説明

分岐多糖により安定化した金属ナノ粒子に基づくナノ複合材料

本発明は、枝分かれしたカチオン性多糖、特にキトサンのアルジトール又はアルドン酸の単糖及びオリゴ糖誘導体により安定化した金属ナノ粒子から作られているナノ複合材料系と、還元剤の存在下又は不在下において該多糖の水溶液により得られるその調製とを提供する。その多糖の特定の化学的特徴及び物理化学的特徴は、多糖マトリックス中に均一に分散している金属ナノ粒子の形成と、その効果的な安定化を可能にすることである。ナノメートル寸法及びポリマー鎖上での生物学的信号の存在に関連する特性は、抗菌活性の用途及び分子バイオセンサーの用途に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枝分かれしたカチオン性多糖のマトリックス中で安定化した金属ナノ粒子により形成されるナノ複合材料と、その調製と、その生物医学的分野、医薬品分野及び食品分野における用途への使用とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子の調製は、ナノ技術上、非常に興味のある研究分野であり;実際、多くの金属は、主としてナノスケールと関係がある特定の光学特性、抗菌特性及び触媒特性を有する。特に、例えば銀等の金属の広域スペクトル抗菌活性は、適用上の注目に値する関心がある。一方、細菌感染、真菌感染及びウィルス感染は、多くの状況下において深刻な問題を示し、それ故に、広域の抗菌スペクトルを持つ製品の実現は、特に必要性が感じられる。事実、銀、金、銅、亜鉛及びニッケル等の金属の抗菌材料分野における使用は、特には話題の組織病変を治療するための、市場に大きな影響を及ぼすことになるため、例えば、Johnson&Johnson(登録商標)及びConvatec(登録商標)等の会社は、最近になって銀ナノ粒子の抗菌特性に基づく薬物を市場に出している。
【0003】
ナノ粒子は、一般に、還元剤及びナノ粒子が凝集するのを防ぐのに役立つ安定化剤の存在下における金属塩溶液から得られる。ナノ粒子を安定化するため、適当に希釈されたポリマー溶液が広く使用されており、金属粒子を均一に分散させることになるナノ複合材料系を得ることを可能にする。上述の適用のため、ポリホスフェート、ポリアクリレート、ポリ(ビニルスルフェート)、ポリ(アリルアミン)(非特許文献1)、ポリ(エチレンイミン)(非特許文献2及び3)等の高分子電解質の溶液が、特に効果的であった。
【0004】
一般に、金属ナノ粒子の形成を得るのに必要とされる成分は、適切な金属塩、還元剤及びコロイド懸濁液の安定剤として作用するポリマーである。
【0005】
US 2007/00036031(Karandikar et al.)は、溶媒、安定剤、界面活性剤、還元剤及び加熱の存在下での銀ナノ粒子の形成方法を開示する。安定剤の中でも、ポリアクリルアミド及びポリソルベート20等のポリマーについて言及している。
【0006】
特許WO2007/147094A2(Sambhy V.et al.)では、3級又は4級窒素原子を特徴とした合成のカチオン性ポリマーマトリックスにおけるナノ複合材料系(ここで、ナノ粒子を安定化するポリマーがポリ(4−ビニルピリジン)誘導体であり、臭化銀を用いその銀ナノ粒子を形成する)が記載されている。
【0007】
特許WO2007/017901A2(Omray P.et al.)は、例えばポリソルベート、プロピレングリコール及び没食子酸プロピルを用いることにより、銀ナノ粒子が分散した製剤を報告する。
【0008】
特許WO2007/096606A1(Crowther N.et al.)では、抗菌用途の安定化ポリマーの存在下において調製された金属ナノ粒子を放出する方法が記載されている。上述のポリマーの中には、ポリ(メタクリル酸)、ポリイミド、ポリ(ビニルアルコール)及びそれらのコポリマーがある。
【0009】
特許WO2007/001453(Yacaman M.et al.)は、還元剤及びナノ構造溶媒の両方としてグリセリン又はエチレングリコールを使用し、ナノ粒子用コーティング剤としてポリ(ビニルピロリドン)を用いた、ポリオール及びポリマーの存在下における銀ナノ粒子の合成を報告する。注意すべきは、銀イオンの化学的還元機構がポリオールに存在するヒドロキシル基の酸化及びC−C結合の分解に基づくことである。
【0010】
生物医学的分野での適用のため、多糖に基づく系は、それらのポリマーが一般に生体適合性があり、それ故に生物組織との直接的な接触を伴う用途に適しているため、特に関心をひいている。天然の多糖類の中でも、より研究され商業的に使用されているものの一つにキトサンがある。これは、塩基性多糖であり、分子量が50〜1,500kDaであり、β1→4結合により結合しているD−グルコサミン(GlcNH2)残基の直鎖で構成され、不完全なキチン脱アセチル化からの散在した残留N−アセチル−グルコサミン単位を備える。この多糖は、通常、中性又は塩基性水溶液に溶けず;pHが5又はそれより低い場合の酸性溶液中では、遊離アミノ基がプロトン化されるため、そのポリマーを溶解できる。このポリマーは、免疫原性、病理学的又は感染性応答が低いため、医療分野において既に広く使用されている(非特許文献4及び5)。キトサンは、酸性溶液中での高いカチオン電荷密度等の物理化学特性、高い加工性、及び例えば細胞を埋め込むことのできる多孔質構造を生じさせる能力により生体材料として使用されるための理想的な特徴を全て有している。実際、キトサンの多くの使用が、生物医学的分野及び食物分野の双方において知られている。また、それらの特性によって、キトサン及びその誘導体の両方をナノ粒子を安定化するために使用した。
【0011】
特許WO2007/025917A1(Schmid H.et al.)では、キトサン並びにカルボキシメチルキトサン、キトサンアセテート及びキトサンラクテート等のキトサン誘導体及び塩の存在下における銀ナノ粒子の調製について言及されている。
【0012】
特許US 2008/0147019(Song Xuedong)では、予め形成された市販の金属ナノ粒子を、キトサン塩及び糖の性質の分岐誘導体ではないキトサン誘導体に加えており;該ナノ粒子は、銀イオン(Ag)がただ一つの抗菌薬として向けられているため、抗菌活性を提供するために更なる酸化を必要とする。
【0013】
特許WO2008/076339(Schauer C et al)では、市販の金属ナノ粒子が水不溶性の架橋キトサン系材料中に含まれている。網状のキトサンは、着色剤及び水中での汚染物質を検出するためのセンサーとして使用されるナノ粒子を担持する多層膜を調製するのに使用されている。
【0014】
幾つかの最近の研究では、キトサンの生物学的効果を増強する方法を改良することに焦点がおかれている。特に、最も多くの努力は、ポリマーのカチオン性の特徴を増大させたり、生化学的又は化学的な修飾を用いてそれらの化学的特徴及び生物学的利用能を変更したりすることに向けられている。
【0015】
特に、例えば還元的アミノ化反応によりラクトース単位を挿入することによる、糖の基でのキトサン修飾は、US 4,424,346(Hall,L.D.及びYalpani,M.)において述べられているように、キトサン誘導体の高い水溶性をもたらし、実際に、それは、キトサンが生体適合性の非常に高い生体材料としての使用に最も有用な特性を得る誘導体化形態にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】US 2007/00036031
【特許文献2】WO2007/147094A2
【特許文献3】WO2007/017901A2
【特許文献4】WO2007/096606A1
【特許文献5】WO2007/001453
【特許文献6】WO2007/025917A1
【特許文献7】US 2008/0147019
【特許文献8】WO2008/076339
【特許文献9】US 4,424,346
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Henglein, A., J. Phys. Chem. 1993, 97 (21), 5457-5471
【非特許文献2】Kuo, P. L.; Chen, W. F. J. Phys. Chem. B 2003, 107 (41), 11267-11272
【非特許文献3】Dai et al. Nano Lett. 2002, 2 (5), 497-501
【非特許文献4】Suh Francis J.K., Matthew H.W.T. Biomaterials, 2000, 21, 2589-2598
【非特許文献5】Miyazaki S. et al. Chem. Pharm. Bull., 1981, 29, 3067-3069
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第一の目的は、ナノ複合材料を得ることにあり、ここで、金属ナノ粒子は安定化され且つ大きさが制御されており、その特性は、生物医学的及び光学(バイオセンサー)分野での適用に特に適している。
【0019】
更なる目的は、かかるナノ複合材料が、ナノ錯体及び経済的に有利な化学的アプローチを用いて、特には金属ナノ粒子が適切な多糖溶液により安定化されているコロイド溶液によって得られることにある。
【0020】
更なる目的は、それらの系の錯体調製操作の必要性を回避する他、市販の多糖を迅速に用いることと、該多糖が化学的操作を受けるのを回避することにより、それらの系を改良することにある。
【0021】
更なる目的は、生物医学的用途に必要とされる中性のpH及び実質的なイオン強度の状態における水系において完全に溶解できる系を得ることにある。
【0022】
上述の目的を達成するため、発明者らは、大きさが制御され且つ安定な金属ナノ粒子を得ることを可能にする、枝分かれしたカチオン性多糖に基づく適切な可溶性多糖系を見出した。その手順は、外因性還元剤の存在又は不在下においてポリマー水溶液と金属塩の水溶液とを混合することに基づいている。混合手順は、水系にて中性pHで都合よく行うことができ、室温にて容易に行うことができるため、加熱を要しない。
【0023】
従って、第一の態様において、本発明の目的は、枝分かれしたカチオン性多糖からなるポリマーマトリックス及びかかるポリマーマトリックス中に分散した金属ナノ粒子を備えることを特徴とするナノ複合材料によって与えられる。
【0024】
好ましいカチオン性多糖は、キトサンの枝分かれした誘導体であり、ここで、D−グルコサミン単位は、炭素原子C2上の官能基−NH−によって線状キトサン鎖結合を形成しており、アルジトール又はアルドン酸のポリオール残基は、互いに同一でも異なっていてもよく、一般式(I)によって表される:
【化1】

式中:
Rは、−CH−又は−CO−であり;
は、水素、単糖又はオリゴ糖であり;
は、−OH又は−NHCOCHである。
【0025】
一方、ナノ粒子の金属は、優先的に銀、金、白金、パラジウム、銅、亜鉛又はニッケル及びそれらの混合物である。
【0026】
本発明に従うナノ複合材料は、適切な条件下、外因性還元剤の存在又は不在下における上記多糖及び金属塩の水溶液によって調製できる。
【0027】
従って、他の態様によれば、本発明の目的は、上記ナノ複合材料の製造方法であって、
a)枝分かれしたカチオン性多糖の水溶液を2%w/v以下の濃度で調製する工程と;
b)金属塩の水溶液を0.1mM〜20mMの濃度で調製する工程と;
c)上記多糖の溶液に上記金属塩の溶液を加え、金属ナノ粒子が均一に分散しているコロイド溶液が得られるまで混合する工程と;
を含む製造方法である。
【0028】
得られたコロイド溶液に、還元剤を任意に加える。
【0029】
更なる態様によれば、上記ナノ複合材料の、生物医学的分野、医薬品分野及び食物分野における例えば抗菌薬としての使用、又は分子バイオセンサーでの使用は、本発明の他の目的である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ラクトースによるキトサン誘導体における銀ナノ粒子の安定化を示す(以下、キトラック(Chitlac)とも称する;CAS登録番号85941−43−1):キトラックのポリマー鎖は、金属ナノ粒子の配位及び安定化を可能にする。TEM画像は、Philips EM 208透過電子顕微鏡により得られ、銀ナノ粒子(黒色粒子)がポリマー鎖(灰色分岐構造)上に正確に位置していることを実証する。キトラック(0.2%w/v)及び1mMのAgNOを用いることにより、サンプルを調製した(例7)。
【図2】(A)キトサン(破線、例22)及びキトラック(実線、例7)の存在下において同一の条件下(0.2%w/vのポリマー;1mMのAgNO;0.5mMのアスコルビン酸(C))で形成された銀ナノ粒子の紫外可視スペクトル;並びに(B)紫外可視スペクトルに対するキトラック及びAgNOの濃度効果:0.4%w/vのキトラック/1mMのAgNO(実線、例9);0.2%w/vのキトラック/1mMのAgNO(破線、例7);0.1%w/vのキトラック/1mMのAgNO(間隔をあけた点線・ ・ ・、例5);0.1%w/vのキトラック/0.5mMのAgNO(接近した点線・・・、例4);0.2%w/vのキトラック/0.5mMのAgNO(ストローク−ドット線−・−・−、例6);0.4%w/vのキトラック/0.5mMのAgNO(ストローク−ドット−ドット線−・・−・・、例8)を示す。反応化学量論によれば、各サンプルにおいて、AgNO/Cの比は2である。CaryE4 紫外可視分光光度計を25℃の温度で用いて測定を行った。
【図3】外因性還元剤の不在下においてキトラックに形成された金ナノ粒子の紫外可視スペクトルを示す(0.2%w/vのポリマー;1mMのHAuCl、例18)。図2において既に記載されたようにして測定を行った。
【図4】アスコルビン酸の存在及び不在下における異なる銀濃度での0.2%w/vのキトラック/Ag(銀ナノ粒子)サンプルの紫外可視スペクトルを示す。例:7(1mMのAgNO/0.5mMのC、実線)、10(5mMのAgNO、−・−・−線)、11(10mMのAgNO、−・・−・・−線)、25(0.2%w/vのキトラック、1mMのAgNO、−−−線)に記載の手順に従いサンプルを調製した。図2において既に記載されたようにして測定を行った。
【図5】外因性還元剤がない場合でのキトラックに形成された銀ナノ粒子のTEM画像である(0.4%w/vのキトラック、14mMのAgNO、例15)。
【図6】外因性還元剤がない場合でのキトラック中に分散した金ナノ粒子のTEM画像を示す(0.2%w/vのキトラック、1mMのHAuCl、例18)。図1において既に記載されたようにして測定を行った。
【図7】キトラック中に分散した金ナノ粒子のサイズ分布を示す(0.2%w/vのキトラック、1mMのHAuCl、例18)。Nanosight LM20システムを用いて測定を行った。粒径は10〜150nmの範囲にあり、最も多い粒子は寸法が約50nmである。
【図8】キトラック中に分散した銅ナノ粒子のTEM画像を示す(0.2%w/vのキトラック、1mMのCuSO、0.2mMのNaBH、例19)。図1において既に記載されたようにして測定を行った。
【図9】キトラック中に分散した銀ナノ粒子のTEM画像(A、B)及びサイズ分布(C)を示す(0.2%w/vのキトラック、1mMのAgNO、0.5mMのC、例7)。図1において既に記載されたようにして測定を行った。
【図10】(A)20%ミューラー・ヒントン培地(20%ミューラー・ヒントン;対照、三角)における、又は0.2%w/vのキトラック(円、例1)の存在下における、又は0.2%w/vのキトラック+1mMのAgNO+0.5mMのC(四角、例7)におけるE.coliATCC25922の細菌増殖速度論をそれぞれ示す。報告データは、三回の独立した実験について言及し、比較できる結果を生じた;(B)0.2%w/vのキトラック+1mMのAgNO+0.5mMのC(実線、例7)におけるE.coliATCC25922のコロニー数である。破線は、キトラック−nAgがない場合での対照を示す。その結果は、少なくとも4回の独立した実験の平均(±SD)である。
【図11】ミューラー・ヒントン培地(20%ミューラー・ヒントン;対照、円)又は0.2%w/vのキトラック+1mMのHAuCl(キトラック−nAu、四角、例18)におけるE.coliATCC25922の細菌増殖速度論を示す。
【図12】20%ミューラー・ヒントン(対照、円)における又はキトラック中に分散した金ナノ粒子(0.2%w/vのキトラック、1mMのHAuCl、例18)(四角)の存在下におけるE.coliATCC25922のコロニー数を示す。CFUsは、細菌のコロニー形成単位(olonies−orming nits)である。
【図13】銀ナノ粒子によるキトラックSERSスペクトル(0.4%w/vのキトラック、14mMのAgNO、例15)(実線)と比較した、5%w/v濃度でのキトラックラマンスペクトル(例1)(破線)を示す。
【図14】ヒト骨肉腫(MG63)細胞株からのLDH漏出に対するコーテッドメタクリル酸サンプルの効果を示す。材料自体(MAcr nAg C)及び所定の時間(24時間及び72時間)材料と接触して保たれた液体培地(「抽出物」)(MAcr nAg E)双方による細胞の直接的な接触により、細胞毒性試験を行った。完全DMEM培地の接着(Ad)において培養した対照細胞、並びにポリスチレンディスク(PS、負の対照)及びZnDBCによるポリウレタンディスク(PU、ISO10993−5に従う正の対照)で処理した細胞は、ナノ粒子の無い(MAcr C、MAcr E)メタクリル酸材料の対応するグループと並行して実行された。培地中0.1%のTritonX−100を抽出物の正の対照として用いた。LDHの放出割合は、培地中の活量を、対照を引いた後の合計活量(培地及び細胞溶解物)で割ることにより求められた。そのデータは、4回の独立した実験の平均(SD幅付き)として表される。
【発明を実施するための形態】
【0031】
定義
コロイド溶液(又はコロイド):それは、サイズが1〜1,000nmに及ぶ粒子が連続溶媒中に分散している系を意味する。
【0032】
ナノ複合材料:それは、巨視的材料(マトリックス)内におけるナノメートルサイズの粒子(充填材)からなる系を意味する。本発明の記載において、「ナノ複合材料」の語は、金属ナノ粒子が多糖マトリックス中に分散している材料を意味することを目的としている。特に、それは、金属ナノ粒子が対応する塩の還元により多糖マトリックス中に十分に形成され、それ故に、イオン性を持つわずかな原子(例えばAg)のクラスターの存在を除外しないものの、大部分はゼロ電荷である材料を意味する。よって、以下、本発明の従うナノ複合材料を「金属系ナノ複合材料」の他、単に「ナノ複合材料」として示すこともできる。
【0033】
本発明の対象である枝分かれした塩基性多糖マトリックス中で相互分散している金属ナノ粒子を含むナノ複合材料の目的及び利点は、非限定的な例として本発明に従うナノ複合材料を調製する一部の例とその物理化学的特性評価とをその抗菌活性を評価する生物試験と共に記載する以下の詳細な説明を通じてより一層理解されることになる。
【0034】
説明
1級及び2級窒素原子の存在による枝分かれしたカチオン性多糖からなるポリマーマトリックスにおいて、本発明の目的であるナノ複合材料は、かかるポリマーマトリックス中に均一に且つ安定して分散している金属ナノ粒子を含む。
【0035】
本発明の目的のため、好ましいカチオン性多糖は、キトサンのアルジトール又はアルドン酸分岐誘導体であり、ここで、D−グルコサミン単位は、炭素原子C2上の官能基−NH−を用いてキトサンの線状鎖結合を形成しており、単糖又はオリゴ糖のアルジトール又はアルドン酸ポリオール残基は、互いに同一であるか又は異なっており、先に報告した一般式(I)によって表され、ここで、Rは、−CH−又は−CO−とすることができ、Rは、水素、好ましくはガラクトース、グルコース、マンノース、N−アセチルグルコサミン及びN−アセチルガラクトサミンから選択される単糖、又は好ましくは2個のグリコシド単位を含むオリゴ糖とすることができ、Rは、−OH又は−NHCOCHとすることができる。以下、それら誘導体はまた、簡潔にキトサンのアルジトール又はアルドン酸の単糖又はオリゴ糖誘導体と称されたり、簡潔にキトサンの単糖又はオリゴ糖誘導体と称されたりする。
【0036】
表現の目的として、本発明の対象であるキトサン誘導体における単糖又はオリゴ糖残基で置換されたD−グルコサミン単位を一般式(II)によって表すことができ、ここで、「n」は線状キトサン鎖を構成するD−グルコサミン単位の総数を指す:
【化2】

【0037】
先に引用した特許WO2007/025917A1(Schmid H.et al.)では、カルボキシメチルキトサン、キトサンアセテート及びキトサンラクテート等のキトサン誘導体及び塩の存在下における銀ナノ粒子の調製について言及している。上記引用特許と異なり、本ケースにおいては、還元的アミノ化反応を経て第2級アミノ基を用いてポリマー骨格に結合した側枝の挿入をもたらす単糖又はオリゴ糖構造による誘導体化が行われている。これは、i)アミノ基を依然として金属配位に利用できるようにし、ii)全体的な多糖の電荷を実質的に変えないようにする。
【0038】
実際、ポリマーマトリックスは、アミノ基を用いて一般式(I)の単糖又はオリゴ糖のアルジトール又はアルドン酸誘導体を結合するキトサンの分岐誘導体からなる。一般式(I)の単糖又はオリゴ糖は、好ましくは1〜3個のグリコシド単位を含み、より好ましい態様によれば、2〜3個のグリコシド単位を含むオリゴ糖の残基であり、更に好ましくは、R、R及びRの異なる意味に関連して、ラクトース、セロビオース、セロトリオース、マルトース、マルトトリオース、キトビオース、キトトリオース、マンノビオース及びそれらの対応するアルドン酸からなる群から選択される。本発明の目的のため、最も好適なキトサンのオリゴ糖誘導体は、ラクトースによる誘導体である(以下、キトラックとも称する;CAS登録番号85941−43−1)。
【0039】
その上、本発明の目的のため、上記単糖又は多糖によるキトサンアミノ基の化学置換度は、少なくとも20%である。好ましくは、上記単糖又は多糖によるキトサンアミノ基の置換度は、50%〜80%の範囲であり、より好ましくは70%である。
【0040】
上述のオリゴ糖誘導体を得るために使用できるキトサンの平均分子量(以下、MWと称する)は、1,500kDa以下とすることができ、好ましくは400kDa〜700kDaの範囲である。
【0041】
上記枝分かれしたカチオン性多糖誘導体からなるポリマーマトリックス中に組み込まれた金属ナノ粒子は、銀、金、白金、パラジウム、銅、亜鉛、ニッケル及びそれらの混合物から優先的に選択される金属である。キトサンのオリゴ糖誘導体からなるポリマーマトリックス中に含まれるナノ粒子は、サイズが5nm〜150nmの範囲であり、特には制御された平均金属ナノ粒子サイズが30〜50nmである。上記ナノ粒子の本質的特徴は、以下の発明の詳細な説明から明らかになるように、イオン性を持つわずかな原子で作られたクラスターの残留する存在を除外しないものの、該ナノ粒子が主として還元形態の金属であるということと、多糖マトリックス中での分散/安定化においてキトサン自体のアミノ基に近接したオリゴ糖側鎖が含まれるということである。
【0042】
後者に縛られるものではないが、マトリックス多糖と金属間での好ましい比は、コロイド溶液の形態でのナノ複合材料にゆだねられるが、金属系ナノ複合材料はまた乾燥フィルム又は粉末の形態とすることもでき、更には該材料それ自体の調製からの残留する対イオンを除去するために透析されてもよい。コロイド水溶液の形態での本発明に従うナノ複合材料においては、出発金属塩の濃度(モル濃度として表される)に対する多糖濃度(%w/vとして表される)の比が、0.0025〜20であり、好ましくは0.2である。
【0043】
従って、多糖のグラム当たりに組み込まれることのできる銀の質量(mgとして表される)は、3,000mg/g〜0.3mg/gとすることができ、優先的には多糖のグラム当たりに組み込まれる銀が50mgである。
【0044】
達成しようとする目的のため、本発明者は、一つの多糖に基づく系の調製及び特徴付けに関連した側面に取り組んだが、ここでは、本発明の対象であるナノ複合材料中に含有される金属ナノ粒子のナノメートル金属サイズに関連する特性(金属自体の抗菌特性、光学特性、触媒特性及び他の特異な特性)が利用された。以下、それらの側面について詳細に報告する。
【0045】
キトサンのオリゴ糖誘導体の調製
キトサンのオリゴ糖誘導体の調製方法は、US 4,424,346(Hall,L.D.及びYalpani,M.)に記載された公知のものであり、シアノ水素化ホウ素ナトリウムの存在下、選択した単糖又はオリゴ糖を含むメタノール中においてキトサンの溶液を酢酸(pH4.5)で処理することを含む。キトサンのアミノ基と単糖又はオリゴ糖のアルデヒド基間の相互作用は、シッフ塩基と称される不安定な中間体の形成を引き起こす。ホウ素化水素の存在下においては、シッフ塩基を還元するため、安定な第2級アミンの形成をもたらす。得られた分岐多糖は、キトサンのオリゴ糖誘導体であり、例えばオリゴ糖がラクトースである場合、先に述べたキトラックである。単糖又はオリゴ糖のアルドン酸による誘導体の場合には、カルボ−ジ−イミドとしての、適切な活性剤の存在下、反応が行われ、アミドの形成に導く。
【0046】
ナノ粒子の調製
ポリマーマトリックス中に組み込まれるべきナノ粒子は、還元剤の存在又は不在下において調製できる。
【0047】
第一のケースでは、ナノ粒子は、以下の手順に従い、先に述べたキトサンの単糖又はオリゴ糖のアルジトール又はアルドン酸分岐誘導体からなる枝分かれした多糖の水溶液中において適切な還元剤により金属イオンを還元するときに得られる:上記キトサン誘導体の水溶液を、2%(w/v)以下、好ましくは0.05%(w/v)〜1%(w/v)の異なる濃度で調製し、より好ましくは0.2%(w/v)である。次いで、最終濃度を0.1mM〜20mMの範囲、より好ましくは1mM〜14mMの範囲、更に好ましくは1mMで得るために、多糖溶液を、銀、金、白金、パラジウム、銅、亜鉛及びニッケルから選択され、好ましくは塩化物、過塩素酸塩及び硝酸塩から選択される金属塩(例えばAgNO、HAuCl、CuSO、ZnCl、NiCl)の溶液と混合する。好ましくはアスコルビン酸、クエン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム及びシアノ水素化ホウ素ナトリウムから選択される適切な既知の還元剤をその溶液へ任意に加え、金属状態のナノ粒子を得ることができる。還元剤は、0.05mM〜10mMの濃度で加えられ、好ましくは該濃度が0.5mMである。
【0048】
しかしながら、他のポリマー系では起こりそうにないが、一般式(I)に従う単糖又はオリゴ糖側鎖が本質的に金属イオンの還元剤として作用するため、本発明に従うナノ複合材料を還元剤がない場合に調製することもでき、ポリマーマトリックス中に分散しているナノ粒子の形成を可能にする。この場合、金属ナノ粒子は、適当な濃度にてキトサン誘導体の溶液を選択した金属の塩溶液と単純に混合することによって得ることができる。この場合もまた、多糖及び金属塩の濃度は先に報告したとおりである。
【0049】
以下に報告される本発明の対象である金属系ナノ複合材料の特性評価によって得られた結果から容易に明らかになるように、全ての条件が等しいと、驚くべきことに、キトサンの単糖又はオリゴ糖誘導体、特にキトラックは、紫外可視吸収スペクトルの強度及び形状並びに透過電子顕微鏡法(TEM)調査の助けを借りた分光光度法による研究によって分かるように、例えばキトサン等の他の多糖と比較して、金属ナノ粒子を形成するのにより適応していることを証明する。それらの研究は、キトサンの単糖又はオリゴ糖誘導体、特にはキトラックの存在下において、金属ナノ粒子は、未置換キトサンで調製したものと比較して、凝集を防止するポリマー鎖との相互作用により、そのサイズがより均一で、より良く分散していることの実証を可能にする。更に、TEMマイクロ写真は、ナノ粒子の寸法分布の分析を行うことを可能にし、該ナノ粒子の寸法分布は、非常に均一であり、平均サイズは50nmより小さい。
【0050】
驚くべきことに、外因性還元剤がない場合でさえ金属ナノ粒子を得ることが可能であることも分かった。ポリマーマトリックス中に均一に分散している金属ナノ粒子が、多糖の側置換基に特有の還元能力を用いることにより、それ故にあらゆる外因性還元剤がない場合においても得られる系を見出した。この第二の調製方法はまた、紫外可視分光法及びTEM顕微鏡法の使用により特徴付けられる。プラズモンピーク及びTEM画像は、形状が丸みを帯び、平均サイズが10nmより小さい金属ナノ粒子の形成が成功したことを確認する。
【0051】
この方法論的アプローチは、系の単一成分が還元、分散及びナノ粒子安定化の能力を同時に示すため、特に都合がよい。
【0052】
加えて、本発明に従う金属系ナノ複合材料の更なる生物学的特性評価は、本発明のナノ複合材料が依然として組み込まれた金属の抗菌活性を示し、この効果が生物医学的分野及び医薬品分野における適用目的に非常に役に立つことを示している。実際、抗菌性材料分野における銀、金、銅、亜鉛及びニッケルのような金属の使用は、特にヒト及び動物双方の局所的組織創傷の治療に関し価値がある。本発明の対象であるナノ複合材料は、それ自体を単独で用いてもよいし、他の希釈剤及び/又は薬剤的に容認できる賦形剤と組み合わせて用いてもよい。特に、それらの材料は、適当な賦形剤及び/又は希釈剤と組み合わせて、様々な解剖学的部位の傷の無い又は傷を負った皮膚、粘膜及び上皮組織の感染を治療するために使用できる抗菌活性を持つ組成物を調製するため、デキストラン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース及びガラクトマンナンからなる群より選択される他のゲル化しない中性又はアニオン性多糖と共に、特定の粘弾性特徴を得る希釈した又は濃縮した水溶液中で混合することができる。また、それらの材料は、上述した他のゲル化しない中性又はアニオン性多糖と組み合わせても、上述した同一の治療分野において使用されるべき広域スペクトルの抗菌活性を備えた、ガーゼ、絆創膏、パッチ等の薬用デバイスの発展に適用できる。
【0053】
その上、本発明に従うナノ複合材料は、医薬品分野及び食物分野で使用される容器のポリマー材料でできた活性化表面上での多糖グラフト(又はポリマーグラフト)−抗菌活性を持つ金属ナノ粒子をキレートする−として使用できる。期待された利点は、充填前の空の容器における最終的な殺菌度合いの均一性をかなり欠落させることがある現在の滅菌手順(例えば乾熱)に代えることにある。その上、ポリマー材料をコーティングすることは、生物医学的分野で適用するための抗菌活性を備えたシステムを得ることに通じることができる。
【0054】
更に、本発明に従う金属系ナノ複合材料は、特に食物分野における「抗菌性」包装用のフィルムを得るため、他の多糖(例えばプルラン)とのポリマーブレンドに使用できる。
【0055】
金属ナノ粒子の存在に起因する多糖のラマン分光シグナルの強い増加も見出され、それ故に、SERS(表面増感ラマン分光法)効果を利用するための最適な寸法及び分布を有している。幾つかの分子バイオセンサーの操作は、該効果に基づいている。実際、多糖溶液のラマンスペクトルは、実験的に検出可能なピークを示さないが、金属ナノ粒子の存在下での多糖溶液は(より希釈してさえ)非常に強く明確なラマンスペクトルを提供し、それ故に、ナノ粒子(SERS効果)に起因するシグナルの増加であると分かる。それらの用途において、本発明に従う金属系ナノ複合材料は、分子官能性を備えたプローブ/マーカーとして使用でき、そのため、ナノ粒子がキトサンのアルジトール又はアルドン酸誘導体である枝分かれしたカチオン性多糖によって形成されるポリマーマトリックスに捕捉されており、TEM顕微鏡法、共焦点及びラマン技術を用いて検出可能であるため、光学的「生体イメージング」の用途に適していると考えられる。従って、本発明に従う金属系ナノ複合材料は、キトサンのオリゴ糖誘導体に関する異なる細胞型によって認識される特異的な生化学的シグナルの存在を利用することで、生体分子及び細胞分析用の新規のセンサーを開発するのに利用できる(Donati,I.et al.,Biomaterials 26,2005,987−998)。
【0056】
本発明に従う金属ナノ粒子を形成させるために枝分かれした多糖を使用することは、以下に示す利点を導入する:
・ポリマー鎖上のアミノ基の存在は、イオン、延いては金属ナノ粒子の効率的な配位を可能にする;
・単糖又はオリゴ糖側鎖は、それらが金属ナノ粒子が凝集するのを防ぎ、その均一で安定した分散を長い期間確保するような立体障害を確立する;
・全ての条件が等しいと、アルドン酸又はアルジトールの単糖又はオリゴ糖によるキトサンの分岐誘導体−例えばキトラック等−は、寸法均一性及び粒子分散の観点から、キトサンよりもずっとナノ粒子の形成に関して効果的であった(二つの場合における紫外可視吸収スペクトルのプラズモン共鳴バンドの強度及び形状によって証明される);
・追加の還元剤がない場合、一般式(I)に従う単糖又は多糖側鎖のアルドン酸又はアルジトール誘導体は、金属イオンの還元剤として作用し、ポリマーマトリックス中に分散しているナノ粒子の形成を可能にする;
・キトサンの枝分かれしたオリゴ糖誘導体−金属ナノ粒子錯体の「自己還元」能力は、その系を形成する化学成分の数を減らすことを可能にする;
・調製の簡潔さ及び結果の再現性;
・広域スペクトル抗菌活性とラマン分光法(SERS)用途における特異な光学特性双方へのナノ粒子の広範な適用;
・特に食物分野における「抗菌性」包装用フィルムを得るための、他の多糖(例えばプルラン)とのポリマーブレンドでの使用可能性。
【0057】
以下、例証目的のため、本発明に従うナノ複合材料を調製する非限定的な例の一部を記載し、その抗菌活性を評価するために物理化学的特徴付け及び生物実験を行った。
【実施例】
【0058】
例1:ラクトースによるキトサン誘導体(キトラック)(1a)及びセロビオースによるキトサン誘導体(キトセル(Chitcell))(1b)の合成
1a)メタノール溶液(55mL)及びpH4.5の1%w/v酢酸緩衝液(55ml)の110mL中に、キトサン(1.5g、アセチル化度11%)を溶解する。ラクトース(2.2g)及びシアノ水素化ホウ素ナトリウム(900mg)を含有する、メタノール溶液(30mL)及びpH4.5の1%w/v酢酸緩衝液(30mL)の60mLを加える。その混合物を24時間攪拌して置いておき、透析管(カットオフ12,000Da)に移し、4℃での伝導率が4μSに到達するまで0.1MのNaCl(2回の交換)及び脱イオン水で透析する。最後に、その溶液をMillipore0.45μmフィルター上にろ過し、凍結乾燥する。
【0059】
1b)メタノール溶液(55mL)及びpH4.5の1%w/v酢酸緩衝液(55mL)の110mL中に、キトサン(1.5g、アセチル化度11%)を溶解する。セロビオース(2.2g)及びシアノ水素化ホウ素ナトリウム(900mg)を含有する、メタノール溶液(30mL)及びpH4.5の1%w/v酢酸緩衝液(30mL)の60mLを加える。その混合物を24時間攪拌して置いておき、透析管(カットオフ12,000Da)に移し、4℃での伝導率が4μSに到達するまで0.1MのNaCl(2回の交換)及び脱イオン水で透析する。最後に、その溶液をMillipore0.45μmフィルター上にろ過し、凍結乾燥する。
【0060】
例2:還元剤存在下でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子が得られる:濃度0.05%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、0.5mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。次いで、0.25mMの最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0061】
例3:還元剤存在下でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.05%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。次いで、0.5mMの最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0062】
例4:還元剤存在下でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:0.5mMのAgNO最終濃度を得るための濃度0.1%(w/v)のキトラック水溶液。次いで、0.25mMの最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0063】
例5:還元剤存在下でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.1%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。次いで、0.5mMの最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0064】
例6:還元剤存在下でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.2%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、0.5mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。次いで、0.25mMの最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0065】
例7:還元剤存在下でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.2%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。次いで、0.5mMの最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0066】
例8:還元剤存在下でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.4%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、0.5mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。次いで、0.25mMの最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0067】
例9:還元剤存在下でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.4%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。次いで、0.5mMの最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0068】
例10:還元剤がない場合でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従う多糖キトラックによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.2%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、5mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。
【0069】
例11:還元剤がない場合でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従う多糖キトラックによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.2%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、10mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。
【0070】
例12:還元剤がない場合でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従う多糖キトラックによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.2%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、14mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。
【0071】
例13:還元剤がない場合でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従う多糖キトラックによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.4%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、5mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。
【0072】
例14:還元剤がない場合でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従う多糖キトラックによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.4%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、10mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。
【0073】
例15:還元剤がない場合でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従う多糖キトラックによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.4%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、14mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。
【0074】
例16:還元剤存在下でのキトラック中の金ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中での水素化ホウ素ナトリウムによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.2%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのHAuCl最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を四塩化金酸溶液と混合する。次いで、0.3mMの最終濃度を得るために、水素化ホウ素ナトリウム溶液を加える。
【0075】
例17:還元剤存在下でのキトラック中の金ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中での水素化ホウ素ナトリウムによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.4%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのHAuCl最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を四塩化金酸溶液と混合する。次いで、0.3mMの最終濃度を得るために、水素化ホウ素ナトリウム溶液を加える。
【0076】
例18:還元剤がない場合でのキトラック中の金ナノ粒子の調製
以下の手順に従う多糖キトラックによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.2%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのHAuCl最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を四塩化金酸溶液と混合する。
【0077】
例19:還元剤存在下でのキトラック中の銅ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中での水素化ホウ素ナトリウムによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.2%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのCuSO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硫酸銅溶液と混合する。次いで、0.2mMの最終濃度を得るために、水素化ホウ素ナトリウム溶液を加える。
【0078】
例20:還元剤がない場合でのキトセル(キトサンのセロビオース誘導体)中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従う多糖キトセルによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.4%(w/v)のキトセル水溶液を調製する。次いで、14mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトセル溶液を硝酸銀溶液と混合する。
【0079】
例21:還元剤がない場合でのキトグルック(Chitgluc)(キトサンのグルコース誘導体)中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従う多糖キトグルックによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.4%(w/v)のキトグルック水溶液を調製する。次いで、14mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトグルック溶液を硝酸銀溶液と混合する。
【0080】
例22:還元剤存在下でのキトサン中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトサン溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.2%(w/v)のキトサン水溶液を調製する。次いで、1mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトサン溶液を硝酸銀溶液と混合する。次いで、0.5mMの最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0081】
例23:還元剤存在下でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度1%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。次いで、0.5mMの最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0082】
例24:還元剤存在下でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子が得られる:濃度2%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。次いで、0.5mMの最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0083】
例25:還元剤がない場合でのキトラック中の銀ナノ粒子の調製
以下の手順に従う多糖キトラックによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.2%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。
【0084】
例26:還元剤がない場合でのキトラック中の金ナノ粒子の調製
以下の手順に従う多糖キトラックによる金属イオンの還元時にナノ粒子を含むナノ複合材料が得られる:濃度0.4%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのHAuCl最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を四塩化金酸溶液と混合する。
【0085】
以下、ラクトースによるキトサン誘導体(キトラック)を用いて得た本発明に従う金属系ナノ複合材料の、異なる金属、特にはAg及びAuのナノ粒子の場合における物理化学的及び生物学的特性評価を報告する。本発明の対象である全てのオリゴ糖誘導体の場合において同様な結果が得られた。
【0086】
ナノ粒子安定化
本発明の対象に従うナノ粒子の形成及びポリマーマトリックス中でのその安定化を調べるため、例7のナノ複合材料は透過電子顕微鏡法を受けた。図1で強調されるように、幾つかの官能基(アミノ基、ヒドロキシル基)の存在は、金属イオンとの配位相互作用を促進し、一方、例えばラクトース等の単糖又はオリゴ糖の側鎖の存在は、ナノ粒子の凝集しようとする自然な傾向を妨げるために効果的な立体障害を提供する。実際、キトラック溶液にAgNO溶液を加えると、Agイオンとアミノ基間での配位相互作用が確立され;還元時に、該アミノ基に近接したラクトースの側鎖は金属ナノ粒子の安定化に関与する。
【0087】
紫外可視特性評価
紫外可視吸収スペクトルにおいて、検討中の金属によって変わる波長にて吸収帯が出現することにより、ナノ粒子の形成が証明され;該帯は、表面プラズモン共鳴バンドという名で知られており、ナノ粒子表面上の自由電子の集団振動に起因する。銀の場合、例えば、約400nmに中心を置く強力なバンドが観察され(図2A);その対称的で非常に狭いプラズモンバンドは、よく分散し、大部分が球状のナノ粒子が存することを示唆する。キトラック及びキトサン中に形成されたナノ粒子の吸収スペクトルの比較は、全ての条件が等しいと、二つの多糖の異なる挙動を強調する。実際、キトラックの場合、プラズモンバンドは、かなり強力で、対称的で、狭く、より小さい波長に向かってシフトしており、これは、より小さくより良く分散した粒子の存在を示唆する(図2A)。キトサンと比較してキトラックの良好な特性を、ポリマー鎖上に置かれているラクトースの側鎖の物理化学的特性に帰することができる。その系は、分光光度特性評価モードにより証明されるように、使用した濃度によって調節できる(図2B)。プラズモン共鳴バンドは、特に重要であり、診断に用いる。
【0088】
更に、スペクトルは、系のUV吸収スペクトルにおける約260nmでの肩部により示されるように(図2A及びB)、ポリマーマトリックス中に含まれる金属粒子の大部分はゼロ電荷であるものの;イオン性を持つわずかな原子のクラスターが存在できる(例えばAg)ことを確認する。
【0089】
濃度及び反応時間による紫外可視スペクトル変化の研究は、収率、再現性及び長い期間の安定性の観点から最適な調製方法の改良を可能にする。
【0090】
同様に、金の場合では、530nm辺りに強力なプラズモンバンドが検出され、キトラック中に分散した金ナノ粒子が首尾よく形成されていることを証明する(図3)。
【0091】
キトラックの還元特性
驚くべきことに、適切な条件下では、加えた還元剤がない場合でも、金属ナノ粒子を形成できることを見出しており;例えば、銀の場合では、キトラックは、例えばアスコルビン酸の助けなしでAgイオンを還元することができる。紫外可視スペクトル(図4)及びTEM画像(図5)は、安定でよく分散した金属ナノ粒子が首尾よく形成されていることを確認する。更に注目すべきことには、適切な条件下、還元剤の無いキトラック及び銀ナノ粒子に基づいた系は、化学薬品を更に追加せずにヒドロゲルを形成することが可能である。また、該ゲルは、ゆるんでおり、最終的には長い期間(約1週間)融解する。
【0092】
金の場合でも、加えた還元剤の無いキトラックは、金のプラズモンピークが観察される図3の紫外可視スペクトル及び約50nmの平均サイズのナノ粒子が観察される図6のTEM画像によって証明されるように、Au3+イオンの金属状態への還元を可能にする。
【0093】
TEM特性評価及び寸法分析:
還元剤の存在及び不在下において形成されるナノ粒子の形状、分布及び寸法を、透過電子顕微鏡法(TEM)、ナノ粒子追跡分析(Nanosight(登録商標))及び画像解析技術を用いて評価した。金ナノ粒子に関する画像(図6及び7)は、平均サイズ約50nmのナノ粒子の存在を示す。銅の場合でも、金属ナノ粒子の成功した形成がはっきりと観察される(図8)。図9では、形状が丸みを帯び且つ平均寸法が約30nmの銀ナノ粒子のTEM画像が示される。
【0094】
また、還元剤を使用しない調製方法は、紫外可視分光法及びTEM顕微鏡法を用いて特徴付けられる。図4のプラズモンピーク及び図5のTEM画像は、形状が丸みを帯び且つ平均サイズが10nmより小さい金属ナノ粒子の成功した形成を確認する。
【0095】
抗菌活性を評価するため、異なるGram+及びGram−菌種を用いてナノ複合材料系を試験し;細菌コロニーに関する増殖速度論試験及び集計試験は、強力で迅速な殺菌効果を実証した。
【0096】
抗菌活性:
金属ナノ粒子の有無の場合でのキトラック溶液の存在下、異なる菌種(グラム陰性:Escherichia coli,Pseudomanas aeruginosa、及びグラム陽性:Staphylococcus aureus,Staphylococcus epidermidis)についての増殖抑制試験を行った。ナノ粒子が存在しないキトラック溶液での細菌増殖は、対照(ミューラー・ヒントンブロス)の増殖に匹敵しており;一方、例えばインキュベーション時間によって細菌コロニー数の減少が見られる銀及び金の場合(図10、11及び12)において報告されるように、金属ナノ粒子を含むキトラックの存在下では、かなりの細菌増殖抑制が生じる。この過程は非常に速く:実際、数時間後でさえ細菌性細胞の効果的な抑制が見られる。
【0097】
ラマン分光特性評価
ポリマーで安定化したナノ粒子を含有する溶液のラマンスペクトルを、inViaラマンシステム(Renishaw plc、Wotton−under−Edge、UK)を用いて集めた。レーザー(514.5nmのアルゴンイオンレーザー、LaserPhysics、West Jordan UT、U.S.A.)の焦点を20×の対物レンズ(0.4NA)によりサンプルに合わせた。サンプルのレーザー出力は3mWであったが;サンプルのレーザー誘起光崩壊を最小限に抑えるため、ビームの焦点を10%ぼかすことにより、レーザー出力密度を低くした。露光時間は、各スペクトルについて10sの5回蓄積で、総露光時間はスペクトルにつき50sであった。
【0098】
多糖のラマン分光シグナルの強い増加が見られ、それを金属ナノ粒子の存在に帰することができる。従って、後のものは、幾つかの分子バイオセンサーの操作の基にするSERS(表面増感ラマン分光法)効果を利用するための最適な寸法及びサイズ分布を有する。実際、図13から推論されるように、多糖溶液のラマンスペクトルは、検出可能なピークを示さないが、金属ナノ粒子の存在下においては、同一多糖のより希釈された溶液でさえ強力で明確なラマンスペクトルを提供しており、それ故にシグナルの増加がナノ粒子(SERS効果)に起因することを証明する。
【0099】
メタクリル樹脂をコーティングするための金属系ナノ複合材料の適用
メタクリル樹脂の円筒状サンプル(φ=1.4mm;h=2mm)を12MのHCl中に80℃で7時間浸漬させ;次いで、脱イオン水(2×50mL)、0.1MのNaOH(50mL)、再び水(50mL)を用いてそのサンプルのすすぎ洗いを行った。酸処理したメタクリル樹脂サンプルを、例9に従う金属系ナノ複合材料のコロイド溶液に24時間浸漬させた。最後に、脱イオン水でそのサンプルのすすぎ洗いを行い、覆い隠して乾燥させた。
【0100】
コーテッドメタクリル樹脂の生物学的特性評価の一部を以下に報告する。
【0101】
抗微生物効果アッセイ
コーテッドメタクリル樹脂の円筒状サンプル(φ=1.4mm;h=2mm)をS.aureus細菌に直接接触させておいた。各サンプルに関して、10μLの細菌懸濁液を10CFU/mLの濃度で蒔き(CFU=コロニー形成単位)、湿性環境下において37℃で3時間インキュベートした。次いで、表面から細菌を剥離させるため、各サンプルをPBS2mL中に攪拌しながら浸漬させた。それらの洗浄溶液を連続的に希釈し、37℃で一晩のインキュベーション後にコロニーのカウントを可能にするため、寒天ゲル上に蒔いた。コロニーのカウント数は、キトラック−nAgで被覆したメタクリル樹脂の場合、表面のバクテリア数を98%低下させることを実証する。
【0102】
LDH細胞毒性アッセイ
抗菌性試験の後、ナノ複合材料コーティングの真核細胞に対する毒性を評価する目的で、更なる調査を行った。この目的のため、上記材料自体及び所定の時間(24時間)上記材料と接触して保たれた液体培地(「抽出物」)双方との骨芽細胞のような細胞(MG63)の直接的な接触により、LDH細胞毒性アッセイを行った。試験した材料(四通り)を細胞層上に直接堆積させた。24時間及び72時間後、その培地を集め、メーカーのプロトコルに従いLDHアッセイを行った。図14に報告した結果は、72時間後、上記材料と関係のある細胞毒性の証拠がないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンの分岐誘導体から選択されるカチオン性多糖からなるポリマーマトリックスであって、D−グルコサミン単位は、炭素原子C2上の官能基−NH−を用いてキトサンの線状鎖結合を形成しており、アルジトール又はアルドン酸のポリオール残基は、互いに同一でも異なっていてもよく、一般式(I):
【化1】

[式中:
Rは、−CH−又は−CO−であり;
は、水素、単糖又はオリゴ糖であり;
は、−OH又は−NHCOCHである]によって表されるポリマーマトリックスと、該ポリマーマトリックス上に分散した金属ナノ粒子とを備えるナノ複合材料。
【請求項2】
前記ナノ粒子が、銀、金、白金、銅、亜鉛、ニッケル及びそれらの混合物からなる群から選択される金属のナノ粒子であることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合材料。
【請求項3】
前記アルジトール又はアルドン酸のポリオール残基が、1〜3個のグリコシド単位を含む単糖又はオリゴ糖の残基であることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合材料。
【請求項4】
が単糖である場合、前記単糖が、ガラクトース、グルコース、マンノース、N−アセチルグルコサミン、及びN−アセチルガラクトサミンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合材料。
【請求項5】
前記アルジトール又はアルドン酸のポリオール残基が、ラクトース、セロビオース、セロトリオース、マルトース、マルトトリオース、キトビオース、キトトリオース、マンノビオース及びそれらのアルドン酸の残基からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合材料。
【請求項6】
前記キトサンの分岐誘導体は、D−グルコサミン単位のアミン基の置換度が20%より高いことを特徴とする請求項1に記載のナノ複合材料。
【請求項7】
前記置換度が、50%〜80%であることを特徴とする請求項6に記載のナノ複合材料。
【請求項8】
前記キトサンは、平均分子量が1,500kDa以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のナノ複合材料。
【請求項9】
前記キトサンは、平均分子量が400kDa〜700kDaであることを特徴とする請求項8に記載のナノ複合材料。
【請求項10】
前記ナノ粒子は、平均サイズが5〜150nmであることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合材料。
【請求項11】
前記ナノ粒子は、平均サイズが30〜50nmであることを特徴とする請求項10に記載のナノ複合材料。
【請求項12】
多糖マトリックス(多糖のg)中に含まれる金属の質量(mg)は、3,000mg/g〜0.3mg/gであることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合材料。
【請求項13】
前記多糖マトリックス(多糖のg)中に含まれる金属の質量(mg)は、50mg/gであることを特徴とする請求項12に記載のナノ複合材料。
【請求項14】
抗菌薬として用いるための、請求項1〜13のいずれかに記載のナノ複合材料。
【請求項15】
SERS(表面増感ラマン分光法(urface nhanced aman pectroscopy))用途で用いるための、請求項1〜13のいずれかに記載のナノ複合材料。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれかに記載のナノ複合材料の製造方法であって、
a)枝分かれしたカチオン性多糖の水溶液を2%(w/v)以下の濃度で調製する工程と;
b)金属塩の水溶液を0.1mM〜14mMの濃度で調製する工程と;
c)前記多糖の溶液に前記金属塩の溶液を加え、金属イオンの還元及び金属ナノ粒子のコロイド溶液(ここで、還元した金属ナノ粒子は均一に分散している)の形成に至るまで混合する工程と;
を少なくとも含むことを特徴とする製造方法。
【請求項17】
更に、濃度が0.05mM〜10mMである還元剤の水溶液を加える工程を含むことを特徴とする請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記多糖の濃度が0.05(w/v)〜1%(w/v)であり、前記塩の濃度が1mM〜14mMであることを特徴とする請求項16に記載の製造方法。
【請求項19】
前記多糖の濃度が0.2%(w/v)であり、前記塩の濃度が1mMであることを特徴とする請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記還元剤の濃度が0.5mMであることを特徴とする請求項17に記載の製造方法。
【請求項21】
抗菌薬としての請求項1〜13のいずれかに記載のナノ複合材料の使用。
【請求項22】
様々な解剖学的部位の傷の無い又は傷を負った、皮膚、粘膜及び上皮組織の感染を治療するための、薬剤的に容認できる賦形剤及び/又は希釈剤と組み合わせた、請求項21に記載のナノ複合材料の使用。
【請求項23】
分子バイオセンサーにおける請求項1〜13のいずれかに記載のナノ複合材料の使用。
【請求項24】
ポリマー材料の活性化表面上への多糖被膜としての請求項1〜13のいずれかに記載のナノ複合材料の使用。
【請求項25】
包装フィルムを調製するための他の多糖との混合物における請求項1〜13のいずれかに記載のナノ複合材料の使用。
【請求項26】
様々な解剖学的部位の傷の無い又は傷を負った、皮膚、粘膜及び上皮組織の感染を治療するのに用いるための、請求項1〜13のいずれかに記載のナノ複合材料を含む組成物。
【請求項27】
前記ナノ複合材料が、デキストラン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース及びガラクトマンナンからなる群より選択される中性の又はアニオン性でゲル化しないアニオン性の多糖との混合物であることを特徴とする請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
様々な解剖学的部位の、傷の無い又は傷を負った、皮膚、粘膜及び上皮組織の感染を治療するのに用いるための、請求項1〜13のいずれかに記載のナノ複合材料を備えるデバイス。
【請求項29】
前記ナノ複合材料が、デキストラン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース及びガラクトマンナンからなる群より選択される中性の又はアニオン性でゲル化しないアニオン性の多糖との混合物であることを特徴とする請求項28に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−528694(P2011−528694A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519163(P2011−519163)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059430
【国際公開番号】WO2010/010122
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(508345830)ユニヴァーシタ デグリ ステュディ デイ トリエステ (4)
【Fターム(参考)】