説明

再石灰化促進剤

【課題】う蝕予防のための再石灰化促進剤を提供する。本発明を用いることによって、歯牙の再石灰化が促進され、歯牙の過度の脱灰を防ぎ、う蝕の予防をすることができる。
【解決手段】ラクトビオン酸を含有することを特徴とするミネラル吸収促進剤及びこの再石灰化促進剤を含有する飲食物であり、その際、再石灰化促進剤を飲食物の総質量に対して0.01〜100質量%、好ましくは0.05〜50質量%、さらに好ましくは0.1〜20質量%の割合で配合し、お茶、果物・野菜系飲料、アルコール性飲料、炭酸飲料、乳酸菌飲料、乳飲料、清涼飲料、低カロリー飲料等の飲料や生鮮食品や加工食品であってもよく、好ましくは、口腔内で一定時間保持されるチューインガム、キャンディー、キャラメル、グミ等が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトビオン酸を含有する、抗う蝕機能を有する再石灰化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕は、いわゆるむし歯のことである。う蝕はどの世代でも抱える一般的な病気である。特に歯の萌出後の数年は石灰化度が低いためう蝕になりやすく、未成年に多く見られる。また、高齢化社会においては、老齢期でも健康な歯を有することは重要なことである。そのため、う蝕の予防が注目されている。
【0003】
う蝕のメカニズムは、口腔内の細菌が糖質から酸をつくり、それによって歯質からカルシウムとリン酸が溶解されて起こる。この現象を脱灰という。う蝕の原因とされる口腔内の細菌として、ストレプトコッカス・ミュータンスが良く知られている。食事後に、ストレプトコッカス・ミュータンスが口腔内に残存した糖分から酸を作る。この酸が歯の表面を形成しているエナメル質のハイドロキシアパタイトを溶解し、カルシウムとリン酸が溶出してくる。これが繰り返されることでう蝕が発生する。
【0004】
しかし、唾液中にはカルシウムとリン酸が十分にあるため、再びリン酸カルシウムとして脱灰部分に沈着する。この現象を再石灰化という。再石灰化により、脱灰した歯牙を十分に再生することが可能となれば、う蝕の発生を抑えることが可能となる。そこで、口腔内に再石灰化を促進する物質を加えることで、再石灰化が促進され抗う蝕作用が期待される。
【0005】
そのため、これまでに次のような再石灰化促進物質が報告されている。例えば糖アルコール、特にキシリトールが良く知られている(特許文献1)。また、リン酸化オリゴ糖(特許文献2)やミセル性リン酸カルシウム−ホスホペプチド複合体(特許文献3)などが知られている。
【特許文献1】特開2000−128752号公報
【特許文献2】特開2002−325556号公報
【特許文献3】特開2006−213668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでの再石灰化促進物質は、十分な効果が得られなかったり、下痢などの副作用が生じるなどの問題があった。例えば、キシリトールなどの糖アルコールを含む食品を多量に摂取することで、軟便や下痢などの症状を起こすことが報告されている。
【0007】
本発明は、う蝕の予防に有用な再石灰化促進剤を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、ラクトビオン酸が良好な再石灰化促進作用を有し、う蝕を予防すること見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明の第一は、ラクトビオン酸を含有することを特徴とする再石灰化促進剤を要旨とするものである。
【0010】
本発明の第二は、前記の再石灰化促進剤を含有することを特徴とする口腔用組成物を要旨とするものであり、好ましくは、再石灰化促進剤が、口腔用組成物の総質量に対して、0.01〜100質量%の割合で含有するものである。
【0011】
本発明の第三は、前記の再石灰化促進剤を含有することを特徴とする飲食物を要旨とするものであり、好ましくは、再石灰化促進剤が、飲食物の総質量に対して、0.01〜100質量%の割合で含有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ラクトビオン酸を含有する再石灰化促進剤や再石灰化促進剤を含有する口腔用組成物、飲食物を摂取することで、再石灰化を促進することができる。すなわち、十分な歯牙の再石灰化が可能となり、引いてはう蝕の予防、発症を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明で用いられるラクトビオン酸は、その形態は問わず、粉末でも水溶液でもよく、遊離のラクトビオン酸のみならず、ラクトビオン酸塩又はラクトビオノラクトンの形であってもよく、あるいはこれらの組み合わせでもよい。さらに、ラクトビオン酸含有物を用いることも可能である。これらのうち、ラクトビオン酸カルシウムが好ましい。
【0015】
ラクトビオン酸の製造方法としては、特に限定されるものではなく公知の方法が好適に使用できる。例えば、乳糖を臭素ナトリウムとともに電気を印加することによって酸化する方法が知られている。また、微生物変換・発酵法により得る方法としては、アシネトバクター属やブルクホルデリア属、アセトバクター属、グルコノバクター属などの乳糖酸化活性を有する微生物を、乳糖に作用し酸化することによって得る方法が知られている(詳細は、特開2001−245657号公報、特開2007−28917号公報などを参照)。このようにして得られたラクトビオン酸が本発明において有効に用いられる。
【0016】
本発明の第一は、ラクトビオン酸を含有する再石灰化促進剤であり、その際、ラクトビオン酸は0.01〜100質量%の割合で範囲内にあるものである。ラクトビオン酸の量は、後述する定量方法により測定された値である。
【0017】
本発明の再石灰化促進剤を製造するには、特にその製造方法は問わない。例えば(1)所定量のラクトビオン酸を一旦水に溶解し、噴霧乾燥する。(2)所定量のラクトビオン酸含有物を、造粒、乾燥する。(3)所定量の乳糖やそれを含む溶液に、乳糖を酸化する微生物、好ましくは酢酸菌から選ばれる微生物を接触させ、造粒、乾燥する。(4)(1)〜(3)の方法で得られた粉末、顆粒をそのまま打錠、あるいはカプセルに封入する等の方法が挙げられる。これらの方法により得られた再石灰化促進剤は、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤等の形態をとっている。
【0018】
上記のような方法により作製した再石灰化促進剤の再石灰化促進作用の評価方法は、通常用いられる再石灰化測定方法を用いて調べることができる。例えば、トランスヴァーサル・マイクロラジオグラフィー法が知られている。また以下に例示するような簡易試験系を用いて評価することができる。ただし、本発明における再石灰化促進作用は、この実験系によって評価されるものに限定されるわけではない。
【0019】
3mM CaCl2溶液、1.5mM KH2PO4溶液、及び20mM HEPES緩衝液(pH7.0)をそれぞれ含んだ溶液を基本溶液とし、この溶液へ再石灰化促進剤を添加融和させる。この基本溶液にハイドロキシアパタイトを含ませたものと含ませないものの2種類の試験溶液をそれぞれ調整する。37℃で24時間インキュベートした後、10000rpmで3分間遠心分離して上清溶液を得る。この上清溶液中のカルシウムイオン濃度をOCPC法(和光純薬株式会社製:「カルシウムCテストワコー」を用いて測定)で測定し、可溶性Ca率(%)の差により、見かけ上の再石灰化率(%)とする。この方法は「口腔衛生会誌」51巻、p.526-527、(2001)に詳しい。
【0020】
上記した再石灰化促進剤にカルシウムを配合することが可能である。使用するカルシウムとしては、食用に供することが可能な天然物又は、食品添加物に指定されている種類、形態、品質を備えていれば良く、無機質、有機物、その形態等、特に制限はない。具体的に例を挙げれば、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、L−グルタミン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、燐酸一水素カルシウム、燐酸二水素カルシウム、燐酸三カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ピロ燐酸二水素カルシウム、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、5’−リボヌクレオチドカルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。その他、天然物としてカルシウムとマグネシウムをほぼ2:1の割合で含有するドロマイトも使用出来る。
【0021】
本発明の第二は、上記した再石灰化促進剤を含有する口腔用組成物であり、その際、再石灰化促進剤を組成物の総質量に対して0.01〜100質量%、好ましくは0.05〜50質量%、さらに好ましくは0.1〜20質量%の割合で配合するのが望ましい。口腔用組成物としては、例えば、トローチ剤、ロゼンジ剤、口腔用軟膏、口腔用スプレー、口腔用ジェル、歯磨き剤、うがい薬などが含まれる。
【0022】
本発明の口腔用組成物を製造するには、特にその製造方法は問わず、用途に応じた形態とすればよい。
【0023】
また、本発明の口腔用組成物には、医薬製剤上許容される担体又は添加物が配合されていてもよい。このような担体及び添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤などの他、リポゾームなどの人工細胞構造物などが挙げられる。使用される添加物は、製剤の剤形に応じて適宜又は組み合わせて選択される。本発明の口腔用製剤は、さらに他の薬理成分を含有していてもよい。
【0024】
本発明の第三は、上記した再石灰化促進剤を含有する飲食物であり、その際、再石灰化促進剤を飲食物の総質量に対して0.01〜100質量%、好ましくは0.05〜50質量%、さらに好ましくは0.1〜20質量%の割合で配合するのが望ましい。
【0025】
本発明の飲料の種類は、特に限定されない。本発明の飲料は、例えば、お茶、果物・野菜系飲料、アルコール性飲料、炭酸飲料、乳酸菌飲料、乳飲料、清涼飲料、低カロリー飲料等の飲料を具体的に例示することができる。
【0026】
本発明の食品の種類は、特に限定されない。本発明の食品は、生鮮食品であってもよいし、加工食品であってもよい。好ましくは、口腔内で一定時間保持されるチューインガム、キャンディー、キャラメル、グミ等が好ましい。
【0027】
本発明の飲食物を製造するには、特にその製造方法は問わず、飲食物に応じた形態とすればよい。例えば(1)所定量の再石灰化促進剤をそのまま、または種々の原料と混合し、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤等といった形態で食品、健康補助食品、サプリメントとする。(2)所定量の再石灰化促進剤を種々の原料と混合して、粉末調味料や即席茶、即席味噌汁、即席スープ等の粉末飲料とする。(3)所定量の再石灰化促進剤を種々の飲料等の原料に溶解、混合して、缶飲料、ペットボトル飲料等の飲料とする。(4)所定量の再石灰化促進剤を種々の飲料等の原料に溶解、混合したものを、さらに凍結乾燥、噴霧乾燥等により固化、粉末化して、粉末調味料や即席茶、即席味噌汁、即席スープ等の固形飲料とする。(5)所定量の再石灰化促進剤を種々の原料と混合、加工、調理して、レトルト食品、冷凍食品、和菓子、洋菓子、パン類、シリアル類、麺類等の食品とする等の製造方法、形態が挙げられる。
【0028】
本発明の飲食物には、甘味料、酸味料、増粘剤、香料、保存料、ビタミン類、ミネラル類などの食品素材を配合させることが可能で、各種の食品、ドリンク類に配合することも可能である。甘味料としては、スクラロース、アセスルファムK、アスパルテーム、ステビア、サッカリン、ソーマチン、グリシン、羅漢果などの高甘味度甘味料、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、マルチトールなどの糖アルコール、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳菓オリゴ糖、キシロオリゴ糖などのオリゴ糖類、さらにはトレハロース、パラチノース、異性化糖などの単糖類及び二糖類などを例として挙げることができる。さらに、ミネラルとしては、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅などが挙げられる。
【実施例】
【0029】
参考例〔ラクトビオン酸の定量方法〕
ラクトビオン酸を含有する試料1gを水に溶解し、100mLとし、定量用試料とする。高速液体クロマトグラフシステム(カラム;昭和電工社製、Asahipak NH2P-50、250mm×4.6mm、カラム温度;40℃、移動相;アセトニトリル:40mMクエン酸−NaH2PO4緩衝液(pH5.0)=60:40(体積比)、流速;0.8mL/分、検出;示差屈折率)に定量用試料10μLを注入し、別途用意した標準試料(1、5、10g/L)の測定結果より作成した検量線を用いて、ラクトビオン酸の定量(C)(g/L)を行ない、次式により試料中のラクトビオン酸含量率(%)を算出した。
ラクトビオン酸含量率(%)={(C×0.1)÷1}×100
C=定量用試料中のラクトビオン酸の濃度(g/L)
【0030】
実施例1〔再石灰化促進剤の製造〕
〔前培養〕
試験管(18 mm×200 mm)に、グルコース0.5%、酵母エキス0.5%、ポリペプトン0.5%、硫酸マグネシウム0.1%(pH7.0)を含む培地3mLを分注し、121℃で20分間殺菌した。その試験管に一白金耳のグルコノバクター・セリナス NBRC 3267を植菌し、30℃で1晩振とう培養(220rpm)した。次に上記組成培地を1L分注し121℃で20分間殺菌した3L三角フラスコに上記試験管培養液を植菌し30℃で3日間振とう培養(220rpm)した。
【0031】
〔本培養〕
グルコース1.5%、ラクトース0.5%、酵母エキス0.5%、ポリペプトン0.5%、硫酸マグネシウム0.1%を含む培地(pH6.0)を20L調製し121℃で20分間殺菌した。これに上記前培養液1Lを植菌し、30℃で深部撹拌培養(300回転、1vvm)をした。48時間培養後、菌体を遠心回収した。
【0032】
〔発酵反応〕
本培養で得られた菌体すべてを15%ラクトース溶液、3%炭酸カルシウム2Lに懸濁をして、40度で通気撹拌(300回転、1vvm)した。24時間後、反応液を遠心回収した。得られた反応液を噴霧乾燥し、得られた乾燥粉末を再石灰化促進剤(実施例1)とした。再石灰化促進剤中のラクトビオン酸含量は51.2%であった。
【0033】
実施例2〔再石灰化促進作用の評価〕
3 mM CaCl2溶液、1.5 mM KH2PO4溶液、及び20mM HEPES緩衝液(pH7.0)をそれぞれ含んだ溶液を基本溶液1 mLとし、この溶液へ再石灰化促進剤(実施例1)を2%濃度となるように添加融和させた。対照として、リン酸化オリゴ糖を2%濃度となるように添加した場合(比較例1)、再石灰促進剤を添加しない場合(比較例2)についても行った。上記溶液に5000mgのハイドロキシアパタイトを含ませたものと含ませないものの2種類の試験溶液をそれぞれ調整した。37 ℃で24時間インキュベートした後、10000 rpmで3分間遠心分離して上清溶液を得た。この上清溶液中のカルシウムイオン濃度をOCPC法(上述と同様)で測定し、可溶性Ca率(%)の差により、見かけ上の再石灰化率(%)とした。
【0034】
実験の結果を表1と図1に示す。本発明の再石灰化促進剤は比較例と比べて著しく高い再石灰化率を示し、再石灰化促進効果を持つことが示された。
【0035】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】再石灰化促進剤の再石灰化率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトビオン酸を含有することを特徴とする再石灰化促進剤。
【請求項2】
請求項1記載の再石灰化促進剤を含有することを特徴とする口腔用組成物。
【請求項3】
請求項1記載の再石灰化促進剤を含有することを特徴とする飲食物。



【図1】
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【公開番号】特開2010−6728(P2010−6728A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165940(P2008−165940)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】