説明

再生水製造方法

【課題】大量のオゾンを必要とせず、低コストで膜面の閉塞を確実に防止しつつ、排水から安定して再生水を得ることができる再生水製造方法を提供する。
【解決手段】原水である排水にオゾン接触塔2においてオゾンを添加したのち、凝集槽4において凝集剤を添加し、分離膜5で膜ろ過して再生水を得る再生水製造方法である。凝集工程の直前でオゾン濃度測定器7によって原水中の残留オゾン濃度を測定し、その値が0.2〜2.0mgO/Lとなるようにオゾン添加量を制御しながらオゾンを添加して原水中に含まれる微細固形物の表面性状を易凝集性に改質したうえ、凝集剤を添加して凝集させ、耐オゾン性の分離膜5により膜ろ過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理水その他の各種の排水を原水として再生水を得る再生水製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水資源の有効利用を図るために、各種の排水を膜ろ過して再生水を得る技術が開発されている。例えば特許文献1、2には、浄水処理場のろ過池の洗浄排水を膜ろ過することにより、洗浄水として再利用する方法が開示されている。これら特許文献1、2に記載の発明の場合には排水の性状が比較的良好であるが、排水が下水排水のように多量の有機物を含有するような場合には、排水を膜ろ過すると膜面が排水中の有機物などによって短時間のうちに閉塞してしまい、運転不能となるおそれがある。
【0003】
このような膜面の閉塞を防止する技術としては、特許文献3、4に示されるように、原水中にオゾンを添加して膜面閉塞の原因となる有機物を分解してしまう方法がある。しかし有機物を十分に分解するためには多量のオゾンを必要とする。そしてオゾン発生には多量の電力と多額のオゾン発生機メンテナンス費用を要するため、多量のオゾンを添加するとランニングコストが高くなるという問題がある。
【0004】
また多量のオゾンを添加した場合有機物の分解が進み、膜面を通過してしまうため、膜ろ過水中の残留有機物濃度が高まり、却って再生水の水質が低下するという問題がある。これらの理由により、排水を膜ろ過して再生水を得るためにオゾンを利用することはほとんど行われておらず、特許文献3、4は何れも浄水処理を主目的とするものである。
【0005】
なお特許文献5には、下水二次処理水にプレオゾン処理、生物膜ろ過処理、オゾン処理、膜ろ過処理を行う再生水の製造方法が記載されている。しかしこの方法も大量のオゾンを必要とするうえ、原水の性状変動等によってプレオゾン処理のオゾンが誤って生物膜ろ過処理工程に流入すると生物膜の活性が低下し、処理水質が悪化するおそれもあり、実用運転は容易ではないと考えられる。
【特許文献1】特開平11‐235587号公報
【特許文献2】特開2001‐87764号公報
【特許文献3】特開2003‐285059号公報
【特許文献4】特許第3449248号公報
【特許文献5】特開2002−136981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、大量のオゾンを必要とせず、低コストで膜面の閉塞を確実に防止しつつ、排水から安定して再生水を得ることができる再生水製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の再生水製造方法は、原水にオゾンを添加したのち凝集剤を添加し、膜ろ過して再生水を得る再生水製造方法であって、凝集工程の直前で原水中の残留(溶存)オゾン濃度を測定し、その値が0.2〜2.0mgO/Lとなるようにオゾン添加量を制御しながらオゾンを添加して原水中に含まれる微細固形物の表面性状を易凝集性に改質したうえ、凝集剤を添加して凝集させ、耐オゾン性の分離膜により膜ろ過することを特徴とするものである。
【0008】
なお請求項2の発明では、凝集工程の直前で測定された残留オゾン濃度が0.2mgO/L以上、1.0mgO/L以下となるようにオゾン添加量を制御し、請求項3の発明では、凝集工程の直前で測定された残留オゾン濃度が1.0mgO/Lを越え2.0mgO/L以下となるようにオゾン添加量を制御する。なお請求項4のように原水を排水とすることができ、請求項5のように耐オゾン性の分離膜を、セラミック製のモノリス膜とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の再生水製造方法によれば、従来技術とは異なりオゾンを凝集性改善の目的で原水に少量添加したうえで凝集剤を添加する。これによって排水中の微細固形物を凝集性の良好なフロックとし、分離膜のろ過面の閉塞を防止することができる。本発明ではこの目的で凝集工程の直前で原水中の残留オゾン濃度を測定し、その値が0.2〜2.0mgO/Lとなるようにオゾン添加量を制御する。排水に添加されるオゾン量は微少量であるから、オゾン発生のためのランニングコストを特許文献3、4に示された従来技術に比較して、大幅に引き下げることができる。
【0010】
またオゾン添加量が少ないので有機物の過度の分解が進行せず、膜ろ過水中の残留有機物濃度を抑制することができるうえ、オゾンを使用しない場合に比較して膜ろ過流束を2倍程度にまで高めることができる。さらにオゾン処理の後段には生物膜は存在しないので、特許文献5のように処理水質が変動することもない。このため本発明によれば、排水が下水処理水のように比較的多量の有機分を含む水質である場合にも、排水中の微細固形物を膜ろ過する方法で安定した水質の再生水を得ることができる。
【0011】
なお、請求項2のように凝集工程の直前の残留オゾン濃度を0.2mgO/L以上1.0mgO/L以下に制御すれば、オゾンによる凝集性改善効果を損なうことなくオゾン使用量を抑制することができ、ランニングコストを引き下げることができる。
【0012】
また、請求項3のように凝集工程の直前の残留オゾン濃度を1.0mgO/Lを越え〜2.0mgO/L以下となるように制御すれば、原水の性状が変動した場合にも凝集性改善効果を確保することができ、膜面の閉塞や処理水質の悪化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1は本発明の第1の実施形態を示す図であり、1は下水処理場の最終沈殿池、2は最終沈殿池1から排出された排水が導かれるオゾン接触塔である。3はこのオゾン接触塔2にオゾンを供給するオゾン発生器、4は凝集槽、5は耐オゾン性の分離膜である。この実施形態では原水となる排水は下水処理水であるが、排水の種類はこれに限定されるものではなく、返流水、工場排水、ゴミ浸出水、屎尿、農業廃水、畜産排水、養殖排水などを処理した排水であってもよい。
【0014】
原水である排水はオゾン接触塔2に導入され、排水中にオゾンが添加される。この実施形態では排水を下向流としてオゾンと接触させたが、上向流としても差し支えない。オゾン接触塔へのオゾン供給方法としては、図1に示すように散気筒や散気板などの散気装置6をオゾン接触塔1内に設置する方法のほか、オゾン接触槽1外に設置したイジェクターやポンプなどによりオゾンを原水中に溶解させてからオゾン接触塔に投入する方法などを用いることもできる。なお、最終沈殿池とオゾン接触塔の間に、生物膜ろ過や担体法などの生物処理や砂ろ過や繊維ろ過などの簡易ろ過装置を設置することもできる。
【0015】
排水中に添加されたオゾンは排水中に含まれる微細固形物と接触することにより、微細固形物の表面性状を易凝集性に改質する。オゾンによる微細固形物の表面性状改質のメカニズムについては学術的には十分解明されていないが、微細固形物の表面電荷がオゾンとの接触によりマイナス側に変化することによるものと想定される。この表面性状改質は少量のオゾンにより短時間に行われるので、必要な滞留時間は0.1〜10分程度である。なお、オゾンを消費する物質としては、微細固形物であるSS、有機物(COD)のほか、NO‐N等を挙げることができる。
【0016】
本発明では、オゾン接触塔1を出た後、凝集槽4の直前において排水中の残留オゾン濃度をオゾン濃度測定器7により測定し、常に0.2〜2.0mgO/Lとなるようにオゾン添加量を制御する。制御方式はフィードバック制御が好ましい。またオゾン濃度測定器7としては市販品を使用すればよく、測定は短時間に行うことができるので時間遅れの少ないフィードバック制御が可能である。
【0017】
本発明において凝集工程の直前における水中の残留オゾン濃度を0.2mgO/L以上に保つのは、凝集改善効果を所定のレベルに維持するためである。残留オゾン濃度が0.2mgO/L未満となると膜面の閉塞防止効果が低下したり、これを防止するために凝集剤の注入量を増加させる必要が生じてランニングコストの上昇を招いたりするので好ましくない。この点につき更に説明すると次の通りである。
【0018】
最近の研究では原水の種類によっては凝集槽内でオゾンが消費され、このオゾン消費が膜面の閉塞防止に寄与していることが判った。この理由は二つ考えられる。前記したように、オゾンによる微細固形物の表面性状改質は短時間で行われるが、微細固形物の種類によってはオゾン接触槽1の内部(滞留時間は0.1〜10分)では反応時間が不足し、易凝集化により長時間を有する場合もあることが想定された。このような微細固形物をも表面改質させるためには、凝集槽4内においてもなお水中の残留オゾン濃度をあるレベルに維持することが好ましく、これが凝集工程の直前における水中の残留オゾン濃度を0.2mgO/L以上に保つ理由である。
【0019】
もう一つは、オゾン接触塔1内で易凝集化した微細固形物が凝集槽4内で粗大化する際に表面性状が元に戻り、粒子径があるレベルに達すると凝集改善効果がなくなる傾向があることも想定された。このためには凝集槽4内においても水中の残留オゾン濃度をあるレベルに維持して粗大粒子の表面に対しても改質効果を及ぼすことが好ましく、これが凝集工程の直前における水中の残留オゾン濃度を0.2mgO/L以上に保つその他の理由である。
【0020】
一方、凝集工程の直前における水中の残留オゾン濃度が2.0mgO/Lを越えると、オゾンにより膜面で阻止できないほど有機物の分解が進行し、処理水中の有機物濃度が上昇して再生水の水質悪化を招く。またオゾンの発生には大量の電力を必要とするので、過剰なオゾン注入はランニングコストの上昇を招き好ましくない。すなわち、オゾン設備費が高くなり、オゾンの凝集改善効果に伴う膜ろ過流束向上による膜設備費低減効果がなくなることとなる。
【0021】
上記のように本願発明では残留オゾン濃度を0.2mgO/L以上、2.0mgO/L以下に維持するが、特に請求項2のように凝集工程の直前の残留オゾン濃度を0.2mgO/L以上1.0mgO/L以下に制御すれば、多くの場合、オゾンによる凝集性改善効果を損なうことなくオゾン使用量を抑制することができ、ランニングコストを引き下げることができる。
【0022】
しかし原水の性状によっては、請求項3のように凝集工程の直前の残留オゾン濃度を1.0mgO/Lを越え、2.0mgO/L以下となるように制御することが好ましい場合もある。このような範囲に維持すれば、原水の性状が変動した場合にも凝集性改善効果を確保することができ、膜面の閉塞や処理水質の悪化を防止することができる。
【0023】
このようにしてオゾンが添加された排水は、凝集槽4に送られて凝集剤が添加される。凝集剤の種類としては、PAC、塩化第二鉄、硫酸バンド、高分子凝集剤、PSI(ポリシリカ鉄凝集剤)などを使用すればよい。排水は凝集槽4において急速攪拌や緩速撹拌により凝集剤と混合され、凝集フロックが形成される。前工程において凝集改善がなされているので凝集性の良好なフロックが形成される。また凝集槽4の内部においても凝集改善がなされることは前述の通りである。
【0024】
凝集槽5を出た排水は分離膜5により膜ろ過される。分離膜5の材質は耐オゾン性であることが必要であり、セラミック膜のほかにPVdF等の耐オゾン性の高分子膜を使用することができる。膜形状はモノリス型、チューブラー型、平膜、中空糸膜などの様々なものを用いることができ、外圧式であっても内圧式であってもよい。膜の種類はMF膜またはUF膜であることが好ましい。
【0025】
この実施形態では、セラミック製のモノリス型MF膜を用いて排水をデッドエンドろ過し、微細固形物が除去された再利用水を得る。前述のとおり、排水中の微細固形物は凝集性の良好なフロックとなっているため膜面の閉塞が防止され、下水処理水のように比較的多量の有機分を含む排水である場合にも、長期間にわたり安定して再利用水を得ることができる。ただし定期的な逆洗操作や薬液洗浄が必要であることはいうまでもない。分離膜5を通過する際にも水中のオゾンは消費され、膜透過後の再生水中の残留オゾン濃度は0またはごく微量となる。以下に本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0026】
図1に示した装置を用い、下水処理水から再利用水を得る実験を行った。オゾン接触塔の滞留時間は10分であり、使用した分離膜は細孔径が0.1μmのモノリス型セラミック膜である。膜ろ過流束は4m/日、凝集剤としてはPACを使用し、3mg‐Al/Lの濃度となるように排水中に添加した。表1に原水である排水の性状及び処理水である再生水の性状を示した。
【0027】
【表1】

【0028】
比較例1は、凝集前の溶存オゾン濃度が低いため、凝集改善効果が低く、薬品洗浄間隔が10日しかないほど膜差圧上昇が激しかった。また、処理水中にも色度成分が残存し、処理水質もあまり良くなかった。
【0029】
実施例1は、凝集前の溶存オゾン濃度が0.2mg/Lあるため、凝集改善効果があり、薬品洗浄間隔が60日と安定運転が可能であり、処理水質にも問題はなかった。
実施例2は、凝集前の溶存オゾン濃度が1mg/Lあるため、凝集改善効果があり、薬品洗浄間隔が90日と安定運転が可能であった。水質にも問題はなかった。
実施例3は、凝集前の溶存オゾン濃度が2mg/Lあるため、凝集改善効果があり、薬品洗浄間隔が90日と安定運転が可能であった。水質はBODが多少高いが問題はない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0031】
1 最終沈殿池
2 オゾン接触塔
3 オゾン発生器
4 凝集槽
5 分離膜
6 散気装置
7 オゾン濃度測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水にオゾンを添加したのち凝集剤を添加し、膜ろ過して再生水を得る再生水製造方法であって、凝集工程の直前で原水中の残留オゾン濃度を測定し、その値が0.2〜2.0mgO/Lとなるようにオゾン添加量を制御しながらオゾンを添加して原水中に含まれる微細固形物の表面性状を易凝集性に改質したうえ、凝集剤を添加して凝集させ、耐オゾン性の分離膜により膜ろ過することを特徴とする再生水製造方法。
【請求項2】
凝集工程の直前で測定された残留オゾン濃度が0.2mgO/L以上、1.0mgO/L以下となるようにオゾン添加量を制御することを特徴とする請求項1記載の再生水製造方法。
【請求項3】
凝集工程の直前で測定された残留オゾン濃度が1.0mgO/Lを越え、2.0mgO/L以下となるようにオゾン添加量を制御することを特徴とする請求項1記載の再生水製造方法。
【請求項4】
原水が排水であることを特徴とする請求項1記載の再生水製造方法。
【請求項5】
耐オゾン性の分離膜が、セラミック製のモノリス膜であることを特徴とする請求項1記載の再生水製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−172551(P2009−172551A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16213(P2008−16213)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】