説明

分散型無機エレクトロルミネッセンスパネル

【課題】色フィルターを用いずに赤色を発光することが可能な分散型無機ELパネルを提供する。
【解決手段】電極2,5間に発光体層3及び誘電体層4を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルであって、発光体層3が無機蛍光体と有機色素を含有し、無機蛍光体はZnS(硫化亜鉛)であり、有機色素としてクマリン6(3−(2′−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン)とDCJTB(4−(ジシアノメチレン)−2−t−ブチル−6−(1,1,7,7−テトラメチルジュロリジル−9−エニル)−4H−ピラン)を実質上重量比1:1で含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
無機エレクトロルミネッセンス(無機EL)パネルは、構造および動作方法の違いにより4種類に分類することができる。薄膜型と有機分散型の2種類の構造があり、それぞれに発光させる際の動作モードの違いにより直流動作と交流動作に分類される。そのなかで安定した動作が確認されているのは、共に交流で動作する、薄膜型ELと分散型ELの2種類である。前者は真空プロセスにより薄膜を積層させた単純な構造であり、安定した発光を実現しており、これまでにディスプレイ用途として研究されている。後者は印刷技術による簡便なプロセスにより作製可能であり、バックパネル用途として開発されたが、その性能は実用上十分であるとは言えず、まだ改善すべき課題が残されていると考えられる。無機ELが基本的に真性ELであり、発光のメカニズムが高電界によって加速された電子による電界発光であることは両者に共通している。これに対し、LEDや有機ELは電流注入型であり、無機ELとは区別される。無機ELは、フレキシブルな発光面が作製可能であるという、従来のディスプレイにはない特徴をもっており、次世代ディスプレイの一つとして期待されている。
【0003】
交流動作型の分散型EL(AC−EL)は、単純な印刷法で作製可能であり、かつ背面パネルとしての使用が検討されている。しかし、現状では、それらの能力は、携帯電話のキーやPOP広告等の光強度が比較的低い分野に限られている。フルカラーのELデバイスを実現するためには、純度の高い赤、青、緑の発光を得ることが必要である。
しかしながら、色フィルターを用いずに赤色の発光が得られる分散型無機ELパネルは存在していない。このことから、分散型無機ELパネルで赤色を発光するのは困難と考えられていた。
特許文献1には、演色性の高い白色を与える分散型無機ELパネルを目的として、色変換材料を用いることが記載されている。
【特許文献1】特開2005−190732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、無機蛍光体を単独で含有するか、又は2種類の有機色素から選らばれる一つ以上を添加した発光体層を用いて、前記無機蛍光体及び有機色素の含有量に応じて、特定の色域内の任意の一点を発光する分散型無機ELパネルを提供することを課題とする。
さらに本発明の有用な例として、色フィルターを用いずに赤色発光する分散型無機ELパネルと、白色発光する分散型無機ELパネルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、
電極間に発光体層及び誘電体層を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルであって、
前記発光体層が無機蛍光体と有機色素2種類とを必須成分として含有し、前記無機蛍光体がZnSであるとともに、前記有機色素がクマリン6とDCJTBであり、
前記のZnS、クマリン6及びDCJTBの配合比を変えたパネルを作製することにより、
それぞれの配合比に応じて、
CIE色度座標において、色度座標値が(0.16,0.18)である点Bと、
(0.26,0.60)である点Gと、
(0.54,0.28)である点Rの3点を頂点とする三角形で囲まれる範囲内の一点の色を発光することを特徴とする分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルを提供する。但し前記三角形の領域のうち、点B,点G及び辺BGは除く。
尚、前記のR、G、Bの3点を発光するための無機蛍光体及び有機色素の配合の概略は次の通りである。
点Rについては、発光体層を形成する蛍光体ペースト中のZnS含有量が60質量%、クマリン6の含有量が0.05質量%及びDCJTBの含有量が0.05質量%である。
点Gについては、蛍光体ペースト中のZnS含有量が60質量%、クマリン6の含有量が0.1質量%である。
点Bについては、蛍光体ペースト中にZnSのみを60質量%含有する。
【0006】
さらに本発明は、電極間に発光体層及び誘電体層を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルであって、
前記発光体層を形成する蛍光体ペーストが無機蛍光体と2種類の有機色素とを必須成分として含有し、前記無機蛍光体がZnSであるとともに、前記有機色素がクマリン6とDCJTBであり、
前記のZnS、クマリン6及びDCJTBの配合比を変えることにより、
CIE色度座標において、
蛍光体ペースト中のZnS含有量が60質量%、クマリン6の含有量が0.05質量%及びDCJTBの含有量が0.05質量%である無機エレクトロルミネッセンスパネルからの発光色のCIE色度座標値(X1、Y1)と、
蛍光体ペースト中のZnS含有量が60質量%、クマリン6の含有量が0.1質量%である無機エレクトロルミネッセンスパネルからの発光色のCIE色度座標値(X2、Y2)と、
蛍光体ペースト中にZnSのみを60質量%含有する無機エレクトロルミネッセンスパネルからの発光色のCIE色度座標値(X3、Y3)と、
上記の3つの座標値の点を頂点とする三角形で囲まれる範囲内の一点の色を発光することを特徴とする分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルを提供する。但し前記三角形で囲まれる範囲のうち、点Bを発光するパネル,点Gを発光するパネル及び辺BG上の点を発光するパネルは除く。
尚、無機エレクトロルミネッセンスパネルの発光色の測定及びCIE色度座標値を求める方法については後に記載する。
【0007】
本発明は、電極間に発光体層及び誘電体層を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルであって、前記発光体層が無機蛍光体と有機色素を含有し、前記無機蛍光体がZnSであるとともに、前記有機色素としてクマリン6とDCJTBを実質上重量比1:1で含有し、赤色発光することを特徴とする分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルを提供する。
また本発明は、電極間に発光体層及び誘電体層を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルであって、前記発光体層が無機蛍光体と有機色素を含有し、前記無機蛍光体がZnSであるとともに、前記有機色素としてクマリン6とDCJTBを実質上重量比3:1で含有し、白色発光することを特徴とする分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルにおいて、その発光体層に無機蛍光体及び2種類の有機色素を添加した発光体層を用いて、前記無機蛍光体及び有機色素の含有量に応じて、特定の色域内の任意の一点を発光する分散型無機ELパネルが得られる。
さらに本発明の有用な例として、色フィルターを用いずに赤色発光する分散型無機ELパネルと、白色発光する分散型無機ELパネルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、最良の形態に基づき、本発明を説明する。混合の割合や比は特記しない限り質量基準である。
図1は、本形態例の分散型無機ELパネルの一例を示す断面図である。この無機ELパネルは、透明基材1の片面に透明電極2を設け、その上に、発光体層3、誘電体層4、背面電極5の順に積層させた構造であり、透明導電層2と背面電極5の間に交流電源6を接続し、交流電圧を印加することにより発光する。すなわち、この分散型無機ELパネルは、電極2,5間に発光体層3及び誘電体層4を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルである。
【0010】
発光体層3は、無機蛍光体と2種類の有機色素とを含有する層である。具体的には、無機蛍光体がZnS(硫化亜鉛)であり、有機色素としてクマリン6とDCJTBとの2種類を含有する。
本発明において、クマリン6とは、3−(2′−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリンであり、DCJTBとは、4−(ジシアノメチレン)−2−t−ブチル−6−(1,1,7,7−テトラメチルジュロリジル−9−エニル)−4H−ピラン(英語では4−(dicyanomethylene)−2−t−butyl−6−(1,1,7,7−tetramethyljulolidyl−9−enyl)−4H−pyran)である。
【0011】
なお、クマリン6とDCJTBの配合比を変更することにより、白を含む広い範囲の白再現が可能である。すなわち、発光体層が無機蛍光体と有機色素を含有し、無機蛍光体がZnSであるとともに、有機色素がクマリン6とDCJTBであり、ZnS、クマリン6、DCJTBの配合比を変えることにより、広い範囲の色を発光するパネルを作製することができる。
尚、配合比を決めて作製した無機エレクトロルミネッセンスパネルからの発光色は一点である。前記の広い範囲の色とは、配合比を変えたパネルそれぞれの発光色が、全体として広い範囲に渡るということを意味する。
【0012】
前記のZnS、クマリン6及びDCJTBの配合比を変えることにより、それぞれの配合比で作製されたパネルは、CIE色度座標において、色度座標値が(0.16,0.18)である点Bと、(0.26,0.60)である点Gと、(0.54,0.28)である点Rの3点を頂点とする三角形で囲まれる範囲内の一点の色を発光する。
但し前記の三角形で囲まれる範囲のうち、点B,点G及び辺BG上の点の色を発光するパネルは除く。その理由は、これらの点は本発明の必須要件である、発光体層がZnS、クマリン6及びDCJTBを含有するという条件を満たさないためである。
換言すれば、前記の三角形で囲まれる範囲のうち、点B,点G及び辺BG上の点を除いた領域の点の色を発光するパネルは、その発光体層がZnS、クマリン6及びDCJTBを含有する。
【0013】
発光体層の作製は、まず高誘電ポリマーと溶剤とを7:3の比で混合してポリマーペーストを準備する。次に無機蛍光体:前記ポリマーペースト=6:4の比で無機蛍光体ペーストを作製する。即ち無機蛍光体ペースト中の無機蛍光体の含有量は60%である。次に前記の無機蛍光体ペースト:クマリン6:DCJTBを所定の比とする蛍光体ペーストを作製する。そして前記の蛍光体ペーストを後述するようなスクリーン印刷法等により基材に塗布し、乾燥して発光体層を形成する。
前記の点Rの発光色を有する無機ELパネルの発光体層は、蛍光体及び有機色素を、無機蛍光体ペースト:クマリン6:DCJTB=10:0.005:0.005の比で含有する。
前記の点Gの発光色を有する無機ELパネルの発光体層は、蛍光体及び有機色素を、無機蛍光体ペースト:クマリン6:DCJTB=10:0.01:0の比で含有する。即ちDCJTBは含有しない。
前記の点Bの発光色を有する無機ELパネルの発光体層は、無機蛍光体のみを含有し、有機色素を含有しない。
【0014】
(無機エレクトロルミネッセンスパネルの発光色の測定)
本発明の分散型無機ELパネル、すなわち、発光体層が無機蛍光体と有機色素を含有し、無機蛍光体がZnSであるとともに、有機色素がクマリン6とDCJTBであり、ZnS、クマリン6、DCJTBの配合比を変えることにより、広い範囲の色を発光するパネルの発光の分光スペクトルの測定及び色度、輝度の測定は次の機器を用いて行う。前記のCIE色度座標値は下記の機器を用いて得られる値である。
【0015】
分光スペクトラム測定に使用した機器:
分光器:Ocean Optics USB−2000
測定方法:リニアシリコンCCDアレイ
分光波長域:350〜850nm
波長分解能:1nm
【0016】
色度、輝度測定に使用した機器:
色彩輝度計:コニカミノルタ色彩輝度計CS−200
測定方法:分光、リニアセンサーアレイ
測定範囲:0.01〜2×10cd/m
色度表示:x,y
【0017】
(白色発光のパネルの例)
クマリン6とDCJTBの配合比を、重量比で実質上3:1とした場合は、そのパネルから白色を発光させることができる。
このような本発明の無機ELにおいては、無機蛍光体がZnSであり、第1の有機色素がクマリン6であり、第2の有機色素がDCJTBであって、無機蛍光体の発光エネルギーの一部を第1の有機色素の発光エネルギーに変換し、変換により得られた第1の有機色素の発光エネルギーの一部を第2の有機色素の発光エネルギーに変換することによって、無機発光体の発光、第1の有機色素の発光、第2の有機色素の発光が組み合わさって得られる。
【0018】
(赤色発光のパネルの例)
また、本発明の無機ELにおいては、青色発光の無機蛍光体ZnSからのエネルギー移動が可能な緑色蛍光色素としてクマリン6が配合され、さらに、クマリン6からのエネルギー移動が可能な赤色蛍光色素としてDCJTBが配合され、かつクマリン6とDCJTBの配合比が、重量比で実質上1:1とされる。
これにより、色フィルターなしで、演色性の高い赤色を発光させることが可能な分散型無機ELパネルを製造することができる。
このような本発明の無機ELにおいては、無機蛍光体がZnSであり、第1の有機色素がクマリン6であり、第2の有機色素がDCJTBであって、無機蛍光体の発光エネルギーを第1の有機色素の発光エネルギーに実質的にすべて変換し、変換により得られた第1の有機色素の発光エネルギーを第2の有機色素の発光エネルギーに実質的にすべて変換することによって、第2の有機色素の発光が得られる。
すなわち、発光体層がZnSからなる無機発光体とクマリン6およびDCJTBからなる有機色素を含有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルを用いて色純度の高い赤色発光を得ることができる。
【0019】
透明電極2は、例えば透明な酸化物半導体からなる透明導電膜であり、スパッタ法、CVD法、スプレー熱分解堆積法(SPD法)などの薄膜形成方法により形成することができる。透明な酸化物半導体の具体例としては、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化スズ(TO)、フッ素ドープ酸化亜鉛(FZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、ホウ素ドープ酸化亜鉛(BZO)、酸化亜鉛(ZO)などが挙げられる。透明導電膜の厚さは特に限定されないが、例えば厚さ5〜500nmである。
透明電極を形成する材料としては、前記の酸化物半導体の他に導電性高分子を用いることができる。その具体例としては、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)などが挙げられる。
【0020】
透明電極2は、透明基材1の上に櫛型あるいはグリッド型などの金属および/または合金の細線を配置して、その上に透明導電膜を製膜したものであっても良く、この場合は通電性を改善することができる。金属や合金の細線としては、銅、銀、アルミニウム、ニッケルなどが好ましく用いられる。金属及び/又は合金の細線を配置すると光の透過率が減少するので、細線の間隔を狭くしすぎたり、細線の幅や高さを大きく取りすぎたりすることなく、90%以上の透過率を確保することが望ましい。
【0021】
透明電極2が形成される透明基材1としては、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、トリアセチルセルロース(TAC)等の可撓性ポリマーが挙げられる。透明基材1の厚さは10〜250μm、特に50〜200μmが好ましい。
【0022】
発光体層3で無機発光体粒子を分散するために用いられる分散剤としては、例えば、シアノエチルセルロース系樹脂のような比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。また、これらの樹脂にBaTiOやSrTiOなどの高誘電率の無機誘電体粒子を適度に混合して誘電率を調整することもできる。
【0023】
誘電体層4は、無機誘電体を含有する層である。無機誘電体は、誘電率及び絶縁性が高く、かつ高い誘電破壊電圧を有する材料であれば任意のものが用いられる。無機誘電体としては、各種の金属酸化物及び窒化物を使用でき、例えば、SiO、TiO、BaTiO、SrTiO、PbTiO、KNbO、PbNbO、Ta、BaTa、LiTaO、Y、Al、ZrO、AlONなどを用いることができる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて用いることができる。
【0024】
誘電体層4は、無機誘電体粒子を分散含有して形成された層であることが好ましい。誘電体層4で無機誘電体粒子を分散するために用いられる分散剤としては、例えば、シアノエチルセルロース系樹脂のような比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。
【0025】
発光体層3及び誘電体層4は、スクリーン印刷法、スライドコート法、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スプレー塗布法などを用いて塗布して形成されることが好ましい。例えば、スクリーン印刷法では、発光体や誘電体の微粒子を高誘電率のポリマー溶液に分散した分散液を、スクリーンメッシュを通して塗布することにより層が形成される。スクリーンメッシュの厚さ、開口率、塗布回数を適宜選択することにより膜厚を制御でき、さらにスクリーンメッシュの大きさを変えることで大面積化が容易である。特に、透明電極2が形成された透明基材1がフレキシブルなフィルム基板である場合には、Roll−to−Rollによる連続プロセスの適用が容易に実現できる。
【0026】
背面電極5は、不透明で良く、導電性を有する任意の材料を用いて作製することができる。例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ベリリウム、コバルト、クロム、鉄、ゲルマニウム、イリジウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、モリブデン、ナトリウム、ニッケル、白金、珪素、錫、タンタル、タングステン、亜鉛等の金属、及びグラファイトなどの導電性炭素材料などの中から、適宜選択できる。中でも、金、銀、銅、アルミニウム、ベリリウム、グラファイト等が好ましい。背面電極5は、シートの貼り付けや、導電性ペーストの印刷・塗布などによって形成することができる。とりわけ、導電性ペーストを用いた場合には、Roll−to−Rollによる連続プロセスの適用が容易に実現でき、好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0028】
[実施例1及び2]
<パネルの作製>
作製した片面発光分散型無機ELパネルの構造を図1に示す。この分散型無機ELパネルは、有機蛍光色素として3−(2′−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン6)と4−(ジシアノメチレン)−2−t−ブチル−6−(1,1,7,7−テトラメチルジュロリジル−9−エテニル)−4H−ピラン(DCJTB)が重量比1:1で添加された発光体層3と、誘電体層4と、背面電極5とが、この順で透明導電性基板(透明基板1の上に透明導電層2を設けたもの)の上に積層させた構造であり、透明導電層2と背面電極5の間に交流電源6を接続し、交流電圧を印加することにより発光する。
【0029】
この分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルは、再現性を確保するために半自動スクリーン印刷機を用いて作製した。このパネル構造は、極めてシンプルであり、従来の分散型無機ELパネルと基本的な構造は同じである。
【0030】
発光体層に用いる蛍光体(phosphor)としては、粒状(granular)のZnS系無機蛍光体(GG65:OSRAM SYLVANIA社製)を用いた。この蛍光体は、発光スペクトルのピークが450nmにある。
【0031】
発光体層および誘電体層は、それぞれ、高誘電ポリマー(シアノレジンCR−V:信越化学工業社製)とシクロヘキサノンを重量比7:3の割合で調製したペーストをベースとして作製した。このポリマーCR−Vは、比較的高い誘電率をもち、その水酸基をアクリロニトリルと反応させることで、高い双極子モーメントと誘電率を有するものである。
【0032】
発光体層は、前記ペーストと前記無機蛍光体とを重量比6:4で混合して無機蛍光体ペーストを作製した後、さらに、該無機蛍光体ペースト10重量部に対して、クマリン6(以下単に「C6」と略記する場合がある。)を0.005重量部、DCJTBを0.005重量部加えて調製した蛍光体ペーストを用いて形成した。
【0033】
さらに誘電体層は、前記ペーストに、チタン酸バリウム(BaTiO)の粉末を配合して調製した誘電体ペーストを用いて形成した。
背面電極は、銀(Ag)を主成分として含む銀ペースト(FEA−685:藤倉化成社製)を用いて形成した。
透明導電性基板としては、130Ω/□の表面抵抗値を有する酸化インジウムスズ(ITO)ガラス基板を用いた。
【0034】
実施例に係る無機ELパネルは、上述の透明導電性基板の上に、蛍光体ペースト、誘電体ペースト、銀ペーストをスクリーン印刷法にて順次塗布することにより、作製した。
【0035】
作製したELパネルの評価には、EL特性測定システムSX−1111(岩通計測社製)を使用した。各層(具体的には、後述するように、誘電体層および発光体層)の膜厚は、ELパネルの切断面を、走査電子顕微鏡(S−2700:日立製)を用いて観測することにより測定した。
【0036】
<結果と考察>
分散型無機ELパネルの輝度は、パネルの膜厚が印加起電力および周波数に依存するため、異なる操作条件によって異なったものとなる。有機色素が分散された無機ELパネルの操作条件は、通常の分散型無機ELパネルの操作条件と同様と考えられる。本実施例では、周波数が1〜20kHzの範囲内の正弦波形を有する交流を入力して測定した。
【0037】
発光体層および誘電体層の膜厚は、上記の走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観測で測定し、その結果、約30μmであった。
【0038】
図2に、本実施例に係る分散型無機ELパネルにおける発光スペクトルの交流周波数に対する依存性を示す。
図2(a)は、実施例1に係る無機ELパネルの発光スペクトルを示し、クマリン6(C6):DCJTB=1:10の比で発光体層に添加したものである。図2(b)は、本実施例2に係る無機ELパネルの発光スペクトルを示し、クマリン6(C6):DCJTB=1:1の比で発光体層に添加したものである。
(a)と(b)それぞれの無機ELパネルについて、交流の周波数を1kHz(白の丸)、5kHz(黒の三角)、10kHz(白の三角)、15kHz(黒の四角)、および20kHz(白の四角)の条件でEL発光スペクトルを測定し、各周波数におけるEL発光スペクトルを重ね合わせてグラフに表示した。
【0039】
図2(a)に示す実施例1(C6:DCJTB=1:10)においては、EL発光波長のピークは約450nmと約650nmに表われた。これらのピークは、それぞれZnSとDCJTBに由来するものである。この条件下では、クマリン6に由来する約520nmのピークは観測されなかった。
【0040】
図2(b)に示す実施例2(C6:DCJTB=1:1)においては、ZnSに由来する約450nmのピークは減少し、DCJTBに由来する約650nmのピークが主として表われた。このときも、クマリン6に由来する約520nmのピークは観測されなかった。
【0041】
実施例1の結果は、次のように考察できる。最初の段階では、蛍光体にクマリン6を添加することにより、ELスペクトルは高波長側に顕著に移動し、ピークは450nmから520nmにシフトする。さらに次の段階では、蛍光体にDCJTBを添加することにより、ピークは520nmから650nmにシフトする。このような減少は、励起エネルギーが無機蛍光体から有機蛍光色素に移動したためと考えられる。図2(a)に示す実施例ではクマリン6に由来するピークが観測されなかったことから、クマリン6は、それ自身が発光することなく、DCJTBの発光を補助(アシスト)する添加剤(ドーパント)として機能していると考えられる。
【0042】
C6:DCJTBの配合比を変えると、図2(a)及び図2(b)のスペクトルからわかるように、発光波長をコントロールすることができた。ここで、C6:DCJTB=1:1の配合比では、赤色の発光を実現することができた。また、C6:DCJTB=1:1の配合比であれば、交流周波数1〜0kHzの範囲内で同様な発光スペクトルを示し、いずれも赤色の発光を与えた。
本発明によれば、緑色色素クマリン6と赤色色素DCJTBの共添加により、ZnS発光体の青色のエネルギーがほぼ100%DCJTBに遷移し、演色性の高い赤色発光を与えた。
したがって、本発明は、分散型無機ELにおける赤色の純度が低いという問題を解決するものである。
【0043】
図3に、上述の実施例2における無機ELパネルの輝度−電圧(L−V)特性を示す。交流の周波数を1kHzおよび20kHzの条件でEL発光スペクトルを測定し、各周波数におけるEL発光スペクトルを重ね合わせてグラフに表示した。印加電圧が240Vのときの本パネルの赤色発光は、20kHzで850cd/mの輝度を示し、1kHzで110cd/mの輝度を示した。本実施例における分散型無機ELパネルの輝度は、従来の薄層型無機ELパネルの輝度と同程度である。
【0044】
図4に、実施例2の無機ELパネルのEL発光の色度を、国際照明委員会(Commission Internationale de l’Eclairage、略称CIE)の色度座標(XYZ表色系)にプロットしたグラフを示す。すなわち、印加した交流の周波数を、1kHz、5kHz、10kHz、15kHz、および20kHzとしてEL発光の座標値を求め、5つの座標値をそれぞれ「○」で表示したものである。平均の座標値はx=0.62、y=0.29であり、色フィルターを用いることなく、分散型無機ELパネルで赤色発光が得られたことを確認した。また交流周波数を変えても座標値はほとんど変化しなかった。
【0045】
[実施例3]
蛍光体ペーストを調製する際、無機蛍光体ペースト10重量部に対して、クマリン6を0.00375重量部、DCJTBを0.00125重量部加えたものを用い、C6:DCJTB=3:1の配合比としたほかは、実施例1と同様に無機ELパネルを作製した。
【0046】
図5に、実施例3に係る分散型無機ELパネルにおける発光スペクトルの交流周波数に対する依存性を示す。交流の周波数を1kHz、10kHz、および15kHzの条件でEL発光スペクトルを測定し、各周波数におけるEL発光スペクトルを重ね合わせてグラフに表示した。また、印加電圧240Vのときの演色性、色度座標、色温度を測定した。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
本実施例によれば、C6:DCJTB=3:1の配合比とすることにより、交流周波数1〜15kHzの範囲内で同様な発光スペクトルを示し、いずれも色再現範囲の広い白色発光を与えた。
【0049】
[参考例]
従来の色変換技術では、ZnS発光体の色(青緑色)は必ず再現するものである。
また、参考例として、発光体層にZnSとDCJTBを添加した無機ELパネル(実施例1の構成からクマリン6を省略したもの)を作製し、ELスペクトルを測定したところ、ZnS発光体に由来する450nmのピークが顕著に表われ、青味のある赤(パープル)として観察された。このことから、クマリン6がないと、ZnS発光体の青色のエネルギーが一部しかDCJTBに遷移していないものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルにおいて、赤色発光が要求される用途に有用であり、液晶ディスプレイ用バックライト、POP、交通広告、屋外広告などへの応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】無機ELパネルの構造を模式的に示す断面図である。
【図2】無機ELパネルにおける発光スペクトルの周波数依存性の測定例を示し、(a)はC6:DCJTB=1:10の配合比のもの、(b)はC6:DCJTB=1:1の配合比のものについての結果を示すグラフである。
【図3】実施例2の無機ELパネルの輝度−電圧特性を示すグラフである。
【図4】実施例2の無機ELパネルのEL発光の色度を、CIE色度座標にプロットしたグラフである。
【図5】実施例3の無機ELパネルにおける発光スペクトルの周波数依存性の測定例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1…透明基材、2…透明導電層、3…発光体層、4…誘電体層、5…背面電極、6…交流電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に発光体層及び誘電体層を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルであって、
前記発光体層が無機蛍光体と2種類の有機色素とを必須成分として含有し、前記無機蛍光体がZnSであるとともに、前記有機色素がクマリン6とDCJTBであり、
前記のZnS、クマリン6及びDCJTBの配合比を変えることにより、それぞれの配合比に応じて、
CIE色度座標において、色度座標値が(0.16,0.18)である点Bと、
(0.26,0.60)である点Gと、
(0.54,0.28)である点Rの3点を頂点とする三角形で囲まれる領域(点B、点G及び辺BGを除く)の一点の色を発光することを特徴とする分散型無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項2】
電極間に発光体層及び誘電体層を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルであって、
前記発光体層を形成する蛍光体ペーストが無機蛍光体と2種類の有機色素とを必須成分として含有し、前記無機蛍光体がZnSであるとともに、前記有機色素がクマリン6とDCJTBであり、
前記のZnS、クマリン6及びDCJTBの配合比を変えることにより、CIE色度座標において、
蛍光体ペースト中のZnS含有量が60質量%、クマリン6の含有量が0.05質量%及びDCJTBの含有量が0.05質量%である無機エレクトロルミネッセンスパネルからの発光色のCIE色度座標における点R(X1、Y1)と、
蛍光体ペースト中のZnS含有量が60質量%、クマリン6の含有量が0.1質量%である無機エレクトロルミネッセンスパネルからの発光色のCIE色度座標における点G(X2、Y2)と、
蛍光体ペースト中にZnSのみを60質量%含有する無機エレクトロルミネッセンスパネルからの発光色のCIE色度座標における点B(X3、Y3)と、
上記の3つの座標値の点を頂点とする三角形で囲まれる領域(点B、点G及び辺BGを除く)の一点の色を発光することを特徴とする分散型無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項3】
電極間に無機蛍光体と有機色素を含有する発光体層及び誘電体層を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルであって、
前記無機蛍光体の発光エネルギーを第1の有機色素の発光エネルギーに実質的にすべて変換し、変換により得られた第1の有機色素の発光エネルギーを第2の有機色素の発光エネルギーに実質的にすべて変換することによって、第2の有機色素の発光が得られるものであり、
前記無機蛍光体がZnSであり、
前記第1の有機色素がクマリン6であり、
前記第2の有機色素がDCJTBである分散型無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項4】
電極間に発光体層及び誘電体層を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルであって、
前記発光体層が無機蛍光体と有機色素を含有し、前記無機蛍光体がZnSであるとともに、前記有機色素としてクマリン6とDCJTBを実質上重量比1:1で含有し、赤色発光することを特徴とする請求項3に記載の分散型無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項5】
電極間に無機蛍光体と有機色素を含有する発光体層及び誘電体層を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルであって、
前記無機蛍光体の発光エネルギーの一部を第1の有機色素の発光エネルギーに変換し、変換により得られた第1の有機色素の発光エネルギーの一部を第2の有機色素の発光エネルギーに変換することによって、前記無機発光体の発光、前記第1の有機色素の発光、前記第2の有機色素の発光が組み合わさって得られるものであり、
前記無機蛍光体がZnSであり、
前記第1の有機色素がクマリン6であり、
前記第2の有機色素がDCJTBである分散型無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項6】
電極間に発光体層及び誘電体層を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルであって、
前記発光体層が無機蛍光体と有機色素を含有し、前記無機蛍光体がZnSであるとともに、前記有機色素としてクマリン6とDCJTBを実質上重量比3:1で含有し、白色発光することを特徴とする請求項5に記載の分散型無機エレクトロルミネッセンスパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−238423(P2009−238423A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80131(P2008−80131)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(591097964)光村印刷株式会社 (14)
【Fターム(参考)】