説明

刃物研磨機

【課題】固定された状態の刃物の刃部に対して研磨具を往復移動させる研磨作業を行う際に、研磨具の往復移動の操作を安心して素早く行うことができ、これにより刃物の研磨を刃部の損傷を招くおそれが少なく安全かつ迅速に行うことができる刃物研磨機を提供する。
【解決手段】支持材32の一端部側の片面に平板状の研磨材34が着脱自在に取り付けられた研磨具と、刃部91と把持部を備えた刃物の刃部91を所要の傾斜角度θに保った状態で載せて固定する固定台部と、研磨具の研磨材34を固定台部に固定した刃物の刃部91の研磨対象部分91aに載せた状態で刃部91の研磨対象部分91aの長手方向と交差する方向A1,A2に往復移動させる際に、研磨具の支持材の他端部33bを前記往復移動が可能な状態で支持する支持部と、研磨具の往復移動するときの移動範囲S0を研磨具の移動を停止させて規制する制止部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、包丁等の刃物の刃部を研磨する刃物研磨機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、手動で刃物を研磨する機器としては以下のものが知られている。
【0003】
例えば、上面が傾斜した基台の上面前部に表面が微細吸盤シートで覆われた磁石を設けるともに下面に固定板を設けた刃物設置台と、これとは別に把手の一端部に角度調整ボルトを設けるとともにその他端部に所定長さの閉じ板部を設けた研ぎ具を一組とした刃物研ぎ具が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、家庭用刃物の長短、大小、幅の狭い広いの外、刃の角度が調整できる数個の峯固定台と複数の高・低、数種類の差込式峯固定具を持ち、それを差し込む多数の凹部と砥石台を持つ外、専用の砥石刃物峯固定具を収納することができる砥ぎ器が知られている(特許文献2)。
【0005】
この他にも、包丁の刃部を載置する載置台に回転軸が回転自在に立設され、回転軸に操作アームがほぼ水平に延出され、操作アームに研磨具を下面に備えた押圧体が操作アームの長さ方向に移動自在に挿通され、押圧体に押圧用の把手部が形成され、操作アームの先端部に操作アームを回転軸を中心に回動動作させる握り部が形成されている包丁研磨器が知られている(特許文献3)。
【0006】
また、蓋体が嵌合するようにしたケース主体に仕切り壁を設けて一方に包丁、他方に研磨具を収容するようにし、そして包丁収納部には、刃付面がほぼ水平に維持させるような勾配をもつ支持台と、峯から柄にかけてこれを支承する堤防状の支壁とこれと協働して柄を挟持する挟持部とを底板を膨出させて形成せしめるとともに上記支壁の一部に案内板支持孔を穿設し、これに別途形成した案内板の脚部を着脱自在に嵌入せしめるように構成した包丁ケースであって、このケースを刃研用具として使用する場合には、案内板をケース裏側から取り出して刃身上におき、これを押圧しながら案内板周縁に沿って研磨具を水平に往復動させるものが知られている(特許文献4)。
【0007】
また、基台と、基台に取り付けられた支持体と、支持体に回転自在に取り付けられ且つ研ぐべき刃物の刃先を挟み込むように配置された一対の砥石とを備え、前記一対の砥石はそれぞれ裁頭円錐形状を有し、且つ各砥石の回転中心軸線が所定の角度をなして配置されている刃物研ぎ器が知られている(特許文献5)。
【0008】
さらに、把持部と研磨部とを一体に有するフレームと、研磨部に回転可能に横設されフレームの長さ方向に対して斜設した回転軸と、この回転軸の中央に設けられ切頭円錐の表面形状を有しかつ互いに角度を形成している研磨面を備えた砥石と、砥ぎ処理刃物が両研磨面に押圧するように刃物をかじ取りして両研磨面に接触させる案内部材と、研磨部に設けられ砥石の下部を囲む桶部とを備え、前記桶部の高さを研磨面の下部交点より高く形成した刃物研ぎ器が知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実用新案登録第3135496号公報
【特許文献2】特開昭48−33489号公報
【特許文献3】実開平6−42052号公報
【特許文献4】特開昭48−38496号公報
【特許文献5】特開2002−126979号公報
【特許文献6】実用新案登録第3007312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このような従来の刃物を研磨する機器のうち、特に刃物を固定した状態にしたうえで、その刃物の刃部における研磨対象部分の長手方向と交差する方向に対して、砥石等の研磨具を往復移動させることにより研磨を行う形式の機器にあっては、その研磨具を往復移動させるときの移動範囲などの作業状態に関してはその機器の使用者の意思や判断に任せられていた。
【0011】
このため、使用者は、その研磨を行う際に、研磨具の往復移動時の折り返し停止位置などを注視しながら作業を続けなければならず、その往復移動の操作を素早く行うことが難しかった。また、研磨具の往復移動時の折り返し停止位置を間違えるおそれがあり、この場合は、研磨具の研磨部が刃物の研磨対象部分から逸脱してその刃部(特にその刃先)が損傷することや、その逸脱した研磨具や露出する刃物の刃部が使用者の手に接近した状態になって安全性が損なわれることがあった。
【0012】
そこで、本発明は、固定された状態の刃物の刃部に対して研磨具を往復移動させる研磨作業を行う際に、研磨具の往復移動の操作を安心して素早く行うことができ、これにより刃物の研磨を刃部の損傷を招くおそれが少なく安全かつ迅速に行うことができる刃物研磨機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明(A1)の刃物研磨機は、支持材の一端部側の片面に平板状の研磨材が着脱自在に取り付けられた研磨具と、刃部と柄部を備えた刃物の刃部を所要の傾斜角度に保った状態で載せて固定する固定台部と、前記研磨具の研磨材を前記固定台部に固定した刃物の刃部の研磨対象部分に載せた状態で当該刃部の研磨対象部分の長手方向と交差する方向に往復移動させる際に、当該研磨具の支持材の他端部を前記往復移動が可能な状態で支持する支持部と、前記研磨具の前記往復移動するときの移動範囲を当該研磨具の移動を停止させて規制する制止部とを有するものである。
【0014】
本発明(A2)の刃物研磨機は、上記発明A1の研磨機において、前記制止部が、前記研磨具の研磨材の前記往復移動時における使用範囲を前記移動範囲として規制するように構成されているものである。
【0015】
本発明(A3)の刃物研磨機は、上記発明A1又は2の研磨機において、前記制止部が、前記研磨具の支持材の他端部に前記往復移動の往時及び復時に前記支持部と個別に接触する接触部として形成されているものである。
【0016】
本発明(A4)の刃物研磨機は、上記発明A1からA3のいずれかの研磨機において、前記固定台部と前記研磨具のうち研磨材が取り付けられた支持材の部分よりも上側の位置に、当該固定台部に固定される刃物の刃部の少なくとも研磨対象部分を覆う状態で存在する保護板を設け、かつ、前記研磨具の支持材に、当該研磨具の前記往復移動させる際に使用者が把持する把持部を、前記保護板よりも上側の位置に存在する形態で設けたものである。
【0017】
本発明(A5)の刃物研磨機は、上記発明A1からA4のいずれかの研磨機において、前記固定台部が、刃物の刃部を載せる部分の傾斜角度が変更可能な構造で形成されているものである。
【0018】
本発明(A6)の刃物研磨機は、上記発明A1からA5のいずれかの研磨機において、前記研磨具の支持材の前記支持部に支持される部分が、当該研磨具の前記往復移動時の方向と交差する方向に回動し得る状態で支持されているものである。
【0019】
本発明(A7)の刃物研磨機は、上記発明A1からA6のいずれかの研磨機において、前記研磨具の研磨材に塗布する液体を収容する液体容器と、前記液体容器内の液体と接触し得るとともに前記往復移動させるときの前記研磨具の研磨材と接触し得る液体塗布ロールとを設置したものである。
【発明の効果】
【0020】
上記発明A1の刃物研磨機によれば、特に研磨具の往復移動するときの移動範囲が制止部で規制されるので、固定された状態の刃物の刃部に対して研磨具を往復移動させる研磨作業を行う際に、研磨具の往復移動の操作を安心して素早く行うことができ、これにより刃物の研磨を刃部の損傷を招くおそれが少なく安全かつ迅速に行うことができる。また、研磨具における研磨材のみを容易に交換することができ、刃物の研磨に適した研磨材を取り付けて適切な研磨を行うことができる。
【0021】
上記発明A2の刃物研磨機では、研磨具の往復移動時の移動範囲がその研磨具における研磨材の使用範囲に規制されるので、研磨具の研磨材が刃物の研磨対象部分から逸脱してその刃部を損傷させてしまうおそれが更に回避され、刃物の研磨をより一層安全かつ迅速に行うことができる。
【0022】
上記発明A3の刃物研磨機では、制止部を研磨具に集約して形成することができる。
【0023】
上記発明A4の刃物研磨機では、研磨具を往復移動させる研磨作業を行う際に、固定台部に固定される刃物の刃部の少なくとも研磨対象部分が保護板の下側に存在して覆われた存在となり、また研磨具の往復移動時にその把持部が保護板の上側を通過する状態になるので、研磨具を往復移動させる研磨作業をより一層安全に素早く行うことができる。
【0024】
上記発明A5の刃物研磨機では、刃物の刃部における研磨対象部分の種類や条件に適合させた状態で刃物を固定台部に固定することができ、適切な研磨を行うことができる。
【0025】
上記発明A6の刃物研磨機では、刃物の刃部における刃先が湾曲線状に曲がった形状部分を有する場合、研磨具における平板状の研磨材をその刃先の曲がった形状部分に倣って回動させた姿勢に変更させながら往復移動させることができ、その曲がった形状の刃先部分の研磨も良好に行うことができる。
【0026】
上記発明A7の刃物研磨機では、研磨具における研磨材に液体塗布ロールが接触するとともにそのロールを介して液体が塗布されるので、その研磨材の目詰まりや研磨粉等の飛散の発生が抑制され、その研磨作業を周辺の汚染を引き起こすことなく安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態1に係る刃物研磨機の使用するときの状態を示す斜視図である。
【図2】図1の刃物研磨機の全体を示す斜視図である。
【図3】図2の刃物研磨機の上面図である。
【図4】図2の刃物研磨機の正面図である。
【図5】固定台部と固定される刃物の刃部等の状態及び関係を示す説明図である。
【図6】(a)は研磨具の上面図、(b)は研磨具の側面図、(c)は研磨具を(b)のC−C線で切断した場合の端面図である。
【図7】図1の研磨機に刃物を固定した状態を示す上面図である。
【図8】研磨機による研磨作業を行うときの状態を示す上面説明図である。
【図9】(a)は図1の研磨機における研磨具の往時のスタート時の状態(又は復時の制止された状態)を示す正面図、(b)はその研磨具の復時のスタート時の状態(又は往時の制止された状態)を示す正面図である。
【図10】平板状の研磨材と刃部の研磨対象部分との状態の一例を示す説明図である。
【図11】図6の研磨具を使用した場合における平板状の研磨材と刃部の研磨対象部分との状態の一例を示す説明図である。
【図12】図11の各研磨具の状態を示す説明図である。
【図13】研磨具の支持部に接触して支持される接触材の断面形状の他の構成例を示す要部説明図である。
【図14】制止部の他の構成例を示すものであり、(a)はその研磨機における研磨具の往時のスタート時の状態(又は復時の制止された状態)を示す正面図、(b)はその研磨具の復時のスタート時の状態(又は往時の制止された状態)を示す正面図である。
【図15】実施の形態2に係る刃物研磨機を示す正面図である。
【図16】図15の刃物研磨機の上面図である。
【図17】(a)は図15の研磨機における研磨具の往時のスタート時の状態(又は復時の制止された状態)を示す正面図、(b)はその研磨具の復時のスタート時の状態(又は往時の制止された状態)を示す正面図である。
【図18】実施の形態3に係る刃物研磨機(傾斜角度の一設定例)を示す正面図である。
【図19】図18の研磨機における傾斜角度の他の設定例を示す正面図である。
【図20】図18の研磨機における位置決め突起の構成を示す要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施の形態」という)について添付の図面を参照しながら説明する。
【0029】
[実施の形態1]
図1から図4は、実施の形態1に係る刃物研磨機を示す。図1はその刃物研磨機に刃物を載せて使用するときの状態を示し、図2はその刃物研磨機の全体を示し、図3は図2の研磨機を上面から見たときの状態を示し、図4は図2の研磨機を正面側から見たときの状態を示している。
【0030】
実施の形態1に係る刃物研磨機1Aは、その使用時に設置する場所に触れる面となる底面部11とその底面部11の端部において対向する2つの側面部12,13を備えた形状の本体フレーム10と、研磨対象の刃物9を載せて固定する固定台部2と、この固定台部2に固定した刃物9の刃部91を往復移動させることにより研磨する研磨具3と、この研磨具3の端部を移動自在に支持する支持部4と、研磨具3の移動範囲を規制する制止部5と、保護板として板状の透明保護カバー6とを有するものである。刃物9としては、例えば、刃部91とその刃部91を支えて持つための柄92を有する料理用の刃物(例えば包丁)が使用される。
【0031】
本体フレーム10は、例えば、厚さが1.2mmのステンレス板を折り曲げ加工することにより底面部11及び側面部12,13を形成したものである。底面部11は、後述するようにその中央部付近の一部を固定台部2の形成のために使用しているため、固定台部2の両側に平行して存在する2つの底面部11A,11Bとして形成されている。また、側面部12,13は、上方向(矢印Yに沿う方向)に立ち上がる面として形成されている。さらに、側面部13の上部には、他方の側面部12の側にむけて折り曲げた形状の折曲げ部14が形成されている。
【0032】
固定台部2は、本体フレーム10の底面部11に対して所定の傾斜角度θで傾斜する斜面部21を有する部分である。この実施の形態における固定台部2は、本体フレーム10の底面部11の一部を上記斜面部21が存在するような形状に折り曲げ加工して形成されている。図中における符号22は斜面部21の低位側の端部21bと接続されて側面部12と対向する状態で存在する低位側の立上げ面部、符号23は斜面部21の高位側の端部21aと接続されて側面部13と対向する状態で存在する高位側の立上げ面部である。斜面部21は、その高位側の端部21aが側面部13の折曲げ部14の高さよりも低い高さに形成されている。その高位側の端部21aの高さは、例えば、その斜面部21に固定される刃物の刃部91に研磨具3(の研磨材34)が載せられた状態で往復移動する際に、研磨具3が折曲げ部14よりも下方の位置に存在することを可能にする高さに設定される。
【0033】
また、斜面部21は、その高位側の端部21aに、刃物9の刃部91を磁力により吸着して固定するための磁石シート24を装着している。磁石シート24は、その表面が斜面部21の表面と同じ高さとなるように、斜面部の高位側の端部21aに形成する取付用凹部21cに収容されるように取り付けられている。磁石シート24は、固定台部2に載せて固定する刃物9の刃部61が研磨作業中にがたついたり、位置ずれ等を起こさない程度に磁力により強固に固定できる能力を有するものであればよく、そのような観点からその面積や磁力の強度等の条件が選定される。
【0034】
斜面部21の傾斜角度θについては、例えば、図5に示すように、固定台部2に固定したときの刃物の刃部91における研磨対象部分(主に刃先を形成する傾斜側面)91aがほぼ水平の状態(矢印Xの方向に沿う状態)に保たれるように設定される。この傾斜角度θは、研磨具3による刃部91の研磨対象部分91aに対する研磨角度(後述する研磨材34の研磨対象部分91aと接触する面に対する刃部91の表面となす角度)にも相当する。また、斜面部21は、固定する刃物9をその刃部91において確実に固定できるだけの面積を有するものであればよく、その要求される面積に応じて長さ方向の寸法L1及び幅方向の寸法W1がそれぞれ設定される。
【0035】
ちなみに、刃物9の刃部91の固定台部2への固定状態は、例えば、図5に拡大して示すように、その刃部91の少なくとも研磨対象部分91aが固定台部2の高位側の端部21a(高位側の立上げ面部23)から所定の量mだけ突出した状態にする。図5に示す刃部91は両刃タイプのものである。図5中の符号mは刃部91の突出量であり、刃部91の刃先91bと高位側の立上げ面部23との距離に相当するものである。また、符号91cは刃部91の峯、符号α/2は両刃タイプの刃部91における刃先角度αの半分の角度を示す。両刃タイプの刃部91におけるα/2の角度の残り半分の研磨対象部分91aを研磨するには、その半分の研磨対象部分91aが上面となる状態に刃部91を固定台部2に固定し直す作業を行ってから研磨作業を続行すればよい。両刃タイプの刃部91については、この刃先の表裏両面にある研磨対象部分91aを研磨することにより、刃先角度αが形成されることになる。
【0036】
研磨具3は、図2から図4と図6等に示すように、支持材となる支持フレーム31と、刃物9の刃部91を研磨する平板状の研磨材34と、研磨具3を操作するときに把持する把持部36とを備えている。この研磨具3は、研磨材34を固定台部2に固定した刃物9の刃部91における研磨対象部分91aに載せた状態で、その刃部91の長手方向(刃先91aの延びる方向:矢印Zの方向にほぼ沿う方向)と所定の角度(例えば90°±30°)で交差する方向に往復移動させることで研磨作業を行うものである。図3等における符号Aは研磨具3を往復移動させるときの移動方向であり、A1はその往時の移動方向、A2はその復時の移動方向を示す。
【0037】
支持フレーム31は、図6に示すように、研磨材34が取り付けられる長方形状の第一支持板32と、第一支持板32の一方の短辺端部32bから上方向に立ち上がって第一支持板32と重なり合う方向に延びる把持部形成部分33aと第一支持板31とは反対側の方向に延びる移動支持部分33bを有する形状であって第一支持板32よりも幅の狭い第二支持板33とで構成されている。この支持フレーム31は、例えば、ステンレス等の金属材料や、ナイロン、ポリプロピレン、ABS等の高い硬度の合成樹脂を用いて形成される。図中における符号33cは第一支持板32と第二支持板33を接続する立上げ面部を示す。
【0038】
研磨材34は、例えば金属基板上に形成されるものであり、支持フレーム31の第一支持板32における先端側の短辺端部32aの下面に、磁石シート35を介して磁力により着脱自在に取り付けられるものである。これにより、研磨材34は、容易に交換を行うことができるようになっている。
【0039】
研磨材34の面積(研磨面の広さ)は、その研磨作業時の往復移動の方向Aに沿う長さ方向の寸法L2と、その往復移動の方向Aと直交する幅方向の寸法W2の設定条件によって決定される。このうち長さ方向の寸法L2については例えば7〜13cmに設定され、幅方向の寸法W2については例えば20〜50cmに設定される。研磨材34の長さ方向の寸法L2は、研磨具3を矢印A1、A2の方向に往復移動して研磨する場合における研磨材34の研磨可能な最大範囲を示す。ここで、この研磨材34の寸法W2に関係する事項として、支持フレーム31の第二支持板33における支持部形成部分33bの幅方向の寸法W3(図6)については、研磨材34の幅方向の寸法W2よりも小さい(狭くなる)値に設定される。その支持部形成部分33bの寸法W3は、例えば研磨材34の寸法W2の半分以下の値が好ましい。これは、刃物の刃部91の刃先91aに沿った曲線に倣って研磨材34を傾斜されるために支持フレーム31全体を傾斜可能とするためである。
【0040】
研磨材34としては、例えば、強磁性体等の薄い基板の片面に貼り付けたセラミック砥石、その基板の片面にダイヤモンドの微粒子を電着等の付着手段で付着させたダイヤモンド砥石、その基板の片面に紙やすりを貼着したペーパー砥石等が使用される。これらは、その全体がほぼ平板のような外観形状をなすものである。また、研磨材24は、例えば、砥石の番手(粒度番号)が同じ種類のものが予備交換用として複数用意されるほか、砥石の番手等が互いに異なる種類のものが研磨条件変更用として複数用意されている。これにより、研磨材34の研磨力が低下した場合には砥石の番手が同じ新しい研磨材に交換して研磨能力を容易に保持することができる、また、研磨条件について例えば荒砥から仕上砥へ変更する等の条件に変更したい場合には、その条件に適合する研磨材34に交換することで容易に行うことができる。
【0041】
支持フレーム31の第二支持板33における把持部形成部分33aは、第一支持板32のほぼ中央部の位置まで延びる状態で形成されており、研磨具3を操作する際に把持する把持部36として使用される。この把持部形成部分33aの上面には、研磨具3の使用者がその研磨作業時に手を当てて又は掴んで操作するために使用する操作つまみ37が設けられている。操作つまみ37は、その上面部が研磨具3の往復移動する方向Aにそって凹凸を繰り返す波状で形成されたものが適用されている。操作つまみ37の上面部の凹凸は、例えば使用者の複数本(例えば3本)の手指が1本ずつ収まるような形状及び寸法で形成されている(図6(b),図8参照)。
【0042】
支持フレーム31の第二支持板33における支持部形成部分33bは、上記把持部形成部分33aとは立上げ面部33cを挟んで反対の方向に同じ幅でほぼ同じ長さだけ延びた状態で形成されており、研磨具3を研磨作業時に往復移動させる際に後述する支持部4に支持される部分として使用される。また、第二支持板33の支持部形成部分33bは、第一支持板32の研磨材34を取り付けた端部32aとは反対側に位置する端部にもなる。この支持部形成部分33bの下面には、支持部4に実際に接触させる接触材38が取り付けられている。この実施の形態における接触材38は、図6(c)に示すように断面が円弧状の形状に形成された部材である。このような接触材38は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等の滑り特性と耐磨耗性に優れた合成樹脂等の材料を用いて形成されるものであり、また、支持部形成部分32bの下面に対して接着剤等の固着手段により取り付けられる。
【0043】
また、第二支持板33の支持部形成部分33bは、その末端部に下方に向けて折り曲げた後に第一支持板32に接近する側に対してほぼ水平の方向(矢印Xに沿う方向)に沿って延びるように再度折り曲げた形状の折返し曲げ部39を形成している。図4等における符号39aは折返し曲げ部39の立下げ面部を示す。
【0044】
支持部4は、研磨具3における支持フレーム31の第二支持板33の支持部形成部分33bをその下方から移動自在に支持するための部分である。この実施の形態における支持部4は、固定台部2の下位側の立上げ面部22と対向する本体フレーム10の側面部12の上部に形成され、具体的にはその側面部12の上端部の全域にわたって支持部材41を取り付けて構成されている。また、支持部4は、図4等に示すように、研磨具3の研磨材34を固定台部2に固定した刃物9の刃部の研磨対象部分91aに載せたときに、その研磨材34の下面をほぼ水平の状態に保つことができる高さで第二支持板33の支持部形成部分33bを支持するように構成される。
【0045】
支持部材41は、第二支持板33の支持部形成部分33bにおける接触材38が接触して容易に移動できるようにするための部材であり、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等の滑り特性と耐磨耗性に優れた合成樹脂又は金属等の材料を用いて円柱形状に形成した部材が使用される。支持部材41の側面部12の上端部への取り付けは、例えば支持部材41に切り込み部を形成したうえで、その切り込み部に側面部12の上端部を差し込んで接着することで行われる。
【0046】
また、支持部4は、前述したように第二支持板33の支持部形成部分33bに折返し曲げ部39が形成されているため、その折返し曲げ部39の水平部分39bを支持部材41の下方に移動自在に存在させるための側面部12の上部を開口した開口部42を備えている。この開口部42に挿し入れられる折返し曲げ部39の水平部分39bの上面は、支持部材41の下部に近接又は接触するように形成される。
【0047】
研磨具3は、図2から図4に示すように、第二支持板33の支持部形成部分33bと折返し曲げ部39との間の空間に支持部4の支持部材41を嵌め入れるような状態にした後、研磨材34を固定台部2の斜面部21(高位側の端部21a)に載せる状態で置くことで取り付けられる。
【0048】
制止部5は、研磨作業時に研磨具3を往復移動させるときの移動範囲をその研磨具3の移動(動作)を停止させて規制するものである。
【0049】
この実施の形態における制止部5は、研磨具3の支持フレーム31における立上げ面部33c及び立下げ面部39aと、支持部4の支持部材41とで構成されている。すなわち、研磨具3は研磨作業時になると矢印A1,A2で示す方向に往復移動させるが、その往時(矢印A1で示す方向に移動するとき)においては支持フレーム31の立下げ面部39aが第一制止板5Aとして支持部4の(固定制止部5Cとしての)支持部材41の側部に接触してその進路を阻まれることで停止させられようになっている(図9参照)。また、その復時(矢印A2で示す方向に移動するとき)においては、支持フレーム31の立上げ面部33cが第二制止板5Bとして支持部4の支持部材41の側部に接触して進路をその阻まれることで停止させられようになっている。
【0050】
制止部5により規制する移動範囲の距離S0は、図4等に示すように、支持フレーム31における立上げ面部33cの内壁面と支持部材41の側部の離間距離S1と、支持フレーム31における立下げ面部39aの内壁面と支持部材41の側部の離間距離S2を合計した距離(S1+S2)に相当することになる。この規制する移動範囲の距離S0は、例えば、研磨材43の研磨作業時の往復移動の方向Aに沿う長さ寸法L2とほぼ同じか又はそれよりも少し小さい寸法に設定される。
【0051】
保護板である板状の透明保護カバー6は、本体フレーム10の側面部13の折曲げ部14に対して固定台部2の斜面部21の一部を外部から覆う状態で存在するように取り付けられる上面保護カバー61と、その上面保護カバー61の両側部に対して固定台部2の斜面部21の長手方向(矢印Zに沿う方向)における両端部の空間を外部から覆う状態で存在するように取り付けられる2つの側面保護カバー62,63とで構成されている。上面保護カバー61及び側面保護カバー62,63は、研磨作業中における鋭利な刃物9の刃部91による怪我の発生を防止する保護機能を有していればよく、例えば透視が可能な透明性を有する合成樹脂を用いて平板状に成形して形成されるものであり、その透明性は無色透明であるほか有色透明であってもよい。この他にも、保護カバー61〜63としては、板状、格子状、パンチング孔開き状、メッシュ状等の形態からなる合成樹脂板、金属板等を採用することもできる。
【0052】
上面保護カバー61は、側面部13の折曲げ部14の全域から固定台部2の斜面部21の短部方向(矢印Xに沿う方向)におけるほぼ中央部に達する広さの透明板である。この上面保護カバー61は、ヒンジ(蝶番)64により折曲げ部14と同じ高さに保たれた状態(ほぼ水平の状態)に保持されるとともに、そのヒンジ64を中心にして矢印B1,B2で示す方向(図4)に開閉動するように取り付けられている。
【0053】
また、上面保護カバー61は、その自由端部61aが、研磨具3の第一支持板32と第二支持板33(の把持部形成部分33a)との間に位置するような高さで取り付けられる。さらに、上面保護カバー61は、その自由端部61aが研磨作業時の往復移動するときの研磨具3における立上げ面部33c(第二制止板5B)に接触しない寸法又は形状に設定される。
【0054】
一方、2つの側面保護カバー62,63は、上面保護カバー61の両側部のほぼ全域から底面部11Bの手前に達する広さの透明板である。この側面保護カバー62,63は、ヒンジ65により上面保護カバー61の両側部からそれぞれ垂れ下がった状態に保持されるとともに、そのヒンジ65を中心にして矢印C1,C2の方向(図2)と矢印D1,D2の方向(図2)にそれぞれ開閉動するように取り付けられている。
【0055】
次に、この刃物研磨機1Aによる刃物の研磨作業について説明する。
【0056】
まず、図1に示すように、刃物研磨機1Aにおける固定台部2の斜面部21に、研磨する対象となる刃物9の刃部91を載せて固定する。
【0057】
この際、刃物研磨機1Aについては、上面保護カバー61を上方に持ち上げて開けた状態にして固定台部の斜面部21を外部に露出させた状態にするとともに、研磨具3の研磨材34の部分を固定台部2の斜面部21から浮かせて離した状態にして研磨具3が刃物9の刃部91の固定作業の障害にならない状態にする。
【0058】
刃物9の刃部91は、図5、図7等に示すように、その刃先91を斜面部21の高位側の端部21aから所定の量m(図5)だけ突出させた状態で斜面部21に載せる。このとき刃物9の刃部91は、斜面部21における磁石シート24の磁力により強固に固定される。また、刃物9の柄92については、固定台部2に載せないので、固定台部2の一方の短辺端部において刃物研磨機1Aの本体フレーム10から突出した状態におかれる(図1)。さらに、刃部91の研磨対象部分(刃面)91aはほぼ水平の状態になる(図5)。
【0059】
次いで、刃物9の刃部91を固定台部2の斜面部21に固定した後は、研磨具3の研磨材34の部分を固定台部2の斜面部21に固定された刃部91のいずれかの位置(通常は研磨の開始端部となる刃物9のあご部分91d)に降ろして載せた状態にする。このとき研磨具3の研磨材34は、図4、図5等に示すようにほぼ水平の状態に保たれる。
【0060】
続いて、開けていた上面保護カバー61を閉じる。これにより、固定台部2の斜面部21に固定された刃物9の刃部91の少なくとも研磨対象部分91aが上面保護カバー61で覆われて、使用者が刃部91の研磨対象部分91aに誤って触れることが防止される。また、上面保護カバー61を閉じた際には、刃物9の柄92が突出していない側の側面保護カバー62が、上面カバー61の一側辺部から垂れ下がった状態となって固定台部2の高位側の端部21aとその周辺部を外部から覆い隠す状態になる。これにより、使用者が固定台部2の側面側から刃部91の切っ先部分91a及び研磨対象部分91aに誤って触れることが防止される。一方の側面保護カバー63は、刃物9の柄92が突出した状態にあるため、上面カバー61の他の一側辺部から垂れ下がった状態にならず、その柄92の上に載った状態になる(図1、図7)。これにより、刃物9の柄92を固定台部に載せずに本体フレーム10の端部から突出させた状態で固定することができる。
【0061】
そして、このように研磨作業を開始する準備が整った段階で、使用者は、図8に示すように、研磨具3の把持部36における操作つまみ37に手指100を実線で描く向きで載せて刃物9の刃部91における研磨対象部分91aの長手方向と交差する方向(例えば矢印Xの方向)に往復移動(矢印A1,A2の方向に移動)させて研磨作業を開始する。
【0062】
このとき、研磨具3は、その支持フレーム31の研磨材34が取り付けられた端部とは反対側の端部(第二支持板33における支持部形成部分33bの接触材38)が支持部4の支持部材41の上に載った状態で支持される一方で、その研磨材34が刃部91の研磨対象部分91aを交差する方向に対して往復移動する。これにより、刃部91の研磨対象部分91aが研磨材34の研磨作用により研磨される。
【0063】
また、往復移動する研磨具3は、矢印A1で示す方向に移動する往時には、図9(b)に示すように支持フレーム31の第二支持板33の支持部形成部分33bにおける第一制止板5Aである立ち下げ面部39aが支持部4の支持部材41の側部に接触し、これにより研磨具3の矢印A1方向への移動が停止させられる。
【0064】
この結果、研磨具3の研磨材34は、その研磨範囲(特に長さ方向の寸法L2:図6(a))内の地点P2(図9(b))において刃部91の研磨対象部分91aに接触した状態のままで停止し、研磨材34が存在しない第一支持板32の下面が研磨対象部分91aに接触してしまうおそれがない。また、研磨具3の第二支持板33における支持部形成部分33bは、折返し曲げ面部39が支持部材41をその下方側から囲む状態で停止し、支持部材41から脱落等の逸脱する現象が発生するおそれがなく、支持部材41に支持された状態が維持される。
【0065】
一方、往復移動する研磨具3は、矢印A2で示す方向に移動する復時には、図9(a)に示すように支持フレーム31の第一支持板32の支持部形成部分32bにおける第二制止板5Bである立ち上げ面部33cが支持部4の支持部材41の側部に接触し、これにより研磨具3の矢印A2方向への移動が停止させられる。
【0066】
この結果、研磨具3の研磨材34は、その研磨範囲(特に長さ方向の寸法L2:図6(a))内の地点P1(図9(a))において刃部91の研磨対象部分91aに接触した状態のままで停止し、研磨材34の端部の下角部が研磨対象部分91aに接触してしまうおそれがない。また、研磨具3の第二支持板33における支持部形成部分33bは、折返し曲げ面部39が支持部材41の下方側に存在しない状態になるものの、支持部材41から脱落等の逸脱する現象が発生するおそれがなく、支持部材41に支持された状態が維持される。
【0067】
この刃物研磨機1Aにおいては、研磨具3を往復移動させて研磨作業を行う際に、その研磨具3が往復移動時に制止部5としての第一制止板5A及び第二制止板5Bが制止固定部としての支持部材4にそれぞれ接触して支持部材41に支持された状態のままで停止させられ、その支持部材41から逸脱するおそれがない。また、研磨具3の第一制止板5A及び第二制止板5Bにより規制される移動範囲が、その研磨材34の研磨可能な最大範囲(特に図6に示す長さ方向の寸法L2に相当)を超えない範囲L3(図9(b))内に収められる。範囲L3とは、往時のスタート時に研磨対象部分91aと接触する第一地点P1(図9(a))と復時のスタート時に研磨対象部分91aと接触する第二地点P2(図9(b))の間の距離になる。
【0068】
このため、研磨具3の往復移動による研磨作業中に、研磨具3の支持部材41から逸脱の回避や研磨材34の研磨可能な範囲内での移動の維持などに対する高度な注視を要求されず、その往復移動の操作を比較的安心して素早く行うことが可能になる。これにより、例えば他の作業を並行しながら研磨作業を行うこともできる。また、研磨材34の研磨面を有効に利用することも可能になる。したがって、この刃物研磨機1Aによれば、刃物9の研磨をその刃部91の損傷を招くおそれが少なく安全かつ迅速に行うことができる。
【0069】
ちなみに、研磨具3の往復移動の操作は、図8に点線で示すように、使用者の手指101を往復移動の方向Aに沿って伸ばして操作つまみ部37を挟んで把持する状態で行うことも可能である。しかし、研磨具3を往復移動させるときの速度は、図8の実線で示すように使用者の手指100を往復移動の方向Aと交差する方向から伸ばして操作つまみ部37の凹凸面に収める状態で行った方が速くなる傾向にある。
【0070】
この他にも、研磨具3の往復移動による研磨作業中には、透明性の上面保護カバー61や側面保護カバー62,63が閉じられていることにより、研磨具3や刃物9の刃部91など状況を透視して視認することができ、そのうえ、使用者が誤って刃物9の刃部91に触れることが防止される。
【0071】
また、研磨具3の往復移動中において、研磨具3が支持部材41を支点して研磨材43のある端部側が上方に持ち上がった状態が発生した場合であっても、次のようにして、その持ち上がった状態がすぐに制止される。すなわち、研磨具3の第一支持板32の先端部32aが、図9(b)に示すように本体フレーム10の側面部13における折曲げ部14の下面の下方に存在するときであれば、その折曲げ部14の下面に当たって制止される。また、その第一支持板32の先端部32aが上面保護カバー61の下面に当たって上面保護カバー61を開ける方向(B1)に跳ね上げたときでも、図4に例示するように、その上面保護カバー61の自由端部61aが研磨具3の第二支持板33の下面に存在しているときであれば、その第二支持板33の下面に当たって上面保護カバー61の開く動作が阻止されることで制止される。これによっても、研磨具3の往復移動の操作における安全性が確保される。
【0072】
さらに、研磨具3の往復移動による研磨作業は、例えば、刃物9の刃部91におけるあご部分91dから開始して切っ先部分91eの方向に徐々に研磨場所を移動させながら行うことができる。
【0073】
本実施の形態における固定台部2の斜面部21は、その長手方向の端部21d,21eが本体フレーム10の長手方向の端部10d,10eよりも所定の距離gだけ内側にずれて存在するように形成し、その端部21d,21eと端部10d,10eの間に斜面部21のない空所25が存在するように構成されている(図3参照)。これにより、図7に示すように、刃部91の柄元部分91fや柄92の口金93などの厚みが異なる部分を空所25の空間内に存在させて固定台部2の斜面部21に載せないようにし、これによって刃部91のあご部分91dを斜面部21に安定した状態で固定したうえで研磨することが可能になる。
【0074】
また、刃物9の刃部91は、一般に、図10に例示するように、その研磨対象部分91aの長手方向の形状(刃先92bの描く線)が湾曲した外形線を描く形状になっている。
このような刃部91の研磨対象部分91aに対して、研磨具3における平板状の研磨材34(の研磨面)を水平の状態に保ったままで研磨対象部分91aの全域を移動させた場合には、図10に斜線を入れて模式的に示すように、その平面からなる研磨面34cが刃部の研磨対象部分91a(刃先92b)の湾曲した部分と整合しないため、特に研磨面34cの端部角部が研磨対象部分91aに接触してしまうことが生じ、良好な研磨を行うことが難しくなることがある。
【0075】
これに対して本実施の形態では、研磨具3の支持部材41と接触して支持される第二支持板33の支持部形成部分33bにおける接触材38の断面形状を円弧形状に形成している(図6(c))。これにより、研磨具3は、図11や図12に示すように、直線状の支持部材41に対して接触材38の断面円弧形状の部分が接触して支持されている状態になるので、往復移動の方向Aの交差する方向E1,E2に倒れこむように回転しやすい状態で支持されることとなる。この結果、研磨材34の平面の研磨面34cが刃部の研磨対象部分91aの湾曲した部分の形状に倣って傾いた状態となり、研磨面34cの端部角部が研磨対象部分91aに接触しなくなる。図11及び図12において符号3Bで示す研磨具3はその研磨材34(研磨面34)が矢印E1で示す方向に回転して傾いた場合を示し、符号3Cで示す研磨具3はその研磨材34が矢印E2で示す方向に回転して傾いた場合を示している。この場合は、研磨具3は、その回転して傾いた状態で往復移動させることにより、研磨対象部分91aの湾曲した部分の研磨を良好に行うことができる。
【0076】
最後に、研磨作業が終了した後は、図9(a)に示すように研磨具3を矢印A2の方向に移動させて第二制止板5Bを支持部材41に接触させ、第二往時のスタート地点でもある位置に停止させた状態にする。そして、上面保護カバー61を開けた状態にしたうえで研磨具3の研磨材34を刃物9の刃部91の研磨対象部分91aから浮かして離した状態にした後(又は、この位置で研磨具3を上方に持ち上げて取り外した後)、刃物の刃部91を固定台部2の斜面部21から取り外す。これにより、刃物研磨機1Aによる刃物の研磨作業が完了する。
【0077】
図13は、接触材38の断面形状として適用できる他の構成例を示すものである。
【0078】
同図(a)に示す接触材38はその断面形状が逆三角の形状となるものを適用した例であり、同図(b)に示す接触材38はその断面形状が細い棒状のT字形状となるものを適用した例である。この2つの構成例は、接触材38が円柱状の支持部材41の外周部にほぼ点接触して支持されるようになるので、非常に回転しやすい支持状態が得られる。また、同図(c)に示す接触材38はその断面形状が逆台形の(両側端部を先細り状となるように直線的に削除した)形状となるものを適用した例であり、同図(d)はその断面形状が両側端部を円弧状に削除した形状となるものを適用して例である。接触材38の断面形状としては、他にも例えば4面以上の多面形(多角形)であってもよい。
【0079】
図14は、制止部5の他の構成例を示すものである。
【0080】
この制止部5は、第一制止部5Aを、本体フレーム10の側面部13の内壁面に設けた例である。つまり、この第一制止部5Aは、同図(b)に示すように研磨具3の第一支持板32の研磨材34を取り付けた側の端部32aを接触させて、研磨具3の往時における矢印A1の方向への移動を停止させるものである。第一制止部5Aは、側面部13の内壁面の一部をそのまま利用したものであってもよいが、第一支持板32の端部32aの接触時の衝撃振動や衝撃音を抑える観点からスポンジ、ゴム等の緩衝材56を取り付けておくことが好ましい。
【0081】
この場合、制止部5の第一制止部5A及び第二制止板5Bにより規制する研磨具3の移動範囲の距離S0は、例えば、図14に示すように、第二制止板5Bである支持フレーム31における立上げ面部33cが支持部材41の側部に接触したときの第一支持体32の一端部32aの位置と第一制止部5Aの接触面との離間距離に相当することになる。また、この場合においても、研磨具3の第一制止部5A及び第二制止板5Bにより規制される移動範囲は、その研磨材34の研磨可能な最大範囲(長さ方向の寸法L2に相当)を超えない範囲L4(図14(b))内に収められる。範囲L4は、往時のスタート時に研磨対象部分91aと接触する第一地点P3(図14(a))と復時のスタート時に研磨対象部分91aと接触する第二地点P4(図14(b))との間の距離になる。
【0082】
[実施の形態2]
図15から図17は、実施の形態2に係る刃物研磨機を示すものである。
【0083】
実施の形態2に係る刃物研磨機1Bは、前記した実施の形態1に係る刃物研磨機1Aに対して液体塗布ロール71を備えた液体容器75を装備したものであり、それ以外については前記研磨機1Aと同じ構成のものである。
【0084】
液体容器75は、図15や図16に示すように、研磨具3の研磨材34に塗布するための水、研磨油等の液体78を収容するものであり、例えば固定台部2の長手方向の長さL1にほぼ相当する長さを有し且つ上部が開口した水槽形状のものが使用される。液体塗布ロール71は、ロール芯材71aの回りに液体保持性を有する材料(例えばスポンジ)で構成される塗布層71bを形成したものであり、液体容器75に対してそのロール上部が容器上端部から突出した状態で自由に回転できるように取り付けられている。そして、刃物研磨機1Bを使用する際には、液体容器75に液体78をその液面が液体塗布ロール71の下部に触れる程度に入れ、その液体78の一部を塗布ロールの塗布層71bに供給して保持させる。
【0085】
この液体塗布ロール71を備えた液体容器75は、液体塗布ロール71の上部が研磨作業時に往復移動する研磨材34の研磨面(下面)に接触し得る場所に設置される。この実施の形態では、本体フレーム10の底面部11Bの上で固定台部2の高位側の立上げ面部23に寄せて固定台部2の斜面部21と平行に並べた状態で設置した。また、この液体塗布ロール71を備えた液体容器75は、本体フレーム10の設置場所に常設するか、あるいは、研磨作業を行うときにだけその設置場所に設置するよう取り外し可能に構成される。
【0086】
刃物研磨機1Bによる刃物9の研磨作業では、図17に示すように、往復移動する研磨具3の研磨材34の研磨面に液体塗布ロール71によって液体容器75の液体78が塗布される。すなわち、研磨具3を矢印A1,A2の方向に往復移動させるとき、その研磨材34は液体塗布ロール71の上を通過して接触することで、液体塗布ロール71から液体78が塗布される。液体塗布ロール71は研磨材34が接触することで所要の方向に回転し、これにより液体塗布ロール71の研磨材34に触れた部分が液体容器75に収容された液体78の一部に触れて通過することになる。
【0087】
このようにして研磨中における研磨材34に液体78が塗布されることにより、研磨材34の研磨面に付着した研磨粉が液体78により除去されて研磨面における目詰まりが防止される。また、研磨材34の研磨面が液体78で濡されることにより、研磨時に発生した研磨粉が不用意に飛散することが防止される。この結果、刃物9の刃部91の研磨が安定して行われるようになり、また、研磨の作業場所が研磨粉の飛散により汚染されることがない。
【0088】
[実施の形態3]
図18から図19は、実施の形態3に係る刃物研磨機を示すものである。
【0089】
実施の形態3に係る刃物研磨機1Cは、前記した実施の形態1又は2に係る刃物研磨機1A,1Bにおける固定台部2として斜面部21の傾斜角度(θ)が変更できる構造の固定台部2Cを適用したものであり、それ以外については前記研磨機1A又は1Bと同じ構成のものである。なお、本体フレーム10の底面部については、固定台部2Cが実施の形態1における固定台部2と異なって本体フレーム10と一体に形成されたものでなく別体のものであるため、連続した1つの底面部11Cとして形成されている。
【0090】
この刃物研磨機1Cにおける固定台部2Cは、図18や図19に示すように、斜面部(板)21が、磁石シート24が取り付けられた側の端部(高位側の端部)21aを本体フレーム10の底面部11Cに固定された固定側面板26(の上端部)にヒンジ28を介して連結し、また、その反対側の端部21bを本体フレーム10の底面部11Cに形成された複数の位置決め突起29のいずれかに下端部が係止されて固定される変位側面板27(の上端部)にヒンジ28を介して連結した構造のものである。ちなみに、固定面部2Cは、その斜面部21が本体フレーム10の底面部11Cのほぼ中間に位置するように配置されている。
【0091】
複数の位置決め突起29a〜29fは、図20に示すように、底面部11Cの長手方向におけるほぼ中央部に、固定側面板26から離れる方向に所定の間隔をあけて2列に並べた状態で形成されている。この突起29の位置及び間隔の設定により、斜面部21の傾斜角度θを所要の角度に変更することができる。この突起29は、底面部11Cに所要の形状の切り込みを形成し、その切り込みを上方にむけて起立させるように折り曲げることで形成されている。この突起29については、底面部11Cとは別の部材(合成樹脂など)で形成した突起形状物を底面部11Cに固着させたものであってもよい。突起29の数、寸法、形状、間隔、材質等については適宜変更することができる。
【0092】
また、固定側面板26については、その底面部11Cからの高さを、実施の形態1における固定台部2の高位側の立上げ面部24の高さ(図4)とほぼ同じ高さに設定している。一方、変位側面板27は、その下端部を止めて固定する位置決め突起29を変更すると、変位側面27の姿勢(傾き度合い)が変化するとともに、それに応じてヒンジ28で連結されている斜面部21の低位側端部21bの高さが変化し、これによって斜面部21の傾斜角度θが所要の角度に変更されるようになっている。この実施の形態における変位側面板27については、固定側面板26に最も近い位置にある突起29aに止めて固定した際、斜面部21の傾斜角度が最も小さい角度(θ1)になり、固定側面板26から離れる突起29b〜29fにずらして固定した場合に、斜面部21の傾斜角度が次第に大きな角度に変更されるようになっている。変位側面板27の外面には、その下端部を位置決め突起29に差し込んで止める作業を行う際につかむ突出部27cが形成されている。
【0093】
斜面部21の傾斜角度θの変更できる種類は、例えば、刃物9の刃部91の種類に適合させた内容に設定される。つまり、包丁のような刃物9の場合は、大別すると、牛刀、葉切り包丁、中華包丁等のような両刃タイプの刃部91Aからなる包丁と、出刃包丁、柳葉包丁、蕎麦切り包丁等のような片刃タイプの刃部91Bからなる包丁とがあり、その各刃部91A,91Bの刃先角度α(図5など)が異なる。すなわち、両刃タイプの刃部91Aにおける片側の刃先角度α/2は15°以内であり、片刃タイプの刃部91Bにおける刃先角度αは30°以内が一般的である。このため、この2タイプの刃部91A,91Bの研磨に際しては、その刃先角度などに適合した傾斜角度θに変更できるように対応することが望ましい。
【0094】
図18に示す固定台部2Cは、両刃タイプの刃部91Aからなる包丁(刃物)の研磨を行う場合における斜面部21の傾斜角度θ1の設定例である。この場合、変位側面板27は、その下端部を固定側面板26に最も近い位置にある位置決め突起29aに止めて固定しており、これにより例えば15°程度の傾斜角度θ1が得られるようになっている。
【0095】
一方、図19に示す固定面部2Cは、片刃タイプの刃部91Bからなる包丁(刃物)の研磨を行う場合における斜面部21の傾斜角度θ2の設定例である。この場合、変位側面板27は、その下端部を固定側面板26から最も遠い位置にある位置決め突起29fに止めて固定しており、これにより例えば30°程度の傾斜角度θ2が得られるようになっている。
【0096】
したがって、この刃物研磨機1Cでは、固定台部2Cの斜面部21の傾斜角度θについて刃物9の刃部91の種類や研磨条件に応じて適宜変更することができ、その研磨対象の条件に適合した状態で刃物9の刃部91を斜面部21に適切な状態(傾斜角度)で固定したうえで適切な研磨を行うことが可能になる。
【0097】
なお、刃物研磨機1Cにおいては、固定台部2Cの斜面部21の傾斜角度θを有段階に変化させるための複数の位置決め突起29に代えて、変位側面板27を無段階に固定させるスライド固定機構を設けて、傾斜角度θを任意に設定できるように構成してもよい。
【0098】
ちなみに、この刃物研磨機1Cにおいて、固定台部2Cの斜面部21の傾斜角度θを変更せず一定の角度(図18のθ1)にしたうえで、支持部4の支持部材41の高さを変更して研磨具3を研磨条件に適合した姿勢(水平方向に対する傾斜角度)を変更した場合、例えば、以下の不具合がある。つまり、刃先角度αが比較的大きい片刃タイプの刃部91Bを有する刃物9の研磨に際しては、研磨材34の研磨面の刃部91Bにおける研磨対象部分91aとの交差角度を両刃タイプの刃部91Aの場合よりも大きな角度にする必要があるので、支持部材41の高さを上げた状態で研磨具3を支持することになる。この場合には、研磨材34はその先端側が下方に下がった下向きの姿勢になってしまい、その研磨具3の往復移動の操作がしにくくなったり、あるいは、液体塗布ロール71の存在が障害になったりする等の不具合がある。
【0099】
[他の実施の形態]
前記した実施の形態1〜3では、制止部5としてその制止位置を調整できるように構成したものを適用することも可能である。この場合は、例えば、研磨材34の研磨面の使用範囲を調整又は変更することができる。なお、制止部5については、本体フレーム10と研磨具3に適宜配分して設ければよい。
【0100】
また、前記した実施の形態1〜3では、安全性の低下は否めないものの、場合によっては保護カバー6(61〜62の全部又は一部)を設けず省略しても構わない。
【0101】
この発明の刃物研磨機は、刃部91を固定台部2の斜面部21に固定した状態で研磨具3の往復移動により研磨を行うことが可能であれば、刃物9の種類等については特に限定されない。
【符号の説明】
【0102】
1 …刃物研磨機
2 …固定台部
3 …研磨具
4 …支持部
5 …制止部
6 …板状の透明保護カバー(保護板)
9 …刃物
31…支持フレーム(支持材)
32…第一支持板(支持材の一部)
33…第二支持板(支持材の一部)
33c…立上げ面部(制止部の一部、接触部)
34…研磨材
36…把持部
37…操作つまみ(把持部の一部)
38…接触材(支持材の支持部に支持される部分)
39a…立下げ面部(制止部の一部、接触部)
41…支持部材(支持部の一部、制止部の一部)
61…上面保護カバー(保護板)
71…液体塗布ロール
75…液体容器
78…液体
91…刃部
91a…研磨対象部分
92…柄(柄部)
A …往復動作の方向
A1…往時の移動方向
A2…復時の移動方向
S0…規制する移動範囲
θ …傾斜角度
L3,L4…研磨材の使用範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持材の一端部側の片面に平板状の研磨材が着脱自在に取り付けられた研磨具と、
刃部と柄部を備えた刃物の刃部を所要の傾斜角度に保った状態で載せて固定する固定台部と、
前記研磨具の研磨材を前記固定台部に固定した刃物の刃部の研磨対象部分に載せた状態で当該刃部の研磨対象部分の長手方向と交差する方向に往復移動させる際に、当該研磨具の支持材の他端部を前記往復移動が可能な状態で支持する支持部と、
前記研磨具の前記往復移動するときの移動範囲を当該研磨具の移動を停止させて規制する制止部と
を有することを特徴とする刃物研磨機。
【請求項2】
前記制止部は、前記研磨具の研磨材の前記往復移動時における使用範囲を前記移動範囲として規制するように構成されている請求項1に記載の刃物研磨機。
【請求項3】
前記制止部は、前記研磨具の支持材の他端部に前記往復移動の往時及び復時に前記支持部と個別に接触する接触部として形成されている請求項1又は2に記載の刃物研磨機。
【請求項4】
前記固定台部と前記研磨具のうち研磨材が取り付けられた支持材の部分よりも上側の位置に、当該固定台部に固定される刃物の刃部の研磨対象部分を少なくとも覆う状態で存在する保護板を設け、
かつ、前記研磨具の支持材に、当該研磨具の前記往復移動させる際に使用者が把持する把持部を、前記保護板よりも上側の位置に存在する形態で設けた請求項1乃至3のいずれか1項に記載の刃物研磨機。
【請求項5】
前記固定台部は、刃物の刃部を載せる部分の傾斜角度が変更可能な構造で形成されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載の刃物研磨機。
【請求項6】
前記研磨具の支持材の前記支持部に支持される部分が、当該研磨具の前記往復移動時の方向と交差する方向に回動し得る状態で支持されている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の刃物研磨機。
【請求項7】
前記研磨具の研磨材に塗布する液体を収容する液体容器と、前記液体容器内の液体と接触し得るとともに前記往復移動させるときの前記研磨具の研磨材と接触し得る液体塗布ロールとを設置した請求項1乃至6のいずれか1項に記載の刃物研磨機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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