説明

冷延鋼板の製造方法

【課題】冷間圧延後の製品エッジ部の性状不良を防止して、品質が良好な冷延鋼板を安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】熱間圧延後の鋼板を酸洗した後に冷間圧延して所定の寸法の冷延鋼板を製造する方法において、冷間圧延前の鋼板のエッジ部をトリミングする際に、トリマー装置のクリアランスGを鋼板の板厚hに対して、G/hが0.15以上、0.25以下の条件にてトリミングを行った後、冷間圧延の各パスの圧延荷重を、全パス中での最大値に対する最小値の比率が0.75以上となるように設定し、総圧下率85%以上の冷間圧延を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷延鋼板の製造方法に関するもので、特に冷間圧延後の製品エッジ部の性状不良および表面疵を防止して、品質が良好な冷延鋼板を安定して製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板は、自動車や電機製品、建材などの幅広い用途に用いられる鋼板である。冷間圧延したままの鋼板は、その用途に応じて、めっき処理、焼鈍熱処理、レベラー矯正、プレス加工などの工程を経て最終製品となる。一般に、冷間圧延したままの鋼板では、エッジ部が切り欠け状の性状(耳割れ、耳荒れ、エッジクラックなどとも称される)となりやすく、冷間圧延後のめっきライン、焼鈍ライン、レベラー矯正などでの通板の際、あるいは、冷間圧延そのものにおいて、板破断などの操業トラブルを引き起こしやすく、特に、板厚の薄い鋼板の場合には、冷間圧延中にエッジ性状が悪化して板破断を引き起こし易く、生産性を低下させ易かった。また、板材の最終製品としてエッジ部がそのまま使用される用途では、かえり(バリとも称される)などがない良好なエッジ性状が要求されるのはいうまでもない。そのため、冷間圧延後に鋼板のエッジ部分をトリミングすることが行われているが、冷間圧延して長さが増大した鋼板の全長にわたってトリミングすることは、作業負荷が膨大であるばかりでなく、歩留り低下も招いていた。また、冷延鋼板のトリミングを行った場合、トリミング後のエッジ性状がかえりを有することが多く、プレス加工での疵発生などの原因となっていた。そのため、冷延鋼板の製品エッジ部の性状を良好にする方法について種々の技術が開発されてきた。
【0003】
特許文献1では、冷延鋼帯でのエッジ性状の悪化を防止するために、冷間圧延前の熱延鋼帯のエッジ部をトリミングした後、グラインダーやバイトによる機械加工によってトリミングによる加工硬化部分を除去する方法を開示している。
特許文献2では、帯状金属板端部をトリミングした後、帯状金属板端部の上下の角部にホーニング加工を施し、上下の角部に丸みを付与する方法を開示している。
【0004】
また、特許文献3では、冷間圧延を施して、総圧下率が50%以上になった時点で帯状金属板端部を少なくとも1回以上研削し、その後更に総圧下率80%以上で冷間圧延を行う方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】

【特許文献1】特開昭54−124857号公報
【特許文献2】特開昭61−209703号公報
【特許文献3】特開平2−290603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、冷延鋼板のエッジ部の性状が良好であることは製造工程上および製品品質上、極めて重要である。
特許文献1で開示された方法を適用した場合、冷間圧延前の熱延鋼帯のエッジ部をトリミングした後、さらにグラインダーやバイトによる機械加工によってトリミングによる加工硬化部分を除去するという工程が必要となるために、作業能率が著しく低下するという問題がある。一般に、このような機械加工の工程における通板速度は、トリミングや冷間圧延での通板速度に対して著しく遅いため、これらグラインダーやバイトによる機械加工をオンラインで行うことができず、別のオフライン工程が必要となる。また、グラインダーやバイトなどの機械加工によって、エッジ部の一部を除去した場合には、除去部分が切り屑として発生するため、鋼板上へ飛散して表面品質の低下の原因になるという問題も生じやすい。
【0007】
特許文献2で開示された方法を適用した場合も同様の問題が生じ、ホーニング加工によって帯状金属板端部の上下の角部に丸みをもたせるような除去加工は、通板速度に比べて著しく遅いため作業能率が低下するという問題がある。また、ホーニング加工に使用した固体粒子が飛散して、金属板表面に残留すると、表面に押込み疵を発生させるため、表面品質の低下の原因となる。
【0008】
さらに、特許文献3で開示された方法を適用する場合には、総圧下率が50%以上の冷間圧延を施した後に、帯状金属板端部を少なくとも1回以上研削する必要があるため、タンデム圧延のように連続スタンドによる生産が困難であり、追加工程を必要とするため、作業能率が低下するという問題が生じる。
以上のように、従来は、帯状金属板端部のトリミング後に付加的な加工を鋼板エッジ部に施すか、冷間圧延の途中で機械加工を施すかのいずれかしか、エッジ性状が良好な冷延鋼板を製造する技術は見当たらなかった。
【0009】
そこで、本発明は、特に冷間圧延後の製品エッジ部の性状不良を防止して、品質が良好な冷延鋼板を安定して製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するための手段であって、その要旨構成は、熱間圧延後の鋼板を酸洗した後に冷間圧延して所定の寸法の冷延鋼板を製造する方法において、冷間圧延前の鋼板のエッジ部をトリミングする際に、トリマー装置のクリアランスGを鋼板の板厚hに対して、G/hが0.15以上、0.25以下の条件にてトリミングを行った後、冷間圧延の各パスの圧延荷重を、全パス中での最大値に対する最小値の比率が0.75以上となるように設定し、総圧下率85%以上の冷間圧延を施すことを特徴とする冷延鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、冷間圧延における総圧下率が大きくても、冷間圧延後の製品エッジ部の性状不良を防止して品質が良好な冷延鋼板を安定して製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】冷間タンデム圧延における各スタンドの圧延荷重パターンの例を示す線図
【図2】冷延鋼板においてエッジ部が切り欠け状の性状(耳割れ、耳荒れ、エッジクラックなどとも称される)になった状態を示す模式図
【図3】トリマー装置の1例を示す模式図
【図4】図3の部分拡大図
【図5】本発明の実施に用いられる冷延鋼板製造設備の1例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明が対象とする冷延鋼板は、主として低炭素鋼又は極低炭素鋼の鋼板であり、主として建材用途に使用される鋼板を対象とする。冷延鋼板の板厚については特に制限はないものの、主として0.1〜0.3mm程度の薄物材を対象とする。冷間圧延での総圧下率が大きく、鋼板エッジ部の性状不良が発生しやすい条件だからである。
前記鋼板エッジ部の性状不良とは、図2に模式的に示すように、冷間圧延後の鋼板1のエッジ部が切り欠け状の性状(耳割れ、耳荒れ、エッジクラックなどとも称される)になる状態をいう。冷間圧延中に、このようなエッジ部の性状不良が発生すると、板破断が起きやすく安定して圧延することが難しくなる。また、冷間圧延後に残留すると、次工程のプレスなどにおいて疵を発生させやすく問題である。
【0014】
熱間圧延後の鋼板は、酸洗によって脱スケールが行われた後に、トリマー装置によって鋼板端部のトリミングが行われる場合がある。トリマー装置では、図3に示すように、冷間圧延前の鋼板のエッジ部に対して、上下対の円形回転刃を上下から所定の深さまで押し当てて、切断する。ここで、1は鋼板、1A、1Bはトリミングによって切り捨てられる部分(エッジ切捨て部)、10A、10Bはそれぞれ両端部の上側の回転刃、11A、11Bはそれぞれ下側の回転刃を示している。回転刃の設定方法について詳細に説明するため、図4に、片側の回転刃10A、11Aを拡大した図を示す。図4において、Gは、上下の回転刃の水平方向の間隙(クリアランスという)であり、両者の間隙が開く方を正(+)とする。Lは、上下の回転刃10Aと11Aの垂直方向の重なり量(ラップとも称す)であり、上下回転刃の重なり量が大きくなる方を正(+)とする。
【0015】
本発明においては、トリマー装置のクリアランスGを鋼板の板厚hに対して、G/hが0.15以上、0.25以下の条件にてトリミングを行う。トリミング後の板端部には、せん断面と破断面が形成されるが、クリアランスが小さい場合にはせん断面の面積比率が増加するものの、せん断面と破断面の境界部の凹凸が大きくなり、G/hが0.15未満では冷間圧延後にエッジ性状が悪化しやすいからである。一方、クリアランスが過大となるとせん断面と破断面の境界部の凹凸は低減するものの、破断面の端部に形成されるかえりが大きくなり、G/hが0.25を超えると、かえりの部分を起点として冷間圧延後のエッジ性状が悪化してしまうからである。
【0016】
さらに、本発明に係る冷間圧延は、タンデム式の多スタンド圧延またはレバース圧延等の、2パス以上のパス数を要する多パス圧延を対象とする。その際、冷間圧延前の板厚から、所定の板厚まで圧下する場合に、1パスごとの圧延荷重を算出または過去の荷重データから設定するが、そのとき、全パス中の圧延荷重の最大値に対する最小値の比率が0.75以上,1.00以下となる条件が満たされるように圧延荷重を設定して圧延を行う。1パスごとあるいは1スタンドごとの圧延荷重が大きく変化すると冷間圧延時に鋼板エッジ部に生じる引張応力が過大に生じて、冷間圧延前に形成されたせん断面と破断面の境界部の凹凸又はかえりの部分を起点として、エッジ性状が悪化しやすいからである。
【0017】
これは、冷間圧延において鋼板エッジ部に生じる引張応力は、ロールの幅方向たわみと偏平量の幅方向分布、鋼板の幅方向厚みが影響し、鋼板端部のパスごとのエッジドロップ比率変化に依存して、ロールバイト入側のエッジドロップが大きい鋼板をロール偏平が生じにくい低荷重で圧延する場合に鋼板エッジ部の引張応力が過大となるため、そのような鋼板エッジ部の引張応力を低減しながら圧延を行う必要があるからである。また、ロールバイト出側のエッジドロップ量は、ロールバイト入側のエッジドロップ量が一定程度影響するため、多パス圧延におけるいずれかのパスにおいて鋼板幅方向端部に大きなエッジドロップを形成させると、その鋼板形状によって、ロールが鋼板幅方向最端部まで接触しなくなり、板幅方向最端部が板中央部に比べて変形しないため、その後のいずれかの圧延パスにおいて鋼板エッジ部に過大な引張応力が生じることになる。一方、エッジドロップはそのパスの圧延荷重に左右されやすい。そのため、本発明では全パスに渡って圧延荷重がほぼ一定の範囲に収まるように圧延パススケジュールを選択し、多パス圧延の任意のパスにおいて鋼板エッジ部に過大な引張応力が負荷されるのを抑制する。
【0018】
なお、ここでは冷間圧延における総圧下率(略して冷延総圧下率)は85%以上とする。冷延総圧下率が85%未満の条件では、本来的に鋼板エッジ部の性状が悪化しにくいから問題とならないためである。一方、冷延総圧下率の上限については、エッジ性状の面からは上限はないが、工業的に実施されている冷間圧延における総圧下率は95%程度が上限であるので、本発明の適用上の上限も95%とした。
【0019】
本発明について、5スタンドから構成される冷間タンデム圧延機にて冷延鋼板を製造した例を用いて、詳細に説明する。
図5は、本発明による、冷間タンデム圧延機にて冷延鋼板を製造する工程の一部を模式的に示した図である。図5において、1は冷延鋼板であり、21はトリマー装置、22は通板中の鋼板に付与される張力を制御するためのブライドルロール、23は4段圧延ロールスタンドを5スタンド直列に配置してなる冷間タンデム圧延機、24は圧延後の冷延鋼板を巻き取ったコイルである。図5において、鋼板1は矢印の向きに通板され、図中に示していない上流側には、熱延コイルまたは酸洗コイルを払い出すためのペイオフリール、先行材の尾端と後行材の先端をつなぎ合わせるための溶接装置、溶接中の通板速度調整をするためのルーパー部、熱延コイルの場合は鋼板表面の酸化鉄(スケール)を除去するための酸洗セクションなどが配置されている。なお、本発明例での冷間タンデム圧延機のワークロール径は5スタンドとも500mmとした。
【0020】
トリマー装置21は、鋼板の両エッジ側に円形回転刃が配置されており、図4に示すように刃のクリアランスGおよびラップLを調整することが可能である。
本発明例では、厚みが2.0mmで幅が1020mmの熱延鋼板から、厚みが0.2mmで幅が1000mmの冷延鋼板を製造する例について説明する。なお、鋼板はC≦0.010%でかつC+N≦0.012%、Si≦0.01%、Mn≦0.15%、P≦0.02%、S≦0.020%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼である。
【0021】
ペイオフリールから払い出された熱延鋼板は、酸洗セクションで表面スケールが除去されたのち、両側のエッジ部をそれぞれ10mmずつトリミングされる。ここで、本発明例でのトリミングは、トリマー装置21において、クリアランスGを0.4mmに、ラップLを0.3mmに設定した。クリアランスGと板厚hの比は0.20とした。
そして、両エッジをトリミングして幅が1000mmになった2mm厚の酸洗済みの熱延鋼板を、5スタンドの冷間タンデム圧延機23で、0.2mm厚まで圧延した。各スタンドの圧下率は、全スタンドにわたり圧延荷重の最大値と最小値の比率が0.75以上になるように設定した。図1は、図5の冷間タンデム圧延機の各スタンドの圧延荷重の例を示したものである。冷間圧延中の鋼板の幅変化は無視できる程度に小さいため、単位幅あたりの圧延荷重で表記している。図中の例1(従来例)では、第2スタンドの圧延荷重が最も大きく、第5スタンドの圧延荷重が最小となり、その比率は0.64となっている。一方、図中の例2(本発明例)では、最大荷重に対する最小荷重の比率が0.86となっており、本発明では、このような圧延荷重パターンとなるように各スタンドの圧下率配分を決定する。
【0022】
なお、このような条件で冷間圧延したままの鋼板について、長手方向で任意に10箇所を選んで、エッジ部の性状を調査したが、いずれの箇所においてもエッジクラックは0.1mm未満と極めて小さく、エッジ性状は良好であった。
なお、図5に示したような、トリミング工程とその後の冷間圧延工程が直結した製造装置では、従来技術であるグラインダーやバイトなどの機械加工を適用しようとすると、通板速度が著しく律速されるため、生産効率が低下する。また、これら機械加工で生じた切り屑が鋼板上へ巻き込まれたまま冷間圧延され、表面品質の低下の原因になる危険性が極めて高くなるため、前記機械加工の適用は不可能であった。
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、冷間圧延後の製品エッジ部の性状が良好な冷延鋼板の製造方法を提供することが可能になる。
【実施例】
【0024】
本発明の実施例として、図5に示す5スタンドからなる冷間タンデム圧延機での冷延鋼板の製造に本発明を適用した例について説明する。
供試材は、一般的な冷延鋼板である低炭素鋼の母板となる熱延鋼板である。母板厚1.8〜2.6mmであり、冷間圧延後の厚みは0.12〜0.30mmである。
実施条件を表1に示す。酸洗後の母板の板端部をトリマー装置21によってトリミングする際のクリアランスGを変更すると共に、冷間圧延における最大荷重と最小荷重の比を変更している。なお、トリミング時のラップLはいずれの条件においても0.3mmで一定とした。
【0025】
エッジ性状の評価として、冷間圧延したままの鋼板について、長手方向で任意に10箇所を選んでエッジ部の性状を調査した。いずれの箇所においてもエッジクラックは0.1mm未満であれば良好、1箇所でも0.1mm以上の部分があれば不良とした。
表1に示すように、比較例9〜17ではエッジ性状が不良であったのに対し、本発明例1〜8ではいずれもエッジ性状が良好であった。
【0026】
【表1】

【符号の説明】
【0027】
1 鋼板
1A、1B トリミングにより切り捨てる部分
10A、10B 上側の回転刃
11A、11B 下側の回転刃
21 トリマー装置
22 ブライドルロール
23 冷間タンデム圧延機
24 巻き取りコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延後の鋼板を酸洗した後に冷間圧延して所定の寸法の冷延鋼板を製造する方法において、冷間圧延前の鋼板のエッジ部をトリミングする際に、トリマー装置のクリアランスGを鋼板の板厚hに対して、G/hが0.15以上、0.25以下の条件にてトリミングを行った後、冷間圧延の各パスの圧延荷重を、全パス中での最大値に対する最小値の比率が0.75以上となるように設定し、総圧下率85%以上の冷間圧延を施すことを特徴とする冷延鋼板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−81482(P2012−81482A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227701(P2010−227701)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】