説明

冷却機構

【課題】成膜基板の冷却効率を向上させることが可能な冷却機構を提供する。
【解決手段】冷却機構2は、下面冷却板21、昇降機構22および上面冷却板25を備えている。冷却機構2は、基板11を支持するトレイ32に下面冷却板21を接触させることで、トレイ32を介して基板11を冷却する。これにより、基板11は、トレイ32と熱伝導部材とを介して下面冷却板21に熱を伝えることにより冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器内において成膜基板を冷却する冷却機構に関する。
【背景技術】
【0002】
真空容器中に配置した基板表面に膜を形成する成膜装置には、イオンプレーティング装置、スパッタリング装置、物理的または化学的蒸着装置等がある。このような成膜装置では、高温環境下で蒸着材料を粒子化するため、真空容器内の成膜基板も高温に曝される。そこで、成膜基板を適正温度とするための冷却機構に関する技術が多く開示されている。例えば、特許文献1に開示されている冷却機構では、冷却板を成膜基板と離間して配置し、輻射伝熱を利用して基板を冷却している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−129325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、輻射伝熱を利用して基板を冷却する従来技術では、冷却効率が不充分であり、更なる冷却効率の向上が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、成膜基板に対する冷却効率を向上させることが可能な冷却機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の冷却機構は、真空容器内で成膜基板を冷却する冷却機構であって、成膜基板を支持する支持部材に接触することにより、支持部材を介して成膜基板を冷却する冷却部を備えることを特徴としている。
【0007】
このような冷却機構では、成膜基板を支持する支持部材に冷却部を接触させることで、支持部材を介して成膜基板を冷却する。これにより、成膜基板の熱が支持部材を介して冷却部に伝熱されることで、成膜基板が冷却されるため、輻射伝熱を利用した従来の冷却機構と比較して、冷却効率を向上させることが可能となる。なお、成膜基板は、薄膜が形成された基板、および薄膜が形成される前の基板を含むものとする。
【0008】
また、成膜基板を挟んで冷却部と反対側に配置され、成膜基板を冷却する他の冷却部と、冷却部および他の冷却部の少なくとも一方を、成膜基板に対して接近、離間させる移動手段と、を更に備えることが好ましい。このような冷却機構では、支持部材に接触することで成膜基板を冷却する冷却部に加えて、成膜基板を挟んで冷却部と反対側に配置された他の冷却部を備えているので、成膜基板を板厚方向の両側から冷却することができる。そのため、冷却効率をより一層向上させることが可能となる。
【0009】
また、成膜基板を載置する前記支持部材であるトレイと、トレイの下面と接触可能な冷却部と、トレイに載置された成膜基板の上方に配置された他の冷却部と、冷却部をトレイに対して接近、離間させる移動手段と、を備え、当該移動手段は、冷却部をトレイに押し当てると共に、成膜基板を他の冷却部に押し当てることが好適である。これにより、冷却部を下方からトレイに押し当て、トレイに載置された成膜基板を、その上方に配置された他の冷却部に押し当てることができる。そのため、成膜基板の上面が他の冷却部と接触し、かつ成膜基板の下面が冷却部によって冷却されたトレイと接触した状態で、成膜基板を冷却することが可能となる。その結果、成膜基板がより効率的に冷却されるようになる。また、移動手段によって、冷却部をトレイに押し当てることで、トレイ上の成膜基板をその上方に配置された他の冷却部に押し当てる構成であるため、他の冷却部を移動させるための機構を設ける必要をなくし、簡素な構成として成膜基板を挟んだ状態で成膜基板を冷却することができる。
【0010】
また、他の冷却部には、成膜基板の薄膜との接触を回避するための凹部が形成されていることが好適である。これにより、他の冷却部に形成された凹部を、成膜基板の薄膜に対応する位置に配置することで、他の冷却部と成膜基板の薄膜との接触を回避して、他の冷却部と成膜基板とを接近させることが可能となる。その結果、他の冷却部による冷却効果を一層向上させることができる。また、他の冷却部と成膜基板の薄膜との接触を回避し、薄膜損傷のおそれを低減することが可能となる。
【0011】
また、冷却部が支持部材に接触する際に当該支持部材から受ける反力を低減する緩衝手段を更に有することが好ましい。これにより、冷却部が支持部材に接触する際に、過度の応力が作用することにより成膜基板が損傷するおそれを低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の冷却機構によれば、成膜基板に対する冷却効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態に係る成膜装置の構成を示す側面断面図である。
【図2】図1に示す冷却機構を示す平面図である。
【図3】図1に示す冷却機構を示す側面断面図である。
【図4】図1に示すトレイに載置された基板を示す拡大端面図である。
【図5】図1に示す冷却機構によって基板が冷却される方法を説明するための図である。
【図6】図1に示す冷却機構によって基板が冷却される方法を説明するための図である。
【図7】第2実施形態に係る冷却機構を示す側面断面図である。
【図8】第2実施形態に係る冷却機構を示す側面断面図である。
【図9】トレイに載置された基板を示す拡大端面図である。
【図10】変形例に係る冷却機構を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
本発明に係る冷却機構を含む成膜装置の好適な第1実施形態について、図面を参照して説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。本実施形態では、本発明の冷却機構を備えた成膜装置について説明する。
【0015】
図1は、第1実施形態に係る成膜装置の構成を示す側面断面図である。図1中には、XYZ直交座標系が示され、Z軸方向が上下方向に対応する。成膜装置1は、プラズマを用いたイオンプレーティング法による成膜を行う装置である。この成膜装置1は、基板(成膜基板)11の下面11aに薄膜11bを形成する、いわゆるデポアップ型の成膜装置である。成膜装置1は、真空容器10、冷却機構2、搬送機構3、主陽極4、プラズマ源5および補助陽極6を備えている。なお、基板11としては、ガラス基板やプラスチック基板などの板状部材が例示される。あるいは、当該板状部材の上に有機EL層などの機能素子層が形成された基板生産物を基板11としてもよい。
【0016】
真空容器10は、成膜対象である基板11を搬送するための搬送室10a,10b,10c、成膜材料Maを飛散させる成膜室10d、プラズマ源5から照射されるプラズマPを真空容器10内へ受け入れるプラズマ口10e、酸素等の雰囲気ガスを真空容器10内部へ導入するためのガス供給口10f,10gおよび成膜室10d内の残余ガスを排気する排気口10hを有している。搬送室10a,10b,10cは、基板11の搬送方向(図1に示す矢印A)に延びており、成膜室10d上に配置されている。搬送室10a,10b,10cのうち搬送方向Aにおける最上流側に配置されている搬送室10aは、成膜前の基板11を搬送する区画である。搬送室10aの搬送方向Aにおける下流側に隣接して配置される搬送室10bは、基板11を成膜材料粒子Mbに曝して成膜する区画である。搬送室10bの下流側に隣接して配置される搬送室10cは、成膜された基板11を冷却する区画である。真空容器10は、導電性の材料から形成され、接地電位に接続されている。
【0017】
プラズマ源5は、圧力勾配型であり、その本体部分が成膜室10dの側壁(プラズマ口10e)に設けられている。プラズマ源5において生成されたプラズマPは、プラズマ口10eから成膜室10d内へ出射される。プラズマPは、プラズマ口10eに設けられた図示しないステアリングコイルによって出射方向が制御される。
【0018】
主陽極4は、成膜材料Maを保持している。主陽極4は、真空容器10の成膜室10d内に設けられ、搬送機構3に対し、Z軸方向の負方向に配置されている。主陽極4は、プラズマ源5から出射されたプラズマPを成膜材料Maへ導くハース41を有している。ハース41は、接地電位である真空容器10に対して正電位に保たれており、プラズマPを吸引する。このプラズマPが入射するハース41の中央部には、成膜材料Maを装填するための貫通孔が形成されている。そして、成膜材料Maの先端部分が、この貫通孔から突出している。
【0019】
成膜材料Maとしては、ZnOなどの透明導電材料や、SiONなどの絶縁封止材料が例示される。成膜材料Maが絶縁性物質からなる場合、ハース41にプラズマPが照射されると、プラズマPからの電流によってハース41が加熱され、成膜材料Maの先端部分が蒸発して成膜材料粒子Mbが成膜室10d内に飛散する。また、成膜材料Maが導電性物質からなる場合、ハース41にプラズマPが照射されると、プラズマPが成膜材料Maに直接入射し、成膜材料Maの先端部分が加熱されて蒸発し、成膜材料粒子Mbが成膜室10d内に飛散する。成膜室10d内に飛散した成膜材料粒子Mbは、プラズマPによりイオン化され、成膜室10dの上方向へ移動し、搬送室10b内において基板11の表面に付着する。なお、成膜材料Maは、常に先端部分がハース41から突出するように、主陽極4の下方から押し出される。
【0020】
補助陽極6は、プラズマPを誘導するための電磁石である。補助陽極6は、成膜材料Maを保持するハース41の周囲に配置されており、環状の容器、並びに該容器内に収容されたコイル6aおよび永久磁石6bを有している。コイル6aおよび永久磁石6bは、コイル6aに流れる電流量に応じて、ハース41に入射するプラズマPの向きを制御する。
【0021】
搬送機構3は、基板11を載置するトレイ(支持部材)32を移動させるための機構である。搬送機構3は、トレイ32を搬送方向Aに移動させる複数の搬送ローラ31が設けられている。搬送ローラ31は、Y軸方向に延在する軸に回転自在に設けられている。搬送機構3よって搬送されるトレイ32は、搬送ローラ32上に配置され、上下方向に支持されつつ搬送される。
【0022】
トレイ32は、板状の部材であり、複数の基板11を載置するものである。図2に示すトレイ32では、例えば、搬送方向Aに4枚、幅方向(Y方向)に3枚、合計12枚の基板11が載置されている。トレイ32には、各基板11に薄膜が形成される部分を露出させる矩形の貫通孔32aが複数形成されている。すなわち、基板11は、薄膜が形成されない部分である周縁部が、トレイ32と接触した状態で載置される。
【0023】
次に、基板11を冷却するための機構である冷却機構2について図2〜図4を用いて詳述する。図2は、第1実施形態に係る冷却機構を示す平面図である。図3は、第1実施形態に係る冷却機構を示す側面断面図である。図4は、トレイに載置された基板を示す拡大端面図である。
【0024】
冷却機構2は、基板11を冷却するための機構であり、成膜後の基板11が搬送される搬送室10c内に設けられている。冷却機構2は、基板11の下面(成膜された側の面、成膜面)11aに対向して配置される下面冷却板(冷却部)21、この下面冷却板21を昇降させる昇降機構(移動手段)22および基板11の上面(非成膜面)11cに対向して配置される上面冷却板(他の冷却部)25を備えている。
【0025】
下面冷却板21は、本発明の冷却部に相当するものであり、基板11を支持するトレイ32に接触することにより、当該トレイ32を介して基板11を冷却するものである。
【0026】
下面冷却板21は、搬送方向においてトレイ32と略同一の長さに形成されている。また、下面冷却板21は、幅方向において対向する搬送ローラ31同士の距離よりも短く形成されている。下面冷却板21の内部には、配管(図示せず)が図1に示すXY平面に対して二次元状に配置されている。配管の内部に冷却液が流れることで、下面冷却板21自体を冷却する。また、下面冷却板21の下面は、XY平面と平行になるように形成されている。
【0027】
昇降機構22は、下面冷却板21の下面に連結されたダンパ(緩衝手段)22a、このダンパ22aを介して下面冷却板21を支持するベース22b、およびベース22bから下方に延在し上下動するシャフト(動力伝達部材)22cを備えている。また、昇降機構22は、図示しない駆動源として、例えばモータを備えている。
【0028】
ダンパ22aは、下面冷却板21とトレイ32とが接触する際の反力を低減するものである。ベース22bは、例えば板状に形成されており、下面冷却板21が固定される部材である。昇降機構22では、モータによる動力が、例えばラックアンドピニオンにより、シャフト22cに伝達されて、下面冷却板21が上下動する。昇降機構22は、下面冷却板21を上昇させてトレイ32に接触させる。下面冷却板21の上面は、トレイ32の下面32bに平行に配置されており、下面冷却板21の上面とトレイ32の下面32bが当接する。また、昇降機構22は、下面冷却板21を下降させてトレイ32から離間させる。
【0029】
上面冷却板25は、搬送室10c内における上側の内壁に支持されている。また、上面冷却板25は、搬送機構3によって所定位置にまで搬送されてくるトレイ32の上面32cと対向する位置に配置されている。
【0030】
上面冷却板25は、搬送方向A(図1に示すX軸方向)において、トレイ32と略同一の長さに形成されている。また、上面冷却板25は、幅方向(図1に示すY軸方向)において、トレイ32上に載置された基板11に対応する長さに形成されている。上面冷却板25の下面は、トレイ32の上面(基板11の上面)32cと平行となるように形成されている。また、上面冷却板25の内部には、配管(図示せず)が二次元状に配置されている。上面冷却板25は、配管の内部に冷却液が流されることにより冷却された状態となる。
【0031】
なお、下面冷却板21および上面冷却板25は、例えば銅やアルミニウムといった熱伝導性に優れた金属材料からなることが好ましい。また、下面冷却板21および上面冷却板25がアルミニウムからなる場合には、その表面にアルマイト処理がなされていればより好適である。また、下面冷却板21および上面冷却板25に用いられる冷却液としては、水よりも凝固点が低い液体(例えば、フロリナートやガルデンなど)が好ましい。また、冷却板21,25内の配管は、例えば、銅やアルミニウムといった熱伝導性に優れた金属材料からなることが好ましい。
【0032】
次に、図1を参照しながら、第1実施形態の成膜装置による成膜方法について説明する。まず、主陽極4に配置されたハース41へ成膜材料Maを装着するとともに、基板11を載置したトレイ32を搬送機構3にセットする。そして、真空容器10内を真空に保持する。
【0033】
続いて、接地電位にある真空容器10を挟んで、負電圧をプラズマ源5に、正電圧を主陽極4に印加して放電を生じさせ、プラズマPを生成する。プラズマPは、補助陽極6に案内されて主陽極4へ照射される。本方法では、トレイ32を搬送方向Aに搬送しつつ、このようにプラズマPを主陽極4へ照射する。プラズマPに曝された主陽極4内の成膜材料Maは、徐々に加熱される。成膜材料Maは、十分に加熱されると昇華して、成膜材料粒子Mbとなって成膜室10d内に飛散する。成膜室10d内に飛散した成膜材料粒子Mbは、搬送室10b内を上昇する際、プラズマPによって活性化されてイオン化し、基板11に向けて飛散する。
【0034】
他方、基板11は、図1に示すように、搬送機構3によって搬送方向Aに搬送される。そして、基板11は、搬送機構3によって搬送されて成膜室10dの上方に達し、搬送室10b内を飛散している成膜材料粒子Mbに曝される。そして、主陽極4と対向する基板11の表面に、搬送室10b内に飛散した成膜材料粒子Mbのイオン化粒子が膜状に付着する。このとき、成膜材料粒子Mbのイオン化粒子の付着により基板11が加熱される。基板11が一定速度で搬送されながら成膜材料粒子Mbに所定時間曝されることにより、基板11の表面に所定の厚さの膜が形成される。その後、基板11は、搬送機構3によって搬送室10c内の所定位置にまで搬送される。
【0035】
次に、図5、図6を参照しながら、第1実施形態の成膜装置における基板の冷却方法について説明する。図5および図6は、冷却機構によって基板が冷却される方法を説明するための図である。
【0036】
図5(a)に示す状態では、下面冷却板21および上面冷却板25に内包される各配管に冷却液が導入されて、下面冷却板21および上面冷却板25が冷却された状態となっている。なお、下面冷却板21および上面冷却板25に内包される各配管への冷却液の導入は、基板11が搬送室10c内の所定位置に搬送されてくるまでに予め行われていてもよく、基板11が、搬送室10c内の所定位置にまで搬送された後に行われてもよい。
【0037】
次に、昇降機構22は、ベース22bを上方に移動させる。これにより、ダンパ22aを介してベース22bに取り付けられている下面冷却板21も上方に移動させられる。昇降機構22によりベース22bと共に上方に移動させられた下面冷却板21は、図5(b)に示すように、トレイ32の下面32bに接触する。このとき、ダンパ22aは、下面冷却板21がトレイ32に接触した際に下面冷却板21に生じる反力を低減する。
【0038】
昇降機構22は、下面冷却板21をトレイ32の下面32bに接触させた後も、ベース22bおよび下面冷却板21を上方に移動させる。これにより、トレイ32は、下面冷却板21によって上方に押し上げられる。そして、図5(c)に示すように、昇降機構22は、トレイ32に載置された基板11が上面冷却板25に接触するまで、ベース22bおよび下面冷却板21を上方に移動させる。これにより、トレイ32の下面32bは下面冷却板21に接触され、トレイ32に載置された基板11の非成膜面11cは上面冷却板25に接触される。基板11が上面冷却板25に接触した際に、ダンパ22aは、下面冷却板21に生ずる反力を低減する。
【0039】
次に、図5(c)に示すような、トレイ32の下面32bが下面冷却板21に接触され、トレイ32に載置された基板11の非成膜面11cが上面冷却板25に接触された状態を所定時間続けた後、昇降機構22は、ベース22bおよび下面冷却板21を下方に移動させる。そして、図6(a)に示すように、基板11を載置したトレイ32は、搬送ローラ31に再び載置される。次に、基板11を載置したトレイ32は、図6(b)に示すように、搬送機構3によって搬送方向下流側(図1に示すX軸方向の正方向)に搬送される。
【0040】
以上に説明した第1実施形態の冷却機構2では、基板11が支持されたトレイ32に下面冷却板21を接触させて、トレイ32を介して基板11と下面冷却板21との間で伝熱が行われる。ここで、冷却状態の下面冷却板21をトレイ32に接触させると、基板11は、トレイ32を介して下面冷却板21に熱を伝えることで冷却される。この結果、基板の近傍に冷却部を配置して輻射伝熱によって基板を冷却する従来の方法と比べて、基板11に対する冷却効率を向上させることが可能となる。
【0041】
また、第1実施形態の冷却機構2では、トレイ32における貫通孔32aを挟んで基板11と互いに対向している下面冷却板21の一部は、輻射伝熱によって基板11を冷却している。これにより、冷却機構2は、トレイ32を接触させて冷却すると共に、輻射伝熱による冷却をすることになるので、基板11に対する冷却効率を一層向上させることが可能となる。
【0042】
また、第1実施形態の冷却機構2は、基板11の下面11aと対面する下面冷却板21と、基板11の上面11cと対面する上面冷却板25とを備えており、昇降機構22は、下面冷却板21を上昇させる。これにより、トレイ32に接触した下面冷却板21は、トレイ32と直接的に接触することで熱交換し、基板11を冷却する。また、上面冷却板25は、トレイ32に接触させられる前は輻射伝熱によって基板11を冷却し、基板11に接触させられた後は接触伝熱によって基板11を冷却している。このように、基板11は、下面冷却板21および上面冷却板25によって成膜部(薄膜)11b側および非成膜面11c側の両方から冷却されるので、より効率的に冷却されるようになる。
【0043】
また、第1実施形態の冷却機構2では、互いに対向して配置された下面冷却板21および上面冷却板25のうち一方の下面冷却板21は、トレイ32を持ち上げて、トレイ32に載置された基板11を他方の上面冷却板25に接触させている。これにより、下面冷却板21および上面冷却板25の両方に昇降機構22をそれぞれ設けることなく簡易な構成で、下面冷却板21および上面冷却板25を基板11または基板11が載置されたトレイ32に接触させることができる。
【0044】
また、第1実施形態の冷却機構2では、上面冷却板25は、基板11に接触可能に形成されている。これにより、下面冷却板21によってトレイ32が持ち上げられた基板11は、上面冷却板25に直接接触され、効率的に冷却されるようになる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る冷却機構を含む成膜装置の好適な第2実施形態について、図7〜図9を用いて説明する。図7および図8は、第2実施形態に係る冷却機構を示す側面断面図である。図9は、トレイに載置された基板を示す拡大端面図である。
【0046】
成膜装置51は、基板(成膜基板)11の上面11cに薄膜11bを形成する、いわゆるデポダウン型の成膜装置である。この成膜装置51が、上記第1実施形態の成膜装置1と異なるのは、成膜室10d、主陽極4、プラズマ源5、補助陽極6が、基板11の搬送経路よりも上方に配置されている点と、冷却機構2の構成が一部異なる点である。ここでは、上記実施形態に記載の成膜装置1と同一又は同等な構成については、図面に同一符号を付してその説明は省略し、上記第1実施形態の冷却機構2と構成が異なる冷却機構60について説明する。
【0047】
冷却機構60は、図7に示すように、基板11の下面(非成膜面)11aに対向して配置される下面冷却板(冷却部)21、この下面冷却板21を昇降させる昇降機構(移動手段)22および基板11の上面(成膜された側の面、成膜面)11cに対向して配置される上面冷却板(他の冷却部)65を備えている。
【0048】
下面冷却板21は、本発明の冷却部に相当するものであり、その構成は、上記実施形態と同様である。また、昇降機構22もその構成は、上記実施形態と同様である。ここでは、これらの詳細の説明は省略する。
【0049】
上面冷却板65は、搬送室10c内における上側の内壁に支持されている。また、上面冷却板65は、搬送機構3によって所定位置にまで搬送されてくるトレイ(支持部材)32の上面32cと対向する位置に配置されている。なお、トレイ32は、第1実施形態のように貫通孔32aを有していなくてもよい。
【0050】
上面冷却板25は、搬送方向A(図1に示すX軸方向)において、トレイ32と略同一の長さに形成されている。また、上面冷却板25は、幅方向(図1に示すY軸方向)において、トレイ32上に載置された基板11に対応する長さに形成されている。上面冷却板25の下面には、基板11の薄膜11bとの接触を回避するための凹部65aが形成されている。また、上面冷却板65の内部には、配管(図示せず)が二次元状に配置されている。上面冷却板65は、配管の内部に冷却液が流されることにより冷却された状態となる。
【0051】
この第2実施形態の冷却機構60では、基板11が支持されたトレイ32に下面冷却板21を接触させて、トレイ32を介して基板11と下面冷却板21との間で伝熱が行われる。ここで、冷却状態の下面冷却板21をトレイ32に接触させると、基板11は、トレイ32を介して下面冷却板21に熱を伝えることで冷却される。この結果、第1実施形態の冷却機構2と同様に、基板の近傍に冷却部を配置して輻射伝熱によって基板を冷却する従来の方法と比べて、基板11に対する冷却効率を向上させることが可能となる。
【0052】
また、第2実施形態の冷却機構60は、基板11の下面11aと対面する下面冷却板21と、基板11の上面11cと対面する上面冷却板65とを備えており、昇降機構22は、下面冷却板21を上昇させる。これにより、トレイ32に接触した下面冷却板21は、トレイ32と直接的に接触することで熱交換し、基板11を冷却する。また、上面冷却板65の下面には、基板11の薄膜11bに対応する位置に凹部65aが形成されているので、上面冷却板65と基板11の薄膜11bとの接触を回避して、上面冷却板65と基板11とを接近させることが可能となる。その結果、上面冷却板65による冷却効果を一層向上させることが可能となる。また、上面冷却板65と基板11の薄膜11bとの接触を回避し、薄膜11bの損傷のおそれを低減することが可能となる。さらに、上面冷却板65と基板11の薄膜11bとの接触を回避しながらトレイ32に上面冷却板65を接触させることが可能となるので、上面冷却板65による冷却効果を一層向上させることが可能となる。
【0053】
以上、本発明を第1実施形態および第2実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で以下のような様々な変形が可能である。
【0054】
上記実施形態の成膜装置1,51では、基板11の薄膜11bを挟んで互いに対向するように、下面冷却板21と上面冷却板25とを設ける例を挙げて説明したがこれに限定されるものではない。例えば、基板11を載置するトレイ32に接触することにより、トレイ32を介して基板11を冷却する1つの冷却板のみを備える構成であってもよい。
【0055】
上記実施形態の成膜装置1,51では、昇降機構22が下面冷却板21を上方に移動させる例を挙げて説明したがこれに限定されるものではない。例えば、下面冷却板21をトレイ32に接触可能に移動させる昇降機構と上面冷却板25をトレイ32に接触可能に移動させる昇降機構とをそれぞれ別に設けるようにしてもよい。
【0056】
上記実施形態の成膜装置1,51では、昇降機構22によって下面冷却板25を移動させることにより、下面冷却板25をトレイ32に接触させる例を挙げて説明したがこれに限定されるものではない。例えば、トレイ32を移動させることにより、下面冷却板21や上面冷却板25をトレイ32に接触させてもよい。また、下面冷却板21とトレイ32との間に熱伝導部材を挿入してもよい。この場合、基板11は、トレイ32と熱伝導部材とを介して下面冷却板21に熱を伝えることにより冷却される。
【0057】
上記実施形態の成膜装置1,51では、冷却機構2,60を搬送室10c内にのみ配置する例を挙げて説明したがこれに限定されるものではない。例えば、搬送室10a内に上記実施形態と同様の冷却機構2または冷却機構60を備えていてもよい。これにより、基板11における被成膜面に成膜が開始される前に、基板11を予め冷却しておくことが可能となり、成膜時の温度上昇を低く抑えることができる。
【0058】
上記実施形態の成膜装置1,51では、冷却部が、互いに対向する一対の冷却板(下面冷却板21および上面冷却板25)によって構成される例を挙げて説明したがこれに限定されるものではない。例えば、上面冷却板25は、複数の冷却板から構成されていてもよい。例えば、第2実施形態に示すようなデポダウン型の成膜装置51においては、図10に示すように、上面冷却板65は、複数の冷却板により構成されていてもよい。これによれば、下面冷却板21によってトレイ32が持ち上げられる際、トレイ32に載置された基板11との接触を避けて上面冷却板65を配置することで、上面冷却板65と基板11の薄膜11bとの接触を回避して、上面冷却板65と基板11とを接近させることが可能となる。さらに、上面冷却板65と基板11の薄膜11bとの接触を回避しながらトレイ32を上面冷却板65に接触させることが可能となるので、上面冷却板65による冷却効果を一層向上させることが可能となる。
【0059】
上記実施形態の成膜装置1,51では、薄膜11bが図1に示すXY平面に対して平行に形成される例を挙げて説明したがこれに限定されるものではない。例えば、薄膜11bが図1に示すXZ平面に平行に形成される場合であってもよい。この場合、基板11を支持するトレイ32は、基板11をY方向に支持するような構成とする。また、冷却部は、図1に示すY軸方向に沿って移動可能な構成とする。
【0060】
上記実施形態の成膜装置1,51では、イオンプレーティング法による成膜装置の例を挙げて説明したがこれに限定されるものではなく、例えば、真空蒸着装置やスパッタ装置などの様々な成膜装置に適用することができる。
【0061】
上記実施形態の成膜装置1,51では、支持部材の例として、複数の基板11を載置するトレイ32を挙げて説明したがこれに限定されるものではなく、1つの支持部材が1つの基板11を保持するような構成のものであってもよい。
【0062】
上記実施形態では、本願発明の冷却機構が、成膜装置1,51の搬送室10cに備えられている例について説明したがこれに限定されるものではなく、成膜装置1,51とは別個に構成される冷却装置等に本願発明の冷却機構を適用してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…成膜装置、2…冷却機構、3…搬送機構、4…主陽極、5…プラズマ源、6…補助陽極、10…真空容器、10a,10b,10c…搬送室、10d…成膜室、11…基板、21…下面冷却板、22…昇降機構、22a…ダンパ、22b…ベース、22c…シャフト、25…上面冷却板、31…搬送ローラ、32…トレイ、51…成膜装置、60…冷却機構、65…上面冷却板、65a…凹部、A…搬送方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内で成膜基板を冷却する冷却機構であって、
前記成膜基板を支持する支持部材に接触することにより、前記支持部材を介して前記成膜基板を冷却する冷却部を備えることを特徴とする冷却機構。
【請求項2】
前記成膜基板を挟んで前記冷却部と反対側に配置され、前記成膜基板を冷却する他の冷却部と、
前記冷却部および前記他の冷却部の少なくとも一方を、前記成膜基板に対して接近、離間させる移動手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の冷却機構。
【請求項3】
前記成膜基板を載置する前記支持部材であるトレイと、
前記トレイの下面と接触可能な前記冷却部と、
前記トレイに載置された前記成膜基板の上方に配置された前記他の冷却部と、
前記冷却部を前記トレイに対して接近、離間させる前記移動手段と、を備え、
前記移動手段は、前記冷却部を前記トレイに押し当てると共に、前記成膜基板を前記他の冷却部に押し当てることを特徴とする請求項2に記載の冷却機構。
【請求項4】
前記他の冷却部には、前記成膜基板の薄膜との接触を回避するための凹部が形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の冷却機構。
【請求項5】
前記冷却部が、前記支持部材に接触する際に当該支持部材から受ける反力を低減する緩衝手段を更に有していることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の冷却機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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