説明

分光分析装置

【課題】分光分析装置を超小型にして測定対象を拡大し、測定精度向上のためにエネルギー付与による測定方法も付加して提供する。
【解決手段】分光分析装置において、少なくとも発光ダイオードによる光源と、変調回路を有する投光部と、復調回路を有する受光部を備えたことを特徴とする分光分析装置を提供する。また、ファブリペロー波長可変フィルタを用いた超小型分光分析装置、摂動付与による微細な成分差の分析も可能な分光分析装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分光分析装置、特に屋外など開放空間における近赤外線分光分析技術に係る装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体や鉱物などの情報を非侵襲で獲得する手段の1つとして観察対象から放出される光をスペクトル分解してその波長依存性を測定する方法がある。近赤外線等分光分析法はその代表的方法であり、高分子化学・工業分析、農業・食品分析、薬品分析、生体組織の分析等広範囲に利用されている。
【0003】
近赤外線等を用いて物質の分析を行なう場合、太陽光や電灯等が試料に照射されると試料の分析のために受光する試料からの反射光又は透過光に測定用光以外光に基づくものが含まれていて正確な分光分析をすることができないこととなる。このため、分光分析を行なうには分光分析装置の周囲を遮蔽して暗環境を保ったり、測定用光以外の光が照射することを防止する必要があるが、そのような遮光操作を行なうことは不便であり、試料の状況を確認することも困難である。
【0004】
かかる外乱光を防止するための方法として、遮光部により外乱光を遮断すると共に計測用光線の波長範囲外の可視光を通過させるフィルムを貼付することにより試料の状態を視認することができるように構成しているものがある(特許文献1)。
しかし、使い勝手が悪く、可視光での分析ができず、また試料を採取せずに非侵襲で分光分析することはできない。
【0005】
別の方法として、測定用光を照射しない状態で受光情報を得て基準状態外乱光情報とし、測定用光を照射したときの情報から基準状態外乱光情報を差引いて測定光のみの情報を得る方法がある(特許文献2)。
同様に、光チョッパーにより測定光が試料に照射する条件と照射しない条件を作り、その差し引きにより外乱成分を排除する方法もある(特許文献3)。
しかし、いずれも設定が煩雑であり、計算や装置が複雑になるという問題がある。さらに、非侵襲で試料を分光分析することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−108825号公報
【特許文献2】特開2000−206037号公報
【特許文献3】特許第3574851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、分光分析において、分光分析装置を超小型にして測定対象を拡大し、測定精度向上のためにエネルギー付与による測定方法も付加して提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、広域帯波長発光型発光ダイオード又はモジュール化され特定波長光を発光する複数の発光ダイオードによる光源と該光源光に高周波を付与する変調回路とを有する投光部と、直流光をカットするバンドパスフィルタと復調回路とを有する受光部と、相対する片面に透光性を有する反射層を形成した対向する2枚の基板を有し、アクチュエータの作動により一方の基板を移動させて基板間のギャップを変化させることにより透過若しくは反射スペクトル特性を変化させるフィルタであって、可動基板を固定基板に対し平行を保持したまま斜め横方向に移動させることにより、両基板間の間隔距離(ギャップ長)を制御するファブリペロー波長可変フィルタと、を備えたことを特徴とする分光分析装置が提供される。多重干渉を用いて透過できる光の波長を選択するファブリペロー分光分析法があるが、ファブリペロー波長可変フィルタの、可動鏡を固定鏡との平行度を精度良く維持したまま、ギャップを細密に制御することにより、分光分析装置の小型化が可能になる。従来は可動鏡を上下させて固定鏡とのギャップを制御していたが、移動距離の微細制御は困難であり、また両鏡の平行度を維持したまま可動鏡を上下させるために容電電極から容電検出に基づくフィードバックを行なう等の複雑な仕組みが必要であったが、可動鏡を固定鏡との平行度を維持したまま、斜め上方に移動させることによって、平行度を維持したまま微小制御することが可能となった。MEMSを用いて係るフィルタを製作すれば、装置全体の小型化を図りつつ、0.1nm単位の波長選択をすることも可能になる。
【0009】
また、ファブリペロー波長可変フィルタにおいて、可動基板を懸架する下面に傾斜部を有する上部支持体と固定基板を保持する上面に傾斜部を有する下部支持体を有し、上部支持体の傾斜部の角度と下部支持体の傾斜部の角度が適合するように形成され、上部支持体が横移動することにより上部支持体に懸架された可動基板が固定基板に対し平行を保持したまま斜め横に移動するファブリペロー波長可変フィルタを有することを特徴とする分光分析装置が提供される。上部構造体の下面傾斜角度と下部支持体の上面傾斜角度を一致させることによって、可動基板と固定基板との平行度が担保される。また、傾斜角度を緩傾斜にすることによって横移動距離の単位当り上下間の移動距離を極小化できる。すなわち、上下間の移動を微小化することが可能となる。
【0010】
また、ファブリペロー波長可変フィルタにおいて、ピエゾ素子を有し、前記上部支持体の一端がピエゾ素子と結合していることを特徴とする上記分光分析装置が提供される。ピエゾ素子に印加することによって得られる直線運動を用いて基板間のギャップを調整することができる。
【0011】
また、ファブリペロー波長可変フィルタにおいて、モータ部を有し、モータ部が前記上部支持体と連接していることを特徴とする上記分光分析装置が提供される。
【0012】
また、ファブリペロー波長可変フィルタにおいて、前記上部支持体の両側面に下面の傾斜と同角度に傾斜した凸部を有し、前記下部支持体の内側両側面に前記凸部と嵌合する凹部を有し、前記凹部がガイドとなって前記上部支持体を移動することを特徴とする上記分光分析装置が提供される。かかる構造を採用することによって、上部及び下部支持体が一体化し、可動基板と固定基板の平行度はより正確に維持できることとなる。
【0013】
また、広域帯波長発光型発光ダイオード又はモジュール化され特定波長光を発光する複数の発光ダイオードによる光源と該光源光に高周波を付与する変調回路とを有する投光部と、直流光をカットするバンドパスフィルタと復調回路とを有する受光部と、試料検体を面上に載置するプリズムと、を備え、受光部がプリズムの光屈折作用により分光された波長を波長毎に受光する構造であることを特徴とする分光分析装置を提供する。プリズムを用いた簡素な構成によって分光を行なうものである。プリズムと空気の屈折率の相違により分光された波長をライン型CCDなどで受光するもので、分光の広がりによって、1枚又は複数の反射鏡を用いることができる。
【0014】
また、レーザ又は短波長発光型発光ダイオードを有し、前記受光部がレーザ又は短波長発光型ダイオードの基準光線に基づく位置ずれ検知手段及び位置補正手段を備えたものであることを特徴とする上記分光分析装置が提供される。かかる構成により光軸の位置ずれを補正し、ライン型CCDの正確な波長分析が可能になる。
【0015】
また、演算処理部を有し、前記受光部が演算処理に基づく位置ずれ検知手段及び位置補正手段を備えたものであることを特徴とする上記分光分析装置が提供される。
【0016】
また、所定のエネルギーを試料検体に複数回付与し、試料検体中及び/又は周囲に存在する水の活性化(摂動)をもたらす摂動付与手段を備えたことを特徴とする上記記載の分光分析装置が提供される。「摂動」とは、一般に力学系において、主要な力の作用による運動が副次的な力の影響で乱されることをいうが、本発明においては、試料検体中及び/又は周囲に存在する水分子に対して外部からエネルギーを付与すると、そのエネルギーの影響で水分子のふるまいにわずかな変化が発生することをいう。従来ノイズとして扱われてきた受光量の微細な差を摂動による変位分という新たな情報源として把握し、その変位に対して多変量解析を加えることによってより正確な分光分析を行なうものである。
【0017】
また、前記投光部が、通常の分光分析のための投光以外に摂動付与のための投光をも行う投光部であることを特徴とする上記記載の分光分析装置が提供される。
【0018】
また、別の光源をさらに備えた装置であり、前記光源あるいは該別の光源の投光部が、摂動付与を行う投光部であることを特徴とする上記記載の分光分析装置が提供される。前記摂動を生じさせるためには複数回のエネルギーを付与する必要があるが、光照射によってエネルギーを付与する場合、本来の分光分析のための光源のみでは不足となる場合が生じる。その場合は、別の光源を単体で、又は本来の光源と併用してエネルギーの付与、すなわち摂動を付与することができる。
【0019】
また、温度変更、圧力変更、電流付与、希釈、超音波付与、電磁波付与の少なくともいずれか1つ以上の手段を含み、これらのいずれかの手段が摂動付与手段であることを特徴とする上記記載の分光分析装置が提供される。摂動を生じさせるためには光照射以外にこれらの手段を用いることもできる。
【0020】
また、多変量解析を行なうデータ処理手段と分析結果の表示手段を有し、該データ処理手段が、摂動付与による微細な受光量の変化(摂動付与による変位)を多変量解析する処理手段であることを特徴とする上記いずれかに記載の分光分析装置が提供される。
【0021】
また、上記のいずれかに記載の分光分析装置であって、片手で操作可能な操作部と片手で把持可能な筐体を有し、人間、動物、植物、鉱物又は水質の診断管理について反射光を用いた分析を行なう超小型の構成としたことを特徴とする分光分析装置が提供される。モジュール型発光ダイオード、ファブリペロー波長可変フィルタ等上記技術を組合せて超小型の分光分析装置を実現することができるが、かかる超小型分光分析装置によって、ポータブルな装置でのみ可能な用途が開かれる。たとえば、従来乳房炎診断を行なうために、獣医等は乳牛の乳汁を採取して持ち帰り、検査室等で感染の有無を判断していた。超小型分光分析装置であれば、携帯して必要な場所で感染の有無を確認することができる。
【0022】
また、上記のいずれかに記載の分光分析装置2台と2台間の双方向の通信手段により構成されたシステムであって、一の装置から投光を行い、他の装置で受光及び分光分析することにより透過光を用いた分光分析を行い、人間、動物、植物、鉱物又は水質の診断管理を行なうように構成したことを特徴とする分光分析システムが提供される。
【0023】
また、上記のいずれかに記載の分光分析装置2台と2台間の双方向の通信手段により構成されたシステムであって、一の装置から投光を行い、当該一の装置及び他の装置で受光及び分光分析することにより透過光を用いた分光分析と反射光を用いた分光分析を行い、人間、動物、植物、鉱物又は水質の診断管理を行なうように構成したことを特徴とする分光分析システムが提供される。
【0024】
また、搾乳用ミルカーのクロー又はティートカップと連接したことを特徴とする上記いずれかに記載の分光分析装置が提供される。「ミルカー」とは、ポンプで作られた真空圧を利用して乳牛の乳汁を搾乳する装置をいい、「ティートカップ」とは、ミルカーの一部を構成する乳牛の4分房各々に装着する搾乳用部材をいい、「クロー」とは、4つのティートカップから合乳する搾乳用部材をいう。分光分析装置はクロー又はティートカップと固着結合していても、取り外し可能としていても構わない。又、「乳房炎」とは乳頭の先から雑菌が入ることで罹患する感染症をいうが、乳房炎は乳牛が罹患する最大の病気であり、乳房炎感染による経済的損失は我が国で年間180億円に達するとされる。乳房炎罹患の有無は通常体細胞数で判断され、乳汁中の体細胞が30万個/mlが判定基準とされることが多い。乳房炎診断にはELISA法等が用いられるが、いずれも乳汁の採取が必要で、判定に長時間を要するものであった。本発明による装置によって、乳房炎の診断が非侵襲でリアルタイムに行なうことが可能となる。従来の分光分析装置ではハロゲンランプを用いているので、太陽光などの外乱光を排除できず乳牛飼育現場において乳房炎診断を行なうことができなかったが、本発明による装置によって実現可能となった。
【0025】
また、前記搾乳用ミルカーのクロー又はティートカップについて、少なくとも一部が透明な材質により形成されていることを特徴とする上記に記載の分光分析装置が提供される。透明部を介して容易に乳房炎診断を行なうことができる。
【0026】
また、人間、動物、植物又は鉱物に装着する手段をさらに備えたことを特徴とする上記いずれかに記載の分光分析装置が提供される。たとえば、観測用の固定治具や腕バンド等と当該分光分析装置を結合させて、リアルタイムあるいは継続して体内の情報を獲得できる。
【0027】
また、人間、動物、植物又は鉱物に装着する手段と、前記検体にエネルギーを付与する手段を備えたプローブを、取付け可能としたことを特徴とする上記のいずれかに記載の分光分析装置が提供される。
【0028】
また、駆動型ロボットをさらに有し、該駆動型ロボットの先端部あるいは側面あるいは後部に組み込むことにより駆動ロボット前方あるいは側面あるいは後方のリアルタイムモニターを可能としたことを特徴とする請求項1乃至18のいずれかに記載の分光分析装置が提供される。災害救助等の目的で障害物の中に進入するロボットが開発されているが、全面のカメラは泥で汚染される等のために使用できない場合が多い。本発明による装置によって前方のリアルタイムモニターが可能となる。
【0029】
また、人間装着ロボットをさらに有し、該人間装着ロボットに組み込むことにより体組織のリアルタイムモニターを可能としたことを特徴とする上記のいずれかに記載の分光分析装置が提供される。生活補助ロボット等に組み込むことによって、人体のさまざまな情報を獲得することができる。
【0030】
また、少なくとも一部が透明な液体容器をさらに有し、該液体容器に組み込むことにより液体のリアルタイムモニターを可能としたことを特徴とする上記のいずれかに記載の分光分析装置が提供される。
【0031】
また、上記に記載の分光分析装置を備えた人間、ロボット、機械、動物、植物、鉱物、液体、水又は水溶液、に対して判定値に基づく判断や検知や検出を行なう判断処理部及び信号出力手段を有するセンサが提供される。
【発明の効果】
【0032】
ファブリペロー波長可変フィルタやプリズムを用いることにより、超小型分光分析装置が実現でき、ポータブルな分光分析装置として透過光、反射光、又はその両方を用いた分析により人間、動物、植物、鉱物、水質等の諸データを分析することができる。また、摂動付与による変位を多変量解析することによって、より正確な分析をすることができる。
【0033】
本装置は外乱光の影響を排除できるので、野外においても格別の太陽光等の遮蔽をすることなく分光分析をすることができるので、乳牛飼育現場などにおいて、その場でリアルタイムに乳房炎の診断等を行うことができる。同様に、駆動ロボットや人間装着ロボット、すくなくとも一部が透明な液体容器等に組み込むことによって、様々な情報をリアルタイムで獲得できる。
【0034】
また、本発明の分光分析装置を用いることにより、人間やロボット、機械、動物、植物、鉱物、液体、水又は水溶液、に対して判定値に基づく判断や検知や検出を行なう判断処理部、並びに信号出力手段を有するセンサが実現出来る。存在の有無、量、距離、材質、表面精度、色などの固有情報に基づいた識別や分別、警報や機器制御などが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】小型の分光分析装置のイメージ図
【図2−1】変調・復調の原理説明図(1)
【図2−2】変調・復調の原理説明図(2)
【図2−3】変調・復調の原理説明図(3)
【図3】摂動付与フローとその分析法の説明図
【図4】プリズムを用いた光学系図
【図5】プリズム型の分光分析装置の構成図
【図6】光MEMS型の分光分析装置の構成図
【図7−1】乳房炎診断装置の使用イメージ図
【図7−2】乳房炎診断装置の構成図
【図8−1】観測用の固定治具(1)
【図8−2】観測用の固定治具(2)
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明の小型の分光分析装置のイメージ図を示している。本発明の分光分析装置は、その目的の1つとして、分光分析装置を超小型にして測定対象を拡大することである。実運用を加味して、ポータブルな装置で片手の操作により測定可能とすべく、図1に示されるようなペン型の分光分析装置1としている。
片手の操作・測定が可能なように、操作ボタン29と測定結果の表示パネル8がペン型の側面部に配置されている。
【0037】
ペン型の分光分析装置1の内部には、発光ダイオードによる光源と、変調回路を有する投光部と、復調回路を有する受光部とが設けられている(図1には図示していない)。
この発光ダイオードによる光源から出た特定波長の光は、変調回路を有する投光部を介して変調され、開口部3からペン型の分光分析装置1の外部へと出て行くことになる。そして、被測定対象物に光が照射され、反射光が再び開口部3を介して入光し、復調回路を有する受光部を介して復調され、被測定対象物の情報を取得するのである。
なお、開口部3は、アクリル板などの透明部品でカバーして、開口部3から分光分析装置1の内部にゴミなどが入らないようにしている。
【0038】
被測定対象物を図1に示す被測定対象物との接触部13で、接触して測定するのが理想的であるが、実際の測定においては、なかなか接触して測定するのが困難なケースもあり得る。
本発明の分光分析装置においては、後述するように、外乱ノイズを除去できるために、ある程度被測定対象物から離しても測定が可能である。本分光分析装置は外乱光を除去できることから、他の分光分析装置では不可能であった分光分析装置と被測定対象を離して測定・分析することが可能となるのである。
これによって、本発明の分光分析装置は、ペン型の小型分光分析装置による携帯性,汎用性,操作利便性のみならず、工業用ラインセンサとして使用時に、ビンやケースから離して使えたり、各種ロボット用のセンサとして、例えば数m離れたところからの人体物体認識用センサとして使えたり、さらには、顕微鏡のようなイメージの測定装置として使えるといった用途展開の可能性がある。
【0039】
本発明の分光分析装置においては、発光ダイオードによる光源と、変調回路を有する投光部と、復調回路を有する受光部とを設けており、前述したように外乱ノイズを除去できるという機能がある。これについて、図2−1〜図2−3の変調原理図を参照しながら以下に説明を行う。図2−1〜図2−3において、(1)はハロゲンランプが光源のケースを、(2)はLEDが光源のケースを示している。
先ず、測定する環境としては、暗環境に検体を入れ、それに特定波長の光を照射するのが理想的である。ここで、ハロゲンランプの光源は、フィラメントの熱上昇に伴う光子の発生で点灯しているため、ゆっくり点灯してゆっくり消えるといった特性がある。また、交流変調は10KHzから1MHzという周波数で変調をかけるため、ハロゲンランプの光源に対して、このような周波数をかけてもフィラメントの熱はすぐには変動しないためほとんど変化がなく、変調を加えることができない。
一方、LED光源の場合は、例えば10KHzから1MHzという周波数で交流変調をかけた場合でも、発光ダイオードのスイッチ特性からON/OFFが追従するため、変調を加えることができる。
【0040】
野外で測定する場合、図2−2のように、太陽光が存在するために、太陽光が外乱となる。しかし、この太陽光は直流光であるため、光源光を変調できれば、バンドパスフィルタなどで直流光のみをカットできる。
そのため、本発明の分光分析装置では、太陽光が直流光であることを利用して、光源をLED光源とし、投光部に変調回路と、受光部に復調回路を設けて、外乱である太陽光を除去することとしたのである。
これによって、小型で操作性・過般性に優れたものと相俟って、野外でも検体の測定を可能としたのである。
【0041】
次に、図3に、摂動付与フローとその分析法の説明図を示す。
本発明の分光分析装置は、上述したように、試料検体に所定のエネルギーを複数回付与することによって生じる試料検体中や周囲に存在する水の活性化に伴う微細な受光量の変動(摂動付与による変位)を多変量解析する機能を有している。これは一例として、図3に示されるように、LED光源からの1回目の照射と2回目の照射と3回目の照射によって得られた波長に伴う受光量の変動(摂動付与による変位)を多変量解析することである。
【実施例1】
【0042】
実施例1は、本発明の分光分析装置において、検体を面上に載置するプリズムを有し、かつ受光部がプリズムの光屈折作用により分光された波長を波長毎に受光する構造を有するものについて説明する。
先ず、図4にプリズムを用いた光学系図を示す。図4に示されるように、LED光源2から照射された光(18a)は、プリズム14で光屈折作用により分光され、被測定対象15の表面で反射する(18b)。そして、反射光はプリズム14で更に光屈折作用を受け(18c)、ミラー部16を介して、受光部17で波長毎に受光する(18d)。
プリズム14と空気の屈折率の相違により、分光された波長を、ライン型CCDを備えた受光部17で受光するのである。ミラー部16は、分光の広がりによっては分光分析装置内に光を誘導するように、1枚又は複数の反射鏡を用いて構成する。
【0043】
次に、図5にプリズム版の分光分析装置の構成図を示す。上述したプリズムを用いた光学系を実現するように、ペン型分光分析装置1の内部を構成している。LED光源2から照射された光(21a)が、投光部26の内部の変調回路により変調される。投光部26から出た光(21b)は、プリズム14で光屈折作用により分光され(21c)、被測定対象15の表面で反射する。反射光(21d)はプリズム14で更に光屈折作用を受け(21e)、ミラー部16で反射され、受光部17で波長毎に受光する(21f)。ミラー部16および受光部17は、反射光の分光の広がりにも対応すべく可動式の構成としている。
受光部17で受けた光は、復調回路22で復調される。CPU7では、LED光源2の投光部26の波長スペクトルと受光部17の波長スペクトルを対比解析し、また、受光量の変動(摂動付与による変位)を多変量解析している。
【実施例2】
【0044】
次に、実施例2について説明する。実施例2では、本発明の分光分析装置において、相対する片面に透光性を有する反射層を形成した対向する2枚の基板を有し、アクチュエータの作動により一方の基板を移動させて基板間のギャップを変化させることにより透過若しくは反射スペクトル特性を変化させるフィルタであって、可動基板を固定基板に対し平行を保持したまま斜め横方向に移動させることにより、両基板間の間隔距離(ギャップ長)を制御するファブリペロー波長可変フィルタを有するものを説明する。
本明細書では、この実施例2に示すものを光MEMS版の分光分析装置と称することとする。
【0045】
図6に光MEMS型の分光分析装置の構成図を示す。概観形状は実施例1と同様なため、割愛している。LED光源2から照射された光は、被測定対象物2に照射され(19a)、反射する(19b)。反射光は、ファブリペロー波長可変フィルタ4を介して受光部5に受光される。受光された光は、復調回路を備えた増幅部で、復調され信号増幅されて、A/D変換部6を介してCPU7で処理される。CPU7が、LED光源2の変調信号(20a)やファブリペロー波長可変フィルタ4の制御信号(20b)を出力するのである。
【0046】
実施例1のプリズム型を利用したものは、いわゆる軸を調整するか、またはコリメータを使用して軸に構成する必要がある。本実施例2の光MEMS型では、プリズム型と同様な軸にしてもよいが、軸にならなくても、被検体から帰還する光を光MEMSのフィルタで遮光するだけでよいため、位置情報が重要ではないので、LED光源がバラバラに配置されても構わないという利点がある。
従来の分光分析法ではライン型CCDを並べて、波長分解などをしていまるので、光軸や素子の位置ズレは致命的になる。しかし、光MEMSフィルタの場合は、ズレても光の帰還量に変動がある程度で、しかもその変動をオフセットとして扱えば、無いに等しい扱いになるのである。
ここで、プリズム型と光MEMS型のメリット/デメリットをまとめる。
【0047】
(A−1)プリズムのメリット
プリズムの一面を被測定対象の接眼部として使えるので、構成がシンプル
(A−2)プリズムのデメリット
・装置と被測定対象を離すことが出来ない
・受光部のコストが高い
・交流変調復調の採用が少し難しい
【0048】
(B−1)光MEMSのメリット
・非常に小型で構成できる
・量産すると安価に
・装置と被測定対象を離すことが可能
・受光素子も1個で済む
・光軸を気にしなくてよい(投光を適当に配置可能)
(B−2)光MEMSのデメリット
原理的に倍波長の除去が出来ない
【実施例3】
【0049】
次に実施例3について説明する。図7−1に乳房炎診断装置の使用イメージ図を、図7−2に乳房炎診断装置の構成図を示している。図7−2の構成図に基づいて説明する。光源2から照射された光は、乳牛の1つの分房からティートカップを介してクロー11内に供給された乳汁12にクロー11の透明部(図示しない)を介して照射され、反射する。
【0050】
反射光はファブリペロー波長可変フィルタ4を介して受光部5に受光される。受光された光は復調され信号増幅されて、A/D変換部6を介してCPU7で処理される。乳汁中の体細胞の数値が多変量解析により分析され、その結果乳房炎感染の有無が判断されることとなる。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。なお、本発明の技術的範囲は上述した実施例に示した具体的な用途に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、生体や鉱物などの観察対象から放出される光をスペクトル分解してその波長依存性を測定する分光分析装置として有用である。高分子化学・工業分析、農業・食品分析、薬品分析、生体組織の分析等広範囲に利用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0053】
1 本実施例のペン型分光分析装置
2 LED光源
3 開口部
4 ファブリペロー波長可変フィルタ
5 受光部
6 A/D変換部
7 演算処理部(CPU)
8 表示パネル
9 乳牛の乳房
10 ティートカップ
11 搾乳用ミルカーのクロー
12 乳汁
13 被測定対象物との接触部
14 プリズム部
15 被測定対象表面
16 ミラー部
17 受光部
22 変換処理部
23 バッテリー部
26 投光部
27 補助LED光源
29 操作ボタン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
広域帯波長発光型発光ダイオード又はモジュール化され特定波長光を発光する複数の発光ダイオードによる光源と該光源光に高周波を付与する変調回路とを有する投光部と、
直流光をカットするバンドパスフィルタと復調回路とを有する受光部と、
相対する片面に透光性を有する反射層を形成した対向する2枚の基板を有し、アクチュエータの作動により一方の基板を移動させて基板間のギャップを変化させることにより透過若しくは反射スペクトル特性を変化させるフィルタであって、可動基板を固定基板に対し平行を保持したまま斜め横方向に移動させることにより、両基板間の間隔距離(ギャップ長)を制御するファブリペロー波長可変フィルタと、
を備えたことを特徴とする分光分析装置。
【請求項2】
前記ファブリペロー波長可変フィルタにおいて、可動基板を懸架する下面に傾斜部を有する上部支持体と固定基板を保持する上面に傾斜部を有する下部支持体を有し、上部支持体の傾斜部の角度と下部支持体の傾斜部の角度が適合するように形成され、上部支持体が横移動することにより上部支持体に懸架された可動基板が固定基板に対し平行を保持したまま斜め横に移動することを特徴とする請求項1に記載の分光分析装置。
【請求項3】
前記ファブリペロー波長可変フィルタにおいて、ピエゾ素子を有し、かつ前記上部支持体の一端がピエゾ素子と結合した構造であることを特徴とする請求項2に記載の分光分析装置。
【請求項4】
前記ファブリペロー波長可変フィルタにおいて、モータ部を有し、かつモータ部が前記上部支持体と連接している構造であることを特徴とする請求項2に記載の分光分析装置。
【請求項5】
前記ファブリペロー波長可変フィルタにおいて、前記上部支持体の両側面に下面の傾斜と同角度に傾斜した凸部を有し、かつ前記下部支持体の内側両側面に前記凸部と嵌合する凹部を有しており、前記凹部がガイドとなって前記上部支持体を移動する構成であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の分光分析装置。
【請求項6】
広域帯波長発光型発光ダイオード又はモジュール化され特定波長光を発光する複数の発光ダイオードによる光源と該光源光に高周波を付与する変調回路とを有する投光部と、
直流光をカットするバンドパスフィルタと復調回路とを有する受光部と、
試料検体を面上に載置するプリズムと、
を備え、
前記受光部が前記プリズムの光屈折作用により分光された波長を波長毎に受光する構造であることを特徴とする分光分析装置。
【請求項7】
レーザ又は短波長発光型発光ダイオードを有し、前記受光部がレーザ又は短波長発光型ダイオードの基準光線に基づく位置ずれ検知手段及び位置補正手段を備えたものであることを特徴とする請求項6に記載の分光分析装置。
【請求項8】
演算処理部を有し、前記受光部が演算処理に基づく位置ずれ検知手段及び位置補正手段を備えたものであることを特徴とする請求項6に記載の分光分析装置。
【請求項9】
所定のエネルギーを試料検体に複数回付与し、試料検体中あるいは周囲に存在する水の活性化(摂動)をもたらす摂動付与手段を、さらに備えたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の分光分析装置
【請求項10】
前記投光部が、通常の分光分析のための投光以外に摂動付与のための投光をも行う投光部であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の分光分析装置
【請求項11】
別の光源をさらに備えた装置であり、前記光源あるいは該別の光源の投光部が、摂動付与を行う投光部であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の分光分析装置。
【請求項12】
温度変更、圧力変更、電流付与、希釈、超音波付与、電磁波付与の少なくともいずれか1つ以上の手段を含み、これらのいずれか1つ以上の手段が前記摂動付与手段であることを特徴とする請求項9に記載の分光分析装置。
【請求項13】
多変量解析を行なうデータ処理手段と分析結果の表示手段を有し、該データ処理手段が、摂動付与による微細な受光量の変化(摂動付与による変位)を多変量解析する処理手段であることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の分光分析装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の分光分析装置であって、片手で操作可能な操作部と片手で把持可能な筐体を有し、人間、動物、植物、鉱物又は水質の診断管理について反射光を用いた分析を行なう超小型の構成としたことを特徴とする分光分析装置。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれかに記載の分光分析装置2台と2台間の双方向の通信手段により構成されたシステムであって、一の装置から投光を行い、他の装置で受光及び分光分析することにより透過光を用いた分光分析を行い、人間、動物、植物、鉱物又は水質の診断管理を行なうように構成したことを特徴とする分光分析システム。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれかに記載の分光分析装置2台と2台間の双方向の通信手段により構成されたシステムであって、一の装置から投光を行い、当該一の装置及び他の装置で受光及び分光分析することにより透過光を用いた分光分析と反射光を用いた分光分析を行い、人間、動物、植物、鉱物又は水質の診断管理を行なうように構成したことを特徴とする分光分析システム。


【図1】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図2−3】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7−1】
image rotate

【図7−2】
image rotate

【図8−1】
image rotate

【図8−2】
image rotate


【公開番号】特開2012−2827(P2012−2827A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221950(P2011−221950)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【分割の表示】特願2006−77127(P2006−77127)の分割
【原出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(501397920)旭光電機株式会社 (45)
【Fターム(参考)】