説明

分光装置

【課題】 高速で高感度な分光が可能であるとともに、分光可能な波長範囲が広く、かつ小型化を実現可能な分光装置を提供する。
【解決手段】 光源からの光が入力される光入力部102と、光学素子と、電気光学効果を有する材料で形成された屈折率変化領域119、及び屈折率変化領域119を挟むように電極120が配置された光偏向素子107と、波長選択性を有し、特定波長の光を共鳴反射する共鳴フィルタ108と、共鳴フィルタ108で反射された光を検出する光検出器114とを少なくとも備え、共鳴フィルタ108への光線の入射角及び共鳴フィルタ108の波長選択性の少なくともいずれかを変化させることにより、複数の波長帯域を分光することを特徴とする分光装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光装置に関し、特に高速な光走査デバイスを用いた分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より分光技術を用いた装置が数多く提案されており、分光方式として分散型回折格子を用いた分光装置、音響光学素子を用いた分光装置などが知られている。
分散型回折格子を用いた分光装置の例は数多くあるが、回折格子による分光は、高次回折光の影響による回折光の光量低減などが課題となる。また、極めて高分解能での計測が可能ではあるが、スリットを設ける必要があり、光量の減衰や光学系の大型化を避けることができない。さらに機械的な駆動に頼る必要があるため、高速な分光が期待できない。
【0003】
これに対し、機械的な駆動部を持たない方式として、音響光学素子を用いた分光装置が知られている。
音響光学素子による分光装置は、ブラッグ回折を用いているため、上述の回折格子でみられる不具合は生じず、また音響波を用いるため、比較的高速な分光が可能となる。しかしながら、音響波を発生させるトランデューサで消費される電力が大きく、駆動回路も複雑となる。さらに、分光装置を構成する中核部品のサイズが大きいという課題がある。
【0004】
一方、電気光学効果を用いた光偏向素子とプリズムや回折格子、音響光学チューナブルフィルタ(AOF)などの分散素子を用いた高速分光装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、電気光学効果を用いた光偏向素子から出射された光を偏向させながらフィルタに照射することにより、フィルタで反射する光の波長が選択される分光装置の構成が開示されている。
電気光学効果を用いた光偏向素子は、電圧印加により高速に光を偏向させることができるため、偏向された光を分散素子であるプリズムによって分光し、その集光位置を、光を偏向させることで変化させ、スリットを通過する光の波長を変化させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の装置の構成では、高速な分光は実現できるが、分散プリズムによる分散特性が、その材料に大きく依存するために、分光できる波長領域が制限されるという問題がある。
一方、本発明者は、高速偏向素子と共鳴フィルタを用い、数値計算から分光性能が見積もられ、高速な分光と小型化が可能な装置を提案している。しかしながら、分光できる波長範囲の広さは、必ずしも十分ではなかった。
【0006】
よって、本発明の課題は、高速で高感度な分光が可能であるとともに、分光可能な波長範囲が広く、かつ小型化を実現可能な分光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る分光装置は、
光源からの光が入力される光入力部と、
光学素子と、
電気光学効果を有する材料で形成された屈折率変化領域、及び該屈折率変化領域を挟むように電極が配置された光偏向素子と、
波長選択性を有し、特定波長の光を共鳴反射する共鳴フィルタと、
前記共鳴フィルタで反射された光を検出する光検出器とを少なくとも備え、
前記共鳴フィルタへの光線の入射角及び前記共鳴フィルタの波長選択性の少なくともいずれかを変化させることにより、複数の波長帯域を分光することを特徴とする分光装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高速で高感度な分光が可能であるとともに、分光可能な波長範囲が広く、かつ小型化を実現可能な分光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の分光装置の一実施態様(第1の実施形態)を示す概略構成図である。
【図2】本発明の分光装置の一実施態様(第2の実施形態)を示す概略構成図である。
【図3】シミュレーションにより算出した共鳴フィルタの反射スペクトルの一例を示すグラフである。
【図4】本発明の分光装置の一実施態様(第3の実施形態)を示す概略構成図である。
【図5】本発明の分光装置の一実施態様(第4の実施形態)を示す概略構成図である。
【図6】共鳴フィルタのシミュレーションモデル図である。
【図7】共鳴フィルタのシミュレーション結果による分光スペクトルの一例を示すグラフである。
【図8】本発明の分光装置の一実施態様(第5の実施形態)を示す概略構成図である。
【図9】本発明の分光装置の一実施態様(第6の実施形態)を示す概略構成図である。
【図10】本発明の分光装置の一実施態様(第7の実施形態)を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る分光装置について図面を参照して説明する。なお、本発明は以下に示す実施例の実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0011】
〔第1の実施形態〕
本発明の分光装置の第1の実施形態の概略構成を図1に示す。
図1に示すように、本発明の分光装置101は、光源からの光が入力される光入力部102と、光学素子として偏光子103、コリメートレンズ104、集光レンズ105,106、及びレンズ111と、電気光学効果を有する材料で形成された屈折率変化領域119、及び屈折率変化領域119を挟むように電極120が配置された光偏向素子107と、波長選択性を有し、特定波長の光を共鳴反射する共鳴フィルタ108と、共鳴フィルタ108で反射された光を検出する光検出器114により構成されている。
【0012】
光入力部102に入射した様々な波長を有する光は、偏光子103により紙面垂直方向に振動する直線偏光に調整される。次いでコリメートレンズ104により幅が数百μmから数mm程度の平行光に変換され、集光レンズ105により光偏向素子107に入力される。図1に示す例では、紙面平行方向の光の幅を保ちながら、紙面垂直方向のみを集光するシリンドリカルレンズを用いている。なおコリメートレンズ104は、図1では模式的に1枚しか描いていないが、数枚のレンズ群からなるものから構成されていてもよい。
【0013】
光偏向素子107には、屈折率変化領域119と、その屈折率変化領域119を覆うように電極120が配置されている。この電極120に電圧印加制御部117から電圧が供給され、最大で数100Vから数kVが印加される。
屈折率変化領域119は、ここでは三角プリズム型の連鎖形状から構成されており、電圧が印加されると、三角形内の屈折率変化と三角形外の屈折率変化が異なるために、屈折率差が生じ、光が屈折を起こしながら徐々に光路を変化させていく。
【0014】
ここでは、一例として電気光学結晶に分極反転技術により屈折率変化領域を形成している。分極反転部分を覆うように形成された電極に電圧を印加すると、電界が生じ、電気光学結晶のポッケルス効果により屈折率が変化する。
この屈折率変化が分極反転によって正負逆転するので、三角形形状の屈折変化部分ができることにより、光は偏向する。屈折率の変化は印加電圧の大きさに依存し、電圧が大きくなると偏向角が大きくなる。また電圧の極性が変わると振れ方向が中心軸から反対方向へ偏向する。分極反転技術で屈折率が反転する領域を形成する以外に、電極形状自体を三角形形状にすることで、電極形状に応じた屈折率変化を与えるようにしてもよい。
【0015】
偏向された光は集光レンズ106によって再びコリメート光にされ、共鳴フィルタ108に入射される。共鳴フィルタ108には波長選択性があり、ビームの入力角度によって、異なる波長が反射され、反射された光の波長以外の光は透過させることができる。
【0016】
共鳴フィルタ108について説明する。
共鳴フィルタ108とは、波長と同程度の一次元または二次元の周期構造を使った狭帯域の光学フィルタである。導波モード共鳴格子や共振モード格子と呼ばれることもある。周期構造のピッチと入射光の波長とがある共振条件を満たすと共振現象が発生し、これによって非常に帯域の狭い反射型の波長フィルタを作製することができる。
共振波長での反射率は理論的には100%に達するため、高次回折光が出てくる回折格子と比較して光量を効率良く得ることができる。また、波長選択フィルタであるため、反射波長以外は透過する。この点においても、すべての波長を回折してしまう反射型の回折格子と異なる特徴である。
多層膜から形成される波長フィルタでも垂直入射に対しては同様な性能を得ることができるが、斜入射の光に対しては反射率が低下することや、反射スペクトルの半値全幅が大きくなるなどの課題があるため、本発明の分光装置においては、共鳴フィルタを用いる必要がある。
【0017】
図1に示すように、本実施形態では、複数の共鳴フィルタ108a、108b、108c、及び複数の光検出器114a、114b、114cを備え、複数の共鳴フィルタ108a、108b、108cは、光偏向素子107から出射された光の入射角がそれぞれ異なる角度となるように配置され、複数の光検出器は、共鳴フィルタごとに配置されている。
【0018】
光入力部102側に配置された共鳴フィルタ108aは、入射光に対して15度の角度で配置されている。
電極120に電圧が印加されなかった場合の光は、共鳴フィルタ108aに15度傾いて入射する。光偏向素子107によって光は±5度程度偏向させることが可能であるため、共鳴フィルタ108aに入射する光偏向素子からの光の入射角は、10度から20度の間で変化することになる。
【0019】
異なる入射角で光が入射すると、共鳴フィルタ108aで反射される光の波長も異なる性質がある。このように入射した角度に対応した波長が反射され、レンズ111aによって光路が調整されて光検出器114aで光量が検出される。
検出された光は電気に変換され、信号制御部118を経て外部に出力される。
【0020】
一方、共鳴フィルタ108aで反射されなかった波長の光は共鳴フィルタ108aを透過し、共鳴フィルタ108bに入射する。
共鳴フィルタ108bを入射光に対して25度の角度で配置させておくと、電極120に電圧が印加されなかった場合、光は直進してくるので、共鳴フィルタ108bに入射角25度で入射する。光偏向素子107によって±5度程度偏向させることが可能であるため、共鳴フィルタ108bに入射する光の入射角は20度から30度の間で変化する。
入射した角度に対応した波長が共鳴フィルタ108bで反射され、レンズ111bによって光路が調整され、光検出器114bで反射光が検出される。検出された光は電気に変換され、信号制御部118を経て外部に出力される。
【0021】
さらに、共鳴フィルタ108bで反射されなかった波長の光は共鳴フィルタ108bを透過し、共鳴フィルタ108cに入射する。
共鳴フィルタ108cを入射光に対して35度の角度で配置させておくと、電極120に電圧が印加されなかった場合、光は直進してくるので、共鳴フィルタ108cに入射角35度で入射する。光偏向素子107によって±5度程度偏向させることが可能であるため、共鳴フィルタ108cに入射する光の入射角は30度から40度の間で変化する。
入射した角度に対応した波長が共鳴フィルタ108cで反射され、レンズ111cによって光路が調整され、光検出器114cで反射光が検出される。検出された光は電気に変換され、信号制御部118を経て外部に出力される。
【0022】
このように、最大偏向角に応じた角度で複数の共鳴フィルタ108を直列に配置することによって、異なる波長帯域を同時に分光することが可能である。
ただし、多段に共鳴フィルタ108を配列すると、それぞれの共鳴フィルタ108での光損失により、スペクトルが不連続になる可能性がある。そこで、ビーム偏向に対して少し余裕を持って偏向させることで、つなぎ目部分をそれぞれの検出器114で検出し、そのつなぎ目部分の光量は一致するもとと仮定して、信号制御部118でゲインをかけて出力することにより、連続的なスペクトルを出力させることが可能である。
【0023】
本発明で使用する光偏向素子107は、100kHz程度の高速スキャンが可能であるため、電圧印加スピードに応じた高速分光が可能である。
さらに、本発明で使用する共鳴フィルタ108により高反射率での分光が可能であるため、高効率であり、光検出器114の直前にスリットを置く必要がないために、波長間の迷光による影響を低減することができる。
【0024】
本実施形態では、共鳴フィルタ108a,108b,108cはすべて同じ構造であることを仮定しているが、同じ構造でなくても良い。構造がわずかに異なる共鳴フィルタ108を配置することにより、同じ角度で光が入射された場合であっても異なる分光特性を与えることが可能となる。
【0025】
〔第2の実施形態〕
本発明の分光装置の第2の実施形態の概略構成を図2に示す。
比較的広い波長成分をもつ光を分光する場合、共鳴フィルタ108で反射した光に、目的の波長成分以外の光が混合される場合がある。
そこで、目的の波長成分以外の光をカットするために、光検出器114の入射面側の前方に、特定の波長の光を反射または吸収するカットフィルタ121を配置する。
【0026】
光偏向素子107からの光の入射角度に応じた反射波長λはあらかじめ設定することが可能である。入射角度に応じ、反射波長をλa1<λ<λa2と設定することができ、設定した値に応じて、所望の反射波長だけを透過するようなカットフィルタ121を配置しておくことができる。
【0027】
さらに、誤信号を発生させる波長成分は、シミュレーションなどから予想できるため、誤信号を発生させる成分を反射または吸収するような性質を持つフィルタを予め選択して配置してもよい。
このようなカットフィルタとしては、例えば、多層膜フィルタや吸収材料を含ませたフィルタ等が挙げられる。
【0028】
図3は、シミュレーションにより算出した共鳴フィルタの反射スペクトルの一例を示すグラフである。図2に示すように、あらかじめ25度傾けて設置した共鳴フィルタ108bに、光偏向素子107からの光が5度傾いて照射されたとき、つまり30度の角度で光が照射されたときのスペクトルを示している。
この角度で反射される波長として、図3にあるようなλ2を期待しているときに、広い波長範囲で観察すると、λ1も反射されることがわかる。つまり、カットフィルタ121bがない場合ではλ1とλ2が同時に反射され、誤信号を発生させる原因となる。
【0029】
例えば、共鳴フィルタ108の構造を調整することにより、λ1とλ2との間隔を大きくすることは可能であるが、根本的な解決には至らない。
そこで、本実施形態のようにλ1を反射または吸収させるカットフィルタ121を配置することにより、λa1<λ<λa2を満たす波長だけを透過させる、もしくはλa1>λの波長を透過させるようにすることにより、誤信号発生を抑制することが可能となる。
【0030】
〔第3の実施形態〕
本発明の分光装置の第3の実施形態の概略構成を図4に示す。
図4に示すように、本実施形態において分光装置101は、共鳴フィルタ108を回転可能に保持する回転部材(以下、「可動ステージ」という)109を備えている。
共鳴フィルタ108が可動ステージ109上に配置され、可動ステージ109は、ステージコントローラ110により回転して、共鳴フィルタ108を回転させ傾斜させることができる。これにより共鳴フィルタ108に対する光偏向素子107からの光の入射角度を変化させることができる。
【0031】
例えば、共鳴フィルタ108を傾斜させる角度をあらかじめ15度とすることにより、光偏向素子107からの光が±5度変化したときに、入射角10度から20度の間に対応した光を分光することができる。
その後、共鳴フィルタ108の傾斜角度を25度に設定すると、同様に光偏向素子107からの光を偏向させたときに、入射角20度から30度の間に対応した光を分光することができる。さらに可動ステージ109を回転させ、共鳴フィルタ108の傾斜角度を35度に設定すると、同様に光偏向素子107からの光を偏向させたときに、入射角30度から40度に対応した光を分光することができる。
【0032】
可動ステージ109は連続して動作させる必要がないので、駆動時間が大きな制約になることがない。また、100nm程度の波長範囲であれば、必ずしも可動ステージ109を動かす必要がなく、分光する波長範囲が比較的大きいときにステップ状にステージを動かすことにより広い波長範囲を分光することができる。
【0033】
本実施形態に示すような構成とすることにより、複数の共鳴フィルタ108を配置することなく広い波長範囲を分光することができるため、装置の小型化が可能となる。
また、可動ステージ109を使うことにより、測定波長のキャリブレーションも可能となる。
例えば、入射角度に対する感度が非常に高く、共鳴フィルタ108の配置がわずかにずれた場合であっても正しい出力が得られなくなる場合がある。このようなときに標準波長の光を入射して、電圧値との対応により補正を行うこともできるが、それでも対応できないときに、この可動ステージ109を共鳴フィルタ108の角度調整を行うために用いることができる。可動ステージ109の回転は、ステージコントローラ110を外部入出力機器と接続することにより、所望の値に調整することができる。
【0034】
〔第4の実施形態〕
本発明の分光装置の第4の実施形態の概略構成を図5に示す。
図5に示すように、本実施形態の分光装置101は、波長選択性の異なる共鳴フィルタ108を複数備え、それぞれの共鳴フィルタ108は、光偏向素子107から出射された光の入射角が略同一の角度となるように配置されている。
【0035】
光入力部102から入射された様々な波長をもつ光は、偏光子103で紙面に対して垂直な直線偏光に変換され、コリメートレンズ104により平行光にされ、集光レンズ105により紙面方向のビームが集光されて光偏向素子107に入力される。
光偏向素子107に電圧が印加されることで光は偏向され、集光レンズ106でビーム径を元に戻して、共鳴フィルタ108に入射される。
【0036】
ここで、共鳴フィルタ108d、108eには、それぞれ異なる構造が形成され、光の入射角度が同じであっても反射される光の波長が異なるようになっている。
それぞれの共鳴フィルタ108d、108eは、光の進行方向に対してほぼ同じ角度で配置され、光偏向素子107で偏向された入射角に対応させて反射される波長が異なるように設定されている。
例えば、光偏向素子によって光が角度θだけ偏向されて共鳴フィルタ108dに入射したとき、波長λ1が反射され光検出器114dで検出される。それ以外の波長は透過し、共鳴フィルタ108eに入射する。共鳴フィルタ108eには、108dと異なる構造が形成されているので、角度θに偏向された光に対して、波長λ2(λ1≠λ2)が反射され、光検出器114eで検出される。光偏向素子107によって偏向角が最大値から最小値まで変化することで、異なる波長帯域で同時に分光することができる。
【0037】
図6及び図7に、異なる構造の共鳴フィルタ108による分光シミュレーションを示す。
シミュレーションには厳密結合波解析(RCWA)法を用いた。
図6は共鳴フィルタのシミュレーションモデル図である。
図6に示すように、基板311上に高屈折率材料層312と低屈折率材料層313とサブ波長構造(Sub-Wavelength Structure:SWS)層314を形成している。
基板、高屈折率材料、低屈折率材料の屈折率を、それぞれns=1.51、nH=2.23、nL=1.44とし、サブ波長構造は高屈折率材料層と同質の材料と仮定し、その屈折率はnS=2.23としてシミュレーションを行った。また、図6にあるような電界の振動方向に対してシミュレーションした。各層の厚みを、高屈折率材料層d1、低屈折率材料層d2、サブ波長構造層d3としたときに、d1=100nm、d2=50nm、d3=300nmとしてシミュレーションした。構造が異なる構成としてSWSの周期をパラメータとしてシミュレーションした。
【0038】
図7(A)及び(B)にシミュレーション結果の一例を示す。
共鳴フィルタの傾きを25度とし、±5度の偏光角変化を与えたと仮定して、入射角度を30度から30度まで変化させたときの分光スペクトルを示している。
周期を変化させた2種類の構造(周期p=250nm、充填率FF=0.4;235nm、充填率FF=0.4)に関してシミュレーションを行ったもので、図7(A)が周期235nmのシミュレーション結果であり、図7(B)が250nmのシミュレーション結果である。
図7(A)では波長610nmから650nmまで、図7(B)では波長570nmから610nmまでの光を入射角に応じて分光できていることを示している。それ以外の波長の光は透過することになり、このように構造を変化させた共鳴フィルタ108を直列に配置することで、異なる波長帯域で分光させることができる。反射率もシミュレーション上では100%であり、入射角度に対応した波長の光を効率よく反射させることができる。
【0039】
本発明では、光偏向素子107に印加する電圧を連続的に変化させることにより、出力する偏向角を連続的に変化させることができるので、分解能は共鳴フィルタ108の性能に依存する。この共鳴フィルタ108から見積もられる分解能は0.5nm以下である。
共鳴フィルタ108では、スペクトルの線幅や中心波長の設計を、パラメータ(層の厚さ、屈折率、周期)の設定で比較的容易に調整できるため、シミュレーションにより示したように、同じ入射角度に対して異なる反射スペクトル持つようにすることができる。
【0040】
共鳴フィルタ108を構成する材料の一例として、基板には合成石英ガラス、高屈折率材料には酸化チタン(TiO2)、低屈折率材料には二酸化シリコン(SiO2)がある。上記材料で均一な層を形成することは、スパッタリングや蒸着などの一般的な方法で可能である。それ以外の材料も可能で、基板としてはシリコン、石英、サファイアなど、高屈折率材料としては五酸化二タンタル(Ta2O5)、ハフニウム酸化物など、低屈折率材料としては酸化マグネシウムなども用いることができる。さらに無機材料以外で有機材料を用いることも可能である。
サブ波長構造部分は、リソグラフィーとエッチングにより形成する。ここでは、電子ビーム描画により波長以下の周期構造をパターニングし、ドライエッチングで酸化チタンをエッチングして形成することを想定している。
【0041】
〔第5の実施形態〕
本発明の分光装置の第5の実施形態の概略構成を図8に示す。
図8に示すように、本実施態様の分光装置101は、光偏向素子107が、複数の屈折率変化領域119を備え、かつ光偏向素子107の光の出力側に光路調整素子113が配置されている。なお、光路調整素子113は光偏向素子107の光の入力側に設けられていても良い。
また、共鳴フィルタ107と光偏向素子113との間に、遮光壁112が配置されている。
【0042】
光入力部102から入射された様々な波長をもつ光は、コリメートレンズ104で平行光にされ、偏光子103で紙面に対して垂直な直線偏光に変換され、集光レンズ105で光偏向素子107に入力される。光偏向素子107には複数の電極120a、120b、120cと、複数の屈折率変化領域119a、119b、119cが形成されている。
なお、一の屈折率変化領域と電極からなる光偏向素子107を並列に並べることもできるが、ここでは同一基板上に複数の屈折率変化領域119と、それに対応した電極120が複数形成された態様とする。
【0043】
コリメートされた光は、それぞれの屈折率変化領域119a、119b、119cに入力され、屈折率の変化に応じて出力方向が変更される。このとき光偏向素子107から出力された光は、集光レンズ106でビーム形状を調整され、一部は光路調整素子113により光路が変化する。ここでは、光路調整素子113として反射ミラーをとして利用している。
光路調整素子113により光路を変化させることにより、異なる入射角で共鳴フィルタ108に入射させることが可能である。
【0044】
3つの屈折率変化領域119a、119b、119cをもつ光偏向素子107の動作を説明する。
屈折率変化領域119bを直進する光に対して、θの傾きで入射するように共鳴フィルタ108を配置しておく。屈折率変化領域119aと119bを通過した光に対しては、図のように角度φ1、φ2だけ傾けた光路調整素子113で反射されて入射角が変化しながら共鳴フィルタ108に入射するように設定する。
このようにすることで、電圧印加されない(V=0)ときに、屈折率変化領域119a、119b、119cを通過する光がそれぞれ、θ、θ+φ1、θ+φ2で入射されるために、共鳴フィルタ108で反射される光の波長が異なる。
つまり、異なる波長帯域に対して分光することが可能となる。
【0045】
ただし、同時に電圧を印加すると、屈折率変化領域119a、119b、119cを通過した異なる入射角をもつ光が同時に共鳴フィルタ108に入射されるため、異なる波長がそれぞれ反射されて、光検出器で誤信号が検出されてしまう。
このような誤信号の発生要因は、信号処理を行うか、または遮光壁112を設けることで回避することができる。
【0046】
図8に示すように、遮光壁112には、光偏向素子107からの最大偏向角で偏向された光を透過する開口を空けておく。最大偏向角以上の偏向角で光が偏向されたときには、光を遮光するように設定しておく。ここで、最大偏向角を素子に印加できる電圧の80%程度で偏向される角度としておけば、光を遮光するための電圧の余剰分を残しておくことができる。
本実施形態の分光装置101では、わずかな入射角の違いでも十分に分光することができ、またこの分光波長拡大方式を用いることにより、電圧の余剰を残していても十分に分光することが可能である。
【0047】
具体的な電圧動作について説明する。
本実施形態においては、時分割で電圧を印加する方法を用いるために、ひとつの光検出器114で異なる帯域の光を分光することが可能となる。
まず、屈折率変化領域119b、119cに電圧V1を印加して、光を遮断しながら、屈折率変化領域119aに電圧を−V0から+V0(V1>V0)まで印加して光を偏向し、光検出器114によって光を検出して分光強度を得る。
次に、屈折率変化領域119a、119cに電圧V1を印加して、光を遮断しながら、屈折率変化領域119bに電圧を−V0から+V0まで印加して光を偏向し、光検出器114によって光を検出して分光強度を得る。
最後に屈折率変化領域119a、119bに電圧V1を印加して、光を遮断しながら、屈折率変化領域403に電圧を−V0から+V0まで印加して光を偏向し、光検出器114によって光を検出して分光強度を得る。
このようにして、異なる波長帯域での分光強度を得ることができる。ここで用いている光偏向素子107の偏向スピードは極めて速く、数10kHzのスピードで動作可能であるため、上述のように時分割で分光スペクトルを計測することが十分に可能である。
また、遮光壁112を用いずに、電極に印加する電圧の組合せにより、信号処理することによりそれぞれの分光特性を分離する方法を用いてもよい。
【0048】
〔第6の実施形態〕
本発明の分光装置の第6の実施形態の概略構成を図9に示す。
図9に示すように、光入力部102から入射された様々な波長をもつ光は、コリメートレンズ104で平行光にされ、偏光子103で紙面に対して垂直な直線偏光に変換され、集光レンズ103で光偏向素子107に入力される。
集光レンズ103と光偏向素子107との間には光路調整素子113が設けてある。
本実施形態では、光路調整素子113として、斜めにカットされたプリズムを使用している例を示す。
【0049】
光はこの光路調整素子113によって光路をわずかに変更されて光偏向素子107に入射する。光偏向素子107には複数の電極120a、120b、120cと、複数の屈折率変化領域119a、119b、119cが形成されている。
光路調整素子113によって変更された光路に沿って、この屈折率変化領域119が形成されている。このように傾いていることによって、共鳴フィルタ108に入射する光の角度が異なり、反射される光の波長が異なる。
【0050】
また、集光レンズ106と共鳴フィルタ108との間に遮光壁112を設けることにより、時分割での分光スペクトル計測を可能としている。
【0051】
〔第7の実施形態〕
本発明の分光装置の第7の実施形態の概略構成を図10に示す。
図10に示すように、本実施形態の分光装置101は、光入力部と前記光偏向素子との間に偏光分離素子(以下、「偏光ビームスプリッタ」という)115、及び偏光子116を備える。
【0052】
光入力部102から入射された様々な波長をもつ光は、通常はランダム偏光である。そこで、コリメートレンズ104を通過した後に、偏光ビームスプリッタ115により紙面に垂直方向に電界が振動する偏光(TE偏光と呼ぶ)と、紙面に平行に電界が振動する偏光(TM偏光と呼ぶ)に分離する。光偏向素子107はTE偏光に対して偏向性能を与える素子であるので、TM偏光は偏光子116によってTE偏光に変換する。
【0053】
それぞれの光は集光レンズ105を通過し、光路調整素子113によって一部または全部の光路が傾斜をつけられて光偏向素子107に入射する。このように異なる入射角で光を共鳴フィルタ108に入力することができるため、電極120に電圧を印加することにより、異なる波長帯域を分光することができる。
さらに、集光レンズ106と共鳴フィルタの間に遮光壁112を設けることにより、時分割でのスペクトルを得ることが可能となる。
【0054】
このような構造の分光装置とすることにより、従来の構造においてカットしていた偏光成分を有効に利用することができるので、光量を大きくすることが可能となり、より精度が高い分光スペクトルを得ることが可能となる。
【0055】
以上のように、本発明の分光装置は、小型で高速に光を偏向できる光偏向素子107と、わずかな角度変化に対して反射される波長が変化し、かつそれ以外の波長が透過する共鳴フィルタ108で構成され、ひとつの屈折率変化領域119をもつ光偏向素子107に対して、配置角度が異なる共鳴フィルタ108を複数設けることにより、複数の波長帯域を分光することができ、また異なる角度で光を入射させることができるように配置した複数の屈折率変化部119をもつ光偏向素子107に対して、ひとつの共鳴フィルタ108を設けることで複数の波長帯域を分光することができる。
また、光偏向素子107で同じ角度に偏向された光が、それぞれの共鳴フィルタ108で反射される波長が異なるようにすることで、ひとつの光偏向素子107に対して複数の波長帯域の分光が可能となる。
【符号の説明】
【0056】
101 分光装置
102 光入力部
103 偏光子
104 コリメートレンズ
105 集光レンズ
106 集光レンズ
107 光偏向素子
108 共鳴フィルタ
109 回転部材(ステージ)
110 ステージコントローラ
111 レンズ
112 遮光壁
113 光路調整素子
114 光検出器
115 偏光分離素子(ビームスプリッタ)
116 偏光子
117 電圧印加制御部
118 信号制御部(信号検出部)
119 屈折率変化領域
120 電極
121 カットフィルタ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0057】
【特許文献1】WO2008/005525公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光が入力される光入力部と、
光学素子と、
電気光学効果を有する材料で形成された屈折率変化領域、及び該屈折率変化領域を挟むように電極が配置された光偏向素子と、
波長選択性を有し、特定波長の光を共鳴反射する共鳴フィルタと、
前記共鳴フィルタで反射された光を検出する光検出器とを少なくとも備え、
前記共鳴フィルタへの光線の入射角及び前記共鳴フィルタの波長選択性の少なくともいずれかを変化させることにより、複数の波長帯域を分光することを特徴とする分光装置。
【請求項2】
前記共鳴フィルタ及び前記光検出器を複数備え、
複数の前記共鳴フィルタは、前記光偏向素子から出射された光の入射角がそれぞれ異なる角度となるように配置され、
複数の前記光検出器は、前記共鳴フィルタごとに配置されていることを特徴とする請求項1に記載の分光装置。
【請求項3】
前記光検出器の入射面側に、特定の波長の光を反射または吸収するカットフィルタを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の分光装置。
【請求項4】
前記共鳴フィルタを回転可能に保持する回転部材を備えることを特徴とする請求項1に記載の分光装置。
【請求項5】
波長選択性の異なる前記共鳴フィルタを複数備え、それぞれの前記共鳴フィルタは、前記光偏向素子から出射された光の入射角が略同一の角度となるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の分光装置。
【請求項6】
前記光偏向素子が、複数の前記屈折率変化領域を備え、かつ前記光偏向素子の光の入力側及び出力側のいずれかに光路調整素子を備えることを特徴とする請求項1に記載の分光装置。
【請求項7】
前記共鳴フィルタと前記光偏向素子との間に、遮光壁を備えることを特徴とする請求項6に記載の分光装置。
【請求項8】
前記光入力部と前記光偏向素子との間に、偏光分離素子及び偏光子を備えることを特徴とする請求項6に記載の分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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