説明

分岐型ポリシラン化合物の製造方法

【課題】
透明性に優れ、光配線材料などとして好適な分岐型ポリシラン化合物を提供する。
【解決手段】
式:RSi(X(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で示されるシラン化合物(1)、式:RSi(X(式中、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で示されるシラン化合物(2)、および式:RSi(X(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で示されるシラン化合物(3)を縮重合させることを特徴とする分岐型ポリシラン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性に優れる分岐型ポリシラン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリシラン系材料が、ガラス、セラミックス、プラスチックスなどの表面保護膜や反射防止膜、光通信用フィルタ膜などに広く用いられている。
【0003】
ポリシラン系材料としては、直鎖型のポリシラン系材料、分岐型のポリシラン系材料などが知られている。近年においては、屈折率の温度による変化が少ないことや照射光による屈折率の変化が高感度であることなどの理由から、分岐型のポリシラン系材料が特に注目されている。
【0004】
従来、このような分岐型のポリシラン系材料を製造する方法としては、(i)フェニルメチルジクロロシランとテトラクロロシランを、金属ナトリウムのトルエン分散液中で反応させることにより、ネットワーク状ポリシランを製造する方法(特許文献1)、(ii)フェニルジクロロシランとメチルトリクロロシランとを、マグネシウム及び塩化リチウムの存在下に反応させることにより、分岐状メチルフェニルポリシラン及び環状メチルフェニルシランの混合物を製造する方法(特許文献2)、(iii)フェニルメチルジクロロシランとテトラクロロシランを、金属ナトリウムのトルエン分散液中で反応させることにより、分岐型ポリメチルフェニルシランを製造する方法(特許文献3〜5)、(iv)ジフェニルジクロロシランとR’SiCl(R’はメチル基又はフェニル基を表す)とを、マグネシウム及び塩化リチウムの存在下に反応させることにより、ジフェニルジクロロシラン−メチルトリクロロシラン共重合体、又はジフェニルジクロロシラン−フェニルトリクロロシラン共重合体を製造する方法(特許文献6)などが知られている。
【0005】
しかしながら、上記した文献に記載された分岐型のポリシラン系材料の、トルエンなどの有機溶媒溶液を塗工してポリシラン薄膜を形成する場合、得られるポリシラン系材料の透明性が低下して、光学用材料として使用する場合に問題となる場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−262727号公報
【特許文献2】特開2001−281436号公報
【特許文献3】特開2002−309094号公報
【特許文献4】特開2004−12635号公報
【特許文献5】特開2004−333883号公報
【特許文献6】特開2005−36139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、透明性に優れ、光学用材料などとして好適な分岐型ポリシラン化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、メチルフェニルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン及びフェニルトリクロロシランを、金属ナトリウム存在下に縮重合させることにより、透明性に優れる分岐型ポリシラン化合物(メチルフェニルジクロロシラン−メチルトリクロロシラン−フェニルトリクロロシラン共重合体)を効率よく製造できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(9)の分岐型ポリシラン化合物の製造方法が提供される。
(1)式:RSi(X(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で示されるシラン化合物(1)、式:RSi(X(式中、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で示されるシラン化合物(2)、及び式:RSi(X(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で示されるシラン化合物(3)を縮重合させることを特徴とする分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
(2)前記シラン化合物(1)として、RSiCl(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表す。)で示されるアルキルトリクロロシラン化合物を用いることを特徴とする(1)の分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
(3)前記シラン化合物(2)として、RSiCl(式中、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。)で示されるアリールトリクロロシラン化合物を用いることを特徴とする(1)または(2)の分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
【0010】
(4)前記シラン化合物(3)として、RSiCl(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。)で示されるアリールアルキルジクロロシラン化合物を用いることを特徴とする(1)〜(3)いずれかの分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
(5)前記シラン化合物(1)とシラン化合物(2)との使用量の合計が、前記シラン化合物(1)、(2)及び(3)の使用量の合計100モルに対して、25〜33モルの範囲であることを特徴とする(1)〜(4)いずれかの分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
(6)前記シラン化合物(1)の使用量が、前記シラン化合物(2)に対し、1〜5倍モルの範囲であることを特徴とする(1)〜(5)いずれかの分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
(7)前記シラン化合物(1)、シラン化合物(2)及びシラン化合物(3)を、アルカリ金属の存在下に縮重合させることを特徴とする(1)〜(6)いずれかの分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
(8)前記アルカリ金属として、金属ナトリウムを用いることを特徴とする(7)の分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
(9)得られる分岐型ポリシラン化合物の重量平均分子量(Mw)が10,000〜50,000であることを特徴とする(1)〜(8)いずれかの分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、透明性に優れ、光学用材料などとして好適な分岐型ポリシラン化合物を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の分岐型ポリシラン化合物の製造方法は、隣接する珪素原子(Si原子)と結合している数(結合数)が3または4であるSi原子を含むポリシラン化合物を製造するものである。
【0013】
本発明の分岐型ポリシラン化合物の製造方法は、前記シラン化合物(1)、シラン化合物(2)及びシラン化合物(3)を縮重合させることを特徴とする。すなわち、本発明の製造方法は、ハロゲン原子を2つ有するシラン化合物と、分岐剤となるハロゲン原子を3つ有するシラン化合物とを縮重合(共重合)させるに際し、分岐剤となるハロゲン原子を3つ有するシラン化合物として、シラン化合物(1)とシラン化合物(2)の組み合わせを用いることにより、透明性に優れる分岐型のポリシラン化合物を得るものである。
【0014】
(1)シラン化合物(1)
本発明に用いるシラン化合物(1)において、式(1)中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0015】
炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などが挙げられる。
は、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子を表し、塩素原子が好ましい。また、複数のXは同一であっても、相異なっていてもよい。
【0016】
シラン化合物(1)の好ましい具体例としては、RSiCl(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)で示されるアルキルトリクロロシラン化合物が挙げられる。
【0017】
アルキルトリクロロシラン化合物としては、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、n−プロピルトリクロロシラン、イソプロピルトリクロロシラン、n−ブチルトリクロロシラン、t−ブチルトリクロロシラン等が挙げられる。これらの化合物は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
これらの中でも、入手容易性などの観点から、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、n−プロピルトリクロロシラン、イソプロピルトリクロロシランが好ましく、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシランがより好ましく、メチルトリクロロシランが特に好ましい。
【0019】
(2)シラン化合物(2)
本発明に用いるシラン化合物(2)において、式(2)中、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
前記Rの置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、フェニル基;4−クロロフェニル基、4−メチルフェニル基、3−メトキシフェニル基、2,4−ジフェニルフェニル基などの置換基を有するフェニル基;1−ナフチル基;2−クロロ−1−ナフチル基、2−メチル−1−ナフチル基、4−メチル−1−ナフチル基、6−メチル−1−ナフチル基などの置換基を有する1−ナフチル基;2−ナフチル基;1−クロロ−2−ナフチル基、1−メチル−2−ナフチル基、3−メチル−2−ナフチル基、6−メチル−2−ナフチル基などの置換基を有する2−ナフチル基;などが挙げられる。
は前記Xと同様のハロゲン原子を表す。また、複数のXは同一であっても、相異なっていてもよい。
【0020】
シラン化合物(2)の好ましい具体例としては、RSiCl(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)で示されるアリールトリクロロシラン化合物が挙げられる。
【0021】
このようなアリールトリクロロシラン化合物の具体例としては、フェニルトリクロロシラン、2−クロロフェニルトリクロロシラン、4−メチルフェニルトリクロロシラン、2,4,6−トリメチルフェニルトリクロロシラン、1−ナフチルトリクロロシラン、2−ナフチルトリクロロシラン等が挙げられる。これらの化合物は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
これらの中でも、入手容易性などの観点から、フェニルトリクロロシラン、1−ナフチルトリクロロシラン、2−ナフチルトリクロロシランが好ましく、フェニルトリクロロシランが特に好ましい。
【0023】
(3)シラン化合物(3)
本発明に用いるシラン化合物(3)において、式(3)中、Rは、前記Rと同様の炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは前記Rと同様な置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、Xは前記Xと同様のハロゲン原子を表す。
【0024】
シラン化合物(3)の好ましい具体例としては、RSiCl(式中、R、Rは前記と同じ意味を表す。)で示されるアルキルアリールジクロロシラン化合物が挙げられる。
【0025】
このようなアルキルアリールジクロロシラン化合物の具体例としては、メチルフェニルジクロロシラン、エチルフェニルジクロロシラン、n−プロピルフェニルジクロロシラン、イソプロピルフェニルジクロロシラン、n−ブチルフェニルジクロロシラン、メチル2−クロロフェニルジクロロシラン、メチル4−メチルフェニルジクロロシラン、エチル2−クロロフェニルジクロロシラン、エチル4−メチルフェニルジクロロシラン、メチル1−ナフチルジクロロシラン、メチル2−ナフチルジクロロシラン等が挙げられる。これらの化合物は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
これらの中でも、メチルフェニルジクロロシラン、エチルフェニルジクロロシラン、n−プロピルフェニルジクロロシラン、イソプロピルフェニルジクロロシラン、メチル1−ナフチルジクロロシラン、メチル2−ナフチルジクロロシランが好ましく、メチルフェニルジクロロシラン、エチルフェニルジクロロシラン、n−プロピルフェニルジクロロシラン、イソプロピルフェニルジクロロシランがより好ましく、メチルフェニルジクロロシランが特に好ましい。
【0027】
(4)使用量
本発明の製造方法において、シラン化合物(1)とシラン化合物(2)との使用量の合計は、特に制限されないが、透明性の観点から、前記シラン化合物(1)、(2)及び(3)の使用量の合計100モルに対して、通常10〜50モル、好ましくは20〜40モル、特に好ましくは25〜33モルの範囲である。
【0028】
また、シラン化合物(1)とシラン化合物(2)との使用割合は、特に制限されないが、透明性の観点から、前記シラン化合物(1)の使用量が、前記シラン化合物(2)に対し、通常0.5〜10倍モル、好ましくは1〜5倍モル、より好ましくは2〜4.5倍モルの範囲である。
【0029】
一般的に、ポリシラン構造により屈折率を調整する場合、高屈折率のポリシラン化合物を得たい場合には、置換基を有していてもよいフェニル基の存在量を多くするのが好ましい。
【0030】
(5)反応方法
シラン化合物(1)、シラン化合物(2)及びシラン化合物(3)を縮重合させる方法は特に制限されず、従来公知の方法を適用することができる。例えば、(i)アルカリ金属の存在下で、シラン化合物(1)、シラン化合物(2)及びシラン化合物(3)を脱ハロゲン縮重合させる方法(J.Am.Chem.Soc.,110,124(1988)、Macromolecules,23,3423(1990))、(ii)非プロトン性溶媒中、シラン化合物(1)、シラン化合物(2)及びシラン化合物(3)の混合物に、リチウム塩及び金属ハロゲン化物の共存下に、マグネシウムまたはマグネシウム合金を作用させる方法(特開2001−281436号公報など)、(iii)電極還元により、シラン化合物(1)、シラン化合物(2)及びシラン化合物(3)を脱ハロゲン縮重合させる方法などが挙げられる。これらの中でも、収率よく目的物を得ることができることから、(i)の方法が好ましい。
【0031】
前記(i)の方法で用いるアルカリ金属としては、金属リチウム、金属ナトリウム、金属カリウムなどが挙げられ、金属ナトリウムが好ましい。
【0032】
アルカリ金属は、通常、後述する不活性溶媒の分散液の形で用いる。アルカリ金属の分散体の粒子径は特に制限されないが、通常1〜2000nm、好ましくは、10〜1000nmである。
【0033】
アルカリ金属の使用量は、前記シラン化合物(1)、シラン化合物(2)及びシラン化合物(3)の総ハロゲン原子数に対して、通常0.5〜2倍モル、好ましくは0.8〜1.3倍モル、より好ましくは0.9〜1.1倍モルである。
【0034】
前記シラン化合物(1)、シラン化合物(2)及びシラン化合物(3)の縮重合は、適当な不活性溶媒中で行うことができる。
用いる不活性溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アニソールなどのエーテル系溶媒;及びこれら溶媒の2種以上の組み合わせ;が挙げられる。これらの中でも、収率よく目的とするポリシラン化合物を得ることができることから、芳香族炭化水素系溶媒の使用が好ましい。
【0035】
不活性溶媒の使用量は、反応規模などに応じて適宜定めることができるが、シラン化合物(1)、シラン化合物(2)及びシラン化合物(3)の合計1モルに対して、通常0.1〜1リットルである。
【0036】
前記シラン化合物(1)、シラン化合物(2)及びシラン化合物(3)を縮重合させる反応温度は、通常0℃から用いる溶媒の還流温度までの温度範囲、好ましくは50℃から用いる溶媒の還流温度までの温度範囲である。
反応時間は、反応規模などにもよるが、通常0.5〜10時間である。
【0037】
反応終了後は、反応液に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの反応停止剤を添加して反応を停止させる。次いで、反応液に大量のメタノールなどの貧溶媒を加えて晶析した結晶をろ取することにより、目的とする分岐型ポリシラン化合物を得ることができる。
【0038】
以上のようにして得られる分岐型ポリシラン化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、通常5,000〜100,000、好ましくは10,000〜50,000、より好ましくは15,000〜45,000であり、数平均分子量(Mn)は特に制限されないが、通常1,000〜10,000、好ましくは1,500〜5,000である。
重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0039】
また、得られる分岐型ポリシラン化合物の分岐型構造の確認は、紫外線吸収スペクトル等を測定することにより行うことができる。
【0040】
本発明の製造方法により得られる分岐型ポリシラン化合物(以下、「本発明ポリシラン化合物」ということがある)は、有機溶媒に可溶である。
有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アニソールなどのエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;及びこれら溶媒の2種以上の組み合わせ;が挙げられる。
【0041】
本発明ポリシラン化合物の有機溶媒溶液は透明性に優れる。例えば、本発明ポリシラン化合物の50重量%トルエン溶液の波長600nmの光透過率は、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは92%以上である。
【0042】
本発明ポリシラン化合物の有機溶媒溶液は保存安定性に優れる。例えば、本発明ポリシラン化合物の50重量%トルエン溶液を室温で1ヶ月程度保存した場合であっても、濁りがほとんど見られず、光透過率もほとんど低下しない。
【0043】
本発明ポリシラン化合物の有機溶媒溶液は操作性に優れる。例えば、本発明ポリシラン化合物の50重量%トルエン溶液の粘度(25℃)は、1〜1000mPa・s、好ましくは1〜500mPa・sである。
【0044】
本発明ポリシラン化合物の有機溶媒溶液を基体上に塗布することにより、透明なポリシラン化合物の薄膜を形成することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら制限されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において、「部」は特に断りのない限り、重量基準である。また、重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
【0046】
(実施例1)
金属ナトリウム143部をキシレン843部に添加し、全容を攪拌しながら加熱することにより、金属ナトリウムのキシレン分散液を得た。
【0047】
一方、シラン化合物(3)としてフェニルメチルジクロロシラン(以下、「PMDCS」という。)328部、シラン化合物(1)としてメチルトリクロロシラン(以下、「MTCS」という。)81.3部、及びシラン化合物(2)としてフェニルトリクロロシラン(以下、「PTCS」という。)40.4部を室温で混合して、モノマー混合液を調製した。
【0048】
次いで、前記金属ナトリウムのキシレン分散液に、上記で得たモノマー混合液を、還流下3時間で滴下した。滴下終了後、還流下でさらに1時間攪拌した。
反応溶液を冷却し、この反応溶液にキシレン337部を添加した。全容を攪拌しながら70℃まで加熱し、イソプロピルアルコール373部を滴下して、反応を停止させた。
【0049】
得られた反応混合物にキシレン84.3部を添加し、次いで、メタノール5040部を加えて析出した結晶をろ取し、メタノールで洗浄した(メタノール245部×2回)。得られた結晶をキシレンとメタノールから再結晶して、目的とする分岐型ポリシラン化合物の結晶を得た。得られた分岐型ポリシラン化合物の収率(%)、総分岐比率(mol%)、重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)を下記第1表にまとめて示す。
総分岐比率(mol%)は、式:総分岐比率(mol%)=(MTCS(mol)+PTCS(mol))/(PMDCS(mol)+MTCS(mol)+PTCS(mol))でもとめた(以下の実施例2,3、及び比較例1,2にて同じ)。
【0050】
(実施例2)
PMDCS342部、MTCS73.3部、PTCS36.3部、金属ナトリウム141部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分岐型ポリシラン化合物の結晶を得た。得られた分岐型ポリシラン化合物の収率(%)、総分岐比率(mol%)、重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)を下記第1表にまとめて示す。
【0051】
(実施例3)
PMDCS317部、MTCS89.5部、PTCS44.4部、金属ナトリウム144部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分岐型ポリシラン化合物の結晶を得た。得られた分岐型ポリシラン化合物の収率(%)、総分岐比率(mol%)、重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)を下記第1表にまとめて示す。
【0052】
(比較例1)
PMDCS314部、PTCS171部、金属ナトリウム144部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分岐型ポリシラン化合物の結晶を得た。得られた分岐型ポリシラン化合物の収率(%)、総分岐比率(mol%)、重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)を下記第1表にまとめて示す。
【0053】
(比較例2)
PMDCS314部、MTCS121部、金属ナトリウム144部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分岐型ポリシラン化合物の結晶を得た。得られた分岐型ポリシラン化合物の収率(%)、総分岐比率(mol%)、重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)を下記第1表にまとめて示す。
【0054】
(比較例3)
PMDCS421部、テトラクロロシラン41.7部、金属ナトリウム136部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分岐型ポリシラン化合物の結晶を得た。得られた分岐型ポリシラン化合物の収率(%)、総分岐比率(mol%)、重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)を下記第1表にまとめて示す。
総分岐比率(mol%)は、式:総分岐比率(mol%)=テトラクロロシラン(mol)/(PMDCS(mol)+テトラクロロシラン(mol))でもとめた。
【0055】
【表1】

【0056】
(分岐型ポリシラン化合物のトルエン溶液の調製)
実施例1〜3、比較例1〜3で得た分岐型ポリシラン化合物をトルエンに溶解し、トルエン50重量%溶液をそれぞれ調製した。
【0057】
(光透過率の測定)
上記で得た調製直後のトルエン50重量%溶液の、波長600nmの光透過率(T%)を測定した。測定は分光光度計(UV-265、島津製作所社製)を用いて行った。測定結果を第2表にまとめて示す。
【0058】
(粘度の測定)
上記で得たトルエン50重量%溶液の粘度(mPa・s)を、粘度計(TV−22型、東機産業社製)を用いて測定した。測定結果を第2表にまとめて示す。
【0059】
【表2】

【0060】
第1表、第2表より、実施例1〜3の分岐型ポリシラン化合物は、重量平均分子量10,000以上の分岐型ポリシランであり、光透過率に優れ、操作性にも優れたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:RSi(X(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で示されるシラン化合物(1)、式:RSi(X(式中、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で示されるシラン化合物(2)、および式:RSi(X(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で示されるシラン化合物(3)を縮重合させることを特徴とする分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記シラン化合物(1)として、RSiCl(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表す。)で示されるアルキルトリクロロシラン化合物を用いることを特徴とする請求項1に記載の分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記シラン化合物(2)として、RSiCl(式中、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。)で示されるアリールトリクロロシラン化合物を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記シラン化合物(3)として、RSiCl(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。)で示されるアリールアルキルジクロロシラン化合物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記シラン化合物(1)とシラン化合物(2)との使用量の合計が、前記シラン化合物(1)、(2)および(3)の使用量の合計100モルに対して、25〜33モルの範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記シラン化合物(1)の使用量が、前記シラン化合物(2)に対し、1〜5倍モルの範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
【請求項7】
前記シラン化合物(1)、シラン化合物(2)およびシラン化合物(3)を、アルカリ金属の存在下に縮重合させることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ金属として、金属ナトリウムを用いることを特徴とする請求項7に記載の分岐型ポリシラン化合物の製造方法。
【請求項9】
得られる分岐型ポリシラン化合物の重量平均分子量(Mw)が10,000〜50,000であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の分岐型ポリシラン化合物の製造方法。



【公開番号】特開2007−145879(P2007−145879A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316152(P2005−316152)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】