説明

出力電圧測定装置

【課題】浮遊容量の影響を受けずに、従来に比較して高い精度で高周波電圧の測定が行え、かつ簡易な構造により従来より安価に製作することができる出力電圧測定装置を提供する。
【解決手段】本発明の出力電圧測定装置は、高周波電圧の電圧値を測定する出力電圧測定装置であり、アンテナと、アンテナに一端が接続され、他端が接地された分圧コンデンサと、分圧コンデンサの両端の電圧を測定する電圧測定部とを有し、アンテナの受波部が電圧値を測定したい測定部位に向けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電源と負荷との間に設けられるインピーダンス整合器の出力電圧を測定する出力電圧測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IC(Integrated Circuit)やLCD(Liquid Crystal Display)などの半導体製品を製造する際、プラズマを用いたエッチング、スパッタリング及びPCVD(Plasma Chemical Vapor Deposition)等のプロセスを用いている。
このとき、上記プロセスを安定的に行うため、高周波電源から製造装置のチャンバに対し、プラズマ発生の電力を効率的に供給することが必要である。
したがって、高周波電源の出力インピーダンスとチャンバの負荷の入力インピーダンスとの間においてインピーダンスの整合をとる必要がある。
このため、高周波電源と上記チャンバの負荷との間にインピーダンス整合器が介挿され、高周波電源とチャンバの負荷との間のインピーダンス整合が取られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記インピーダンス整合器300は、図4に示すように、例えば、インピーダンス制御回路100、可変コンデンサCM1、CM2及びインダクタLから構成されている。
インピーダンス制御回路100は、チャンバ負荷MにRF発生器(高周波電源)200から供給される高周波電圧、高周波電流とともに、高周波電圧及び高周波電流の位相差を検出する。そして、インピーダンス制御回路100は、高周波電圧及び高周波電力の絶対値の比から、インピーダンス整合器300の入力端子Tiからチャンバの負荷を見たインピーダンスを検出し、このインピーダンスをRF発生器200の出力インピーダンス(通常50Ω)に一致し、かつ高周波電圧及び位相差が「0」となるように、可変コンデンサCM1及びCM2の容量を調整する。
【0004】
ここで、チャンバに供給される電力は、数百Wから数千Wの範囲にあり、この範囲においては整合時の入力インピーダンスが50Ωである場合、インピーダンス整合器300の入力端子Ti側の回路において放電などにより、インピーダンス整合器300が壊れることはない。
しかしながら、インピーダンス整合器300の出力端子To側においては、負荷Mのインピーダンスによっては電圧が異常に上昇することがあり、放電が発生してインピーダンス整合器300が破損する場合がある。
このため、インピーダンス整合器300の出力端子Toにおける出力電圧を、出力電圧測定装置500により出力される電圧を電圧測定器600が測定し、異常電圧が発生した場合、RF発生器200の出力電圧を低下させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−011528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した出力電圧測定装置500は、複数のコンデンサを直列に接続したコンデンサ列CSと、このコンデンサ列に直列に接続された分圧コンデンサCMTとから構成されている。すなわち、検出コンデンサ列CSと分圧コンデンサCMTとの分圧により、例えばピーク電圧が1000Vある高周波電圧を、ピークが5Vの交流電圧に変換する分圧比により、それぞれのコンデンサの容量を設定している。分圧コンデンサCMTの両端の電圧を5V程度に低下させるため、出力端子Toの電圧のほとんどが検出コンデンサCSに印加されることになる。
【0007】
インピーダンス整合器の出力端子Toの電圧値は、チャンバの負荷のインピーダンスによるが、ピーク電圧が数千Vとなるため、検出コンデンサには耐圧の高い製品を使用する必要があり、単価が高いために出力電圧測定装置500は非常に高価なものとなる。
また、検出コンデンサ列CSは、複数のコンデンサをはんだにて接続して直列に接続しており、かつ容量が非常に小さいものであるため、接続によっては非常に容量値がばらついてしまい、検出される高周波電圧の電圧値の精度が、設計値に比較して非常に低いものとなってしまう。
【0008】
また、検出コンデンサ列CSは、分圧コンデンサCMTとの分圧比の関係により、容量値が非常に小さいため浮遊容量の影響を受けやすく、上述したように、検出される高周波電圧の電圧値の精度が、設計値に比較して非常に低いものとなってしまう。
また、運搬や設置の際、インピーダンス整合器300が振動した場合、検出コンデンサ列CSが振動することにより、浮遊容量が変化することで一定した測定が行えず、検出される高周波電圧の電圧値の精度が悪くなる。
また、インピーダンス整合器300の筐体と、検出コンデンサ列CSとの間に発生する浮遊容量により、検出コンデンサ列CSのいずれかのコンデンサに高周波電流が集中して流れ、その高周波電流により発生する熱エネルギにより、はんだが溶解して出力電圧測定装置500が破損する場合がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、浮遊容量の影響を受けずに、従来例に比較して高い精度で高周波電圧の測定が行え、かつ簡易な構造により従来より安価に製作することができる出力電圧測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の出力電圧測定装置は、高周波電圧の電圧値を測定する出力電圧測定装置であり、アンテナと、該アンテナに一端が接続され、他端が接地された分圧コンデンサと、該分圧コンデンサの両端の電圧を測定する電圧測定部とを有し、前記アンテナの受波部が前記電圧値を測定したい測定部位に向けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の出力電圧測定装置は、前記アンテナの長さと、アンテナの幅と、前記受波部と前記測定部位との距離により決定される結合容量と、前記分圧コンデンサとの分圧比とにより、高周波電圧の電圧値を分圧して得られた分圧電圧を前記電圧測定部が測定することを特徴とする。
【0012】
本発明の出力電圧測定装置は、前記分圧コンデンサが容量を可変可能なコンデンサで形成されており、前記分圧電圧の微調整を行うことを特徴とする。
【0013】
本発明の出力電圧測定装置は、前記結合容量が以下に示す式により算出されていることを特徴とする。
【数1】

【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、従来の様に浮遊容量の影響を受け易く、高価なコンデンサ列を用いずに、アンテナと、高周波電圧の電圧値の測定部位との間の結合容量と、分圧コンデンサの容量との分圧比により、高周波電圧の高い電圧値を、デジタル回路で形成されている電圧測定器により測定可能な電圧値に、簡易に変換することができる。
また、この発明によれば、アンテナと上記測定部位との間の結合容量を用いているため、浮遊容量や振動による影響を受けにくく、従来例に比較して安定した測定を行うことができる。
また、この発明によれば、アンテナの受波部と測定部位との距離が、アンテナの受波部と他の高圧電圧を有する部位との距離より短ければ、他の高圧電圧を有する部位からの影響も少なく、従来に比較して精度の高い測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態による出力電圧測定装置を説明する概念図である。
【図2】アンテナの長さ、アンテナの幅、アンテナの受波部と測定部位との距離の算出を説明する概念図である。
【図3】本実施形態の出力電圧測定装置と、図4に示す本発明に関連する出力電圧測定装置との測定値の比較を示すグラフである。
【図4】本発明に関連する出力電圧測定装置を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。図1は、この発明の一実施形態による出力電圧測定装置の構成例を示す概略ブロック図である。
インピーダンス整合器300は、すでに上述したように、RF発生器200の出力インピーダンスと、チャンバの負荷Mのインピーダンスとのインピーダンス整合をとるものである。
インピーダンス整合器300は、インピーダンス制御回路100、可変コンデンサCM1、CM2、インダクタLとから構成されている。
【0017】
そして、インピーダンス制御回路100は、チャンバの負荷MにRF発生器200から供給される高周波電圧、高周波電流とともに、高周波電圧及び高周波電流の位相差を、測定値として検出する。
そして、インピーダンス制御回路100は、すでに述べたように、高周波電圧及び高周波電力の絶対値の比から、インピーダンス整合器300の入力端子Tiからチャンバの負荷を見たインピーダンスを検出し、このインピーダンスをRF発生器200の出力インピーダンス(通常50Ω)に一致させ、かつ高周波電圧及び位相差が「0」となるように、可変コンデンサCM1及びCM2の容量を調整する。
【0018】
ここで、本実施形態による出力電圧測定装置は、上記インピーダンス整合器300の出力端子Toから負荷Mに対して出力される出力電圧を測定する装置である。
この本実施形態の出力電圧測定装置は、シールドされた容器を用いて構成された測定部700と、電圧測定器600とを有している。
ここで、測定部700は、アンテナ800と、このアンテナ800に接続された分圧コンデンサCMTとを有している。この分圧コンデンサCMTが測定部700のシールド容器内に配置され、アンテナ800が上記シールド容器から突出して、予め開口された孔より、インピーダンス整合器300内部に挿入される。
【0019】
アンテナ800は、受波部800Sがインピーダンス整合器300の出力端子Toに対して最も近くなるように配置される。すなわち、受波部800Sと出力端子Toとの距離Hが他のインピーダンス整合器300の筐体あるいはインダクタLなどの距離より小さくなるように配置する。
これにより、測定部位である出力端子To以外から結合容量による高周波電流がアンテナ800に流れ込むことを抑制することができる。測定部位と受波部800Sとの間にて、高周波電流が流れるようにすることにより、測定部位におけるの高周波電圧の電圧値を測定することができる。
【0020】
アンテナ800の幅2R、長さl(インピーダンス整合器300内に挿入された長さ)、受波部800Sから測定部位までの距離Hは、以下に示す式(1)により求められる。
【0021】
【数2】

【0022】
上記式(1)は、静電容量計算式である。この式(1)において、アンテナの幅2R(Rはアンテナの幅の1/2)、長さl、距離Hの単位はたとえばcmであり、Cの単位はF(ファラッド)である。
アンテナ800をインピーダンス整合器300に挿入する位置により、アンテナ800の長さl及び幅2Rと距離Hを最初に設定する。そして、式(1)から求まった結合容量と、分圧比とにより、分圧に必要な容量値を有する分圧コンデンサCMTが求まる。
【0023】
このとき、式(1)から求まる結合容量では、分圧コンデンサCMTの容量値が大きいあるいは小さい場合、長さlと距離Hとにより調整する。
また、分圧コンデンサCMTの容量値を初めに設定し、分圧比から結合容量値を算出し、この結合容量値となるように、インピーダンス整合器300に挿入する位置から測定部位までの距離Tに基づき、幅2R、長さl及び距離H(すなわち、T−l)を調整するようにしても良い。
【0024】
また、上述したように、分圧コンデンサCMTを容量可変のコンデンサとし、実際にインピーダンス整合器300に配置した際、結合容量と、分圧コンデンサとの容量比による分圧が設計値となるように、分圧コンデンサCMTの容量値を調整する。これにより、結合容量の容量値との分圧により発生する、分圧コンデンサCMTの両端の電圧値の微調整を行う。
【0025】
次に、同一の負荷Mを接続し、本実施形態による出力電圧測定装置(図1)と、従来の出力電圧測定装置(図4)との測定結果を比較した結果を図3に示す。
図3(a)は複素数「0.7+j4.9Ω」のインピーダンスを有する負荷Mに対して電力を供給する場合において、高周波電圧の測定を行った結果である。図3(a)において、本実施形態の出力電圧測定装置による測定結果は「四角のシンボル」で示され、従来の出力電圧測定装置による測定結果は「丸」で示されている。
また、同様に、図3(b)は複素数「1.3+j14Ω」のインピーダンスを有する負荷Mに対して電力を供給する場合において、高周波電圧の測定を行った結果である。図3(b)において、本実施形態の出力電圧測定装置による測定結果は「四角のシンボル」で示され、従来の出力電圧測定装置による測定結果は「丸」で示されている。
【0026】
また、図3(c)は複素数「1.4+j5.9Ω」のインピーダンスを有する負荷Mに対して電力を供給する場合において、高周波電圧の測定を行った結果である。図3(c)において、本実施形態の出力電圧測定装置による測定結果は「四角のシンボル」で示され、従来の出力電圧測定装置による測定結果は「丸のシンボル」で示されている。
また、図3(d)は、図3(a)、図3(b)及び図3(c)それぞれの3つの異なる負荷に対して高周波電圧を供給する場合における、本実施形態の出力電圧測定装置による測定結果と、従来の出力電圧測定装置による測定結果との差分を示している。この図3(d)から判るように、本実施形態の出力電圧測定装置による測定結果と、従来の出力電圧測定装置による測定結果との差分を、従来の出力電圧測定装置の測定結果で除算した数値を検出誤差とすると、0.7%以下となっている。
このことから、本実施形態の出力電圧測定装置の測定結果は、図4の出力電圧測定装置と同等の結果が得られることが分かる。
【0027】
上述致したように、本実施形態によれば、空間結合容量と、分圧コンデンサとの容量値の比により、電圧測定器600が測定可能な電圧に、高周波電圧を分圧しているため、従来のように高価なコンデンサを複数使用する必要が無くなり、出力電圧測定装置の製造価格を従来に比較して低減することができる。
また、本実施形態によれば、空間結合容量を用いているため、従来に比較して空間容量による影響を受けにくく、振動などがあっても安定して高周波電圧の電圧値の測定を行うことができる。
また、本実施形態によれば、従来のように、インピーダンス整合器300の出力端子Toに接続されている導線と、分圧コンデンサCMTとの間にはんだを用いて検出コンデンサ列を配置する必要がないため、施工管理を簡易化することができる。
【0028】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0029】
100…インピーダンス制御回路
200…RF発生器
300…インピーダンス整合器
600…電圧測定器
700…測定部
800…アンテナ
800S…受波部
CM1,CM2…可変コンデンサ
CMT…分圧コンデンサ
L…インダクタ
M…負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電圧の電圧値を測定する出力電圧測定装置であり、
アンテナと、
該アンテナに一端が接続され、他端が接地された分圧コンデンサと、
該分圧コンデンサの両端の電圧を測定する電圧測定部と
を有し、
前記アンテナの受波部が前記電圧値を測定したい測定部位に向けられていることを特徴とする出力電圧測定装置。
【請求項2】
前記アンテナの長さと、アンテナの幅と、前記受波部と前記測定部位との距離により決定される結合容量と、前記分圧コンデンサとの分圧比とにより、高周波電圧の電圧値を分圧して得られた分圧電圧を前記電圧測定部が測定することを特徴とする請求項1に記載の出力電圧測定装置。
【請求項3】
前記分圧コンデンサが容量を可変可能なコンデンサで形成されており、前記分圧電圧の微調整を行うことを特徴とする請求項2に記載の出力電圧測定装置。
【請求項4】
前記結合容量が以下に示す式により算出されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の出力電圧測定装置。
【数1】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−261761(P2010−261761A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111590(P2009−111590)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】