説明

冷凍切り身用水中油型乳化物及びこれを用いた冷凍切り身

【課題】解凍の際、あぶらのりに優れた外観を有する冷凍切り身を提供する。
【解決手段】特定の平均粒子径を有し、乳酸塩及び澱粉を配合し、かつ、凍結時に油分離する水中油型乳化物を切り身にインジェクションすることにより、解凍の際、あぶらのりに優れた外観を有する冷凍切り身を調製する。すなわち、乳化物の平均粒子径15〜40μmであり、乳酸塩の配合量が、0.5〜5%及び澱粉を配合し、かつ、凍結時に油分離する冷凍切り身用水中油型乳化物を切り身にインジェクションする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解凍の際、あぶらのりに優れた外観を有する切り身を提供するための冷凍切り身用水中油型乳化物及びこれを用いた冷凍切り身に関する。
【背景技術】
【0002】
サケ、タラ、タイ、ブリ、サバ等の魚は、食べ易いように切り身状にカットした後、長期保存のため凍結して日本各地に配送する流通形態が確立されている。そのため、産地から遠く離れた場所に住む消費者でも比較的手軽に様々な種類の魚の冷凍切り身を入手することができるようになっている。
【0003】
ところで、産卵期以降の魚は、卵巣や精巣に栄養分が集まるため、冷凍切り身となる魚肉部分の油脂含有量が急速に減少し産卵後では0.1%にまで減少する。近年では、あぶらのりに優れた外観を有する冷凍切り身が好まれているため、油脂含有量の低い魚は需要が少なく、止むを得ず食べずに廃棄してしまう場合があり大きな社会問題となっている。
【0004】
従来、油脂含有量の高い切り身を調製する方法として、特開昭63−36757号公報(特許文献1)には、切り身に液状水中油型乳化物を注入添加する切り身の製造方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、前記方法で得られた切り身を冷凍し、油脂含有量の高い冷凍切り身を調製することができたとしても、解凍の際、見た目にあぶらのりに優れた外観を有していなければ、消費者を十分に満足させることはできない。具体的には、冷凍切り身が、1〜4℃に温度設定されたスーパーマーケット等のチルドコーナーで解凍された際、切り身表面に油脂が滲みあぶらのりに優れた外観を有することができれば、購買意欲をそそり消費者を十分に満足させることができる。特許文献1の場合、切り身の油脂含有量を増すことはできるものの、解凍の際、切り身表面に油脂が滲まず、あぶらのりに優れた外観を有する切り身を得ることができなかった。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−36757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、解凍の際、あぶらのりに優れた外観を有する切り身を調製するための冷凍切り身用水中油型乳化物、及びこれを用いた冷凍切り身を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の平均粒子径を有し、乳酸塩及び澱粉を配合し、かつ、凍結時に油分離する水中油型乳化物を切り身にインジェクションすることにより、解凍の際、あぶらのりに優れた外観を有する冷凍切り身を調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)乳化物の平均粒子径が15〜40μmであり、乳酸塩及び澱粉を配合し、かつ、凍結時に油分離する冷凍切り身用水中油型乳化物、
(2)乳酸塩の配合量が、0.5〜5%である(1)の冷凍切り身用水中油型乳化物、
(3)(1)又は(2)の冷凍切り身用水中油型乳化物をインジェクションされてなる冷凍切り身、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、解凍の際、あぶらのりに優れた外観を有する冷凍切り身を調製することができる。そのため、油脂含有量が少ない切り身にも消費者の需要が見込まれるようになり、切り身市場の更なる活性化が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物及び冷凍切り身を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を表す。
【0012】
水中油型乳化物とは、水の中に油滴が分散している型の乳化物である。水中油型乳化物の平均粒子径は、乳化材の種類や、コロイドミル等の乳化機の種類及び運転条件により0.1μmから200μm程度まで調整することが可能である。
【0013】
本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物の場合、平均粒子径15〜40μmに調整し、かつ、乳酸塩及び澱粉を配合し、凍結時に油分離するように調製されていることを特徴とする。本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物をインジェクションされた切り身は、解凍の際、あぶらのりに優れた外観を有することができる。
【0014】
本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物における乳化物の平均粒子径は、15〜40μmであり、15〜30μmが好ましく、15〜25μmがより好ましい。冷凍切り身用水中油型乳化物の平均粒子径が前記範囲より小さい場合、解凍の際、水中油型乳化物が分離したとしても、油と水が明瞭に分離せず白濁した層を生じ、光沢のあるあぶらのりに優れた外観を有する冷凍切り身を調製し難い。前記範囲より大きい場合、凍結前に油分離が生じてしまい好ましくない場合がある。
【0015】
なお、平均粒子径の測定は、レーザ回折式粒度分布測定装置(日機装(株)製、商品名「マイクロトラックMT3300EXII」)を用いて、試料をセットしてから超音波をかけることなく1.5分後に測定開始し、2.5分後に測定終了して得られた値である。
【0016】
本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物は、乳酸塩を配合する。乳酸塩を配合しない場合、平均粒子径を前記範囲内に調整し、澱粉を配合し、かつ、凍結時に油分離するように調製したとしても、前記冷凍切り身用水中油型乳化物をインジェクションされた冷凍切り身は、解凍の際、あぶらのりに優れた外観を呈することができない。乳酸塩の配合量は、特に限定されないが、0.5〜5%が好ましく、1〜5%がより好ましい。乳酸塩の配合量が前記範囲より少ない場合、冷凍切り身用水中油型乳化物をインジェクションされた冷凍切り身は、解凍の際、あぶらのりに優れた外観が得られ難く、多くしたとしても、それ以上の効果が期待できず経済的でない。
【0017】
本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物に用いる乳酸塩の種類は、特に限定されないが、例えば、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸マグネシウム等が挙げられ、1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0018】
本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物は、凍結前は乳化状態を保ちながら凍結時に油分離させるため、冷凍変性の影響を受け易く油と水が明瞭に分離する澱粉を用いて乳化する。本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物に用いる澱粉の種類は、特に限定されないが、例えば、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、もち米澱粉等の生澱粉、及び前記生澱粉を加工した加工澱粉等が挙げられ、凍結時に油分離を生じ易い生澱粉が好ましい。
【0019】
本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物に用いる澱粉の配合量は、凍結前の乳化状態を保持できる量であれば特に限定されないが、0.5〜5%が好ましく、1〜3%がより好ましい。澱粉の配合量が前記範囲より少ない場合、凍結前の乳化状態を保持できない場合がある。前記範囲より多くしたとしても、それ以上の効果が期待できず経済的でない。
【0020】
本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物は、凍結時に油分離を生じ、具体的には、−10℃以下で凍結した場合に油分離を生じるものを指す。凍結時に油分離を生じない場合、平均粒子径を前記範囲内に調整し、かつ、乳酸塩及び澱粉を配合したとしても、前記冷凍切り身用水中油型乳化物をインジェクションされた冷凍切り身は、解凍の際、あぶらのりに優れた外観を呈することができない。
【0021】
本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物は、凍結時に油分離を生じるものであれば、前記澱粉以外の乳化原料を合せて配合することができる。具体的には、例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、卵黄、ホスホリパーゼ処理した卵黄、レシチン、リゾレシチン、オクテニルコハク酸化澱粉等のアシル基を有する乳化材、乳、大豆等の蛋白質、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム等の増粘材等が挙げられる。特に、アシル基を有する乳化材は、乳化力が強いため配合量を調整することが好ましく、具体的には0.5%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、配合しないことがさらに好ましい。アシル基を有する乳化材の配合量が前記値より多い場合、凍結時に油分離しない場合がある。
【0022】
本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物に用いる油脂は、食用に供される油脂であればいずれのもので良い。例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油、卵黄油等の動植物油又はこれらの精製油、あるいはMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的、酵素的処理等を施して得られる油脂等が挙げられる。
【0023】
本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物の粘度は、切り身に添加した際に切り身全体に浸透し易いものが好ましく、5Pa・s以下であり、好ましくは3Pa・s以下、より好ましくは1Pa・s以下である。前記値よりも粘度が高い場合、本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物が冷凍切り身全体に行き渡らず、解凍の際、あぶらのりに優れた外観を呈することができない場合がある。
【0024】
なお、粘度の測定は、当該調味液をBH型粘度計で、品温25℃、回転数20rpmの条件で、粘度が1.5Pa・s未満の時ローターNo.2、1.5Pa・s以上の時ローターNo.4を使用し、測定開始後ローターが3回転した時の示度により求めた値である。
【0025】
本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物は、前記原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択し配合することができる。具体的には、例えば、食酢、食塩、砂糖、醤油、味噌、アミノ酸、核酸、柑橘果汁、ケチャップ等の各種調味料、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸又はその塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、各種スパイスオイル、香料、香辛料、色素等が挙げられる。
【0026】
冷凍切り身とは、魚肉を適当な大きさに切って冷凍したものであり、皮や骨が付いていても良く、さく切り、フィレ、開き、2枚おろし、3枚おろし等の形態が挙げられる。得られた冷凍切り身は、例えば、焼き魚、煮魚、フライ等に調理して用いることができる。
【0027】
本発明に用いる冷凍切り身は、特に限定されないが、油脂含有量が5%以下の切り身が好ましく、3%以下がより好ましい。油脂含有量が、前記値より高い場合、既に油のりに優れた外観を有している場合がある。切り身に用いる魚の種類は、特に限定されないが、例えば、サケ、タラ、タイ、ブリ、サバ等が挙げられ、サケが本発明の効果をもっとも発揮し易く好ましい。
【0028】
本発明の冷凍切り身は、本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物を注射器等を用いてインジェクションされてなることで、本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物が切り身全体に概均一に行き渡ったものを指す。また、インジェクションが1箇所ではなく複数箇所にされてなることで、本発明の効果が発揮され易く好ましい。
【実施例】
【0029】
以下に本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物及びこれを用いた冷凍切り身を実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0030】
[実施例1]
攪拌ミキサーで食塩9%、とうもろこし澱粉2%、乳酸ナトリウム2%、清水37%を均一に混合した。次に、90℃で加熱し澱粉を糊化後、30℃まで冷却してから大豆油50%を加え粗乳化した。最後に、コロイドミルに通し仕上げ乳化し、本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物を調製した。なお、平均粒子径は18μm、粘度は0.8Pa・s、−20℃で凍結時に油分離を生じた。
【0031】
[実施例2]
乳酸ナトリウム2%を乳酸カリウム0.5%及び清水1.5%に置き換えた以外は、実施例1に準じて本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物を調製した。なお、平均粒子径は25μm、粘度は0.7Pa・s、−20℃で凍結時に油分離を生じた。
【0032】
[実施例3]
とうもろこし澱粉2%をとうもろこし澱粉1%及び清水1%に置き換えた以外は、実施例1に準じて本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物を調製した。なお、平均粒子径は39μm、粘度は0.7Pa・s、−20℃で凍結時に油分離を生じた。
【0033】
[実施例4]
清水0.1%をショ糖脂肪酸エステル(HLB16)に置換えた以外は、実施例1に準じて本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物を調製した。なお、平均粒子径は15μm、粘度は0.9Pa・s、−20℃で凍結時に油分離を生じた。
【0034】
[比較例1]
とうもろこし澱粉をショ糖脂肪酸エステル(HLB16)に置き換えた以外は、実施例1に準じて冷凍切り身用水中油型乳化物を調製した。なお、平均粒子径は5μm、粘度は1.1Pa・s、−20℃で凍結時に油分離を生じなかった。
【0035】
[比較例2]
乳酸ナトリウムを清水に置き換えた以外は、実施例1に準じて冷凍切り身用水中油型乳化物を調製した。なお、平均粒子径は28μm、粘度は0.8Pa・s、−20℃で凍結時に油分離を生じた。
【0036】
[比較例3]
澱粉2%を澱粉0.4%及び清水1.6%に置き換えた以外は、実施例1に準じて冷凍切り身用水中油型乳化物を調製した。−20℃での凍結時の様子は、凍結前に油分離を生じてしまい観察できなかった。なお、平均粒子径は60μm、粘度は0.6Pa・sであった。
【0037】
[試験例1]
冷凍切り身用水中油型乳化物の平均粒子径、乳酸塩及び澱粉の配合の有無、凍結時の油分離の有無が、本発明の効果に及ぼす影響を調べるため、実施例1〜4及び比較例1〜3の冷凍切り身用水中油型乳化物20gをサケの切り身200gに添加(外径1mmの注射針を用い、全8箇所に概均一に注射)し、切り身(サケ)を調製した。下記評価基準に従い、得られた切り身を−20℃で1週間凍結後4℃の冷蔵庫で解凍し、外観のあぶらのりを調べた。結果を表1に示す。
【0038】
<評価基準>
A:解凍の際、非常にあぶらのりに優れた外観を有する。
B:解凍の際、外観にあぶらのりを有する。
C:解凍の際、あぶらのりに劣る又は観察されず、適性を損ねる。
【0039】
【表1】

【0040】
表1の結果、平均粒子径15〜40μmであり、乳酸塩及び澱粉を配合し、かつ、凍結時に油分離する冷凍切り身用水中油型乳化物を用いた場合、解凍の際、外観にあぶらのりを有する冷凍切り身が得られた(実施例1〜4)。特に、平均粒子径15〜30μmであり、乳酸塩及び澱粉を配合し、かつ、凍結時に油分離する冷凍切り身用水中油型乳化物を用いた場合、解凍の際、非常にあぶらのりに優れた外観を有する冷凍切り身が得られた(実施例1、2、4)。一方、冷凍切り身用水中油型乳化物が、平均粒子径が15〜40μmの範囲外である場合、乳酸塩を配合しない場合、澱粉を配合しない場合、凍結時に油分離しない場合は、いずれも解凍の際、あぶらのりに劣る又は観察されず、適性を損ねた(比較例1〜3)。
【0041】
[試験例2]
冷凍切り身用水中油型乳化物の澱粉の種類及び冷凍切り身の魚の種類が、本発明の効果に及ぼす影響を調べた。
【0042】
[実施例5]
とうもろこし澱粉を生澱粉からα化処理を施したものに置き換えた以外は、実施例1に準じて本発明の冷凍切り身用水中油型乳化物を調製した。
【0043】
前記冷凍切り身用水中油型乳化物を用い、試験例1に準じて冷凍切り身(サケ)を調製した。得られた冷凍切り身は、解凍の際、あぶらのりに優れた外観を有し好ましかったが、実施例1の冷凍切り身と比べて若干外観のあぶらのりに劣っていた。
【0044】
[実施例6]
実施例1の冷凍切り身用水中油型乳化物を用い、サケをタラに置き換えた以外は試験例1に準じて冷凍切り身(タラ)を調製した。得られた冷凍切り身は、解凍の際、あぶらのりに優れた外観を有し好ましかったが、サケの冷凍切り身と比べて若干外観のあぶらのりに劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化物の平均粒子径が15〜40μmであり、乳酸塩及び澱粉を配合し、かつ、凍結時に油分離することを特徴とする冷凍切り身用水中油型乳化物。
【請求項2】
乳酸塩の配合量が、0.5〜5%である請求項1記載の冷凍切り身用水中油型乳化物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の冷凍切り身用水中油型乳化物をインジェクションされてなることを特徴とする冷凍切り身。