説明

分光センサー及び角度制限フィルター

【課題】分光センサー及び角度制限フィルターを小型化する。また、角度制限フィルターの通過光量を向上する。
【解決手段】角度制限フィルター10は、第1の開口部15を有する第1の遮光層14cと、第1の開口部に位置する第1の光透過膜11cと、第1の開口部に第1の光透過膜11cと重なって位置し、第1の光透過膜より屈折率の小さい第2の光透過膜12cと、を含み、第1の光透過膜11cは、第1の開口部の周縁から第1の開口部の中心に向かって膜厚が大きくなる方向に傾斜した第1の傾斜部を有し、第2の光透過膜12cは、第1の開口部の周縁から第1の開口部の中心に向かって膜厚が小さくなる方向に傾斜した第2の傾斜部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光センサー及び角度制限フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
医療や農業、環境等の分野では、対象物の診断や検査をするために分光センサーが用いられている。例えば、医療の分野では、ヘモグロビンの光吸収を利用して血中酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターが用いられる。また、農業の分野では、糖分の光吸収を利用して果実の糖度を測定する糖度計が用いられる。
【0003】
下記の特許文献1には、干渉フィルターと光電変換素子との間を光学的に接続する光ファイバーによって入射角度を制限することにより、光電変換素子への透過波長帯域を制限する分光イメージングセンサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−129908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の分光センサーでは、小型化が困難であるという課題がある。そのため、センサーを所望箇所に多数設置したり、常時設置しておいたりすること等が困難となってしまう。
【0006】
一方、入射角度を制限するための構造を小型化しようとすると、回折現象により光の直進性が低下しやすい。そして、光電変換素子への到達光量が減少し、分光センサーの感度が低下してしまう。
【0007】
本発明は、以上のような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の幾つかの態様は、分光センサー及び角度制限フィルターを小型化することに関連している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の幾つかの態様において、角度制限フィルターは、第1の開口部を有する第1の遮光層と、第1の開口部に位置する第1の光透過膜と、第1の開口部に第1の光透過膜と重なって位置し、第1の光透過膜より屈折率の小さい第2の光透過膜と、を含み、第1の光透過膜は、第1の開口部の周縁から第1の開口部の中心に向かって膜厚が大きくなる方向に傾斜した第1の傾斜部を有し、第2の光透過膜は、第1の開口部の周縁から第1の開口部の中心に向かって膜厚が小さくなる方向に傾斜した第2の傾斜部を有する。
この態様によれば、遮光層によって光路を形成する構成により、微細なパターンの形成が可能であり、小型の角度制限フィルターの製造が可能となる。また、第1の光透過膜によって凸レンズを形成することにより、角度制限フィルターの通過光量を向上することが可能となる。
【0009】
上述の態様において、第1の開口部と少なくとも一部が重なる第2の開口部を有する、第2の遮光層と、第2の開口部に位置する第3の光透過膜と、第2の開口部に位置し、第3の光透過膜より屈折率の小さい第4の光透過膜と、をさらに含み、第3の光透過膜は、第2の開口部の周縁から第2の開口部の中心に向かって膜厚が大きくなる方向に傾斜した第3の傾斜部を有し、第4の光透過膜は、第2の開口部の周縁から第2の開口部の中心に向かって膜厚が小さくなる方向に傾斜した第4の傾斜部を有することが望ましい。
これによれば、複数の遮光層と光透過膜とを連続的に重ねることにより、角度制限フィルターの光路長を確保し、通過する光の入射角度を制限することができる。
【0010】
本発明の他の態様において、分光センサーは、上述の角度制限フィルターと、光の波長を制限する波長制限フィルターと、角度制限フィルター及び波長制限フィルターを通過した光を検出する受光素子と、を含み、第1の光透過膜は、第2の光透過膜と受光素子の間に位置する。
この態様によれば、上述の角度制限フィルターを用いるので、小型の分光センサーの製造が可能となる。
【0011】
本発明の他の態様において、角度制限フィルターの製造方法は、第1の層を形成する工程であって、第1の層の第1の面に第1の領域を囲む第1の溝を有する第1の層を形成する工程(a)と、第1の溝を有する第1の面上に、プラズマCVD法により、第1の光透過膜をエッチングしながら成膜する工程(b)と、第1の光透過膜上に、第1の光透過膜より屈折率の小さい第2の光透過膜を成膜する工程(c)と、第2の光透過膜及び第1の光透過膜の一部に、第1の開口部を有する第1の遮光層を埋め込む工程(d)と、を含む。
この態様によれば、第1の層に有する第1の溝に整合するように第1の光透過膜に傾斜部が形成されるので、第1の光透過膜の傾斜部を所望の箇所に高精度に形成することができる。
【0012】
上述の態様において、工程(d)において埋め込まれる第1の遮光層の第1の面には、第1の開口部を囲む第2の溝を有し、当該製造方法は、工程(d)の後、第2の溝を有する第1の面上と、第2の光透過膜上とに、プラズマCVD法により、第3の光透過膜をエッチングしながら成膜する工程(e)と、第3の光透過膜上に、第3の光透過膜より屈折率の小さい第4の光透過膜を成膜する工程(f)と、第4の光透過膜及び第3の光透過膜の一部に、第2の開口部を有する第2の遮光層を埋め込む工程(g)と、をさらに含むことが望ましい。
これによれば、複数の遮光層と光透過膜とを連続的に重ねることにより、角度制限フィルターの光路長を確保し、通過する光の入射角度を制限することができる。
【0013】
上述の態様において、工程(d)は、第2の光透過膜及び第1の光透過膜の一部に、第1の遮光層を埋め込むための第3の溝を形成し、第3の溝の内部と、第2の光透過膜上とに、第1の遮光層を構成する材料を第3の溝の深さより小さい厚さで堆積させ、第2の光透過膜上に堆積した第1の遮光層を構成する材料を除去することにより、第2の溝を有する第1の遮光層が埋め込まれることが望ましい。
これによれば、第3の溝の内部に第1の遮光層を構成する材料が完全には充填されず、第2の溝が形成されるので、第2の溝を所望の箇所に高精度に形成することができる。
【0014】
本発明の他の態様において、分光センサーの製造方法は、基板に受光素子を形成する工程と、受光素子の上方に、上述の何れかの方法により、受光素子に向けて通過する光の入射方向を制限する角度制限フィルターを形成する工程と、角度制限フィルターの上方に、角度制限フィルターに向けて光を透過する傾斜構造体を形成する工程と、傾斜構造体の上方に多層膜を形成することにより、角度制限フィルターを通過できる光の波長を制限する分光フィルターを形成する工程と、を含む。
この態様によれば、上述の傾斜構造体を用いることにより、小型で感度の良い分光センサーを製造することができる。
なお、上方とは、基板の表面を基準として裏面に向かう方向とは反対の方向を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る角度制限フィルター及び分光センサーを示す図。
【図2】上記実施形態の効果を説明するための図。
【図3】上記実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す断面図。
【図4】上記実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す断面図。
【図5】上記実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す断面図。
【図6】高密度プラズマCVD法による高屈折率膜の形成の様子を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。また同一の構成要素には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0017】
<1.構成>
図1は、本発明の1つの実施形態に係る角度制限フィルター及び分光センサーを示す模式図である。図1(A)は分光センサーの平面図、図1(B)は図1(A)のB−B線断面図である。
分光センサー1は、角度制限フィルター10と、波長制限フィルター20と、受光素子30とを具備している(図1(B)参照)。図1(A)においては、波長制限フィルター20を省略している。
【0018】
分光センサー1が形成される半導体基板としてのP型シリコン基板3には、受光素子30に所定の逆バイアス電圧を印加したり、受光素子30において発生した光起電力に基づく電流を検知し、当該電流の大きさに応じたアナログ信号を増幅してデジタル信号に変換したりする電子回路(図示せず)が形成されている。
【0019】
<1−1.角度制限フィルター>
角度制限フィルター10は、受光素子30が形成されたP型シリコン基板3上に形成されている。本実施形態の角度制限フィルター10においては、複数の遮光層としてのタングステン(W)層14a〜14eによって、光路を画成する壁部が形成されている。タングステン層14a〜14eの各々は、少なくとも1つの開口部15を有している。なお、遮光層は、タングステン層14a〜14eに限らず、受光素子30によって受光しようとする波長の光の反射率がアルミニウムの反射率より低く、受光素子30によって受光しようとする波長の光を実質的に透過しない物質、例えば銅、窒化チタン、チタンタングステン、チタン、タンタル、窒化タンタル、クロム、モリブデンによって構成されていても良い。
【0020】
また、P型シリコン基板3上には、アルミニウム(Al)合金層17b〜17fが、それぞれ透光性を有する高屈折率膜11gと低屈折率膜12gとを介して積層されている。なお、アルミニウム合金層17b〜17fの代わりに、銅(Cu)合金層が形成されても良い。
【0021】
タングステン層14a〜14eは、P型シリコン基板3上に、例えば格子状の所定パターンで複数層にわたって連続的に形成される。これにより、タングステン層14a〜14eの各々に形成された開口部15が互いに重なる。
タングステン層14a〜14eの各々に形成された開口部15によって、タングステン層14a〜14eの積層方向に沿った光路が形成される。
【0022】
タングステン層14aの開口部15に相当する領域には、透光性を有する酸化シリコン膜12aが位置している。タングステン層14bの開口部15に相当する領域には、透光性を有する高屈折率膜11b及び低屈折率膜12bが位置している。
タングステン層14cの開口部15に相当する領域には、透光性を有する高屈折率膜11c及び低屈折率膜12cが位置している。タングステン層14cの開口部15と同様に、タングステン層14d或いは14eの開口部15に相当する領域には、それぞれ、透光性を有する高屈折率膜11d及び低屈折率膜12d、或いは、透光性を有する高屈折率膜11e及び低屈折率膜12eが位置している。
タングステン層14eの開口部15に相当する領域上には、透光性を有する高屈折率膜11f及び低屈折率膜12fが積層されている。
【0023】
高屈折率膜11b〜11gは、例えば、高密度プラズマCVD法によって成膜された酸化シリコン(SiO)膜である。低屈折率膜12b〜12gは、例えば、プラズマCVD法によって成膜された酸化シリコン膜である。高屈折率膜11b〜11gを成膜するための高密度プラズマCVD法は、低屈折率膜12b〜12gを成膜するためのプラズマCVD法よりも高密度のプラズマ雰囲気中で酸化膜を形成するものである。
【0024】
高屈折率膜11b〜11gは、高密度プラズマCVD法によって成膜された酸窒化シリコン(SiON)膜でもよい。また、低屈折率膜12b〜12gは、SOG(spin on glass)を用いて成膜された酸化シリコン膜でもよい。
【0025】
高屈折率膜11c〜11fは、タングステン層14c〜14eの開口部15における周縁部から中心部に向かって膜厚が大きくなる方向に傾斜した傾斜部110を有している。低屈折率膜12c〜12fは、タングステン層14c〜14eの開口部15における周縁部から中心部に向かって膜厚が小さくなる方向に傾斜した傾斜部120を有している。
【0026】
タングステン層14a〜14eによって形成された壁部は、光路内を通過する光の入射角度を制限する。すなわち、光路内に入射した光が、光路の向きに対して傾いている場合には、光がタングステン層14a〜14eの何れかに当たり、その光の一部はタングステン層14a〜14eの何れかに吸収され、残りは反射される。光路を通過するまでの間に反射が繰り返されることによって反射光は弱くなるので、角度制限フィルター10を通過できる光は、実質的に、光路に対する傾きが所定の制限角度範囲内の光に制限される。
【0027】
上述の態様においては、P型シリコン基板3上に、格子状の所定パターンで複数のタングステン層14a〜14eを形成することによって壁部が形成されるので、微細なパターンの形成が可能であり、小型の角度制限フィルター10の製造が可能となる。また、部材を接着材によって貼り合わせて分光センサーを構成する場合と比べて、製造プロセスを簡素化でき、接着材による透過光の減少も抑制できる。
【0028】
本実施形態において、角度制限フィルター10はP型シリコン基板3に対して垂直な方向の光路を有しているが、これに限らず、P型シリコン基板3に対して傾斜した方向の光路を有していても良い。P型シリコン基板3に対して傾斜した方向の光路を形成するためには、例えば、複数のタングステン層14b〜14eをそれぞれ面方向に所定量ずつずらして形成する。
【0029】
<1−2.波長制限フィルター>
波長制限フィルター20は、例えば、角度制限フィルター10上に、酸化シリコン(SiO)等の低屈折率の薄膜21と、酸化チタン(TiO)等の高屈折率の薄膜22とを多数積層したものである。
低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22は、それぞれ例えばサブミクロンオーダーの所定膜厚とし、これを例えば計60層程度にわたって積層することにより、全体で例えば6μm程度の厚さとする。
【0030】
低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22は、それぞれP型シリコン基板3に対して僅かに傾斜していても良い。低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22のP型シリコン基板3に対する傾斜角度θ及びθは、受光素子30によって受光しようとする光の設定波長に応じて、例えば0[deg]以上30[deg]以下に設定する。
【0031】
低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22をP型シリコン基板3に対して傾斜させるために、例えば、角度制限フィルター10上に透光性を有する傾斜構造体23a及び23bを形成し、傾斜構造体23a及び23bの上に低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22を成膜する。傾斜構造体23a及び23bは、例えば、角度制限フィルター10上に形成した酸化シリコンをCMP(chemical mechanical polishing)法によって加工することにより形成する。
【0032】
受光素子30によって受光しようとする光の設定波長に応じた傾斜角度θ及びθをそれぞれ有する傾斜構造体23a及び23bを形成することにより、低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22のP型シリコン基板3に対する傾斜角度を調整することができる。
【0033】
波長制限フィルター20は、以上の構成により、角度制限フィルター10に所定の制限角度範囲内で入射する光(角度制限フィルター10を通過できる光)の波長を制限する。
すなわち、波長制限フィルター20に入射した入射光は、低屈折率の薄膜21と高屈折率の薄膜22との境界面において、一部は反射光となり、一部は透過光となる。そして、反射光の一部は、他の低屈折率の薄膜21と高屈折率の薄膜22との境界面において再度反射して、上述の透過光と合波する。このとき、反射光の光路長と一致する波長の光は、反射光と透過光の位相が一致して強めあい、反射光の光路長と一致しない波長の光は、反射光と透過光の位相が一致せずに弱めあう(干渉する)。
【0034】
ここで、反射光の光路長は、入射光の向きに対する低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22の傾斜角度によって決まる。従って、上述の干渉作用が、例えば計60層に及ぶ低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22において繰り返されると、入射光の入射角度に応じて、特定の波長の光のみが波長制限フィルター20を透過し、所定の出射角度(例えば、波長制限フィルター20への入射角度と同じ角度)で波長制限フィルター20から出射する。
【0035】
角度制限フィルター10は、所定の制限角度範囲内で角度制限フィルター10に入射した光のみを通過させる。従って、波長制限フィルター20と角度制限フィルター10とを通過する光の波長は、低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22のP型シリコン基板3に対する傾斜角度θ又はθと、角度制限フィルター10が通過させる入射光の制限角度範囲とによって決まる所定範囲の波長に制限される。
波長制限フィルターは、上記の例に限定されず、特定の範囲の波長の光を透過する材料でもよい。また、特定の範囲の波長の光を分離するプリズムでもよい。
【0036】
<1−3.受光素子>
受光素子30は、波長制限フィルター20及び角度制限フィルター10を通過した光を受光して光起電力に変換する素子である。
【0037】
受光素子30は、P型シリコン基板3にイオン注入等によって形成された各種の半導体領域を含んでいる。P型シリコン基板3に形成された半導体領域としては、例えば、第1導電型の第1の半導体領域31と、第1の半導体領域31上に形成された第2導電型の第2の半導体領域32と、第2の半導体領域32上に形成され、第2の半導体領域32より高濃度の不純物を含む第2導電型の第3の半導体領域33と、が含まれる。第1導電型は例えばN型、第2導電型は例えばP型である。
【0038】
第1の半導体領域31、第2の半導体領域32及び第3の半導体領域33は、第1導電型の第4の半導体領域34に囲まれている。第1の半導体領域31は、第4の半導体領域34を介して上述のタングステン層14a〜14eに電気的に接続され、タングステン層14a〜14eは、図示しない第1の外部電極に接続されている。一方、第2の半導体領域32は第3の半導体領域33に接続され、第3の半導体領域33は、他の図示しない配線層を介して、図示しない第2の外部電極に接続されている。第1の外部電極と第2の外部電極とにより、第1の半導体領域31と第2の半導体領域32との間で形成されたPN接合に逆バイアスの電圧を印加できるようになっている。
【0039】
角度制限フィルター10を通過してきた光が受光素子30で受光されると、第1の半導体領域31と第2の半導体領域32との間で形成されたPN接合において光起電力が発生することにより、電流が発生する。この電流を、第2の外部電極に接続された電子回路によって検知することにより、受光素子30で受光した光を検知することができる。
【0040】
<1−4.効果>
図2は、上記実施形態の効果を説明するための模式図である。図2は、上記実施形態に係る分光センサーの図1(B)に相当する断面を示しているが、透明部分の断面を示すハッチングは省略している。
【0041】
角度制限フィルター10の開口部15の開口幅が、角度制限フィルター10に入射した光の波長に近いと、角度制限フィルター10において回折が起こり、光の直進性が悪くなる場合がある。そこで、本実施形態においては、高屈折率膜11c〜11fが、開口部15の周縁部から中心部に向かって膜厚が大きくなる方向に傾斜した傾斜部110を有することにより、凸レンズを構成する。
【0042】
これにより、角度制限フィルター10に入射した光は、図2に一点鎖線で示すように、開口部15の中心方向に屈折し、受光素子30に到達する。入射光を開口部15の中心方向に屈折させないと、開口端に近い入射光は、図2に点線で示すように、タングステン層14a〜14eに向かって曲がってしまう。本実施形態によれば、開口端に近い入射光を開口部15の中心方向に屈折させることにより、受光素子30への到達光量を確保し、分光センサーの感度を向上することができる。
【0043】
<2.製造方法>
ここで、第1の実施形態に係る分光センサー1の製造方法について説明する。分光センサー1は、P型シリコン基板3に受光素子30を形成し、次に、受光素子30の上に角度制限フィルター10を形成し、次に、角度制限フィルター10の上に波長制限フィルター20を形成することによって製造する。
【0044】
<2−1.受光素子の形成>
最初に、P型シリコン基板3に受光素子30を形成する。例えば、まず、P型シリコン基板3にイオン注入等を行うことによってN型の第1の半導体領域31を形成する。そして、第1の半導体領域31にさらにイオン注入等を行うことによって、N型の第4の半導体領域34と、P型の第2の半導体領域32とを形成する。そして、第2の半導体領域32にさらにイオン注入等を行うことによって、高濃度のP型の第3の半導体領域33を形成する。この工程は、同一のP型シリコン基板3上の半導体素子を含む電子回路の形成と同時に行うことができる。
【0045】
<2−2.角度制限フィルターの形成>
次に、受光素子30の上に角度制限フィルター10を形成する。
図3〜図5は、上記実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す断面図である。
(1)まず、受光素子30が形成されたP型シリコン基板3の上に酸化シリコン膜12aを形成する。次に、酸化シリコン膜12aの一部(第4の半導体領域34の上方の領域)をエッチングすることにより、酸化シリコン膜12aに溝を形成する。
次に、酸化シリコン膜12aに形成された溝の中にタングステン層14aを埋め込む。このタングステン層14aは、電子回路のための配線用のアルミニウム合金層と当該電子回路に含まれる半導体素子とを接続する導電プラグ(図示せず)の形成と同時に、形成される。
【0046】
(2)次に、酸化シリコン膜12aの一部の上に、アルミニウム合金層17bを、電子回路のための配線用のアルミニウム合金層(図示せず)の形成と同時に形成する。アルミニウム合金層17bの下面及び上面には、窒化チタン膜等が形成されることが望ましい。
次に、酸化シリコン膜12a、タングステン層14a及びアルミニウム合金層17bの上に、高屈折率膜11b及び11gとなる酸化シリコン膜を高密度プラズマCVD法によって形成する。次に、高屈折率膜11b及び11gとなる酸化シリコン膜の上に、低屈折率膜12b及び12gとなる酸化シリコン膜を形成する。これらの酸化シリコン膜は、電子回路のための配線用のアルミニウム合金層の上の絶縁膜(図示せず)の形成と同時に形成される。次に、CMP法により、低屈折率膜12b及び12gとなる酸化シリコン膜を平坦化する。
【0047】
(3)次に、低屈折率膜12b及び12gとなる酸化シリコン膜と、高屈折率膜11b及び11gとなる酸化シリコン膜との一部をエッチングすることにより、これらの酸化シリコン膜に溝13bを形成する(図3(A))。
【0048】
(4)次に、溝13bの中にタングステン層14bを埋め込む。このタングステン層14bは、まず、CVD法により、溝13bの中及び低屈折率膜12b及び12gの上に、溝13bの深さより小さい厚さでタングステンを堆積させ(図3(B))、その後、CMP法により、低屈折率膜12b及び12gの上に堆積した部分を除去することによって形成される(図3(C))。図3(C)に示すように、タングステン層14bは、その上面に第1の溝16bを有している。タングステン層14bは、電子回路のための配線用の複数のアルミニウム合金層を接続する導電プラグ(図示せず)の形成と同時に形成される。
【0049】
(5)次に、低屈折率膜12gの上に、アルミニウム合金層17cを、電子回路のための配線用のアルミニウム合金層(図示せず)の形成と同時に形成する(図4(D))。
次に、低屈折率膜12b、タングステン層14b及びアルミニウム合金層17cの上に、高屈折率膜11c及び11gとなる酸化シリコン膜を高密度プラズマCVD法によって形成する(図4(E))。図6は、高密度プラズマCVD法による高屈折率膜11cの形成の様子を示す断面図である。高密度プラズマCVD法においては、プラズマに含まれるイオンによって、酸化シリコンがエッチングされながら成膜される。図6(A)に示すように、タングステン層14bは、その上面に第1の溝16bを有している。第1の溝16bの周囲において、エッチングされながら堆積しようとする酸化シリコンは、よりエッチングされにくい第1の溝16bの内部に堆積する。このため、図6(B)に示すように、第1の溝16bの周囲には、高屈折率膜11cの膜厚の小さい部分が形成される。そして、高屈折率膜11cには、タングステン層14bの開口部15における周縁部から中心部に向かって膜厚が大きくなる方向に傾斜した傾斜部110が形成される。
【0050】
次に、図4を再び参照し、高屈折率膜11c及び高屈折率膜11gの上に、低屈折率膜12c及び低屈折率膜12gとなる酸化シリコン膜を形成する。次に、CMP法により、低屈折率膜12c及び12gとなる酸化シリコン膜を平坦化する(図4(F))。
【0051】
(6)次に、低屈折率膜12c及び12gとなる酸化シリコン膜の一部をエッチングすることにより、溝13cを形成する(図5(G))。
【0052】
(7)次に、溝13cの中にタングステン層14cを埋め込む。このタングステン層14cは、まず、CVD法により、溝13cの中及び低屈折率膜12c及び12gの上に、溝13cの深さより小さい厚さでタングステンを堆積させ(図5(H))、その後、CMP法により、低屈折率膜12c及び12gの上に堆積した部分を除去することによって形成される(図5(I))。図5(I)に示すように、タングステン層14cは、その上面に第2の溝16cを有している。タングステン層14cの開口部15には、高屈折率膜11c及び低屈折率膜12cが位置している。
【0053】
上述の(5)〜(7)の工程を所定回数繰り返すことにより、角度制限フィルター10が形成される。
【0054】
<2−3.波長制限フィルターの形成>
次に、角度制限フィルター10の上に波長制限フィルター20を形成する(図1参照)。例えば、まず、角度制限フィルター10の上に酸化シリコン層を形成し、この酸化シリコン層をCMP法等によって所定角度の傾斜構造体23a及び23bに加工する。次に、低屈折率の薄膜21と高屈折率の薄膜22とを交互に多数積層する。
以上の工程によって分光センサー1が製造される。
【0055】
<2−4.効果>
以上の製造方法によれば、マイクロレンズとなる高屈折率膜11c〜11fの膜厚が、タングステン層14b〜14eの溝16b、16c等の周囲において小さくなる。これにより、タングステン層14b〜14eの開口部15の位置に対してマイクロレンズの位置がずれることなく、自己整合的に高精度に形成される。
【0056】
また、タングステン層14b〜14eの幅や開口部15の大きさを調整することにより、高屈折率膜11c〜11fの傾斜部110の傾斜角度を調整することができる。これにより、マイクロレンズの曲率を調整することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…分光センサー、3…P型シリコン基板、10…角度制限フィルター、11b〜11g…高屈折率膜、12a…酸化シリコン膜、12b〜12g…低屈折率膜、13b、13c…溝、14a〜14e…タングステン層、15…開口部、16b、16c…溝、17b〜17f…アルミニウム合金層、20…波長制限フィルター、21…低屈折率の薄膜、22…高屈折率の薄膜、23a、23b…傾斜構造体、30…受光素子、31…第1の半導体領域、32…第2の半導体領域、33…第3の半導体領域、34…第4の半導体領域、110…傾斜部、120…傾斜部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の開口部を有する第1の遮光層と、
前記第1の開口部に位置する第1の光透過膜と、
前記第1の開口部に前記第1の光透過膜と重なって位置し、前記第1の光透過膜より屈折率の小さい第2の光透過膜と、
を含み、
前記第1の光透過膜は、前記第1の開口部の周縁から前記第1の開口部の中心に向かって膜厚が大きくなる方向に傾斜した第1の傾斜部を有し、
前記第2の光透過膜は、前記第1の開口部の周縁から前記第1の開口部の中心に向かって膜厚が小さくなる方向に傾斜した第2の傾斜部を有する、角度制限フィルター。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の開口部と少なくとも一部が重なる第2の開口部を有する、第2の遮光層と、
前記第2の開口部に位置する第3の光透過膜と、
前記第2の開口部に位置し、前記第3の光透過膜より屈折率の小さい第4の光透過膜と、
をさらに含み、
前記第3の光透過膜は、前記第2の開口部の周縁から前記第2の開口部の中心に向かって膜厚が大きくなる方向に傾斜した第3の傾斜部を有し、
前記第4の光透過膜は、前記第2の開口部の周縁から前記第2の開口部の中心に向かって膜厚が小さくなる方向に傾斜した第4の傾斜部を有する、角度制限フィルター。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の角度制限フィルターと、
光の波長を制限する波長制限フィルターと、
前記角度制限フィルター及び前記波長制限フィルターを通過した光を検出する受光素子と、
を含み、
前記第1の光透過膜は、前記第2の光透過膜と前記受光素子の間に位置する分光センサー。
【請求項4】
第1の層を形成する工程であって、前記第1の層の第1の面に第1の領域を囲む第1の溝を有する前記第1の層を形成する工程(a)と、
前記第1の溝を有する前記第1の面上に、プラズマCVD法により、第1の光透過膜をエッチングしながら成膜する工程(b)と、
前記第1の光透過膜上に、前記第1の光透過膜より屈折率の小さい第2の光透過膜を成膜する工程(c)と、
前記第2の光透過膜及び前記第1の光透過膜の一部に、第1の開口部を有する第1の遮光層を埋め込む工程(d)と、
を含む、角度制限フィルターの製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記工程(d)において埋め込まれる前記第1の遮光層の第1の面には、前記第1の開口部を囲む第2の溝を有し、
前記製造方法は、
前記工程(d)の後、前記第2の溝を有する前記第1の面上と、前記第2の光透過膜上とに、プラズマCVD法により、第3の光透過膜をエッチングしながら成膜する工程(e)と、
前記第3の光透過膜上に、前記第3の光透過膜より屈折率の小さい第4の光透過膜を成膜する工程(f)と、
前記第4の光透過膜及び前記第3の光透過膜の一部に、第2の開口部を有する第2の遮光層を埋め込む工程(g)と、
をさらに含む、角度制限フィルターの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記工程(d)は、
前記第2の光透過膜及び前記第1の光透過膜の一部に、前記第1の遮光層を埋め込むための第3の溝を形成し、
前記第3の溝の内部と、前記第2の光透過膜上とに、前記第1の遮光層を構成する材料を前記第3の溝の深さより小さい厚さで堆積させ、
前記第2の光透過膜上に堆積した前記第1の遮光層を構成する材料を除去することにより、
前記第2の溝を有する前記第1の遮光層が埋め込まれる、角度制限フィルターの製造方法。
【請求項7】
基板に受光素子を形成する工程と、
前記受光素子の上方に、請求項4〜請求項6の何れか一項記載の方法により、前記受光素子に向けて通過する光の入射方向を制限する角度制限フィルターを形成する工程と、
前記角度制限フィルターの上方に、前記角度制限フィルターに向けて光を透過する傾斜構造体を形成する工程と、
前記傾斜構造体の上方に多層膜を形成することにより、前記角度制限フィルターを通過できる光の波長を制限する分光フィルターを形成する工程と、
を含む分光センサーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−41208(P2013−41208A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179647(P2011−179647)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】