説明

分光分析装置及び分光分析方法

【課題】 微量のサンプルで高感度の測定が可能となる分光分析装置及び分光分析方法を提供すること。
【解決手段】測定対象となる気体が収容されるフォトニック結晶ファイバ20と、このフォトニック結晶ファイバ20内に収容された気体に向かって複数波長のレーザ光を供給するレーザ光源12と、フォトニック結晶ファイバ20に収容された気体を通過したレーザ光の強度を検出する光検出手段13と、フォトニック結晶ファイバ20に気体を供給するガス発生装置15と、フォトニック結晶ファイバ20内の気圧を制御する真空ポンプユニット16とを備えて分光分析装置10が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分光分析装置及び分光分析方法に係り、更に詳しくは、物質の成分、濃度及び分子構造解析を微量のサンプルで高精度に行うことのできる分光分析装置及び分光分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物質の吸収スペクトルを測定することで、その物質の成分や組成を同定する吸収分光法が知られている。この吸収分光法としては、レーザ光を光源としたレーザ分光法があり、このレーザ分光法を用いた測定装置として、特許文献1に開示されたガス測定装置が知られている。このガス測定装置は、複数波長のレーザ光を照射するレーザ光源と、このレーザ光源からのレーザ光が通過する空間を有し、当該空間に測定対象の気体が供給される中空ファイバと、この中空ファイバを通過したレーザ光を受光する光検出器とを備えている。
【特許文献1】特開2002−107299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記ガス測定装置は、アンモニアガス等の比較的分子量の小さい気体の成分や組成を同定する目的の装置であり、高分子の測定、特に、たんぱく質などの成分、或いは、分子のクラスター成分や構造解析を行うには不十分である。すなわち、前記ガス測定装置に用いる中空ファイバは、内径が数mm程度のマルチモードタイプのものであって、複数の異なるモードが混在した光を伝播する性質のものである。このため、ファイバ中を伝播する光の分散が生じ、光信号に歪みが生じることから伝送距離が短くなり、高感度性を得るために長い作用長を必要とする測定、すなわち、高分子等の吸収スペクトルの測定を良好に行えないという問題がある。また、中空ファイバの内径が数mm程度のオーダであることから、光路長を数百mにすると、中空ファイバ内にサンプルガスを多量に入れなければならず、当該サンプルガスが微量である場合には測定ができないという問題がある。
【0004】
本発明は、このような問題に着目して案出されたものであり、その目的は、微量のサンプルで高感度の測定が可能となる分光分析装置及び分光分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、測定対象の気体が収容される中空のコア部分を有するフォトニック結晶ファイバと、前記コア部分に複数波長のレーザ光を照射するレーザ光源と、前記コア部分を通過したレーザ光の強度を検出する光検出手段とを備える、という構成を採っている。
【0006】
(2)また、前記光検出手段は、前記コア部分を通過したレーザ光を直交二方向の偏波に分離する偏波分離素子と、この偏波分離素子によって分離された各偏波を受光する受光素子とを備え、
各偏波の大きさを合わせてレーザ光の強度を算出する、という構成を採ることが好ましい。
【0007】
(3)更に、前記フォトニック結晶ファイバの一端側に、レーザ光源及び光検出手段が設けられる一方、前記フォトニック結晶ファイバの他端側に、レーザ光の反射手段が設けられ、
前記レーザ光は、前記一端側から導入され、前記他端側の反射手段で反射されて、前記一端側で前記光検出手段に受光される、という構成を採用することができる。
【0008】
(4)また、前記フォトニック結晶ファイバの端部と、レーザ光源及び/又は光検出手段との間に、フォトニック結晶ファイバからなる光屈折手段が設けられる、という構成を採用するとよい。
【0009】
(5)更に、本発明は、中空のコア部分を有するフォトニック結晶ファイバを使った分光分析方法であって、
前記コア部分に測定対象の気体を収容した後で、複数波長のレーザ光を前記コア部分に照射し、当該コア部分を伝播したレーザ光の強度を波長毎に測定する、という手法を採っている。
【0010】
(6)ここで、コア部分に収容された気体を大気圧未満に減圧するとよい。
【発明の効果】
【0011】
前記(1)の構成によれば、中空のコア部分を含むシングルモードのファイバを使うことになるため、当該ファイバ中では、単一モードの光が伝播し、マルチモードファイバで見られるような光の分散が生じなくなり、長い作用長を得ることができ、物質の吸収スペクトル等を高感度に測定することができる。
また、気体が収容されるコア部分の内径は、単一モードの光が伝播する程度の微細な大きさ(例えば、10μm程度)であることから、測定対象となるガスの消費量を格段に少なくすることができ、バイオメディカルに関する物質の測定等、一般的にサンプル量が少ない場合でも正確な測定が可能になる。
更に、微細なフォトニック結晶ファイバを使用するため、当該ファイバ部分を容易に変形させることができ、種々の設置条件に汎用的に対応可能になるとともに、装置全体の小型化を促進することができ、プラント、医用、環境等の種々の測定に利用することができる。
【0012】
前記(2)のように構成することで、ファイバ内を通過する際にレーザ光の偏波面が乱れても、光検出手段の感度の偏波依存性による測定誤差を少なくし、レーザ光の強度を一層正確に測定することができる。
【0013】
前記(3)の構成によれば、ファイバ内の一方向にのみ光を伝播させる場合に対し、光の作用長を二倍にすることができ、より高感度の測定が可能となる。
【0014】
前記(4)の構成により、ファイバ端部とレーザ光源及び/又は光検出手段との間の離間距離を短縮することができ、装置全体の小型化を一層促進可能となる。
【0015】
前記(5)の手法により、前記(1)と同様、微量のサンプルで高感度の測定が可能となる。
【0016】
前記(6)の手法によれば、吸収スペクトルの圧力広がりを抑えることができ、超高感度の物質同定が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0018】
図1には、本実施例に係る分光分析装置の概略構成図が示されている。この図において、分光分析装置10は、測定対象となる気体が収容されるファイバセル11と、このファイバセル11内に収容された気体に向かって複数波長のレーザ光を供給するレーザ光源12と、ファイバセル11に収容された気体を通過したレーザ光の強度を検出する光検出手段13と、ファイバセル11に気体を供給するガス発生装置15と、ファイバセル11内の気圧を制御する真空ポンプユニット16とを備えて構成されている。
【0019】
前記ファイバセル11は、図1及び図2に示されるように、ガス発生装置15からのガス管Pに繋がるガス導入部18と、真空ポンプユニット16へのガス管Pに繋がるガス排出部19と、これらガス導入部18及びガス排出部19の間を掛け渡すように配置されたフォトニック結晶ファイバ20とを備えている。
【0020】
前記ガス導入部18は、設置面となるブロック状のベース22と、このベース22の上に起立配置された本体23とを備えている。この本体23は、その上端側でガス管Pに繋がる管路25と、この管路25の下端側から下方に延びるガス流路26と、ガス流路26に繋がるともに、フォトニック結晶ファイバ20の端部が臨む内部空間28と、この内部空間28を図1中左側から閉塞するとともに、フォトニック結晶ファイバ20を保持するファイバ保持体29と、内部空間28の図1中右側から透光性部材31を挟んで外部に開放する透光窓32とを備えている。透光性部材31は、内部空間28と外部との間での光の透過のみを許容する一方で、内部空間28から外部へのガスの流出を阻止するようになっている。
【0021】
前記ガス排出部19は、前記ガス導入部18と略左右対称となる構成となっており、同一若しくは同等の構成部分については同一符号を用いるものとし、説明を省略する。
【0022】
前記フォトニック結晶ファイバ20は、周期的な屈折率構造となるフォトニック結晶構造からなるシングルモードファイバのうち、コア部分が中空となる公知の構造が採用されており、ここでは詳細な説明を省略する。
【0023】
前記レーザ光源12は、種々の波長のレーザ光を選択的に照射可能にする波長可変レーザが採用されており、その照射部がガス導入部18の透光窓32に相対するように配置されている。ここで、レーザ光源12から照射されたレーザ光は、レンズにより構成された光屈折手段Bで集光された上で、前記透光窓32から内部空間28内に臨むフォトニック結晶ファイバ20のコア部分に導入され、ガス排出部19に向かって伝播する。
【0024】
前記光検出手段13は、前記コア部分を通過したレーザ光を垂直方向及び水平方向の偏波に分離する偏波分離素子36と、この偏波分離素子36によって分離された各偏波を受光する二つの受光素子38,38と、これら受光素子38,38で受光した各偏波の大きさを加算してレーザ光の強度を検出する検出器40とを備えている。
【0025】
前記偏波分離素子36は、その受光部分がガス排出部19の透光窓32に相対するように配置されている。このため、ガス排出部19に向かってフォトニック結晶ファイバ20を伝播してきたレーザ光は、ガス排出部19の内部空間28からその透光窓32を通って外部に放出され、外部に放出されたレーザ光は、レンズにより構成された光屈折手段Bで分光された上で、偏波分離素子36に受光され、二方向の偏波に分離される。
【0026】
なお、好ましくは、光検出手段13を複数設け、それら各データの差を取ることで、レーザの揺らぎによる誤差を除去するとよい。
【0027】
前記ガス発生装置15は、測定対象となる試料ガスを発生させ、当該試料ガスをガス導入部18の内部空間28に供給するようになっている。当該内部空間28に供給された試料ガスは、フォトニック結晶ファイバ20のコア部分を通り、ガス排出部19に向かって流れ、当該ガス排出部19の内部空間28から真空ポンプユニット16に向かって排出される。
【0028】
前記真空ポンプユニット16は、フォトニック結晶ファイバ20内を通る試料ガスの気圧を調整可能に設けられている。ここで、試料ガスの気圧としては、測定対象となる物質の種類に応じて適宜選択されるが、一般的に、大気圧以下で、各波長での吸収スペクトルの山の広がりが所定の範囲内になるように調整される。
【0029】
次に、前記分光分析装置10による分光分析方法につき説明する。
【0030】
ガス発生装置15から発生した試料ガスは、ガス導入部18に導入され、フォトニック結晶ファイバ20の中空コア部分を通って、ガス排出部19から排気されて真空ポンプユニット16に吸入される。このとき、真空ポンプユニット16の動作により、試料ガスの気圧が大気圧以下の所定圧力に調整される。その状態で、レーザ光源12からレーザ光がガス導入部18に向かって照射され、当該レーザ光は、試料ガスが収容されたフォトニック結晶ファイバ20のコア部分をガス排出部19に向かって伝播する。そして、フォトニック結晶ファイバ20内を通過したレーザ光は、ガス排出部19の透光窓32から放出され、その強度が光検出手段13によって検出される。以上の手順は、レーザ光源12で段階的に変えられるレーザ光の波長毎に行われ、それらデータを集めて、試料ガスを通過したレーザ光の吸収スペクトルが求められる。
【0031】
従って、このような実施例によれば、シングルモードのフォトニック結晶ファイバ20を用いるために、光の伝送損失を抑え、長い作用長が得られて高感度の測定が可能になる。
【0032】
また、内径10μm程度のコア部分に試料ガスを収容させることで測定可能となるため、ファイバ20の長さを数百mと長くしても、試料ガスの量を従来よりも少なくすることができ、バイオメディカル等、一般的にサンプル量が少ない物質でも正確な測定が可能となる。
【0033】
次に、前記実施例の変形例につき説明する。なお、以下の説明において、前記実施例と同一若しくは同等の構成部分については同一符号を用いるものとし、説明を省略若しくは簡略にする。
【0034】
図3に示されるように、本変形例は、前記実施例に対し、ガス排出部19の透光窓32内の透光性部材31(図1参照)の代わりに、レーザ光を全反射する鏡等からなる反射手段42を設けるとともに、光検出手段13をガス導入部18側に配置したところに特徴を有する。
【0035】
本変形例においては、ガス導入部18の透光窓32に相対配置された光屈折手段Bの外側にビームスプリッタ44が設けられている。このビームスプリッタ44は、レーザ光源12からのレーザ光をガス導入部18に伝播させるとともに、ガス導入部18からのレーザ光を光検出手段13に伝播させるように入出力光を分光する。
【0036】
以上の構成では、レーザ光源12から照射されたレーザ光は、ビームスプリッタ44及び光屈折手段Bを通ってガス導入部18に導入される。このレーザ光は、フォトニック結晶ファイバ内20のコア部分をガス排出部19に向かって伝播し、反射手段42で反射されて折り返し逆向きに進み、ガス導入部18に戻ってくる。そして、このレーザ光は、ガス導入部18の透光窓32から外部に放出され、光屈折手段B及びビームスプリッタ44を通って偏波分離素子36に受光される。そして、前記実施例と同様にして、試料ガスに対するレーザ光の吸収スペクトルが求められる。
【0037】
本変形例によれば、前記実施例に対し、レーザ光の作用長が二倍になり、同じファイバ20の長さでより高精度な測定が可能となる。
【0038】
なお、前記実施例及び変形例では、レーザ光を集光及び分光する光屈折手段Bとして、レンズを用いたが、その他、短寸化したフォトニック結晶ファイバ20を用いるとよい。これによれば、フォトニック結晶ファイバ20の端部と光屈折手段Bとの離間距離をレンズの場合よりも短くすることができ、装置の小型化を一層促進することができる。
【0039】
また、前記実施例では、光検出手段13として、偏波分離素子36と、複数の受光素子38,38とが設けられた構成となっているが、本発明はこれに限らず、フォトニック結晶ファイバのうち、偏波面を保持する性質のものを使えば、偏波分離素子36を省略し、受光素子38を一つにすることもできる。
【0040】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施例に係る分光分析装置の概略構成図。
【図2】ファイバセルの概略斜視図。
【図3】変形例に係る分光分析装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0042】
10 分光分析装置
12 レーザ光源
13 光検出手段
20 フォトニック結晶ファイバ
36 偏波分離素子
38 受光素子
42 反射手段
B 光屈折手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の気体が収容される中空のコア部分を有するフォトニック結晶ファイバと、前記コア部分に複数波長のレーザ光を照射するレーザ光源と、前記コア部分を通過したレーザ光の強度を検出する光検出手段とを備えたことを特徴とする分光分析装置。
【請求項2】
前記光検出手段は、前記コア部分を通過したレーザ光を直交二方向の偏波に分離する偏波分離素子と、この偏波分離素子によって分離された各偏波を受光する受光素子とを備え、
各偏波の大きさを合わせてレーザ光の強度を算出することを特徴とする請求項1記載の分光分析装置。
【請求項3】
前記フォトニック結晶ファイバの一端側に、レーザ光源及び光検出手段が設けられる一方、前記フォトニック結晶ファイバの他端側に、レーザ光の反射手段が設けられ、
前記レーザ光は、前記一端側から導入され、前記他端側の反射手段で反射されて、前記一端側で前記光検出手段に受光されることを特徴とする請求項1又は2記載の分光分析装置。
【請求項4】
前記フォトニック結晶ファイバの端部と、レーザ光源及び/又は光検出手段との間に、フォトニック結晶ファイバからなる光屈折手段が設けられていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の分光分析装置。
【請求項5】
中空のコア部分を有するフォトニック結晶ファイバを使った分光分析方法であって、
前記コア部分に測定対象の気体を収容した後で、複数波長のレーザ光を前記コア部分に照射し、当該コア部分を伝播したレーザ光の強度を波長毎に測定することを特徴とする分光分析方法。
【請求項6】
コア部分に収容された気体を大気圧未満に減圧することを特徴とする請求項5記載の分光分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−125919(P2006−125919A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312021(P2004−312021)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】