪分を加水分解し、コラーゲン繊維を解きほぐした後、酸・アルカリ処理、酵素処理、溶剤処理等のような従来より一般に行われている皮革処理を施し、予めこれらの不純物を除去しておくことが好ましい。
【0018】
前記のような処理の施された不溶性コラーゲンは、架橋しているペプチド部を切断するために可溶化処理が施される。かかる可溶化処理の方法としては、一般に採用されている公知のアルカリ可溶化法や酵素可溶化法等を適用することができる。
【0019】
このように可溶化処理を施したコラーゲンにpHの調整、塩析、水洗や溶剤処理などの操作をさらに施した場合には、品質などの優れた再生コラーゲンを得ることが可能なため、これらの処理を施すことが好ましい。
【0020】
次に、得られた可溶化コラーゲン皮片は、例えば、1〜15重量%程度の所定濃度の原液になるように塩酸、酢酸、乳酸などの酸でpH2〜4.5に調整した酸性溶液を用いて溶解され、コラーゲン水溶液となる。
【0021】
尚、得られる可溶化コラーゲン水溶液には、例えば機械的強度の向上、耐水・耐熱性の向上、光沢性の改良、紡糸性の改良、着色の防止、防腐などを目的として安定剤、水溶性高分子化合物などの添加剤が適量配合されてもよい。
【0022】
次に前記可溶化コラーゲン水溶液を、例えば紡糸ノズルやスリットを通して吐出し、pH2〜13の硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの無機塩水溶液に浸漬することにより再生コラーゲン繊維が形成される。
【0023】
かかるpHは2未満である場合および13を越える場合、コラーゲンのペプチド結合が加水分解を受けやすくなり、目的とする繊維が得られにくくなる傾向がある。また無機塩水溶液の温度は特に限定しないが、通常35℃以下であることが望ましい。かかる温度が35℃より高い場合、可溶性コラーゲンが変性したり、紡糸した繊維の強度が低下し、安定した糸の製造が困難となる。尚、前記温度の下限は特に限定はなく、通常無機塩の溶解度に応じて適宜調整されればよい。
【0024】
前記コラーゲンの遊離アミノ基を、β−位又はγ−位に水酸基又はアルコキシ基を有する炭素教主鎖が2〜20のアルキル基で修飾する。前記炭素教主鎖とは、アミノ基に結合したアルキル基の連続した炭素鎖を示すものであり、他の原子を介在して存在する炭素数は考慮しないものとする。遊離アミノ基を修飾する反応としては、通常知られているアミノ基のアルキル化反応を用いることができる。反応性、反応後の処理の容易さ等から前記β−位に水酸基又はアルコキシ基を有する炭素数2〜20のアルキル基は、下記一般式(2)で表わされる化合物であることが好ましい。
−CH2−CH(OX)−R (2)
(式甲、Rは、R1−、R2−O−CH2−又はR2−COO−CH2−で表される置換基を示し、前記置換基中のR1は炭素数2以上20以下の炭化水素基又はCH2Clであり、R2は炭素数4以上20以下の炭化水素基を示し、Xは水素又は炭化水素暴を示す。)
一般式(2)の好ましい例としては、グリシジル基、1−クロル−2−ヒドロキシプロピル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基が挙げられる。加えて、グリシジル基がコラーゲン中の遊離アミノ基に付加した構造が挙げられる。さらには、前述の好ましい基に記載されたアルキル基に含まれる水酸基を開始点として、用いたエポキシ化合物が開環付加、及び又は開環重合した構造が挙げられ、このときの付加及び又は重合の末端構造として、前述のアルキル基の構造を有しているものが挙げられる。
【0025】
前記再生コラーゲンの遊離アミノ基を構成するアミノ酸としては、リジン及びヒドロキシリジンが挙げられる。さらに、本来コラーゲンを構成ずるアミノ酸としてはアルギニンで存在するものの、前記再生コラーゲンを得るために、アルカリ条件下で加水分解を行う際に、一部加水分解が進行して生じたオルニチンのアミノ基もアルキル化反応される。加えて、ヒスチジンに含まれる2級アミンによっても反応が進行する。
【0026】
遊離アミノ基の修飾率は、アミノ酸分析により測定することが可能であり、アルキル化反応前の再生コラーゲン繊維のアミノ酸分析値、又は原料として用いたコラーゲンを構成する遊離アミノ酸の既知組成を基準に算出される。尚、本発明におけるアミノ基の修飾では、β−位又はγ−位に水酸基又はアルコキシ基を有する炭素数2以上のアルキル基で修飾された構造が、遊離アミノ基の50%以上であれば良く、その他の部分は遊離アミノ基のままでもよいし他の置換基で修飾された構造であっても良い。再生コラーゲンの遊離アミノ酸の修飾率は50%以上である必要があり、より好ましくは、65%以上、更に好ましくは80%以上である。反応率が低い場合、耐熱性で良好な特性が得られない。
【0027】
ここで、遊離アミノ基の修飾においては、通常、遊離アミノ基1つあたり1分子のアルキル化剤が反応する。もちろん2分子以上反応していてもよい。さらに、遊離アミノ基に結合したアルキル基のβ−位又はγ−位に存在する水酸基又はアルコキシ基又はその他の官能基を介して、分子内又は分子間での架橋反応が存在していても良い。アルキル化反応の具体例としては、エポキシ化合物の付加反応、α−位又はβ−位に水酸基又はこの誘導体を有するアルデヒド化合物の付加反応とこれに続く還元反応、β−位又はγ−位に水酸基又はアルコキシ基を有する炭素数2以上のハロゲン化物、アルコール及びアミン等の置換反応が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0028】
本発明において、アルキル化反応剤として使用しうる有機化合物としては、アルデヒド類、エポキシ類、フェノール誘導体等が挙げられる。この中では反応性・処理条件の容易さからエボキシ化合物による修飾反応が、優れた特性を示すことから好ましい。特に単官能エボキシ化合物が好ましい。
【0029】
ここで用いられる単官能エポキシ化合物の具体例としては、たとえば、酸化エチレン、酸化プロピレン.酸化ブチレン、酸化イソブチレン、酸化オクテン、酸化スチレン、酸化メチルスチレン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、グリシドール等のオレフィン酸化物類、グリシジルメチルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、ノニルグリシジルエーテル、ウンデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテル、ペンタデシルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシシルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、ポリエチレンオキシドグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、蟻酸グリシジル、酢酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、安息香酸グリシジル等のグリシジルエステル類、グリシジルアミド類等が
挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0030】
単官能エポキシ化合物の中でも、再生コラーゲンの吸水率が低下するため、下記一般式(1)で表される単官能エポキシ化合物を用いて処理することが好ましい,
【0031】
【化2】

但し、RはR1−、R2−O−CH2−またはR2−COO−CH2−で表される置換基を示し、R1は炭素数2以上20以下の炭化水素基またはCH2Clであり、R2は炭素数4以上20以下の炭化水素基を示す。
【0032】
このようにして得られた再生コラーゲンは、水又は無機塩の水溶液で膨潤した状態になっている。この膨潤体は再生コラーゲンの重量に対して4〜15倍の水又は無機塩の水溶液を含有した状態が良い。水又は無機塩の水溶液の含有量が4倍以上では再生コラーゲン中のアルミニウム塩含有量が多いため、耐水性が充分となる。また15倍以下であれば、強度が低下せず、取扱い性は良好である。
【0033】
膨潤した再生コラーゲン繊維は、次いでアルミニウム塩の水溶液に浸漬する。このアルミニウム塩水溶液のアルミニウム塩としては、次の式、Al(OH)nCl3-n、又はAl2(OH)2n(SO43n、(式中、nは0.5〜2.5である)で表される塩基性塩化アルミニウム又は塩基性硫酸アルミニウムが好ましい。具体的には、例えば硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ミョウバン等が用いられる。これらのアルミニウムは単独で又は2種以上混合して用いることができる。このアルミニウム塩水溶液のアルミニウム塩濃度としては、酸化アルミニウムに換算して0.3〜5質量%であることが好ましい。アルミニウム塩の濃度が0.3質量%以上であれば、再生コラーゲン繊維中のアルミニウム塩含有量が高く、耐水性が充分となる。また5質量%以下であれば、処理後もそれほど硬くなく、取り扱い性が良好である。
【0034】
このアルミニウム塩水溶液のpHは、例えば塩酸、硫酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を用いて通常2.5〜5に調整する。このpHは、2.5以上であればコラーゲンの構造を良好に維持できる。pHが5以下であれば、アルミニウム塩の沈殿も生じず、均一に浸透し易くなる。このpHは、最初は2.2〜3.5に調整して充分にアルミニウム塩水溶液を再生コラーゲン内に浸透させ、その後に、例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を添カロして3.5〜5に調整して処理を完結させることが好ましい。塩基性の高いアルミニウム塩を用いる場合には、2.5〜5の最初のpH調整だけでもかまわない。また、このアルミニウム塩水溶液の液温は特に限定されないが、50℃以下が好ましい。この液温が50℃以下であれば、再生コラーゲンの変性や変質は起きにくい。
【0035】
このアルミニウム塩水溶液に再生コラーゲンを浸漬ずる時間は、3時間以上、好ましくは6〜25時間とする。この浸漬時間は、3時間以上であればアルミニウム塩の反応が進み、再生コラーゲンの剤水性が充分となる。また、浸漬時間の上限には特に制限はないが、25時間以内でアルミニウム塩の反応は充分に進行し、耐水性も良好となる。なお、アルミニウム塩が再生コラーゲン中に急激に吸収されて温度むらを生じないようにするため、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩を適宜前記アルミニウム塩の水溶液に添加しても良い。
【0036】
本発明においては、処理終了後の繊維に含有されるアルミニウム含量が1〜10質量%となるように処理することが好ましい。さらに好ましい範囲は3〜9質量%である。アルミニウム含有量が、1質量%より少ないと、湿触感が不良となる傾向にある。また10質量%をこえると、処理後の繊維が硬くなって風合いを損ねてしまう傾向にある。
【0037】
このようにアルミニウム塩で処理された再生コラーゲン繊維は、ついで水洗、オイリング、乾燥を行なう。水洗は、たとえば、10分間〜4時間流水水洗することにより行なうことができる。オイリングに用いる油剤としては、たとえば、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンなどのエマルジョンおよびプルロニック型ポリエーテル系静電防止剤からなる油剤などを用いることができる。乾燥温度は、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは75℃以下、乾燥時の荷重は、1dtexに対して0.01〜0.25g、好ましくは0.02〜0.15gの重力下で行なうことが好ましい。
【0038】
ここで、水洗を施すのは、塩による油剤の析出を防止したり、乾燥機内で乾燥時に再生コラーゲン繊維から塩が析出し、かかる塩によって再生コラーゲン繊維に切れが発生したり、生成した塩が乾燥機内で飛散し、乾燥機内の熱交換器に付着して伝熱係数が低下ずるのを防ぐためである。また、オイリングを施した場合には、乾燥時における繊維の膠着防止や表面性の改善に効果がある。
【0039】
また、コラーゲン溶液の紡糸の際には、溶液中又は紡出直前に顔料や染料を混合して着色することもできる(原着法)。使用する顔料や染料は用途に応じて、紡糸工程での溶出分離が無いこと、また使用製品の要求品質に対応して種類や色相を選択することができる。また必要に応じて、充填剤、老化防止剤、難燃剤、酸化防止剤等を添加することもできる。
【0040】
このようにして製造される再生コラーゲン繊維の繊度は、頭髪用として使用されるため、30dtex〜90dtexが好ましい。30dtexより小さいと、櫛通り性が悪くなり、頭髪用としては好ましくない。また、90dtexより大きくなると、頭髪用としては太すぎ、自然な外観を呈しないため好ましくない。
【0041】
こうして得られた再生コラーゲン繊維は、天然蛋白繊維の持つ風合いを保ちながら、人毛に近い光沢及びボリュームを有しており、人毛の代替としてより好適に使用することができる。
【0042】
本発明の再生コラーゲン系人工毛髪用繊維は、複数の断面形状の繊維を組み合わせても構わない。複数の断面形状の繊維とは、Y字形、S字形、C字形、繭形、4〜8葉形、キ形の繊維であっても構わないし、Y字形、S字形、C字形、繭形、4〜8葉形、キ形よりなる群から選ばれる少なくとも1種の断面形状を含んでいればその他の断面繊維を含んでいても構わない。再生コラーゲン系人工毛髪用繊維におけるその他の断面繊維とは、例えば、楕円形、円形、三角形などの人工毛髪用繊維として用いられる繊維断面をいう。
【0043】
また、本発明の再生コラーゲン系人工毛髪用繊維は、他の合成繊維や人毛繊維と混繊しても構わない。他の合成繊維としては、例えば、アクリル系繊維、塩化ビニル系繊維、モダアクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維などが挙げられる。
【0044】
本発明の人工毛髪とは、本発明の再生コラーゲン繊維を含み、ウイッグ、ツーぺ、ブレード、エクステンションやウィービング等のヘアアクセサリー、ドールヘアー等に使用されるものである。
【実施例】
【0045】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
なお、特性の評価方法は以下の通りである。
(光沢)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウを、太陽光の下、目視により評価する。
【0047】
A:人毛に等しい光沢である。
【0048】
B:人毛よりやや光沢が強い。
【0049】
C:人毛より光沢が強い。
【0050】
D:人毛よりかなり光沢が強すぎる。
(ボリューム)
長さ10cm、7gの繊維を計量し、インシュロックにより最密充填させた後、その断面の面積を求めた。
【0051】
A:断面積0.62cm2以上(人毛以上にボリュームがある)
B:0.60cm2以上〜0.62cm2未満(人毛並のボリュームがある)
C:0.58cm2以上〜0.60cm2未満(人毛よりボリュームが劣る)
D:0.58cm2未満(人毛よりかなりボリュームが劣る)
(触感)
A:人毛に等しいレベルの触感である。
【0052】
B:人毛にやや劣るがソフトな触感である。
【0053】
C:人毛に劣る触感である。
【0054】
D:ガサツキ感が強く、人毛とかけ離れた触感である。
(実施例1)
牛の床皮を原料とし、アルカリで可溶化した皮片1200g(コラーゲン分180g)に30重量%に希釈した過酸化水素水溶液30gを投入後、乳酸水溶液で溶解し、pH3.5、固形分7.5重量%に調整した原液を作製した。原液を減圧下で撹拌脱泡機((株)ダルトン製、8DMV型)により撹拌脱泡処理し、ピストン式紡糸原液タンクに移送し、さらに減圧下で静置し、脱泡を行った。かかる原液をピストンで押し出した後、ギアポンプ定量送液し、孔径10μmの焼結フィルターで濾過後、図6に示す断面形状及び孔径で、孔長0.5mm、孔数300の紡糸ノズルを通し、硫酸ナトリウム20重量%を含有してなる25℃の凝固浴(ホウ酸及び水酸化ナトリウムでpH11に調整)へ紡出速度5m/分で吐出した。
次に、得られた再生コラーゲン繊維(300本、20m)を、エピクロロヒドリン1.7
重量%、水酸化ナトリウム0.0246重量%、及び硫酸ナトリウム17重量%を含有し
た水溶液1.32kgに25℃で4時間浸漬した後、さらに反応液温度を43℃に昇温し
て2時間含浸した。
【0055】
反応終了後に反応液を除去後、流動型装置にて1.32kgの25℃の水を用いて3回バッチ水洗を行った。この後、硫酸アルミニウム5重量%、クエン酸三ナトリウム塩0.9重量%、水酸化ナトリウム1.2重量%を含有した水溶液1.32kgに30℃で含浸し、反応開始から2時間後、3時間後及び4時間にそれぞれ5重量%水酸化ナトリウム水溶液13.2gを反応液に添加し、合計6時間反応させた。反応終了後に反応液を除去後、流動型装置にて1.32kgの25℃の水を用いて3回バッチ水洗を行った。
【0056】
ついで、作製した繊維の一部をアミノ変性シリコーンのエマルジョン及びプルロニック型ポリエーテル系静電防止剤からなる油剤を満たした浴槽に浸漬して油剤を付着させた。50℃に設定した熱風対流式乾燥機内部で繊維束の一方の端を固定し、他方の端に繊維1本に対して2.8gの重りを吊り下げ2時間緊張下で乾燥させ、その後測定を実施した。評価結果を表1に示す。また、得られた繊維の断面写真を図19に示す
(実施例2〜6及び比較例1〜3)
実施例1同様に、図7〜図16に示す紡糸ノズルを用いて再生コラーゲン繊維を作製し、評価した。評価結果を表1に示す。また、得られた繊維の断面写真を図20〜図30に示す。
(比較例4)
アクリロニトリル49重量%、塩化ビニル50重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなる共重合体をアセトンに溶解して28.5重量%の紡糸原液を調整した。この原液を図17に示すY字形の紡糸ノズル(孔数=50)を用いて、25重量%のアセトン水溶液中に紡出し、65℃の温水浴中で1.5倍延伸し、ついで120℃で乾燥後、1.8倍の熱延伸を行い、更に160℃で緩和熱処理(0.92倍)を施して単糸繊度50dtexのモダクリル繊維を作製した。評価結果を表1に示す。また、得られた繊維の断面写真を図31に示す。
(比較例5、6)
比較例4と同様に、図18,図19に示す紡糸ノズルを用いてモダクリル繊維を作製した。評価結果を表1に示す。また得られた繊維の断面写真を図32、図33に示す。
【0057】
【表1】

表1に示すように、実施例1〜8は比較例1〜3に比べて光沢及びボリュームに優れる事が判る。また、実施例1,2、7,8は比較例4〜6に比べて、触感に優れることが判る。従って、今回の繊維断面に明確な凹部を有する再生コラーゲン系人工毛髪繊維は、再生コラーゲン系人工毛髪繊維の特徴である自然な触感を損なうことなく、光沢、ボリュームが改善された人工毛髪用繊維として用いる事が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は本発明における再生コラーゲン繊維のY字形断面説明図
【図2】(2−1)は本発明における再生コラーゲン繊維のS字形断面説明図 (2−2)は本発明における再生コラーゲン繊維のS字形断面説明図 (2−3)は本発明における再生コラーゲン繊維のS字形断面説明図
【図3】図3は本発明における再生コラーゲン繊維のS字形断面説明図
【図4】図4は本発明における再生コラーゲン繊維の繭形断面説明図
【図5】(5−1)は本発明における再生コラーゲン繊維の4葉形断面説明図 (5−2)は本発明における再生コラーゲン繊維の5葉形断面説明図 (5−3)は本発明における再生コラーゲン繊維の6葉形断面説明図 (5−4)は本発明における再生コラーゲン繊維の7葉形断面説明図 (5−5)は本発明における再生コラーゲン繊維の8葉形断面説明図
【図6】図6は本発明における再生コラーゲン繊維のキ形断面説明図
【図7】図7は本発明の実施例1に用いたノズル形状説明図
【図8】図8は本発明の実施例2に用いたノズル形状説明図
【図9】図9は本発明の実施例3に用いたノズル形形状説明図
【図10】図10は本発明の実施例4に用いたノズル形状説明図
【図11】図11は本発明の実施例5に用いたノズル形状説明図
【図12】図12は本発明の実施例6に用いたノズル形状説明図
【図13】図13は本発明の実施例7に用いたノズル形状説明図
【図14】図14は本発明の実施例8に用いたノズル形状説明図
【図15】図15は本発明の比較例2に用いたノズル形状説明図
【図16】図16は本発明の比較例3に用いたノズル形状説明図
【図17】図17は本発明の比較例4に用いたノズル形状説明図
【図18】図18は本発明の比較例5に用いたノズル形状説明図
【図19】図19は本発明の比較例6に用いたノズル形状説明図
【図20】図20は本発明の実施例1で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図21】図21は本発明の実施例2で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図22】図22は本発明の実施例3で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図23】図23は本発明の実施例4で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図24】図24は本発明の実施例5で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図25】図25は本発明の実施例6で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図26】図26は本発明の実施例7で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図27】図27は本発明の実施例8で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図28】図28は本発明の比較例1で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図29】図29は本発明の比較例2で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図30】図30は本発明の比較例3で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図31】図31は本発明の比較例4で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図32】図32は本発明の比較例5で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【図33】図33は本発明の比較例6で得られた再生コラーゲン繊維の断面説明図
【符号の説明】
【0059】
α Y字形断面の突起部分のなす角度
β Y字形断面の突起部分のなす角度
γ Y字形断面の突起部分のなす角度
p Y字形断面の突起部分の長さ
q Y字形断面の突起部分の幅
a S字形断面の幅
b C字形断面の開口部の長さ
c C字形断面の外径
d 繭形断面の長さ
e 繭形断面の窪み部分の長さ
f キ形断面の突起部の長さ
g キ形断面の突起部の長さ
h キ形断面の突起部の長さ
i キ形断面の突起部の長さ
W 4〜8葉形断面の突起部の幅
L 4〜8葉形断面の突起部の高さ
R 繭型断面の円形部の半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y字形、S字形、C字形、繭形、4〜8葉形、キ形よりなる群から選ばれる少なくとも1種の断面形状を有することを特徴とする再生コラーゲン系人工毛髪用繊維。
【請求項2】
再生コラーゲン繊維が単官能エポキシ化合物及び金属アルミニウム塩を含むことを特徴とする請求項1に記載の再生コラーゲン系人工毛髪用繊維。
【請求項3】
単官能エポキシ化合物が下記一般式(1)で表される単官能エポキシ化合物である請求項2に記載の再生コラーゲン系人工毛髪用繊維。
【化1】

但し、RはR1−、R2−O−CH2−またはR2−COO−CH2−で表される置換基を示し、R1は炭素数2以上20以下の炭化水素基またはCH2Clであり、R2は炭素数4以上20以下の炭化水素基を示す。
【請求項4】
再生コラーゲン繊維が金属アルミニウム塩で架橋されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の再生コラーゲン系人工毛髪用繊維。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の再生コラーゲン系人工毛髪用繊維を含む、人工毛髪。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate


【公開番号】特開2010−24586(P2010−24586A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188427(P2008−188427)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】