説明

冷凍機用潤滑油組成物

【課題】地球温暖化係数が低く、例えば現行カーエアコンシステムなどに使用可能な冷媒である飽和または不飽和フッ化炭化水素、二酸化炭素、炭化水素、アンモニアなど、各種の冷媒を用いた冷凍機用として安定性に優れる冷凍機用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】本発明の冷凍機油組成物は、基油に、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチル−フェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノ
ール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、および4,
4'−ブチリデンビス(3−メチルー6−t−ブチルフェノール)から選ばれたビスフェ
ノール類が配合されてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種冷凍分野における圧縮型冷凍機に使用される冷凍機用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、圧縮型冷凍機は圧縮機、凝縮器、膨張弁および蒸発器から構成され、冷媒と潤滑油との混合液体がこの密閉された系内を循環する構造となっている。このような圧縮型冷凍機においては、冷媒として、従来ジクロロジフルオロメタン(R12)やクロロジフルオロメタン(R22)などが多く用いられ、また潤滑油として種々の鉱油や合成油が用いられてきた。
【0003】
しかしながら、上記R12のようなクロロフルオロカーボンや、R22のようなハイドロクロロフルオロカーボンは、成層圏に存在するオゾン層を破壊するなど環境汚染をもたらすおそれがあることから、最近、世界的にその使用に対する規制が厳しくなりつつある。そのため、新しい冷媒としてハイドロフルオロカーボンなどの水素含有フロン化合物が注目されるようになってきた。この水素含有フロン化合物、特にR134aで代表されるハイドロフルオロカーボンは、オゾン層を破壊するおそれがない上、従来の冷凍機の構造をほとんど変更することなく、R12などとの代替が可能であるなど、圧縮型冷凍機用冷媒として好ましいものである(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方、ハイドロフルオロカーボンも地球温暖化の面で影響が懸念されることから、更に環境保護に適した代替冷媒として二酸化炭素やアンモニアなどのいわゆる自然系冷媒も注目されており、そのような自然系冷媒に対応した冷凍機油も提案されている(例えば、特許文献2)。また、地球温暖化係数が低い冷媒として、例えば不飽和フッ化炭化水素化合物、フッ化エーテル化合物、フッ化アルコール化合物、フッ化ケトン化合物など分子中に特定の極性構造を有する冷媒が見出されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−008078号公報
【特許文献2】特開2000−96075号公報
【特許文献3】特表2006−503961号公報
【特許文献4】特表平07−507342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1、2に記載の各冷凍機油は、必ずしも省エネルギー性が十分とはいえず、例えば、カーエアコンや電気冷蔵庫などの冷凍機のアルミニウム材と鋼材との間の摩擦は依然として大きく、省エネルギーの観点からは問題がある。また、冷媒としては、上記したように非常に多くの種類があるため、単一の冷凍機油では対応が困難である。特に、特許文献3、4に記載の冷媒を用いる冷凍機用潤滑油に対しては、前記冷媒に対する優れた相溶性を有すると共に、安定性に優れることも要求されるが、いまだに十分な安定性を有する潤滑油は提供されていない。
【0007】
そこで本発明は、地球温暖化係数が低く、例えば現行カーエアコンシステムなどに使用可能な冷媒である飽和または不飽和フッ化炭化水素、二酸化炭素、炭化水素、アンモニアなど、各種の冷媒を用いた冷凍機用として安定性に優れる冷凍機用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決すべく、本発明は、以下のような冷凍機用潤滑油組成物を提供するものである。
[1]基油に添加剤を配合してなる冷凍機用潤滑油組成物であって、前記添加剤がビスフェノール類であることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
[2]上述した[1]に記載の冷凍機用潤滑油組成物において、前記ビスフェノール類が、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチル−フェノール)、2,2'−メチレンビ
ス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、および4,4'−ブチリデンビス(3−メチルー6−t−ブチルフェノール)の少なくともいずれかであることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
[3]上述した[1]または[2]に記載の冷凍機用潤滑油組成物において、該冷凍機油組成物が、飽和フッ化炭化水素、二酸化炭素、炭化水素、アンモニア、および下記分子式(A)で示される含フッ素有機化合物から選ばれた少なくともいずれかの冷媒用であることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
(A)
(式中、Rは、Cl、Br、Iまたは水素を示し、pは1〜6、qは0〜2、rは1〜14、sは0〜13の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜6であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。)
[4]上述した[3]に記載の冷凍機用潤滑油組成物において、前記分子式(A)で示される化合物が、炭素数2または3の不飽和フッ化炭化水素であることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
[5]上述した[1]〜[4]のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物において、前記基油が、鉱油および合成系基油の少なくともいずれかであり、
前記合成系基油が、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリ−α−オレフィン、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリカーボネート、ポリオールエステル、および、下記式(1)で示されるエーテル系化合物の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
Ra―〔(ORb)n―(B)―(ORc)k〕x―Rd (1)
(式中、Ra、Rdはそれぞれ水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基または結合部2〜6個を有する炭素数1〜10の炭化水素基、Rb、Rcはそれぞれ炭素数2〜4のアルキレン基、n、kは0〜20の整数であり、xは1〜6の整数である。(B)は、下記式(2)で示されるモノマー単位を3以上含んだ重合部である。)
【0009】
【化1】

(式中、R、RおよびRはそれぞれ水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数1〜10の二価の炭化水素基または炭素数2〜20の二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基、Rは水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、mはその平均値が0〜10の数を示し、mが複数ある場合には構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、R〜Rは構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、またROが複数ある場合には、複数のROは同一でも異なっていてもよい。また、式(1)におけるk、nが共に0のとき、式(2)において、mは1以上の整数である。)
[6]上述した[1]〜[5]のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物において、基油に、極圧剤、油性剤、酸捕捉剤、金属不活性化剤および消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤をさらに配合することを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
[7]上述した[1]〜[6]のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物において、冷凍機の摺動部分がエンジニアリングプラスチックからなるもの、または有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものであることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
[8]上述した[7]に記載の冷凍機用潤滑油組成物において、前記有機コーティング膜が、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜、またはポリヒドロキシエーテル樹脂とポリサルホン系樹脂からなる樹脂基材および架橋剤を含む樹脂塗料を用いて形成された熱硬化型絶縁膜であることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
[9]上述した[8]に記載の冷凍機用潤滑油組成物において、前記無機コーティング膜が、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜またはモリブデン膜であることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
[10]上述した[1]〜[9]のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物において、開放型カーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、各種給湯システム、または冷凍兼暖房システムに用いられることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
[11]上述した[10]に記載の冷凍機用潤滑油組成物において、前記システム内の水分含有量が500質量ppm以下で、残存空気分圧が13kPa以下であることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の冷凍機用潤滑油組成物によれば、基油に添加剤としてビスフェノール類が配合されているので、冷凍機系内に残存する微量の酸素分子を捕捉し、酸素が冷媒と反応することを防止できる。それ故、本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、長期間安定して使用することができる。特に、開放型冷凍機システム内に残留する空気(酸素)による冷凍機油の劣化に対して非常に優れた抑制効果を発揮する。また、冷凍機油がシャフトシール部から漏れ出た場合でも、増粘や固化することなく長期間良好な性状を維持できる。
本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、特に酸素と反応しやすい不飽和フッ化炭化水素冷媒を用いたカーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、各種給湯システム、または冷凍兼暖房システムに対して好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
本発明の冷凍機油組成物は、基油に対して、ビスフェノール類を添加剤として配合したものである。
基油としては、鉱油あるいは合成系基油のいずれでもよい。合成系基油としては、例えば、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリ−α−オレフィン、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリカーボネート、ポリオールエステル、および、前記した式(2)で示されるエーテル化合物から選ばれる少なくとも1種が好適である。
以下に、まずこれらの基油について説明する。
【0012】
(1)鉱油:
鉱油としては、いわゆる高度精製鉱油が好ましく、例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油あるいはナフテン基系原油を常圧蒸留するか、常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油を常法に従って精製することによって得られる精製油、あるいは精製後更に深脱ロウ処理することによって得られる深脱ろう油、更には水素化処理によって得られる水素化処理油などを挙げることができる。その際の精製法には特に制限はなく様々な方法が使用される。
【0013】
通常は(a)水素化処理、(b)脱ロウ処理(溶剤脱ロウまたは水素化脱ロウ)、(c)溶剤抽出処理、(d)アルカリ蒸留または硫酸洗浄処理、(e)白土処理を単独で、あるいは適宜順序で組み合わせて行う。また、同一処理を複数段に分けて繰り返し行うことも有効である。例えば、留出油を水素化処理するか、または水素化処理した後、アルカリ蒸留または硫酸洗浄処理を行う方法、留出油を水素化処理した後、脱ロウ処理する方法、留出油を溶剤抽出処理した後、水素化処理する方法、留出油に二段あるいは三段の水素化処理を行う、またはその後にアルカリ蒸留または硫酸洗浄処理する方法、更には、上述した処理の後、再度脱ロウ処理して深脱ロウ油とする方法などがある。上記の各方法のうち、本発明における基油として用いられる高度精製鉱油には、深脱ロウ処理によって得られる鉱油が、低温流動性,低温時でのワックス析出がない等の点から好適である。この深脱ロウ処理は、苛酷な条件での溶剤脱ロウ処理法やゼオライト触媒を用いた接触脱ロウ処理などによって行われる。
本発明の冷凍機油組成物の基油として用いる場合は、40℃動粘度が1〜400mm/sであることが好ましく、5〜250mm/sであることがより好ましい。
【0014】
(2)アルキルベンゼン:
冷凍機油に用いられるアルキルベンゼンがいずれも使用可能であるが、本発明においてはこれより高粘度のものが好ましく用いられる。このような高粘度アルキルベンゼンとしては、様々なものがあるが、アルキル基の総炭素数(アルキル基が複数の場合は、それぞれのアルキル基の総和)が20以上のアルキルベンゼン(モノアルキルベンゼン,ジアルキルベンゼン,トリアルキルベンゼン)、好ましくは総炭素数が20以上でしかもアルキル基を2個以上有するもの(ジアルキルベンゼンなど)が熱安定性の点から好適に使用される。なお、この高粘度アルキルベンゼンは、動粘度が前述の範囲に入るものであれば、一種を単独で、あるいは二種以上を混合したものでもよい。
本発明の冷凍機油組成物の基油として用いる場合は、40℃動粘度が1〜400mm/sであることが好ましく、5〜250mm/sであることがより好ましい。
【0015】
(3)アルキルナフタレン:
アルキルナフタレンとしては、ナフタレン環にアルキル基が2つまたは3つ結合したものが好適に使用される。特に、このようなアルキルナフタレンとしては、熱安定性の点から総炭素数が20以上であるものが更に好ましい。本発明においては、これらのアルキルナフタレンは単独で用いてもよいし、また混合して用いてもよい。
本発明の冷凍機油組成物の基油として用いる場合は、40℃動粘度が1〜400mm/sであることが好ましく、5〜250mm/sであることがより好ましい。
【0016】
(4)ポリ−α−オレフィン
ポリ−α−オレフィンとしては、種々のものが使用可能であるが、通常は炭素数8〜18のα−オレフィンの重合体である。そのうち、好ましいものとしては、1−ドデセン、1−デセンあるいは1−オクテンの重合体を熱安定性、シール性、潤滑性などの点から挙げることができる。これらの中では、流動点が低く、粘度指数が高いという点で1−デセンの重合体が特に好ましい、
なお、本発明においては、ポリ−α−オレフィンとして、特にその水素化処理物が熱安定性の点から好ましく用いられる。これらのポリ−α−オレフィンは単独で用いてもよいし、また混合して用いてもよい。
本発明の冷凍機油組成物の基油として用いる場合は、40℃動粘度が1〜400mm/sであることが好ましく、5〜250mm/sであることがより好ましい。
【0017】
(5)ポリビニルエーテル(PVE):
基油として用いられるポリビニルエーテルには、ビニルエーテルモノマーを重合して得られたもの(以下、ポリビニルエーテルIと称する。)、ビニルエーテルモノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとを共重合して得られたもの(以下ポリビニルエーテル共重合体IIと称する。)およびポリビニルエーテルと、アルキレングリコール若しくはポリアルキレングリコール、またはそれらのモノエーテルとの共重合体(以下、ポリビニルエーテル共重合体IIIと称する。)がある。
【0018】
前記ポリビニルエーテルIの原料として用いるビニルエーテルモノマーとしては、例えばビニルメチルエーテル;ビニルエチルエーテル;ビニル−n−プロピルエーテル;ビニル−イソプロピルエーテル;ビニル−n−ブチルエーテル;ビニル−イソブチルエーテル;ビニル−sec−ブチルエーテル;ビニル−tert−ブチルエーテル;ビニル−n−ペンチルエーテル;ビニル−n−ヘキシルエーテル;ビニル−2−メトキシエチルエーテル;ビニル−2−エトキシエチルエーテル;ビニル−2−メトキシ−1−メチルエチルエーテル;ビニル−2−メトキシ−プロピルエーテル;ビニル−3,6−ジオキサヘプチルエーテル;ビニル−3,6,9−トリオキサデシルエーテル;ビニル−1,4−ジメチル−3,6−ジオキサヘプチルエーテル;ビニル−1,4,7−トリメチル−3,6,9−トリオキサデシルエーテル;ビニル−2,6−ジオキサ−4−ヘプチルエーテル;ビニル−2,6,9−トリオキサ−4−デシルエーテル;1−メトキシプロペン;1−エトキシプロペン;1−n−プロポキシプロペン;1−イソプロポキシプロペン;1−n−ブトキシプロペン;1−イソブトキシプロペン;1−sec−ブトキシプロペン;1−tert−ブトキシプロペン;2−メトキシプロペン;2−エトキシプロペン;2−n−プロポキシプロペン;2−イソプロポキシプロペン;2−n−ブトキシプロペン;2−イソブトキシプロペン;2−sec−ブトキシプロペン;2−tert−ブトキシプロペン;1−メトキシ−1−ブテン;1−エトキシ−1−ブテン;1−n−プロポキシ−1−ブテン;1−イソプロポキシ−1−ブテン;1−n−ブトキシ−1−ブテン;1−イソブトキシ−1−ブテン;1−sec−ブトキシ−1−ブテン;1−tert−ブトキシ−1−ブテン;2−メトキシ−1−ブテン;2−エトキシ−1−ブテン;2−n−プロポキシ−1−ブテン;2−イソプロポキシ−1−ブテン;2−n−ブトキシ−1−ブテン;2−イソブトキシ−1−ブテン;2−sec−ブトキシ−1−ブテン;2−tert−ブトキシ−1−ブテン;2−メトキシ−2−ブテン;2−エトキシ−2−ブテン;2−n−プロポキシ−2−ブテン;2−イソプロポキシ−2−ブテン;2−n−ブトキシ−2−ブテン;2−イソブトキシ−2−ブテン;2−sec−ブトキシ−2−ブテン;2−tert−ブトキシ−2−ブテン等が挙げられる。これらのビニルエーテル系モノマーは公知の方法により製造することができる。
これらのビニルエーテルモノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
前記ポリビニルエーテル共重合体IIの原料として用いられるビニルエーテルモノマーとしては、前記例示のビニルエーテルモノマーと同じものを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、もう一つの原料であるオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、各種ブテン、各種ペンテン、各種ヘキセン、各種ヘプテン、各種オクテン、ジイソブチレン、トリイソブチレン、スチレン、α−メチルスチレン、各種アルキル置換スチレンなどを挙げることができる。
これらのオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、このポリビニルエーテル共重合体IIはブロックまたはランダム共重合体のいずれであってもよい。
前記ポリビニルエーテルIおよびポリビニルエーテル共重合体IIは、例えば以下に示す方法により、製造することができる。
重合の開始には、ブレンステッド酸類、ルイス酸類または有機金属化合物類に対して、水、アルコール類、フェノール類、アセタール類またはビニルエーテル類とカルボン酸との付加物を組み合わせたものを使用することができる。ブレンステッド酸類としては、例えばフッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸などが挙げられる。ルイス酸類としては、例えば三フッ化ホウ素、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、四塩化スズ、二塩化亜鉛、塩化第二鉄などが挙げられ、これらのルイス酸類の中では、特に三フッ化ホウ素が好適である。また、有機金属化合物としては、例えばジエチル塩化アルミニウム、エチル塩化アルミニウム、ジエチル亜鉛などが挙げられる。
【0020】
ポリマーの重合開始末端は、水、アルコール類、フェノール類を使用した場合は水素が結合し、アセタール類を使用した場合は水素または使用したアセタール類から一方のアルコキシ基が脱離したものとなる。またビニルエーテル類とカルボン酸との付加物を使用した場合には、ビニルエーテル類とカルボン酸との付加物からカルボン酸部分由来のアルキルカルボニルオキシ基が脱離したものとなる。
一方、停止末端は、水、アルコール類、フェノール類、アセタール類を使用した場合には、アセタール、オレフィンまたはアルデヒドとなる。またビニルエーテル類とカルボン酸との付加物の場合は、ヘミアセタールのカルボン酸エステルとなる。このようにして得られたポリマーの末端は、公知の方法により所望の基に変換することができる。この所望の基としては、例えば飽和の炭化水素、エーテル、アルコール、ケトン、ニトリル、アミドなどの残基を挙げることができるが、飽和の炭化水素、エーテルおよびアルコールの残基が好ましい。
この重合反応は、原料や開始剤の種類にもよるが、−80〜150℃の間で開始することができ、通常は−80〜50℃の範囲の温度で行うことができる。また、重合反応は反応開始10秒から10時間程度で終了する。重合反応は、通常溶媒の存在下に行われる。該溶媒については、反応原料を必要量溶解し、かつ反応に不活性なものであればよく特に制限はないが、例えばヘキサン、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系、およびエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル系の溶媒を好適に使用することができる。
【0021】
一方、前記ポリビニルエーテル共重合体IIIは、アルキレングリコール若しくはポリア
ルキレングリコール、またはそれらのモノエーテルを開始剤とし、前記重合方法に従ってビニルエーテルモノマーを重合させることにより、製造することができる。
このアルキレングリコール若しくはポリアルキレングリコール、またはそれらのモノエーテルとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルキレングリコールやポリアルキレングリコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルキレングリコールモノエーテルやポリアルキレングリコールモノエーテルを挙げることができる。
また、原料として用いられるビニルエーテルモノマーとしては、前記ポリビニルエーテルIの説明において、ビニルエーテルモノマーとして例示したものと同じものを挙げることができる。このビニルエーテルモノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、前記ポリビニルエーテルは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の冷凍機油組成物の基油として用いる場合は、40℃動粘度が1〜400mm/sであることが好ましく、5〜250mm/sであることがより好ましい。
【0022】
(6)ポリアルキレングリコール(PAG)
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いられるポリアルキレングリコールとしては、例えば下記式(3)で示される化合物が挙げられる。
−[(OR10m1−OR11n1 (3)
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜10のヒドロカルビル基、炭素数2〜10の含酸素ヒドロカルビル基、炭素数2〜10のアシル基および結合部2〜6個を有する炭素数1〜10のヒドロカルビル基のいずれかである。R10は炭素数2〜4のアルキレン基、R11は水素原子、炭素数1〜10のヒドロカルビル基、炭素数2〜10の含酸素ヒドロカルビル基、および炭素数2〜10のアシル基のいずれかである。n1は1〜6の整数、m1はm1×n1の平均値が6〜80となる数を示す。)
【0023】
上記式(3)において、R、R11におけるヒドロカルビル基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該ヒドロカルビル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのアルキル基を挙げることができる。このヒドロカルビル基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、相分離を生じる場合がある。好ましいヒドロカルビル基の炭素数は1〜6である。含酸素ヒドロカルビル基としては、例えば、テトラヒドロフルフリル基が挙げられる。
また、R、R11における該アシル基のアルキル基部分は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該アシル基のアルキル基部分の具体例としては、上記アルキル基の具体例として挙げた炭素数1〜9の種々の基を同様に挙げることができる。該アシル基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、相分離を生じる場合がある。好ましいアシル基の炭素数は2〜6である。
およびR11が、いずれもヒドロカルビル基、含酸素ヒドロカルビル基、またはアシル基である場合には、RとR11は同一であってもよいし、たがいに異なっていてもよい。
【0024】
さらにn1が2以上の場合には、1分子中の複数のR11は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
が結合部位2〜6個を有する炭素数1〜10のヒドロカルビル基である場合、このヒドロカルビル基は鎖状のものであってもよいし、環状のものであってもよい。結合部位2個を有するヒドロカルビル基としては、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基などのアルキレン基が挙げられる。また、結合部位3〜6個を有するヒドロカルビル基としては、例えばトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール;1,2,3−トリヒドロキシシクロヘキサン;1,3,5−トリヒドロキシシクロヘキサンなどの多価アルコールから水酸基を除いた残基を挙げることができる。
このヒドロカルビル基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、相分離が生じる場合がある。好ましい炭素数は2〜6である。
【0025】
前記式(3)中のR10は炭素数2〜4のアルキレン基であり、繰り返し単位のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。1分子中のオキシアルキレン基は同一であってもよいし、2種以上のオキシアルキレン基が含まれていてもよいが、1分子中に少なくともオキシプロピレン単位を含むものが好ましく、特にオキシアルキレン単位中に50モル%以上のオキシプロピレン単位を含むものが好適である。
前記式(3)中のn1は1〜6の整数で、Rの結合部位の数に応じて定められる。例えばRがアルキル基やアシル基の場合、n1は1であり、Rが結合部位2、3、4、5および6個を有する脂肪族炭化水素基である場合、n1はそれぞれ2、3、4、5および6となる。また、m1はm1×n1の平均値が6〜80となる数であり、m1×n1の平均値が前記範囲を逸脱すると本発明の目的は十分に達せられない。
【0026】
前記式(3)で示されるポリアルキレングリコールは、末端に水酸基を有するポリアルキレングリコールを包含するものであり、該水酸基の含有量が全末端基に対して、50モル%以下になるような割合であれば、含有していても好適に使用することができる。この水酸基の含有量が50モル%を超えると吸湿性が増大し、粘度指数が低下するので好ましくない。
このようなポリアルキレングリコール類としては、例えばポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレン、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコールジアセテートなどが、経済性および効果の点で好適である。なお、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレン共重合体ジメチルエーテルのようなポリオキシプロピレン(PO)単位とポリオキシエチレン(EO)単位とからなる共重合体ではPO/EOのモル比は99:1〜10:90の範囲であり、ランダム重合体あるいはブロック重合体のいずれでもよい。
なお、前記式(3)で示されるポリアルキレングリコールについては、特開平2−305893号公報に詳細に記載されたものをいずれも使用することができる。
本発明においては、このポリアルキレングリコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の冷凍機油組成物の基油として用いる場合は、このポリアルキレングリコールの40℃動粘度は1〜400mm/sであることが好ましく、5〜250mm/sであることがより好ましい。
【0027】
(7)ポリカーボネート系化合物:
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いられるポリカーボネート系化合物としては、1分子中にカーボネート結合を2個以上有するポリカーボネート、すなわち(イ)下記式(4)で示される化合物、および(ロ)下記式(5)で示される化合物の中から選ばれる少なくとも一種を好ましく挙げることができる。
【0028】
【化2】

【0029】
(式中、Zは炭素数1〜12のc価のアルコールから水酸基を除いた残基、R12は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基、R13は炭素数1〜12の一価の炭化水素基またはR15(O−R14)d−(ただし、R15は水素原子または炭素数1〜1
2の一価の炭化水素基、R14は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基、dは1〜20の整数を示す。)で示すエーテル結合を含む基、aは1〜30の整数、bは1〜50の整数、cは1〜6の整数を示す。)
【0030】
【化3】

【0031】
(式中、R16は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基、eは1〜20の整数を示し、Z、R12、R13、a、bおよびcは前記と同じである。)
前記式(4)および式(5)において、Zは炭素数1〜12の一価〜六価のアルコールから、水酸基を除いた残基であるが、特に炭素数1〜12の一価のアルコールから、水酸基を除いた残基が好ましい。
【0032】
Zを残基とする炭素数1〜12の一価〜六価のアルコールとしては、一価のアルコールとして、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−またはイソプロピルアルコール、各種ブチルアルコール、各種ペンチルアルコール、各種ヘキシルアルコール、各種オクチルアルコール、各種デシルアルコール、各種ドデシルアルコールなどの脂肪族一価アルコール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコールなどの脂環式一価アルコール、フェノール、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノール、ナフトールなどの芳香族アルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどの芳香脂肪族アルコールなどを、二価のアルコールとして、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチレングリコール、テトラメチレングリコールなどの脂肪族アルコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式アルコール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ジヒドロキシジフェニルなどの芳香族アルコール、三価のアルコールとして、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリメチロールブタン、1,3,5−ペンタントリオールなどの脂肪族アルコール、シクロヘキサントリオール、シクロヘキサントリメタノールなどの脂環式アルコール、ピロガロール、メチルピロガロールなどの芳香族アルコールなどを、四価〜六価のアルコールとして、例えばペンタエリスリトール、ジグリセリン、トリグリセリン、ソルビトール、ジペンタエリスリトールなどの脂肪族アルコールなどを挙げることができる。
このようなポリカーボネート化合物としては、前記式(4)で示される化合物として式(4−a)で示される化合物、および、前記式(5)で示される化合物として下記式(5−a)で示される化合物の少なくともいずれかを挙げることができる。
【0033】
【化4】

(式中、R17は炭素数1〜12の一価アルコールから水酸基を除いた残基、R12、R13、aおよびbは前記と同じである。)
【0034】
【化5】

(式中、R12、R13、R16、R17、a、bおよびeは前記と同じである。)
【0035】
前記式(4−a)および式(5−a)において、R17で示される炭素数1〜12の一価のアルコールから水酸基を除いた残基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基などの脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、デカヒドロナフチル基などの脂環式炭化水素基、フェニル基、各種トリル基、各種キシリル基、メシチル基、各種ナフチル基などの芳香族炭化水素基、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、各種ナフチルメチル基などの芳香脂肪族炭化水素基などを挙げることができる。これらの中で、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基が好ましい。
【0036】
12は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基であるが、中でも炭素数2〜6のものが好ましく、特にエチレン基およびプロピレン基が、性能および製造の容易さなどの点から好適である。さらに、R13は炭素数1〜12の一価の炭化水素基またはR15(O−R14)d−(ただし、R15は水素原子または炭素数1〜12、好ましく
は1〜6の一価の炭化水素基、R14は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基、dは1〜20の整数を示す。)で示されるエーテル結合を含む基であり、上記炭素数1〜12の一価の炭化水素基としては、前記R17の説明で例示したものと同じものを挙げることができる。また、R14で示される炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基としては、前記R12の場合と同様の理由から、炭素数2〜6のものが好ましく、特にエチレン基およびプロピレン基が好ましい。
【0037】
このR13としては、特に炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基が好ましい。
一般式(5−a)において、R14で示される炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基としては、前記R12の場合と同様の理由から、炭素数2〜6のものが好ましく、特にエチレン基およびプロピレン基が好ましい。
このようなポリカーボネート系化合物は、各種の方法により製造することができるが、通常炭酸ジエステルまたはホスゲンなどの炭酸エステル形成性誘導体とアルキレングリコールまたはポリオキシアルキレングリコールを、公知の方法に従って反応させることにより、目的のポリカーボネート系化合物を製造することができる。
本発明においては、このポリカーボネート系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の冷凍機油組成物の基油として用いる場合は、このポリカーボネート系化合物の40℃動粘度は1〜400mm/sであることが好ましく、5〜250mm/sであることがより好ましい。
【0038】
(8)ポリオールエステル系化合物:
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いられるポリオールエステル系化合物としては、ジオールあるいは水酸基を3〜20個程度有するポリオールと、炭素数1〜24程度の脂肪酸とのエステルが好ましく用いられる。ここで、ジオールとしては、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。ポリオールとしては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜20量体)、1,3,5−ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレンジトースなどの糖類、並びにこれらの部分エーテル化物、およびメチルグルコシド(配糖体)などが挙げられる。これらの中でもポリオールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールが好ましい。
【0039】
脂肪酸としては、特に炭素数は制限されないが、通常炭素数1〜24のものが用いられる。炭素数1〜24の脂肪酸の中でも、潤滑性の点からは、炭素数3以上のものが好ましく、炭素数4以上のものがより好ましく、炭素数5以上のものがさらにより好ましく、炭素数10以上のものが最も好ましい。また、冷媒との相溶性の点からは、炭素数18以下のものが好ましく、炭素数12以下のものがより好ましく、炭素数9以下のものがさらにより好ましい。
また、直鎖状脂肪酸、分岐状脂肪酸の何れであっても良く、潤滑性の点からは直鎖状脂肪酸が好ましく、加水分解安定性の点からは分岐状脂肪酸が好ましい。更に、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の何れであっても良い。
【0040】
脂肪酸としては、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸などの直鎖または分岐のもの、あるいはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸などが挙げられる。さらに具体的には、吉草酸(n−ペンタン酸)、カプロン酸(n−ヘキサン酸)、エナント酸(n−ヘプタン酸)、カプリル酸(n−オクタン酸)、ペラルゴン酸(n−ノナン酸)、カプリン酸(n−デカン酸)、オレイン酸(cis−9−オクタデセン酸)、イソペンタン酸(3−メチルブタン酸)、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸などが好ましい。
なお、ポリオールエステルとしては、ポリオールの全ての水酸基がエステル化されずに残った部分エステルであっても良く、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであっても良く、また部分エステルと完全エステルの混合物であっても良いが、完全エステルであることが好ましい。
【0041】
このポリオールエステルの中でも、より加水分解安定性に優れることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールのエステルがより好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタンおよびペンタエリスリトールのエステルがさらにより好ましく、冷媒との相溶性および加水分解安定性に特に優れることからペンタエリスリトールのエステルが最も好ましい。
【0042】
好ましいポリオールエステル系化合物の具体例としては、ネオペンチルグリコールと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種または二種以上の脂肪酸とのジエステル、トリメチロールエタンと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種または二種以上の脂肪酸とのトリエステル、トリメチロールプロパンと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種または二種以上の脂肪酸とのトリエステル、トリメチロールブタンと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種または二種以上の脂肪酸とのトリエステル、ペンタエリスリトールと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種または二種以上の脂肪酸とのテトラエステルが挙げられる。
本発明においては、このポリオールエステル系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の冷凍機油組成物の基油として用いる場合は、このポリオールエステル系化合物の40℃動粘度は1〜400mm/sであることが好ましく、5〜250mm/sであることがより好ましい。
【0043】
(9)エーテル系化合物:
本発明の冷凍機油組成物において、下記式(1)で示される構造を有するエーテル系化合物が基油として好ましく挙げられる。
Ra―〔(ORb)n―(B)―(ORc)k〕x―Rd (1)
ここで、式中、Ra、Rdはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のヒドロカルビル基、炭素数2〜10の含酸素ヒドロカルビル基、炭素数2〜10のアシル基および結合部2〜6個を有する炭素数1〜10の炭化水素基のいずれかであり、Rb、Rcは炭素数2〜4のアルキレン基であり、n、kは0〜20の整数であり、xは1〜6の整数である。(B)は、下記式(2)で示されるモノマー単位を3以上含んだ重合部である。
【0044】
【化6】

【0045】
式(2)において、R、RおよびRはそれぞれ水素原子または炭素数1〜8のヒドロカルビル基を示し、それらはたがいに同一でも異なっていてもよい。
ここでヒドロカルビル基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基のアリール基、ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基のアリールアルキル基を示す。なお、これらのR、RおよびRの各々としては、合成反応の安定性の観点より特に水素原子が好ましい。
一方、Rは炭素数1〜10の二価の炭化水素基または炭素数2〜20の二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基を示すが、ここで炭素数1〜10の二価の炭化水素基とは、具体的にはメチレン基、エチレン基、フェニルエチレン基、1,2−プロピレン基、2−フェニル−1、2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、各種ブチレン基、各種ペンチレン基、各種ヘキシレン基、各種ヘプチレン基、各種オクチレン基、各種ノニレン基、各種デシレン基などの二価の脂肪族基;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素に2個の結合部位を有する脂環式基;各種フェニレン基、各種メチルフェニレン基、各種エチルフェニレン基、各種ジメチルフェニレン基、各種ナフチレン基などの二価の芳香族炭化水素基:トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどのアルキル芳香族炭化水素のアルキル基部分と芳香族部分にそれぞれ一価の結合部位を有するアルキル芳香族基;キシレン、ジエチルベンゼンなどのポリアルキル芳香族炭化水素のアルキル基部分に結合部位を有するアルキル芳香族基などがある。これらの中で炭素数2から4の脂肪族基が冷媒との相溶性の点で特に好ましい。
【0046】
また、炭素数2〜20の二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基の具体例としては、メトキシメチレン基、メトキシエチレン基、メトキシメチルエチレン基、1,1−ビスメトキシメチルエチレン基、1,2−ビスメトキシメチルエチレン基、エトキシメチルエチレン基、(2−メトキシエトキシ)メチルエチレン基、(1−メチル−2−メトキシ)メチルエチレン基などを好ましく挙げることができる。なお、式(2)におけるmはROの繰り返し数を示し、その平均値が0〜10、好ましくは0〜5の範囲の数であり、mが複数ある場合には構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよい。ROが複数ある場合には、複数のROは同一でも異なっていてもよい。また、k,nが共に0のときは、式(2)において、mは1以上の整数である。
【0047】
は水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基を示すが、この炭化水素基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基,各種ヘキシル基,各種ヘプチル基,各種オクチル基,各種ノニル基,各種デシル基などのアルキル基、シクロペンチル基,シクロヘキシル基,各種メチルシクロヘキシル基,各種エチルシクロヘキシル基,各種プロピルシクロヘキシル基,各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基,各種メチルフェニル基,各種エチルフェニル基,各種ジメチルフェニル基,各種プロピルフェニル基,各種トリメチルフェニル基,各種ブチルフェニル基,各種ナフチル基などのアリール基、ベンジル基,各種フェニルエチル基,各種メチルベンジル基,各種フェニルプロピル基,各種フェニルブチル基などのアリールアルキル基などを示す。なお、該R〜Rは構成単位毎に同一であっても異なっていてもよい。
【0048】
前記した式(2)で示されるモノマー単位を有するエーテル系化合物は共重合体にすることにより、冷媒との相溶性を満足しつつ潤滑性、絶縁性、吸湿性等を向上させることができる効果がある。この際、原料となるモノマーの種類、開始剤の種類並びに共重合体の比率を選ぶことにより、冷凍機油組成物の上記性能を目的レベルに合わせることが可能となる。従って、冷凍システム潤滑油あるいは空調システム潤滑油におけるコンプレッサーの型式、潤滑部の材質および冷凍能力や冷媒の種類等により異なる潤滑性、相溶性等の要求に応じた油剤を自在に得ることができるという効果がある。
式(1)のエーテル系化合物において、(B)は、式(2)で示されるモノマー単位を3以上含んだ重合部であるが、その繰り返し数(すなわち重合度)は、所望する動粘度に応じて適宜選択すればよい。通常は温度100℃における動粘度が好ましくは1〜50mm/s、好ましくは2〜50mm/s、更に好ましくは5〜50mm/s、特に好ましくは5〜20mm/sになるように選ばれる。
また、式(1)のエーテル系化合物は、その炭素/酸素モル比が4以下であることが好ましい。このモル比が4を超えると、二酸化炭素等の自然系冷媒との相溶性が低下する。
【0049】
なお、式(1)における(B)は、前記した式(2)で示されるモノマー単位の単独重合部ではなく、下記式(6)で示されるモノマー単位とのブロックまたはランダム共重合部であってもよい。
【0050】
【化7】

式(6)において、R18〜R21は、それぞれ水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一でも異なっていてもよい。ここで、炭素数1〜20の炭化水素基としては、上記式(2)におけるRと同様のものを挙げることができる。また、R18〜R21モノマー単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよい。
【0051】
式(2)で示されるモノマー単位と式(6)で示されるモノマー単位とを有し、式(1
)で示されるブロックまたはランダム共重合体からなるエーテル系化合物の重合度は、所望する動粘度に応じて適宜選択すればよいが、通常は温度100℃における動粘度が好ましくは5mm/s以上,更に好ましくは5〜20mm/sになるように選ばれる。また、このエーテル系化合物は、その炭素/酸素モル比が4以下であることが好ましい。このモル比が4を超えると、二酸化炭素等自然系冷媒との相溶性が低下する。
【0052】
前記したようなエーテル系化合物は、それぞれ対応するビニルエーテル系モノマーの重合、および対応するオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーと対応するビニルエーテル系モノマーとの共重合により製造することができる。
エーテル系化合物としては、次の末端構造を有するもの、すなわち末端が、式(1)においてRaが水素原子、n=0であり、かつ残りの末端が、Rdが水素原子、k=0で表される構造を有するものが合成反応の安定性の点で好ましい。
【0053】
このようなエーテル系化合物は、モノマーをラジカル重合、カチオン重合、放射線重合などによって製造することができる。例えばビニルエーテル系モノマーについては、以下に示す方法を用いて重合することにより、所望の粘度の重合物が得られる。重合の開始には、ブレンステッド酸類、ルイス酸類または有機金属化合物類に対して、水、アルコール類、フェノール類、アセタール類またはビニルエーテル類とカルボン酸との付加物を組み合わせたものを使用することができる。ブレンステッド酸類としては、例えばフッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸などが挙げられる。ルイス酸類としては、例えば三フッ化ホウ素、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、四塩化スズ、二塩化亜鉛、塩化第二鉄などが挙げられ、これらのルイス酸類の中では、特に三フッ化ホウ素が好適である。また、有機金属化合物としては、例えばジエチル塩化アルミニウム、エチル塩化アルミニウム、ジエチル亜鉛などが挙げられる。
【0054】
これらと組み合わせる水、アルコール類、フェノール類、アセタール類またはビニルエーテル類とカルボン酸との付加物は任意のものを選択することができる。ここで、アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、各種ペンタノール、各種ヘキサノール、各種ヘプタノール、各種オクタノールなどの炭素数1〜20の飽和脂肪族アルコール、アリルアルコールなどの炭素数3〜10の不飽和脂肪族アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルキレングリコールのモノエーテルなどが挙げられる。ビニルエーテル類とカルボン酸との付加物を使用する場合のカルボン酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸、2−メチル酪酸、ピバリン酸、n−カプロン酸、2,2−ジメチル酪酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、エナント酸、2−メチルカプロン酸、カプリル酸、2−エチルカプロン酸、2−n−プロピル吉草酸、n−ノナン酸、3,5,5−トリメチルカプロン酸、カプリル酸、ウンデカン酸などが挙げられる。
【0055】
本発明においては、基油として用いられる鉱油あるいは合成系基油は単独でも混合して用いてもよいが、いずれの場合でも、100℃粘度は1〜50mm/sが好ましく、より好ましくは3〜50mm/s、更に好ましくは5〜30mm/s、特に好ましくは5〜20mm/sになるように選ばれる。
また、これらの基油の分子量は、蒸発の抑制、引火点、冷凍機油としての性能などの観点から150〜5,000の範囲が好ましく、300〜3000の範囲がより好ましい。また、粘度指数は60以上であることが好ましい。
【0056】
本発明の冷凍機油組成物には、基油に対して、ビスフェノール類が添加剤として配合される。ここで、ビスフェノール類は、冷凍機系内に微量に存在する酸素分子と反応することで系内より酸素分子を除去する作用をする。
このようなビスフェノール類としては、例えば、4,4´−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4´−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4´−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4´−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4´−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2´−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−〔β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、およびテトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンなどが挙げられる。これらは単独でも混合して用いてもよい。
前記した、ビスフェノール類の中でも、酸化防止効果の点で、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(下記式(7))、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)(下記式(8))、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)(下記式(9))、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチル−フェノール)(下記式(10))が特に好ましい。
【0057】
【化8】

【0058】
【化9】

【0059】
【化10】

【0060】
【化11】

【0061】
上述した、ビスフェノール類の配合量は、組成物全量基準で0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜8質量%であることがより好ましく、3〜6質量%であることがさらに好ましい。配合量が0.1質量%未満では、冷凍機系内で酸化防止剤としての機能が十分に発揮できず、一方、配合量が10質量%を超えると、冷媒との相溶性が悪化して二層分離を引き起こすおそれがある。
【0062】
本発明の冷凍機油組成物が適用される冷媒としては、飽和フッ化炭化水素(HFC)、二酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、あるいはアンモニアなども挙げられるが、下記分子式(A)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物が地球温暖化係数が低い点で特に好ましい。なお、前記した各冷媒は互いに混合して用いてもよい。
(A)
(式中、Rは、Cl、Br、Iまたは水素を示し、pは1〜6、qは0〜2、rは1〜14、sは0〜13の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜6であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。)
【0063】
以下に、各冷媒について具体的に説明する。
飽和フッ化炭化水素(HFC)としては、炭素数1〜4のアルカンのフッ化物が好ましく、特に炭素数1〜2のメタンやエタンのフッ化物であるトリフルオロメタン、ジフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン、1,1,2−トリフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタンが好適である。また、飽和フッ化炭化水素化合物としては、上記アルカンのフッ化物を、さらにフッ素以外のハロゲン原子でハロゲン化したものであっても良く、例えば、トリフルオロヨードメタン(CFI)などが例示できる。これらの飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
炭化水素(HC)としては、低沸点のプロパン、ブタンあるいはペンタンなどが好適である。
【0064】
次に、前記分子式(A)で示される冷媒について詳細に説明する。
前記分子式(A)は、分子中の元素の種類と数を示すものであり、式(A)は、炭素原子Cの数pが1〜6である含フッ素有機化合物を表している。炭素数が1〜6の含フッ素有機化合物であれば、冷媒として要求される沸点、凝固点、蒸発潜熱などの物理的、化学的性質を有することができる。
該分子式(A)において、Cで表されるp個の炭素原子の結合形態は、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合等の不飽和結合、炭素―酸素二重結合などが含まれる。炭素−炭素の不飽和結合は、安定性の点から、炭素−炭素二重結合であることが好ましく、その数は1以上であるが、1であるものが好ましい。
また、分子式(A)において、Oで表されるq個の酸素原子の結合形態は、エーテル基、水酸基またはカルボニル基に由来する酸素であることが好ましい。この酸素原子の数qは、2であってもよく、2個のエーテル基や水酸基等を有する場合も含まれる。
また、Oにおけるqが0であり分子中に酸素原子を含まない場合は、pは2〜6であって、分子中に炭素−炭素二重結合等の不飽和結合を1以上有する。すなわち、Cで表されるp個の炭素原子の結合形態の少なくとも1つは、炭素−炭素不飽和結合であることが必要である。
また、分子式(A)において、Rは、Cl、Br、IまたはHを表し、これらのいずれであってもよいが、オゾン層を破壊する恐れが小さいことから、Rは、Hであることが好ましい。
上記のとおり、分子式(A)で表される含フッ素有機化合物としては、不飽和フッ化炭化水素化合物、フッ化エーテル化合物、フッ化アルコール化合物およびフッ化ケトン化合物などが好適なものとして挙げられる。
以下、これらの化合物について説明する。
【0065】
(不飽和フッ化炭化水素化合物)
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられる不飽和フッ化炭化水素化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜6、qが0、rが1〜12、sは0〜11である不飽和フッ化炭化水素化合物が挙げられる。
このような不飽和フッ化炭化水素化合物として好ましくは、例えば、炭素数2〜6の直鎖状または分岐状の鎖状オレフィンや炭素数4〜6の環状オレフィンのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたエチレン、1〜5個のフッ素原子が導入されたプロペン、1〜7個のフッ素原子が導入されたブテン類、1〜9個のフッ素原子が導入されたペンテン類、1〜11個のフッ素原子が導入されたヘキセン類、1〜5個のフッ素原子が導入されたシクロブテン、1〜7個のフッ素原子が導入されたシクロペンテン、1〜9個のフッ素原子が導入されたシクロヘキセンなどが挙げられる。
これらの不飽和フッ化炭化水素化合物の中では、炭素数2〜3の不飽和フッ化炭化水素化合物が好ましく、特にプロペンのフッ化物がより好ましい。具体的には、分子式(A)で示される化合物が、CHF、CおよびCのいずれかの分子式で示される化合物であることが地球温暖化係数が低い点で好ましい。これらのプロペンのフッ化物としては、例えばペンタフルオロプロペンの各種異性体、3,3,3−トリフルオロプロペンおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンなどを挙げることができるが、特に、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC1225ye)および2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC1234yf)が地球温暖化係数が低い点で好ましい。
本発明においては、この不飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、炭素数1〜2の飽和フッ化炭化水素冷媒と炭素数3の不飽和フッ化炭化水素冷媒との組み合わせも好適に用いられる。このような組み合わせとしては、例えば前記のHFC1225yeとCH(HFC32)との組み合わせ、HFC1225yeとCHFCH(HFC152a)との組み合わせ、および前記のHFC1234yfとCFIとの組み合わせなどを挙げることができる。
【0066】
(フッ化エーテル化合物)
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられるフッ化エーテル化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜6、qが1〜2、rが1〜14、sは0〜13であるフッ化エーテル化合物が挙げられる。
このようなフッ化エーテル化合物として好ましくは、例えば、炭素数が2〜6で、1〜2個のエーテル結合を有し、アルキル基が直鎖状または分岐状の鎖状脂肪族エーテルのフッ素化物や、炭素数が3〜6で、1〜2個のエーテル結合を有する環状脂肪族エーテルのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜6個のフッ素原子が導入されたジメチルエーテル、1〜8個のフッ素原子が導入されたメチルエチルエーテル、1〜8個のフッ素原子が導入されたジメトキシメタン、1〜10個のフッ素原子が導入されたメチルプロピルエーテル類、1〜12個のフッ素原子が導入されたメチルブチルエーテル類、1〜12個のフッ素原子が導入されたエチルプロピルエーテル類、1〜6個のフッ素原子が導入されたオキセタン、1〜6個のフッ素原子が導入された1,3−ジオキソラン、1〜8個のフッ素原子が導入されたテトラヒドロフランなどを挙げることができる
【0067】
これらのフッ化エーテル化合物としては、例えばヘキサフルオロジメチルエーテル、ペンタフルオロジメチルエーテル、ビス(ジフルオロメチル)エーテル、フルオロメチルトリフルオロメチルエーテル、トリフルオロメチルメチルエーテル、ペルフルオロジメトキシメタン、1−トリフルオロメトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメトキシペンタフルオロエタン、1−トリフルオロメトキシ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン、1−トリフルオロメトキシ−2,2,2−トリフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシー2,2,2−トリフルオロエタン、ペルフルオロオキセタン、ペルフルオロ−1,3−ジオキソラン、ペンタフルオロオキセタンの各種異性体、テトラフルオロオキセタンの各種異性体などが挙げられる。
本発明においては、このフッ化エーテル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
(フッ化アルコール化合物)
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられる一般式(A)で表されるフッ化アルコール化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが1〜6、qが1〜2、rが1〜13、sは1〜13であるフッ化エーテル化合物が挙げられる。
このようなフッ化アルコール化合物として好ましくは、例えば、炭素数が1〜6で、1〜2個の水酸基を有する直鎖状または分岐状の脂肪族アルコールのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたメチルアルコール、1〜5個のフッ素原子が導入されたエチルアルコール、1〜7個のフッ素原子が導入されたプロピルアルコール類、1〜9個のフッ素原子が導入されたブチルアルコール類、1〜11個のフッ素原子が導入されたペンチルアルコール類、1〜4個のフッ素原子が導入されたエチレングリコール、1〜6個のフッ素原子が導入されたプロピレングリコールなどを挙げることができる。
【0069】
これらのフッ化アルコール化合物としては、例えばモノフルオロメチルアルコール、ジフルオロメチルアルコール、トリフルオロメチルアルコール、ジフルオロエチルアルコールの各種異性体、トリフルオロエチルアルコールの各種異性体、テトラフルオロエチルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロエチルアルコール、ジフルオロプロピルアルコールの各種異性体、トリフルオロプロピルアルコールの各種異性体、テトラフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ヘキサフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ヘプタフルオロプロピルアルコール、ジフルオロブチルアルコールの各種異性体、トリフルオロブチルアルコールの各種異性体、テトラフルオロブチルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロブチルアルコールの各種異性体、ヘキサフルオロブチルアルコールの各種異性体、ヘプタフルオロブチルアルコールの各種異性体、オクタフルオロブチルアルコールの各種異性体、ノナフルオロブチルアルコール、ジフルオロエチレングリコールの各種異性体、トリフルオロエチレングリコール、テトラフルオロエチレングリコール、さらにはジフルオロプロピレングリコールの各種異性体、トリフルオロプロピレングリコールの各種異性体、テトラフルオロプロピレングリコールの各種異性体、ペンタフルオロプロピレングリコールの各種異性体、ヘキサフルオロプロピレングリコールなどのフッ化プロピレングリコール、およびこのフッ化プロピレングリコールに対応するフッ化トリメチレングリコールなどが挙げられる。
本発明においては、これらのフッ化アルコール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0070】
(フッ化ケトン化合物)
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられるフッ化ケトン化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜6、qが1〜2、rが1〜12、sは0〜11であるフッ化ケトン化合物が挙げられる。
このようなフッ化ケトン化合物として好ましくは、例えば、炭素数が3〜6で、アルキル基が直鎖状または分岐状の脂肪族ケトンのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜6個のフッ素原子が導入されたアセトン、1〜8個のフッ素原子が導入されたメチルエチルケトン、1〜10個のフッ素原子が導入されたジエチルケトン、1〜10個のフッ素原子が導入されたメチルプロピルケトン類などが挙げられる。
【0071】
これらのフッ化ケトン化合物としては、例えばヘキサフルオロジメチルケトン、ペンタフルオロジメチルケトン、ビス(ジフルオロメチル)ケトン、フルオロメチルトリフルオロメチルケトン、トリフルオロメチルメチルケトン、ペルフルオロメチルエチルケトン、トリフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチルペンタフルオロエチルケトン、トリフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−1,2,2,2−テトラフルオロエチルケトン、トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルケトンなどが挙げられる。
本発明においては、これらのフッ化ケトン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
本発明の冷凍機油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、金属不活性化剤および消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有させることができる。
極圧剤としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルおよびこれらのアミン塩などのリン系極圧剤を挙げることができる。
これらのリン系極圧剤の中で、極圧性、摩擦特性などの点からトリクレジルホスフェート、トリチオフェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、2−エチルヘキシルジフェニルホスファイトなどが特に好ましい。
また、極圧剤としては、カルボン酸の金属塩も挙げられる。ここでいうカルボン酸の金属塩は、好ましくは炭素数3〜60のカルボン酸、さらには炭素数3〜30、特に12〜30の脂肪酸の金属塩である。また、前記脂肪酸のダイマー酸やトリマー酸並びに炭素数3〜30のジカルボン酸の金属塩を挙げることができる。これらのうち炭素数12〜30の脂肪酸および炭素数3〜30のジカルボン酸の金属塩が特に好ましい。
一方、金属塩を構成する金属としてはアルカリ金属またはアルカリ土類金属が好ましく、特に、アルカリ金属が最適である。
また、極圧剤としては、さらに、上記以外の極圧剤として、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チオカーバメート類、チオテルペン類、ジアルキルチオジプロピオネート類などの硫黄系極圧剤を挙げることができる。
上記極圧剤の配合量は、潤滑性および安定性の点から、組成物全量に基づき、通常0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましく、特に0.05〜3質量%の範囲が特に好ましい。
前記の極圧剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
油性剤の例としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和および不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和および不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和および不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和および不飽和モノカルボン酸アミド、グリセリン、ソルビトールなどの多価アルコールと脂肪族飽和または不飽和モノカルボン酸との部分エステル等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、組成物全量に基づき、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲で選定される。
【0074】
酸捕捉剤としては、例えばフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル(例えば、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル)、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物を挙げることができる。中でも相溶性の点でフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシドが好ましい。
このアルキルグリシジルエーテルのアルキル基、およびアルキレングリコールグリシジルエーテルのアルキレン基は、分岐を有していてもよく、炭素数は通常3〜30、好ましくは4〜24、特に6〜16のものである。また、α−オレフィンオキシドは全炭素数が一般に4〜50、好ましくは4〜24、特に6〜16のものを使用する。本発明においては、上記酸捕捉剤は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、効果およびスラッジ発生の抑制の点から、組成物に対して、通常0.005〜5質量%、特に0.05〜3質量%の範囲が好ましい。
【0075】
本発明においては、この酸捕捉剤を配合することにより、冷凍機油組成物の安定性を向上させることができる。前記極圧剤および酸化防止剤を併用することにより、さらに安定性を向上させる効果が発揮される。
金属不活性化剤としては、例えばN−[N’,N’−ジアルキル(炭素数3〜12のアルキル基)アミノメチル]トルトリアゾールなどを挙げることができ、前記消泡剤としては、例えばシリコーン油やフッ素化シリコーン油などを挙げることができる。
【0076】
本発明の冷凍機油組成物においては、40℃動粘度が、好ましくは1〜400mm/s、より好ましくは3〜300mm/s、さらに好ましくは5〜200mm/sである。体積固有抵抗は、好ましくは109Ω・cm以上、より好ましくは1010Ω・cm以
上であり、その上限は、通常1011Ω・cm程度である。また、往復動摩擦試験による摩擦係数は、好ましくは0.119以下、より好ましくは0.117以下、さらに好ましくは0.112以下であり、その下限は、通常0.07程度である。
【0077】
本発明の冷凍機油組成物を使用する冷凍機の潤滑方法において、前記各種冷媒と冷凍機油組成物の使用量については、冷媒/冷凍機油組成物の質量比で99/1〜10/90、更に95/5〜30/70の範囲にあることが好ましい。冷媒の量が上記範囲よりも少ない場合は冷凍能力の低下が見られ、また上記範囲よりも多い場合は潤滑性能が低下し好ましくない。
【0078】
本発明の冷凍機油組成物が好適に使用される冷凍機(冷凍システム)としては、圧縮機、凝縮器、膨張機構(キャピラリチューブ、膨張弁)、蒸発器を必須構成要素とする冷凍システム、あるいはエジェクターサイクルを有する冷凍システムや乾燥装置(乾燥剤:天然または合成ゼオライト)を有する冷凍システムを挙げることができる。
前記圧縮機は、開放型、半密閉型、密閉型のいずれでもよく、密閉型のモーターはACモーターまたはDCモーターである。また、圧縮方式としてはロータリ式、スクロール式、スイング式あるいはピストン式いずれでもよい。圧縮機としては0.2kW程度の小型圧縮機でもよく、30kW程度の大型圧縮機でもよい。
【0079】
この冷凍システムにおいては、システム内の水分含有量は500質量ppm以下が好ましく、300質量ppm以下がより好ましい。そのためには、前記した乾燥装置内に充填される乾燥剤として、細孔径0.33nm以下のゼオライトからなる乾燥剤を充填することが好ましい。また、このゼオライトとしては、天然ゼオライトや合成ゼオライトを挙げることができ、さらにこのゼオライトは、25℃、CO2ガス分圧33kPaにおけるCOガス吸収容量が1.0%以下のものが一層好適である。このような合成ゼオライトとしては、例えばユニオン昭和(株)製の商品名XH−9、XH−600等を挙げることができる。このような乾燥剤を用いれば、冷凍サイクル中の冷媒を吸収することなく、水分を効率よく除去できると同時に、乾燥剤自体の劣化による粉末化が抑制され、したがって粉末化によって生じる配管の閉塞や圧縮機摺動部への進入による異常摩耗等の恐れがなくなり、冷凍機を長時間にわたって安定的に運転することができる。
また、残存空気分圧は、冷凍機油組成物の安定性の点より13kPa以下が好ましく、10kPa以下さらには5kPa以下がより好ましい。
【0080】
本発明の冷凍機油組成物が適用される冷凍機においては、圧縮機内に様々な摺動部分(例えば軸受など)がある。本発明においては、この摺動部分として特にシール性の点から、エンジニアリングプラスチックからなるもの、または有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものが用いられる。
前記エンジニアリングプラスチックとしては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、例えばポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアセタール樹脂などを好ましく挙げることができる。
また、有機コーティング膜としては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、例えばフッ素含有樹脂コーティング膜(ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜など)、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜などを挙げることができる。
一方、無機コーティング膜としては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、ニッケル膜、モリブデン膜、スズ膜、クロム膜、窒化膜、ホウ素膜などが挙げられる。この無機コーティング膜は、メッキ処理で形成してもよいし、CVD(化学的気相蒸着法)やPVD法(物理的気相蒸着法)で形成してもよい。
なお、当該摺動部分として、従来の合金系、例えばFe基合金、Al基合金、Cu基合金などからなるものを用いることもできる。
【0081】
本発明の冷凍機油組成物は、基油に添加剤としてビスフェノール類が配合されているので、冷凍機系内に残存する微量の酸素分子を捕捉し、酸素がフロン冷媒と反応することを防止できる。それ故、本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、特に酸素と反応しやすい不飽和フロン冷媒を用いたカーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、各種給湯システム、または冷凍兼暖房システムなどに用いられる各種冷凍機に対して長期間安定して使用することができる。
【実施例】
【0082】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
〔実施例1〜9および比較例1〜6〕
表1〜表4に示す組成の冷凍機油組成物(試験油)を調製した。用いた基油および添加剤は以下の通りであり、配合組成を表1〜4に示す。
<基油>
(1)ポリアルキレングリコール系重合体(PAG)
ポリプロピレングリコール(両末端はともにメチル基)、40℃粘度:45.6mm/s、100℃粘度:9.65mm/s
(2)ポリビニルエーテル系重合体(PVE)
エチルビニルエーテル−ブチルビニルエーテル共重合体、40℃粘度:70.2mm/s、100℃粘度:8.35mm/s
【0083】
<添加剤>
(1)酸化防止剤(1):4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノー
ル)
(2)酸化防止剤(2):2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール

(3)酸化防止剤(3):2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール

(4)モノフェノール系酸化防止剤
(5)アミン系酸化防止剤
(6)リン系添加剤
(7)酸捕捉剤
(8)消泡剤
【0084】
前記した試料油に対し、以下に示す熱安定度試験(JIS K 2540)により試験油の熱安定性を評価した。結果を表1〜4に示す。
<熱安定度試験>
100℃または170℃の条件にて7時間または24時間保持後、試験油外観、スラッジ析出の有無を目視観察すると共に、動粘度(40℃、100℃)の変化率、粘度指数、酸価、質量残存率(%)を測定した。
なお、動粘度、動粘度変化率、酸価、および質量残存率の測定法は、以下の通りである。 動粘度(mm/s):JIS K2283に準拠して測定した。
動粘度変化率(%):{(熱安定度試験後の動粘度)/(熱安定度試験前の動粘度)}×100の式により算出した。
酸価(mgKOH/g):JIS K2501に規定される「潤滑油中和試験方法」に準拠し、電位差法により測定した。
質量残存率(%):{(熱安定度試験後の重量)/(熱安定度試験前の重量)}×100の式により算出した。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
〔評価結果〕
表1、3の実施例1〜9は、酸化防止剤としてビスフェノール類を配合した潤滑油組成物について熱安定度試験を行った結果であるが、試料油の外観には異常はなく、またスラッジの発生もなかった。一方、酸化防止剤としてビスフェノール類を配合していない比較例1〜6では、酸化劣化が激しく起こっている。なお、酸化防止剤として、比較例2、3、5、6では、モノフェノール系酸化防止剤を用いており、比較例4ではアミン系酸化防止剤を用いているが、いずれの試料油も安定性に乏しいことがわかる。
以上の結果より、ビスフェノール類を配合した本発明の冷凍機用潤滑油組成物は酸素存在下でも長期間安定して使用できることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、安定性に優れる冷凍機用潤滑油組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油に添加剤を配合してなる冷凍機用潤滑油組成物であって、
前記添加剤がビスフェノール類である
ことを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の冷凍機用潤滑油組成物において、
前記ビスフェノール類が、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチル−フェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチ
レンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、および4,4'−ブチリデンビス(3−メチルー6−t−ブチルフェノール)の少なくともいずれかである
ことを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の冷凍機用潤滑油組成物において、
該冷凍機油組成物が、飽和フッ化炭化水素、二酸化炭素、炭化水素、アンモニア、および下記分子式(A)で示される含フッ素有機化合物から選ばれた少なくともいずれかの冷媒用である
ことを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
(A)
(式中、Rは、Cl、Br、Iまたは水素を示し、pは1〜6、qは0〜2、rは1〜14、sは0〜13の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜6であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。)
【請求項4】
請求項3に記載の冷凍機用潤滑油組成物において、
前記分子式(A)で示される化合物が、炭素数2または3の不飽和フッ化炭化水素である
ことを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物において、
前記基油が、鉱油および合成系基油の少なくともいずれかであり、
前記合成系基油が、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリ−α−オレフィン、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリカーボネート、ポリオールエステル、および、下記式(1)で示されるエーテル系化合物の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
Ra―〔(ORb)n―(B)―(ORc)k〕x―Rd (1)
(式中、Ra、Rdはそれぞれ水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基または結合部2〜6個を有する炭素数1〜10の炭化水素基、Rb、Rcはそれぞれ炭素数2〜4のアルキレン基、n、kは0〜20の整数であり、xは1〜6の整数である。(B)は、下記式(2)で示されるモノマー単位を3以上含んだ重合部である。)
【化1】

(式中、R、RおよびRはそれぞれ水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数1〜10の二価の炭化水素基または炭素数2〜20の二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基、Rは水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、mはその平均値が0〜10の数を示し、mが複数ある場合には構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、R〜Rは構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、またROが複数ある場合には、複数のROは同一でも異なっていてもよい。また、式(1)におけるk、nが共に0のとき、式(2)において、mは1以上の整数である。)
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物において、
基油に、極圧剤、油性剤、酸捕捉剤、金属不活性化剤および消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤をさらに配合することを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物において、
冷凍機の摺動部分がエンジニアリングプラスチックからなるもの、または有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものであることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の冷凍機用潤滑油組成物において、
前記有機コーティング膜が、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜、またはポリヒドロキシエーテル樹脂とポリサルホン系樹脂からなる樹脂基材および架橋剤を含む樹脂塗料を用いて形成された熱硬化型絶縁膜であることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の冷凍機用潤滑油組成物において、
前記無機コーティング膜が、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜またはモリブデン膜であることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物において、
開放型カーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、各種給湯システム、または冷凍兼暖房システムに用いられることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の冷凍機用潤滑油組成物において、
前記システム内の水分含有量が500質量ppm以下で、残存空気分圧が13kPa以下であることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2009−235111(P2009−235111A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61851(P2008−61851)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】