説明

出力値予測方法、該装置および該方法のプログラム

【課題】本発明は、予測値のばらつきに与える影響を要因について評価して予測値のばらつきを求め得る出力値予測方法、出力値予測装置および出力値予測プログラムを提供する。
【解決手段】本発明の出力値予測方法では、予測対象データXと過去実績データ(X、y)との類似度wおよび過去実績データ(X、y)に基づいて予測対象データXの出力値yのばらつきを算出する際に、要因xが所定の出力yにおけるばらつきの大きさに寄与する程度が第A重みaとして要因xについて算出され、この算出された第A重みaを用いて、予測対象データXと過去実績データ(X、y)との所定の距離dが算出され、そして、この算出された所定の距離dに基づいて類似度wが算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、与えられたデータから出力値を予測する出力値予測技術に関し、特に、入力が与える出力値のばらつきの大きさを考慮した上で、予測した出力値のばらつきを求める出力値予測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な分野において、今後の行動を決定する際に、将来の予測がしばしば行われる。特に、例えば鉄鋼製品の製造や化学製品の製造のように、比較的大規模な製造プラントで様々な製造プロセスを経て製造される製品では、例えば投入量、操作入力量および時間経過等に応じて、各製造プロセスにおける出力値や製品に直結する最終プロセスの出力値が刻々と変化することが多い。このため、その出力値を制御するために、出力値の予測は、重要である。
【0003】
このような予測は、一般に、予測対象に関わる要因を分析し、要因の過去の実績データを例えば統計的に分析することによって行われる。
【0004】
例えば、特許文献1に開示の鋼材の材質推定装置は、過去に製造された製品ごとに、素材成分実績、操業実績および材質実績を蓄積する材質記憶手段と、多数の入力変数の中から製品の材質に与える影響の大きい入力変数を選択するためのルールが格納されている入力変数限定ルール格納手段と、入力される素材成分情報および操業情報を用いて、入力変数を前記ルールに従って限定する入力変数限定手段と、該限定した入力変数を用いて前記材質記憶手段内の各データと入力値との距離を計算するための、入力値が出力値に与える影響を重み係数とする距離関数を定義し、この距離関数を用いて計算した距離に基づいて入力値に近いデータを抽出し、該抽出したデータから材質の推定値を計算し、出力する材質推定計算手段とを備えている。このような構成の材質推定装置では、モデルの構造と対象の構造との乖離によって生じる推定誤差の発生を防止し、入力空間の全ての領域での推定精度を向上することが可能となる。
【0005】
また例えば、特許文献2に開示の結果予測装置は、過去の条件の値と、その条件によって得られた結果とを保存した実績データベースと、実績データベースに保存されている条件により規定される条件空間において、結果を予測したい要求条件の近傍における各条件の結果に対する影響係数を計算する手段と、得られた影響係数に基づいて条件空間の軸を変換し、変換された条件空間において、前記実績データベースに保存されている過去の条件の値と前記要求条件との距離を計算する手段と、得られた距離に基づいて、各条件の値と前記要求条件との類似度を計算する手段と、得られた類似度に基づいて、前記要求条件近傍の予測式を作成する手段と、得られた予測式に基づいて、要求条件に対する結果を計算する手段とを備えている。このような構成の結果予測装置では、条件空間の位置に応じて、各条件の結果に対する影響が変化する複雑・非線形な対象であっても、特別なルールを入力することなく、任意の要求条件に対する結果を高精度に予測することが可能となる。
【0006】
また例えば、特許文献3に開示の転炉吹錬制御方法は、少なくとも転炉に銑鉄と各種副原料とを投入した状態で吹錬を実施する各チャージにおいて、各チャージの吹錬終了時の溶鋼温度を終点目標温度に一致させる転炉吹錬制御方法であって、新規に実施するチャージにおける少なくとも前記銑鉄の量、温度、成分の実績と各種副原料の投入量と終点目標温度と終点目標成分とを含む複数項目からなる吹錬条件を新規吹錬ベクトルと定義し、過去に実施された各チャージにおける吹錬条件実績と昇熱材、冷却剤の実績投入量を熱量換算した実績熱余裕とを記憶した吹錬実績データベースに記憶された各チャージの吹錬条件実績をそれぞれ実績吹錬ベクトルと定義し、この複数の実績吹錬ベクトルのなかから前記新規吹錬ベクトルに類似する所定数の実績吹錬ベクトルを選択し、この選択された所定数の実績吹錬ベクトルの各吹錬条件および各実績熱余裕から前記新規に実施するチャージの熱余裕を推定する近似モデルを作成し、この作成した近似モデルを用いて前記新規に実施するチャージの熱余裕を推定し、この推定された熱余裕に基づいて、前記新規に実施するチャージの吹錬終了時の溶鋼温度を終点目標温度に一致させるための冷却剤または昇熱材の投入量を定めるものである。このような構成の転炉吹錬制御方法では、今回新規に実施するチャージの項目全体を1つのベクトルとして定義することにより、過去に実施された多数の実績チャージから真に類似した実績チャージを選択でき、この実績チャージから高精度の熱余裕を算出でき、実際の終点温度を確実に終点目標温度に一致させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3943841号公報
【特許文献2】特開2004−355189号公報
【特許文献3】特許第3912215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1ないし特許文献3に開示の技術では、いずれも予測値を1点のデータから予測している。このため、この予測値が的中している場合はよいが、この予測値が真値からずれていると、この予測値に基づいて行われる操作や判断等が誤ったものとなって、適切な出力値を得ることができない。
【0009】
特に、予測値に対する真値のずれの方向によって、すなわち、予測値に対して真値が上側にずれる可能性が高いか、あるいは、予測値に対して真値が下側にずれる可能性が高いかによって、予測値に基づいて行われる操作や判断等が異なる場合に、予測値だけでは、適切な操作や判断等を行うことが難しい。例えば、鉄鋼製品の製造プロセスにおいて、溶鋼中の不純物等のように或る規格値以下であれば良い場合では、予測値に対して真値が上側にずれる可能性が高い場合には、不純物を取り除くための操作を行う必要がある一方、予測値に対して真値が下側にずれる可能性が高い場合には、不純物を取り除くための前記操作を行う必要がない。また例えば、鉄鋼製品の製造プロセスにおいて、溶鋼処理設備から連鋳設備へ搬送される取鍋内の溶鋼温度の場合では、予測温度に対して真値が下側にずれる可能性が高い場合には、溶鋼の凝固等によって鋳造中止等の操業上のリスクが生じるため、溶鋼温度の低下を回避するための操業条件が選択される一方、予測温度に対して真値が上側にずれる可能性が高い場合には、連鋳におけるいわゆるブレークアウトが生じ易くなるため、鋳造速度の調整が行われる。
【0010】
また、前記特許文献1では、予測値だけでなく予測誤差も計算されている。この予測誤差によって予測値の信頼度が分かるが、やはり、予測値に対する真値のずれの方向によって、予測値に基づいて行われる操作や判断等が異なる場合に、予測値および予測誤差によって適切な操作や判断等を行うことが難しい。
【0011】
そこで、与えられたデータから出力値を予測する際に、予測値に基づいて操作や判断等をより適切に行うために、予測値のばらつきを求めることが望ましい。
【0012】
ここで、出力値は、一般に、複数の要因に依存しているものであるが、必ずしも各要因が等しく出力値のばらつきに寄与するとは限らない。すなわち、各要因が出力値に与える影響の程度は、一様ではない。より具体的には、一例を挙げると、出力値yが、一の要因xとの関係では、要因xを除いたその他の要因xにかかわらず要因xの値xi1に応じて出力値yのばらつきが大きい一方、前記出力値yが、他の要因xとの関係では、要因xを除いたその他の要因xにかかわらず要因xの値xj2に応じて出力値のばらつきが小さい場合がある。このような場合では、出力値yのばらつきを求める際に、要因xよりも要因xを重視すべきである。すなわち、予測対象データと過去実績データとの類似度に基づいて予測値のばらつきを求める場合では、前記類似度を算出する際に、要因xよりも要因xを重視すべきである。
【0013】
前記特許文献1ないし特許文献3に開示の技術では、予測値を求める場合に、予測値のばらつきについて開示も示唆もされておらず、もちろん、予測値のばらつきを求める場合に、個々の要因の評価について示唆もされていない。
【0014】
また、前記特許文献2には、影響係数について記載があるが、この影響係数は、結果を予測したい要求条件の近傍における各条件の結果に対するものであって、前記要求条件の近傍における各条件と結果との関係を近似する線形式における各条件に対する係数である。したがって、前記特許文献2における影響係数は、結果のばらつき、すなわち、予測値のばらつきに関するものではない。
【0015】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、予測値のばらつきに与える影響を要因について評価して予測値のばらつきを求めることができる出力値予測方法、出力値予測装置および出力値予測プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる出力値予測方法は、予測したい予測対象データと、所定の出力と前記出力に関わる数値化可能な要因とから成り過去に取得された複数の過去実績データとの類似度を、前記予測対象データの要因および前記過去実績データの要因に基づいて前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する第1算出工程と、前記第1算出工程によって算出された複数の類似度および前記過去実績データに基づいて、前記予測対象データの出力値のばらつきを算出する第2算出工程とを備え、前記第1算出工程は、前記予測対象データと前記過去実績データとの所定の距離を、前記予測対象データの要因および前記過去実績データの要因に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する距離算出工程と、前記予測対象データと前記過去実績データとの前記類似度を、前記距離算出工程で算出された距離に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する類似度算出工程とを備え、前記距離算出工程は、前記要因が前記所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度を第A重みとして前記要因について算出する重み算出工程を備え、前記重み算出工程で算出された第A重みを用いて前記所定の距離を算出することを特徴とする。本発明の他の一態様にかかる出力値予測装置は、所定の出力と前記出力に関わる数値化可能な要因とから成り過去に取得された複数の過去実績データを記憶する実測データ記憶部と、予測したい予測対象データと前記過去実績データとの類似度を、前記予測対象データの要因および前記過去実績データの要因に基づいて前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する第1算出部と、前記第1算出部によって算出された複数の類似度および前記過去実績データに基づいて、前記予測対象データの出力値のばらつきを算出する第2算出部とを備え、前記第1算出部は、前記予測対象データと前記過去実績データとの所定の距離を、前記予測対象データの要因および前記過去実績データの要因に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する距離算出部と、前記予測対象データと前記過去実績データとの前記類似度を、前記距離算出部で算出された距離に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する類似度算出部とを備え、前記距離算出部は、前記要因が前記所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度を第A重みとして前記要因について算出する重み算出部を備え、前記重み算出部で算出された第A重みを用いて前記所定の距離を算出することを特徴とする。そして、本発明の他の一態様にかかる出力値予測プログラムは、コンピュータに実行させるための出力値予測プログラムであって、予測したい予測対象データと、所定の出力と前記出力に関わる数値化可能な要因とから成り過去に取得された複数の過去実績データとの類似度を、前記予測対象データの要因および前記過去実績データの要因に基づいて前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する第1算出工程と、前記第1算出工程によって算出された複数の類似度および前記過去実績データに基づいて、前記予測対象データの出力値のばらつきを算出する第2算出工程とを備え、前記第1算出工程は、前記予測対象データと前記過去実績データとの所定の距離を、前記予測対象データの要因および前記過去実績データの要因に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する距離算出工程と、前記予測対象データと前記過去実績データとの前記類似度を、前記距離算出工程で算出された距離に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する類似度算出工程とを備え、前記距離算出工程は、前記要因が前記所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度を第A重みとして前記要因について算出する重み算出工程を備え、前記重み算出工程で算出された第A重みを用いて前記所定の距離を算出することを特徴とする。
【0017】
このような構成の出力値予測方法、出力値予測装置および出力値予測プログラムでは、予測対象データと過去実績データとの類似度および過去実績データに基づいて予測対象データの出力値のばらつきを算出する際に、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度が第A重みとして前記要因について算出され、この算出された第A重みを用いて、予測対象データと過去実績データとの所定の距離が算出され、そして、この算出された所定の距離に基づいて前記類似度が算出される。したがって、このような構成の出力値予測方法、出力値予測装置および出力値予測プログラムは、予測値のばらつきに与える影響を要因について評価して予測値のばらつきを求めることができる。このため、このような構成の出力値予測方法、出力値予測装置および出力値予測プログラムでは、予測対象データと過去実績データとの類似度がより適切に評価され、予測値のばらつきの精度が向上する。
【0018】
ここで、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度は、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさに大きく寄与する場合では、大きな値となり、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさにあまり寄与しない場合では、小さな値となる。すなわち、所定の出力のばらつきの範囲(範囲の広狭)が要因の値に比較的依存する場合は、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさに大きく寄与する場合であって、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさに与える影響の大きさは、大きな値となり、所定の出力のばらつきの範囲(範囲の広狭)が要因の値に比較的依存しない場合は、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさにあまり寄与しない場合であって、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさに与える影響の大きさは、小さな値となる。言い換えれば、要因によって所定の出力のばらつきに与えられる影響の大きさに従って、第A重みの大きさが決定される。
【0019】
また、上述の出力値予測方法において、前記重み算出工程は、前記所定の出力における前記ばらつきの大きさを第1出力変数とすると共に前記要因に関する変数を第1入力変数とした際に、前記複数の過去実績データに基づいて前記第1入力変数と前記第1出力変数との関係を表す第1モデルを生成し、前記第1モデルに基づいて前記第A重みを算出することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、第1モデルを生成することによって、より精度よく第A重みを算出することが可能となる。
【0021】
前記第1モデルは、例えば、2個の変量や3個以上の変量を持つ関数式(単回帰式や重回帰式等の回帰式)によって表され、前記第1入力変数および前記第1出力変数から回帰計算によって求められる。この回帰計算としては、例えば、最小二乗法や部分最小二乗法等が挙げられる。
【0022】
また、上述の出力値予測方法において、前記重み算出工程は、前記複数の過去実績データの個数に応じた第B重みを算出し、前記第B重みを用いて前記第1モデルを生成することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、複数の過去実績データの個数に応じた第B重みが算出され、第1モデルが生成される。このため、この構成によれば、前記要因に含まれる誤差が前記第A重みへ与える影響を低減することができ、より精度よく第1モデルを生成することができ、ひいては、より精度よく第A重みを算出することが可能となる。
【0024】
また、これら上述の出力値予測方法において、前記重み算出工程は、前記複数の過去実績データから所定の過去実績データを除去した残余の過去実績データに基づいて前記第1モデルを生成することを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、複数の過去実績データから所定の過去実績データを除去した残余の過去実績データに基づいて第1モデルが生成される。このため、この構成によれば、異常データに対する耐性を強くすることが可能となる。
【0026】
また、上述の出力値予測方法において、前記距離算出工程は、前記要因が前記所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度および前記要因が前記所定の出力の大きさに寄与する程度を第A重みとして前記要因について算出する重み算出工程を備え、前記重み算出工程で算出された第A重みを用いて前記所定の距離を算出することを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、前記要因による前記所定の出力のばらつきへ与える影響と、前記要因による前記所定の出力の値へ与える影響とを考慮して第A重みaを求めることができ、予測値のばらつきの精度が向上する。
【0028】
また、これら上述の出力値予測方法において、前記第2算出工程は、前記所定の出力を出力変数とすると共に前記要因の一部または全部を入力変数とした際に、前記入力変数を用いて前記出力変数と前記入力変数との関係を表す第2モデルを生成した場合に、前記入力変数の入力値を前記第2モデルに与えることによって得られる値と前記入力変数の入力値に対応する前記出力変数の出力値との差である誤差パラメータを、前記過去実績データの入力変数および出力変数に基づいて前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出するパラメータ算出工程と、前記入力変数および前記誤差パラメータを用いて前記出力変数と前記入力変数との関係を表す第3モデルを生成し、前記予測対象データの要因のうちの前記入力変数に対応する要因の値および前記誤差パラメータの値を前記第3モデルに与えることによって前記予測対象データの出力値を予測値として、前記パラメータ算出工程によって算出された複数の誤差パラメータのそれぞれについて算出する予測値算出工程と、前記類似度算出工程によって算出された複数の類似度および前記予測値算出工程によって算出された複数の予測値に基づいて、前記予測対象データの出力値のばらつきを算出するばらつき算出工程とを備えることを特徴とする。
【0029】
想定される要因であって前記所定の出力に関わる数値化可能な要因の一部または全部によって前記所定の出力を予測したとしても、例えばゆらぎや外乱や現時点では解明できていない要因等の想定外の不確定な要素あるいはモデル化誤差等の不確定な要素によって、予測値と真値との間には、誤差αが存在してしまう。すなわち、想定される要因Xであって前記所定の出力yに関わる数値化可能な要因Xの一部Zまたは全部Zによって前記所定の出力yを、第2モデル;y=f(Z、Θ)でモデル化したとしても、ZおよびΘだけで出力yを表現しきれない不確定な要素によって、予測値と真値との間には、誤差αが存在してしまう。ここで、Θは、Zの係数であり、Zの項(定数項)を含む。
【0030】
この不確定な要素は、ばらつきの要因であり、上記構成の出力値予測方法では、この不確定な要素に関連する誤差αが誤差パラメータαとされ、この誤差パラメータαが前記過去実績データに基づいて前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出され、誤差パラメータαを加味した第3モデルが作成され、この第3モデルによって予測対象データの出力値が予測値として複数の誤差パラメータのそれぞれについて算出される。そして、複数の類似度および複数の予測値に基づいて予測対象データの出力値のばらつきが算出される。
【0031】
したがって、上記構成の出力値予測方法では、予測値のばらつきがより高精度に算出され、ひいては予測値に基づいて操作や判断等を行う場合に予測値のばらつきも考慮することが可能となる。
【0032】
ここで、前記数値化可能な要因には、測定器によって測定可能な物理量だけでなく、例えばプロセスを実行する操業班の各個体やプロセスの実行に使用される設備の各個体等も含まれる。このような各個体の数値化は、例えば、プロセスに関与する場合に1とされると共にプロセスに関与しない場合に0とされることによって実行される。例えば、A、B、C、Dの4班があって、A班が関与している場合には、A班のデータが1となって他のBないしD班の各データが0となる。
【0033】
また、このような出力値予測方法において、好ましくは、例えば、前記ばらつきは、ヒストグラムであって、前記ばらつき算出工程は、前記予測値算出工程によって算出された複数の予測値に前記類似度算出工程によって算出された複数の類似度をそれぞれ対応させる第1工程と、少なくとも前記複数の予測値を含む範囲を有限個の複数の区間に分割する第2工程と、前記区間に含まれる予測値に対応する類似度を全て足し合わせることによって前記区間の度数を、前記複数の区間のそれぞれについて算出する第3工程とを備えることである。この構成によれば、前記ばらつきがヒストグラムによって示され、予測値の出現頻度を容易に知ることが可能となる。また、このような出力値予測方法において、好ましくは、例えば、前記ばらつきは、確率密度であって、前記ばらつき算出工程は、さらに、前記ヒストグラムの面積が1となるように、前記度数のスケールを調整する第4工程を備えることである。この構成によれば、前記ばらつきが確率密度によって示され、予測値の出現確率を容易に知ることが可能となる。前記ばらつきは、ヒストグラムや標準偏差だけでなく、例えば、(平均値±(定数)×(標準偏差))、予測値の上下限幅(予測値の値域)および予測値の範囲における両端から一定量(一定割合)を除去した残余の予測値の範囲等でもよい。
【0034】
また、これら上述の出力値予測方法において、前記要因は、複数の要素から成り、少なくとも時間を前記要素として含むことを特徴とする。
【0035】
この構成によれば、時間経過に従って出力が時々刻々と変化するプロセスにおける出力値の予測値を求めることが可能となり、そして、この予測値のばらつきを求めることが可能となる。
【0036】
また、これら上述の出力値予測方法において、前記所定の出力は、転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおける、取鍋内またはタンディッシュ内の溶鋼温度であることを特徴とする。
【0037】
この構成によれば、転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおける、取鍋内またはタンディッシュ内の溶鋼温度を予測し、この予測した予測値のばらつきを求めることができる出力値予測方法の提供が可能となる。
【0038】
また、これら上述の出力値予測方法において、前記所定の出力は、転炉工程における、吹錬吸込み酸素の積算量に応じた溶鋼成分または溶鋼温度であることを特徴とする。
【0039】
この構成によれば、転炉工程における、吹錬吸込み酸素の積算量に応じた溶鋼成分または溶鋼温度を予測し、この予測した予測値のばらつきを求めることができる出力値予測方法の提供が可能となる。
【0040】
また、これら上述の出力値予測方法において、前記所定の出力は、鋼材の加熱炉工程における、加熱時間または加熱熱量の積算量に応じた前記鋼材の鋼材温度であることを特徴とする。
【0041】
この構成によれば、鋼材の加熱炉工程における、加熱時間または加熱熱量の積算量に応じた前記鋼材の鋼材温度を予測し、この予測した予測値のばらつきを求めることができる出力値予測方法の提供が可能となる。
【0042】
また、これら上述の出力値予測方法において、前記ばらつきを提示する提示工程をさらに備えることを特徴とする。
【0043】
この構成によれば、例えばオペレータ等のユーザは、前記ばらつきを知ることができ、予測値に基づいて操作や判断等を行う場合に予測値のばらつきも考慮することが可能となる。
【発明の効果】
【0044】
本発明にかかる出力予測方法、出力予測装置および出力予測プログラムは、予測値のばらつきに与える影響を要因について評価して予測値のばらつきを求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第1実施形態における出力値予測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態における出力値予測装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】実測データ記憶部に記憶されるデータを示す図である。
【図4】予測対象データと各過去実績データとのユークリッド距離を説明するための図である。
【図5】第A重みaの算出方法を説明するために一例として挙げた、第1データ項目xと出力値yとの関係を示す図である。
【図6】第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値との関係を示す図である。
【図7】一例として、第1データ項目xと出力値yとの関係、および、第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値との関係を示す図である。
【図8】他の一例として、第1データ項目xと出力値yとの関係、および、第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値との関係を示す図である。
【図9】他の一例として、第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値と重みwとの関係を示す図である。
【図10】第A重みaの算出方法を説明するために他の一例として挙げた、第1および第2データ項目x、xと出力値yとの関係を示す図である。
【図11】第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値とxi2の平均値との関係を示す図である。
【図12】第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値とxi2の平均値と第B重みbとの関係を示す図である。
【図13】中間データ記憶部に記憶されるデータを示す図である。
【図14】予測値記憶部に記憶されるデータを示す図である。
【図15】予測値のばらつきの算出手順を説明するための図である。
【図16】図15(B)に示すヒストグラムから図15(C)に示す確率密度曲線を求める手法を説明するための図である。
【図17】物体の温度降下量と経過時間との関係を示す図である。
【図18】過去実績データのモデルを示す図である。
【図19】予測値のばらつきの算出手順を説明するための図である。
【図20】重み付き距離と類似度との関係を示す図である。
【図21】重み付き距離と類似度との関係を示す図である。
【図22】過去実績データのモデルを示す図である。
【図23】各予測値における確率密度を示す図である。
【図24】出力値予測システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係る実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0047】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態における出力値予測装置Sの構成について説明する。図1は、第1実施形態における出力値予測装置の構成を示すブロック図である。図1において、出力値予測装置Sは、演算制御部1と、入力部2と、提示部3と、記憶部4とを備えて構成される。
【0048】
入力部2は、予め与えられたデータから本発明の手法によって出力値を予測する出力値予測プログラムを起動するコマンド等の各種コマンド、および、出力値を予想する上で必要な各種データを出力値予測装置Sに入力する機器であり、例えば、キーボードやマウス等である。提示部3は、入力部2から入力されたコマンドやデータ、および、本出力値予測装置Sによって予測された出力値(予測値)を提示(出力)する機器であり、例えばCRTディスプレイ、LCD、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0049】
記憶部4は、機能的に、所定の出力とこの出力に関わる数値化可能な要因とから成り過去に取得された複数の過去実績データおよび出力値を予測したい予測対象データを記憶する実測データ記憶部41と、予測対象データから過去実績データに基づいて予測値を演算する出力値予測演算処理過程で生じる中間データを記憶する中間データ記憶部42と、予測対象データから過去実績データに基づいて予測(演算)された出力値(予測値)を記憶する予測値記憶部43と、予測値のばらつきを記憶するばらつき記憶部44とを備え、出力値予測プログラム等の各種プログラム、および、各種プログラムの実行に必要なデータやその実行中に生じるデータ等の各種データを記憶する装置である。記憶部4は、例えば、演算制御部1の所謂ワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等の揮発性の記憶素子、ROM(Read Only Memory)や書換え可能なEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の不揮発性の記憶素子、および、各種プログラムや各種データを格納しておくハードディスク等を備えて構成される。
【0050】
演算制御部1は、例えば、マイクロプロセッサおよびその周辺回路等を備えて構成され、機能的に、距離算出部11と、類似度算出部12と、パラメータ算出部13と、予測値算出部14と、ばらつき算出部15とを備え、制御プログラムに従い入力部2、提示部3および記憶部4を当該機能に応じてそれぞれ制御する。
【0051】
距離算出部11は、機能的に、重み算出部111を備え、前記重み算出部111で算出された第A重みを用いて予測対象データと過去実績データとの所定の距離を、予測対象データの要因および過去実績データの要因に基づいて、複数の過去実績データのそれぞれについて算出するものである。
【0052】
この重み算出部111は、前記要因が前記所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度を第A重みとして前記要因について算出するものである。より具体的には、重み算出部111は、前記所定の出力におけるばらつきの大きさを第1出力変数とすると共に前記要因に関する変数を第1入力変数とした際に、複数の過去実績データに基づいて第1入力変数と第1出力変数との関係を表す第1モデルを生成し、この第1モデルに基づいて第A重みを算出するものである。この第1モデルは、例えば、2個の変量や3個以上の変量を持つ関数式(単回帰式や重回帰式等の回帰式)によって表され、第1入力変数および第1出力変数から回帰計算によって求められる。この回帰計算としては、例えば、最小二乗法や部分最小二乗法(PLS, Partial Least Square)等が挙げられる。
【0053】
ここで、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度は、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさに大きく寄与する場合では、大きな値となり、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさにあまり寄与しない場合では、小さな値となる。すなわち、所定の出力のばらつきの範囲(範囲の広狭)が要因の値に比較的依存する場合は、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさに大きく寄与する場合であって、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさに与える影響の大きさは、大きな値となり、所定の出力のばらつきの範囲(範囲の広狭)が要因の値に比較的依存しない場合は、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさにあまり寄与しない場合であって、要因が所定の出力におけるばらつきの大きさに与える影響の大きさは、小さな値となる。言い換えれば、要因によって所定の出力のばらつきに与えられる影響の大きさに従って、第A重みの大きさが決定される。
【0054】
なお、重み算出部111は、複数の過去実績データの個数に応じた第B重みを算出し、この第B重みを用いて前記第1モデルを生成するものであってもよい。この構成によれば、前記要因に含まれる誤差が前記第A重みへ与える影響を低減することができ、より精度よく第1モデルを生成することができ、ひいては、より精度よく第A重みを算出することが可能となる。
【0055】
また、重み算出部111は、前記要因が前記所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度および前記要因が前記所定の出力における絶対値の大きさに寄与する程度を第A重みとして前記要因について算出するものであてもよい。この構成によれば、前記要因による前記所定の出力のばらつきへ与える影響と、前記要因による前記所定の出力の絶対値へ与える影響とを考慮して第A重みaを求めることができ、予測値のばらつきの精度が向上する。
【0056】
類似度算出部12は、予測対象データと前記過去実績データとの類似度を、距離算出部11で算出された複数の距離に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出するものである。
【0057】
パラメータ算出部13は、所定の出力yを出力変数とすると共に要因Xの一部Zまたは全部Zを入力変数とした際に、入力変数を用いて出力変数と入力変数との関係を表す第2モデル;y=f(Z、Θ)(Θは、Zの係数であり、Zの項(定数項)を含む)を生成した場合に、入力変数の入力値を第2モデルに与えることによって得られる値と入力変数の入力値に対応する出力変数の出力値との差である誤差パラメータαを、過去実績データの入力変数および出力変数に基づいて複数の過去実績データのそれぞれについて算出するものである。
【0058】
予測値算出部14は、入力変数および誤差パラメータαを用いて出力変数と入力変数との関係を表す第3モデル;y=(Z、Θ、α)を生成し、予測対象データの要因のうちの入力変数に対応する要因の値および誤差パラメータαの値を第3モデルに与えることによって予測対象データの出力値を予測値として、パラメータ算出部13によって算出された複数の誤差パラメータαのそれぞれについて算出するものである。
【0059】
ばらつき算出部15は、類似度算出部12によって算出された複数の類似度および予測値算出部14によって算出された複数の予測値に基づいて、予測対象データの出力値のばらつきを算出するものである。
【0060】
これら演算制御部1、入力部2、提示部3および記憶部4は、信号を相互に交換することができるようにバス5でそれぞれ接続される。
【0061】
このような演算制御部1、入力部2、提示部3、記憶部4およびバス5は、例えば、コンピュータ、より具体的にはノート型やディスクトップ型等のパーソナルコンピュータ等によって構成可能である。
【0062】
なお、必要に応じて出力値予測装置Sは、外部記憶部(不図示)をさらに備えてもよい。外部記憶部は、例えば、フレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD−R(Compact Disc Recordable)、DVD−R(Digital Versatile DiscRecordable)およびブルーレイディスク(Blu-ray Disc、登録商標)等の記録媒体との間でデータを読み込みおよび/または書き込みを行う装置であり、例えば、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、CD−Rドライブ、DVD−Rドライブおよびブルーレイディスクドライブ等である。
【0063】
ここで、出力値予測プログラム等が格納されていない場合には、出力値予測プログラム等を記録した記録媒体から前記外部記憶部を介して出力値予測プログラムが記憶部4にインストールされるように、出力値予測装置Sが構成されてもよい。あるいは、過去実績データや出力値を予測するためのデータ等のデータが外部記憶部を介して記録媒体に記録されるように、出力値予測装置Sが構成されてもよい。
【0064】
次に、第1実施形態における出力値予測装置Sの動作について説明する。図2は、第1実施形態における出力値予測装置の動作を示すフローチャートである。図3は、実測データ記憶部に記憶されるデータを示す図である。図4は、予測対象データと各過去実績データとのユークリッド距離を説明するための図である。図5は、第A重みaの算出方法を説明するために一例として挙げた、第1データ項目xと出力値yとの関係を示す図である。図6は、第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値との関係を示す図である。図6(A)は、前記関係を表形式で示し、図6(B)は、前記関係をグラフで示す。図7は、一例として、第1データ項目xと出力値yとの関係、および、第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値との関係を示す図である。図7(A)は、第1データ項目xと出力値yとの関係を示す図であり、図7(B)は、第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値との関係を示す図である。図8は、他の一例として、第1データ項目xと出力値yとの関係、および、第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値との関係を示す図である。図8(A)は、第1データ項目xと出力値yとの関係を示す図であり、図8(B)は、第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値との関係を示す図である。図9は、他の一例として、第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値と重みwとの関係を示す図である。図9(A)は、前記関係を表形式で示し、図9(B)は、前記関係をグラフで示す。図10は、第A重みaの算出方法を説明するために他の一例として挙げた、第1および第2データ項目x、xと出力値yとの関係を示す図である。図11は、第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値とxi2の平均値との関係を示す図である。図11(A)は、前記関係を表形式で示し、図11(B)は、前記関係をグラフで示す。図12は、第k区間内における出力値yのばらつき度合いσとxi1の平均値とxi2の平均値と第B重みbとの関係を示す図である。図13は、中間データ記憶部に記憶されるデータを示す図である。図14は、予測値記憶部に記憶されるデータを示す図である。図15は、予測値のばらつきの算出手順を説明するための図である。図15(A)は、類似度wと出力の予測値yとの関係を示し、その横軸は、類似度wであり、その縦軸は、予測値yである。図15(B)は、予測値yのヒストグラムを示し、その横軸は、重み付き度数Fwであり、その縦軸は、予測値yである。図15(C)は、予測値yの確率密度分布を示し、その横軸は、確率密度P(y)であり、その縦軸は、予測値yである。
【0065】
出力値予測装置Sは、例えば、ユーザの操作によって入力部2から起動コマンドを受け付けると、出力値予測プログラムを実行する。この出力予測プログラムの実行によって、演算制御部1に距離算出部11(重み算出部111を含む)、類似度算出部12、パラメータ算出部13、予測値算出部14およびばらつき算出部15が機能的に構成される。そして、出力値予測装置Sは、以下の動作によって、過去実績データに基づいて予測対象データから出力値(予測値)を予測する。
【0066】
この出力値の予測に当たって、出力値予測装置Sの記憶部4における実測データ記憶部41には、例えば、図3に示す表形式(テーブル形式)で過去実績データおよび予測対象データが予め記憶されている。この図3に示す実測データテーブル51は、実測された出力値yを登録する出力フィールド511、および、この出力値yに関与する要因のデータxを登録するデータフィールド512の各フィールドを備えて構成され、過去実績データ(X、y)ごとにレコードを備え、さらに、予測対象データXのレコードを備えている。そして、出力値yに関与する要因は、複数の要素(データ項目)を備えて構成されており、このため、データフィールド512は、要素の個数に応じたデータ項目サブフィールドを備えている。図3に示す例では、出力値yは、少なくともN個の要素(第1ないし第Nデータ項目)が関与している。このため、データ項目サブフィールドは、要因の各要素にそれぞれ対応する第1ないし第Nデータ項目の各データx〜xをそれぞれ登録するデータ項目サブフィールド5121〜512Nを備えている。また、過去実績データ(X、y)は、過去に異なる条件で、例えば、過去の互いに異なる時刻(時点)で実測等によって取得されたデータであり、図3に示す例では、M個のデータから構成されている。予測対象データXは、出力値を予測したい対象のデータxであり、例えば、予測時点tまでに実測されたデータxや、操作入力の値xや、操業日時xや、シミュレーションのために用意したデータx等である。
【0067】
ここで、出力値予測装置Sは、予測対象データXのデータ値xから過去実績データ(X、y)に基づいて出力値(予測値)yを予測し、この予測値yのばらつきを求めるものである。
【0068】
なお、予測対象データXには、過去実績データ(X、y)と識別可能に区別するために、0が第1添え字(添え字の左側)として付され、過去実績データ(X、y)には、M個のデータをそれぞれ識別可能に区別するために、1〜Mがそれぞれ第1添え字として付されている。そして、予測対象データXおよび過去実績データ(X、y)には、出力値yに関わる要因におけるN個の要素である第1ないし第Nデータ項目をそれぞれ識別可能に区別するために、1〜Nがそれぞれ第2添え字(添え字の右側)として付されている。X=[x01、x02、・・・、x0N]であり、X=[xj1、xj2、・・・、xjN]である。例えば、yは、過去実績データ(X、y)における第3番目の出力値を表しており、また例えば、x23は、過去実績データ(X、y)における第2番目の第3データ項目の値を表しており、また例えば、x04は、予測対象データXにおける第4データ項目の値を表している。
【0069】
このような過去実績データ(X、y)および予測対象データXが実測データ記憶部41に記憶されている場合において、出力値予測装置Sは、図2に示すように、まず、過去実績データXにおける第1ないし第Nデータ項目の各データ値xと予測対象データXにおける第1ないし第Nデータ項目の各データ値xとの関連性を評価するために、両データ間の距離を演算制御部1の距離算出部11によって算出し、この算出した距離を記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する(S11)。前記距離は、両データx間の関連性を表すように定義され、例えば、ユークリッド距離や正規化ユークリッド距離等が用いられる。
【0070】
より具体的には、本実施形態では、距離算出部11は、図4に示すように、データ項目空間における予測対象データXと過去実績データXとのユークリッド距離dを各過去実績データ(X、y)について算出する。データ項目空間は、データ項目がN個であることから、本実施形態では、N次元空間となる。また、前記ユークリッド距離dは、本実施形態では、重み付き距離が採用されており、例えば、式1−1によって求められる。式1−1では、予測対象データXと第j番目の過去実績データXとの重み付きユークリッド距離dは、第j番目の過去実績データ(X、y)における第iデータ項目xjiと予測対象データXにおける第iデータ項目x0iとの差の2乗に、第iデータ項目の重みa(a≧0、第A重みa、距離に関する重みa)の2乗を乗算したものを、第1データ項目から第Nデータ項目まで和を取り、その結果の平方根を求めることによって、算出される。
【0071】
また例えば、前記ユークリッド距離dは、式1−2によって求められてもよい。式1−2では、予測対象データXと第j番目の過去実績データXとの重み付きユークリッド距離dは、第j番目の過去実績データ(X、y)における第iデータ項目xjiと予測対象データXにおける第iデータ項目x0iとの差の2乗に、第iデータ項目の第A重みaの絶対値を乗算したものを、第1データ項目から第Nデータ項目まで和を取り、その結果の平方根を求めることによって、算出される。
【0072】
また例えば、前記ユークリッド距離dは、式1−3によって求められてもよい。式1−3では、予測対象データXと第j番目の過去実績データXとの重み付きユークリッド距離dは、第j番目の過去実績データ(X、y)における第iデータ項目xjiと予測対象データXにおける第iデータ項目x0iとの差に、第iデータ項目の第A重みaを乗算したものの絶対値を、第1データ項目から第Nデータ項目まで和を取ることによって、算出される。
【0073】
【数1】

【0074】
ここで、第A重みaは、ユークリッド距離dを求めるに当たって、第1ないし第Nデータ項目の中で第iデータ項目の重要度(重要性の度合い)を表すパラメータであり、第iデータ項目xが所定の出力yにおけるばらつきの大きさに寄与する程度である。
【0075】
注目すべきは、第A重みaが、第iデータ項目xによる出力値yのばらつきに与える影響の大きさに従ってその大きさが決定されることである。例えば、この第A重みaは、出力値yのばらつきに影響を与える程度が大きいデータ項目ほど大きくなり、出力値yのばらつきに影響を与える程度が小さいデータ項目ほど小さくなるように、設定される。
【0076】
より具体的には、第A重みaは、以下の手順によって算出される。ここで、出力値yは、一般に、上述したように、複数の要因(第1ないし第Nデータ項目x〜x)に依存する重相関であるが、説明の簡単化のため、出力値yが第1データ項目xに依存する単相関である場合について、第A重みaの算出方法を以下に詳述し、第A重みaの算出方法の一般化および説明の容易性から、出力値yが第1および第2データ項目x、xに依存する重相関である場合について、第A重みaの算出方法を以下に説明する。
【0077】
第A重みaの算出方法の説明に当たって、第1データ項目xと出力値yとの関係は、図5に示す関係であるとする。すなわち、出力値yは、第2ないし第Nデータ項目x〜xの値にかかわらず第1データ項目xの値だけに依存し、第1データ項目xの値xi1の増加に従って徐々にそのばらつきが大きくなり、扇状に拡がる分布を取る。
【0078】
まず、第1に、第1ステップ(工程)として、第1データ項目xが複数Kの区間に分割され、各区間(k=1〜K、第1区間ないし第K区間)における過去実績データ(X、y)の出力値yのばらつき度合いσが求められる。
【0079】
第1データ項目xにおいて、第k番目の第k区間(k∈K)に含まれる過去実績データ(X、y)の集合Sは、式2によって表される。
【0080】
【数2】

【0081】
ここで、{(y、xi1)}は、第1データ項目xi1と出力値yとが逆に表記されているが、過去実績データ(X、y)のことである(i=1〜M)。図5に示すように、xは、第1データ項目xにおける第k区間の範囲の始端値であり、x+△xは、第1データ項目xにおける第k区間の範囲の終端値である。△xは、第1データ項目xにおける第k区間の範囲の幅である。なお、集合Sの下添え字jは、データ項目を表し、上添え字kは、区間を表し、よって、集合Sは、第1データ項目xの値xi1が第k区間の範囲(x≦xi1≦x+△x)に含まれる過去実績データ(y、xi1)の集合である。なお、第k区間の範囲を示す前記不等式では、両端に等号が含まれているが、一方端に等号が含まれていなくてもよい。
【0082】
区間は、その範囲が隣接する区間と重ならないように設定されてもよいが、第1データ項目xに含まれる誤差が吸収され、区間の変化に対するばらつき度合いσの変化が滑らかになることから、その範囲が隣接する区間と重なるように設定されることが好ましい。重なる部分(オーバラップ部分)の大きさは、第1データ項目xの個数に応じて適宜に設定され、重なる部分の大きさは、第1データ項目xの個数が多いほど狭く設定され、第1データ項目xの個数が少ないほど広く設定される。
【0083】
ばらつき度合いσは、ばらつきの程度を示す任意の指標が採用され、ばらつき度合いσは、例えば、集合Sに含まれる過去実績データ{(y、xi1)}の出力値yの標準偏差や、集合Sに含まれる過去実績データ{(y、xi1)}の出力値yの上下限幅(=上限値−下限値)等が採用される。なお、異常データに対する耐性を強くするために(異常データによるばらつき度合いσの精度低下を抑制するために)、集合Sに含まれる過去実績データ{(y、xi1)}の出力値yにおけるその分布の両端を一定量(一定幅、一定割合)ずつ除去した後に、標準偏差σが求められてもよく、また、集合Sに含まれる過去実績データ{(y、xi1)}の出力値yにおけるその分布の両端を一定量ずつ除去した後に、上下限幅σが求められてもよい。
【0084】
続いて、第2に、第2ステップとして、各区間(k=1〜K、第1区間ないし第K区間)において、集合Sに含まれる過去実績データ{(y、xi1)}の第1データ項目xi1の平均値が求められ、この値がμx1とされる。なお、演算量(情報処理量)を低減するために、近似的にx+(△x)/2がμx1とされてもよい。
【0085】
ここで、ばらつき度合いσを求める際に、上述したように、集合Sに含まれる過去実績データ{(y、xi1)}の出力値yにおけるその分布の両端を一定量ずつ除去した場合には、このμx1を求める際も前記ばらつき度合いσを求める際に除去した過去実績データ{(y、xi1)}を除去してから、このμx1が求められる。
【0086】
また、好ましくは、第1データ項目xにおいて、第k区間の始端値xと第k+1区間の始端値xk+1との間には、第k+1区間の始端値xk+1が第k区間の始端値xよりも大きい関係とされ、隣接区間とのずれ量(隣接区間間における始端値のずれ量、区間の刻み幅)△k(=xk+1−x)は、式3の関係とされる。すなわち、隣接区間とのずれ量△kと前記区間の範囲の幅△xとの間には、前記区間の範囲の幅△xが隣接区間とのずれ量△kよりも大きい関係とされる。
【0087】
【数3】

【0088】
このような各関係とされることによって、前記ばらつき度合いσと前記平均値μx1の組が比較的多数生成され(Kの値が比較的大きな値となり)、第A重みaを求めるためのデータ量が比較的多くなる。したがって、データ誤差の影響を受け難くすることが可能となり、異常データに対する耐性が強なる。このため、安定的に、第A重みaを求めることが可能となる。
【0089】
また、前記ばらつき度合いσを求めるためには、少なくとも2個のデータが必要であることから、第k区間内に過去実績データ{(y、xi1)}が全くない場合および第k区間内に過去実績データ{(y、xi1)}が1個である場合には、過去実績データ{(y、xi1)}が2以上の所定数になるまで、第k区間の場合において、第k区間の終端値x+△xが、隣接区間とのずれ量△kずつ順次に増加(更新)される。あるいは、区間の範囲の幅△xが、過去実績データ{(y、xi1)}が2以上の所定数になるように再設定されてもよい。上述したように、集合Sに含まれる過去実績データ{(y、xi1)}の出力値yにおけるその分布の両端を一定量ずつ除去した場合も同様である。
【0090】
このように第1ないし第K区間の各区間について、そのばらつき度合いσおよびその平均値μx1を求めると、例えば、一例として図6に示すように、平均値μx1とばらつき度合いσとの関係が得られる。この平均値μx1とばらつき度合いσとの関係は、第1データ項目xの値xi1による、出力値yの分布(分布の幅、ばらつきの大きさ)の変化を表している。
【0091】
このため、続いて、第3に、第3ステップとして、平均値μx1をいわゆるx軸とし、ばらつき度合いσをいわゆるy軸とする場合に、平均値μx1とばらつき度合いσとの関係における傾きが求められ、この求められた傾きが第A重みaとされる。
【0092】
このような第1ステップないし第3ステップを実行することによって、第1データ項目xによる出力値yのばらつきに与える影響度合いを表す第A重みaが求められる。
【0093】
一例を挙げると、第1データ項目xの各値xi1に対する出力値yが図7(A)に示すように分布している場合では、平均値μx1とばらつき度合いσとの関係は、前記第1ステップないし第3ステップを実行することによって、図7(B)に示す略線形な関係が得られる。より具体的には、第1データ項目xの各値xi1が0から1までに増加するに従って、出力値yは、座標(0,0.5)を中心に扇状に拡がり、xi1=0.8では、約−0.1から1.1まで拡がっている。前記第1ステップないし第3ステップを実行する際に、前記隣接区間とのずれ量△k=0.04とされ、前記区間の範囲の幅△x=0.2とされた。そして、平均値μx1とばらつき度合いσとの関係を表す関数式(回帰式、単回帰式、第1モデルの一例)が最小二乗法によって計算され、その傾きが0.2335と計算され、その切片が0.006589と計算された。したがって、図7に示す場合では、第A重みaは、0.2335となる。
【0094】
また、他の一例を挙げると、第1データ項目xの各値xi1に対する出力値yが図8(A)に示すように分布している場合では、平均値μx1とばらつき度合いσとの関係は、前記第1ステップないし第3ステップを実行することによって、図8(B)に示す略線形な関係が得られる。より具体的には、第1データ項目xの各値xi1が0から1までに増加するに従って、出力値yは、座標(0,0.5)を中心に扇状に拡がり、xi1=0.8では、約0から1まで拡がっている。この図8(A)に示す例は、図7(A)に示す例に較べて扇状の広がりが小さい。前記第1ステップないし第3ステップを実行する際に、前記隣接区間とのずれ量△k=0.04とされ、前記区間の範囲の幅△x=0.2とされた。そして、平均値μx1とばらつき度合いσとの関係を表す関数式が最小二乗法によって計算され、その傾きが0.2013と計算され、その切片が0.001987と計算された。したがって、図8に示す場合では、第A重みaは、0.2013となる。
【0095】
ここで、図8(B)を見ると分かるように、図8(A)のデータから得られる図8(B)に示す結果(○)とその最小二乗法によって得られた前記関数式の近似直線とは、第1データ項目xの値の範囲の両端で、図7(B)に較べて図8(B)の方が乖離している。これは、平均値μx1の値の比較的大きな部分で、平均値μx1とばらつき度合いσとの関係を求める際に使用したデータ数が比較的少なく、平均値μx1が比較的信頼度の低いデータに影響されたものである。
【0096】
このため、平均値μx1とばらつき度合いσとの関係を表す関数式を求める際に、前記影響を抑制すべく、各第k区間において、第1データ項目xの値xi1に、平均値μx1やばらつき度合いσを求める際に使用する過去実績データのデータ数nに応じた重みw(第B重みb、第A重みaに関する重みb)が付けられてもよい。この第B重みbは、例えば、式4−1のように定義され、データ数nである。あるいは、この第B重みbは、例えば、式4−2のように定義され、データ数nから1を減算した値であってもよい。あるいは、この第B重みbは、例えば、式4−3のように定義され、データ数nから1を減算した値の平方根であってもよい。なお、前記データ数nは、集合Sに含まれる過去実績データ{(y、xi1)}の出力値yにおけるその分布の両端を一定量ずつ除去した場合には、除去後のデータ数である。
【0097】
【数4】

【0098】
このような第B重みbを求める場合では、例えば、一例として図9に示すように、平均値μx1とばらつき度合いσと第B重みbとの関係が得られる。ここでは、第B重みbとして式4−2が使用された。そして、このような第B重みbを求める場合では、式5に示す重み付き最小二乗法によって、平均値μx1とばらつき度合いσとの関係を表す回帰式が求められる。
【0099】
【数5】

【0100】
ここで、大文字のパイΠ、大文字のガンマΓおよび大文字のWは、それぞれ式6に示す通りである。
【0101】
【数6】

【0102】
この場合では、平均値μx1とばらつき度合いσとの関係における傾きは、0.248と計算され、その切片が0.0005751と計算された。図9(B)を見ると分かるように、図8(B)に較べて、この回帰式の近似直線は、各データにより良好にフィッティングしている。したがって、図8(A)に示す場合では、第A重みaは、0.248となる。
【0103】
次に、出力値yが第1および第2データ項目x、xに依存する重相関である場合について、第A重みaの算出方法を以下に説明する。
【0104】
第A重みaの算出方法の説明に当たって、第1および第2データ項目x、xと出力値yとの関係は、図10に示す関係であるとする。すなわち、出力値yは、第3ないし第Nデータ項目x〜xの値に係わらず第1および第2データ項目x、xの値だけに依存し、第1および第2データ項目x、xの増加に従って徐々にそのばらつきが大きくなる分布を取る。
【0105】
この重相関の場合も前記単相関の場合と同様に、第1ステップないし第3ステップを実行することによって、平均値μx1および平均値μx2とばらつき度合いσとの関係が求められる。
【0106】
ここで、第1ステップにおいて、式2で表された単相関の場合における集合Sに対応する、第1データ項目xにおいて第k番目の第k区間(k∈K)に含まれ、かつ、第2データ項目xにおいて第j番目の第j区間(j∈J)に含まれる過去実績データ{(y、xi1、xi2)}の集合S(k、j)は、式7によって表される。
【0107】
【数7】

【0108】
また、第2ステップにおいて、単相関の場合における前記式3は、この重相関の場合では、式8のようになる。すなわち、第1データ項目xに関し、隣接区間とのずれ量△kと前記区間の範囲の幅△xとの間には、前記区間の範囲の幅△xが隣接区間とのずれ量△kよりも大きい関係とされ、第2データ項目xに関し、隣接区間とのずれ量△kと前記区間の範囲の幅△xとの間には、前記区間の範囲の幅△xが隣接区間とのずれ量△kよりも大きい関係とされる。
【0109】
【数8】

【0110】
そして、このように第1ないし第K区間の各区間および第1ないし第J区間の各区間について、そのばらつき度合いσならびに平均値μx1および平均値μx2を求めると、例えば、一例として図11に示すように、平均値μx1および平均値μx2とばらつき度合いσとの関係が得られる。ここで、平均値μx1および平均値μx2とばらつき度合いσとの関係を求める場合において、第2データ項目xj2を第j区間に固定して第1データ項目xi1を第1区間から第K区間まで走査しながら当該区間のばらつき度合いσがそれぞれ求められ、次に、第2データ項目xj2を第j+1区間に固定して第1データ項目xi1を第1区間から第K区間まで走査しながら当該区間のばらつき度合いσがそれぞれ求められる。このような手順が第2データ項目xj2の第1区間から第J区間まで行われる。このように一方のデータ項目の区間を固定しながら他方のデータ項目の区間を走査することで、平均値μx1および平均値μx2とばらつき度合いσとの関係が得られる。この平均値μx1および平均値μx2とばらつき度合いσとの関係は、第1および第2データ項目x、xの各値xi1、xi2による、出力値yの分布(分布の幅、ばらつきの大きさ)の変化を表している。前記図11に示す例では、第1データ項目xの値xi1が大きくなるに従って出力値yのばらつき度合いσも大きくなるが、第2データ項目xの値xj2が大きくなるに従って出力値yのばらつき度合いσは、あまり変化していない。
【0111】
このため、続いて、第3に、単相関の第3ステップと同様に、平均値μx1をいわゆるx軸とし、平均値μx2をいわゆるy軸とし、ばらつき度合いσをいわゆるz軸とする場合に、ばらつき度合いσが式9によって表され、平均値μx1および平均値μx2とばらつき度合いσとの関係における傾きa、aがそれぞれ求められ、これら求められた各傾きa、aがそれぞれ第1および第2データ項目x、xの第A重みa、aとされる。
【0112】
【数9】

【0113】
このように重相関の場合も単相関の場合と同様に第1ステップないし第3ステップを実行することによって、第1データ項目xによる出力値yのばらつきに与える影響度合いを表す第A重みaが求め、第2データ項目xによる出力値yのばらつきに与える影響度合いを表す第A重みaが求められる。
【0114】
ここで、単相関の場合と同様に、図12に示すように、過去実績データのデータ数nに応じた第B重みbをさらに算出し、この第B重みbを用いて平均値μx1および平均値μx2とばらつき度合いσとの関係が求められてもよい。
【0115】
このような第B重みb(k、j)を求める場合では、式10に示す重み付き最小二乗法によって、平均値μx1(k、j)および平均値μx2(k、j)とばらつき度合いσ(k、j)との関係を表す回帰式が求められる。
【0116】
【数10】

【0117】
ここで、大文字のパイΠ、大文字のガンマΓおよび大文字のWは、それぞれ式11に示す通りである。
【0118】
【数11】

【0119】
また、ここで、第iデータ項目xによる出力yのばらつきへ与える影響だけでなく、第iデータ項目xによる出力yの値へ与える影響も考慮することによって、第A重みaを求める場合には、前記式9だけでなく、式12の各パラメータα,α、βが重回帰によって求められ、第A重みaが、例えば、式13−1のように定義され、パラメータaの二乗とパラメータαの二乗との和の平方根で求められてもよい。あるいは、第A重みaが、例えば、式13−2のように定義され、パラメータaの絶対値とパラメータαの絶対値との和で求められてもよい。あるいは、第A重みaが、例えば、式13−3のように定義され、パラメータaとパラメータαとの乗算の絶対値の平方根で求められてもよい。これによって第iデータ項目xによる出力値yのばらつきへ与える影響と、第iデータ項目xによる出力yの値へ与える影響とを考慮することによって、第A重みaを求めることができ、予測値yのばらつきの精度が向上する。すなわち、出力yのばらつきに影響を与えるが出力yの値には影響を与えないデータ項目xと、出力yのばらつきには影響を与えないが出力yの値に影響を与えるデータ項目xと、出力yのばらつきに影響を与えるとともに出力yの値にも影響を与えるデータ項目xと、出力yのばらつきに影響を与えないとともに出力yの値にも影響を与えないデータ項目xとのそれぞれについて、その影響の大きさに応じて第A重みaを求めることが可能となる。
【0120】
【数12】

【0121】
【数13】

【0122】
なお、前記関係式(回帰式)を求める場合に、最小二乗法や重み付き最小二乗法が用いられたが、部分最小二乗法が用いられてもよい。これによって変数間にいわゆる多重共線性が存在する場合でも精度よく第A重みaを求めることが可能となる。
【0123】
そして、距離算出部11は、この重み算出部111によって算出された第A重みaを用いて算出した各距離dを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
【0124】
図2に戻って、次に、出力値予測装置Sは、予測対象データXとどの程度似ているかを評価するために、両データx間の類似度(類似性の度合い)wを、第1ないし第M過去実績データ(X、y)のそれぞれについて、演算制御部1の類似度算出部12によって算出し、この算出した各類似度wを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する(S12)。類似度wは、例えば、前記重み付きユークリッド距離dが小さいほど類似度が大きく、かつ、正の値を取るように、定義される。
【0125】
より具体的には、類似度算出部12は、例えば、類似度wを式14−1によって算出する。また例えば、類似度算出部12は、類似度wを式14−2によって算出する。また例えば、類似度算出部12は、例えば、類似度wを式14−3によって算出する。
【0126】
【数14】

【0127】
ここで、wは、予測対象データXに対する第j番目の過去実績データXの類似度であり、σは、正規化パラメータであり、具体的にはd(j=1〜M)の標準偏差であり、c、g、rは、正の実数の調整パラメータである。上付きバーのdは、d(j=1〜N)の平均値である。
【0128】
そして、類似度算出部12は、この算出した各類似度wを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
【0129】
なお、類似度wの上限値および/またはその下限値が設けられ、式14−1ないし式14−3のいずれかによって算出された類似度が前記上限値を超える場合には、類似度が前記上限値に置き換えられ、および/または、式14−1ないし式14−3のいずれかによって算出された類似度が前記下限値を超える場合には、類似度が前記下限値に置き換えられるように類似度算出部12が構成されてもよい。このように構成されることによって、特定の過去実績データだけが、過剰に類似度が大きくなったり、逆に小さくなったりすることを防ぐことが可能となる。特定の過去実績データだけが、その類似度が過大になってしまうと、仮に、そのデータ計測値にたまたま誤差があった場合に、その誤差に引っ張られて、間違ったばらつきの予測を行ってしまうことになる。このため、上述のように、上限値を設定することは、誤差に強くなる効果を奏する。
【0130】
また例えば、予め所定の閾値が設けられ、式14−1ないし式14−3のいずれかによって算出された類似度が前記閾値以下である場合には、類似度が0に置き換えられるように、類似度算出部12が構成されてもよい。あるいは、式14−1ないし式14−3のいずれかによって算出された類似度が小さい順に並べられ、小さい方から予め設定された所定数(または所定割合)までの類似度が0に置き換えられるように、類似度算出部12が構成されてもよい。このように構成されることによって、予測値を求めるに当たって、予測対象データXにあまり類似しない過去実績データXを必要以上に考慮することを防ぐことが可能となる。また、予測対象データXにあまり類似しない過去実績データXが除外され、以下に説明する演算処理が不要となり、その結果、演算処理量の軽減(演算処理時間の短縮)が可能となる。
【0131】
次に、出力値予測装置Sは、不確定要素を表す誤差パラメータαを、第1ないし第M過去実績データ(X、y)のそれぞれについて、演算制御部1のパラメータ算出部13によって算出し、この算出した各誤差パラメータαを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する(S13)。
【0132】
より具体的には、パラメータ算出部13は、出力値yを予測する予測モデル(第3モデル)をM個の過去実績データ(X、y)に基づいて求め、この求めたモデルを用いることによって、第1ないし第M過去実績データ(X、y)のそれぞれについて、各誤差パラメータαを求める。
【0133】
この予測モデルは、例えば、式15の関数fによって表現される。この場合において、パラメータ算出部13は、関数式15の係数ΘをM個の過去実績データ(X、y)に基づいて求め、この求めた関数式15を用いることによって、第1ないし第M過去実績データ(X、y)のそれぞれについて、各誤差パラメータαを求める。
【0134】
【数15】

【0135】
ここで、Zは、例えば操業条件(製造条件)の各条件や製造工程の各工程における各測定項目等の、出力値yの予測に関与する要因であり、複数L個の要素zを備えて構成される(Z=[zj1、zj2、・・・、zjL])。Zは、例えば、出力値yに関与する要因における複数の要素であるデータ項目(X=[xj1、xj2、・・・、xjN])の一部または全部によって構成される。なお、Zは、さらに、前記データ項目X以外の要素を含んでいてもよい。Zは、関数fの式15を決定する際に予め設定される。Θは、関数式15の係数であり、M個の過去実績データ(X、y)に基づいて同定計算によって求められる。この同定には、最小二乗法、最尤推定法、部分最小二乗法、二次計画法およびPSO(Particle Swarm Optimization)等の、出力値yの実績値と予測値yとの誤差が所定の評価関数の下(所定の制約条件の範囲内)で最小(または最大)となるように決定する方法が用いられる。αは、不確定要素を表す誤差パラメータであり、ΘおよびZだけでは出力yを表現しきれない要因(ばらつきの要因)を表すものであり、ΘおよびZを用いて出力yを予測した場合における予測値yと実績値yとの誤差に相当する。
【0136】
出力値yを重回帰式によって予測する場合には、関数式15は、例えば、式16−1を用いることができ、第j番目の過去実績データ(X、y)における誤差パラメータαは、式16−2によって与えられる。この式16−1によって表現されるモデルは、不確定要素(ばらつきの要因)が加法的に存在する場合に有効である。
【0137】
【数16】

【0138】
また例えば、出力値yを重回帰式によって予測する場合には、関数式15は、例えば、式17−1を用いることができ、第j番目の過去実績データ(X、y)における誤差パラメータαは、式17−2によって与えられる。この式17−1によって表現されるモデルは、不確定要素が乗法的に存在する場合に有効である。
【0139】
【数17】

【0140】
また例えば、出力値yを重回帰式によって予測する場合には、関数式15は、例えば、式18−1を用いることができ、第j番目の過去実績データ(X、y)における誤差パラメータαは、式18−2によって与えられる。この式18−1によって表現されるモデルは、zj1の影響係数に不確定要素が存在する場合に有効である。
【0141】
【数18】

【0142】
なお、上述では、関数fを表す数式が用いられたが、関数fを表すテーブル、収束計算アルゴリズム、if−thenルール、ファジィ推論、ニューラルネットワークおよびJIT(Just in Time)モデル等を含む演算プログラムが用いられてもよい。ここで、誤差パラメータαがZ、Θおよびyから逆算で求めることができない場合には、例えば二分探索法や絨毯爆撃法やPSO(Particle Swarm Method)等で、誤差パラメータαの値を種々の値に振ってその出力値yがyに一致するような誤差パラメータαを求めればよい。
【0143】
そして、パラメータ算出部13は、この算出した各誤差パラメータαを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
【0144】
このような各処理S11〜S13によって算出された重み付きユークリッド距離d、類似度wおよび誤差パラメータαは、例えば、図13に示すように表形式(テーブル形式)によって中間データ記憶部42に記憶される。この図13に示す中間データテーブル52は、実測された出力値yを登録する出力フィールド521、この出力値yに関与する要因における複数の要素に対応するデータ項目のうちで類似度の算出に用いられたデータ項目のデータxを登録する類似度計算用データフィールド522、この出力値yに関与する要因における複数の要素に対応するデータ項目のうちで予測値yの算出に用いられたデータ項目のデータxを登録する出力予測用データフィールド523、当該過去実績データ(X、y)の重み付きユークリッド距離dを登録する重み付き距離フィールド524、当該過去実績データ(X、y)の類似度wを登録する類似度フィールド525、および、当該過去実績データ(X、y)の誤差パラメータαを登録する誤差パラメータフィールド526の各フィールドを備えて構成され、過去実績データ(X、y)ごとにレコードを備え、さらに、予測対象データXのレコードを備えている。そして、類似度計算用データフィールド522は、類似度の算出に用いられた各データ項目に応じたデータ項目サブフィールド5221〜522Nを備えている。同様に、出力予測用データフィールド523は、予測値の算出に用いられた各データ項目に応じたデータ項目サブフィールド5231〜523Lを備えている。なお、図13に示す中間データテーブル52おける出力フィールド521および類似度計算用フィールド522は、図3に示す実測データテーブル51における出力フィールド511およびデータフィールド512にそれぞれ対応する。
【0145】
次に、出力値予測装置Sは、演算制御部1の予測値算出部14によって、処理S13で求めた予測モデルを用いて、予測対象データXにおける第1ないし第Nデータ項目の各データ値x01〜x0Nに基づいて予測値yを、処理S13で求めた各誤差パラメータαのそれぞれについて算出し、この算出した各予測値yを記憶部4の予測値記憶部43に記憶する(S14)。ここで、この処理S14において、予測モデルは、誤差パラメータαが処理S13で求めた各誤差パラメータαのそれぞれに変更される。例えば、上述の関数fの式15によって予測モデルが表現される場合では、処理S13で求められた係数Θであって、処理S13で求めた各誤差パラメータαのそれぞれに変更される関数fの式15に、予測対象データXにおける第1ないし第Nデータ項目のうちの予測値yの算出に用いられた第1ないし第Lデータ項目の各データ値x01〜x0LをZとして用いることによって、予測値算出部14は、前記予測値yを、処理S13で求めた各誤差パラメータαのそれぞれについて算出する。前記予測値yは、各誤差パラメータαがM個であるから、予測値y01〜y0MのM個となる。
【0146】
なお、処理S14においても、処理S13と同様に、関数fを表すテーブル、収束計算アルゴリズム、if−thenルール、ファジィ推論、ニューラルネットワークおよびJITモデル等を含む演算プログラムが用いられてもよい。
【0147】
このような各処理S14によって算出された各予測値y01〜y0Mは、例えば、図14に示すように表形式(テーブル形式)によって予測値記憶部43に記憶される。この図14に示す予測値データテーブル53は、処理S14によって算出された予測値yを登録する予測値フィールド531、予測対象データXにおける第1ないし第Nデータ項目のうちの予測値yの算出に用いられた第1ないし第Lデータ項目の各データ値x01〜x0Lを登録する出力予測用データフィールド532、処理S13によって算出された誤差パラメータαを登録する誤差パラメータフィールド533、および、当該パラメータフィールド533の誤差パラメータの算出に用いられた過去実績データ(X、y)における類似度wを登録する類似度フィールド534の各フィールドを備えて構成され、誤差パラメータαごとにレコードを備えている。なお、図14に示す予測値データテーブル53おける誤差パラメータフィールド533および類似度フィールド534は、図13に示す中間データテーブル52における誤差パラメータフィールド526および類似度フィールド525にそれぞれ対応する。ここで、各処理S14によって算出された各予測値y01〜y0Mは、図14に示すように、当該予測値yに対応する類似度wも、互いに対応するように予測値記憶部43に記憶されている。
【0148】
次に、出力値予測装置Sは、演算制御部1のばらつき算出部15によって、処理S14で求めた各予測値y01〜y0Mを用いて、予測値yのばらつきを算出し、この算出した予測値yのばらつきを記憶部4のばらつき記憶部44に記憶する(S15)。
【0149】
本実施形態では、類似した条件では類似した結果になるという経験則に基づき、予測対象データXのデータxと第j番目の過去実績データXのデータxとの類似性が高ければ(類似度wが大きければ)、予測対象データXの誤差パラメータαも類似性が高くなると考えられる。このため、予測対象データXの予測値yは、類似度wで、誤差パラメータαを用いて予測した予測値y0jになると考えられる。
【0150】
このような考えに基づいて、より具体的には、ばらつき算出部15は、図15(A)に示すように、縦軸に予測値yをとると共に横軸に類似度wをとって、まず、M個の各過去実績データ(X、y)からそれぞれ算出されたM個の各誤差パラメータα(j=1〜M)にそれぞれ対応するM個の各予測値y0jに対し、その類似度wを対応させる。次に、ばらつき算出部15は、図15(A)の縦軸yの少なくとも各予測値を含む範囲y0jを有限個の複数の区間(クラス、等級)に分割し、各区間に含まれる予測値y0jの類似度wを全て足し合わせることによって重み付き度数Fを生成し、図15(B)に示すように、予測値yのばらつきを表すヒストグラムを生成する。
【0151】
すなわち、式19に示すように、予測値y0jが第k番目の区間(Y以上Yk+1未満の区間)に含まれるjの集合をSとする場合(S={j|Y≦y0j<Yk+1})に、集合Sに含まれるjについて類似度wを全て足し合わせたものが第k番目の区間における重み付き度数Fとなる。
【0152】
【数19】

【0153】
このように予測値yのばらつきがヒストグラムによって示され、予測値yの出現頻度を容易に知ることが可能となる。
【0154】
このように図15(B)に示すヒストグラムが予測値yのばらつきとされてもよいが、本実施形態では、さらに、ばらつき算出部15は、図15(B)に示すヒストグラムの面積が1となるように正規化する。この正規化されたヒストグラムが予測対象データXにおける予測値yの確率密度とされ、予測値yのばらつきとされる。さらに、ばらつき算出部15は、面積を1に維持したまま図15(B)に示すヒストグラムを、図15(C)に示すように曲線で表してもよい。この曲線が予測対象データXにおける予測値yの確率密度とされ、予測値yのばらつきとされる。
【0155】
なお、前記正規化は、例えば、図15(A)の縦軸yを有限個の区間に分割する際に、均等な幅h=|Yk+1−Y|に分割されるとした場合に、式20によって実行される。
【0156】
【数20】

【0157】
また、この図15(B)に示すヒストグラムから図15(C)に示す曲線を求める際には、例えば対数正規分布やワイブル分布等の、既知の確率分布が利用されてもよい。
【0158】
図16は、図15(B)に示すヒストグラムから図15(C)に示す確率密度曲線を求める手法を説明するための図である。図16(A)は、ヒストグラムの各中心点を折れ線で結んだ様子を示し、図16(B)は、図16(A)の累積確率密度を示し、図16(C)は、図16(B)に示す累積確率密度を平滑化した様子を示し、そして、図16(D)は、平滑化した確率密度(確率密度曲線)を示す。
【0159】
まず、図16(A)に示すように、図15(B)に示す正規化したヒストグラムにおいて、各度数の中心位置(y方向の中心)を折れ線で結ぶ。なお、各両端において、端部から区間の幅hの半分(h/2)だけ離れた点も0として前記折れ線に結ばれる。この折れ線で囲まれた面積も1とされている。
【0160】
次に、図16(B)に示すように、図16(A)から式21−1によって累積確率密度SwNが求められる。
【0161】
次に、図16(C)に示すように、図16(B)の折れ線の累積確率密度SwNが例えば式21−2を用いることによって平滑化される。
【0162】
そして、図16(D)に示すように、図16(C)に示す平滑化された累積確率密度から例えば式21−3を用いることによって、平滑化された確率密度(確率密度曲線)が求められる。
【0163】
【数21】

【0164】
このように予測値yのばらつきが確率密度によって示され、予測値yの出現確率を容易に知ることが可能となる。
【0165】
また、前記重み付き度数Fを算出する場合において、M個の過去実績データ(X、y)のうちの類似度wが高い順(大きい順)に並べられ、大きい方から予め設定された所定数(所定割合)までの過去実績データ(X、y)が抽出され、この抽出されたデータのみを用いることによって前記重み付き度数Fが求められてもよい。類似度wの低い過去実績データ(X、y)を予め除去することによって、前記重み付き度数Fを算出するための演算処理量の軽減(演算処理時間の短縮)が可能となる。また、上述した式14(式14−1〜式14−3)によって類似度wを算出する場合では、予測対象データXとの類似度wが低い過去実績データ(X、y)についても、類似度が0になることがないため、前記重み付き度数Fに影響を与えることになる。このため、図15(B)に示す重み付き度数Fの幅は、M個の予測値yの幅に一致し、関数fが式16である場合には、その幅は、予測対象データXの条件によらずに常に一定となる。その結果、図15(C)に示す確率密度の裾野が必要以上に広がってしまう場合がある。しかしながら、上述のように、類似度wの小さい過去実績データ(X、y)を除外することによって、確率密度の裾野が過剰に拡がることが防止され、予測対象データXにおける予測値yの分布形状の特徴が顕著に表現される。
【0166】
そして、出力値予測装置Sは、演算制御部1によって、処理S15でばらつき算出部15によって算出された予測値yのばらつきを提示部3に提示し(S16)、処理が終了される。このように予測値yのばらつきが提示部3に提示されるので、ユーザは、予測値yのばらつきを知ることができ、予測値yに基づいて操作や判断等を行う場合に予測値yのばらつきも考慮することが可能となる。
【0167】
このように出力値予測装置Sが動作することによって、M個の過去実績データ(X、y)から算出されたM個の誤差パラメータα(j=1〜M)を用いることで、予測対象データXの予測値yがM通り算出され、そして、予測対象データXとの類似度wに従って予測値yに対する重み付き度数Fが算出される。さらに、重み付き度数Fから確率密度が算出される。このため、過去実績データ(X、y)と予測対象データXとの類似性が考慮された予測対象データXにおける予測値yのばらつきが高精度に求められる。したがって、出力値予測装置Sは、予測値yのばらつきを提示することができ、ひいては予測値yに基づいて操作や判断等を行う場合に予測値yのばらつきも考慮することが可能となる。
【0168】
そして、本実施形態では、予測対象データXと過去実績データ(X、y)との類似度wおよび過去実績データ(X、y)に基づいて予測対象データXの出力値yのばらつきを算出する際に、データ項目xが所定の出力yにおけるばらつきの大きさに寄与する程度が第A重みaとして前記データ項目xについて算出され、この算出された第A重みaを用いて、予測対象データXと過去実績データ(X、y)との所定の距離dが算出され、そして、この算出された所定の距離dに基づいて前記類似度wが算出される。したがって、本実施形態では、予測値yのばらつきに与える影響をデータ項目xについて評価して予測値yのばらつきを求めることができる。このため、予測対象データXと過去実績データ(X、y)との類似度wがより適切に評価され、予測値yのばらつきの精度がより向上する。
【0169】
次に、別の実施形態について説明する。
(第2実施形態)
例えば鉄鋼製品の製造や化学製品の製造のように、比較的大規模な製造プラントで様々な製造プロセスを経て製造される製品では、例えば投入量、操作入力量および時間経過等に応じて、各製造プロセスにおける出力値や製品に直結する最終プロセスの出力値が刻々と変化することが多い。例えば、鉄鋼製品の製造プロセスにおいて、トピードカー内の溶銑温度と経過時間との関係、取鍋内の溶鋼温度と経過時間との関係、転炉吹錬における溶鋼中炭素濃度と吹込酸素積算値との関係、および、転炉吹錬における溶鋼温度と吹込酸素積算値との関係等が挙げられる。
【0170】
図17は、物体の温度降下量と経過時間との関係を示す図である。大気中に放置された物体の温度降下量(初期温度からの偏差)yと経過時間(温度を測定した時間)tとの関係を各過去実績データについて○でプロットした場合に、図17に示す結果であったと仮定する。ここで、所定の時刻tにおける温度降下量y(t)を予測する際に、時刻t付近の過去実績データを用いることによって確率密度を求める場合には、次の問題が生じ得る。すなわち、第1に、過去実績データが少ない(あるいは存在しない)時間領域では、活用可能なデータが非常に少なく、活用されるデータが過去実績データの一部でしかない。このため、予測対象データの温度降下量y(t)の分布を高精度に予測することが困難である。そして、第2に、予測対象データと類似度の大きい過去実績データが前記所定の時刻t付近にあるとは限らず、時刻tから離れた処に予測対象データと類似度の大きい過去実績データがあった場合に、その過去実績データが活用されない。
【0171】
そこで、このような問題に対し、図17に細破線によって過去実績データの一部について示すように、各過去実績データにおける温度降下量yの経過温度tとの関係を表す予測モデルを構築し、各過去実績データを所定の時刻tに投影することによって(すなわち、構築した予測モデルの時刻tにおける温度降下量y(t)を求めることによって)、所定の時刻tから離れた過去実績データも予測値y(t)における確率密度の推定に活用することができ、予測対象データの予測値y(t)のばらつきをより高精度に求めることが可能となる。
【0172】
第2実施形態は、第1実施形態の出力値予測装置Sを上述の場合に適用したものである。したがって、第2実施形態における出力値予測装置Sは、第1実施形態の出力値予測装置Sにおいて、パラメータを算出するパラメータ算出処理(S13)および予測値を算出する予測値算出処理(S14)が以下のように処理を実行する点を除き、第1実施形態における出力値予測装置Sと同様であるので、同様の点の説明を省略する。
【0173】
図18は、過去実績データのモデルを示す図である。図19は、予測値のばらつきの算出手順を説明するための図である。図19(A)は、所定の時刻tにおける予測値y(t)を示し、図19(B)は、類似度wと出力の予測値y(t)との関係を示し、その横軸は、類似度wであり、その縦軸は、予測値y(t)である。
【0174】
第2実施形態の出力値予測装置Sでは、記憶部4の実測データ記憶部41には、第1実施形態と同様に、表形式(テーブル形式)で過去実績データおよび予測対象データが予め記憶されている。そして、第2実施形態では、過去実績データおよび予測対象データは、温度降下量y、当該温度降下量yを測定した実測時刻t、および、温度降下量yに関与する要因データxを備えて構成される。温度降下量yは、出力値yに対応し、実測時刻tは、出力値yに関与する要因における要素の1つと見ることができる。すなわち、出力値yに関与する要因Xには、少なくとも時間tを要素として含むんでいる。実測時刻tの原点は、温度降下量y=0の時刻、すなわち、物体の初期温度の時刻(物体の温度の測定を開始した時刻)である。なお、時間tが要因Xに含まれずに、要因Zに含まれるように、出力値予測装置Sが構成されてもよい。
【0175】
そして、過去実績データ((X、t)、y)に基づいて予測対象データ(X、t)から出力値(予測値)yの予測が開始されると、処理S11では、第1実施形態と同様に、距離算出部11は、重み算出部111によって重みaを算出し、第1ないし第Nデータ項目空間において、この重みaを用いて過去実績データ(X、t)と予測対象データ(X、t)との間の距離dを算出し、この算出した距離dを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
【0176】
次に、処理S12では、第1実施形態と同様に、類似度算出部12は、予測対象データXと過去実績データXとの間における類似度wを、第1ないし第M過去実績データ(X、y)のそれぞれについて算出し、この算出した各類似度wを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
【0177】
次に、処理S13では、前記式15に代えて、式15A;y(t)=f(Z、Θ、α、t)を用い、他は第1実施形態と同様に処理することによって、パラメータ算出部13は、不確定要素を表す誤差パラメータαを、第1ないし第M過去実績データ((X、t)、y)のそれぞれについて、算出し、この算出した各誤差パラメータαを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。ここで、y(t)は、実測時刻tによける温度降下量であり、Z、Θ、αは、第1実施形態の式15と同様である。図17には、式15Aが太破線によって示されており、図18には、各過去実績データ((X、t)、y)のモデルが細破線によって示されている。
【0178】
次に、処理S14では、予測時刻tを用い、他は第1実施形態と同様に処理することによって、予測値算出部14は、図19(A)に示すように、前記処理S13で求めたモデルを用いて、予測対象データ(X、t)における予測時刻tおよび第1ないし第Nデータ項目の各データ値x01〜x0Nに基づいて予測値y(t)を、処理S13で求めた各誤差パラメータαのそれぞれについて算出し、この算出した各予測値y01(t)〜y0M(t)をその類似度w〜wと対応付けて記憶部4の予測値記憶部43に記憶する。図19(A)では、予測時刻tの各予測値y0j(t)がそれぞれ○で表示されている。
【0179】
次に、処理S15では、第1の実施形態と同様に、ばらつき算出部15は、前記処理S14で求めた各予測値y01〜y0Mを用いて、予測値y(t)のばらつきを算出し、この算出した予測値y(t)のばらつきを記憶部4のばらつき記憶部44に記憶する。より具体的には、ばらつき算出部15は、図19(B)に示すように、縦軸に予測値y(t)をとると共に横軸に類似度wをとって、まず、M個の各過去実績データ((t、x)、y)からそれぞれ算出されたM個の各誤差パラメータα(j=1〜M)にそれぞれ対応するM個の各予測値y0j(t)に対し、その類似度wを対応させる。次に、ばらつき算出部15は、図19(B)の縦軸y(t)の少なくとも各予測値y0j(t)を含む範囲を有限個の複数の区間(クラス、等級)に分割し、各区間に含まれる予測値y0j(t)の類似度wを全て足し合わせることによって重み付き度数Fを生成し、予測値y(t)のばらつきを表すヒストグラムを生成する。このヒストグラムが予測値y(t)のばらつきとされてもよいが、本実施形態では、さらに、ばらつき算出部15は、このヒストグラムの面積が1となるように正規化する。この正規化されたヒストグラムが予測対象データ(t、x)における予測値y(t)の確率密度とされ、予測値y(t)のばらつきとされる。あるいは、ばらつき算出部15は、さらに、面積を1に維持したままこのヒストグラムから上述と同様に前記曲線を求める。この曲線が予測対象データ(t、x)における予測値y(t)の確率密度とされ、予測値y(t)のばらつきとされる。
【0180】
このように動作することによって、第2実施形態の出力値予測装置Sでは、時間経過に従って出力が時々刻々と変化するプロセスにおける出力の予測値yを求めることが可能となり、そして、要因xの予測値yのばらつきに与える影響の程度を考慮した上で、この予測値yのばらつきを求めることが可能となる。また、第2実施形態の出力値予測装置Sでは、過去実績データが少ない(あるいは存在しない)時間領域でも、予測値yを求めることが可能となり、予測値yのばらつきも求めることが可能となる。また、第2実施形態の出力値予測装置Sでは、所定の時刻tから離れた過去実績データも予測値y(t)におけるばらつきの推定に活用することができ、予測対象データの予測値y(t)のばらつきをより高精度に求めることが可能となる。また、第2実施形態の出力値予測装置Sでは、図19から分かるように、互いに異なる複数の時刻tにおける予測値y(t)を求めることができ、予測値y(t)のばらつきも求めることが可能である。したがって、各時刻tにおける予測値y(t)のばらつきを比較することによって、最もリスクの少ない処理終了タイミングを決定することが可能となる。例えば、鉄鋼製品の製造プロセスの加熱炉において、鋼材が単に目標通りに加熱されたか否かだけではなく、温度外れの確率も考慮した上で、リスクの小さいタイミングで加熱処理を終了させることが可能となる。また例えば、転炉吹錬では、溶鋼温度や溶鋼中成分が目標から外れる確率を考慮した上で、リスクの少ないタイミングで吹錬を終了させることが可能となる。この転炉吹錬の場合では、図19(A)の横軸が吹錬吹込酸素量の積算値とされる。
【0181】
次に、別の実施形態について説明する。
(第3実施形態)
鉄鋼製品の製造プロセスにおける、転炉吹錬終了後、転炉から取鍋に溶鋼が移され、溶鋼処理を経て、連鋳設備まで溶鋼が搬送されるプロセスでは、連鋳設備でスムーズに鋳造するために、取鍋が連鋳設備に到着した際に溶鋼温度が凝固温度より若干高めであることが好ましい。溶鋼温度が下がり過ぎると溶鋼が凝固してしまい好ましくなく、溶鋼温度が高いままだと鋳造速度を減速せざるを得ず好ましくない。各チャージによって、溶鋼成分、溶鋼量、取鍋の種類、取鍋の初期状態(耐火物の溶損状況、取鍋内部の温度分布(冷え具合))、転炉から受鋼する際に取鍋内にあらかじめ入れて置く合金量・合金種類などによって、温度降下量がばらつく。そのため、時々刻々と変化する溶鋼温度を確定的に一点で予測することは、困難である。したがって、当該チャージの取鍋内溶鋼温度のばらつきを精度よく推定することは、重要である。
【0182】
第3実施形態は、所定の出力が転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおける取鍋内の溶鋼温度とされ、第1実施形態の出力値予測装置Sを適用したものであり、第3実施形態における出力値予測装置Sは、転炉から取鍋に移された溶鋼が溶鋼処理設備に搬送されるまでにおいて、溶鋼の温度降下量について、確率分布を推定するものである。したがって、第3実施形態における出力値予測装置Sは、第1実施形態の出力値予測装置Sにおいて、距離を算出する距離算出処理(S11)、パラメータを算出するパラメータ算出処理(S13)および予測値を算出する予測値算出処理(S14)が以下のように処理を実行する点を除き、第1実施形態における出力値予測装置Sと同様であるので、同様の点の説明を省略する。
【0183】
図20および図21は、重み付き距離と類似度との関係を示す図である。図20および図21の横軸は、重み付き距離dであり、それら縦軸は、類似度wである。図22は、過去実績データのモデルを示す図である。図23は、各予測値における確率密度を示す図である。図22および図23の横軸は、分(min)単位で表す経過時間tであり、それらの縦軸は、度(℃)単位で表す温度降下量y(t)である。
【0184】
第3実施形態の出力値予測装置Sでは、記憶部4の実測データ記憶部41には、第1実施形態と同様に、表形式(テーブル形式)で過去実績データおよび予測対象データが予め記憶されている。そして、第2実施形態では、過去実績データおよび予測対象データは、温度降下量y、当該温度降下量yを測定した実測時刻t、および、温度降下量yに関与する要因データxを備えて構成される。温度降下量yは、出力値yに対応し、実測時刻tは、出力値yに関与する要因における要素の1つと見ることができる。実測時刻tの原点は、温度降下量y=0の時刻、すなわち、物体の初期温度の時刻(物体の温度の測定を開始した時刻)である。温度降下量yに関与する要因における各要素(データ項目)は、取鍋の受鋼回数、脱酸剤の種類、溶鋼炭素濃度、取鍋の空鍋状態、出鋼温度、凝固温度および操業班等の各項目である。ここで、本実施形態では、取鍋の受鋼回数は、例えば受鋼回数の平方根とされるように、非線形関数で変換される。脱酸剤の種類は、脱酸の強さに応じて数値化される。取鍋の空鍋状態(溶鋼が入っていない状態)は、時間放置、時間保温および保温後の放置時間等が非線形関数で数値化される。操業班は、班ごとに識別子が与えられる。
【0185】
そして、過去実績データ((X、t)、y)に基づいて予測対象データ(X、t)から出力値(予測値)yの予測が開始されると、処理S11では、式22で定義される距離dを用い、他は第1実施形態と同様に処理することによって、距離算出部11は、重み算出部111によって第A重みaを算出し、第1ないし第Nデータ項目空間において、この第A重みaを用いて過去実績データ(X、t)と予測対象データ(X、t)との間の距離dを算出し、この算出した距離dを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
【0186】
【数22】

【0187】
ここで、f(Xji,x0i)は、xjiとx0iとが同じ場合に0をとり、xjiとx0iとが異なる場合に1をとる関数である。そして、本実施形態では、a(i=1〜N)=1とされる。Nは、データ項目数である。また、k<Nである。
【0188】
当該チャージの操業条件と各過去チャージの操業条件とを比較する場合、例えば操業班や設備の番号(複数ある設備のうちで処理に供した設備の番号)等のように、引き算をすることができないデータ項目、あるいは、引き算自体に意味をもたないデータ項目もあり、式23で定義される距離dは、このようなデータ項目が同じか否かに意味があるデータ項目の場合に有効である。
【0189】
また、類似度を計算する際のデータ項目として、日時や年月日を加えても良い。プロセスによっては、経年変化や季節変動要因など、月日が経過するに従って特性が変わるものがある。このような場合、操業条件が同一でも月日が離れていると結果が異なる虞がある。月日をデータ項目として加えることによって、古いデータの類似度wを小さくし、経年変化を考慮した予測をすることができる。なお、年月日は、基準日(例えば1900年1月1日)からの経過日数で表現すればよい。
【0190】
次に、処理S12では、第1実施形態と同様に、類似度算出部12は、予測対象データXと過去実績データXとの間における類似度wを、第1ないし第M過去実績データ(X、y)のそれぞれについて算出し、この算出した各類似度wを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
【0191】
ここで、類似度wとして、式14−3、すなわち、式23で定義される類似度が用いられる。
【0192】
【数23】

【0193】
ここで、μは、距離d(j=1〜M)の平均値であり、σは、距離d(j=1〜M)の標準偏差である。また、本実施形態では、g=1とされる。前記式22による重み付き距離dと式23による類似度wとの関係を図20に示す。
【0194】
本実施形態では、図21に示すように、予め設定された所定の閾値よりも小さい類似度wは、0とされる。類似度wの低い過去実績データ((t、x)、y)を予め除去することによって、例えば重み付き度数Fを算出するための演算処理量等の以下の演算処理量の軽減(演算処理時間の短縮)が可能となる。
【0195】
次に、処理S13では、前記式15に代えて、式24−1および式24−2を用い、他は第1実施形態と同様に処理することによって、パラメータ算出部13は、不確定要素を表す誤差パラメータαを、第1ないし第M過去実績データ((X、t)、y)のそれぞれについて算出し、この算出した各誤差パラメータαを記憶部4の中間データ記憶部42に記憶する。
【0196】
【数24】

【0197】
ここで、y(t)は、実測時刻tによける温度降下量であり、T0jは、転炉から取鍋に溶鋼を移す時点の溶鋼温度である転炉出鋼温度であり、T∽jは、溶鋼の凝固温度であり、qは、取鍋に予め入っている合金(入れ置き合金)が奪う熱量を温度に換算した値であり、入れ置き合金が無い場合にはq=0となる。
【0198】
なお、出力予測溶データ項目は、本実施形態では、転炉出鋼温度T0j、溶鋼の凝固温度T∽j、入れ置き合金による温度降下qを推定するために必要な入れ置き合金の投入量である。
【0199】
そして、予測値yを重回帰式によって予測する場合には、関数式24に基づく、第j番目の過去実績データ((t、x)、y)における誤差パラメータαは、式25によって与えられる。
【0200】
【数25】

【0201】
なお、第j番目の過去実績データから求めた誤差パラメータαに対応する予測値y0j(t)は、式26−1および式26−2によって与えられる。
【0202】
【数26】

【0203】
ここで、T00は、予測対象のチャージにおける転炉出鋼温度であり、T∽0は、予測対象のチャージにおける溶鋼の凝固温度であり、qは、予測対象のチャージにおける入れ置き合金が奪う熱量を温度に換算した値である。
【0204】
図22には、各過去実績データ((X、t)、y)のモデルが示されている。
【0205】
次に、処理S14では、予測時刻tを用い、他は第1実施形態と同様に処理することによって、予測値算出部14は、前記処理S13で求めたモデルを用いて、予測対象データ(X、t)における予測時刻tおよび第1ないし第Nデータ項目の各データ値x01〜x0Nに基づいて予測値y(t)を、処理S13で求めた各誤差パラメータαのそれぞれについて算出し、この算出した各予測値y01(t)〜y0M(t)をその類似度w〜wと対応付けて記憶部4の予測値記憶部43に記憶する。
【0206】
次に、処理S15では、第1の実施形態と同様に、ばらつき算出部15は、前記処理S14で求めた各予測値y01〜y0Mを用いて、予測値y(t)のばらつきを算出し、この算出した予測値y(t)のばらつきを記憶部4のばらつき記憶部44に記憶する。より具体的には、ばらつき算出部15は、縦軸に予測値y(t)をとると共に横軸に類似度wをとって、まず、M個の各過去実績データ((t、x)、y)からそれぞれ算出されたM個の各誤差パラメータα(j=1〜M)にそれぞれ対応するM個の各予測値y0j(t)に対し、その類似度wを対応させる。次に、ばらつき算出部15は、前記縦軸y(t)の少なくとも各予測値y0j(t)を含む範囲を有限個の複数の区間(クラス、等級)に分割し、各区間に含まれる予測値y0j(t)の類似度wを全て足し合わせることによって重み付き度数Fを生成し、予測値y(t)のばらつきを表すヒストグラムを生成する。このヒストグラムが予測値y(t)のばらつきとされてもよいが、本実施形態では、さらに、ばらつき算出部15は、このヒストグラムの面積が1となるように正規化する。この正規化されたヒストグラムが予測対象データ(t、x)における予測値y(t)の確率密度とされ、予測値y(t)のばらつきとされる。あるいは、ばらつき算出部15は、さらに、面積を1に維持したままこのヒストグラムから上述と同様に前記曲線を求める。この曲線が予測対象データ(t、x)における予測値y(t)の確率密度とされ、予測値y(t)のばらつきとされる。図23には、10分ごとに温度降下量の予測値y(t)の確率密度が示されている。すなわち、予測時点が10分ごととされている。なお、図23において、○は、実測温度を示し、時間0の○は、転炉出鋼温度であり、約50分後の○は、予測対象データ(t、x)における溶鋼処理開始前の実測温度である。この約50分後の○で示す実測温度は、温度降下量の予測値y(t)の算出や図23に示す温度降下量の予測値y(t)の確率密度の算出には、用いていないが、参考のために、図23に表示されている。また、図23中の両○を結ぶ破線は、予測対象のチャージの溶鋼温度を式24によって計算したもので、式25の誤差パラメータαをフィッティングしたものであり、同様に、温度降下量の予測値y(t)の算出や図23に示す温度降下量の予測値y(t)の確率密度の算出には、用いていないが、参考のために、図23に表示されている。また、図23では、確率密度の横軸(図15(C)の横軸に対応する)は、見易くするために、スケールが拡大されている。
【0207】
このように動作することによって、第3実施形態の出力値予測装置Sでは、転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおいて、要因の取鍋内溶鋼温度のばらつきに与える影響の程度を考慮した上で、チャージの取鍋内溶鋼温度を予測し、この予測した取鍋内溶鋼温度のばらつきをより高精度に求めることが可能となる。
【0208】
なお、上述の第3実施形態では、所定の出力は、転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおける、取鍋内の溶鋼温度とされたが、所定の出力は、転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおける、タンディッシュ内の溶鋼温度とされてもよい。このように構成されることによって、転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおける、タンディッシュ内の溶鋼温度を予測し、この予測した予測値のばらつきを求めることが可能となる。
【0209】
また、上述の第3実施形態において、所定の出力は、転炉工程における、吹錬吸込み酸素の積算量に応じた溶鋼成分または溶鋼温度とされてもよい。このように構成されることによって、転炉工程における、吹錬吸込み酸素の積算量に応じた溶鋼成分または溶鋼温度を予測し、この予測した予測値のばらつきを求めることが可能となる。
【0210】
また、上述の第3実施形態において、所定の出力は、鋼材の加熱炉工程における、加熱時間または加熱熱量の積算量に応じた鋼材の鋼材温度とされてもよい。このように構成されることによって、鋼材の加熱炉工程における、加熱時間または加熱熱量の積算量に応じた鋼材の鋼材温度を予測し、この予測した予測値のばらつきを求めることが可能となる。
【0211】
第1ないし第3実施形態で説明したように、出力値予測装置Sは、操業プロセスや製造プロセスの各プロセスにおける出力値や製品に直結する最終プロセスの出力値をばらつきと併せて予測することが可能であり、ここで、操業プロセスや製造プロセスに出力値予測装置Sを適用した出力値予測システムの一構成例について、説明する。
【0212】
図24は、出力値予測システムの構成を示すブロック図である。図24において、出力値予測システムは、操業プロセス・製造プロセス201から実績データを収集する実績データ収集装置101と、実績データ収集装置101で収集した実績データを過去実績データとして記憶する過去操業データ記憶装置105と、実績データ収集装置101で収集した過去実績データに基づいて誤差パラメータαを算出するパラメータフィッティング演算装置102と、パラメータフィッティング演算装置102で算出した誤差パラメータαを記憶するパラメータ推定値記憶装置106と、操業プロセス・製造プロセス201から予測対象データを収集する予測対象データ操業条件収集装置104と、予測対象データと各過去実績データとの類似度を算出する類似度演算装置108と、予測対象データ操業条件収集装置104で収集した予測対象データから前記算出した誤差パラメータαに基づいて予測対象データの出力値(予測値)を予測する予測対象データ出力予測演算装置103と、予測対象データ出力予測演算装置103で予測した予測対象データの出力値(予測値)と類似度演算装置108で算出した類似度に基づいて予測対象データの予測値の確率密度を算出する出力予測値確率分布推定装置107と、出力予測値確率分布推定装置107で算出した予測対象データの予測値の確率密度を表示する確率分布表示装置109とを備えて構成される。
【0213】
図24に示す出力値予測システムと図1に示す出力値予測装置Sとを対比すると、類似度演算装置108は、距離算出部11(重み算出部111を含む)、類似度算出部12および中間データ記憶部42と略同様の機能を有し、パラメータフィッティング演算装置102は、パラメータ算出部13と略同様の機能を有し、予測対象データ出力予測演算装置103は、予測値算出部14および予測値記憶部43と略同様の機能を有し、出力予測値確率分布推定装置107は、ばらつき算出部15およびばらつき記憶部44と略同様の機能を有し、過去操業データ記憶装置105は、実績データ記憶部41と略同様の機能を有し、そして、パラメータ推定値記憶装置106は、中間データ記憶部42と略同様の機能を有している。
【0214】
このような構成の出力値予測システムは、プロセスの実施中において、予測対象データを収集すると、この予測対象データにおける予測値およびその確率密度を求めることができ、そして、これらを表示することができる。このため、オペレータ等のユーザは、この予測対象データにおける予測値およびその確率密度に基づいて適切にプロセスを調整し、その実施を行うことが可能となる。
【0215】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0216】
S 出力値予測装置
1 演算制御部
4 記憶部
11 距離算出部
12 類似度算出部
13 パラメータ算出部
14 予測値算出部
15 ばらつき算出部
41 実測データ記憶部
42 中間データ記憶部
43 予測値記憶部
44 ばらつき記憶部
102 パラメータフィッティング演算装置
103 予測対象データ出力予測演算装置
105 過去操業データ記憶装置
107 出力予測値確率分布推定装置
108 類似度演算装置
111 重み算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測したい予測対象データと、所定の出力と前記出力に関わる数値化可能な要因とから成り過去に取得された複数の過去実績データとの類似度を、前記予測対象データの要因および前記過去実績データの要因に基づいて前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する第1算出工程と、
前記第1算出工程によって算出された複数の類似度および前記過去実績データに基づいて、前記予測対象データの出力値のばらつきを算出する第2算出工程とを備え、
前記第1算出工程は、
前記予測対象データと前記過去実績データとの所定の距離を、前記予測対象データの要因および前記過去実績データの要因に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する距離算出工程と、
前記予測対象データと前記過去実績データとの前記類似度を、前記距離算出工程で算出された距離に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する類似度算出工程とを備え、
前記距離算出工程は、前記要因が前記所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度を第A重みとして前記要因について算出する重み算出工程を備え、前記重み算出工程で算出された第A重みを用いて前記所定の距離を算出すること
を特徴とする出力値予測方法。
【請求項2】
前記重み算出工程は、
前記所定の出力における前記ばらつきの大きさを第1出力変数とすると共に前記要因に関する変数を第1入力変数とした際に、前記複数の過去実績データに基づいて前記第1入力変数と前記第1出力変数との関係を表す第1モデルを生成し、前記第1モデルに基づいて前記第A重みを算出すること
を特徴とする請求項1に記載の出力値予測方法。
【請求項3】
前記重み算出工程は、前記複数の過去実績データの個数に応じた第B重みを算出し、前記第B重みを用いて前記第1モデルを生成すること
を特徴とする請求項2に記載の出力値予測方法。
【請求項4】
前記重み算出工程は、
前記複数の過去実績データから所定の過去実績データを除去した残余の過去実績データに基づいて前記第1モデルを生成すること
を特徴とする請求項2または請求項3に記載の出力値予測方法。
【請求項5】
前記距離算出工程は、前記要因が前記所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度および前記要因が前記所定の出力の大きさに寄与する程度を第A重みとして前記要因について算出する重み算出工程を備え、前記重み算出工程で算出された第A重みを用いて前記所定の距離を算出すること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の出力値予測方法。
【請求項6】
前記第2算出工程は、
前記所定の出力を出力変数とすると共に前記要因の一部または全部を入力変数とした際に、前記入力変数を用いて前記出力変数と前記入力変数との関係を表す第2モデルを生成した場合に、前記入力変数の入力値を前記第2モデルに与えることによって得られる値と前記入力変数の入力値に対応する前記出力変数の出力値との差である誤差パラメータを、前記過去実績データの入力変数および出力変数に基づいて前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出するパラメータ算出工程と、
前記入力変数および前記誤差パラメータを用いて前記出力変数と前記入力変数との関係を表す第3モデルを生成し、前記予測対象データの要因のうちの前記入力変数に対応する要因の値および前記誤差パラメータの値を前記第3モデルに与えることによって前記予測対象データの出力値を予測値として、前記パラメータ算出工程によって算出された複数の誤差パラメータのそれぞれについて算出する予測値算出工程と、
前記類似度算出工程によって算出された複数の類似度および前記予測値算出工程によって算出された複数の予測値に基づいて、前記予測対象データの出力値のばらつきを算出するばらつき算出工程とを備えること
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の出力値予測方法。
【請求項7】
前記要因は、複数の要素から成り、少なくとも時間を前記要素として含むこと
を特徴とする請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の出力値予測方法。
【請求項8】
前記所定の出力は、転炉出鋼工程から溶鋼処理工程を経て連鋳工程に至るプロセスにおける、取鍋内またはタンディッシュ内の溶鋼温度であること
を特徴とする請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の出力値予測方法。
【請求項9】
前記所定の出力は、転炉工程における、吹錬吸込み酸素の積算量に応じた溶鋼成分または溶鋼温度であること
を特徴とする請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の出力値予測方法。
【請求項10】
前記所定の出力は、鋼材の加熱炉工程における、加熱時間または加熱熱量の積算量に応じた前記鋼材の鋼材温度であること
を特徴とする請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の出力値予測方法。
【請求項11】
前記ばらつきを提示する提示工程をさらに備えること
を特徴とする請求項1ないし請求項10の何れか1項に記載の出力値予測方法。
【請求項12】
所定の出力と前記出力に関わる数値化可能な要因とから成り過去に取得された複数の過去実績データを記憶する実測データ記憶部と、
予測したい予測対象データと前記過去実績データとの類似度を、前記予測対象データの要因および前記過去実績データの要因に基づいて前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する第1算出部と、
前記第1算出部によって算出された複数の類似度および前記過去実績データに基づいて、前記予測対象データの出力値のばらつきを算出する第2算出部とを備え、
前記第1算出部は、
前記予測対象データと前記過去実績データとの所定の距離を、前記予測対象データの要因および前記過去実績データの要因に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する距離算出部と、
前記予測対象データと前記過去実績データとの前記類似度を、前記距離算出部で算出された距離に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する類似度算出部とを備え、
前記距離算出部は、前記要因が前記所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度を第A重みとして前記要因について算出する重み算出部を備え、前記重み算出部で算出された第A重みを用いて前記所定の距離を算出すること
を特徴とする出力値予測装置。
【請求項13】
コンピュータに実行させるための出力値予測プログラムであって、
予測したい予測対象データと、所定の出力と前記出力に関わる数値化可能な要因とから成り過去に取得された複数の過去実績データとの類似度を、前記予測対象データの要因および前記過去実績データの要因に基づいて前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する第1算出工程と、
前記第1算出工程によって算出された複数の類似度および前記過去実績データに基づいて、前記予測対象データの出力値のばらつきを算出する第2算出工程とを備え、
前記第1算出工程は、
前記予測対象データと前記過去実績データとの所定の距離を、前記予測対象データの要因および前記過去実績データの要因に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する距離算出工程と、
前記予測対象データと前記過去実績データとの前記類似度を、前記距離算出工程で算出された距離に基づいて、前記複数の過去実績データのそれぞれについて算出する類似度算出工程とを備え、
前記距離算出工程は、前記要因が前記所定の出力におけるばらつきの大きさに寄与する程度を第A重みとして前記要因について算出する重み算出工程を備え、前記重み算出工程で算出された第A重みを用いて前記所定の距離を算出すること
を特徴とする出力値予測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2010−231447(P2010−231447A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77533(P2009−77533)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】