説明

冷陰極電子源およびフィールドエミッションランプ

【課題】製造歩留まりと電子放出寿命特性とを向上させること。
【解決手段】絶縁材を間に挟むように複数の電極を設けて一体化すると共に少なくとも1つの電極に炭素膜を設けた構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極電子源およびフィールドエミッションランプに関する。
【背景技術】
【0002】
図5を参照して、内部真空10の図示略のランプ管内に蛍光体11付きアノード電極12に平行に配置した基板14上にカソード電極16を配置すると共に、このカソード電極16上に断面長方形状の絶縁層18と断面三角形状の電子エミッタ(エミッタ電極)20とを配置し、電子エミッタ20とカソード電極16とは直接接続で相互の電気的導通をとる一方で絶縁層18上に断面長方形状のゲート電極22を配置した構成のフィールドエミッションランプ24が従来から提案されている(例えば特許文献1参照)。このようなフィールドエミッションランプ24では、アノード電極12とカソード電極16との間に高電位を印加すると共にゲート電極22の電位制御で電子エミッタ20の頂点から電子放出を制御しつつ電界放射により電子を引き出して蛍光体11に加速衝突させて蛍光体11を励起発光させることができるようになっている。
【0003】
上記フィールドエミッションランプ24では、ゲート電極22とカソード電極16との位置関係は、電子エミッタ20からの電子引き出し特性に影響を与える。従ってこれら相互の絶縁距離は予め一定に設定できることが望ましい。
【0004】
しかし、上記従来構造の冷陰極電子源26ではゲート電極22とカソード電極16との絶縁距離関係を高精度に設定するには精密な製造プロセスを要求されるものであり、製造歩留まりが必ずしもよくない。また、1つの電子放出サイトには単一の電子エミッタ20が連続使用されるようになっているので、早期に電子エミッタ20の電子放出寿命が到来し、ひいてはフィールドエミッションランプ24のランプ寿命特性が低い。
【特許文献1】特開2001−184020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、製造歩留まりに優れ、かつ、電子放出寿命特性に優れた冷陰極電子源を提供するものである。本発明ではランプ寿命が長いフィールドエミッションランプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明第1による冷陰極電子源は、絶縁材を間に挟むように複数の電極を設けて一体化すると共に少なくとも1つの電極に炭素膜を設けたことを特徴とするものである。
【0007】
本発明第1によると、冷陰極電子源の構成が絶縁材を間に挟むように複数の電極を一体化して設けた構成であるので、比較的容易である絶縁材の板厚調整で基板上での各電極の絶縁距離を高精度に設定することが可能となり、各電極の配置位置の設定に精密な製造プロセスが要求されずに済み、製造歩留まりが高い。
【0008】
また、本発明第1によると、上記した通り、絶縁材の板厚を高精度に一定化することが容易であるので、各電極間の絶縁距離を高精度に設定し、上記炭素膜を設けた少なくとも1つの電極をカソード電極とし、その炭素膜を電子エミッタとすると共に、他の電極のいずれかをゲート電極とした場合、電子エミッタからの電子引き出し特性が安定一定化した冷陰極電子源を得ることができ、製造歩留まりが高い。
【0009】
本発明第1では、特に、上記両電極に炭素膜を設けた場合では、両電極を交互にカソード電極、ゲート電極として電圧を印加するようにした場合、それぞれの炭素膜を交互に電子エミッタとして用いることができるようになり、電子放出寿命が長い冷陰極電子源となる。
【0010】
本発明第2による冷陰極電子源は、基板上に複数の電極と複数の絶縁材とを交互に配置一体化し、上記電極に対して並設方向1つ置きの電極または各電極に炭素膜を設けたことを特徴とするものである。
【0011】
本発明第2では、本発明第1と同様に、冷陰極電子源の構成が電極と絶縁材が一体化されているので、絶縁材の板厚調整で電極間の絶縁距離が一定化する。また、各電極に炭素膜を設けておくことにより、各電極を切り替えてカソード電極とすることができ、そのカソード電極上の炭素膜を電子エミッタとして用いることにより、電子放出寿命が長い冷陰極電子源を得ることができる。
【0012】
本発明第1、第2において、好ましい態様の1つは、上記基板がフラットな形状であり、上記基板上に複数の電極と複数の絶縁材とを交互に配置することである。
【0013】
本発明第1、第2において、好ましい態様の1つは、上記基板が線状であり、この基板の周方向交互に複数の電極と複数の絶縁材とを配置一体化することである。
【0014】
本発明第3によるフィールドエミッションランプは、蛍光体付きアノード電極と、このアノード電極に対向配置される冷陰極電子源とを備えたフィールドエミッションランプにおいて、上記冷陰極電子源として本発明の冷陰極電子源を用いたことを特徴とするものである。
【0015】
本発明第3のフィールドエミッションランプでは、電子放出寿命が長い冷陰極電子源を用いるので、ランプ寿命が長いランプである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製造歩留まりないしは電子放出寿命特性に優れた冷陰極電子源を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係る冷陰極電子源およびそれを用いたフィールドエミッションランプを説明する。
【0018】
図1(a)(b)を参照して本発明の実施の形態にかかる冷陰極電子源を備えたフィールドエミッションランプを説明する。図1(a)は冷陰極電子源の断面を示し、図1(b)は図1(a)の円Aで囲む部分を拡大して示す。
【0019】
実施の形態の冷陰極電子源26は、基板14上において、絶縁材28の両側面に電極32a,32bを積層一体化して構成している。
【0020】
実施の形態の冷陰極電子源26において、図1(b)で拡大して示すように、一方の電極32aがゲート電極、他方の電極32bがカソード電極となって、ゲート電極32a表面には炭素膜は形成されていないが、カソード電極32bには電子エミッタとして電子放出作用がある炭素膜30bが形成されている。
【0021】
この炭素膜30bは、カーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、黒鉛、等の電界放射により電子放出することができる多数のnmサイズの鋭端を備えた炭素膜である。この構造では、カソード電極32b上の炭素膜30bからは、電子e−がゲート電極32aで引き出されて図1(b)の矢印で示すように放出される。
【0022】
なお、実施の形態ではカソード電極32bの表面にのみ炭素膜30bを形成することに限定するものではなく、図1(c)で示すように、両電極32a,32bの電極表面に炭素膜30a、30bを形成してもよい。図1(c)の構造では、電極32a,32bをカソード電極、ゲート電極として切り替えて用いる。すなわち、電極30aをカソード電極とし電極30bをゲート電極とする場合では実線矢印で示すように電子e−を放出させ、電極30aをゲート電極とし電極30bをカソード電極とする場合では点線矢印で示すように電子e−を放出させる。この切り替えは、ある周期で交互に切り替えて、使うこともでき、あるいは、片方の電極表面の炭素膜に電子エミッタとしての寿命が来るときに、切り替えを行っても良い。このように、双方の電極表面の炭素膜を電子放出に使用することができ、冷陰極電子源26の寿命を向上させることができる。
【0023】
図2(a)に本発明の他の実施の形態の冷陰極電子源を備えたフィールドエミッションランプの部分断面、図2(b)にその冷陰極電子源の電子放出状態を模式的に示す。これらの図において図5と対応する部分には同一の符号を付している。図2(a)の円Bで囲む部分を拡大して示している。
【0024】
図2(a)を参照して図示略の内部真空10のフラットパネル内に共にフラット形状の蛍光体11付きアノード電極12と、基板14と、が平行に対向配置されている。基板14上には、アノード電極12に対向して、図2(a)の紙面を垂直に貫通する方向に線状に延びる冷陰極電子源26が配置されている。なお、冷陰極電子源26は模式的に図示したものであり、その断面直径等の各部寸法等は特に限定しない。冷陰極電子源26は説明の都合で基板14上に単一配置の形態で示されているが、基板14上に複数配置の形態であってもよいことは勿論である。
【0025】
冷陰極電子源26は、ゲート電極22、絶縁材28、カソード電極16がアノード電極12に対して交互に配置されている。換言すれば、ゲート電極22とカソード電極16は絶縁材28の両側面に一体構造化されている。この一体構造は、図5で示すような従来とは異なって絶縁材28の両側面に電極22,16を設けた構造になっている。絶縁材28の図1上での左右方向幅は図解の都合で示すものであり、フィルム、膜、基板状、等でもよく、その材質は両電極22,16を電気的に絶縁できればよい。
【0026】
カソード電極16に対してはアノード電極12に対向する側の端面16aに電界電子放出機能を有する炭素膜30が成膜されている。この場合、炭素膜30はゲート電極22に成膜されてもよい。また、炭素膜30は図2では上記端面16aに成膜されたが、両電極22,16の側面に成膜されてもよいことは勿論である。
【0027】
以上の構成の冷陰極電子源26を備えたフィールドエミッションランプ32においては、アノード電極12とカソード電極16との間に図示略の高電圧電源から高電圧(アノード・カソード間電圧)が印加され、また、ゲート電極22に図示略の電圧電源から電子引出しに必要なゲート電圧が印加されたとき、図2(b)で示すように、炭素膜30は電子エミッタとして電界放射により電子放出するが、この電子放出に際しゲート電極22で電子引き出しが行われると共にアノード電極12に向けて電子e−が放出され、該電子e−が蛍光体11に加速衝突して当該蛍光体11が励起発光する。
【0028】
上記実施の形態の冷陰極電子源26は、絶縁材28の両側面にゲート、カソード両電極22,16を一体化して設け、少なくともカソード電極16に炭素膜30を設けたので、ゲート、カソード両電極22,16の絶縁距離や互いの相対高さの寸法関係等は絶縁材28で一定化されるので、これらの製造プロセスにはそれらの寸法関係を高精度に維持する精密プロセスをそれほど要求されずに済み、製造歩留まりが向上する。
【0029】
また、カソード電極16に炭素膜30を成膜するだけでなくその両側に位置するゲート電極22にも炭素膜30を設けた場合では、カソード電極16上の炭素膜30に電子エミッタとしての寿命が来るときは、カソード電極16をゲート電極とし、ゲート電極22をカソード電極とし、ゲート電極22上の炭素膜30を電子エミッタとして用いることができ、冷陰極電子源の電子放出寿命が向上する。
【0030】
図3を参照して本発明のさらに他の実施の形態にかかる冷陰極電子源を備えたフィールドエミッションランプを説明する。図3(a)の円Cで囲む部分を拡大して示している。この実施の形態の冷陰極電子源26は、図3(a)で示すように基板14上において、高さがh1の電極34a、高さがh2(>h1)の電極34bが絶縁材28を介して並設一体化されている。各電極34a,34bそれぞれの端面には炭素膜30a,30bが成膜されている。
【0031】
この実施の形態の冷陰極電子源26を備えたフィールドエミッションランプ32においては、図3(b)で示すように、高さh2の電極34bをゲート電極、高さh1の電極34aをカソード電極とすると、ゲート電極がカソード電極より高いので、オーバーゲートタイプの冷陰極電子源26として、また、高さh1の電極34aをゲート電極とする場合、高さh2の電極34bはカソード電極となり、ゲート電極がカソード電極より低いので、アンダーゲートタイプの冷陰極電子源26として、用いることができる。いずれのタイプの冷陰極電子源26にするかをユーザは選択することができるようになる。
【0032】
図4を参照して本発明のさらに他の実施の形態にかかる冷陰極電子源を備えたフィールドエミッションランプを説明する。図4(b)の円Dで囲む部分を拡大して示している。
【0033】
図4(a)で示すフィールドエミッションランプ32はフラットパネルタイプであり、その冷陰極電子源26は平坦なアノード電極12に対して電極36aと、絶縁材28と,電極36bとをこの順序で並設したフラットな構成になっている。例えば電極36aをゲート電極、電極36bをカソード電極とし、カソード電極36b表面にのみ図示略の炭素膜を形成したり、あるいはゲート電極36a、カソード電極36bの両表面共に図示略の炭素膜を形成することができる。
【0034】
図4(b)で示すフィールドエミッションランプ32はランプ管形状であり、その冷陰極電子源26は、この断面円形の蛍光体11付きのアノード電極12に対して断面円形になっていて、紙面を垂直方向線状に延びる断面円形の基板14上に円周方向に電極38aと、絶縁材28と、電極38bとをこの順序で設けると共に電極38aをゲート電極とし、電極38bをカソード電極とし、電極38bのアノード電極12に対向する側の端面に炭素膜30を設けた構成になっている。この場合、両電極38a,38bに共に炭素膜を設けてもよい。また、基板36は断面円形に限定されず断面多角形であってもよい。電極38a,38bと絶縁材28は図4(b)の紙面を垂直に貫通する方向に線状に延びた形状になっている。なお、ゲート電極となる電極38aやカソード電極となる電極38bに対する電圧の印加の説明は略する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1(a)は本発明の実施形態に係る冷陰極電子源を備えたフィールドエミッションランプの部分断面を示す図、図1(b)は図1(a)の冷陰極電子源においてカソード電極表面にのみ炭素膜が形成されている場合の電子放出状態を示す図、図1(c)は図1(a)の冷陰極電子源においてゲート電極とカソード電極両表面に炭素膜が形成されている場合の電子放出状態を示す図である。
【図2】図2(a)は本発明の実施形態に係る冷陰極電子源を備えたフィールドエミッションランプの部分断面を示す図、図2(b)は図2(a)の冷陰極電子源の電子放出状態を示す図である。
【図3】図3(a)は本発明のさらに他の実施形態に係る冷陰極電子源を備えたフィールドエミッションランプの部分断面を示す図、図3(b)は各電極がゲート電極となった場合のオーバーゲートタイプとアンダーゲートタイプとを示す図である。
【図4】図4(a)はアノード電極がフラットな場合の冷陰極電子源の断面、図4(b)はアノード電極が断面円形の場合の冷陰極電子源の断面を示すである。
【図5】従来の冷陰極電子源を備えたフィールドエミッションランプの部分断面を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10 真空
11 蛍光体
12 アノード電極
14 基板
16 カソード電極
22 ゲート電極
28 絶縁材
30 炭素膜
30a,30b 炭素膜
32a,32b 電極
34a,34b 電極
36a,36b 電極
38a,38b 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材を間に挟むように複数の電極を設けて一体化すると共に少なくとも1つの電極に炭素膜を設けた、冷陰極電子源。
【請求項2】
基板上に複数の電極と複数の絶縁材とを交互に配置して一体化し、上記電極に対して並設方向1つ置きの電極または各電極に炭素膜を設けた、冷陰極電子源。
【請求項3】
上記基板がフラットな形状であり、上記基板上に複数の電極と複数の絶縁材とを交互に配置した、請求項2に記載の冷陰極電子源。
【請求項4】
上記基板が線状であり、この基板の周方向に複数の電極と複数の絶縁材とを交互に配置した、請求項2に記載の冷陰極電子源。
【請求項5】
蛍光体付きアノード電極と、このアノード電極に対向配置される冷陰極電子源とを備えたフィールドエミッションランプにおいて、上記冷陰極電子源が請求項1ないし4のいずれかに記載の冷陰極電子源である、フィールドエミッションランプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−146816(P2009−146816A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324905(P2007−324905)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(504224371)ダイヤライトジャパン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】