説明

分光分析方法

【課題】SERSやSEIRASに拠り任意の測定位置にある測定対象物を分析することが可能な分光分析方法を提供する。
【解決手段】磁性を有する金属ナノ粒子10をゾルゲル液中に混合し、金属ナノ粒子10を均一に分布させる為にゾルゲル液を撹拌する。このゾルゲル液にパイプ形状のスス体11を浸漬させて、スス体11の表面にゾルゲルコート層12を形成する。スス体11とゾルゲルコート層12との界面直近の膜物性を確認するため、マグネット13によりスス体11の外部から内部へ向かって1Tの磁場Bをかけて、未硬化状態のゾルゲルコート層12内の金属ナノ粒子10を界面付近へ磁気泳動させる。そして、ゾルゲルコート層12を焼結しガラス化した後、界面へ光を照射してラマン分光分析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分光分析方法として、SERS(surface-enhanced Raman spectroscopy、表面増強ラマン分光)やSEIRAS(surface-enhancedinfrared absorption spectroscopy、表面増強赤外分光)に拠るものが知られている(特許文献1〜4を参照)。これらの分光分析方法は、金属体に光を照射したときに発現するプラズモン共鳴(Plasmon Resonance)を利用する。
【0003】
SERSに拠る分光分析方法は、プラズモン共鳴により生じるラマン散乱光に基づいて、金属体の表面の近傍にある測定対象物を分析することができる。また、SEIRASに拠る分光分析方法は、プラズモン共鳴に因る吸光に基づいて、金属体の表面の近傍にある測定対象物を分析することができる。これらの分光分析方法は、高感度に測定対象物を分析することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−164584号公報
【特許文献2】特開2004−279359号公報
【特許文献3】特開2006−349462号公報
【特許文献4】特開2008−281530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、SERSやSEIRASに拠る従来の分光分析方法は、金属体の表面の近傍にある測定対象物しか分析することができず、任意の測定位置にある測定対象物を分析することが困難である。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、SERSやSEIRASに拠り任意の測定位置にある測定対象物を分析することが可能な分光分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の分光分析方法は、磁性を有する金属ナノ粒子を磁場により測定位置に配置させ、この金属ナノ粒子に光を照射してプラズモン共鳴を発現させ、このプラズモン共鳴に因る発光または吸光に基づいて、測定位置にある測定対象物を分析することを特徴とする。
【0008】
本発明の分光分析方法は、磁性金属であるFe、Ni、Co、Gdのいずれかを含む金属ナノ粒子を使用するのが好適である。磁性金属であるFe、Ni、Co、Gdのいずれかをコア金属とし、非磁性金属であるAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Cu、Al、Ti、Wのいずれかをコーティング金属として、コア金属の周囲にコーティング金属をコーティングしたものを金属ナノ粒子として使用してもよい。或いは、非磁性金属をコア金属とし、磁性金属をコーティング金属として、コア金属の周囲にコーティング金属をコーティングしたものを金属ナノ粒子として使用してもよい。また、コア金属の周囲にコーティング金属を部分的にコーティングしたものを金属ナノ粒子として使用してもよい。
【0009】
コア金属の周囲にコーティング金属をコーティングしたものを金属ナノ粒子として使用することにより、酸化防止、耐薬品性、触媒機能の抑制、拡散防止を図ることが可能となり、また、プラズモン共鳴波長や被測定物との親和性の制御が可能となる。また、部分コーティングによって、金属ナノ粒子の配向の制御や強磁場で泳動した場合に発生するナノ粒子の磁化による凝集を抑制する効果が得られる。
【0010】
本発明の分光分析方法は、直径1mm以下の局所的な磁場を発生させることで、金属ナノ粒子を局所的に配置するのが好適である。
【0011】
本発明の分光分析方法は、測定対象物が液体または半固体(ゾル、ゲル、ガラス転移温度以上の樹脂等)であり、測定対象物中において金属ナノ粒子を磁場により測定位置に配置させるのが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、SERSやSEIRASに拠り任意の測定位置にある測定対象物を分析することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態の分光分析方法の説明図である。
【図2】第2実施形態の分光分析方法の説明図である。
【図3】第3実施形態の分光分析方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
先ず、第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態の分光分析方法の説明図である。第1実施形態では、ゾルゲルコート層の評価を行う。
【0016】
磁性を有する金属ナノ粒子10をゾルゲル液中に混合し、金属ナノ粒子10を均一に分布させる為にゾルゲル液を撹拌する。このゾルゲル液にパイプ形状のスス体11を浸漬させて、スス体11の表面にゾルゲルコート層12を形成する(同図(a))。スス体11とゾルゲルコート層12との界面直近の膜物性を確認するため、マグネット13によりスス体11の外部から内部へ向かって1Tの磁場Bをかけて、未硬化状態のゾルゲルコート層12内の金属ナノ粒子10を界面付近へ磁気泳動させる(同図(b))。そして、ゾルゲルコート層12を焼結しガラス化した後、界面へ光を照射してラマン分光分析を行う。
【0017】
金属ナノ粒子10として、磁性金属であるFe、Ni、Co、Gdのいずれかを含むものが使用される。また、金属ナノ粒子10として、磁性金属であるFe、Ni、Co、Gdのいずれかをコア金属とし、非磁性金属であるAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Cu、Al、Ti、Wのいずれかをコーティング金属として、コア金属の周囲にコーティング金属をコーティングしたものが使用されてもよい。或いは、金属ナノ粒子10として、非磁性金属であるAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Cu、Al、Ti、Wのいずれかをコア金属とし、磁性金属であるFe、Ni、Co、Gdのいずれかをコーティング金属として、コア金属の周囲にコーティング金属をコーティングしたものが使用されてもよい。
【0018】
本実施形態では、金属ナノ粒子10は、磁性金属であるNiをコア金属とし、非磁性金属であるAuをコーティング金属として、コア金属Niの周囲にコーティング金属Auをコーティングしたものとする。ゾルゲル液中の金属ナノ粒子の濃度を0.1mMとする。また、ゾルゲルコート層12の厚さを約30nmとする。
【0019】
このような実験を行ったところ、磁気泳動により界面に集められた金属ナノ粒子10によりSERS効果が発現し、界面直近のゾルゲルコート層12内部の応力、結晶状態、仮想温度および水分含有量等の分析をすることができた。なお、通常のラマン分光分析では空間分解能や感度の不足で測定不可能であるが、本実施形態では測定可能であった。
【0020】
次に、第2実施形態について説明する。図2は、第2実施形態の分光分析方法の説明図である。第2実施形態では、PE樹脂フィルム22表面に付着したミクロンサイズの異物23の分析を行う。
【0021】
異物23が付着したPE樹脂フィルム22をカバーガラス21上に貼り付け、その上に金属ナノ粒子20を混合した純水を滴下する(同図(a))。カバーガラス21の下にニードル25を配置し、カバーガラス21の下からカバーガラス21およびPE樹脂フィルム22を経て異物23へ向けて、ニードル25をヨークとして介した局所的な磁場Bを発生させる(同図(b))。この磁場Bにより、異物23上へ金属ナノ粒子20を泳動させ付着させる。磁場Bを維持したまま、純水でフラッシングし、異物23表面以外の金属ナノ粒子20を洗い流し、乾燥させた後にFT-IR測定に供する(同図(c))。
【0022】
金属ナノ粒子20として、磁性金属を含むものが使用される。また、金属ナノ粒子20として、磁性金属をコア金属とし、非磁性金属をコーティング金属として、コア金属の周囲にコーティング金属をコーティングしたものが使用されてもよい。或いは、金属ナノ粒子20として、非磁性金属をコア金属とし、磁性金属をコーティング金属として、コア金属の周囲にコーティング金属をコーティングしたものが使用されてもよい。
【0023】
本実施形態では、金属ナノ粒子20は、非磁性金属であるAuをコア金属とし、磁性金属であるNiをコーティング金属として、コア金属Auの周囲にコーティング金属Niを部分的にコーティングしたものとする。PE樹脂フィルム22の厚さを10μmとする。異物23のサイズを約1μmとする。純水24中の金属ナノ粒子の濃度を1mMとする。また、ニードル25は、Fe-Co合金製で、先端径が1μmであり、直径1mm以下の局所的な磁場を発生させることができるとする。
【0024】
このような実験を行ったところ、金属ナノ粒子20によりSEIRAS効果が発現し、PE樹脂フィルム22からのバックグラウンド信号に紛れること無く、異物23のスペクトルが測定され、異物23がSiOからなることが確認された。なお、通常のFT-IR分析では主に赤外光の波長限界の制約から10μm以下の空間分解能を得ることが非常に困難であるが、本実施形態では1μm以下の空間分解能で測定可能であった。
【0025】
次に、第3実施形態について説明する。図3は、第3実施形態の分光分析方法の説明図である。第3実施形態では、セル31内での液晶材料33の挙動の分析を行う。
【0026】
対向する透明電極32A,32Bを内部に有するガラスセル30内に、金属ナノ粒子30を均一に混合した液晶材料33を封入する(同図(a))。ガラスセル30の周囲を囲む電磁石コイル34により電場B1を発生させて、一方の透明電極32Aに金属ナノ粒子30を集める(同図(b))。その後、電源35により透明電極32Aと透明電極32Bとの間に矩形電圧を印加して液晶材料33の配向および無配向を交互に繰り返させ、これと同時に、電磁石コイル34により電場B1とは反対方向の磁場B2を発生させて金属ナノ粒子30を透明電極32Aから透明電極32Bへ泳動させる(同図(c))。この金属ナノ粒子30の泳動中に連続的なFT-IR分析(反応追跡FT-IR)を行う。
【0027】
金属ナノ粒子30として、磁性金属を含むものが使用される。また、金属ナノ粒子30として、磁性金属をコア金属とし、非磁性金属をコーティング金属として、コア金属の周囲にコーティング金属をコーティングしたものが使用されてもよい。或いは、金属ナノ粒子30として、非磁性金属をコア金属とし、磁性金属をコーティング金属として、コア金属の周囲にコーティング金属をコーティングしたものが使用されてもよい。
【0028】
本実施形態では、金属ナノ粒子30は、磁性金属Niからなる。液晶材料33中の金属ナノ粒子30の当初の濃度を0.01mMとする。透明電極32A,32Bのサイズを100×100×10μmとする。また、電源35により印加される矩形電圧の周期を30msとする。
【0029】
このような実験を行ったところ、金属ナノ粒子30によりSEIRAS効果が発現し、透明電極32Aから透明電極32Bにかけて液晶材料33のIRスペクトルが連続的に変化していることを確認することができた。なお、従来の反応追跡FT-IRでは、空間分解能が低いので、セルの厚み10μm分の積算スペクトルしか得られず、セル内でのスペクトル分布を得ることができないが、本実施形態では、セル内でのスペクトル分布を得ることができた。また、液晶材料は電場の影響を受けるが、本実施形態では金属ナノ粒子30を磁気泳動させるので測定が可能となった。
【0030】
本発明は、上記の第1〜第3の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、ゾルゲルコート層12,純水24または液晶材料33に替えて、他の液体または半固体(ゾル、ゲル、ガラス転移温度以上の樹脂等)に金属ナノ粒子を混入させてもよい。
【符号の説明】
【0031】
10…金属ナノ粒子、11…スス体、12…ゾルゲルコート層、13…マグネット、20…金属ナノ粒子、21…カバーガラス、22…PE樹脂フィルム、23…異物、24…純水、25…ニードル、30…金属ナノ粒子、31…ガラスセル、32A,32B…透明電極、33…液晶材料、34…電磁石コイル、35…電源、B,B1,B2…磁場。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性を有する金属ナノ粒子を磁場により測定位置に配置させ、この金属ナノ粒子に光を照射してプラズモン共鳴を発現させ、このプラズモン共鳴に因る発光または吸光に基づいて、前記測定位置にある測定対象物を分析する、ことを特徴とする分光分析方法。
【請求項2】
磁性金属であるFe、Ni、Co、Gdのいずれかを含む金属ナノ粒子を使用する、ことを特徴とする請求項1に記載の分光分析方法。
【請求項3】
磁性金属であるFe、Ni、Co、Gdのいずれかをコア金属とし、非磁性金属であるAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Cu、Al、Ti、Wのいずれかをコーティング金属として、前記コア金属の周囲に前記コーティング金属をコーティングしたものを前記金属ナノ粒子として使用する、ことを特徴とする請求項1に記載の分光分析方法。
【請求項4】
非磁性金属であるAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Cu、Al、Ti、Wのいずれかをコア金属とし、磁性金属であるFe、Ni、Co、Gdのいずれかをコーティング金属として、前記コア金属の周囲に前記コーティング金属をコーティングしたものを前記金属ナノ粒子として使用する、ことを特徴とする請求項1に記載の分光分析方法。
【請求項5】
前記コア金属の周囲に前記コーティング金属を部分的にコーティングしたものを前記金属ナノ粒子として使用する、ことを特徴とする請求項3または4に記載の分光分析方法。
【請求項6】
直径1mm以下の局所的な磁場を発生させることで、前記金属ナノ粒子を局所的に配置する、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の分光分析方法。
【請求項7】
前記測定対象物が液体または半固体であり、前記測定対象物中において前記金属ナノ粒子を磁場により前記測定位置に配置させる、ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の分光分析方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−247211(P2012−247211A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116997(P2011−116997)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】