説明

分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物の使用、並びに飲食物、冷凍耐性向上方法、冷凍飲食物の製造方法

【課題】
飲食物の冷凍耐性を向上させる手段を提供すること。
【解決手段】
本発明では、分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物を、冷凍耐性向上の有効成分として含有させた飲食物を提供する。この糖組成物を冷凍耐性向上作用の有効成分として使用することにより、飲食物の冷凍耐性を向上できる。即ち、飲食物を冷凍後解凍しても、飲食物のスポンジ化を抑制でき(図1参照)、飲食物の保形性、離水性、呈味性を良好に保持できる。適用可能な飲食物としては、例えば、野菜加工飲食物(カレー、おでん)、卵加工飲食物(プリン、茶碗蒸し)などがある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物を、冷凍耐性向上の有効成分として含有した飲食物、前記糖組成物の使用、飲食物の冷凍耐性向上方法、冷凍飲食物の製造方法、などに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、飲食物を冷凍すると、一定の鮮度を保ったまま、長期間保存できる。そこで、飲食物の材料を冷凍して、保存・運搬などを行う方法が、広く用いられている。また、冷凍飲食物のように、飲食物を一定の工程まで調理などした後、その飲食物を冷凍し、製品として流通させる方法も、広く行われている。
【0003】
しかしながら、野菜加工飲食物(カレー、肉じゃが、おでんなど、野菜を用いた飲食物)、卵加工品(オムレツ、茶碗蒸し、プリンなど、卵を材料として用いた飲食物)などを冷凍化する場合、冷凍時に、飲食物中の水分が凍り結晶化する(飲食物中に氷結晶が生じる)ため、解凍時に、飲食物中に空隙が生じ、飲食物がスポンジ化する。また、それにより、飲食物の保形性が低下し、飲食物からの離水が起こりやすくなり、食感が低下する。
【0004】
それに対し、野菜の冷凍耐性を向上させる技術として、例えば、特許文献1及び特許文献2が開示されている。また、卵加工品の冷凍耐性を向上させる技術として、例えば、特許文献3〜5が開示されている。
【0005】
特許文献1には、冷凍大根の保存方法などが、特許文献2には、多糖類と糖アルコールなどを用いた野菜の冷凍保存方法などが、それぞれ記載されている。また、特許文献3には、増粘多糖類と糖アルコールなどを配合した冷凍卵加工品(オムレツなど)が、特許文献4には、豆類由来のヘミセルロースを添加する冷凍卵製品の製造方法が、特許文献5には、トレハロースを含有した冷凍プリンが、それぞれ記載されている。なお、先行文献中、非特許文献1及び2は、後述する実験手順などに関する参照文献である。
【特許文献1】特開平9−151号公報
【特許文献2】特開平8−131064号公報
【特許文献3】特開平5−68476号公報
【特許文献4】特開平9−275893号公報
【特許文献5】特開2002−34484号公報
【非特許文献1】飲食物化学新聞社、「澱粉糖関連工業分析法」、P.131〜137(1991年発行)。
【非特許文献2】Akher et al, Starke 26:307-312 (1974)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
野菜加工飲食物、卵加工飲食物などを冷凍処理する際、従来の方法を用いても、それらの飲食物に対する冷凍耐性向上効果が不充分であるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、飲食物の冷凍耐性を向上させる手段を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物に、野菜加工飲食物、卵加工飲食物などの冷凍耐性を向上させる作用があることを、新規に見出した。
【0009】
そこで、本発明では、分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物を、冷凍耐性向上の有効成分として含有させた飲食物を提供する。
【0010】
この糖組成物を冷凍耐性の向上の有効成分として、野菜加工飲食物、卵加工飲食物などの飲食物に含有させることにより、例えば、飲食物を冷凍後解凍しても、飲食物のスポンジ化を抑制でき、飲食物の保形性、離水性、呈味性を良好に保持できる。即ち、この糖組成物は、飲食物の冷凍耐性向上を目的として使用できる。
【0011】
加えて、この糖組成物を用いることには、以下のような有利性がある。
【0012】
この糖組成物は、低甘味であるため、飲食物自体の呈味に対してあまり影響を与えない。また、この糖組成物は、甘味質に優れており、砂糖など他の甘味成分との相性も良好である。その他、この糖組成物は、比較的少量でも、充分な冷凍耐性向上作用を有するため、飲食物への添加量を少なくできる。従って、この糖組成物を飲食物に用いても、飲食物の呈味性を良好に保持できるという利点がある。
【0013】
この糖組成物を飲食物に加えても、健康上、特に影響はなく、緩下作用(下痢)などもほとんどない。従って、この組成物は、従来の方法などと比較して、安全性が高いという利点がある。
【0014】
飲食物製造工程においてこの糖組成物を加えることにより、比較的簡易に、飲食物の冷凍耐性を向上できるため、特別な設備改良や工程改良を行う必要がない。また、この組成物は、比較的安価に入手できる。従って、この組成物を用いることにより、飲食物の製造コストを抑制できるという利点がある。
【0015】
以下、本発明に係る用語の定義づけを行う。
【0016】
「分岐構造を有する3〜4糖類」は、糖鎖中に、α−1,4グルコシド結合以外の結合(α−1,1グルコシド結合、α−1,2グルコシド結合、α−1,3グルコシド結合、α−1,6グルコシド結合など)を有する3〜4糖類である。
即ち、本発明において、「分岐構造を有する3〜4糖類」は、糖鎖中のいずれかの位置に、α−1,4グルコシド結合以外の結合を有する、3糖類と4糖類のいずれか一方又は両方である。
なお、「3〜4糖類」には、還元物も含まれる。
【0017】
「冷凍耐性」とは、飲食物を冷凍した場合に、その飲食物の品質を保持しようとする性質をいい、「冷凍耐性向上作用」とは、冷凍耐性を向上させる作用をいう。即ち、「冷凍耐性向上作用」には、例えば、飲食物を冷凍した際に、氷結晶(飲食物中の水分が凍り結晶化したもの)の生成・成長を抑制する作用、並びに飲食物を冷凍後解凍した場合に、その飲食物のスポンジ化を抑制する作用、飲食物の保形性を向上させる作用、飲食物からの離水を抑制する作用、食感を保持する作用、などが含まれる。
ここで、「保形性」とは、飲食物の形状を保とうとする性質をいい、「保形性を向上させる」とは、飲食物の形状を保とうとする性質を増強させることをいう。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る糖組成物を用いることにより、飲食物の冷凍耐性を向上できる。即ち、例えば、飲食物を冷凍した際に生じる氷結晶の生成・成長などを抑制でき、また、飲食物を冷凍後解凍した場合に生じる、飲食物のスポンジ化、形状の崩れ、離水、食感の低下などを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<本発明に係る糖組成物について>
はじめに、本発明に係る糖組成物について、以下説明する。
【0020】
本発明に係る糖組成物は、分岐構造を有する3〜4糖類を含有し、冷凍耐性向上作用を有するものを全て包含する。また、本発明に係る糖組成物は、一種類の分岐構造を有する3〜4糖類のみを単一成分として含有する場合のほか、分岐構造を有する複数の3〜4糖類を含有する場合も含まれる。
【0021】
本発明に係る分岐構造を有する3〜4糖類として、例えば、α−1,6グルコシド結合のみで構成される糖質(イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース)、α−1,4グルコシド結合とα−1,6グルコシド結合とを有する糖質(パノース、イソパノース、イソマルトトリオシルグルコースなど)、α−1,3グルコシド結合を一つ以上有する糖質(ニゲロオリゴ糖)、α−1,2グルコシド結合を一つ以上有する糖質(コウジオリゴ糖)、α−1,1グルコシド結合を一つ以上有する糖質(グルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース、イソマルトシルトレハロースなど)、及び、前記各糖質の還元物などが挙げられる。
【0022】
本発明に係る糖組成物には、分岐構造を有する3〜4糖類の他に、それ以外の組成物(上記以外の糖類、飲食物添加剤、防腐剤、安定剤など)が含有していてもよい。例えば、単糖類・二糖類・分岐構造を持たない3〜4糖類、若しくはそれらの還元物、キサンタンガム、ゼラチン、アルギン酸塩、カッパカラギーナン、澱粉、デキストリン、加工澱粉、β−1,3グルカン、などが含有している場合も、本発明に係る糖組成物に包含される。
【0023】
<本発明に係る飲食物について>
続いて、本発明に係る糖組成物を、冷凍耐性向上の有効成分として含有した飲食物について、以下説明する。
【0024】
本発明に係る糖組成物は、上述の通り、低甘味で甘味質に優れており、幅広い飲食物に適用できる。適用可能な飲食物として、例えば、(1)野菜を材料として用いた加工飲食物、(2)卵を材料として用いた加工飲食物、などが挙げられる。以下、各飲食物について、例示する。
【0025】
(1)野菜を材料として用いた加工飲食物(野菜加工飲食物):
野菜としては、例えば、イモ類(サトイモ、ジャガイモ、サツマイモ、ヤツガシラ、エビイモなど)、イモ類以外の根菜類(大根、ニンジン、カブ、ビーツ、ユリネなど)、根菜類以外の塊状野菜(カボチャなど)などが挙げられる。また、本発明において、これらの野菜の皮をむいたもの、野菜をカットしたもの(切片)、及び、カットした野菜を混合したもの、なども、野菜に包含される。
野菜加工飲食物とは、上述の野菜又はその切片に本発明に係る糖組成物を接触させる工程を含む、加熱調理(蒸煮、油ちょう(フライ)など)した飲食物、若しくは加熱半調理した飲食物をいう。
【0026】
本発明に係る野菜加工飲食物として、例えば、カレー、シチュー、ハッシュドビーフ、肉じゃが、ロールキャベツ、ポトフ、おでん(大根、ニンジンなど)、煮豆、野菜の天ぷらなどが挙げられる。
なお、本発明は、加熱調理後においても、野菜又はその切片の組織・形状の少なくとも一部分が保持されている飲食物においてより好適であり、特に、野菜(その切片を含む)中の水分含量が、加熱調理により増加する飲食物においてより好適である。
【0027】
(2)卵を材料として用いた加工飲食物(卵加工飲食物):
卵加工飲食物としては、例えば、プリン、茶碗蒸し、オムレツ、出汁巻き卵、厚焼き卵、伊達巻、スクランブルエッグ、炒り卵、ゆで卵(おでんの具の場合を含む)、親子丼やカツ丼などの具など、卵を用いる飲食物全般が挙げられる。
【0028】
なお、本発明に係る飲食物は、上記飲食物に限定されず、上記糖組成物を、冷凍耐性向上作用の有効成分として含有するものを全て包含する。有効成分含量の分析は、公知の方法により行うことができる。即ち、例えば、澱粉糖関連工業分析法に準じ、高速液体クロマトグラフィー法を用いることにより、飲食物中の有効成分含量を分析できる(非特許文献1参照)。
【0029】
その他、本発明に係る糖組成物の有効添加量は、飲食物の形態や設計などによって異なるが、通常0.1〜30重量%、好ましくは0.2〜20重量%、
特に好ましくは、0.2〜10重量%である。また、プリンなど、甘味を有する卵加工食品(デザート)に用いる場合、25重量%を超える添加も可能である。
【0030】
<本発明に係る糖組成物の使用、及び、本発明に係る冷凍耐性向上方法について>
続いて、本発明に係る糖組成物の、糖組成物の、飲食物の冷凍耐性向上を目的とした使用、及び、本発明に係る糖組成物を用いる、飲食物の冷凍耐性向上方法について、以下説明する。
【0031】
上述の通り、本発明に係る糖組成物を用いることにより、飲食物の冷凍耐性を向上させることができる。即ち、本発明に係る糖組成物は、飲食物の冷凍耐性向上を目的として使用できる。
【0032】
本発明に係る糖組成物の使用態様として、例えば、(1)冷凍処理を施すよりも前の段階で、飲食物の材料に、この糖組成物を加える場合、(2)飲食物製造工程において、冷凍処理を施すよりも前の段階で、飲食物中に直接加える(添加・配合などする)場合、(3)飲食物製造工程において、冷凍処理を施すよりも前の段階で、煮汁などに加える場合、(4)予め、飲食物に添加する調味料(酒、醤油、みりん、砂糖、だし、エキス類など)に、この糖組成物を含有させておき、飲食物製造工程において、冷凍処理を施すよりも前の段階で、その調味料を用いる場合、(5)冷凍処理を施した後の飲食物中に、この糖組成物が、冷凍耐性向上作用の有効成分として、実際に含有している場合、などがある。
【0033】
<本発明に係る冷凍飲食物の製造方法について>
続いて、冷凍耐性向上作用の有効成分として、本発明に係る糖組成物を用いる工程を含む、冷凍飲食物の製造方法について、以下説明する。なお、冷凍飲食物の「製造」には、調理、調製など、冷凍飲食物を作製する場合が全て包含される。
【0034】
本発明に係る冷凍飲食物の製造方法は、飲食物製造工程において、冷凍処理を施すよりも前の段階で、本発明に係る糖組成物を用いる工程を含むものを全て包含する。製造工程中にこの糖組成物を用いる場合として、例えば、(1)冷凍処理を施すよりも前の段階で、飲食物の材料に、この糖組成物を加える(添加・配合などする)場合、(2)飲食物製造工程において、冷凍処理を施すよりも前の段階で、飲食物中に直接加える(添加・配合などする)場合、(3)飲食物製造工程において、冷凍処理を施すよりも前の段階で、煮汁などに加える場合、(4)予め、飲食物に添加する調味料などに、この糖組成物を含有させておき、飲食物製造工程において、冷凍処理を施すよりも前の段階で、その調味料を用いる場合、などがある。この冷凍飲食物の製造方法は、特別な設備改良や工程改良を行う必要がないため、飲食物の製造コストを抑制できる。
【実施例1】
【0035】
実施例1において、実施例2及び実施例4で用いる糖組成物(糖質若しくはその還元物、以下同じ)を準備した。
【0036】
表1に、準備した糖組成物を列記する。表中、「DP(degree of polymerization)」は、構成糖の重合度を示す(以下同じ)。
【表1】

【0037】
グルコース、ソルビトール、エリスリトール、トレハロース、マルトース、マルチトールは、以下に示す市販の製品を用いた。グルコース(商品名「無水結晶ブドウ糖」、昭和産業株式会社製)、ソルビトール(商品名「ソルビトール日研SP」、日研化学株式会社製)、エリスリトール(商品名「エリスリトール EridexTM」、日研化学株式会社製)、トレハロース(商品名「トレハ」、登録商標、株式会社林原生物化学研究所製)、マルトース(商品名「サンマルト−S」、登録商標、株式会社林原製)、マルチトール(商品名「マルビット」、日研化学株式会社製)。
【0038】
その他の直鎖オリゴ糖は、市販のオリゴ糖から、分岐オリゴ糖は、イソマルトオリゴ糖(商品名「イソマルト900」、昭和産業株式会社製)から、それぞれ分画、精製して得た。
前記各オリゴ糖製品を、クロマト分離装置(オルガノ株式会社製、商品名「トレソーネ(登録商標)」)で分画した後、HPLC(高速液体クロマトグラフィー、カラム充填剤には、C18逆相系の「ODS−AQ(株式会社ワイエムシィ製)」を用いた)により、繰り返し精製し、純度90%以上に調製した。
【0039】
前記各糖質の還元物は、準備・調製した各糖質を、非特許文献2に記載された方法に準じて還元した後、HPLC(カラム充填剤には、前記と同様、C18逆相系の「ODS−AQ(株式会社ワイエムシィ製)」を用いた)により、繰り返し精製し、純度90%以上に調製した。
【実施例2】
【0040】
実施例2では、実施例1で準備した糖組成物に、茹でジャガイモの冷凍耐性を向上させる作用があるかどうかについて、調べた。
【0041】
まず、市販のジャガイモの皮を取り除いた後、そのジャガイモを、1cm角のサイコロ状に切断した。次に、耐熱・耐圧容器に、各糖組成物の5重量%水溶液を入れ、その中に、サイコロ状にしたジャガイモを加え、1時間煮込んだ。次に、煮汁からジャガイモを取り出し、室温になるまで冷ました後、−30℃の冷凍庫に入れ、1週間保管した。
そして、作製した冷凍茹でジャガイモの試作品を、電子レンジで解凍した後、官能試験を行った。
【0042】
官能試験は、7名の専門パネラーが、「外観(崩れ)」、「食感(歯ごたえ)」、「食感(スポンジ化)」の三項目について評価することにより行った。
本実験では、評価方法として、砂糖を用いて試作品を作製した場合(対照)と、各糖組成物を用いて試作品を作製した場合と、を比較して評価する方法を採用した(以下の実施例において同じ)。
「外観(崩れ)」は、冷凍解凍後、茹でジャガイモの外観の崩れがない場合を「○」、崩れがほとんどない場合を「△」、崩れがある場合を「×」、と評価した(以下同じ)。
「食感(歯ごたえ)」は、歯ごたえがある場合を「○」、やや歯ごたえがある場合を「△」、歯ごたえがない場合を「×」、と評価した(以下同じ)。
「食感(スポンジ化)」は、スポンジ化がほとんど見られない場合を「○」、ややスポンジ化が見られる場合を「△」、顕著にスポンジ化が見られる場合を「×」と、評価した(以下同じ)。
【0043】
また、前記三項目の評価結果に基づき、「総合評価」を行った。「総合評価」は、上記各項目において、「○」が三つ以上の場合を「◎」、「○」が二つで「×」が一つもない場合を「○」、「○」が一つで「×」が一つもない場合を「△」、「×」が一つ以上若しくは「○」が一つも無い場合を「×」、とした(以下同じ)。
【0044】
糖質を用いて試作品を作製した場合の結果を表2に、糖質の還元物を用いて試作品を作製した場合の結果を表3に、それぞれ示す。
【表2】


【表3】

【0045】
表2、表3より、分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物には、外観の崩れやひび割れが少なく、スポンジ化がほとんどみられず、歯ごたえも充分であった。即ち、茹でジャガイモの冷凍耐性を向上させる作用があることが分かった。
それに対し、単糖類、直鎖オリゴ糖、5糖類以上の分岐オリゴ糖、並びにそれらの還元物では、対照と同等又はそれ以下の評価であった。
【実施例3】
【0046】
実施例3では、本発明に係る糖組成物が、大根を冷凍する場合にも適用可能か、官能試験を行った。
【0047】
まず、分岐構造を有する3〜4糖類(非還元物)を50重量%含有する糖組成物を調製した。
次に、市販の大根を厚さ3cmの輪切りにした後、その大根の皮を取り除き、面取りを行った。次に、大鍋に大根を入れ、15分間、中火で下茹でした。次に、別の鍋に、糖組成物を10重量%含有したおでんだしを調製し、その中に、下茹でした大根を移し、3時間煮込んだ。次に、煮込んだ大根をポリエチレン袋に移し、密閉した後、−30℃の冷凍庫に入れ、三日間、冷凍させた。三日後、冷凍させた大根を、袋ごと、30分間湯煎した後、官能試験を行った。
なお、対照では、前記糖組成物の代わりに砂糖を用いた。
【0048】
官能試験は、7名の専門パネラーが、「外観(崩れ)」、「食感(歯ごたえ)」、「スポンジ化」の三項目について評価することにより行った。
【0049】
結果を表4に示す。
【表4】

【0050】
表4より、分岐構造を有する3〜4糖類を50重量%含有する糖組成物には、大根の冷凍耐性を向上させる作用があることが分かった。なお、本実験結果は、大根だけでなく、その他の野菜を冷凍する場合にも適用可能であると考える。
【実施例4】
【0051】
実施例4では、実施例1で準備した糖組成物に、プリンなどの冷凍耐性を向上させる作用があるかどうかについて、調べた。
【0052】
まず、60℃に温めた牛乳に、溶いた全卵をゆっくり加え、裏ごしした。次に、裏ごしして得た液状物に、実施例1で準備した糖組成物(対照では砂糖)と調整水とを加え、糖組成物を溶解させた。次に、その液状物をカップに移し、蒸し器で12分蒸した後、室温まで冷却した。次に、作製したプリンの試作品を、−30℃の冷凍庫に入れ、その中で3日間保存した。3日後、自然解凍し、官能試験を行った。プリンの試作品の配合を表5に示す。
【表5】

【0053】
官能試験は、7名の専門パネラーが、「離水性」、「保形性」、「食感(滑らかさ、口どけ)」の三項目について評価することにより行った。また、前記各項目の評価に基づき、総合評価を行った。
「離水性」は、離水がない場合を「○」、離水がほとんどない場合を「△」、顕著な離水が認められる場合を「×」、と評価した(以下同じ)。
「保形性」は、プリンの高さが維持でき、横に広がらなかった場合を「○」、高さが維持できずにやや横に広がった場合を「△」、高さが維持できず横に広がった場合を「×」、と評価した。
「食感(滑らかさ)」は、食感が滑らかな場合を「○」、ややざらつきがある場合を「△」、ざらつきがある場合を「×」、と評価した。
【0054】
糖質を用いた場合の結果を表6に、糖質の還元物を用いた場合の結果を表7に、それぞれ示す。
【表6】


【表7】

【0055】
表6、表7より、分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物には、プリンなど卵を加工した飲食物に対する冷凍耐性を向上させる作用があることが分かった。即ち、本実験結果は、それらの糖組成物に、プリンなど卵加工飲食物に対する、冷凍解凍後の離水を抑制する作用、冷凍解凍後の保形性を向上させる作用、冷凍解凍後も食感を保持する作用、などがあることを強く示唆する。
それに対し、単糖類、直鎖オリゴ糖、5糖類以上の分岐オリゴ糖、並びにそれらの還元物では、対照と同等又はそれ以下の評価であった。
【実施例5】
【0056】
実施例5では、冷凍したプリンの組織状態を、電子顕微鏡で比較観察した。
【0057】
まず、分岐構造を有する3〜4糖類(非還元物)を50重量%含有する糖組成物を調製した。
次に、調製した糖組成物を用いて、実施例4と同様の手順により、プリンの試作品を作製し、−30℃の冷凍庫で3日間保存した。次に、冷凍保存したプリンの試作品から、一辺約3mm角の小片を採取した。次に、走査電子顕微鏡(製品名「s−3000」、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)の試料ステージを−15℃に冷却し、その試料ステージに、採取した小片を固定した後、走査電子顕微鏡の低真空観察モードで、その小片を観察した。
なお、対照では、前記糖組成物の代わりに砂糖を用いた。
【0058】
分岐構造を有する3〜4糖類を50重量%含有する糖組成物を用いてプリンの試作品を調製した場合の走査電子顕微鏡写真を図1に、砂糖を用いた場合の走査電子顕微鏡写真を図2に、それぞれ示す。
【0059】
図1と図2を比較すると、図1の方が、組織中の空隙が少なく、組織が緻密だった。
【0060】
この結果は、本発明に係る冷凍耐性向上作用が、次のようなメカニズムによるものであることを示唆する。
プリンを冷凍処理することにより、プリンの中の水分が冷凍し、結晶化する(氷結晶)。それに対し、分岐構造を有する3〜4糖類を50重量%含有する糖組成物を用いてプリンを作製した場合、その糖組成物がプリン中の水分を保持することにより、飲食物組織中での氷結晶の生成・成長を抑制する。それにより、プリンの冷凍耐性が向上する。
【実施例6】
【0061】
実施例6では、本発明に係る糖組成物が、茶碗蒸しを冷凍する場合にも適用可能か、官能試験を行った。
【0062】
まず、分岐構造を有する3〜4糖類(非還元物)を50重量%含有する糖組成物を調製した。
次に、全卵をミキサーで攪拌しながら、約50℃になるまで加熱した。次に、表8に示す配合になるように各材料を添加し、均一に混合し、メッシュろ過した。次に、ろ過したスラリーを、脱気ミキサーで脱気した後、ポリ容器に充填した。次に、ポリ容器に充填したスラリーを、12分間蒸気加熱した後、水冷してあら熱を取った。次に、作製した茶碗蒸しを、−20℃で2週間保存した。そして、冷凍した茶碗蒸しを、沸騰浴に15分間入れて加熱し、茶碗蒸しを解凍した後、官能試験を行った。
なお、対照では、前記糖組成物の代わりに砂糖を用いた。
【表8】

【0063】
官能試験は、7名の専門パネラーが、「離水性」、「スポンジ化」、「弾力性」、「口どけ」の四項目について評価することにより行った。
「弾力性」は、茶碗蒸しに弾力が顕著にある場合を「○」、一定の弾力がある場合を「△」、弾力が少ない場合を「×」、と評価した。
「口どけ」は、口どけが顕著に良い場合を「○」、口どけがある程度良い場合を「△」、口どけが悪い場合を「×」、と評価した。
【0064】
結果を表9に示す。
【表9】

【0065】
表9より、分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物には、卵加工製品の冷凍耐性を向上させる作用があることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る糖組成物を用いることにより、飲食物の冷凍耐性を向上できる。特に、本発明に係る糖組成物は、簡易に用いることができ、かつ、低甘味であるため、野菜、野菜加工飲食物、卵加工飲食物など、幅広い飲食物に適用可能である点で、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物を用いてプリンの試作品を調製した場合の走査電子顕微鏡写真(図面代用写真)。
【図2】砂糖を用いてプリンの試作品を調製した場合の走査電子顕微鏡写真(図面代用写真)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物を、冷凍耐性向上の有効成分として含有させた飲食物。
【請求項2】
前記飲食物は、野菜加工飲食物であることを特徴とする請求項1記載の飲食物。
【請求項3】
前記飲食物は、卵加工飲食物であることを特徴とする請求項1記載の飲食物。
【請求項4】
分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物の、飲食物の冷凍耐性向上を目的とする使用。
【請求項5】
分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物を用いる、飲食物の冷凍耐性向上方法。
【請求項6】
冷凍耐性向上の有効成分として、分岐構造を有する3〜4糖類を含有する糖組成物を用いる工程を含む、冷凍飲食物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−280309(P2006−280309A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106926(P2005−106926)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000187079)昭和産業株式会社 (64)
【Fターム(参考)】