説明

冷間圧接方法及び金属接合体

【課題】 接合部における厚さの減少を抑制することができる冷間圧接方法を提供すること。
【解決手段】 第1の金属板11と第2の金属板12とを冷間圧接して金属接合体1を製造するに際し、第1の金属板11と第2の金属板12とを重ね合わせて配置して拘束ジグ31と下型32により挟持して固定し、拘束ジグ31に形成される開口部311にポンチ2を挿通して各金属板11,12を押圧し、第1の金属板11を絞るように変形させて第2の金属板12の内部に侵入させて第2の金属板12を窪ませるように変形させるとともに、ポンチ2により押しのけられた金属板11,12の体積の少なくとも一部を、下型32に形成される凹部321に逃がす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧接方法及び金属接合体に関し、さらに詳しくは、金属部材どうしを局所的に凝着させて接合するのに好適な冷間圧接方法と、この方法により製造される金属接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材どうしを冷間圧接する場合には、接合する各金属部材の接合面上に存在する金属酸化皮膜を除去し、酸化していない金属を露出させるとともに、金属部材間に存在する微少な空隙をつぶし、露出した酸化していない金属どうしを原子間力が働く距離にまで近接させる必要がある。
【0003】
このためたとえば、各金属部材の接合面上に存在する酸化皮膜をワイヤブラシなどで除去した後、これらの金属部材どうしを重ね合わせ、この重ね合わせた部分を加圧し変形させて接合するという方法が用いられている。この際、加圧変形により接合された部分の寸法は、加圧前の厚さ寸法の例えば約20%になるようにしている(特許文献1参照)。
【0004】
このような方法によれば、金属部材が加圧により引き延ばされるように変形して酸化していない金属が露出するとともに、酸化していない金属どうしが加圧によって近接し、原子間力が働いて露出した金属原子どうしが結合する。したがって、冷間圧接を用いて金属部材どうしを接合するには、接合部分の金属を十分に引き延ばす必要がある。従来の冷間圧接においては、この引き延ばし量の目安として、前記特許文献1に記載のように接合部の厚さ方向の寸法の減少を目安にしていた。これは、従来の冷間圧接では、塑性変形により接合部の厚さを減少させることによる酸化していない金属を露出させるための加圧と、接合する金属部材間に存在する微少な空隙をつぶして原子間力が働く距離にまで近接させるための加圧とが分離されていなかったためである。
【0005】
しかしながら、塑性変形による金属部材の表面の酸化皮膜の破砕と、それに伴う酸化していない金属の露出は、金属部材どうしの接合面(すなわち界面)に平行な方向の力が寄与する。これに対し金属原子どうしを原子間力が働く距離にまで近接させるための加圧は、接合面に垂直な力が寄与する。このため、これらの力は分離して考えることが可能であると考えられる。
【0006】
また、従来の冷間圧接では、接合後の接合部の厚さ方向寸法が、例えば、接合前の約20%になるなど大幅に減少する。このため、接合部分の強度が他の部分(すなわち変形していない部分)に比較して低くなり、機械的特性が低下する。このほか、接合された部分を通じて金属部材の間で電流を流すような場合、接合された部分は他の部分に比較して断面積が小さく電気抵抗が大きいから、電気的な特性が悪化するのみならず、接合された部分が局所的に発熱するおそれがある。また、同様の理由により、この接合された部分は、金属部材の間における熱流の隘路となるおそれもある。
【0007】
【特許文献1】特開平2−25287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、接合部における被接合部材の厚さ方向の減少を抑制することができる冷間圧接方法を提供すること、あるいは、冷間圧接により接合された金属接合体であって、接合部分における接合面に対して垂直方向の寸法の減少が小さい金属接合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、複数の重ね合わされた金属部材を、該金属部材の重ね合わせ面に交差する方向からポンチにより押圧して、該金属部材の表面に凹部が形成されるように変形させるとともに、前記ポンチの押圧により押しのけられた該金属部材の体積の少なくとも一部が、前記ポンチにより押圧される反対側の面を隆起させるように変形させつつ接合することを要旨とするものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は重ね合わされた複数の金属部材を、該金属部材の重ね合わせ面に交差する方向からポンチにより押圧して、該金属部材の表面に凹部が形成されるように変形させるとともに、前記ポンチの押圧により押しのけられた該金属部材の体積の少なくとも一部が、前記ポンチにより押圧される反対側の面を隆起させるように変形させつつ接合されることにより製造されることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1または請求項2に記載の発明によれば、金属部材どうしを積み重ねてポンチで押圧すると、ポンチにより直接的に押圧された一方の金属部材は、その表面がポンチの侵入により凹状に窪まされるとともに、他方の金属部材の内部に柱状になって沈み込む。そして他方の金属部材は、前記一方の金属部材により凹状に窪まされて変形するとともに、ポンチの侵入により押しのけられた体積のうちの少なくとも一部は、反対側の表面から凸状に突出する。このため、接合部分の厚さ方向寸法の減少を抑制することができる。したがって、接合部分における機械的強度の低下、電気抵抗の増加、あるいは熱抵抗の増加を抑制することができる。
【0012】
また、接合後の厚さ方向寸法の減少が抑制されるから、接合部分における機械的強度の低下などを抑制しつつ、金属部材どうしの接合強度を大きくするためにポンチの侵入深さを大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る冷間圧接方法の実施形態について、その要部の概略を模式的に示した外観斜視図であり、図1(a)は分解斜視図、図1(b)は結合斜視図である。
【0015】
図1(a)または(b)に示すように、本実施形態は、被接合部材である第1の金属板11及び第2の金属板12を重ね合わせ、拘束ジグ31と下型32により挟持して固定し、重ね合わせた金属板11、12をポンチ2により押圧、変形させて接合し、金属接合体を得るものである。
【0016】
図1(a)に示すように、拘束ジグ31は、略ブロック状に形成され、第1の金属板11あるいは第2の金属板12を拘束可能な拘束溝312が形成される。また、この拘束ジグ31には、ポンチ2を挿通可能な開口部311が拘束溝312の底面に対して略直角方向に形成される。下型32も略ブロック状に形成され、第1の金属板11あるいは第2の金属板12を係合して拘束可能な拘束溝322が形成される。そしてこの拘束溝322の底面には、段差状に窪んだ凹部321が形成される。この凹部321の寸法形状については後述する。なお、拘束ジグ31と下型32とを重ね合わせた状態において、拘束ジグ31に形成される開口部311の軸線と、下型32に形成される凹部321の中心とが一致するように形成される。
【0017】
そして図1(b)に示すように、第1の金属板11と第2の金属板12とを重ね合わせ、拘束ジグ31及び下型32とを装着すると、第1及び第2の金属板11,12は、拘束ジグ31及び下型32の拘束溝312,322に嵌合し、分離や面方向への変形ができないように拘束される。この状態で、ポンチ2を矢印aに示すように拘束ジグ31に形成される開口部311から挿入し、各金属板11,12を押圧して接合する。本明細書においては、2枚の金属板11,12のうち、拘束ジグ31の側に配置され、ポンチ2により直接的に押圧される金属板を「第1の金属板11」と称する。また、下型32の側に配置され、第1の金属板11により間接的に押圧される金属板を「第2の金属板12」と称する。
【0018】
なお、ポンチ2は、従来一般に用いられているものを適用することができる。また、拘束ジグ31、下型32やポンチ2の駆動機構や動力源など(図示せず)も、従来一般の冷間圧接において用いられるものと同様のものが適用される。このため、これらの説明は省略する。
【0019】
被接合部材である第1の金属板11、第2の金属板12は、それぞれ材質が限定されるものではない。例えば、アルミニウムどうし、銅どうし、アルミニウム合金どうし、銅合金どうしといった同種の金属どうしであってもよく、アルミニウムと銅、純銅と銅合金といった、異種金属であってもよい。
【0020】
次いで、本実施形態の実施手順及び接合のメカニズムについて説明する。図2は、本発明の実施手順及び製造される金属接合体の構造を模式的に示した断面図である。ここで、図2(a)は金属板11,12同士を重ね合わせて拘束ジグ31及び下型32を装着した状態であって接合する前の状態を示す。図2(b)はポンチ2により接合している最中の状態を示す。図2(c)は、接合が完了して形成された金属接合体1を示す。なお、使用するポンチ2の形状は特に限定されるものではないが、説明のための便宜上、円柱状のポンチを用いるものとする。
【0021】
まず、図2(a)に示すように、第1の金属板11及び第2の金属板12を重ね合わせ、拘束ジグ31及び下型32により挟持して固定する。そして、拘束ジグ31に形成される開口部311にポンチ2を挿通し、矢印aに示す向きに移動させ、第1の金属板11及び第2の金属板12を押圧する。
【0022】
図2(b)に示すように、重ね合わせた金属板11,12がポンチ2により押圧されると、第1の金属板11は、ポンチ2の端面が当接する部分及びその近傍が絞られるように変形して凹部が形成され、絞られた部分は円柱状となって第2の金属板12の内部に侵入する。一方、第2の金属板12は、この円柱状に侵入した第1の金属板11により押しのけられて凹部が形成されるとともに、押しのけられた体積の少なくとも一部が、下型32に形成される凹部321に逃げる。なお、ポンチ2の侵入深さによっては、第1の金属板11の円柱状に絞られた部分も、下型32に形成される凹部321の内部に達する場合がある。
【0023】
その結果、図2(c)に示すように、第1の金属板11の表面にはポンチ2の侵入により凹部が形成され、第2の金属板12の表面には、ポンチ2により押しのけられた体積が下型32の凹部321に逃げて凸部が形成される金属接合体1が得られる。
【0024】
本実施形態の接合部分の構造について、単純化して説明する。図2(b)に示すように、第1の金属板11のポンチ2により押圧された部分は、外径がr、高さがhの円柱状になって第2の金属板12の内部に沈み込んだとする。これにより、第1の金属板11と第2の金属板12の接触面積は、沈み込んだ円柱の側面の面積である(2×π(円周率)×r(円柱の半径)×h(円柱の高さ))だけ増加する。
【0025】
ここで、両金属板11,12がポンチ2により押圧されて接触している間は、両金属板11,12どうしの接触面は外気に曝されない。また、各金属板11,12の表面にすでに存在している酸化被膜は延性が小さいから、酸化皮膜が破砕されて酸化していない金属が露出する。接合部及びその近傍における金属板11,12どうしの接触面積の増加率は、(円柱の側面の面積)/(円柱の端面の面積)=2πrh/πr=2h/rとなる。この増加した面積は活性な金属面で結合力が強いから、金属板11,12どうしを強固に接合するためには、ポンチ2の挿入深さhを大きくして面積増加率を大きくすることが好ましい。
【0026】
そして、ポンチ2により押しのけられた金属板11,12の体積の少なくとも一部は、下型32に形成される凹部321に逃げることになる。このため、接合後の接合部の厚さは、両金属板11,12を重ね合わせたもとの厚さからポンチ2の挿入深さを差し引いた厚さに、下型32の凹部321に逃げた体積の厚さを加算したものとなる。このため、下型32に凹部321が形成されない場合に比較して、接合部の厚さ寸法を大きくすることができる。したがって、金属板11,12同士の接触面積を大きくするためにポンチ2の挿入深さを大きくしつつ、接合部における厚さ寸法の減少を抑制することができる。
【0027】
また、接合部分の厚さ寸法の減少を小さく抑制することができるから、厚さ寸法の減少による機械的強度の低下を抑制することができる。このほか、接合部分を介して第1の金属板11と第2の金属板12との間に電流を流す場合、断面積の減少に起因する局所的な電気抵抗の増加や、それに伴う発熱を抑制することができる。また同様に、第1の金属板11と第2の金属板12との間の熱流の抵抗も小さくすることができる。したがって、このようにして製造される金属接合体1は、機械的特性、電気的特性あるいは熱的特性に優れたものとなる。
【0028】
なお、各金属板11,12の弾性変形による体積変化や、接触面に存在する空隙の体積は、ポンチ2により押しのけられた金属板11、12の体積に比較して極めて微少である。そこで、この空隙の体積を無視すると、ポンチ2が押しのけた体積と、第1の金属板11が第2の金属板12の内部に侵入した体積と、下型32に形成される凹部321の容積とはすべて等しいと考えられる。したがって、下型32に形成される凹部321の寸法形状は、ポンチ2の径と挿入深さに基づいて適宜決定される。
【0029】
ただし実際には、各金属板11、12の弾性変形や、両金属板11、12どうしの接触面に存在する微少な空隙の体積も考慮し、下型32に形成される凹部321の容積を、ポンチ2の挿入により押しのけられる体積より若干小さくすることが好ましい。このようにすれば、各金属板11、12の接触面には、存在する微少な空隙をつぶして原子間力が働く距離にまで近接させるために必要な圧力がかかりやすくなる。
【実施例】
【0030】
次いで、本発明の実施例について説明する。図3は、本発明に係る金属接合体の実施例を示した外観斜視図であり、(a)は、端子と導線との接続に用いた例、(b)、(c)はバスバーと呼ばれる大電流用の導線どうしの接続に用いた例である。
【0031】
それぞれ簡単に説明すると、(a)に示す金属接合体1aは、電流を流す導線42と、この導線42を他の導線や他の機器等に接続するための端子41を備える。たとえば導線42は電気抵抗の低い純銅により形成され、端子41はバネ性の良い銅合金により形成される。このような材料選択とすると、導線における電力の伝送効率を良くすることができ、かつ端子41における接続の信頼性を向上させることができる。(b)、(c)に示す金属接合体1b、1cは、銅やアルミニウムにより形成されるバスバー43,45と、同種あるいは異種金属により形成されるバスバー44,46との接合に本発明が適用されるものである。これにより平面的や立体的な配線構造を容易に組み立てることができる。
【0032】
このように本発明に係る方法は、従来のボルト締め、リベットカシメ、溶接などの接合手段に取って代わって用いられ、簡便性や溶接困難な材料への適用可能性など、冷間圧延ならではの利点を活用することができる。そして、このように製造された金属接合体1a,1b,1cは、導線42と端子41との接合部分や、バスバー43,44(または45,46)どうしの接合部分における断面積の減少が少ないから、この接合部分における電気抵抗の増加や、それに伴う発熱を抑制することができる。また、導線42と端子41、あるいはバスバーどうし43,44(または45,46)は強固に接合されるから、機械的強度が高く、接合部の信頼性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変が可能であることはいうまでもない。例えば、接合する金属部材の枚数は、2枚に限定されるものではない。また、金属部材の形状も、板状に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係る接合方法について、その要部の概略を模式的に示した外観斜視図であり、それぞれ(a)は分解した状態を、(b)は結合した状態を示す。
【図2】本発明の実施形態に係る接合方法の実施手順及び本発明に係る金属接合体の構造を模式的に示した断面図であり、それぞれ(a)は接合前の状態を、(b)は接合中の状態を、(c)は製造された金属接合体の構造を示す。
【図3】本発明の実施例に係る金属接合体の概略構造を示した外観斜視図であり、(a)は端子と導線との接合に適用した例を、(b)、(c)は大電流用の導線どうしの接合に適用した例である。
【符号の説明】
【0035】
1 金属接合体
11 第1の金属板
12 第2の金属板
2 ポンチ
31 拘束ジグ
32 下型
311 開口部
312 拘束溝
321 凹部
322 拘束溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わされた複数の金属部材を、該金属部材の重ね合わせ面に交差する方向からポンチにより押圧して、該金属部材の表面に凹部が形成されるように変形させるとともに、前記ポンチの押圧により押しのけられた該金属部材の体積の少なくとも一部が、前記ポンチにより押圧される反対側の面を隆起させるように変形させつつ接合することを特徴とする冷間圧接方法。
【請求項2】
複数の重ね合わされた金属部材を、該金属部材の重ね合わせ面に交差する方向からポンチにより押圧して、該金属部材の表面に凹部が形成されるように変形させるとともに、前記ポンチの押圧により押しのけられた該金属部材の体積の少なくとも一部が、前記ポンチにより押圧される反対側の面を隆起させるように変形させつつ接合されることにより製造されることを特徴とする金属接合体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−150416(P2006−150416A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345757(P2004−345757)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】