説明

分光ユニット

【課題】 従来の大型の分光器は,高性能であるが、装置が大きくなり高価であり,また小型分光器は価格も比較的安く簡単に使用できるが、検出器として用いられているリニアアレイディテクタが微弱光の検出には不向きで、光量が必要となる。またフィルターとPMTとから構成されるものでは、所望の数の蛍光波長毎にフィルターとPMTが必要となり,蛍光波長同士が近接している場合には,フィルターでは波長分離ができない場合もある。
【解決手段】 そこで本発明では、光検出器3に連なる光ファイバー2の端部5を,色収差レンズ1に対向させて,その光軸6に沿って移動可能に設置すると共に,その移動位置を制御可能な移動制御機構7を設け,光ファイバーの端部のコアの中心側に遮光部を設けた分光ユニットを提案する。光ファイバーは高NAのマルチモードファイバーとするのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種装置,システム等に分光機能を付加するための分光ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種装置,システム等に分光機能を付加するための手段としては,まずグレーティング又は分散プリズムと検出器とから構成したものがあり,近来は,検出器としてフォトダイオードアレイやCCD等のリニアアレイディテクタを使用した小型分光器も多くなっており,これらの分光器では,高速で簡単に分光スペクトルを得ることができる。
【0003】
一方,蛍光等の微弱光を高感度で検出する場合には,目的波長のみを通過させる複数のフィルターとPMT(光電子増倍管)を検出器とした構成したものも使用されている。
【0004】
更に,これらの構成を用いずに簡単に分光機能を付加する手段として,特許文献1では,試料からの光を色収差レンズにより収束すると共に,収束された光が通過するように配置したピンホールを,波長に応じて色収差レンズの光軸に沿って移動させる構成とし,ピンホールからの透過光を光検出器により検出するように構成したものが提案されている。
【特許文献1】特開平1−188816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記の従来技術では次に示すような課題がある。
1.大型の分光器では,例えば2次光を抑えるフィルター交換が自動モーターなどで行えるようになっている等,高性能であるが、装置が大きくなり高価である。
2.また小型分光器は価格も比較的安く簡単に使用できるが、検出器として用いられているリニアアレイディテクタは微弱光の検出には不向きで、光量が必要となる。
3.微弱光を検出するための手段として,フィルターとPMTとから構成されるものでは、所望の数の蛍光波長に合わせてフィルターを複数枚数必要であると共に,また検出したい蛍光の数だけPMTが必要となり,また所望の数の蛍光波長同士が近接している場合には,フィルターでは波長分離ができない場合もある。
4.また,特許文献1のものでは,色収差を効果的に発生させるにはF値の小さいレンズを使用する必要があるが、F値が小さくなれば球面収差も同時に発生して収束する焦点が光軸上にずれるために、波長が異なる光も検出器に入ってしまうという欠点がある。
一般に、球面収差とはレンズ形状によって単色光で起こる収差で軸上の1点から出た光が1点に集まらない収差をいい、光軸中心から遠くなるほど、つまりレンズ中心から遠くなり,周縁側へいくほど焦点がずれていく現象である。この球面収差は、F値の大きいレンズを使用することで小さくすることが可能であるが、色収差を大きくするためには曲率半径の大きいレンズを使用することになり、結果として球面収差も大きくなり,これらを同時に解決することは困難である。
【0006】
本発明は,以上の課題を解決することを目的とするもので,即ち,従来の分光器を用いずに,高感度で波長分解能の高い分光機能を利用することができる分光ユニットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するために,本発明では、光検出器に連なる光ファイバーの端部を,色収差レンズに対向させて,その光軸に沿って移動可能に設置すると共に,その移動位置を制御可能な移動制御機構を設け,光ファイバーの端部のコアの中心側に遮光部を設けた分光ユニットを提案している。
【0008】
そして本発明では、上記構成において,移動制御機構は,波長既知の光による測定に基づいて得られた波長と光ファイバーの端部の位置との対応関係の記憶手段を備えており,所望の波長に対して,対応関係から位置を求めて,その位置に移動させる構成とすることを提案している。
【0009】
以上の本発明においては,光ファイバーは,シングルモードファイバーではなく,高NAのマルチモードファイバーとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
ある波長の光が色収差レンズの周縁側を通って焦点を結ぶ位置に光ファイバーの端部を位置させると,それよりも波長が短く,色収差レンズの中心側を通って光ファイバーの端部の近傍に焦点を結ぶ光は,光ファイバーの端部のコアの中心側に設けた遮光部により遮光することができ,また上記ある波長の光が色収差レンズの中心側を通って焦点を結ぶ位置は,光ファイバーの端部よりも,更に色収差レンズから離れた位置であるので,ある波長の光は,中心側の一部が遮光部により遮光されるものの,他は遮光部の外側において高NAの光ファイバーのコア内に入射して光検出器により検出することができる。
【0011】
こうして本発明では、色収差レンズの球面収差による焦点のずれを排除し,また色収差の効果を高めることにより,高い光分解能での波長分離が可能となる。また光検出器としては,PMT等の高感度光検出器を使用することによりフィルターでは分光できないような波長差の蛍光試料等にも適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
移動制御機構に,波長既知の光による測定に基づいて得られた波長と光ファイバーの端部の位置との対応関係の記憶手段を備えることにより,所望の波長に対して,対応関係から位置を求めて,その位置に迅速に移動させることができる。
【0013】
複数の波長に対応する夫々の位置に高速で次々に移動させることにより,複数波長の光に対する測定を行うことができる。
【実施例1】
【0014】
次に本発明の実施例を添付図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る分光ユニットの構成を示す系統図であり,また図2,図3は本発明の動作と,その原理を模式的に示す説明図である。
符号1は色収差レンズであり,2は光ファイバーである。光ファイバー2は光検出器3に接続されている。この光検出器3は,例えばPMT等の高感度光検出器を用いる。符号4は移動機構を示すものであり,この移動機構4は,光ファイバー2の端部5を色収差レンズ1に対向させて支持すると共に,この端部5を色収差レンズ1の光軸6に沿って移動可能としている。勿論,図に示すように,光ファイバー2の端部5の光軸は,色収差レンズ1の光軸6と一致させる。また光ファイバー2は,シングルモードファイバーではなく,高NAのマルチモードファイバーとしている。
【0015】
符号7は移動機構4の移動を制御する移動制御機構であり,この移動制御機構7には,波長既知の光による測定に基づいて得られた波長と,光ファイバー2の端部5の位置との対応関係を記憶する記憶手段8を備えており,測定すべき所望の波長に対して,記憶手段8に記憶させた対応関係から位置を求めて移動機構4を制御することにより,光ファイバー2の端部5を,求めた位置に移動させる構成としている。測定すべき波長が複数の場合には,夫々の位置を求めて移動機構4を制御して,光ファイバー2の端部5を,夫々の位置に高速で次々に移動させる制御を行う。
【0016】
図1,図2に示すように,色収差レンズ1を通った光は,色収差により,波長が長いほど,色収差レンズ1から,より離れた位置で焦点を結ぶと共に,球面収差により,図2に示すように,色収差レンズ1の中心側から周辺側に行くに従って,色収差レンズ1に,より近い位置で焦点を結ぶ。
【0017】
図2では,光の波長の違いを線種により表しており,例えば図1,図2の実線の光L2は破線の光L3よりも波長が長く,2点鎖線の光L1よりも波長が短い。尚,図において,色収差レンズ1の中心側を通る光には添字i,周縁側を通る光には添字oを付して区別する。
【0018】
図2,図3に示すように,色収差レンズ1の中心側を通った光L3iが結ぶ焦点f3iは,この光L3よりも波長の長い光L2が色収差レンズ1の周縁側を通って結ぶ焦点f2oと近接している。
【0019】
ここで,ある波長の光,この場合,光L2の測定を行う場合には,図3に示すように,移動制御機構7により移動機構4を制御して光ファイバー2の端部5の端面を,光L2が色収差レンズ1の周縁側を通って結ぶ焦点f2oの位置にもたらす。尚,符号9は光ファイバー2のコア,10はクラッドであり,11は遮光部を示すものである。
【0020】
この状態では光L2よりも波長の短い光L3が色収差レンズ1の中心側を通った光L3iは,コア9の中心側に設けた遮光部11により遮光される。色収差レンズ1を通った光L2のうち,色収差レンズ1の中心側を通った光L2iの一部は遮光部11により遮光されるが,色収差レンズ1の,より周縁側を通る光は遮光部11よりも外側に位置するので光ファイバー2のコア9内に入射して光検出器3により検出することができる。
【0021】
ここで遮光部11は,大きくすると,上述したように対象とする波長の光の,色収差レンズ1の中心側を通る部分を遮光する割合が大きくなるため,対象とする波長の光の光量が小さくなるが、波長分解能は高くなる。従って,遮光部11は,波長分解能と光量を勘案して適宜に決定することができる。
【0022】
遮光部11は,光ファイバー2のコア9への光の入射を防止するものであるから,光を反射,散乱又は吸収する構成とすれば良く,例えば対応するコア9に傷を形成することにより,容易に散乱可能とすることができる。
【0023】
こうして本発明では、色収差レンズ1の球面収差による焦点のずれを排除し,また色収差の効果を高めることにより,高い光分解能での波長分離が可能となり,また光検出器3としては,PMT等の高感度光検出器を使用することにより,従来例として示した構成におけるフィルターでは分光できないような波長差の蛍光試料等にも適用することができる。
【0024】
上述したとおり,本発明では、移動制御機構7に,波長既知の光による測定に基づいて得られた波長と光ファイバー2の端部5の位置との対応関係の記憶手段を備えることにより,所望の波長の光に対して,対応関係から位置を求めることができ,これに基づいて移動機構4により,その位置に迅速に移動させることができる。
【0025】
そして,複数の波長に対応する夫々の位置に高速で次々に移動させることにより,複数波長の光に対する測定を行うことができる。
【実施例2】
【0026】
次にFRET(蛍光エネルギー移動)に良く利用される蛍光タンパク質のECFPとEYFPを同時に検出する場合について本発明を利用した実施例を説明する。
まず,ドナーであるECFPの最大励起波長は433nm,最大蛍光波長は474nmである。一方アクセプターであるEYFPの最大励起波長は512nm、最大蛍光波長は575nmである。
そこで,ECFP励起に波長405nmのレーザーダイオード(LD)を使用し、色収差レンズ1の材質にBK7を用いた場合を考えると、それぞれの波長における屈折率は、405nmで1.53024,474nmで1.52329,587nmで1.51680である。
一方,有効径3.6mm,546.1nmでの焦点距離6mmのレンズを色収差レンズ1として用いると、夫々の波長における焦点距離f(405nm)は5.85mm,f(474nm)は5.93mm,f(587nm)は6.00mmとなる。
上述した寸法から,色収差レンズ1のNAは0.29であるので、光ファイバー2のNAは0.29以上で,例えばコア9径を200μmとしたマルチモードタイプの光ファイバー2を用いる。
このとき,色収差レンズ1の球面収差による光軸6方向の焦点位置のずれは,159μmとなり、色収差レンズ1周縁部の光の焦点距離は,f(405nm)で5.69mm,f(474nm)は5.77mm,f(587nm)は5.84mmとなる。
このように色収差レンズ1の周縁部に対応したEYFPの焦点距離である5.84mmと、励起レーザー波長405nmの色収差レンズ1の中心部に対応した焦点距離5.85mmとが略同じ位置となり、そのままでは励起レーザーの光も同時に検出してしまう。
【0027】
そこで,色収差レンズ1の中心側の20%を遮光し、光ファイバー2の端部5のコア9を,色収差レンズ1の周縁部を通った光の焦点位置に合わせると、その時の色収差レンズ1の有効径の中心側の20%を通った光の大きさは,1番大きい405nmの時で約61μmであるため、光ファイバー2のコア9の端面をφ61μmだけ遮光部11により遮光する。遮光は上述したように,その一つの手段として光を散乱させればよいので,簡単に行える方法として傷をつけた。
EYFPとEYFPの2つの蛍光を夫々検出するために必要な光ファイバー2の端部5の,光軸6方向の移動距離は150μmであり、光ファイバー2を,移動機構4としてのPZTステージを用い,移動制御機構7により制御して上記移動距離を高速スキャンさせ、高感度の光検出器3としてPMTを用いて同時測定を行い,夫々の波長においてノイズの少ない光信号の取得が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は以上のとおりであるので、次のような効果があり,産業上の利用可能性が大である。
1.グレーティング又は分散プリズムと検出器とから構成される従来の分光器や,フィルター等を使用せずに,簡素な構成で,高感度で波長分解能の高い分光機能を実現することができる。
2.フィルターでは分光できないような波長差の小さい蛍光試料等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る分光ユニットの構成を示す系統図である。
【図2】本発明の動作と,その原理を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明の動作と,その原理を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 色収差レンズ
2 光ファイバー
3 光検出器
4 移動機構
5 光ファイバーの端部
6 光軸
7 移動制御機構
8 記憶手段
9 コア
10 クラッド
11 遮光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光検出器に連なる光ファイバーの端部を,色収差レンズに対向させて,その光軸に沿って移動可能に設置すると共に,その移動位置を制御可能な移動制御機構を設け,光ファイバーの端部のコアの中心側に遮光部を設けたことを特徴とする分光ユニット
【請求項2】
移動制御機構は,波長既知の光による測定に基づいて得られた波長と光ファイバーの端部の位置との対応関係の記憶手段を備えており,所望の波長に対して,対応関係から位置を求めて,その位置に移動させる構成としたことを特徴とする請求項1に記載の分光ユニット
【請求項3】
光ファイバーは高NAのマルチモードファイバーとしたことを特徴とする請求項1に記載の分光ユニット

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−308403(P2006−308403A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130752(P2005−130752)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000138200)株式会社モリテックス (120)
【Fターム(参考)】