説明

凸版およびそれを用いた電子デバイスの製造方法並びにそれによる電子デバイス並びに有機EL素子

【課題】基材上に樹脂よりなる凸部の層が形成された凸版印刷用凸版において、静電破壊の起こりにくい凸版印刷用の凸版、またそれを用いた静電破壊の起こりにくい凸版印刷方式による電子デバイスの製造方法並びにその方法による電子デバイス並びに有機EL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】凸部201のインクとの接触面が帯電防止物質を含み、帯電防止物質を含む部位の凸部樹脂層の抵抗率が103Ω・mから1015Ω・mの範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸版印刷用の凸版およびそれを用いた電子デバイスの製造方法並びにそれによる電子デバイス並びに有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高精細加工技術を用いた電子デバイス開発が急速な進化を遂げている。このような電子デバイスは次世代のエレクトロニクス分野、バイオテクノロジー分野、オプトロニクス分野などの発展へ貢献することが期待される。
【0003】
有機電子デバイスの一つである有機EL素子は、二つの対向する電極の間に有機発光材料からなる有機発光層を形成し、有機発光層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率良く発光させるには発光層の膜厚が重要であり、100nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、これをディスプレイ化するには高精細にパターニングする必要がある。
【0004】
有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出にくいという問題がある。
【0005】
そこで、最近では有機発光材料に高分子材料を用い、有機発光材料を溶剤に溶かして塗工液にし、これをウェットコーティング法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたりRGB3色に塗り分けしたりするためには、これらのウェットコーティング法では難しく、塗り分けパターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる。
【0006】
さらに各種印刷法の中でも、有機EL素子やディスプレイでは、基板としてガラス基板を用いることが多いため、グラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きであり、弾性を有するゴム版を用いたオフセット印刷法や、ゴムやその他の樹脂を主成分とした感光性樹脂版を用いる凸版印刷法が適正である。実際にこれらの印刷法の試みとして、オフセット印刷による方法(特許文献1)、凸版印刷による方法(特許文献2)などが提唱されている。このようにして凸版印刷法で高精細パターンを形成して、電子デバイスや電子回路を製造されるようになってきた。
【特許文献1】特開2001−93668号公報
【特許文献2】特開2001−155858号公報
【特許文献3】特開2004−70231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に電子デバイスやそれを用いた回路パターンは、大きいものは数mm、小さなものになると数ナノメートルの高精細さに至る。
【0008】
例えば、有機ELディスプレイの場合、近年、携帯電話のメインディスプレイ用途として主流となりつつある対角2インチ、320画素×240画素(QVGA)では、一つの画素サイズは120μm、一色あたりの表示部幅は20〜40μm程度の微細さが要求さ
れる。
【0009】
透明電極を有する薄膜トランジスタ(TFT)を用いた電子回路を有する基板(TFT基板)上に、有機ELディスプレイを構成する、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極層などの各層形成した場合、アクティブマトリックス型と呼ばれる高画質な有機ELディスプレイとなる。なお、ここで用いられるTFT回路も数μm程度の回路パターンから形成される。
【0010】
一般的にTFT回路は、静電気による悪影響を受け易く、TFT基板を用いた電子デバイスを生産する場合、各生産装置は接地(アース)され、除電器(イオナイザー)等による除電を実施し、オペレーターは静電気防止衣服を着用し、静電気防止床材上で作業することにより、TFT基板が静電破壊を起こすことを防いでいる。
【0011】
一方、一般的な印刷に用いられている印刷用凸版は、基材層が金属で形成されている場合はあるものの、被印刷物との接触面は樹脂製のものが通常である。
【0012】
一般的に樹脂は帯電し易いものが多く、また、印刷に用いる場合、被印刷基板と樹脂性の凸部とが接触し摩擦帯電が生じる。
【0013】
これにより、従来の樹脂製の凸版を用い、凸版印刷法によりアクティブマトリックス型の有機ELディスプレイを作製しようとした場合、被印刷体となるTFT基板が、摩擦帯電により生じた静電気により、静電破壊を起こすことで画素欠陥を生じ、歩留まりの大幅な低減を引き起こしていた。
【0014】
本発明ではこのような問題点に対し、静電破壊の起こりにくい凸版印刷用の凸版、またそれを用いた静電破壊の起こりにくい凸版印刷方式による電子デバイスの製造方法並びにその方法による電子デバイス並びに有機EL素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで本発明者は、アクティブマトリックス型有機ELディスプレイといった、静電破壊の恐れのあるTFT基板などを凸版印刷法により生産する場合であっても、凸版表面の帯電を防止することで、TFT基板の静電破壊を防ぐ方法を見出した。
【0016】
本発明の請求項1の発明は、基材上に樹脂よりなる凸部の層が形成された凸版印刷用凸版において、凸部のインクとの接触面が帯電防止物質を含むことを特徴とする凸版としたものである。
【0017】
本発明の請求項2の発明は、帯電防止物質を含む部位の凸部樹脂層の抵抗率が103Ω・mから1015Ω・mの範囲であることを特徴とする請求項1記載の凸版としたものである。
【0018】
本発明の請求項3の発明は、帯電防止物質が高分子系帯電防止剤からなることを特徴とする請求項1または2記載の凸版としたものである。
【0019】
本発明の請求項4の発明は、樹脂層が少なくとも水溶性ポリマーを含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の凸版としたものである。
【0020】
本発明の請求項5の発明は、ショアーD硬度が20度から85度の範囲であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の凸版としたものである。
【0021】
本発明の請求項6の発明は、凸版印刷法によりインキを転写して薄膜層を形成する工程を含む電子デバイスの製造方法において、 請求項1〜5いずれか1項に記載の凸版を用いて凸版印刷方式によりインキを転写して形成する工程を有することを特徴とする電子デバイスの製造方法としたものである。
【0022】
本発明の請求項7の発明は、請求項6に記載の電子デバイスの製造方法で製造されたことを特徴とする電子デバイスとしたものである。
【0023】
本発明の請求項8の発明は、請求項6に記載の電子デバイスが有機EL素子であることを特徴とする有機EL素子の製造方法としたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、アクティブマトリックス型の有機ELディスプレイや有機TFT基板の形成に最も好適に適用することができるが、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、リアプロジェクションディスプレイ(RPJ)、表面電界ディスプレイ(SED)、電界放出ディスプレイ(FED)などといった微細な電子回路を作製する際に要される電子デバイスや回路パターンの形成に適用することもできる。
【0025】
本発明では、電子デバイスや回路を形成するための凸版を、少なくとも帯電防止物質を一種類以上含む樹脂層によりインクとの接触面を形成することで、それを用いた凸版印刷方式で電子デバイスや回路を作成する場合、静電破壊による電子デバイスやTFT回路などの損傷を防ぐことができ、生産歩留まりを向上させることを可能にした。
【0026】
特に、帯電防止物質を一種類以上含有した樹脂層の抵抗率を103Ω・mから1015Ω・mの範囲とすることで、良好な除電効果を見出すことができた。
【0027】
また、本発明における帯電防止物質として高分子系帯電防止剤を用いることにより、目的とする素子への版材からの導電性物質の混入を避け、短絡(ショート)による画素欠陥の発生を防ぐことができた。
【0028】
また、本発明における凸版の樹脂層に少なくとも水溶性ポリマーを含むことにより、大気中の水分と常に平衡状態を保つことを可能にし、安定した除電効果を維持することを可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明はこれに限るものではない。
【0030】
図1は本発明の印刷用凸版の一例を断面で示した説明図である。図1(a)、図1(b)ともに基材200上に凸部パターン201が形成されている。図1(a)では凸部パターンが隣接する凸部パターンに対して連続して基材上に形成されている。図1(b)では凸部パターンが隣接する凸部パターンに対して独立して基材上に形成されている。本発明では、図1(a)、(b)どちらの印刷用凸版を用いても構わない。
【0031】
本発明の印刷用凸版に用いられる版材において、凸部パターンが形成される基材としては、印刷に対する機械的強度を有すれば良く、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの公知の合成樹脂、鉄や銅、アルミニウムといった公知の金属、またはそれらの積層体を用いることができる。
【0032】
なお、本発明に使用する印刷用凸版を構成する基材200としては、良好な電気伝導度を有することが望ましく、また、インキに含まれる溶媒への耐性が高いものが望ましい。したがって、基材として用いられる材料としては金属が好適に使用される。基材200として用いられる金属としては鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、チタン、クロム、金、銀やそれらの合金、積層体などが挙げられるが、特に、加工性、経済性からスチール基材やアルミ基材を好適に用いることができる。
【0033】
図2は、本発明における凸版の凸部分の例を断面で示した説明図である。凸部の層には少なくとも一種類以上の帯電防止物質が含まれている。なお、凸部が独立に存在する場合を示したが、これに限るものではない。
【0034】
本発明における少なくとも一種類以上の帯電防止物質が含まれる層は、被印刷基板となるTFT基板との接触面、即ち、インクとの接触面に形成されていれば良く、図2(a)のように凸部全体に電気伝導性物質が含まれる場合、図2(b)のように凸部表面のみに電気伝導性物質が含まれる層が形成されている場合などが考えられる。
【0035】
図2(a)のような場合、帯電防止物質を含む樹脂材料を基材200上に塗布し、その後パターニングする方法が挙げられる。この場合の塗布方法としては、湿式成膜法が望ましく、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、スプレーコート法、吐出コート法、プレコート法、ロールコート法、バーコート法、射出コート等の塗布法の他に、凸版印刷法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法等により全面塗工を行う方法のいずれを用いても良い。
【0036】
樹脂層を形成した後、レーザーによる直接描画を行うレーザーアブレーション法や、金属刃やダイアモンド刃によって切削することにより凸部パターンを形成する方法を用いることができるが、パターンの精細さの観点からは、樹脂層に感光性樹脂を混合し、露光、現像工程を有するフォトリソグラフィー法による凸部パターンの形成を行うことが望ましい。
【0037】
図2(b)のような場合、まず、目的とする凸部パターンを形成したのち、形成された凸部表面に少なくとも一種類以上の電気伝導性物質が含まれる層を形成する。
【0038】
凸部Yの形成方法は、第一に、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、スプレーコート法、吐出コート法、プレコート法、ロールコート法、バーコート法、射出コート等の塗布法の他に、凸版印刷法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法等により全面塗工を行う方法により凸部Yの前駆体となる層を形成し、その後、レーザーアブレーション法による直接描画、金属刃やダイアモンド刃による切削などを行う。なお、樹脂層に感光性樹脂を混合した場合、フォトリソグラフィー法により凸部を形成することができる。
【0039】
次に、帯電防止物質を含む層Xの形成を行う。Xの形成には、湿式成膜法が望ましく、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、スプレーコート法、吐出コート法、プレコート法、ロールコート法、バーコート法、射出コート等の塗布法を用いることができるが、厚みムラや均一性といった観点からは、スプレーコート法による形成が最も望ましい。
【0040】
また、帯電防止物質を含む層Xには、帯電防止物質以外に任意に帯電防止物質の保持剤や添加剤を混合することができる。なお、Yの材質については任意に選択することができる。
【0041】
本発明における凸版の形体は、図2(a)、図2(b)のどちらを選択することもできるが、工程数、及び、取扱いの簡便さからは、図2(a)のような形体を用いることがもっとも望ましい。
【0042】
形成された、少なくとも一種類以上の帯電防止物質が含まれる凸部パターンXは、その抵抗率が103Ωから1015Ωの範囲であることが望ましい。抵抗値が1015Ωよりも大きい場合、効果的な除電効果が望めない。
【0043】
一方、103Ωを下回るものは、カーボンフィラーやITOフィラー、金属微粒子などの高伝導性の物質を用いることで形成することは可能であるが、そのような物質群を用い凸版を形成した場合、脆く欠け易くなり、印刷のプロセス中に目的とする素子中への異物混入を引き起こし、短絡(ショート)の原因となった。
【0044】
また、非高分子系の界面活性剤を帯電防止物質として用いることもできるが、イオン性成分の混入が発光特性の低下につながる有機ELディスプレイの場合、帯電防止物質として用いる非高分子系の界面活性剤の素子中への混入が懸念されるため、高分子系の帯電防止物質を用いることが最も望ましい。
【0045】
非高分子系の界面活性剤としては次のようなものが挙げられる。非イオン性界面活性剤として、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミンの脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルタビン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルタビン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルなどやそれらの誘導体が挙げられる。アニオン系界面活性剤として、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルサルフェート、アルキルフォスフェートなどやそれらの誘導体が挙げられる。カチオン系界面活性剤として、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩やそれらの誘導体が挙げられる。両性イオン系界面活性剤として、アルキルベタイン、イミダゾリン型両性イオン系界面活性剤やそれらの誘導体が挙げられる。
【0046】
高分子系帯電防止剤としては次のようなものが挙げられる。ポリエーテル系として、ポリエチレンオキシド、ポリエーテルアミドイミド、エチレンオキシド−エピハロヒドリン共重合体、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体やそれらの誘導体が挙げられる。四級アンモニウム塩として、四級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート共重合体、四級アンモニウム塩基含有マレイミド共重合体、四級アンモニウム塩基含有メタクリルイミド共重合体やそれらの誘導体が挙げられる。スルホン酸系として、ポリスチレンスルホン酸ソーダやそれらの誘導体が挙げられる。ベタイン系として、カルボベタイングラフト共重合体やそれらの誘導体が挙げられる。その他の高分子帯電防止剤として、高分子電荷移動型結合体などが挙げられる。また、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどのπ共役系導電性ポリマーを用いることもできる。
【0047】
凸版を形成する樹脂の一成分となるポリマーは、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴムなどのゴムの他に、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂やそれらの共重合体、セルロースなどの天然高分子などから一種類以上を選択することができるが、有機発光材料などといった塗工液を塗布する場合、有機溶剤に対する耐溶剤性の観点から、フッ素系エラストマーやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ六フッ化ビニリデンやそれらの共重合体といったフッ素系樹脂が望ましい。
【0048】
また、少なくとも、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリウレタン、酢酸セルロースコハク酸エステル、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、カチオン型ピペラジン含有ポリアミドやこれらの誘導体といった水溶性溶剤に可溶なものを一種類以上含有することにより水を用いた現像が可能となるため、これらの内から一つ以上を選択し用いることが最も望ましい。
【0049】
凸版の凸部を形成する樹脂の硬度は、ショアーD硬度が20度から85度の範囲にあることが望ましい。さらに望ましくは45度から65度の範囲である。ショアー硬度が25度未満では、印刷時の凸部の変形により、一般的な樹脂凸版を使用した印刷で良く知られているマージナルゾーンの発生が生じ、回路パターンといった精細さを求められる印刷を行うことができない問題がある。また、85度を超える場合、凸部表面と後述のアニロックスロールとの接触が充分になされず、凸部表面でのインキ不足が生じる。これにより、最終的に被印刷基板へ目的とするインキ量を供給することができなくなる問題がある。
【0050】
次に、本例によりパターン形成された樹脂製の凸版を用いた回路パターンの製造方法の一例として、有機EL素子の作製方法について説明する。なお、本発明はこれに限るものではない。
【0051】
本発明の印刷用凸版を用い、凸版印刷法により有機ELディスプレイを作製した場合、TFT回路の静電破壊といった不良を防ぎ、高い歩留まりで生産することが可能となる。以下にその製造方法について示す。
【0052】
図3に本発明の印刷物の製造に用いられる凸版印刷装置の概略図を示した。ステージ107には被印刷基板106が固定されており、本発明によってパターン形成された印刷用凸版104は版胴105に固定され、印刷用凸版104はインキ供給体であるアニロックスロール103と接しており、アニロックスロール103はインキ補充装置101とドクター102を備えている。なお、版表面を接地することで除電効果を付与することもできる。
【0053】
まず、インキ補充装置101からアニロックスロール103へインキを補充し、アニロックスロール103に供給されたインキ108のうち余分なインキは、ドクター102により除去される。インキ補充装置101には、滴下型のインキ補充装置、ファウンテンロール、スリットコータ、ダイコータ、キャップコータなどのコータやそれらを組み合わせたものなどを用いることもできる。ドクター102にはドクターブレードの他にドクターロールといった公知の物を用いることもできる。また、アニロックスロール103は、クロム製やセラミックス製のものを用いることができる。また、印刷用凸版へのインキ供給体としてシリンダー状のアニロックスロールではなく、平版のアニロックス版を用いることも可能である。平版のアニロックス版は、例えば、図3の被印刷基板106の位置に配置され、インキ補充装置によりアニロックス版全面にインキを補充した後、版胴を回転させることにより被印刷基板へのインキの供給をおこなうことができる。
【0054】
印刷用凸版へのインキ供給体であるアニロックスロール103表面にドクターによって均一に保持されたインキは、版胴105に取り付けられた印刷用凸版104の凸部パターンに転移、供給される。そして、版胴105の回転に合わせて印刷用凸版104の凸部パターンと基板は接しながら相対的に移動し、インキ108はステージ107上にある被印刷基板106の所定位置に転移し被印刷基板にインキパターン108aを形成する。被印
刷基板にインキパターンが設けられた後は、必要に応じてオーブンなどによる乾燥工程を設けることができる。
【0055】
なお、印刷用凸版上にあるインキを被印刷基板に印刷するときにおいては、版胴105の回転にあわせ被印刷基板106が固定されたステージ17を移動させる方式であってもよいし、図3上部の版胴105、印刷用凸版104、アニロックスロール103、インキ補充装置101からなる印刷ユニットを版胴の回転に合わせ移動させる方式であってもよい。また、本発明の印刷用凸版は版胴15上に樹脂層を形成し、直接製版し、凸部パターンを形成してもよい。
【0056】
なお、図3は1枚毎に被印刷基板にインキパターンを形成する枚葉式の凸版印刷装置であるが、本発明の印刷物の製造方法にあって被印刷基板がウェブ状で巻き取り可能である場合には、ロール・ツゥー・ロール方式の凸版印刷装置を用いることもできる。ロール・ツゥー・ロール方式の凸版印刷装置を用いた場合には連続してインキパターンを形成することが可能となり、製造コストを低くすることが可能となる。
【0057】
次に、本発明によってパターン形成した印刷用凸版を用いた印刷物の製造方法の一例として、有機EL素子の製造方法について説明する。なお、本発明はこれに限るものではない。図4は本発明の有機EL素子の例を断面でみた説明図である。有機EL素子の駆動方法としては、パッシブマトリックス方式とアクティブマトリックス方式があるが、本発明の有機EL素子はパッシブマトリックス方式の有機EL素子、アクティブマトリックス方式の有機EL素子のどちらにも適用可能である。
【0058】
パッシブマトリックス方式とはストライプ状の電極を直交させるように対向させ、その交点を発光させる方式であるのに対し、アクティブマトリックス方式は画素毎にトランジスタを形成した、いわゆる薄膜トランジスタ(TFT)基板を用いることにより、画素毎に独立して発光する方式である。
【0059】
図4に示すように、本発明の有機EL素子は、基板1の上に、陽極としてストライプ状に第一電極2を有している。隔壁7は第一電極2間に設けられ、第一電極2端部のバリ等よるショートを防ぐことを目的として第一電極2端部を覆うことがましい。
【0060】
そして、本発明の有機EL素子は、第一電極2上であって、隔壁7で区画された領域(発光領域L、画素部)に有機発光層及び発光補助層からなる有機EL層を有している。電極間に挟まれる有機EL層は、有機発光層単独から構成されたものであってもよいし、有機発光層と発光補助層との積層構造から構成されたものでもよい。発光補助層としては正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層が挙げられる。図4では発光補助層である正孔輸送層3と有機発光層(41、42、43)との積層構造からなる構成を示している。第一電極2上に正孔輸送層3が設けられ、正孔輸送層3上に赤色(R)有機発光層41、緑色(G)有機発光層42、青色(B)有機発光層43がそれぞれ設けられている。
【0061】
次に、有機発光層上に陽極である第一電極2と対向するように陰極として第二電極5が配置される。パッシブマトリックス方式の場合、ストライプ状を有する第一電極と直交する形で第二電極はストライプ状に設けられる。アクティブマトリックス方式の場合、第二電極は、有機EL素子全面に形成される。更に、環境中の水分、酸素の第一電極、有機発光層、発光補助層、第二電極への侵入を防ぐために有効画素全面に対してガラスキャップ8等による封止体が設けられ、接着剤9を介して基板1と貼りあわされる。
【0062】
本発明の有機EL素子は、少なくとも基板と、当該基板に支持されたパターン状の第一
電極と、有機発光層と、第二電極を具備する。本発明の有機EL素子は、図4とは逆に、第一電極を陰極、第二電極を陽極とする構造であっても良い。また、ガラスキャップ等の封止体の代わりに有機発光媒体層や電極を外部の酸素や水分の浸入から保護するためにパッシベーション層や外部応力から保護する保護層、あるいはその両方の機能備えた封止基材を備えてもよい。
【0063】
次に、有機EL素子の製造方法を説明する。
【0064】
本発明にかかる基板としては、絶縁性を有する基板であればいかなる基板も使用することができる。この基板側から光を取り出すボトムエミッション方式の有機EL素子とする場合には、基板として透明なものを使用する必要がある。
【0065】
例えば、基板としてはガラス基板や石英基板が使用できる。また、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシートであっても良い。これら、プラスチックフィルムやシートに、有機発光媒体層への水分の侵入を防ぐことを目的として、金属酸化物薄膜、金属弗化物薄膜、金属窒化物薄膜、金属酸窒化膜薄膜、あるいは高分子樹脂膜を積層したものを基板として利用してもよい。
【0066】
また、これらの基板は、あらかじめ加熱処理を行うことにより、基板内部や表面に吸着した水分を極力低減することがより好ましい。また、基板上に積層される材料に応じて、密着性を向上させるために、超音波洗浄処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理などの表面処理を施してから使用することが好ましい。
【0067】
また、これらに薄膜トランジスタ(TFT)を形成して、アクティブマトリックス方式の有機EL素子用の基板とすることが可能である。本発明のアクティブマトリックス方式の基板の一例の説明断面図を図5に示す。本発明の有機EL素子基板とする場合には、TFT120上に、平坦化層117が形成してあるとともに、平坦化層117上に有機EL素子の下部電極(第一電極2)が設けられており、かつ、TFTと下部電極とが平坦化層117に設けたコンタクトホール118を介して電気接続してあることが好ましい。このように構成することにより、TFTと、有機EL素子との間で、優れた電気絶縁性を得ることができる。
【0068】
TFT120や、その上方に構成される有機EL素子は支持体111で支持される。支持体としては機械的強度や、寸法安定性に優れていることが好ましく、具体的には先に基板として述べた材料を用いることができる。
【0069】
支持体上に設けるTFT120は、公知の薄膜トランジスタを用いることができる。具体的には、主として、ソース/ドレイン領域及びチャネル領域が形成される活性層、ゲート絶縁膜及びゲート電極から構成される薄膜トランジスタが挙げられる。薄膜トランジスタの構造としては、特に限定されるものではなく、例えば、スタガ型、逆スタガ型、トップゲート型、コプレーナ型等が挙げられる。
【0070】
活性層112は、特に限定されるものではなく、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、セレン化カドミウム等の無機半導体材料又はチオフェンオリゴマー、ポリ(p−フェリレンビニレン)等の有機半導体材料により形成することができる。これらの活性層は、例えば、アモルファスシリコンをプラズマCVD法により積層し、イオンドーピングする方法、SiH4ガスを用いてLPCVD法によりアモルファスシリコンを形成し、固相成長法によりアモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法、Si26ガスを用いてLPCVD法により、また、SiH4ガスを用いてPECVD法によりアモルファスシリコンを形成し、エキシマレーザー等のレーザーによりアニールし、アモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオンドーピング法によりイオンドーピングする方法(低温プロセス)、減圧CVD法又はLPCVD法によりポリシリコンを積層し、1000℃以上で熱酸化してゲート絶縁膜を形成し、その上にn+ポリシリコンのゲート電極114を形成し、その後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法(高温プロセス)等が挙げられる。
【0071】
ゲート絶縁膜113としては、通常、ゲート絶縁膜として使用されているものを用いることができ、例えば、PECVD法、LPCVD法等により形成されたSiO2、ポリシリコン膜を熱酸化して得られるSiO2等を用いることができる。
【0072】
ゲート電極114としては、通常、ゲート電極として使用されているものを用いることができ、例えば、アルミ、銅等の金属、チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属、ポリシリコン、高融点金属のシリサイド、ポリサイド等が挙げられる。
【0073】
TFT120は、シングルゲート構造、ダブルゲート構造、ゲート電極が3つ以上のマルチゲート構造であってもよい。また、LDD構造、オフセット構造を有していてもよい。さらに、1つの画素中に2つ以上の薄膜トランジスタが配置されていてもよい。
【0074】
本発明の表示装置は薄膜トランジスタ(TFT)が有機EL素子のスイッチング素子として機能するように接続されている必要があり、トランジスタのドレイン電極116と有機EL素子の画素電極(第一電極2)が電気的に接続されている。さらにトップエミッション構造をとるための画素電極は一般に光を反射する金属が用いられる必要がある。
【0075】
TFT120とドレイン電極116と有機EL素子の画素電極(第一電極2)との接続は、平坦化膜117を貫通するコンタクトホール118内に形成された接続配線を介して行われる。
【0076】
平坦化膜117の材料についてはSiO2、スピンオンガラス、SiN(Si34)、TaO(Ta25)等の無機材料、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、フォトレジスト材料、ブラックマトリックス材料等の有機材料等を用いることができる。これらの材料に合わせてスピンコーティング、CVD、蒸着法等を選択できる。必要に応じて、平坦化層として感光性樹脂を用いフォトリソグラフィーの手法により、あるいは一旦全面に平坦化層を形成後、下層のTFT120に対応した位置にドライエッチング、ウェットエッチング等でコンタクトホール118を形成する。コンタクトホールはその後導電性材料で埋めて平坦化層上層に形成される画素電極との導通を図る。平坦化層の厚みは下層のTFT、コンデンサ、配線等を覆うことができればよく、厚みは数μm、例えば3μm程度あればよい。
【0077】
基板上には第一電極2が設けられる。第一電極を陽極とした場合、その材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の金属複合酸化物や金、白金、クロムなどの金属材料を単層または積層したものをいずれも使用できる。第一電極の形成方法は、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることができる。
【0078】
なお、低抵抗であること、溶剤耐性があること、また、ボトムミッション方式としたときには透明性が高いことなどからITOが好ましく使用できる。ITOはスパッタ法によ
りガラス基板上に形成され、フォトリソ法によりパターニングされて第一電極2となる。
【0079】
第一電極2を形成後、第一電極縁部を覆うようにして隔壁7が形成される。隔壁7は絶縁性を有する必要があり、感光性材料等を用いることができる。感光性材料としては、ポジ型であってもネガ型であってもよく、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、ポリイミド樹脂、およびシアノエチルプルラン等を用いることができる。また、隔壁形成材料として、SiO2、TiO2等を用いることもできる。
【0080】
隔壁形成材料が感光性材料の場合、形成材料溶液をスリットコート法やスピンコート法により全面コーティングしたあと、露光、現像といったフォトリソ法によりパターニングがおこなわれる。スピンコート法の場合、隔壁の高さは、スピンコートするときの回転数等の条件でコントロールできるが、1回のコーティングでは限界の高さがあり、それ以上高くするときは複数回スピンコートを繰り返す手法を用いる。
【0081】
感光性材料を用いてフォトリソ法により隔壁を形成する場合、その形状は露光条件や現像条件により制御可能である。例えば、ネガ型の感光性樹脂を塗布し、露光・現像した後、ポストベークして、隔壁を得るときに、隔壁端部の形状を順テーパー形状としたい場合には、この現像条件である現像液の種類、濃度、温度、あるいは現像時間を制御すればよい。現像条件を穏やかなものとすれば、隔壁端部は順テーパー形状となり、現像条件を過酷にすれば、隔壁端部は逆テーパー形状となる。
【0082】
また、隔壁形成材料がSiO2、TiO2の場合、スパッタリング法、CVD法といった乾式成膜法で形成可能である。この場合、隔壁のパターニングはマスクやフォトリソ法により行うことができる。
【0083】
次に、有機発光層及び発光補助層からなる有機EL層を形成する。電極間に挟まれる有機EL層としては、有機発光層単独から構成されたものでもよいし、有機発光層と正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層といった発光を補助するための発光補助層との積層構造としてもよい。なお、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層は必要に応じて適宜選択される。
【0084】
そして、本発明は有機発光層や正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層といった発光補助層からなる有機EL層のうち少なくとも1層を、有機EL層材料を溶媒に溶解、または分散させたインキを用い、基材上に樹脂からなる凸部パターンを有する樹脂凸版を印刷版とした凸版印刷法により前記第一電極の上方に印刷して形成する際に適用することができる。以降、本発明において、有機発光材料を溶媒に溶解、または分散させた有機発光インキを用いた場合について示す。
【0085】
有機発光層は電流を流すことにより発光する層である。有機発光層の形成する有機発光材料としては、9,10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4−テトラフェニルブタジエン、トリス(8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノラート)亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−シアノー8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス[8−(パラ−トシル)アミノキノリン]亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエン、ポリ−2,5−ジヘプチルオキシ−パラ−フェニレンビニレンなどの低分子系発光材料が使用できる。
【0086】
また、クマリン系蛍光体、ペリレン系蛍光体、ピラン系蛍光体、アンスロン系蛍光体、ポリフィリン系蛍光体、キナクリドン系蛍光体、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系蛍光体、ナフタルイミド系蛍光体、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系蛍光体等、Ir錯体等の燐光性発光体などの低分子系発光材料を、高分子中に分散させたものが使用できる。高分子としてはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等が使用できる。
【0087】
また、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(DO−PPP)やポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニルレン]ジブロマイドなどのPPP誘導体、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF)、ポリスピロフルオレンなどの高分子発光材料であってもよい。PPV前駆体、PPP前駆体などの高分子前駆体が挙げられる。また、その他既存の発光材料を用いることもできる。
【0088】
正孔輸送層を形成する正孔輸送材料としては、銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン類及び無金属フタロシアニン類、キナクリドン化合物、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族アミン系低分子正孔注入輸送材料や、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物などの高分子正孔輸送材料、チオフェンオリゴマー材料、その他既存の正孔輸送材料の中から選ぶことができる。
【0089】
また、電子輸送層を形成する電子輸送材料としては、2−(4−ビフェニル)−5−(4−テトラブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、オキサジアゾール誘導体やビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリノラート)ベリリウム錯体、トリアゾール化合物等を用いることができる。
【0090】
有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、2−メチル−(t−ブチル)ベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、ペンチルベンゼン、1,3,5−トリエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,3,5−トリ−イソプロピルベンゼン等を単独又は混合して用いることができる。また、有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0091】
正孔輸送材料、電子輸送材料を溶解または分散させる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独またはこれらの混合溶剤などが挙げられる。特に、正孔輸送材料をインキ化する場合には水またはアルコール類が好適である。
【0092】
有機発光層や発光補助層は湿式成膜法により形成される。なお、これらの層が積層構造から構成される場合には、その各層の全てを湿式成膜法により形成する必要はない。湿式成膜法としては、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、吐出コート法、プレコート法、ロールコート法、バーコート法等の塗布法と、凸版印刷法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法等の印刷法が挙げられる。特に、RGB三色の有機発光層をパターン形成する場合、印刷法によって画素部に選択的に形成することができ、カラー表示のできる有機EL素子を製造することが可能となる。有機発光媒体層の膜厚は、単層又は積層により形成する場合においても1000nm以下であり、好ましくは50nm〜150nmである。
【0093】
繰り返しになるが、本発明は有機発光インキを用い凸版印刷法により有機発光層形成する場合だけでなく、正孔輸送インキや電子輸送インキを用い凸版印刷法により正孔輸送層や電子輸送層といった発光補助層を形成する場合にも使用することができる。
【0094】
次に、第二電極を形成する。第二電極を陰極とした場合その材料としては電子注入効率の高い物質を用いる。具体的にはMg、Al、Yb等の金属単体を用いたり、発光媒体と接する界面にLiや酸化Li、LiF等の化合物を1nm程度挟んで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いる。または電子注入効率と安定性を両立させるため、低仕事関数なLi、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb等の金属1種以上と、安定なAg、Al、Cu等の金属元素との合金系が用いられる。具体的にはMgAg、AlLi,CuLi等の合金が使用できる。また、トップエミッション方式の有機EL素子とする場合は、陰極は透明性を有する必要があり、例えば、これら金属とITO等の透明導電層の組み合わせによる透明化が可能となる。
【0095】
第二電極の形成方法は、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることができる。また、第二電極をパターンとする必要がある場合には、マスク等によりパターニングすることができる。第二電極の厚さは10nm〜1000nmが好ましい。なお、本発明では第一の電極を陰極、第二の電極を陽極とすることも可能である。
【0096】
有機EL素子としては電極間に有機発光層を挟み、電流を流すことで発光させることが可能であるが、有機発光材料や発光補助層形成材料、電極形成材料の一部は大気中の水分や酸素によって容易に劣化してしまうため通常は外部と遮断するための封止体を設ける。
【0097】
封止体は、例えば第一電極、有機発光層、発光補助層、第二電極が形成された基板に対して、凹部を有するガラスキャップ、金属キャップを用いて、第一電極、有機発光媒体層、第二電極上空に凹部があたるようにして、その周辺部についてキャップと基板を接着剤を介して接着させることにより封止がおこなわれる。
【0098】
また、封止体は、例えば第一電極、有機発光層、発光補助層、第二電極が形成された基板に対して、封止材上に樹脂層を設け、該樹脂層により封止材と基板を貼りあわせることによりおこなうことも可能である。
【0099】
このとき封止材としては、水分や酸素の透過性が低い基材である必要がある。また、材料の一例として、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス、石英、アルミニウムやステンレスなどの金属箔、耐湿性フィルムなどを挙げることができる。耐湿性フィルムの例として、プラスチック基材の両面にSiOxをCVD法で形成したフィルムや、透過性の小さいフィルムと吸水性のある
フィルムまたは吸水剤を塗布した重合体フィルムなどがあり、耐湿性フィルムの水蒸気透過率は、10-6g/m2/day以下であることが好ましい。
【0100】
樹脂層としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などからなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物などの熱可塑性接着性樹脂を挙げることができる。樹脂層を封止材の上に形成する方法の一例として、溶剤溶液法、押出ラミ法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法などを挙げることができる。必要に応じて吸湿性や吸酸素性を有する材料を含有させることもできる。封止材上に形成する樹脂層の厚みは、封止する有機EL素子の大きさや形状により任意に決定されるが、5〜500μm程度が望ましい。
【0101】
第一電極、有機発光層、発光補助層、第二電極が形成された基板と封止体の貼り合わせは封止室でおこなわれる。封止体を、封止材と樹脂層の2層構造とし、樹脂層に熱可塑性樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着のみ行うことが好ましい。熱硬化型接着樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着した後、さらに硬化温度で加熱硬化を行うことが好ましい。光硬化性接着樹脂を使用した場合は、ロールで圧着した後、さらに光を照射することで硬化を行うことができる。なお、ここでは封止材上に樹脂層を形成したが、基板上に樹脂層を形成して封止材と貼りあわせることも可能である。
【0102】
封止体を用いて封止を行う前やその代わりに、例えばパッシベーション膜として、CVD法を用いて、窒化珪素膜を150nm成膜するなど、無機薄膜による封止体とすることも可能であり、また、これらを組み合わせることも可能である。
【実施例】
【0103】
以下に、実施例について示す。
(被印刷基板の作製)
被印刷基板として、支持体上に設けられたスイッチング素子として機能する薄膜トランジスタと、その上方に形成された平坦化層と、平坦化層上にコンタクトホールによって前記薄膜トランジスタと導通が図られている画素電極とを備えたアクティブマトリクス基板を用いた。基板のサイズは対角1.8インチ、画素数は64×64である。
【0104】
この基板上に設けられている画素電極の端部を被覆し画素を区画するような形状で隔壁を形成した。隔壁の形成は、日本ゼオン社製ポジレジストZWD6216−6をスピ
ンコータにて基板全面に厚み2μmで形成した後、フォトリソグラフィーによって幅60μmの隔壁を形成した。これによりサブピクセル数192×64ドット、166μm×498μmピッチの画素領域が区画された。
【0105】
画素電極上にスピンコート法により正孔輸送層としてポリ−(3,4)−エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)1.5wt%水溶液を100nm膜厚で成膜した。さらにこの成膜されたPEDOT/PSS薄膜を減圧下100℃で1時間乾燥することで、被印刷基板を作製した。
【0106】
(有機発光層形成用インキの調製)
赤色、緑色、青色(RGB)の3色からなる以下の有機発光インキを調製した。
赤色発光インク(R):ポリフルオレン系誘導体のトルエン1質量%溶液(住友化学社製赤色発光材料 商品名Red1100)
緑色発光インク(G):ポリフルオレン系誘導体のトルエン1質量%溶液(住友化学社製
緑色発光材料 商品名Green1300)
青色発光インク(B):ポリフルオレン系誘導体のトルエン1質量%溶液(住友化学社製青色発光材料 商品名Blue1100)
【0107】
(印刷用凸版の作製)
ポリアミドを主成分としポリピロールを重量比で1%含有した感光性樹脂層を、厚さ200μmのSUS304基材表面に、版材の総厚が1.1mmとなるように溶融塗工し、凸版のもととなる感光性樹脂材を形成した。樹脂層の抵抗率は105Ω・mだった。またショアーD硬度は60度であった。この版材に対し、前述の被印刷基板に相当するネガパターン(開口線幅106μm、非開口スペース392μm、総線数64本)の東京プロセスサービス社製フィルムマスクを70mmHgで減圧密着させ、オーク製作所社製紫外線点光源により露光した。露光の後、公知の現像、洗浄、乾燥工程を経て、凸部高さ620μm、凸部ライン幅106μm、スペース392μmの凸版を形成した。なお、有機ELディスプレイの作製のために、赤、青、緑の各色用に別途製版を行った。
【0108】
(有機EL素子の製造)
上記高精細印刷用凸版を枚葉式の印刷機のシリンダーに固定した。これと上記の有機発光インキを用いて、被印刷基板に対し印刷を各色についておこなった。有機発光層は、赤色有機発光層、緑色有機発光層、青色有機発光層がストライプ状に並ぶように印刷した。各色について印刷をおこなった後、オーブン内にて130℃で1時間乾燥を行った。形成されたパターン各色の平均膜厚は102nmだった。乾燥の後、印刷により形成した有機発光層上にカルシウムを10nm成膜し、さらにその上に銀を300nm真空蒸着し、最後にガラスキャップを用い封止をおこない本発明の有機EL素子を作製した。この有機EL素子の画素欠陥数を確認したところ、赤、青、緑の各色とも欠陥は確認されなかった。
【0109】
<比較例>
(印刷用凸版の作製)
ポリアミドを主成分とする感光性樹脂層を、厚さ200μmのSUS304基材表面に、版材の総厚が1.1mmとなるように溶融塗工し、凸版のもととなる感光性樹脂材を形成した。樹脂層の抵抗率は1020Ω・m以上を示した。またショアーD硬度は60度であった。この版材に対し、前述の被印刷基板に相当するネガパターン(開口線幅106μm、非開口スペース392μm、総線数64本)の東京プロセスサービス社製フィルムマスクを70mmHgで減圧密着させ、オーク製作所社製紫外線点光源により露光した。露光の後、公知の現像、洗浄、乾燥工程を経て、凸部高さ620μm、凸部ライン幅106μm、スペース392μmの凸版を形成した。なお、有機ELディスプレイの作製のために、赤、青、緑の各色用に別途製版を行った。
【0110】
(有機EL素子の製造)
上記高精細印刷用凸版を枚葉式の印刷機のシリンダーに固定した。これと上記の有機発光インキを用いて、被印刷基板に対し印刷を各色についておこなった。有機発光層は、赤色有機発光層、緑色有機発光層、青色有機発光層がストライプ状に並ぶように印刷した。各色について印刷をおこなった後、オーブン内にて130℃で1時間乾燥を行った。形成されたパターンの膜厚は各色の平均値は108nmだった。乾燥の後、印刷により形成した有機発光層上にカルシウムを10nm成膜し、さらにその上に銀を300nm真空蒸着し、最後にガラスキャップを用い封止をおこない本発明の有機EL素子を作製した。この有機EL素子の画素欠陥数を確認したところ、赤で4画素、青で3画素、緑で8画素の画素欠陥が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の印刷用凸版の一例を断面で示した説明図である。
【図2】本発明における凸版の凸部分の例を断面で示した説明図である。
【図3】本発明の印刷物の製造に用いられる凸版印刷装置の例を示した概略図である。
【図4】本発明の有機EL素子の例を断面でみた説明図である。
【図5】本発明のアクティブマトリックス方式の基板の一例を断面で示した説明図である。
【符号の説明】
【0112】
1・・・・・基板
2・・・・・第一電極
3・・・・・正孔輸送層
5・・・・・第二電極
7・・・・・隔壁
8・・・・・ガラスキャップ
9・・・・・接着剤
41・・・・有機発光層
42・・・・有機発光層
43・・・・有機発光層
101・・・インキ補充装置
102・・・ドクター
103・・・アニロックスロール
104・・・印刷用凸版
105・・・版胴
106・・・被印刷基板
107・・・ステージ
108・・・インキ
108a・・インキパターン
111・・・支持体
112・・・活性層
113・・・ゲート絶縁膜
114・・・ゲート電極
115・・・層間絶縁膜
116・・・ドレイン電極
117・・・平坦化層
118・・・コンタクトホール
119・・・データ線
120・・・TFT
200・・・基材
201・・・凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に樹脂よりなる凸部の層が形成された凸版印刷用凸版において、凸部のインクとの接触面が帯電防止物質を含むことを特徴とする凸版。
【請求項2】
帯電防止物質を含む部位の凸部樹脂層の抵抗率が103Ω・mから1015Ω・mの範囲であることを特徴とする請求項1記載の凸版。
【請求項3】
帯電防止物質が高分子系帯電防止剤からなることを特徴とする請求項1または2記載の凸版。
【請求項4】
樹脂層が少なくとも水溶性ポリマーを含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の凸版。
【請求項5】
ショアーD硬度が20度から85度の範囲であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の凸版。
【請求項6】
凸版印刷法によりインキを転写して薄膜層を形成する工程を含む電子デバイスの製造方法において、
請求項1〜5いずれか1項に記載の凸版を用いて凸版印刷方式によりインキを転写して形成する工程を有することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の電子デバイスの製造方法で製造されたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項8】
請求項6に記載の電子デバイスが有機EL素子であることを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−200925(P2008−200925A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37539(P2007−37539)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】