説明

冷媒用脱水剤及びそれを用いた脱水方法

【課題】フッ素化炭化水素冷媒の脱水剤では、冷凍装置の金属が腐食される場合があった。
【解決手段】交換可能なカチオンの30%以上がカリウムイオンに交換された3A型ゼオライトとバインダーの成型体であり、なおかつ成型体表面にバインダー成分のみからなる層を有することを特徴とする脱水剤では、フッ素化炭化水素及び冷凍機油を分解することなく脱水することができ、なおかつ冷凍装置の金属材料の腐食がなく、安全に用いることができる。バインダー成分のみからなる成型体表面部位のバインダー含有量が、ゼオライト成型体の0.01〜4重量%、ゼオライト成型体中のバインダーの含有量は30重量%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機や空調機器に使用されるフッ素化炭化水素冷媒を含む冷媒中の水分除去に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷凍機や空調機器にはフッ素化炭化水素冷媒が使用され、これまで代表的な冷媒としてはHFC−134a、HFC−32、HFC−125a等が用いられている。
【0003】
冷媒を循環させて用いる冷凍システムでは冷媒の断熱膨張時の温度低下に伴う氷結防止のため、冷媒中の水分除去が必要である。一般に、冷媒の水分除去にはゼオライトやシリカゲルの脱水剤が用いられるが、冷媒がこれらの脱水剤と長時間接触することにより、冷媒、冷凍機油の分解、及びそれにともなう冷凍装置の金属部材の腐食の問題が懸念される。
【0004】
これまで既存のフッ素化炭化水素冷媒の脱水剤としては、特に冷媒の分解に抑制を目的としたものが提案されている。
【0005】
例えば、20〜60%がカリウムイオンにより交換された3A型ゼオライト成型体をケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムの少なくとも一種の水溶液に含浸させて、成型体にSiOを付着させた脱水剤を用いる方法が提案されている(特許文献1)。また、分子サイズの小さいHFC−32冷媒(CH)の脱水剤として、セシウムイオン、ルビジウムイオンを含有するゼオライトを脱水剤として使用する方法が提案されている(特許文献2、3)。さらにHFC−32を含む冷媒の乾燥剤として、平均細孔径が0.3nm以下のナトリウム・カリウムA型ゼオライト脱水剤を使用する方法が提案されている(特許文献4)。他にも金属カチオンとして少なくともNaとKを有するA型ゼオライトと高純度カオリン系粘土を用いた乾燥剤(特許文献5)、金属カチオンとして少なくともNaとKを有するA型ゼオライトを水蒸気雰囲気中、温度600℃以上750以下で加熱処理した乾燥剤(特許文献6)等が提案されている。
【0006】
しかし、従来の乾燥剤では、フッ素化炭化水素冷媒の分解は低いものであっても、フッ素化炭化水素冷媒と冷凍機油が共存する雰囲気において長時間使用すると、冷凍機油の分解や金属を腐食する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−327968号
【特許文献2】特開平8−206495号
【特許文献3】特開平8−206494号
【特許文献4】特開平7−305054号
【特許文献5】特開平11−335117号
【特許文献6】特開平8−173799号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、フッ素化炭化水素冷媒と冷凍機油の混合雰囲気において、フッ素化炭化水素冷媒の分解がないだけでなく、冷凍機油の分解もなく、金属材料の腐食のない脱水剤及びそれを用いた脱水方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はゼオライト成型体からなる脱水剤を用いたフッ素化炭化水素冷媒と冷凍機油の混合物中の水分除去について鋭意検討を重ねた結果、交換可能なカチオンの30%以上がカリウムイオンに交換された3A型ゼオライトとバインダーの成型体において、成型体表面にバインダー成分のみからなる層を有する脱水剤では、フッ素化炭化水素冷媒の分解がないだけでなく、冷凍機油の分解や金属材料の腐食がないことを見出し、本発明を完成するに到ったものである。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の脱水剤は、交換可能なカチオンの30%以上がカリウムイオンに交換されたA型ゼオライトとバインダーの成型体からなり、当該成型体表面にバインダー成分のみからなる層を有する脱水剤である。
【0012】
本発明で用いるゼオライトは交換可能なカチオンの30%以上がカリウムイオンで交換されたA型ゼオライト(3A型ゼオライト)であり、カリウムイオンの交換率は35%以上が好ましい。ゼオライト細孔孔の制御だけではカリウムイオン交換率は30%以上あれば十分であるが、フッ素化炭化水素冷媒の分子の一部がゼオライト細孔内部に侵入した際の化学反応による分解を抑止するためには、カリウムイオン交換率は35%以上が好ましい。カリウムイオン交換率の上限は100%まで可能であるが、フッ素化炭化水素冷媒の水分吸着量の観点からは、70%以下、特に50%以下が好ましい。
【0013】
用いるA型ゼオライトの結晶粒子径は特に限定されないが、平均粒子径20μm以下、特に5μm以下のゼオライトを用いることにより、動的な脱水性能に優れ、なおかつ高強度の成型体が得られ易い。
【0014】
本発明の脱水剤で用いるバインダーの種類としては、粘土、シリカ、アルミナなどの焼結性を有するものが使用される。粘土バインダーは特に限定されるものでないが、カオリン系、ベントナイト系、タルク系、バイロフィライト系、モリサイト系、バーキュロライト系、モンモリロナイト系、クロライト系、ハロイサイト系、アタパルジャイト系、セピオライト系等の粘土が例示でき、フッ素化炭化水素冷媒の分解を抑制することから板状結晶であるカオリン粘土が好ましく、特にフッ素化炭化水素冷媒を分解する金属不純物、固体酸成分を含まないものが好ましい。
【0015】
成形する時には、分散剤やCMC(カルボキメチルセルロース)のような成形助剤を使用してもよい。
【0016】
バインダーの含有量としては、3A型ゼオライト100重量部(水分除く)に対して30重量部以上50重量部以下(成型体中のバインダーが23.1重量%以上33.3重量%以下)、特に40重量部以上45重量部以下が好ましい。バインダー量が少なすぎると強度が不十分であり、多すぎると単位重量当りの乾燥剤としての性能が低下する。バインダーは強度を発現させるためには粒子径が小さいものが好ましいが、平均粒子径で20μm以下のものが好ましい。
【0017】
本発明の脱水剤は、上記組成の成型体表面にバインダー成分のみからなる層を有することに特徴を有するものである。この様な成型体は、ゼオライトとバインダーの混合物を造粒成型した後に、さらにバインダーのみを添加して整粒し、成型体表面にバインダーのみを被覆させることによって製造することができる。
【0018】
本発明の脱水剤において、バインダーのみからなる層におけるバインダー量は特に限定はされないが、ゼオライト成型体(3A型ゼオライトとバインダーを含み、水分は除く)において、バインダーが4重量%以下、特に0.01〜4重量%、さらに0.1〜3重量%の範囲が好ましい。
【0019】
ゼオライト成型体の表面にバインダーのみの層が存在することにより、フッ素化炭化水素冷媒及び冷凍機油の分解と、金属材料の腐食が抑制される理由は必ずしも定かではないが、フッ素系炭化水素冷媒、及び冷凍機油(合成潤滑油)の分解が従来の脱水剤の表面に露出したゼオライト、或いはケイ酸アルカリの析出成分によるためであると推定される。
【0020】
本発明の脱水剤では、成型体表面にバインダーのみからなる層を有するだけでなく、ゼオライトに対するバインダー成分の総量が多いこともフッ素化炭化水素冷媒及び冷凍機油の分解抑制に寄与していると考えられる。
【0021】
3A型ゼオライト100重量部(水分除く)に対するバインダーの総量は30重量部以上(成型体中のバインダーが23.1重量%以上)、特に40重量部以上であることによりフッ素化炭化水素冷媒の分解が特に抑制される。一方、バインダーの総量が50重量部(成型体中のバインダーが33.3重量%)を超えると、脱水剤としての機能が低下するため、50重量部以下、特に45重量部以下が好ましい。
【0022】
本発明の脱水剤の形状は特に限定はないが、例えば円柱状、球状などが使用でき、成型体の粉化を抑制するためには特に球状が好ましい。成形体の大きさとしては、直径で1〜4mmのものが好ましく使用できる。
【0023】
本発明の脱水剤は、成型後、乾燥させた後、焼成して脱水剤として用いられる。焼成温度は500℃から750℃の範囲で行うことが好ましい。500℃未満では強度が不十分となり、750℃を超える温度ではゼオライト結晶が崩壊する場合がある。焼成は乾燥空気を流通させて行うことが好ましい。
【0024】
本発明の脱水剤を用いてフッ素化炭化水素冷媒中の水分を脱水する場合、冷媒中に含まれる冷凍機油の種類によらず、冷媒中のフッ素化炭化水素冷媒及び冷凍機油の分解が低く、また冷凍装置の金属材料を腐食することがない。
【0025】
本発明の脱水剤を用いるフッ素化炭化水素冷媒は特に限定はないが、汎用的に使用されるHFC−134aやHFC−32だけでなく、次世代冷媒として知られているHFO−1234yf(CF−CF=CH)等にも当然に適用できる。HFO−1234yfは分子サイズがHFC−134a(CF−CHF)より大きいため、用いるゼオライト種も本発明の3A型ゼオライトで十分である。
【0026】
また、上記以外のフッ素化炭化水素冷媒、例えばHFC−1234ye、HFC−1243zf、HFC−32、HFC−125、HFC−134、HFC−134a、HFC−143a、HFC−152a、HFC−161、HFC−227ea、HFC−236ea、HFC−236fa、HFC−245fa、HFC−365mfcおよびこれらの混合物も適用できる。
【0027】
これらの冷媒は混合して用いても良く、プロパン、n−ブタン、イソブタン、2−メチルブタン、n−ペンタン、シクロペンタン、ジメチルエーテル、CFSCF、COおよびCFIなどと混合して用いてもよい。
【0028】
また用いられる冷凍機油(合成潤滑油)も特に限定はなく、例えば一般的なエーテル系合成油が例示できる。冷凍機油には、潤滑油添加剤等を含んでもよい。冷凍機に用いる潤滑油は合成油の混合物であり、一般に組成は非開示のため、脱水剤による分解の有無は複数の冷凍機油で確認することが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
交換可能なカチオンの30%以上がカリウムイオンに交換された3A型ゼオライトとバインダーの成型体で、なおかつ当該成型体表面にバインダー成分のみからなる層を有する脱水剤では、フッ素化炭化水素冷媒の分解だけでなく、冷凍機油の分解及び金属材料の腐食がなく、安全に用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下発明を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(冷媒及び冷凍機油の分解試験 ―シールドチューブテスト―)
容量37mlの硬質ガラス製シールドチューブ管に予め活性化したゼオライト成形体0.5g、冷凍機油2g、鉄、銅、アルミニウムの金属片(1.6mmφ×長さ約4cm)を充填し、このシールドチューブ管を真空ポンプにより1mmHg以下まで減圧して液体窒素で冷却し、HFC−134aをシールドチューブ管に凍結充填した後に、シールドチューブ管を密閉した。このシールドチューブ管を175℃×30日間保持した後、シールドチューブ管を開封してゼオライト成形体を回収した。
【0031】
洗浄したゼオライト成形体中のフッ素含有量は、JIS−K0102(工場排水試験方法)の34.フッ素化合物に記載されている方法により行った。なおフッ素化合物はイオン電極により定量した。測定されたフッ素化合物量から以下の式によりHFC−134aの分解率を算出し、金属片の着色、及びHFC−134aと冷凍機油の混合液体の着色を観察した。
【0032】
ゼオライト中のフッ素含有量Fzeo=ゼオライト重量×フッ素含有濃度
HFC−134a中のふっ素含有量FHFC
=(HFC−134a重量/102)×4×19
分解率(%)=(Fzeo/FHFC)×100
【0033】
実施例1〜3
カリウムイオン交換率45%のA型ゼオライト100重量部にバインダーとしてカオリン粘土を40重量部と水を混合し、球状に成形、篩分けによって1.4〜2.4mmφの球状成形体を得た。当該成形体に用いたものと同じカオリン粘土を先の成型体100重量部(A型ゼオライトとカオリン粘土の総量 水分は除く)に対して3重量部添加し、噴霧器によって水を供給しながら引き続き60分間整粒した。その後、乾燥し、680℃で5時間焼成した。
【0034】
この様にして得られたゼオライト成型体において、成型体表面のバインダーのみからなる層のバインダー含有量は成型体全体の2.0重量%である。
【0035】
得られたゼオライト成型体は、25℃、相対湿度80%の水蒸気雰囲気中に静置することによって重量が増加することを観測し、20g/100g−成型体の水分吸着能を有することを確認した。
【0036】
当該ゼオライト成型体を脱水剤として用い、冷凍機油には市販の各種汎用潤滑油(潤滑油基油90質量%以上)を用い、シールドチューブテストを行った。シールドチューブテスト後のゼオライト成型体中のフッ素含有量はいずれも300ppm以下(フロン分解率が0.01%以下)であった。テスト後の金属片及びHFC−134aと冷凍機油の混合液体の着色状況を表1に示した。
【0037】
比較例1〜3
カリウムイオン交換率43%のA型ゼオライト100重量部にカオリン粘土33重量部と水を混合し、球状に成形、整粒後、篩分けによって1.4〜2.4mmφの球状成形体を得た。当該成形体をケイ酸ソーダ水溶液(NaO:3wt%,SiO:15wt%)に約5時間浸漬した後に、成形体とケイ酸ソーダを分離した。当該成形体を200℃で乾燥した後に、680℃で5時間焼成した。
【0038】
実施例と同様にシールドチューブテスト後のゼオライト成型体中のフッ素含有量は300ppm以下であった。金属片及びHFC−134aと冷凍機油の混合液体の着色状況を表1に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
冷凍機油
潤滑油1:出光興産製潤滑油(DNハーメチックオイルPS)
潤滑油2:出光興産製潤滑油(PS10R)
潤滑油3:出光興産製潤滑油(PS10R(P2))
潤滑油4:出光興産製潤滑油(FD46XG)
潤滑油5:デンソー(株)製潤滑油(ND−OIL8)
潤滑油6:新日本石油(株)製潤滑油(VG68)
【0041】
従来のケイ酸アルカリに含浸した脱水剤及び本発明の脱水剤では、いずれも冷媒の分解は低いものであったが、従来の脱水剤では金属着色(腐食)或いは冷凍機油の分解により混合液体が着色する場合があった。
【0042】
本発明の脱水剤では、金属の着色(腐食)がなく(少なく)、冷凍機油の分解による混合溶液の着色がないことが確認された。
【0043】
比較例2では、金属には着色が見られなかったため、冷媒と冷凍機油の混合液体の着色は主に冷凍機油の分解によるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の脱水剤はフッ素化炭化水素冷媒及び冷凍機油を分解せず、なおかつ金属材料の腐食がないため、フッ素化炭化水素を冷媒として用いた冷凍システムの脱水剤に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交換可能なカチオンの30%以上がカリウムイオンに交換されたA型ゼオライトとバインダーの成型体であり、なおかつ成型体表面にバインダー成分のみからなる層を有することを特徴とするフッ素系炭化水素冷媒用の脱水剤。
【請求項2】
バインダー成分のみからなる層のバインダー含有量が、ゼオライト成型体の重量(水分を除く)に対して0.01〜4重量%である請求項1に記載の脱水剤。
【請求項3】
3A型ゼオライト100重量部(水分を除く)に対するバインダーの総量(バインダーのみの層を含む)が30重量部以上50重量部以下(成型体中のバインダーが23.1重量%以上33.3重量%以下)である請求項1又は請求項2に記載の脱水剤。
【請求項4】
3A型ゼオライトのカリウムイオンの交換率が35%以上70%以下である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の脱水剤。
【請求項5】
HFC−134a、HFC−32、HFO−1234yf、HFC−1234ye、HFC−1243zf、HFC−32、HFC−125、HFC−134、HFC−134a、HFC−143a、HFC−152a、HFC−161、HFC−227ea、HFC−236ea、HFC−236fa、HFC−245fa、HFC−365mfcの群から選ばれる少なくとも1種以上のフッ素系炭化水素冷媒と、請求項1乃至請求項3のいずれかの脱水剤を接触させることを特徴とするフッ素系炭化水素冷媒の脱水方法。
【請求項6】
フッ素化炭化水素冷媒が、さらに冷凍機油を含んでなる請求項5に記載の脱水方法。
【請求項7】
冷凍機油がエーテル系合成油を含んでなる請求項6に記載の脱水方法。

【公開番号】特開2011−83726(P2011−83726A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239626(P2009−239626)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】