説明

分光光度計および分光光度計における信号積算方法

【課題】キセノンフラッシュランプを光源とし、測定波長範囲の各波長で異なるパルス発光時間を設定可能とし、取得信号がAD変換回路において飽和しないように積算時間を設定可能な分光光度計を実現する。
【解決手段】キセノンフラッシュランプ1からの光の波長を選択するとともに、その選択した波長に応じた積算時間をAD変換機回路13に設定する。発光強度が強い波長に対しては、AD変換回路13が飽和しない積算時間を設定する。キセノンフラッシュランプを光源1とし、測定波長範囲の各波長において異なるパルス発光時間を設定可能とし、取得信号がAD変換回路13において飽和しないように積算時間を設定可能とし、良好なS/N比であり、かつAD変換回路13の飽和を回避可能な分光光度計及び分光方法を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源にキセノンフラッシュランプを用いる紫外可視分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な紫外可視分光光度計では、紫外域においては重水素放電管とし、可視域においてはハロゲンランプとする2種類の光源を切り替えて、測定している。
【0003】
これら重水素放電管やハロゲンランプは、発熱量が大きく、光源の出力が安定するまでに数時間の時間を要する。また、これらハロゲンランプ等は、測定中、常時点灯していることから消費電力が大きくなるという欠点があった。
【0004】
さらに、重水素放電管とハロゲンランプとの2つのランプと、それぞれの電源を必要とするため、光源部の小型化が困難であり、ランプの寿命が短いことから、ランプの定期的なメンテナンスが必要であった。
【0005】
近年、紫外可視分光光度計に求められている特長としては小型化、環境性能の向上、光源のメンテナンスフリー化などがあり、これらの要求に対し、従来の光源で対応することは困難であった。
【0006】
そこで、これらの要求に対応する光源として、キセノンフラッシュランプが注目されている。
【0007】
キセノンフラッシュランプは、単一の光源で紫外域及び可視域の波長域範囲が測定可能である。さらに、一般的な重水素放電管及びハロゲンランプに比べて、小型でかつ発熱量が小さく、しかも長寿命という特長を持つ。
【0008】
光源にキセノンフラッシュランプを用いた分光光度計に関する先行技術としては、特許文献1に記載された技術がある。
【0009】
また、特許文献2には、キセノンフラッシュランプを用いて、安定した測光データを得ることができるとともに、断続的な点灯方式を採用することによって光源の小形化、長寿命化が図れ、かつ、発熱量も少ない分光光度計について記載されている。
【0010】
さらに、特許文献2には、キセノンフラッシュランプのパルス発光に適した基本的な回路構成について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭60−1528号公報
【特許文献2】特開平6−23671号公報
【特許文献3】特表2000−500875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、キセノンフラッシュランプの発光は、常時点灯している重水素放電管やハロゲンランプと異なり、パルス発光であり、1回のパルス発光時間は数μsである(ただし、キセノンフラッシュランプは、ガスの電離が生じた発光であり、完全に消灯するまでの時間は数十μs必要である)。
【0013】
これらのパルス発光時間は波長によって異なる。このことから、測定波長範囲の各波長において良好なS/N比を確保するためには、有効な発光期間にのみ光検出器の出力信号の積算を行い、波長によって積算時間を可変とすることが望ましい。
【0014】
また、キセノンフラッシュランプは複数の輝線を有しており、波長間の発光強度差が大きいという特徴がある。
【0015】
そのため、取得信号がAD変換回路において飽和しないレベルとなるように一様な増幅率を設けることは難しく、複数の増幅率を設定可能な増幅回路が必要となる。
【0016】
しかしながら、複数の増幅率を設定可能な増幅回路を分光光度計が有する場合には、回路構成及び制御が複雑となり、分光光度計の高価格化、大型化を招いてしまう。
【0017】
本発明の目的は、キセノンフラッシュランプを光源とし、測定波長範囲の各波長において異なるパルス発光時間を設定可能とし、S/N比の向上が可能な分光光度計及び分光光度計における信号積算方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するとため、本発明は次のように構成される。
【0019】
光源にキセノンフラッシュランプを用いた分光光度計および光積算方法であって、光源からの光の波長を選択して透過し、透過した波長の光を試料に透過し、この試料を透過した光を検出し、検出した光を積算し、積算した光を少なくとも吸光度に変換するデータ処理する分光光度計及び光積算方法であり、光源の点灯を、選択する光の波長に応じて制御するとともに、検出した光の積算時間を選択する光の波長に応じて変化させる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、キセノンフラッシュランプを光源とし、測定波長範囲の各波長において異なるパルス発光時間を設定可能とし、S/N比の向上が可能な分光光度計及び分光光度計における信号積算方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1による分光光度計の概略構成図である。
【図2】本発明によるキセノンフラッシュランプのパルス発光時間と積算時間との一例を示す図である。
【図3】本発明によるキセノンフラッシュランプのパルス発光時間と積算時間との他の例を示すである。
【図4】本発明によるキセノンフラッシュランプのパルス発光時間と積算時間とのさらに他の例を示すである。
【図5】本発明の実施例2による分光光度計の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の実施例1である分光光度計の概略構成図である。
【0024】
本発明の実施例1は、試料側と参照側の2本の光束を備えたダブルビーム方式の分光光度計の例である。
【0025】
図1において、光源1はキセノンフラッシュランプである。光源1は、光源点灯回路17によって点灯を制御される。光源1から出た光は分光器2に入射する。分光器2より出射される波長は波長制御回路(波長制御器)3によって選択される。この分光器2は回転することにより透過する波長が変化することから、その回転が波長制御回路3によって制御され波長が変化されることになる。
【0026】
分光器2を出射した単色光は、光分割器4によって参照側光束5と試料側光束6に分割される。
【0027】
参照側光束5は、参照試料8を透過し、光検出器9で電気信号に変換される。一方、光分割4によって分割された試料側光束6は、反射ミラーで反射された後、試料7を透過し、光検出器10で電気信号に変換される。
【0028】
光検出器10はシリコンフォトダイオードを用いるが、光電子増倍管や、他の光検出器を用いることも可能である。光検出器9、10の電気信号は積分回路(積分器)11、12に導かれる。積分回路11、12の動作は、制御回路(制御部)15により制御され、制御回路15からの積算ゲート信号18がオンの期間だけ、光検出器9、10からの出力信号を積分回路11、12が積算する。
【0029】
符号13で示す回路は、入力信号をAD変換するAD変換回路(AD変換器)であり、積分回路11、12に蓄積された電荷量に対応する電気信号をディジタルデータに変換する。AD変換回路(AD変換器)13により、ディジタル変換された信号はデータ処理部14で吸光度や透過率に変換される。AD変換回路13は増幅器を内部に備え、AD変換の前段で信号が増幅される。
【0030】
積算ゲート信号(積分ゲート信号)18のオンとなる時間は、積算時間テーブル16に保存(格納)されており、制御回路(制御部)15は、積算時間テーブル16に保存されている時間に従って積算ゲート信号18をオンとする。積算時間テーブル16に保存されている積算ゲート信号18のオンとなる時間は、各波長によって異なり、各波長の発光時間とほぼ同じ時間である。
【0031】
制御回路15は、波長制御回路3に制御信号を供給して、分光器2から光の波長を設定すると共に、その波長に応じたオン時間となる積算ゲート信号18を積分回路11、12に供給する。また、制御回路15は、積算ゲート信号18をオンとするタイミングに合わせてパルス信号を光源点灯回路(光源点灯器)17に供給する。光源店頭回路17は、各波長毎に決定された積分時間と同等の期間だけ光源1をパルス発光させる。
【0032】
これにより、余分なノイズの積算時間を短縮でき、ノイズの影響を低減することができる。
【0033】
また、発光強度が強い波長においては、取得信号がAD変換回路13において飽和しないような積算時間が積算時間テーブル16に保存されている。
【0034】
つまり、光源1の発光スペクトルを全波長で事前に測定し、AD変換回路13で飽和しないように、積算ゲート信号18のオンとなる積算時間を決定する。
【0035】
AD変換回路13が内部に有する増幅器の増幅率は、光量が最も弱い波長に合わせて決定されるが、決定した増幅率を用いて、光量の強い波長についても、その波長に応じた積算時間とすると、AD変換回路13は光量の強い波長で飽和してしまう。
【0036】
そこで、光量が最も弱い波長の光量と、光量が強くAD変換器13が飽和する波長の光量比に基づいて、光量が強い波長の積算時間を決定し、増幅後の積算光量が光量が最も弱い波長の光量と同様となるような積算時間とする。
【0037】
これにより、発光強度の弱い波長に対して設定した増幅率においても、取得信号がAD変換回路13において飽和することなく測定が可能である。
【0038】
図2〜図4は、本発明の実施例1におけるキセノンフラッシュランプ1の発光波形及び積算ゲート信号の一例の説明図である。
【0039】
図2に示した波長1は、発光強度がIで積算期間T、図3に示した波長2は、発光強度がIで積算期間T、図4に示した波長3は、発光強度がIで積算期間Tである。
【0040】
積算ゲート信号18のオンとなる時間は、波長1、波長2、波長3によって異なるパルス発光時間に対応するよう設定されている。
【0041】
発光強度Iと発光強度がIとは、大きさが同じであるが、積算期間T、は積算期間Tより長い。また、波長3の発光強度Iは、発光強度I、Iより大きく、積算期間Tは光量が最も弱い波長の光量と、増幅後の光量が均一化するような積算時間となっている。
【0042】
以上のように、本発明の実施例1によれば、キセノンフラッシュランプ1からの光の波長を選択するとともに、その選択した波長に応じた積算時間をAD変換回路13に設定する。さらに、発光強度が強く、AD変換回路13が飽和する波長に対しては、AD変換回路13が飽和しない積算時間を設定する。
【0043】
これにより、キセノンフラッシュランプを光源とし、測定波長範囲の各波長において異なるパルス発光時間を設定可能とし、取得信号がAD変換回路において飽和しないように積算時間を設定可能とし、良好なS/N比であり、かつAD変換器の飽和を回避可能な分光光度計及び分光光度計における信号積算方法を実現することができる。
【実施例2】
【0044】
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0045】
図3は、本発明の実施例2である分光光度計の概略構成図である。
【0046】
上述した実施例1では、分光器2から出射した単色光を参照側光束5と試料側光束6とに分割するダブルビーム方式であった。
【0047】
これに対して、本発明の実施例2は、参照側光束を持たない、試料側光束のみのシングルビーム方式である。つまり、実施例1の装置構成から、光分割器4、参照試料8、光検出器9、AD変換器11を削除した構成が実施例2の構成となっており、実施例1の積算時間と同様な積算時間によって動作制御される。
【0048】
本発明の実施例2のようなシングルビーム方式ではダブルビーム方式と比較し、参照側光束を持たないことから、光源由来のノイズに弱いという欠点がある。
【0049】
しかし、このシングルビーム方式の分光光度計においても、実施例1と同様な積算時間を設定することで良好なS/N比を得ることができる。
【0050】
本発明の実施例2においても、実施例1と同様な効果を得ることができる。
【0051】
なお、本発明は、分光光度計が使用されている環境分析、工業材料分析、食品分析、その他多様な分野の分析に適用が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1・・・光源、2・・・分光器、3・・・波長制御回路、4・・・光分割器、5・・・参照側光束、6・・・試料側光束、7・・・測定試料、8・・・参照試料、9、10・・・光検出器、11、12・・・積分回路、13・・・AD変換回路、14・・・データ処理部、15・・・制御回路、16・・・積算時間テーブル、17・・・光源点灯回路、18・・・積算ゲート信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源にキセノンフラッシュランプを用いた分光光度計において、
光源からの光の波長を選択して透過する分光器と、
上記分光器を透過した波長の光が試料に透過され、この試料を透過した光を検出する光検出器と、
上記光検出器により検出した光を積算する積分器と、
上記積分器により積分された光を少なくとも吸光度に変換するデータ処理部と、
上記光源の点灯を上記分光器を透過する波長に応じて制御するとともに、上記積分器の積算時間を上記分光器を透過した波長に応じて変化させる制御部と、
を備えることを特徴とする分光光度計。
【請求項2】
請求項1に記載の分光光度計において、
上記積分器から出力される信号をAD変換し、上記データ処理部に供給するAD変換器を備え、上記AD変換器が飽和する光量を有する波長については、上記AD変換器に入力される光量が最も弱い波長における光量と、同等となるように、上記積分器の積算時間が決定されることを特徴とする分光光度計。
【請求項3】
請求項2に記載の分光光度計において、
上記波長毎に設定された積算時間が格納された積算時間テーブルをさらに備え、上記制御部は、上記積算時間テーブルに格納された波長毎の積算時間に従って、上記光源の点灯を制御するとともに、上記積分器の積算時間を変化させることを特徴とする分光光度計。
【請求項4】
請求項3に記載の分光光度計において、
上記分光器が選択して透過する波長を制御する波長制御器を備え、この波長制御器は、上記制御部からの制御信号に従って上記分光器が選択して透過する波長を制御することを特徴とする分光光度計。
【請求項5】
光源にキセノンフラッシュランプを用いた分光光度計の光積算方法において、
光源からの光の波長を選択して透過し、
上記透過した波長の光を試料に透過し、この試料を透過した光を検出し、
上記検出した光を積算し、
上記積算した光を少なくとも吸光度に変換するデータ処理する分光光度計の光積算方法であり、
上記光源の点灯を、選択する光の波長に応じて制御するとともに、上記検出した光の積算時間を上記選択する光の波長に応じて変化させることを特徴とする分光光度計の信号積算方法。
【請求項6】
請求項5に記載の分光光度計の信号積算方法において、
上記積分した光はAD変換器によりAD変換されてデータ処理され、上記AD変換器が飽和する光量を有する波長については、上記AD変換器に入力される光量が最も弱い波長における光量と、同等となるように、上記積算時間が決定されることを特徴とする分光光度計の信号積算方法。
【請求項7】
請求項6に記載の分光光度計の信号積算方法において、
上記波長毎に設定された積算時間は積算時間テーブルに格納され、上記積算時間テーブルに格納された波長毎の積算時間に従って、上記光源の点灯を制御するとともに、上記積算時間を変化させることを特徴とする分光光度計の信号積算方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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