説明

凍結用ホイップクリーム

【課題】 口溶けが従来より優れ、かつ十分な耐熱保形性を有する凍結用ホイップクリームを製造するための、水中油型乳化油脂組成物を提供すること。
【解決手段】 油相部と水相部からなり、前記油相部中に油脂としてパーム核油分別高融点部を含有する水中油型乳化油脂組成物を用いることにより、十分な耐熱保形性を有し、かつ口溶けが良好な凍結用ホイップクリームを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱保形性に優れ、かつ清涼感ある口溶けを併せ持つ凍結用ホイップクリーム及びそれを製造するための水中油型乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホイップドクリーム類は物性面、衛生面の両面の観点から冷凍保存が提案されている。しかしながら凍結、続く解凍といった温度変化は保形性での問題(ダレ、荒れ)を生じさせる。
近年、この欠点を補うべく種々の乳化剤による改善策が提案されている。その多くは乳化安定性の高いエマルションを形成させる事でかかる問題を改善しようとするものである。この他にも乳化安定剤としてアルカリ金属塩類の使用、ガム類またはゲル化剤も提案されているが、かかる塩類の使用は風味的に望ましくなく、またガム類やゲル化剤の使用は口溶けを低下させるという欠点が知られている。上記の改良手法は保形性、造花性、冷凍耐性等の物性面での改良は期待できるが、クリームに望まれる口溶けまでは十分に満足できていない。
一方、保形性を保つ為、油脂としては融点の高い硬化油が主体として用いられることが多い(例えば、特許文献1参照)。しかし、このような油脂の使用は口溶けを低下させる原因となっている。また、融点の低い油脂では口溶けは良好であるが、凍結、解凍後にダレ傾向となり耐熱保形性に問題がある(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭61-100167号公報
【特許文献2】特開平8-154612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、口溶けが従来より優れ、かつ十分な耐熱保形性を有する凍結用ホイップクリームを製造するための、水中油型乳化油脂組成物及び前記組成物から製造される凍結用ホイップクリーム並びに前記組成物の凍結用ホイップクリームの製造における使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の点に鑑み鋭意研究した結果、起泡性の水中油型乳化油脂組成物の製造において、融解性状のシャープな油脂を用いることによって上記目的を達成することができるという知見を得、本発明に至った。
すなわち、本発明は、油相部と水相部からなり、前記油相部中に油脂としてパーム核油分別高融点部を含有する、水中油型乳化油脂組成物、を提供する。
また、本発明はさらに、上記水中油型乳化油脂組成物から製造される、起泡済み凍結用ホイップクリーム、を提供する。
本発明はさらに、上記水中油型乳化油脂組成物の、起泡済み凍結用ホイップクリームの製造における使用、を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、凍結、解凍をしても十分な耐熱保形性を持ち、口溶けが良好である凍結用ホイップクリームを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<水中油型乳化油脂組成物>
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、油相部と水相部からなり、前記油相部中に、油脂としてパーム核油分別高融点部を含有することが特徴である。本発明の水中油型乳化油脂組成物は、凍結用ホイップクリームを製造するために特に望ましいものである。すなわち分別パーム核高融点部を油脂として含有する水中油型乳化油脂組成物から製造されたホイップクリームは凍結、解凍しても、十分な耐熱保形性を示し、さらに口溶けも良好である。
【0008】
本発明において、“パーム核油分別高融点部”とは、パーム核油を自然分別等の分別方法により高融点部と低融点部に2分割して得られた高融点部を意味する(分別収率は30〜50%)。前記高融点部の融点範囲は、28〜35℃であることが好ましく、29〜34℃であることがより好ましく、30〜33℃であることがさらに好ましい。
本発明において、パーム核油分別高融点部を含む油脂の固体脂含有指数(SFI)は25℃で30以上、35℃で10以下であり、より好ましくは、25℃で35以上、35℃で5以下であり、最も好ましくは25℃で40以上、35℃で0である。かかる範囲の固体脂含有指数(SFI)の油脂を用いることにより、特に耐熱保形性に優れるホイップクリームを製造することができる水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。
【0009】
本発明において、パーム核油分別高融点部は油脂の全質量に対し、30質量%以上であることが好ましく、さらに50〜70質量%であることが好ましい。かかる量のパーム核油分別高融点部を用いることにより、上記SFIを有し、かつ口溶けが良好なホイップクリームを製造することができるからである。
本発明において、パーム核油分別高融点部に混合しえるその他の油脂としては、例えばナタネ油、コーン油、大豆油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、綿実油、米油、オリーブ油等の植物油脂、乳脂、豚脂、牛脂等の動物脂肪、またそれらを水素添加、エステル交換、分別等で得られる油脂が挙げられる。これらの中で特にヤシ油、パーム核油等の油脂をさらに添加することが好ましい。これらの油脂を添加することにより、口溶けをさらに改良することができるからである。
【0010】
なお、本発明における固体脂含有指数(Solid Fat Index, SFI)は、基準油脂分析試験法に準じたものであり、詳細は、“基準油脂分析試験法、2003年度版、日本油化学会、2.4.19.2-81固体脂指数(その2)”に記載される方法で測定したものである。
本発明の水中油型乳化油脂組成物には、乳化油脂組成物に通常使用される乳化剤を添加してもよい。乳化剤の例としては、例えば、レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、有機酸モノ脂肪酸エステル等が挙げられる。乳化剤を添加する場合には、組成物の全重量に対し0.3〜1.5(質量%)加えることが好ましい。
レシチンは攪拌、エアレーションにて適度に乳化を破壊する作用があるため好ましく、また蔗糖脂肪酸エステルは乳化を安定させる作用があるため好ましい。また、ソルビタン脂肪酸エステルは気泡を安定に取り込む作用を有し、有機酸モノ脂肪酸エステルは冷凍耐性を向上させるため好ましい。
【0011】
さらにその他水相部に、増粘多糖類として、カラギナン、ローカストビーンガム、グアーガム、及びタマリンド等、セルロース、(乳蛋白)カゼイン、乳性蛋白等、砂糖、糖類等を添加してもよい。
また、さらに、κ-カラギナンやメタリン酸Naを添加してもよい。κ-カラギナンは安定剤、増粘効果によるホイップ後の保形性改良、離水防止等の効果があるため好ましい。また、メタリン酸Naは乳化安定作用があり好ましい。
【0012】
本発明の水中油型乳化油脂組成物の油相部と水相部の割合は、乳化油脂組成物の全重量に対して、油相部を20〜50質量%であることが好ましい。
【0013】
<ホイップクリーム>
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、特に凍結用ホイップクリームに好適に使用することができる。本明細書において、凍結用ホイップクリームとは、起泡させた状態で凍結保存され、その後解凍されて使用されるものである。凍結、続く解凍といった温度変化は、保形性(ダレ、荒れ)での問題を生じさせるが、この問題を解決するための従来技術では、特にクリームに望まれる口溶けも十分なものが得られなかった。
【0014】
本発明において、ホイップクリームは、本発明の水中油型乳化油脂組成物を、当業技術分野において通常の方法により起泡されたものである。
以下、本発明の水中油型乳化油脂組成物を使用した凍結用ホイップクリームの製造例を示すが、本発明はかかる例に限定されるものではない。
まず、パーム核油分別高融点部を含む油脂を融解混合等により調整する。油脂としてはパーム核油分別高融点部を含有していればよいが、上述したようにさらに他の油脂を添加してもよい。この油脂に、レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤等の任意の添加剤を加え、混合して油相を調整する。
一方、水相部として、水に、メタリン酸Na、増粘多糖類、乳蛋白等の任意の添加剤を加えた後、これらを分散させて水相を調整する。
50〜85℃にて油相と水相を混合させ、殺菌を兼ね予備乳化を行う。次いで120〜150kg/cm2の圧力下で均質化を行う。その後5〜10℃にまで冷却し、6〜24時間程度エージングを行なう。
このクリーム状油脂組成物を氷浴で冷却しながらホバートミキサーにてホイップして起泡済みホイップクリームを得る。
起泡済みホイップクリームを−20℃以下に冷却して、冷凍ホイップクリームを製造する。
【実施例】
【0015】
実施例1
パーム核油分別高融点部18.283部にヤシ油12.189部(油脂合計30.472部)を加え、融解混合した。(SFI25℃41.9、SFI30℃で6.9)これに大豆レシチン0.188部、シュガーエステル0.076部、ソルビタン脂肪酸エステル0.076部、乳酸モノグリセライド0.188部を加え油相を調整した。一方、水39.875部と脱脂粉乳3部、液糖15部、上白糖10部、カゼインNa1部、メタリン酸Na0.1部、増粘多糖類(k-カラギナン)0.025部を加えた後、分散させて水相を調整した。85℃において、20分間かけて、油相と水相を混合し、殺菌を兼ねて予備乳化を行った。次いで150kg/cm2、20kg/cm2の圧力下で均質化した。その後10℃にまで冷却した。このクリーム状油脂組成物の直後粘度は155cp(B型粘度計(BROOKFIELD社製)にて測定)であった。さらに冷却して5℃で、1晩エージングを行なった。
このクリーム1kgを氷浴(5℃)で冷却しながらホバートミキサーにてホイップしたところ7分03秒でオーバーラン165%、硬度119の起泡物を得た。この起泡物を三角袋に詰め-30℃で3日凍結した後、5℃にて解凍した。
解凍した後、1日後及び4日後にそれぞれ絞り、オーバーラン、硬度、腰、伸び、艶、荒れを評価した(表3)。
【0016】
さらに、解凍1日後に、官能試験及び耐熱保形性試験を行った。
官能試験は、研究員5名にて口溶けの良い順番(1点〜4点)に点数をつけて、点数を合計した(表4)。
また、耐熱保形性試験は、シャーレに絞り、各温度帯(25℃、30℃)に保管して、最初に絞った状態からの幅の広がり(ダレ)を測定した(表5)。なお、絞った直後は、直径が30〜40mm、重量が5〜7gの範囲にある。
30℃で2日間保存しても型崩れしない保形性を有し、口溶けが良好であった。
【0017】
実施例2
実施例1の油脂部をパーム核油分別高融点部(SFI25℃65.3〜、SFI35℃ 0)のみ使用とした以外、実施例1と同工程でホイップクリームを製造し、同様に評価した。
クリームは30℃での保形性に優れ、口溶けも良好であった。
【0018】
比較例1
実施例1の油脂部をパーム核硬化油(融点36℃)(SFI25℃ 42.4、SFI35℃ 5.0)にした以外、実施例1と同工程でホイップクリームを製造し、同様に評価した。
クリームは30℃での耐熱保形性に優れるが、口溶けが劣るものであった。
【0019】
比較例2
実施例1の油脂部をパーム核油(SFI25℃ 17.5、SFI35℃ 0.0)にした以外、実施例1と同工程でホイップクリームを製造し、同様に評価した。
クリームは口溶けは最も優れているが、30℃での耐熱保形性に欠け、ダレてしまった。
【0020】
以下に、実施例1〜2及び比較例1〜2の配合と、評価結果を示す。また、表1に示す油脂の各温度におけるSFI値を図1に示す。
表1:油脂の配合割合

【0021】
表2:油脂組成物製造直後及びエージング後の性状及びホイップ試験結果

*1:油脂組成物を一晩エージングした後クリームが分離していないか目視で確認。
*2:油脂組成物を一晩エージングした後クリームがボテていないか目視で確認。(なお、ボテとは、クリームが増粘し、固まってしまう現象をいう。乳化が不安定であるとエージング時に固まってしまう現象が見られる。)
*3:油脂組成物を一晩エージングした後の粘度。B型粘度計にて測定。
*4:油脂組成物のエージング粘度を測定したときのクリームの温度。
*5:5.0℃からホバートミキサーにてホイップし、⇒目的の硬度に達成した時の温度。
*6:目的の硬度になるまでのホバートミキサー使用時間。
*7:ホイップ後の体積増加率(%)。(本明細書において体積増加率は、“水の重量(g) / ホイップ後のクリームの重量(g) 1”の式により計算される)
*8:ミクロペネメーターにて測定した値。この値で終点を定めている。
【0022】
表3:解凍後評価結果

*1:ホイップ後の体積増加率(%)。
*2:ミクロペネメーターにて測定した値。この値で終点を定めている。
*3:絞った時の感触。A:良好、B:普通、C:悪い
*4:絞った時のクリームの伸び。造花した先端で判断する。伸びが良いほど良好と判断。A:良好、B:普通、C:悪い
*5:絞った時、クリームの表面のつや(光り方)で判断。テカテカせず、半光沢が良好。A:良好、B:普通、C:悪い
*6:絞った時の、クリーム表面の荒れ具合を判断。荒れていないほうが良好。A:良好、B:普通、C:悪い
*7:解凍後(1日目)の評価と比較して経時変化が小さいものほど良好である。
*8:解凍後(1日目)の評価と比較して経時変化が小さいものほど良好である。
【0023】
表4:口溶け評価

研究員5名にて評価した。口溶けの良い順番に点数をつけた結果
1位⇒4点、 2位⇒3点、 3位⇒2点、 4位⇒1点
A:非常に優れている、B:優れている、C:良好、D:やや劣る
【0024】
表5:耐熱保形性試験

【0025】
上記結果から明らかなように、実施例1及び2のパーム核油分別高融点部を用いて製造された本発明のホイップクリームは、従来の油脂と比較して、耐熱保形性が優れかつ口溶けが非常に良好であった。一方、従来の油脂(パーム核油、パーム核硬化油脂(融点36℃))を用いた場合には、耐熱保形性において優れる反面、口溶けが悪い(比較例1)か、若しくは口溶けは良好であるが、耐熱保形性が大きく劣る(比較例2)など、いずれも満足し得ない結果であった。特に比較例1のホイップクリームの官能評価は大きく劣る結果であり、望ましくない。また、比較例2は30℃で完全にダレてしまうため実用的ではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例及び比較例で用いた油脂の各温度におけるSFI値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相部と水相部からなり、前記油相部中に油脂としてパーム核油分別高融点部を含有する、水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
該油脂の固体脂含有指数(SFI)が25℃で30以上、35℃で10以下である、請求項1記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
該油脂の固体脂含有指数(SFI)が25℃で35以上、35℃で5以下である、請求項2記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項4】
該油脂の固体脂含有指数(SFI)が25℃で40以上、35℃で0である、請求項3記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の水中油型乳化油脂組成物から製造される、起泡済み凍結用ホイップクリーム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の水中油型乳化油脂組成物の、起泡済み凍結用ホイップクリームの製造における使用。

【図1】
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【公開番号】特開2006−304713(P2006−304713A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132785(P2005−132785)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(591040144)太陽油脂株式会社 (17)
【Fターム(参考)】