説明

出力電圧切替機能を備えたスイッチング電源装置

【課題】出力電圧の発振や応答性が低下しない出力電圧切替機能を備えたスイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】PWM信号によりスイッチング素子をオン・オフ制御し、入力電圧を所望する出力電圧に変換するスイッチング電源装置であって、外部からの動作指令を受信する通信I/F回路7と、外部からの出力電圧切替指令を受けて出力電圧を出力電圧設定値に切替える出力電圧設定部5と、分圧抵抗R2と、出力電圧の検出値Vfbと基準電圧Vrefとの誤差電圧をデジタル誤差信号e[n]に変換するADC6と、デジタル誤差信号e[n]に基づきデジタル演算によりスイッチング素子のオン時比率を指示するデューティー比信号d[n]を算出する演算制御部20と、出力電圧切替指令を受信して出力電圧を出力電圧設定値へ変更する動作を制御する出力電圧切替制御部10と、を有するコントローラ1と、デューティー比信号d[n]に応じてPWMを生成するDPWM2と、出力回路3と、平滑回路4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子をオン・オフ制御して入力電圧を所望する出力電圧に変換するスイッチング電源装置に関し、特に、出力電圧を動的に切り替える機能を備えたスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図9に従来の一般的なスイッチング電源装置の構成例を示す。図9に示すスイッチング電源装置130は、パルス幅変調(以下、PWM(Pulse Width Modulation)という。)信号でスイッチング素子をオン・オフ制御して入力電圧Vinを出力電圧Voutに変換するスイッチング電源装置の構成例であり、出力電圧Voutの出力検出電圧Vfbと基準電圧Vrefとの誤差電圧に応じて出力を制御する制御回路131と、制御回路131の出力に応じたデューティー比(オン期間とオフ期間の比率)のパルス信号を出力するPWM回路132と、PWM信号により相補的にオン・オフが制御される駆動回路Drおよび該駆動回路Drで駆動される一対のスイッチング素子であるPチャンネルMOSFET(以下、PMOSという。)QHおよびNチャンネルMOSFET(以下、NMOSという。)QLからなる出力回路133と、インダクタLとコンデンサCoutからなるLC平滑回路134と、抵抗R1と抵抗R2の抵抗分圧回路からなる出力電圧設定部135と、から構成されており、出力電圧Voutが負荷LDの電源電圧となる。
【0003】
出力電圧Voutの出力検出電圧は、出力電圧設定部135の抵抗分圧比と基準電圧Vrefによって決定される。なお、図9に示すスイッチング電源装置130は、出力電圧が可変となるように出力電圧設定部135の抵抗R1を可変抵抗で構成しているが、出力電圧を設定変更する場合は、可変抵抗R1の抵抗値をその都度設定変更する必要がある。
【0004】
次に、図10にプロセッサや電源管理用IC等のホストからの制御信号により出力電圧を切り替え可能なスイッチング電源装置の構成例を示す。図10に示すスイッチング電源装置140は、出力電圧可変用の抵抗R2を内蔵し、外付けの出力電圧設定部145との分圧回路を構成し、ホスト210からの出力電圧設定値の指令に応じて出力電圧Voutを生成し出力する。
【0005】
出力電圧設定部145は、直列接続される重み付けされた抵抗R10〜R1mとスイッチ素子Q0〜Qmが並列接続されて、各スイッチ素子のオン・オフはホスト210からのデジタル信号で制御されるデジタル/アナログ変換回路(以下、DACという。)から構成されている。
【0006】
図10に示す構成においては、ホスト210からの起動/停止等の各種指令をスイッチング電源装置140へ変換して入力するDAC146が必要となる場合もあり、出力電圧設定部145へのデジタル信号線も含め実装面積が増大する。
【0007】
この解決策として、デジタル電源方式のスイッチング電源装置が知られている。デジタル電源方式では、デジタル通信用インターフェース(以下、通信I/Fという。)をスイッチング電源装置に内蔵しており、ホストからのデジタル信号の指令を直接受け取ることが可能で、スイッチング電源装置の内部で指令に応じた設定変更を行うことができる。ホストとスイッチング電源装置間には少ない端子数、通信線本数で通信を可能とするシリアル通信I/Fが多く用いられ、その規格としてはI2C(Inter-Integrated Circuit)、SPI(Serial Peripheral Interface)、SMBus(System Management Bus)などが用いられる。
【0008】
図11にデジタル電源方式のスイッチング電源装置の構成例示す。図11に示すデジタル電源方式のスイッチング電源装置150は、ホスト220からの各種指令を受信するシリアル方式の通信I/F157と、通信I/F157で制御され基準電圧Vrefを生成するDAC158と、出力電圧Voutの出力検出電圧Vfbと基準電圧Vrefとの誤差電圧を検出しデジタル誤差信号e[n]に変換するアナログ/デジタル変換回路(以下、ADCという。)156と、通信I/F157で制御されデジタル誤差信号e[n]からPWM信号のデューティー比を指示するデューティー比信号d[n]を制御演算して出力するコントローラ151と、デューティー比信号d[n]に応じたデューティー比のPWM信号に変換するデジタルPWM回路(以下、DPWMという。)152と、PWM信号によりスイッチング素子のオン・オフを制御される出力回路153と、スイッチング出力信号を平滑する平滑回路154と、通信I/F157で制御され所望の出力電圧設定値に制御される出力電圧設定部155と、分圧抵抗R2と、から構成される。
【0009】
ここで、ADC156はスイッチング周期毎にAD変換を行うものとし、nはn番目のスイッチング周期を示す。また、デューティー比信号d[n]を制御演算する演算式には種々の方式があるが、1つの手段として(1)式に示すデジタルPID制御式が知られている。ここでA、BおよびCはPID(Proportional Integral and Differential)制御の補償係数であり、入出力条件に応じて、適切な値に設定することで出力電圧Voutの安定制御ができる。
【0010】
【数1】

なお、図11に示した出力電圧設定部155は、図10で説明した出力電圧設定部145と同じ構成であり、直列接続される重み付けされた抵抗R10〜R1mとスイッチ素子Q0〜Qmが並列接続されるDACより構成されている。スイッチング電源装置150は、ホスト220からの出力電圧切替指令を通信I/F157で受信すると、基準電圧Vrefを変更したり、スイッチ素子Q0〜Qmのオン・オフを制御することで出力電圧設定部155の抵抗R10〜R1mと抵抗R2との分圧電圧を変更して、出力電圧値Voutを切り替え制御している。このようにシリアル方式の通信I/F157をスイッチング電源装置150に内蔵することで、デジタル信号線の本数を削減し実装面積の増大を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−116804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図12にスイッチング電源装置150の出力電圧Voutによるループ特性比較の一例を示す。出力電圧Voutを設定変更すると出力電圧設定抵抗の分圧比(出力電圧設定部155の抵抗R10〜R1mより選択された抵抗と抵抗R2との分圧比をさす。)で決まるゲインHが変化するため、ループゲインが変化する。
【0013】
【数2】

(2)式より、出力電圧Voutを低く設定する、すなわち抵抗R1を小さくすることでゲインHが大きくなり、図12のようにループゲインも増加する。その結果、位相余裕が減少し、動作条件によっては出力電圧Voutが発振してしまう場合もある。
【0014】
より詳細にはデューティー比が変化するため、DPWM151の遅延時間成分td_pwmも(3)式で示されるように変化するため、高周波帯域の位相特性も異なってくる。ここでDはデューティー比、Tswはスイッチング周期を示す。
【0015】
【数3】

出力電圧Voutに応じて、(1)式に示したコントローラの151の補償係数A、BおよびCを変更することで、それぞれ好適なループゲインに設定することができる。デジタル電源方式のスイッチング電源装置の場合、設定可能な出力電圧毎に好適な補償係数を内部レジスタに保存しておき、ホスト220からの出力電圧設定指令により、出力電圧設定抵抗を切り替えると共に、補償係数の値も変更することで、容易に出力電圧設定値に適したループ特性に変更するができる。
【0016】
しかし、出力電圧Voutが電圧値V1で動作中に電圧値V2へ設定変更する指令を受信して電圧値V2に適した補償係数に変更すると、(1)式の制御式はd[n−1]、B×e[n−1]、C×e[n−2]といった以前のスイッチング周期の結果を用いた演算式であるため、補償係数の変更を行うことで計算の連続性が失われ、制御式から外れた演算結果を出力する。その結果、出力電圧切替時に出力電圧が乱れたり、出力電圧への変更時間が長くなるという不具合が生じる。
【0017】
この出力電圧切替時の応答性を解決するために、特許文献1では、出力電圧を変更する場合は、フィードバック制御を休止し、予め用意された制御テーブルのデータを基にした制御を行うことが記載されている。これにより出力電圧設定値が変更された時のみ、出力電圧変更幅に応じた制御テーブルのデータによって高速に制御を行い、定常状態では出力電圧をフィードバック制御に戻すことで、スイッチング電源装置の変換効率を低下させることなく、高速に出力電圧を変更することができるとしている。しかし、コントローラの補償係数は変更せず同じであるため、(2)式に示した出力電圧値が変更されることでループゲインが変化する問題は解決されていない。
【0018】
これらの問題を解決するためには、出力電圧を設定変更可能なスイッチング電源装置の場合、設定可能な全ての出力電圧範囲において十分な位相余裕を持つようなコントローラの補償係数に設定し、不安定動作を防がざるを得ない。しかしこの場合は、出力電圧の各条件で好適な制御を行っているのではなく、応答特性を犠牲にしていることになる。そのため、例えばスイッチング電源装置に接続される負荷の電流が急峻に変動した場合、出力電圧の変動幅が大きくなったり、変動した出力電圧が設定値に回復するまでの時間が長くなったりし、負荷の誤動作や破壊といった不具合が発生する。
【0019】
この応答特性と安定性を両立させる手段として、スイッチング電源装置のスイッチング周波数を高周波化させることが良く知られているが、特許文献1にも記載されているように、スイッチング電源装置の変換効率を低下させるデメリットがある。
【0020】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、出力電圧の設定変更時、デジタル制御演算式の補償係数を最適に設定変更する出力電圧切替制御機能を実現することにより、応答性と安定性を両立するスイッチング電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明のスイッチング電源装置は、パルス幅変調信号によりスイッチング素子をオン・オフ制御し、入力電圧を所望する出力電圧に変換するスイッチング電源装置であって、外部からの動作指令を受信する通信インターフェース回路と、出力電圧設定部によって設定された分圧比により出力電圧を分圧した出力電圧の検出値と基準電圧との誤差電圧をデジタル誤差信号に変換するAD変換回路と、前記デジタル誤差信号に基づきデジタル演算により前記スイッチング素子のオン時比率を指示するデューティー比信号を算出するコントローラと、前記デューティー比信号に応じて前記パルス幅変調信号を生成するデジタルPWM回路と、を有し、前記通信インターフェース回路からの出力電圧設定値により前記出力電圧設定部で設定される前記分圧比が切替られ、前記コントローラは、前記出力電圧切替指令を受信すると、前記デジタル誤差信号からのデジタル演算を停止させ、定常状態において切替時の入力電圧から切替時の出力電圧を与える前記デューティー比である固定デューティー比を算出し、切替後のデューティー比信号の初期値に前記固定デューティー比を指示するとともに前記出力電圧設定値に適したデジタル演算に用いる補償係数に設定し、前記出力電圧設定部の切替動作を制御する出力電圧切替制御部を備えたことを特徴とする。
【0022】
そして、前記コントローラは、前記デジタル誤差信号を格納する誤差レジスタと、前記補償係数を複数格納しておく記憶回路と、前記複数の補償係数から選択された補償係数を格納する係数レジスタと、前記誤差レジスタと前記係数レジスタのデータを用いて前記デジタル演算をおこなう演算回路と、有する演算制御部と、前記演算制御部と前記出力電圧設定部の動作を制御する信号を生成する内部信号生成回路と、前記固定デューティー比を演算する固定デューティー比演算回路と、を有する出力電圧切替制御部と、備える。
【0023】
また、本発明の別の態様のスイッチング電源装置は、パルス幅変調信号によりスイッチング素子をオン・オフ制御し、入力電圧を所望する出力電圧に変換するスイッチング電源装置であって、外部からの動作指令を受信する通信インターフェース回路と、出力電圧設定部によって設定された分圧比により出力電圧を分圧した出力電圧の検出値と基準電圧との誤差電圧をデジタル誤差信号に変換する第1のAD変換回路と、前記デジタル誤差信号に基づきデジタル演算により前記スイッチング素子のオン時比率を指示するデューティー比信号を算出するコントローラと、前記デューティー比信号に応じて前記パルス幅変調信号を生成するデジタルPWM回路と、入力電圧をデジタル入力電圧信号に変換する第2のAD変換回路と、出力電流を検出し該検出値をデジタル出力電流信号に変換する第3のAD変換回路と、を有し、前記通信インターフェース回路からの出力電圧切替指令により前記出力電圧設定部で設定される前記分圧比が切替られ、前記コントローラは、前記出力電圧切替指令を受信すると、前記デジタル誤差信号からのデジタル演算を停止させ、定常状態において切替時の入力電圧から切替時の出力電圧を与える前記デューティー比である固定デューティー比を前記デジタル入力電圧信号と前記デジタル出力電流信号と回路部品定数により既定される直流損失成分とから算出し、切替後のデューティー比信号の初期値を前記固定デューティー比を指示するものにするとともに前記出力電圧設定値に適したデジタル演算に用いる補償係数に設定し、前記出力電圧設定部の切替動作を制御する出力電圧切替制御部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、スイッチング電源装置の出力電圧切替に関するもので、出力電圧設定値の動的な変更要求に対しても、デジタル制御回路を用いることで動的に補償係数の変更を可能とし、出力電圧設定値と補償係数の不一致による出力電圧の発振や応答性の低下を避けることができ、出力電圧によらず、常に好適な補償係数でスイッチング電源装置を制御することができる。また、スイッチング電源装置の実装面積の増大を防止できるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る出力電圧切替機能を備えたスイッチング電源装置の第1の実施例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る出力電圧切替制御部の第1の構成例を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る出力電圧切替制御部の第2の構成例を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係る出力電圧設定切替時の動作フローを示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る出力電圧切替時の動作シーケンスを示す図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係る出力電圧切替時の出力電圧の変動例を示す図である。
【図7】本発明に係る出力電圧切替機能を備えたスイッチング電源装置の第2の実施例を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施例に係る出力電圧設定切替時の動作フローを示す図である。
【図9】従来の出力電圧可変スイッチング電源装置の構成例を示す図である。
【図10】従来の外部からの出力電圧設定変更可能なスイッチング電源装置の構成例を示すである。
【図11】従来の外部通信可能なスイッチング電源装置の構成例を示す図である。
【図12】スイッチング電源装置の出力電圧によるループ特性の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る出力電圧切替機能を備えたスイッチング電源装置について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明の出力電圧切替機能を備えたスイッチング電源装置の構成を示すブロック図である。図11に示す従来のスイッチング電源装置150の構成例と同じ部位には同じ符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0028】
図1に示すスイッチング電源装置100は、PWM信号によりスイッチング素子をオン・オフ制御し、入力電圧Vinを所望する出力電圧Voutに変換するデジタル電源方式のスイッチング電源装置の構成例であり、コントローラ1と、DPWM2と、出力回路3と、平滑回路4と、出力電圧設定部5と、ADC6と、通信I/F7と、分圧抵抗R2と、から構成される。ADC6は、出力電圧設定部5と分圧抵抗R2との分圧比により出力電圧Voutを分圧した出力検出電圧Vfbと基準電圧Vrefとの誤差電圧を1スイッチング周期毎にデジタル誤差信号e[n]に変換する。コントローラ1は、出力電圧切替制御部10と、演算制御部20と、を有し、演算制御部20は、デジタル誤差信号e[n]を格納する誤差レジスタ21と、補償係数を複数格納しておく係数用メモリ22と、複数の補償係数から選択された補償係数を格納する係数レジスタ23と、誤差レジスタ21と係数レジスタ23のデータを用いてデジタル演算をおこなう演算回路24と、を備える。そして、1スイッチング周期毎にデジタル誤差信号e[n]と係数レジスタ23の補償係数を用いて出力電圧Voutが設定電圧になるようにデジタル演算を行い、スイッチング素子のオン時比率を指示するデューティー比信号d[n]を算出し出力する。DPWM2は、コントローラ1からのデューティー比信号d[n]に応じてPWM信号を生成する。出力回路3は、PWM信号によりスイッチング素子をオン・オフ制御しスイッチング出力信号を出力する。平滑回路4は、スイッチング出力信号を平滑し出力電圧Voutを出力する。
【0029】
図1に示すスイッチング電源装置100は、シリアル通信I/F7を備え、外部のホスト200とのデジタル信号の送受信により、スイッチング電源装置100の設定値を変更できる。例えば、スイッチング電源装置100の出力電圧Voutの切替や、コントローラ1のデジタル演算に用いる補償係数の切替も、ホスト200からの指令値により設定変更が可能である。
【0030】
出力電圧設定部5は、直列接続される重み付けされた抵抗R10〜R1mとスイッチ素子Q0〜Qmが並列接続されたDACで構成され、各スイッチ素子Q0〜Q1mのオン・オフは通信I/F7を介した外部からの出力電圧設定指令により制御される。この出力電圧設定部5と分圧抵抗R2との分圧比で出力電圧Voutの出力電圧値が設定される。
【0031】
コントローラ1でのデジタル演算は、(1)式で示すデジタルPID制御式を用いるものとし、係数用メモリ22には補償係数A、B、Cの値が保存されている。ここで、補償係数の最適値は、入力電圧Vin、出力電圧Vout、出力回路3および平滑回路4で決まるループ特性により異なるものであり、出力電圧毎に最適な補償係数を係数用メモリ22に保存しておき、通信I/F7を介した出力電圧指令値に応じて、最適な補償係数値を係数メモリ22から選択し係数レジスタ23に格納する。
【0032】
ホスト200からの出力電圧切替指令を通信I/F7が受信すると、コントローラ1の出力電圧切替制御部10により、出力電圧設定部5および補償係数の設定変更が行われる。
【0033】
図2に出力電圧切替制御部10の構成例を示す。図2に示す出力電圧切替制御部10は、内部信号生成回路11と、インバータ12と、CLK生成回路13と、ADC14と、固定duty比演算回路15と、を備える。内部信号生成回路11は、通信I/F7からの出力電圧切替指令を受けて、コントローラ1のデジタル演算動作を制御する演算許可/禁止信号Stopと、出力電圧設定部5の出力電圧変更動作を制御する出力電圧変更禁止/許可信号Ready2を生成する。また、演算許可/禁止信号Stopをインバータ12で反転し、コントローラ1の補償係数の変更動作を制御する係数変更禁止/許可信号Ready1を生成する。固定duty演算回路15は、通信I/F7からの出力電圧設定指令を受けて、出力電圧設定値と入力電圧値から固定デューティー比信号d1を演算する。この出力電圧切替制御部10の動作は、CLK生成回路13で生成されるクロック信号CLK_2,CLK_3で制御される。
【0034】
次に、スイッチング電源装置100の出力電圧切替指令受信時の動作について説明する。なお、出力電圧切替指令受信時の動作フローを図4に示す。
はじめに、出力電圧切替制御部10は、出力電圧切替指令を受けると、現在の出力電圧設定指令値を元に、固定デューティー比信号d1を算出し、内部に保持する。現在の出力電圧設定値をV1とし、スイッチング電源装置100の入力電圧をVinとすると、(4)式により固定デューティー比信号d1が算出できる。ここで、NはDPWM2の分解能である。
【0035】
【数4】

なお、入力電圧Vinが一定の場合はVinを既知としてもよく、入力電圧Vinが動作中に変動する場合は、図2に示すようにADC14を内蔵し、入力電圧VinをADC14を介してデジタル値に変換したデジタル入力電圧信号Vin[n]を用いてもよい。
【0036】
また、固定デューティー比信号d1は、図3に示す別の構成例でも算出できる。すなわち、図2に示した固定duty比演算回路15の代りに、図3に示すようにduty比選択メモリ16を内蔵する。このduty比選択メモリ16に予め各入力電圧Vinと出力電圧Voutに応じた固定デューティー比を保存したテーブルを格納し、出力電圧設定値Vout[n]と入力電圧Vinのデジタル入力電圧信号Vin[n]の出力に応じて選択し出力する方式としてもよい。
【0037】
次に、内部信号生成回路11で、コントローラ1のデジタル演算動作を停止させる演算許可/禁止信号StopをHレベルに設定し、デジタル誤差信号e[n]を用いたデジタル演算動作を停止させ、誤差レジスタ21を0にリセットし、コントローラ1の出力レジスタ値は、出力電圧切替制御部10で算出した固定デューティー比信号d1にプリセットする。これにより、コントローラ1の出力であるデューティー比はd1となり、この値に応じたPWM信号でスイッチング素子は制御される。
【0038】
この期間は、デジタル演算が停止しているため、デジタル演算に用いる補償係数A、B、Cを変更することができる。出力電圧切替制御部10は、係数変更禁止/許可信号Ready1をLレベルに設定しコントローラ1に送り、係数メモリ22内のアドレスを出力電圧設定値に応じた値に変更し、係数レジスタ23の値を変更する。
【0039】
補償係数が変更されると、出力電圧設定部5へ出力電圧変更禁止/許可信号Ready2をLレベルに設定し出力電圧設定部5に送り、出力電圧設定値に応じてスイッチ素子Q0〜Qmをオン・オフ設定することで分圧電圧比を変更し出力電圧を設定値に変更する。
【0040】
そして演算許可/禁止信号StopをLレベルに設定して演算停止を解除し、デジタル誤差信号e[n]と係数レジスタ23の補償係数でのデジタル演算動作を開始する。この時、新しい出力電圧設定値と、現在の出力電圧が異なるため、ADC6で誤差電圧を検出し、演算回路24では変更された補償係数でデジタル演算を行う。
【0041】
以上説明した出力電圧切替指令受信時の動作シーケンスを図5に示す。図5は、スイッチング電源装置100が出力電圧設定値V1、補償係数A1,B1,C1で動作している状態で、ホスト200から出力電圧設定値V2に変更する出力電圧切替指令を受信した場合の動作シーケンスを示している。
【0042】
まず、通信I/F7からの出力電圧切替指令と変更する出力電圧設定値を出力電圧切替制御部5が受信すると、出力電圧切替制御部10は現在の出力電圧設定値V1と入力電圧Vinから(4)式より固定デューティー比d1を算出する。
【0043】
出力電圧設定部5、係数用メモリ22も通信I/F7からの信号を受信するが、出力電圧切替制御部10からデータ変更を禁止する係数変更禁止/許可信号Ready1,出力電圧変更禁止/許可信号Ready2を与えることで、この時点では変更させない。
【0044】
固定デューティー比d1の計算が完了すると、出力電圧切替制御部10はコントローラ1に対して、PID制御演算を停止させる演算許可/禁止信号Stopを送り、コントローラ1の出力値d[n]を固定デューティー比d1にセットし、固定デューティー比信号d1でPWM制御を行う。またこの期間で、ADC6の出力であるデジタル誤差信号e[n]、コントローラ1の誤差レジスタ21に保存されている過去のデジタル誤差信号e[n−1]、e[n−2]の値をゼロにリセットする。さらに、係数用メモリ22のアドレスは現在の出力電圧V1に適したA1、B1、C1となっているが、新しい指令値である出力電圧V2に好適な係数A2、B2、C2にアドレス変更し、出力電圧切替制御部10からの係数変更許可禁止/許可信号Ready1を解除することで、係数レジスタ23に新しい補償係数を設定する。
【0045】
以上の動作が完了した次のスイッチング周期から演算許可/禁止信号Stopを解除しPID制御演算を開始する。この時点では、前周期のデューティー比信号d[n−1]はコントローラ1にセットされた固定デューティー比d1となり、前周期のデジタル誤差信号もe[n]=e[n−1]=e[n−2]=0にリセットされたため、(1)式よりPID制御演算出力d[n]はd1となり、固定デューティー比信号d1でPWM制御される。
【0046】
次のスイッチング周期が開始されると、出力電圧設定回路5への出力電圧変更禁止/許可信号Ready2を解除し、出力電圧設定値はV2へ変更される。以降は通常動作となり、出力電圧設定電圧V2を分圧抵抗R2で分圧された出力検出電圧Vfbと基準電圧Vrefとの誤差電圧を埋めるようにPID制御され、数〜数10周期で出力電圧VoutはV2に整定する。またコントローラ1の補償係数はV2に好適な係数となっているため、V2設定後は、位相余裕不足による不安定動作もなく、応答性も良好な特性を得ることができる。
【実施例2】
【0047】
図1に示したスイッチング電源装置100においては、出力電圧切替動作時にプリセット値として与える固定デューティー比d1は、(4)式に示すように出力電圧設定値V1と入力電圧値Vinの比で求めた。ここで出力回路3および平滑回路4における直流損失をr、出力電流をIoutとすると、正確なデューティー比d1_aは(5)式で求められる。
【0048】
【数5】

ここで、直流損失rが大きいスイッチング電源装置や、出力電流Ioutが大きい状態において出力電圧切替動作が起こると、d1<<d1_aのため、出力電圧設定値を変更する期間のデューティー比が不足となり、図6に示すように少なくとも補償係数変更後の2スイッチング周期間は出力電圧の低下が発生する。
【0049】
この出力電圧切替動作時の出力電圧低下の問題を防止するスイッチング電源装置の構成例を図7に示す。図7に示すスイッチング電源装置110は、PWM信号によりスイッチング素子をオン・オフ制御し、入力電圧Vinを所望する出力電圧Voutに変換するデジタル電源方式のスイッチング電源装置の構成例であり、コントローラ1と、DPWM2と、出力回路3と、平滑回路4と、出力電圧設定部5と、ADC6と、通信I/F7と、ADC8と、ADC9と、分圧抵抗R2と、から構成され、図1に示した実施例1と構成は同じであり、また図5と同じシーケンスで動作するが、平滑回路4に出力電流検出手段を備える点と、ADC8およびADC9を備える点が異なる。
【0050】
この出力電流Ioutの検出手段としては、出力回路3のスイッチング素子を流れる電流値を検出方法であっても、またはスイッチング電源装置110の外部で出力電流値を検出する方法であっても良い。
【0051】
検出された出力電流IoutはADC9によりデジタル出力電流信号Iout[n]に変換される。(5)式に示される直流損失成分rは、出力回路3および平滑回路4の部品定数で決まる既知であり、内部メモリにデジタル値として予め格納しておく。入力電圧VinはADC8でデジタル入力電圧信号Vin[n]に変換されるか、入力電圧Vinが固定されたシステムの場合は、ADC8を介さず内部メモリにデジタル値として予め格納しておく。これらの変数に加え、通信I/F7より切替前の出力電圧設定値V1を受け取り、(5)式に示すデューティー比演算を出力電圧切替制御部30で行うことで、正確なデューティー比を求めることができ、これを係数切替期間の固定デューティー比信号d[n]のプリセット値として用いれば、係数切替期間中の電圧低下を防ぐことも可能となる。
【0052】
以上説明したスイッチング電源装置110の出力電圧切替指令受信時の動作フローを図8に示す。図4で説明したスイッチング電源装置100の出力電圧切替指令受信時の動作フローに対して、出力電流IoutのAD変換とその変換値を使った固定Duty比の演算方法が異なるだけであり、その他は同一であり詳細は省略する。
【0053】
本発明は、スイッチング電源装置の出力電圧切替に関するもので、出力電圧設定値の動的な変更要求に対しても、デジタル制御回路を用いることで動的に補償係数の変更を可能とし、出力電圧設定値と補償係数の不一致による出力電圧の発振や応答性の低下を避けることができ、出力電圧によらず、常に好適な補償係数でスイッチング電源装置を制御することができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良や変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1,151 コントローラ
2,152 デジタルPWM回路(DPWM)
3,133,143,153 出力回路
4,134,144,154 平滑回路
5,135,145,155 出力電圧設定部
6,8,9,14,156 AD変換回路(ADC)
7,157 通信インターフェース回路(通信I/F)
10,30 出力電圧切替制御部
11 内部信号生成回路
12 インバータ
13 CLK生成回路
15 固定duty比演算回路
16 duty比選択メモリ
20 演算制御部
21 誤差レジスタ
22 係数用メモリ
23 係数レジスタ
24 演算回路
100,110,130,140,150 スイッチング電源装置
131,141 制御回路,制御部
132 PWM回路
146,158 DA変換回路(DAC)
200,210,220 ホスト(プロセッサ、電源管理用IC)
A,A1,B,B1,C,C1 補償係数
Cout コンデンサ
CLK_2,CLK_3 クロック信号
d1 固定デューティー比信号
d1_a デューティー比信号
d[n] デューティー比信号
Dr 駆動回路
e[n] デジタル誤差信号
Iout 出力電流
L インダクタ
LD 負荷
QH PチェンネルMOSFET(PMOS)
QL NチャンネルMOSFET(NMOS)
Q0〜Qm スイッチ素子
R1,R2 分圧抵抗
R10〜R1m 重み付けされた抵抗
Ready1 係数変更禁止/許可信号
Ready2 出力電圧変更禁止/許可信号
Stop 演算許可/禁止信号
Vfb 出力検出電圧
Vin 入力電圧および入力電圧端子
Vout 出力電圧および出力電圧端子
Vref 基準電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス幅変調信号によりスイッチング素子をオン・オフ制御し、入力電圧を所望する出力電圧に変換するスイッチング電源装置であって、
外部からの動作指令を受信する通信インターフェース回路と、出力電圧設定部によって設定された分圧比により出力電圧を分圧した出力電圧の検出値と基準電圧との誤差電圧をデジタル誤差信号に変換するAD変換回路と、前記デジタル誤差信号に基づきデジタル演算により前記スイッチング素子のオン時比率を指示するデューティー比信号を算出するコントローラと、前記デューティー比信号に応じて前記パルス幅変調信号を生成するデジタルPWM回路と、を有し、
前記通信インターフェース回路からの出力電圧切替指令により前記出力電圧設定部で設定される前記分圧比が切替られ、
前記コントローラは、前記出力電圧切替指令を受信すると、前記デジタル誤差信号からのデジタル演算を停止させ、定常状態において切替時の入力電圧から切替時の出力電圧を与える前記デューティー比である固定デューティー比を算出し、切替後のデューティー比信号の初期値に前記固定デューティー比を指示するとともに前記出力電圧設定値に適したデジタル演算に用いる補償係数に設定し、前記出力電圧設定部の切替動作を制御する出力電圧切替制御部を備えたことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記デジタル誤差信号を格納する誤差レジスタと、前記補償係数を複数格納しておく記憶回路と、前記複数の補償係数から選択された補償係数を格納する係数レジスタと、前記誤差レジスタと前記係数レジスタのデータを用いて前記デジタル演算をおこなう演算回路と、を備える演算制御部と、前記出力電圧切替制御部と、を有し、
前記出力電圧切替指令を受信すると、前記デジタル演算に代り前記固定デューティー比を算出して前記デジタルPWM回路に出力するとともに、前記誤差レジスタのデータをリセットし、前記出力電圧設定値に適した補償係数を前記記憶回路から選択して前記係数レジスタに設定することを特徴とする請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記出力電圧切替制御部は、前記演算制御部と前記出力電圧設定部の動作を制御する信号を生成する内部信号生成回路と、前記固定デューティー比を演算する固定デューティー比演算回路と、を備えたことを特徴とする請求項2記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記出力電圧切替制御部は、さらに前記入力電圧をデジタル入力電圧信号に変換するAD変換回路を備え、前記デジタル入力電圧信号と前記出力電圧設定値とから前記固定デューティー比を演算することを特徴とする請求項3記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記出力電圧切替制御部は、前記固定デューティー比演算回路に代り、複数の入力電圧と複数の出力電圧に応じた複数のデューティー比を格納するデューティー比記憶回路を備え、切替時の入力電圧から切替時の出力電圧を与える前記固定デューティー比を前記デューティー比記憶回路より選択することを特徴とする請求項3または4に記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
パルス幅変調信号によりスイッチング素子をオン・オフ制御し、入力電圧を所望する出力電圧に変換するスイッチング電源装置であって、
外部からの動作指令を受信する通信インターフェース回路と、出力電圧設定部によって設定された分圧比により出力電圧を分圧した出力電圧の検出値と基準電圧との誤差電圧をデジタル誤差信号に変換する第1のAD変換回路と、前記デジタル誤差信号に基づきデジタル演算により前記スイッチング素子のオン時比率を指示するデューティー比信号を算出するコントローラと、前記デューティー比信号に応じて前記パルス幅変調信号を生成するデジタルPWM回路と、入力電圧をデジタル入力電圧信号に変換する第2のAD変換回路と、出力電流を検出し該検出値をデジタル出力電流信号に変換する第3のAD変換回路と、を有し、
前記通信インターフェース回路からの出力電圧切替指令により前記出力電圧設定部で設定される前記分圧比が切替られ、
前記コントローラは、前記出力電圧切替指令を受信すると、前記デジタル誤差信号からのデジタル演算を停止させ、定常状態において切替時の入力電圧から切替時の出力電圧を与える前記デューティー比である固定デューティー比を前記デジタル入力電圧信号と前記デジタル出力電流信号と回路部品定数により既定される直流損失成分とから算出し、切替後のデューティー比信号の初期値を前記固定デューティー比を指示するものにするとともに前記出力電圧設定値に適したデジタル演算に用いる補償係数に設定し、前記出力電圧設定部の切替動作を制御する出力電圧切替制御部を備えたことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項7】
前記コントローラは、前記デジタル誤差信号を格納する誤差レジスタと、前記補償係数を複数格納しておく記憶回路と、前記複数の補償係数から選択された補償係数を格納する係数レジスタと、前記誤差レジスタと前記係数レジスタのデータを用いて前記デジタル演算をおこなう演算回路と、を備える演算制御部と、前記出力電圧切替制御部と、を有し、
前記出力電圧切替指令を受信すると、前記デジタル演算に代り前記固定デューティー比を算出して前記デジタルPWM回路に出力するとともに、前記誤差レジスタのデータをリセットし、前記出力電圧設定値に適した補償係数を前記記憶回路から選択して前記係数レジスタに設定することを特徴とする請求項6記載のスイッチング電源装置。
【請求項8】
前記出力電圧切替制御部は、前記演算制御部と前記出力電圧設定部の動作を制御する信号を生成する内部信号生成回路と、前記直流損失成分を予め格納しておく記憶回路と、前記固定デューティー比を演算する固定デューティー比演算回路と、を備えたことを特徴とする請求項7記載のスイッチング電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−161146(P2012−161146A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18295(P2011−18295)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】