説明

分割型複合繊維、その集合体および該分割型複合繊維を用いた繊維成形体

ポリエステルセグメントとポリオレフィンセグメントを含み、かつ繊維の長さ方向とは直角する方向の繊維断面形状において、繊維中央側から繊維外周側に向かって伸びる少なくとも2つ以上の部分を形成するポリエステルセグメントを含む分割型複合繊維であって、該ポリエステルセグメントの前記部分の少なくとも1つは繊維外周側に露出しているが、該ポリエステルセグメントの前記部分の少なくとも1つは繊維外周側に露出していない分割型複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系のバインダー繊維等との熱接着性、分割性ならびに生産性に優れた、ポリエステルとポリオレフィンを含む分割型複合繊維、その集合体、および該分割型複合繊維を用いた繊維成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、極細繊維を得る方法として、海島型や分割型の複合繊維の使用が知られている。
海島型複合繊維を用いる方法は、複数成分を組合せて紡糸して海島型複合繊維とし、得られた該複合繊維の1成分を溶解除去することにより、極細繊維を得るものである。この方法は、非常に細い繊維を得ることができる反面、1成分を溶解除去するために非経済的である。
一方、分割型複合繊維を用いる方法は、複数成分の樹脂を組合せて紡糸して複合繊維とし、得られた該複合繊維を物理的応力や樹脂の化学薬品に対する収縮差などを利用して、該分割型複合繊維を多数の繊維に分割して極細繊維を得るものである。
【0003】
分割型複合繊維は、例えば特許文献1に示される2種の異なるポリオレフィンにより構成されるものが知られている。特許文献1には少なくとも2成分のポリオレフィンから構成され、繊維横断面において、各成分は放射状に交互に配列された繊維中心部に中空部を有する複合繊維であって、中空部の中空率が5〜40%であり、かつ1成分の繊維外周弧の平均長さWと該中空部から繊維外周部までの平均厚みLの比(W/L)が0.25〜2.5であることを特徴とする分割型複合繊維が優れた分割性を持つとしている。しかしながら、一般的にポリオレフィンの融点は低く、160℃以上で加工、使用が困難であるという欠点を有している。
【0004】
一方、特許文献2には、ポリエステルとポリオレフィンとが繊維横断面において放射状に合計8以上のセグメントに交互配列した、容易に分割が可能で、優れた柔軟性と風合いを有する不織布を得ることが出来る分割型複合繊維が示されている。ポリエステルとポリオレフィンからなる分割型複合繊維では160℃以上の加工、使用が容易である。しかし、当該文献に記載されているように、この分割型複合繊維の単なる寄せ集めに過ぎないウェブに対し、その構成繊維に分割を生ぜしめる為一般的に行う高圧水流噴射等の物理的衝撃を与えた場合、その衝撃によって繊維は衝撃点の周りに押しやられることとなって、不織布の穴開きや、地合いの乱れが発生しやすいという問題があった。
このような点に鑑みて、分割型複合繊維を用いてエアレイド法で不織布を製造する場合には、それら分割型複合繊維にバインダー繊維として一般的なオレフィン系繊維を混合することによって当該バインダー繊維を介して分割型複合繊維を熱接着(固定)したのち、物理的衝撃を加えることによって当該分割型複合繊維を分割させる例なども見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3309181号公報
【特許文献2】特開2000−110031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ポリエステルとポリオレフィンからなる分割型複合繊維では、ポリオレフィン系のバインダー繊維との相溶性が低いポリエステルが繊維表面に露出していることで、ポリオレフィン系の分割型複合繊維とポリオレフィン系のバインダー繊維とで構成された不織布に比べて、繊維間の熱接着力が弱くなり、十分な強度を持ったウェブを形成し得ずに、水流等の衝撃でその繊維接着点が容易に剥がれ易く、不織布の穴開きや、地合いの乱れを抑制することは依然として困難であった。
さらに、ポリエステルとポリオレフィンは相溶性が低い為、複合溶融状態における繊維形態の安定化が困難であり紡糸性が低いという問題があり、生産性が充分満足できるものではなかった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記の問題を解決し、分割性ならびにポリオレフィン系のバインダー繊維との熱接着性に優れ、更には紡糸性等生産性にも優れた、ポリエステルとポリオレフィンを含む分割型複合繊維、その集合体、及び、その繊維を用いて得られる地合いに優れた不織布等の繊維成形体、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリエステルセグメントとポリオレフィンセグメントを含み、かつ繊維の長さ方向とは直角する方向の繊維断面形状において、繊維中央側から繊維外周側に向かって伸びる複数の部分を形成するポリエステルセグメントを含む分割型複合繊維であって、繊維中央側から繊維外周側に向かって伸びるポリエステルセグメントのある部分は繊維外周側に露出しているが、繊維中央側から繊維外周側に向かって伸びるポリエステルセグメントの他の部分は繊維外周側に露出していない分割型複合繊維やそれを適当割合含む集合体を提供することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1) ポリエステルセグメントとポリオレフィンセグメントを含み、かつ繊維の長さ方向とは直角する方向の繊維断面形状において、繊維中央側から繊維外周側に向かって伸びる少なくとも2つ以上の部分を形成するポリエステルセグメント含む分割型複合繊維であって、該ポリエステルセグメントの前記部分の少なくとも1つは繊維外周側に露出しているが、該ポリエステルセグメントの前記部分の少なくとも1つは繊維外周側に露出していない分割型複合繊維。
(2) 中空部を有する、前記(1)に記載の分割型複合繊維。
(3) 繊維外周長さRに対するポリエステルセグメントにより構成される弧の長さWの比(W/R)が0.1〜0.4の範囲である、前記(1)又は(2)に記載の分割型複合繊維。
(4) ポリエステルとポリオレフィンを含む分割型複合繊維を用いて構成された分割型複合繊維集合体であって、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の分割型複合繊維を、集合体に含まれる分割型複合繊維の総数に対し少なくとも25%の範囲で含む、分割型複合繊維集合体。
(5) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載の分割型複合繊維、または、前記(4)に記載の分割型複合繊維集合体に含まれる繊維を分割して得られる、平均単糸繊度が0.6dtex以下の極細繊維を含む繊維成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステルとポリオレフィンを含む分割型複合繊維やその集合体は、分割性だけでなくポリオレフィン系のバインダー繊維との熱接着性にも優れることで、厳しい条件で分割処理を行わなくても分割細繊化が容易であり、緻密で地合いの良い繊維成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に用いられる分割型複合繊維の繊維横断面の模式図の一例である。
【図2】本発明に用いられる分割型複合繊維の繊維横断面の模式図の別の(分割型複合繊維が中空繊維である)例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を発明の実施の形態に則して詳細に説明する。
本発明の分割型複合繊維は、上述したようにポリエステルとポリオレフィンとの2成分を含む。
【0013】
ここで、好ましく用いられるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリへキシレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸等を挙げることができ、なかでも生産コスト、力学特性、さらには極細繊維となす際の加工性の点よりポリエチレンテレフタレートが好ましい。
一方、ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンー1、ポリオクテンー1、エチレンープロピレン共重合体、ポリメチルペンテン共重合体が挙げることができ、なかでも生産コスト、熱的特性、さらには極細繊維となす際の加工性の点よりポリプロピレンが好ましい。さらにいえば、紡糸延伸性の点からはポリプロピレンのQ値(質量平均分子量/数平均分子量)が2〜5であることがより好ましい。
【0014】
これらポリエステルおよびポリオレフィンは、分割性や熱接着性を向上させる等の改質の為に第3成分を共重合しても良く、また、多種ポリマーを混合してもよく、さらには各種添加剤を配合しても良い。例えば、着色の目的で、カーボンブラック、クロムイエロー、カドミウムイエロー、酸化鉄等の無機顔料、ジアゾ系顔料、アントラセン系顔料、フタロシアニン系顔料等の有機顔料を配合することができる。
【0015】
図1は本発明の分割型複合繊維の一例を示す断面図である。分割型複合繊維の長さ方向とは直角する方向の繊維断面形状において、繊維中央側からポリエステルセグメントが繊維外周側に向かって伸びる少なくとも2つ以上の部分(1,1′)(以下、凸部という)を有するように配されている。これらポリエステルセグメントの凸部は、繊維中央側では互いに連結して一体化してポリエステルセグメントを構成している。各ポリエステルセグメントは、繊維中央側で連結せず互いに独立して存在する形態でもよいし、一部が連結して一体化し残りは独立して存在する形態でもよい。凸部の数は2つ以上であれば良いが、紡糸延伸性並びに分割性の点から4〜16が望ましい。凸部のうち少なくとも1つは、繊維表面の外周側に露出して(1)いて、凸部のうち少なくとも1つは繊維表面の外周側に露出していない(1′)。当該凸部で隔てられた領域、及び、繊維表面と当該凸部外縁で隔てられた領域は、ポリオレフィンを含むポリオレフィンセグメント(2)で構成されている。ポリエステルセグメントの凸部のうち少なくとも1つが、繊維外周側に露出していることで、分割型複合繊維の確実な分割性が担保され、力学的な刺激を受けた際の分割性が良好となる。一方、ポリエステルセグメントの凸部のうち少なくとも1つが繊維外周側に露出していないこと、すなわちその場合はポリオレフィンセグメントが繊維表面に存在することで、ポリオレフィン系のバインダー繊維との確実な熱接着性が担保され、その熱接着力が良好となる。
【0016】
本発明では分割型複合繊維の集合体は、上記構造を有する本発明の分割型複合繊維を、集合体に含まれる分割型複合繊維の総数に対し、少なくとも25%の範囲で含むことが好ましい。上記構造を有する分割型複合繊維が25%以上とすることで、分割性とバインダー繊維との熱接着性とを同時に満たしやすくなる。また、分割型複合繊維による上記効果がより有効に繊維集合体に反映されるためには、上記構造を有する分割型複合繊維が40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。
本発明の分割型複合繊維集合体は、上記構造を有する本発明の分割型複合繊維のほかに、ポリエステルセグメントの全ての凸部の端部が繊維表面に露出している分割型複合繊維や、全ての凸部の端部が繊維表面に露出してない分割型複合繊維を含んでいても良い。
【0017】
本発明の分割型複合繊維集合体は、任意に選んだ10本の繊維について、凸部先端と繊維中心までの距離(r)と繊維中心から繊維表面までの距離(d)の比(r/d)の平均値が、0.75〜0.99であることが、分割性と熱接着性の点で好ましく、特に好ましいのは、0.85〜0.99の範囲である。
また、本発明の分割型複合繊維集合体は、任意に選んだ10本の繊維について、繊維外周長さRに対するポリエステルセグメントにより構成される弧の平均長さWの比(W/R)の平均値、すなわちポリエステル露出率が、0.1〜0.4の範囲であることが、目的とする分割性と熱接着性を得るためには望ましく、特に好ましいのは、0.2〜0.4の範囲である。
また、本発明分割型複合繊維集合体は、任意に選んだ10本の繊維について、ポリエステルセグメントの凸部総数に対し、繊維外周側に露出していないポリエステルセグメントの凸部の数の割合、いわゆる、ポリエステルセグメントの非露出数率が、10〜90%であることが、分割性と熱接着性の点で好ましく、10〜60%の範囲がさらに好ましい。
【0018】
分割型複合繊維の紡糸性及び延伸性並びに繊維外周側へのポリエステルセグメントの露出の程度に由来する分割性、ポリオレフィン系のバインダー繊維との熱接着性は、分割型複合繊維の長さ方向と直角方向の繊維断面に占めるポリエステルセグメントの面積比(Z)、ポリオレフィンのMFR、紡糸温度、溶融樹脂の固化挙動などを調整することで変更可能である。
Zは0.3〜0.6が好適であり、0.3以上のとき、相対的にポリエステルセグメントの量が増すために、繊維表面側へ露出し易くなり、分割性が効果的に向上しやすくなる。また、0.6以下のとき、相対的にポリエステルセグメントの量が低下するために、ポリエステルセグメントの過度の露出が抑制され、相対的にポリオレフィンセグメントの露出割合が増える結果、ポリオレフィン系のバインダー繊維との熱接着性が向上し易い。さらに言えば、0.6以下であることが、繊維が適切に冷却され、紡糸における糸切れなどのトラブルが抑制される点からも好ましい。
ポリオレフィンのMFRが低くなると、ポリエステルセグメントの露出が増える傾向があり、逆にMFRが高くなると、ポリエステルセグメントの露出が減る傾向がある。本発明の目的を達成するためには、ポリオレフィンのMFRは10〜80g/10minが好適であり、特に好ましいのは15〜40g/10minである。ポリオレフィンのMFRが10〜80g/10minであるとき、紡糸における糸切れなどのトラブルが減少し、あわせて延伸における繊維の破断も抑制される点で好ましい。
また、溶融樹脂の固化挙動は、例えば、紡糸直後の溶融樹脂の冷却に用いる冷却風の風速を加減することにより調整することが可能である。冷却が強いと、紡糸口金から吐出された溶融樹脂中のポリエステルセグメントが、ポリオレフィンに覆われる時間が十分確保されないため、ポリエステルセグメントが繊維表面へ露出する割合の高い繊維が得られやすい。また、冷却が弱いと、紡糸性が悪化し易い。これらの理由から、溶融樹脂の冷却は、10〜30℃の冷却風によって1〜2m/secの風速で行うことが好ましい。
【0019】
本発明では、熱接着性の点で、Zは(W/R)より大きいことが好ましく、2.1×(W/R)>Z>1.1×(W/R)の関係にあるのが特に好ましい。また、凸部の形状は特に限定されるものではないが、菊花型、ラッパ型、扇形が例示できる。また、これらの形状が同一繊維中に共存していても良い。
【0020】
分割型複合繊維は凸部の数は2以上であればよいが、分割性並びに分割後の繊維を細くする点からは、4〜16が好ましく、さらに6〜10とすることが好ましい。
【0021】
本発明の分割型複合繊維は、単糸繊度が1〜15dtex(デシテックス)であることが好ましい。単糸繊度が1dtexより大きいと、目的とする断面形態が得られやすく、また、溶融紡糸する際に、紡糸口金の単孔から吐出する樹脂量が低下することによる、溶融樹脂流の不安定化及び紡糸延伸性の低下が起きにくい。また、単糸繊度が15dtex以下だと、紡糸口金の単孔から吐出する樹脂量が減少することにより、糸条の冷却不足と、冷却不足によるドローレゾナンスが発生しにくく、紡糸延伸性が低下しない傾向にある。また、繊維外周面は真円でも楕円形または三角〜八角系などの角形等の異形断面形状であっても何ら問題ない。分割後の平均単糸繊度は、0.6dtex以下であることが好ましく、より好ましくは、0.5dtex以下である。0.6dtex以下だと、分割繊維の最大の特徴である細繊度化による均一で地合によい柔軟な繊維成形体が得られ易い。
【0022】
本発明の分割型複合繊維は、中空部を有することにより、分割性が向上する。特にその中心部に中空部を有することが望ましい。図2は本発明に用いる中空部を有する分割型複合繊維の一例を示す断面図である。中空部の形状は丸、楕円、三角、四角等いずれでも良い。さらに、中空率は1〜40%の範囲、特には5〜30%とすることが望ましい。中空率が1%以上だと、繊維中央側での隣接する凸部同士の接触及び接触面積が小さく、未分割繊維を物理的応力で分割細繊化する場合に、繊維が潰れやすく、2成分の接触界面での剥離に要するエネルギーが小さくてすむ。すなわち、中空部を有することによる分割性向上の効果が得られやすい。また、中空率を40%以下とすることで、隣接する凸部同士の接触及び接触面積が小さく物理的応力による分割細繊化を所望のレベルで維持しながら、紡糸性を維持し、高い生産性が実現できる点から、より好ましい。
【0023】
本発明の分割型複合繊維は分割後の繊維径をそろえる点で、露出していない少なくとも1つの凸部が、繊維中央側から繊維外周側に向かって互いに反対方向に伸びるセグメントの部分である他の凸部を有する対を形成することが好ましく、繊維外周側に露出していない1つの凸部が、繊維中央側から繊維外周側に至る前に存在する点に向かって互いに反対方向に伸びるセグメントの部分である他の凸部を有する対を形成すること、及び当該セグメントの全ての凸部において、繊維表面に露出されていないことが更に好ましい。このような繊維断面形状は、紡糸口金内の樹脂流を制御することにより得ることができる。
【0024】
以下、本発明の分割型複合繊維を含んで構成された分割型複合繊維集合体の1例として、ポリエチレンテレフタレート樹脂とポリプロピレン樹脂を組合せた分割型複合繊維を含んで構成された分割型複合繊維集合体の製造方法を例示する。分割型複合繊維は従来公知の溶融複合紡糸法で紡糸され、横吹付や環状吹付等の従来公知の冷却装置を用いて、吹付風により冷却された後、界面活性剤を付与し引き取りローラーを介して未延伸糸を得る。
紡糸口金は公知の分割型複合繊維用のものを用いることができる。紡糸温度は、繊維断面形状、ポリエステルセグメントの露出の程度を最適化する点で、特に重要である。具体的には、200〜330℃の範囲で紡糸することが好ましく、特に好ましいのは220〜260℃である。引き取りローラーの速度は、500m/min〜2000m/minであることが好ましい。得られた未延伸糸を複数本束ね、公知の延伸機にて周速の異なるローラー群間で延伸される。延伸は必要に応じて多段延伸を行っても良く、延伸倍率は通常2〜5倍程度とするのが良い。次いで、前記延伸トウを必要に応じて押し込み式捲縮付与装置にて捲縮を付与した後、所定の繊維長に切断して短繊維を得る。以上は短繊維の製造工程を開示したが、トウを切断せず、長繊維トウを分繊ガイドなどによりウェブとすることもできる。その後は必要に応じて高次加工工程を経て、種々用途に応じて繊維成形体に形成される。また紡糸延伸後、フィラメント糸条として巻き取り、これを編成または織成して編織物とした繊維成形体、あるいは前記短繊維を紡績糸とした後、これを編成または織成して編織物とした繊維成形体に成形しても良い。
【0025】
つまり、ここで繊維成形体とは、布状の形態であればいかなるものでも良く、例えば織物、編物、不織布あるいは不織繊維集合体などがある。また、混綿、混紡、混繊、交撚、交編、交繊等の方法で布状の形態にすることもできる。さらに不織繊維集合体とは、例えばカード法、エアレイド法、あるいは抄紙法などの方法で均一にしたウェブ状物あるいはこのウェブ状物に織物、編物、不織布を種々積層したものなどをいう。
【0026】
前述のように本発明の分割型複合繊維集合体を構成する分割型複合繊維を紡出後、繊維の静電気防止、繊維成形体への加工性向上のための平滑性付与などを目的として界面活性剤を付着させることができる。界面活性剤の種類、濃度は用途に合わせて適宜調整する。付着の方法は、ローラー法、浸漬法、パットドライ法などを用いることができる。付着は、前述の紡糸工程に限定されず、延伸工程、捲縮工程のいずれで付着させても差し支えない。さらに短繊維、長繊維に問わず、紡糸工程、延伸工程、捲縮工程以外の、例えば繊維成形体に成形後、界面活性剤を付着させることもできる。
【0027】
本発明の分割型複合繊維の繊維長は、特に限定されるものではないが、カード機を用いてウェブを作製する場合は、一般に20〜76mmのものを用い、抄紙法やエアレイド法では、一般に繊維長が20mm以下のものが好ましく用いられる。カード機では、繊維長が76mmを大幅に超える場合は均一なウェブ形成が難しく、地合の良好なウェブとするのが難しくなる。
【0028】
本発明の分割型複合繊維は、エアレイド法を含む様々な繊維成形体の製造方法に適用可能である。一例として、不織布の製造方法を例示する。例えば前記分割複合繊維の短繊維を用いて、カード法、エアレイド法、あるいは抄紙法を用いて必要な目付のウェブを作製する。またメルトブローン法、スパンボンド法などで直接ウェブを作製しても良い。前記の方法で作製したウェブを、ニードルパンチ法、高圧液体流処理等の公知の方法で分割細繊化して繊維成形体を得ることができる。さらに、この繊維成形体を熱風あるいは熱ロール等の公知の加工方法でさらに処理することもできる。
【0029】
前述のように本発明の分割型複合繊維は種々用途に応じて繊維成形体に形成されるが、特に、エアレイド法、あるいは抄紙法などの繊維同士の絡み合いや、それに類する力がウェブの形状維持に寄与し難い状況において、有効である。すなわち、エアレイド法、あるいは抄紙法などの非常に短い繊維で構成されたウェブをニードルパンチ法、高圧液体流処理等の公知の方法で分割細繊化する場合に、その物理的応力で繊維が分割すると同時に繊維が動いて地合不良、あるいはウェブの穴開きが発生する。また、繊維同士の絡み合いが少ないためにウェブ形成以降の工程への搬送時のウェブ崩れ、めくれのトラブルが発生する。一般的に、これらのトラブルを防ぐため、分割型複合繊維に加えて、バインダー繊維が使用される。これらの繊維を含むウェブは、熱接着されて分割細繊化工程に送られ、高圧液体流処理等の方法で分割細繊化される。本発明の分割型複合繊維と、本発明の分割型複合繊維を構成する樹脂の融点よりも低融点で熱融着するバインダー繊維を混綿して、低融点繊維で仮接着された不織布とし、すなわち分割対象繊維を固定させた後、分割処理を行うことにより、従来知られていたポリエステルとポリオレフィンを含む分割型複合繊維に比べ地合に優れた不織布を得ることが可能となる。また、本発明の繊維を使用することにより、極細繊維を含む不織布を生産する工程内の搬送安定性も向上する。特に、本発明の分割型複合繊維は、一般に低融点であるため低温での熱融着が可能なポリオレフィン系のバインダー繊維との熱接着性が優れていることから、仮接着に要する熱エネルギーを低減できる点で好ましい。具体的には、本発明の分割型複合繊維のポリオレフィンがポリプロピレンである場合、その融点よりも低い融点を持つ、高密度ポリエチレン系のバインダー繊維を使用することが例示される。仮接着は、バインダー繊維を構成する樹脂成分の融点よりも高く、分割型複合繊維を構成するポリオレフィンの融点よりも低い温度で熱処理することによって行うことができる。本発明の分割型複合繊維は、バインダー繊維を用いずに、当該分割型複合繊維を構成するいずれかの樹脂成分の融点以上の温度に加熱し、当該樹脂成分の軟化溶融によって分割型複合繊維間を熱接着し仮接着させてもよい。しかし、この場合だと、分割型複合繊維は、当該複合繊維を構成する樹脂成分自体の軟化溶融と接着により最早当初の繊維形態を維持することはでき難い。一方、バインダー繊維を用いる場合には、このバインダー繊維のみが軟化溶融する温度で熱処理して、当該バインダー繊維の軟化溶融とその介在によって分割型複合繊維間が連結されるため、仮接着後であっても、当該分割型複合繊維自体の繊維形態は当初のままで維持されうる。このため、仮接着後であっても、当該分割型複合繊維には、予め設計された通りの優れた分割性を有する能力が、損なわれることなく保持される。このように、本発明では、分割型複合繊維にバインダー繊維を混合して用いるのが好ましい。そして、当該バインダー繊維は、分割型複合繊維を構成するポリオレフィンの融点よりも20℃以上低い融点を有する樹脂成分で構成されていることが好ましく、30〜100℃低い融点を有することが更に好ましい。本発明においては、熱バインダー繊維として、ポリオレフィン繊維を用いた場合に、発明の効果が最も良く発揮されるが、他のバインダー繊維を用いることを排除するものではない。例えば、分割型複合繊維を構成するポリオレフィンの融点よりも好ましくは20℃以上低い融点を有するという条件のもとに、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン共重合ポリプロピレン、エチレン−ブテン−1共重合ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリペンテンなどを例示できる。バインダー繊維は、鞘芯、海島、多層などの構造を有する複合繊維であってもよく、好ましい複合成分の組み合わせとして、ポリプロピレン/高密度ポリエチレン系の鞘芯型複合繊維、ポリプロピレン/エチレン共重合ポリプロピレン系の鞘芯型複合繊維、ポリプロピレン/エチレン−ブテン−1共重合ポリプロピレン系の鞘芯型複合繊維、ポリエステル/高密度ポリエチレン系の鞘芯型複合繊維を例示できる。
【0030】
本発明の繊維成形体の目付は、特に限定されるものではないが、10〜200g/m2のものが好ましく使用できる。目付が10g/m2未満では、高圧液体流処理などの物理的応力で分割細繊化する場合、地合不良な不織布となる場合がある。また目付が200g/m2を超えると、目付が高く、高圧水流が必要となり、地合良く、均一な分割を行うことが困難となる場合がある。
【0031】
本発明の繊維成形体は、本発明の妨げにならない範囲で、必要に応じて本発明の分割複合繊維に他の繊維あるいは粉体を混合して用いることができる。この他の繊維としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリルなどの合成繊維、綿、羊毛、麻などの天然繊維、レーヨン、キュプラ、アセテートなどの再生繊維、半合成繊維などが挙げられる。粉体としては、粉砕パルプ、レザーパウダー、竹炭粉、木炭粉、寒天粉等の天然由来物質、吸水性ポリマー等の合成高分子、鉄粉、酸化チタン等の無機物質などが挙げられる。
【0032】
本発明の分割型複合繊維を分割処理する方法は特に制限されず、ニードルパンチ法、高圧液体流処理などの方法を例示できる。ここでは、その一例として、高圧液体流処理を用いた分割処理方法について説明する。高圧液体流処理に用いる高圧液体流装置とは、例えば、孔径が0.05〜1.5mm、特に0.1〜0.5mmの噴射孔を孔間隔0.1〜1.5mmで一列あるいは複数列に多数配列した装置を用いる。噴射孔から高水圧で噴射させて得られる高圧液体流を多孔性支持部材上に置いた前記ウェブまたは不織布に衝突させる。これにより本発明の未分割の分割型複合繊維は高圧液体流により、交絡されると同時に細繊化される。噴射孔の配列は前記ウェブの進行方向と直交する方向に列状に配列する。高圧液体流としては、常温あるいは温水を用いても良いし、任意に他の液体を用いても良い。噴射孔とウェブまたは不織布との間の距離は、10〜150mmとするのが良い。この距離が10mm未満であるとこの処理により得られる繊維成形体の地合が乱れる場合があり、一方、この距離が150mmを超えると液体流がウェブまたは不織布に与える物理的衝撃が弱くなり、交絡及び分割細繊化が十分に施されない場合がある。この高圧液体流の処理圧力は、製造方法及び繊維成形体の要求性能によって、制御されるが、一般的には、2MPa〜20MPaの高圧液体流を噴射するのが良い。なお処理する目付等にも左右されるが、前記処理圧力の範囲内において、高圧液体流は順次、低水圧から高水圧へ圧力を上げて処理すると、ウェブまたは不織布の地合が乱れにくく、交絡及び分割細繊化が可能となる。高圧液体流を施す際にウェブまたは不織布を載せる多孔性支持部材としては、高圧液体流が上記ウェブまたは不織布を貫通するものであれば特に限定されない。例えば50〜200メッシュの金網製あるいは合成樹脂製のメッシュスクリーンや有孔板などが用いられる。尚、ウェブまたは不織布の片面より高圧液体流処理を施した後、引き続き交絡処理されたウェブまたは不織布を反転させて、高圧液体流処理を施すことによって、表裏共に緻密で地合の良い繊維成形体を得ることができる。さらに高圧液体流処理を施した後、処理後の繊維成形体から水分を除去する。この水分を除去するに際しては、公知の方法を採用することができる。例えば,マングロール等の絞り装置を用いて、水分をある程度除去した後、熱風循環式乾燥機等の乾燥装置を用いて完全に水分を除去して本発明の繊維成形体を得ることができる。
【0033】
本発明の分割型複合繊維集合体には、本発明の効果を阻害しない範囲で、さらに他の繊維が併用されていてもよい。特に制限はないが、例えば、本発明以外の分割型複合繊維、ポリプロピレン/高密度ポリエチレン系の熱接着性複合繊維、ポリプロピレン/エチレン共重合ポリプロピレン系の熱接着性複合繊維、ポリプロピレン/エチレン−ブテン−1共重合ポリプロピレン系の熱接着性複合繊維、ポリエステル/高密度ポリエチレン系の熱接着性複合繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン等を挙げることができる。
【0034】
本発明によって得られた分割型複合繊維を分割して得られたウェブまたは不織布は、地合、強度、分割性に優れているため、各種フィルター、バッテリーセパレーター、合成皮革、衛生材料用部材などの用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。なお、実施例中に示した物性値の測定方法又は定義を以下に示す。
(1)単糸繊度
JIS−L−1015に準じて測定した。
(2)単糸強度及び伸度
JIS−L−1015に準じ、島津製作所(株)製オートグラフ AGS500Dを用い、試長100mm、引張速度100mm/分で測定した。
(3)メルトフローレート(MFR)
JIS−K−7210に準じて測定した。
原料ポリプロピレン樹脂:条件14
(4)極限粘度(IV)
フェノール:テトラクロルエタン=1:1(質量比)の混合溶媒中,20℃でウベローデ法により測定した。
(5)紡糸性
溶融紡糸時の曳糸性を糸切れ回数の発生率により、次の4段階で評価した。
○:糸切れが全く発生せず、操作性が良好である。
△:糸切れが1時間当たり1〜2回
△△:糸切れが1時間当たり3〜4回
×:糸切れが1時間当たり5回以上発生し、操作上問題がある。
(6)延伸倍率
以下の式により算出した。
延伸倍率=引取ロール速度(m/分)/供給ロール速度(m/分)
(7)高圧液体流処理
ローラーカード機、エアレイド機、抄紙機等で作成したウェブを80メッシュの平織りからなるコンベアーベルト上に載せ、コンベアーベルト速度20m/分の速度で、ノズル径0.1mm、ノズルピッチ1mmのノズル直下を通過させ、高圧液体流を噴射した。まず、3MPaで予め予備処理(2段)した後、与えられた水圧で4段処理した。ウェブを反転させ、さらに上記と同じ水圧で4段処理することにより、分割細繊化した不織布を得た。
(8)分割性(通気度)評価
エアレイド機で作成したウェブを高圧液体処理し、25℃で48時間乾燥させた。該ウェブの通気度をJIS−L−1096 6.27A法に準じて測定した。同じ目付、同じ処理時間で構成されたウェブであれば通気度が低いほど該分割型複合繊維の分割性は優れ、分割しやすい繊維であると判断することができる。
(9)地合
10人のパネラーに対し、分割細繊化加工後の不織布(1m角)の繊維の分布斑を目視により次のように判定した。
○:7人以上が斑が少なく、また貫通孔もないと感じた。
△:4〜6人が斑が少なく、貫通孔もないと感じた。
×:斑が少ないと感じたのは3人以下であった。
(10)非露出数率(%)
分割型複合繊維集合体から選んだ任意の10本の繊維の平均値で、これらの繊維のポリエステルセグメントの凸部について、以下の式により算出した。
非露出数率(%)=(繊維表面に露出していないポリエステルセグメントの凸部数/ポリエステルセグメントの凸部総数)×100
【0036】
[実施例1〜2]
ポリエステルに融点が260℃のポリエチレンテレフタレート、実施例1では、ポリオレフィンに融点が160℃、MFRが16のポリプロピレンを用い、実施例2では、ポリオレフィンに融点が160℃、MFRが30のポリプロピレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、紡糸温度が280℃で、紡糸口金から吐出された繊維を、25℃の冷却風を用いて1.7m/secの風速で冷却し、ポリエステルとポリオレフィンの容積比率50/50、単糸繊度5.4dtexで、図2にその代表例として示されるような、ポリエステルセグメントの少なくとも1つの凸部は繊維外周側に露出しているが、ポリエステルセグメントの少なくとも1つの凸部は繊維外周側に露出していない繊維断面形状を有する分割型複合繊維が実施例1では70%、実施例2では80%の割合で含まれる分割型複合繊維集合体を紡糸した。引き取り工程において、アルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。得られた未延伸糸を90℃、1.8倍で延伸し、製紙用分散剤を付着させた。そして、機械捲縮をかけて5mmに切断した。凸部総数は8、r/dは実施例1が0.95、実施例2が0.96であった。繊維外周側に露出していないポリエステルセグメントの凸部は、実施例1では20%、実施例2では33%の割合で、繊維中央側から繊維外周側に向かって互いに反対方向に伸びるポリエステルセグメントの部分と対を形成していた。
得られた短繊維と、バインダー繊維とを、質量比70:30で混繊した。バインダーは、芯に融点が160℃のポリプロピレン、鞘に融点が130℃の高密度ポリエチレンを容積比率50/50の割合で配した鞘芯型複合繊維である。上記混繊をエアレイド機にてウェブとし、これをスルーエアー加工機により138℃で0.3分間熱処理し仮接着した不織布を、前記高圧液体流処理し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維、繊維成形体の物性値を表1に示す。
【0037】
[実施例3]
ポリエステルに融点が260℃のポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィンに融点が160℃のポリプロピレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、紡糸温度が280℃で、紡糸口金から吐出された繊維を、25℃の冷却風を用いて1.7m/secの風速で冷却し、ポリエステルとポリオレフィンの容積比率50/50、単糸繊度5.4dtexで、図2にその代表例として示されるような、ポリエステルセグメントの少なくとも1つの凸部は繊維外周側に露出しているが、ポリエステルセグメントの少なくとも1つの凸部は繊維外周側に露出していない繊維断面形状を有する分割型複合繊維が80%の割合で含まれる分割型複合繊維集合体を紡糸した。ポリプロピレンのMFRは36であった。引き取り工程において、アルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。得られた未延伸糸を90℃、1.8倍で延伸し、製紙用分散剤を付着させた。そして、機械捲縮をかけて5mmに切断した。凸部総数は8、r/dは0.94であった。繊維外周側に露出していないポリエステルセグメントの凸部は、繊維中央側から繊維外周側に向かって互いに反対方向に伸びるポリエステルセグメントの部分を有する対を44%有するものであった。
得られた短繊維に実施例1及び2と同じ分割処理を施し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維、繊維成形体の物性値を表1に示す。
【0038】
[実施例4]
ポリエステルに融点が260℃のポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィンに融点が160℃のポリプロピレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、紡糸温度が280℃で、紡糸口金から吐出された繊維を、25℃の冷却風を用いて1.7m/secの風速で冷却し、ポリエステルとポリオレフィンの容積比率40/60、単糸繊度5.4dtexで、図2にその代表例として示されるような、ポリエステルセグメントの少なくとも1つの凸部は繊維外周側に露出しているが、ポリエステルセグメントの少なくとも1つの凸部は繊維外周側に露出していない繊維断面形状を有する分割型複合繊維が95%の割合で含まれる分割型複合繊維集合体を紡糸した。ポリプロピレンのMFRは30であった。引き取り工程において、アルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。得られた未延伸糸を90℃、1.8倍で延伸し、製紙用分散剤を付着させた。そして、機械捲縮をかけて5mmに切断した。凸部総数は8、r/dは0.91であった。繊維外周側に露出していないポリエステルセグメントの凸部は、76%の割合で、繊維中央側から繊維外周側に向かって互いに反対方向に伸びるポリエステルセグメントの部分と対を形成していた。
得られた短繊維に実施例1及び2と同じ分割処理を施し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維、繊維成形体の物性値を表1に示す。
【0039】
[実施例5]
ポリエステルに融点が260℃のポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィンに融点が160℃のポリプロピレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、紡糸温度が280℃で、紡糸口金から吐出された繊維を、25℃の冷却風を用いて1.7m/secの風速で冷却し、ポリエステルとポリオレフィンの容積比率60/40、単糸繊度5.4dtexで、図2にその代表例として示されるような、ポリエステルセグメントの少なくとも1つの凸部は繊維外周側に露出しているが、ポリエステルセグメントの少なくとも1つの凸部は繊維外周側に露出していない繊維断面形状を有する分割型複合繊維が60%の割合で含まれる分割型複合繊維集合体を紡糸した。しかし、図2のようにポリエステルセグメントの凸部の対が、繊維横断面に関して常に対称であるものとは異なるものである。即ち、このような各凸部が繊維中央側から繊維外周側に向かって互いに反対方向に伸びるポリエステルセグメントの凸部の対において、少なくとも一つの凸部は、しばしば繊維表面に露出している。ポリプロピレンのMFRは30であった。引き取り工程において、アルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。得られた未延伸糸を90℃、1.8倍で延伸し、製紙用分散剤を付着させた。そして、機械捲縮をかけて5mmに切断した。凸部総数は8、r/dは0.97であった。
得られた短繊維に実施例1及び2と同じ分割処理を施し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維、繊維成形体の物性値を表1に示す。
【0040】
[実施例6]
ポリエステルに融点が260℃のポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィンに融点が160℃のポリプロピレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、紡糸温度が280℃で、ポリエステルとポリオレフィンの容積比率50/50、単糸繊度5.4dtexで、図2にその代表例として示されるような、ポリエステルセグメントの少なくとも1つの凸部は繊維外周側に露出しているが、ポリエステルセグメントの少なくとも1つの凸部は繊維外周側に露出していない繊維断面形状を有する分割型複合繊維が20%の割合で含まれる分割型複合繊維集合体を紡糸した。実施例1に比べ紡糸口金から吐出された溶融樹脂を冷却させる吹付け風速を34%増加させ、固化挙動を操作することで、繊維横断形状は図2に準じながらも、ポリエステルセグメント凸部の非露出率は9%まで低下した。定かではないが、溶融張力が低いことによると思われる、糸切れが見られ、紡糸性は実施例1〜5に比べて低下する傾向が見られた。得られた未延伸糸を90℃、1.8倍で延伸し、製紙用分散剤を付着させた。そして、機械捲縮をかけて5mmに切断したが、紡糸性が低下する傾向にあるため、得られた繊維量は実施例1〜5に比べて少なかった。凸部総数は8、r/dは0.99であった。繊維外周側に露出していないポリエステルセグメントの凸部は、57%の割合で、繊維中央側から繊維外周側に向かって互いに反対方向に伸びるポリエステルセグメントの部分と対を形成していた。
得られた短繊維に実施例1及び2と同じ分割処理を施し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維、繊維成形体の物性値を表1に示す。ポリエステルセグメントの少なくとも1つは繊維外周まで伸び、ポリエステルセグメントの少なくとも1つは繊維外周側に至る前に存在する点に向かって伸びる繊維断面形状を有する分割型複合繊維の含有量が少ない(20%)ため、仮接着性も多少とも劣っており、分割処理後の地合は、他の実施例に比べ多少劣っていた(△)。
【0041】
[比較例1]
ポリエステルを含まず、融点が160℃のポリプロピレンと融点が130℃の高密度ポリエチレンで構成され、分割型複合繊維用口金を用いて、紡糸温度が280℃で、紡糸口金から吐出された繊維を、25℃の冷却風を用いて1.7m/secの風速で冷却し、ポリプロピレンとポリエチレンの容積比率50/50、単糸繊度5.4dtexで、図2にその代表例として示されるような、ポリプロピレンセグメントの少なくとも1つの凸部は繊維外周側に露出しているが、ポリプロピレンセグメントの少なくとも1つの凸部は繊維外周側に露出していない繊維断面形状を有する分割型複合繊維が60%の割合で含まれる分割型複合繊維集合体を紡糸した。しかし、図2のようにポリエステルセグメントの凸部の対が、繊維横断面に関して常に対称であるものとは異なるものである。即ち、このような各凸部が繊維中央側から繊維外周側に向かって互いに反対方向に伸びるポリエステルセグメントの凸部の対において、少なくとも一つの凸部は、しばしば繊維表面に露出している。得られた未延伸糸を90℃、4.3倍で延伸し、製紙用分散剤を付着させた。そして、機械捲縮をかけて5mmに切断した。
得られた短繊維に実施例1及び2と同じ分割処理を施し、繊維成形体とした。凸部総数は8、r/dは0.99であった。
得られた繊維、繊維成形体の物性値を表1に示す。紡糸性、繊維成形体の地合は良好であるものの、その通気度は高く、分割性が劣っていることが判った。
【0042】
【表1】

【0043】
注)
* 繊維集合体に含まれる、ポリエステルセグメントの少なくとも1つは繊維外周側に向かって伸び、ポリエステルセグメントの少なくとも1つは繊維外周側に至る前に存在する点に向かって伸びる繊維断面形状を有する分割型複合繊維の割合
** カッコ内の数値は、サンプル量が少ないため、単なる参考値である。
本発明の分割型複合繊維を用いたもの(実施例1〜6)は、ポリオレフィン系のバインダー繊維と優れた熱接着性を有するために、2種のポリオレフィンで構成される分割型複合繊維を用いたもの(比較例1)と同様に、分割処理後の地合が優れている。また、中空分割型のもので比較してみると、本発明のもの(実施例1〜6)では、比較例1と比べて、通気度が低く、優れた分割性を示し、同条件でも高度に分割していることが判った。即ち従来のような厳しい条件での分割処理を行わなくても、分割細繊化が容易に進行するため、比較的低目付の不織布でも地合が乱れることなく分割が可能であり、これによって、分割処理(例えば高圧液体流処理)にかかる時間、コストも大幅に削減することができる。
また、実施例1〜5は優れた紡糸性により、分割型複合繊維集合体として、実施例6より好ましいものである。
本願は、日本国特許願第2007−137994号に基づくものであり、その内容は参照としてここに組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ポリオレフィン系のバインダー繊維等との熱接着性、分割性ならびに生産性に優れた、ポリエステルとポリオレフィンを含む分割型複合繊維、その集合体、および該分割型複合繊維を用いた繊維成形体を提供する。本発明のポリエステルとポリオレフィンを含む分割型複合繊維やその集合体は、分割性だけでなくポリオレフィン系のバインダー繊維との熱接着性にも優れることで、厳しい条件で分割処理を行わなくても分割細繊化が容易であり、緻密で地合いの良い繊維成形体を提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 繊維外周側に露出しているポリエステルセグメントの部分
1′ 繊維外周側に至る前に存在する、露出していないポリエステルセグメントの部分
2 ポリオレフィンセグメント
3 分割型複合繊維の中空部
r 繊維中心と、繊維外周側に露出していないポリエステルセグメントの外周側との距離
d 繊維中心と、繊維外周側との距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルセグメントとポリオレフィンセグメントを含み、かつ繊維の長さ方向とは直角する方向の繊維断面形状において、繊維中央側から繊維外周側に向かって伸びる少なくとも2つ以上の部分を形成するポリエステルセグメントを含む分割型複合繊維であって、該ポリエステルセグメントの前記部分の少なくとも1つは繊維外周側に露出しているが、該ポリエステルセグメントの前記部分の少なくとも1つは繊維外周側に露出していない分割型複合繊維。
【請求項2】
中空部を有する、請求項1に記載の分割型複合繊維。
【請求項3】
繊維外周長さRに対するポリエステルセグメントにより構成される弧の長さWの比(W/R)が0.1〜0.4の範囲である、請求項1又は2に記載の分割型複合繊維。
【請求項4】
ポリエステルとポリオレフィンを含む分割型複合繊維を用いて構成された分割型複合繊維集合体であって、請求項1〜3のいずれかに記載の分割型複合繊維を、集合体に含まれる分割型複合繊維の総数に対し少なくとも25%の範囲で含む、分割型複合繊維集合体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の分割型複合繊維、または、請求項4に記載の分割型複合繊維集合体に含まれる繊維を分割して得られる、平均単糸繊度が0.6dtex以下の極細繊維を含む繊維成形体。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−528194(P2010−528194A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509027(P2010−509027)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/JP2008/059960
【国際公開番号】WO2008/146898
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】