説明

分析装置用試料気化装置及びICP分析装置

【課題】試料成分を含むサンプルガスがチェンバに残ることを防止し、サンプルガスを分析装置に向けて効果的に導出することができ、精度の高い成分分析に資するといった、優れた分析装置用試料気化装置を提供する。
【解決手段】ピンセットPの先端側を挿入可能な挿入口111を備えたチェンバ1と、前記チェンバ1内に配され、前記ピンセットPから供給を受けた試料を載置する窪み部231と、前記チェンバ1内にガスを導入するためのガス導入口31と、前記窪み部231の直上側に臨ませるとともに前記挿入口111から挿入した前記ピンセットPの先端部と干渉しない程度に該窪み部231に対して略限界まで近づけて成り、前記ガスを利用して前記窪み部231にある試料を気化させてチェンバ1外へ導出する試料導出口51とを具備して成るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICP分析装置やMIP分析装置などのプラズマイオン化分析装置、バーナーまたはフレームを有する分析装置、質量分析装置といった各種分析装置に対して、液体試料や固体試料などを気化して導入するための分析装置用試料気化装置及びこれを用いたICP分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ICP分析装置の検出感度を改善するようにした加熱気化導入装置が知られている。
【0003】
具体的に、この種の加熱気化導入装置は、チェンバの内部を螺旋状に回転しながら天穴から放出されるガスをチェンバ内に導入する第1ガス流出口からチェンバ内に噴射されるガスと、キュベットの下部から前記チェンバ内を通って天穴から放出されるガスを前記チェンバ内に噴射させる第2ガス流出口からチェンバ内に噴射されるガスとを、それぞれ第1及び第2ガス調節器で別個独立に流量調整するように構成して成る(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−121038
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のものでは、キュベットと天穴とが大きく離間しているため、試料成分を含むサンプルガスが天穴から好適に導出されずチェンバ内に残ってしまい、プラズマトーチで精度良く分析することができないといった問題点を有している。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、試料成分を含むサンプルガスがチェンバに残ることを防止し、サンプルガスを分析装置に向けて効果的に導出することができ、精度の高い成分分析に資するといった、優れた分析装置用試料気化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係る分析装置用試料気化装置は、所定の内部空間を有するチェンバと、前記内部空間内に配され、試料を載置可能な試料載置部と、前記チェンバ内にガスを導入するためのガス導入口と、前記試料載置部の直上側に臨ませるとともに該試料載置部に対して略限界まで近づけて成り、前記ガスを利用して前記試料載置部にある試料を気化させてサンプルガスとしてチェンバ外へ導出する試料導出口と、を具備して成ることを特徴とする。
【0007】
ここで、「試料」とは、液体試料であるか固体試料であるかを問わない。また、粉末、粉体、粒子状またはこれらの混合物(いわゆるスラリーを含む)試料など、分析装置で分析対象となり得るものであればよい。
【0008】
また、試料を試料載置部に載置する方法としては、試料が液体試料の場合には、例えば、ピペット等を用いて試料載置部に対して供給する方法が挙げられる。また、試料が固体試料の場合には、ピンセット等でつまんで試料載置部に対して供給する方法や、固体試料を水に分散させた上でピペットで吸い上げてから試料載置部に対して液滴する方法が挙げられる。また、自動搬送してきた試料を自動で試料載置部に対して載置させるといった方法も挙げられる。
【0009】
さらに、液体試料とは、文字通り液状の試料を指すのは無論のこと、例えば、固体試料を水などに分散させたものをも含む広い概念である。
【0010】
このようなものであれば、試料載置部と試料導出口とが略限界まで近接しているため、チェンバ内で気化したサンプルガスが、試料導出口へ導かれず、チェンバ内で対流してしまうことを防止し、サンプルガスを分析装置に向けて効果的に導出することができる。また、サンプルガスが発生する試料載置部に試料導出口が略限界まで近接しているので、発生したサンプルガスの試料導出口を流れ出る流速が速くなり、分析装置に早く到達することができるため、温度低下によりサンプルガスが再固化することにより、該分析装置用試料気化装置から分析装置までの管内の壁面に試料が付着することを回避できる。したがって、分析装置で、試料について精度の高い成分分析を行い得ることに資する。
【0011】
すなわち、試料成分を含むサンプルガスがチェンバに残ることを防止し、サンプルガスを分析装置に向けて効果的に導出することができ、精度の高い成分分析に資するといった、優れた分析装置用試料気化装置を提供することができる。
【0012】
なお、精度の高い成分分析を行うには、前記チェンバが、試料供給器の先端側を挿入可能な挿入口を有するものであり、前記試料載置部が、前記試料供給器から供給を受けた試料を載置可能であり、前記試料導出口が、前記試料載置部の直上側に臨ませるとともに前記挿入口から挿入した前記試料供給器の先端部と干渉しない程度に該試料載置部に対して略限界まで近づけて成るものであることが望ましい。
【0013】
ここでいう試料供給器とは、試料をチェンバ内に搬入する器具を意味し、具体的には、前述のようにピンセットやピペット等が挙げられる。
【0014】
本発明の試料導出口の望ましい態様としては、この試料導出口が、前記チェンバ内に突出させた試料導出管の先端部に形成したものであるものが挙げられる。
【0015】
前記チェンバが基端から開口にかけて漸次拡開する断面形状を有する略釣鐘形状のものであり、前記試料導出管が、チェンバの基端から開口側に向けて伸びる略直管状のものであれば、チェンバ内に導入したガスが、チェンバの形状や試料導出管の配置の影響を受けて、乱流となることを防止することができるため、前記サンプルガスに含まれる試料の成分がムラになることを防止しながら該サンプルガスを分析装置に向けて導出することができる。
【0016】
ここで、「チェンバの基端」とは、釣鐘に例えていえば「吊る部分」を指し、「チェンバの開口」とは、同様に「開口」を指す。
【0017】
サンプルガスを、分析装置へ効果的に導出するには、前記試料載置部が略椀状に窪ませて成る窪み部を有し、前記試料導出口が前記窪み部より拡開させた内寸を有するものであることが好ましい。
【0018】
試料を効果的に気化させるには、前記試料載置部が、加熱型であることが望ましい。
【0019】
前記ガス導入口と対面させて、該ガス導入口から導入したガスの直進を遮るための直風遮蔽部を設けているのであれば、チェンバ内に導入したガスは、直風遮蔽部によってその進路を妨げられるため、例えば、ガスが試料導出口から直接導出することを防止できる。したがって、サンプルガスに含まれる試料の成分がムラになることを防止しながら該サンプルガスをプラズマトーチに向けて導出することができる。
【0020】
また、試料載置部が、加熱型である場合にも、直風遮蔽部を設けることにより、ガスの直進を遮ることができ、加熱部としての試料載置部に対してガスが直接当たることを防止でき、試料載置部の温度低下を防止することができる。
【0021】
この場合、前記直風遮蔽部を、前記ガス導入口と前記試料載置部とを直線的に結ぶ間に配しているのであれば、上述した効果は顕著になる。
【0022】
迅速且つ高精度な分析に資するには、ハロゲンガスを混合したガスを、前記ガス導入口から導入し、試料中の元素をハロゲン化物として気化させればよい。
【0023】
この場合、低沸点のハロゲン化物を生成することで、通常よりも低い加熱温度で気化することが可能となり、効率よく気化することができ、高感度分析が可能となる。また、本発明においては、加熱部としての試料載置部に、試料導出口を略限界まで近接するので、試料導出口付近や、試料導出管が温度影響を強く受け、材質によっては、管が変形する等の悪影響があり得るが、ハロゲン化物として気化することで、通常よりも低温で気化できるので、加熱温度も低減でき、試料導出管等への熱影響も低減できる。
【0024】
試料を試料載置部に供給する具体的態様としては、例えば、前記内部空間を開成状態にした際に、前記試料載置部に対して、前記試料を自動的に供給する試料自動供給部を具備しているものが挙げられる。
【0025】
ここでいう「開成状態」とは、内部空間が外部に開放されている状態を言い、開放の程度は、試料載置部に対して試料が供給できる程度であればよい。
【0026】
本発明のICP分析装置の望ましい具体的態様としては、このICP分析装置が、所定の内部空間を有するチェンバと、前記内部空間内に配され、試料を載置可能な試料載置部と、前記チェンバ内にガスを導入するためのガス導入口と、前記試料載置部の直上側に臨ませるとともに該試料載置部に対して略限界まで近づけて成り、前記ガスを利用して前記試料載置部にある試料を気化させてサンプルガスとしてチェンバ外へ導出する試料導出口と、高周波誘導結合プラズマを励起源として前記試料導出口から導出されたサンプルガスを励起させるプラズマトーチと、前記サンプルガスの励起によって生じる光を分光する分光器と、分光された光を検出する検出器と、を具備して成るものが挙げられる。
【0027】
このようなものであれば、試料載置部と試料導出口とが略限界まで近接しているため、チェンバ内で気化したサンプルガスが、試料導出口へ導かれず、チェンバ内で対流してしまうことを防止し、サンプルガスをプラズマトーチに向けて効果的に導出することができる。また、サンプルガスが発生する試料載置部に試料導出口が略限界まで近接しているので、発生したサンプルガスの試料導出口を流れ出る流速が速くなり、プラズマトーチに早く到達することができるため、温度低下によりサンプルガスが再固化することにより、試料導出口からプラズマトーチまでの管内の壁面に試料が付着することを回避できる。したがって、プラズマトーチで、試料について精度の高い成分分析を行い得ることに資する。
【0028】
なお、前記チェンバが、試料供給器の先端側を挿入可能な挿入口を有するものであり、前記試料載置部が、前記試料供給器から供給を受けた試料を載置可能であり、前記試料導出口が、前記試料載置部の直上側に臨ませるとともに前記挿入口から挿入した前記試料供給器の先端部と干渉しない程度に該試料載置部に対して略限界まで近づけて成るものであれば、試料について精度の高い成分分析を好適に行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように本発明の分析装置用試料気化装置によれば、試料載置部と試料導出口とが略限界まで近接しているため、チェンバ内で気化したサンプルガスが、試料導出口へ導かれず、チェンバ内で対流してしまうことを防止し、サンプルガスを分析装置に向けて効果的に導出することができる。また、サンプルガスが発生する試料載置部に試料導出口が略限界まで近接しているので、発生したサンプルガスの試料導出口を流れ出る流速が速くなり、分析装置に早く到達することができるため、温度低下によりサンプルガスが再固化することにより、該分析装置用試料気化装置から分析装置までの管内の壁面に試料が付着することを回避できる。したがって、分析装置で、試料について精度の高い成分分析を行い得ることに資する。
【0030】
すなわち、試料成分を含むサンプルガスがチェンバに残ることを防止し、サンプルガスを分析装置に向けて効果的に導出することができ、精度の高い成分分析に資するといった、優れた分析装置用試料気化装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
本実施形態にかかるICP分析装置Z(本発明の「分析装置」に相当)は、図1、図2に示すように、試料供給器としての固体試料を保持するピンセットPの先端側を挿入可能な挿入口111を備えたチェンバ1、チャンバの略中央に配されるとともに一対の加熱用電極Hに接続支持され且つ前記ピンセットPから供給を受けた試料を載置する窪み部231(本発明の「試料載置部」に相当)を設けた試料載置部2、前記チェンバ1内にガスを導入するためのガス導入口31、前記ガス導入口31と対面させて、該ガス導入口31から導入したガスの直進を遮るための直風遮蔽部4、及び、前記窪み部231の直上側に臨ませた試料導出口51を先端部に有して成り且つ前記ガスを利用して前記窪み部231にある試料を気化させたサンプルガスをチェンバ1外へ導出する試料導出管5を備えて成るICP分析装置用試料気化装置A(本発明の「分析装置用試料気化装置」に相当)と、高周波誘導結合プラズマを励起源として前記試料導出口51から導出されたサンプルガスを励起させるプラズマトーチBと、前記サンプルガスの励起によって生じる光を分光する分光器C(図示せず)と、分光された光を検出する検出器D(図示せず)と、を具備して成る。
【0033】
そして、本実施形態では、このICP分析装置Zを、チェンバ1に対してハロゲンガス(例えば塩素ガス)を含有したアルゴンガス(以下、「ハロゲン含有アルゴンガス」と称する)を供給するボンベEと、ハロゲン含有アルゴンガスの流量を調整する電磁弁Fと、前記加熱用電極Hに電圧を印加するための電源(図示せず)と、電源及び電磁弁Fを制御可能に構成され且つ検出器Dによって測定された光の分光スペクトルを入力できるコンピュータ(図示せず)とに接続させている。
【0034】
以下、各部を具体的に説明する。
【0035】
チェンバ1は、図2に示すように、基端部1aから開口部1bにかけて漸次拡開する断面形状の略釣鐘形状を有し且つ略透明なガラス製のチェンバ本体11と、このチェンバ本体11のフランジ部110を支持する概略円筒状のチェンバ支持体12と、このチェンバ支持体12の下側開口部を閉塞支持するチェンバ閉塞支持体13と、チェンバ支持体12の内縁部に配したチェンバ内側体14とを具備している。そして、該チェンバ1の肩部に略円筒状の前記挿入口111を設ける一方、この挿入口111の反対側にドレン用の排出口112を設けている。
【0036】
試料載置部2は、一対の加熱用電極Hにより加熱されるものであって、図2に示すように、各加熱用電極Hに取り付けるための一対の取付片21と、各取付片21の内側両端部をそれぞれ略直角に起立させた一対の起立片22と、各起立片22の上端部間に架け渡した試料載置片23とを具備して成る断面視略下向きコ字状を成すものであって、これら各部を板金を折曲加工等により一体に形成している。なお、本実施形態では、タンタル材を用いて形成しているが、金属の種類はこれに限られるものではない。また、例えばセラミックス材料を用いたり黒鉛材料を用いたり、或いは金属と黒鉛との混合材料を用いたりするなど材質も適宜変更可能である。また、本実施形態では、試料載置片23の略中央部に、略椀状に窪ませた窪み部231を設けている。これにより、固体試料であれば、試料が落ちにくく、また、液体試料であれば、好適に溜めておくことができる。
【0037】
ガス導入口31は、図2に示すように、ガス供給配管を介してボンベEからハロゲン含有アルゴンガスの供給を受けるものであって、電磁弁Fに接続されるガス導入体3の先端部に形成されるとともに、その吹出し口311を上方に向けて開口して成る。したがって、このガス導入口31からハロゲン含有アルゴンガスは、上方へ向けて吹き出されることとなる。
【0038】
直風遮蔽部4は、図2、図3に示すように、平面視略円形状を成す薄板状のものであって、本実施形態では金属を打抜き加工等することで形成している。そして、本実施形態では、上下に貫通する貫通孔41を2箇所設け、この各貫通孔41に各加熱用電極Hをそれぞれ挿通させている。また、これら貫通孔41の間の領域42は、平面視前記ガス導入口31と重なる位置に配されており、この領域42に、ガス導入口31から吹き出されたハロゲン含有アルゴンガスが、まず当たることで、ハロゲン含有アルゴンガスの直進を遮っている。
【0039】
試料導出管5は、図2に示すように、チェンバ1の基端から開口端に向けて伸びる略透明なガラス製の段付略直管状のものであって、先窄みした先端部に丸孔状の試料導出口51を備える一方、基端部の開口部52をソケットSKを介してプラズマトーチBへ繋がる配管に接続させている。なお、試料導出口51は、前記窪み部231の外径(dx)より若干拡開させた内径(dy)を有するようにしている(図4参照)。
【0040】
ここで、試料導出管5の先端部を先窄みさせた試料導出口51の内径(dy)を、窪み部231の外径(dx)よりも若干大きくしているのは、以下の理由による。
【0041】
図6に示す(a)〜(c)に分けて具体的にその説明を行う。
【0042】
ここで、(a)は、試料導出口51の内径(dy)と窪み部231の外径(dx)とが略一致するものであり、且つ試料導出管5の先端部が先窄みで無い場合である。
【0043】
(b)は、試料導出口51の内径(dy)が窪み部231の外径(dx)よりも明らかに大きく、且つ試料導出管5の先端部が先窄みで無い場合である。
【0044】
(c)は、試料導出口51の内径(dy)と窪み部231の外径(dx)とが略一致するものであり、且つ試料導出管5の先端部が先窄みである場合(本願実施形態)である。
【0045】
(a)の場合には、試料導出管5の径が小さいため、(b)の大きい場合のものと比べ流速が大きくなる。したがって、プラズマトーチBに早く導くことができるので、温度低下により試料ガスSGが再固化することを防止し、プラズマトーチBまでの管内の壁面に試料が付着することを回避できるといった利点がある。しかしながら、試料ガスSGが、爆発的に(一瞬で大量に)発生した場合、試料導出管5外に試料ガスSGが逃げてしまいプラズマトーチBに導くことが出来ないといった欠点がある。
【0046】
(b)の場合には、プラズマトーチBに導かれる試料ガスSGが多すぎた際に、プラズマが消えてしまうといった欠点がある。
【0047】
(c)の場合、すなわち、本実施形態の場合には、試料導出管5の先端が窄まっているので、(a)と同様に、流速を保てる。なおかつ、試料導出管5の先端部から入り込んだ部分が先端部より広いので、その部分がバッファの役割を果たして、試料ガスSGが、プラズマトーチBに過剰に導かれることを防止することができる。
【0048】
また、この試料導出口51は、窪み部231の直上側に臨ませるに加え、前記挿入口111から挿入した前記ピンセットPの先端部と干渉しない程度に該窪み部231に対して略限界まで近づけた位置に配されるようにしている。なお、「試料導出口51を、窪み部231に対して略限界まで近づけている」という条件下で、例えば、ピンセットPを挿入口111に差し込んで窪み部231に試料を載置する際に、ピンセットPと試料導出管5とが接触しても良く、同様に、ピンセットPを挿入口111に対して出し入れする際に、ピンセットPと試料導出管5とが接触しても良い。
【0049】
プラズマトーチBは、図1に示すように、例えば石英の三重管より成るものである。具体的には、試料ガスSGが流れる試料ガス流路B1、アルゴンガスが流れるプラズマガス流路B2、及び、冷却ガス(例えばアルゴンガスが流れる冷却ガス流路B3がこの順に内部から外部に同心配置されると共に、その先端部近傍の外周には高周波電源に接続された誘導コイルB4が周設されている。そして、この誘導コイルB4による高周波磁界によってプラズマトーチBに供給される試料ガスSGがプラズマ化し、プラズマ発光するように構成されている。
【0050】
分光器Cは、プラズマトーチBから得た光の束を分光し、特定のスペクトル線を選別するものである。なお、本実施形態では、この分光器Cに、例えば平面グレーティングを用いたツェルニターナ型の分光器を用いているが、分光器の種類はこれに限られない。
【0051】
検出器Dは、前記分光器Cで分光された光の強度を検出するものであって、本実施形態では、CCD方式の光検出器を用いている。
【0052】
次に、このように構成したICP分析装置Zの使用方法について説明する。
【0053】
(1)試料の窪み部231への試料載置について
【0054】
なお、本実施形態では、試料供給器としてピンセットPを用いているが、その種類はこれに限られるものではない。
【0055】
試料が、液体の場合には、試料供給器として、先窄まり形状を有するピペット等を用いることができる。
【0056】
この場合、液体試料を内部に吸い込んだピペットPPの先端部を、チェンバ1の挿入口111に挿入し、さらに、このピペットPPがチェンバ1の挿入口111を利用して安定支持される所定位置まで差し込む。すると、ピペットPPの先端部に設けた液滴口P1が、窪み部231の略直上に位置付けられる(図9参照)。しかして、液体試料を窪み部231に対して好適に液滴することができる上、窪み部231を略椀状にしているので、液体試料を好適に溜めておくことができる。なお、液滴作業が終われば、ピペットPPをチェンバ1の挿入口111から抜き、挿入口111に栓(図示せず)を行う。
【0057】
(2)試料の気化について
【0058】
このように、試料を、窪み部231に溜めた状態で、コンピュータによって電磁弁Fを制御することにより、ガス導入口31を利用してチェンバ1内に、ハロゲン含有アルゴンガスGが供給される。
【0059】
ここで、ハロゲン含有アルゴンガスGの供給流量≦試料ガスSGの導出流量となるように、ハロゲン含有アルゴンガスGの供給流量を電磁弁Fによりコントロールしている。これは、供給流量>導出流量の場合には、チェンバ1内で、ガスが対流してしまい、ひいては圧損が生じるからである。
【0060】
また、同時にコンピュータによって加熱電極に流れる電流又は電圧を制御することにより、試料載置部2が所定温度に加熱される。なお、この所定温度は、試料の種類に応じて適宜設定可能である。
【0061】
しかして、試料が加熱され気化する。その際、該試料は、ハロゲン含有アルゴンガスGによってハロゲン化物として気化され、試料ガスSGとして試料導出口51からプラズマトーチBに向けて導出される(図5参照)。
【0062】
ここで、ガス導入口31から真上に向かって吹き出されたハロゲン含有アルゴンガスGは、直風遮蔽部4によってその直進を妨げられる。すなわち、このハロゲン含有アルゴンガスGが、試料導出口51から直接的に導出されることはない。また、ハロゲン含有アルゴンガスGが、加熱用電極Hに直接当たることを遮ることができ、電極の温度低下を防ぐことができる。
【0063】
また、試料導出口51を、窪み部231に対して略限界まで近づけているため、試料ガスSGは効率よく試料導出口51から導出される。
【0064】
(3)試料の分析について
【0065】
このようにして、試料ガスSGがプラズマトーチBに運ばれる。
【0066】
この試料ガスSGの発生に先立って、コンピュータが電磁弁(図示せず)を開状態に制御することで、プラズマトーチBのプラズマガス流路B2および冷却ガス流路B3に適宜の流量のアルゴンガスが流れると共に、電源を制御することで誘導コイルB4に高周波電力を供給してプラズマ炎BAを発生させる。
【0067】
しかして、試料ガスSGが試料ガス流路B1内に流入されれば、プラズマ炎BA内においてプラズマ化する。このとき、試料ガスSGに含まれる測定対象成分が、それぞれ独特の波長の光をプラズマ発光し、分光器Cがこの光を分光する。そして、この分光された各波長の光を検出器Dが検出する。
【0068】
そして、コンピュータに、測定対象試料を構成する測定対象成分の量を表わす分光スペクトルを入力すること、該コンピュータでこの分光スペクトルを解析して、測定対象試料を構成する測定対象成分の量を精度良く求めることができる。
【0069】
したがって、以上のように構成した本実施形態に係るICP分析装置Zによれば、窪み部231を有する試料載置部2と試料導出口51とが略限界まで近接しているため、チェンバ1内で気化した試料ガスSGが、試料導出口51へ導かれず、チェンバ1内で対流してしまうことを防止し、試料ガスSGをプラズマトーチBに向けて効果的に導出することができる。また、試料ガスSGが発生する試料載置部2に試料導出口51が略限界まで近接しているので、発生した試料ガスSGの試料導出口51を流れ出る流速が速くなり、プラズマトーチBに早く到達することができるため、温度低下により試料ガスSGが再固化することにより、試料導出口51からプラズマトーチBまでの管内の壁面に試料が付着することを回避できる。したがって、試料について精度の高い成分分析を行うことができる。
【0070】
すなわち、試料ガスSGがチェンバ1に残ることを防止し、試料ガスSGをプラズマトーチBに向けて効果的に導出することができ、精度の高い成分分析を行うことができるといった、優れたICP分析装置Zを提供することができる。
【0071】
試料導出口51が、チェンバ1内に突出させた試料導出管5の先端部に形成したものであるため、簡単な構成で実現でき、無用なコストアップを招かない。
【0072】
前記チェンバ本体11が基端部1aから開口部1bにかけて漸次拡開する断面形状を有する略釣鐘形状のものであり、前記試料導出管5が、チェンバ本体11の基端部1aから開口部1bに向けて伸びる略直管状のものであるため、チェンバ本体11内に導入したハロゲン含有アルゴンガスが、チェンバ本体11の形状や試料導出管5の配置の影響を受けて、乱流となることを防止することができ、試料ガスSGに含まれる試料の成分がムラになることを防止しながら該試料ガスSGをプラズマトーチBに向けて導出することができる。
【0073】
前記窪み部231が略椀状に窪ませて成るものであり、前記試料導出口51が前記窪み部231より拡開させた内径を有するものであるため、試料ガスSGを、プラズマトーチBへ効果的に導出することができる。
【0074】
窪み部231が、加熱型であるので、試料を効果的に気化させることができる。
【0075】
前記ガス導入口31と対面させて、該ガス導入口31から導入したハロゲン含有アルゴンガスGの直進を遮るための直風遮蔽部4を設けているため、、チェンバ1内に導入したハロゲン含有アルゴンガスGは、直風遮蔽部4によってその進路を妨げられ、ハロゲン含有アルゴンガスGが試料導出口51から直接的に導出することを防止できる。したがって、試料ガスSGに含まれる試料の成分がムラになることを防止しながら該試料ガスSGをプラズマトーチBに向けて導出することができる。
【0076】
また、ガス導入口31と加熱型である試料載置部2とを直線的に結ぶ間に、直風遮蔽部4を設けていることにより、ハロゲン含有アルゴンガスGの直進を効果的に遮ることができ、加熱部としての試料載置部2に対してハロゲン含有アルゴンガスGが直接当たることを防止でき、試料載置部2の温度低下を防止することができる。
【0077】
ハロゲンガスを混合したガスを、前記ガス導入口31から導入し、試料中の元素をハロゲン化物として気化させるようにしているため、前処理なしで、迅速且つ高精度な分析に資する。これは、低沸点のハロゲン化物を生成することで、通常よりも低い加熱温度で気化することが可能となり、効率よく気化することができるからである。
【0078】
また、加熱部としての試料載置部2に、試料導出口51を略限界まで近接するので、試料導出口51付近や、試料導出管5が温度影響を強く受け、材質によっては、管が変形する等の悪影響があり得るが、ハロゲン化物として気化することで、通常よりも低温で気化できるので、加熱温度も低減でき、試料導出管5等への熱影響も低減できる。
【0079】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0080】
例えば、分析用のガスにハロゲン含有アルゴンガスを用いているが、ハロゲンガスに代えて例えば水素ガスや酸素ガスなどの試料と反応するガスを用いることができる。また、例えば、ネオンガスや窒素ガスなど、その他の不活性ガス(試料と反応しないガス)を用いることができる。
【0081】
また、チェンバ1や試料導出管5の形状や材質等の構成も本実施形態に限られるものではない。
【0082】
例えば、図7に示すように、チェンバ本体11内部に一体に突出させて成り且つ略円筒状で先窄み形状を有する突出部11Xを設けるといった実施態様も考えられる。この場合、試料導出管5の下端側は、上記実施形態の如く先窄みにする必要は無い。
【0083】
また、本実施形態では、試料を固体試料としているが、液体試料としたり、あるいは、固体の場合、粉末、粉体、粒子状またはこれらの混合物(いわゆるスラリーを含む)試料とするなど、分析装置で分析対象となり得るものであればよい。
【0084】
また、試料載置部の構成も、例えば、平面視矩形状のものや多角形状のものとするなど、本実施形態のものに限られるものではない。
【0085】
また、試料の種類に応じて、試料載置部への試料供給方法は適宜変更可能である。例えば、試料が液体試料の場合には、例えば、ピペット等を用いて試料載置部に対して供給する方法が挙げられる。また、試料が固体試料の場合には、ピンセット等でつまんで試料載置部に対して供給する方法や、固体試料を水に分散させた上でピペットで吸い上げてから試料載置部に対して液滴する方法が挙げられる。
【0086】
また、例えば、チェンバ1が閉塞状態から図8に示す開成状態になったことを検知した際に、所定量の試料を試料載置部に対して自動的に供給するといった試料自動供給部を用いることができる。
【0087】
また、上記実施形態のICP分析装置用試料気化装置Aを、MIP分析装置に適用したり、他の高温プラズマ分析装置、バーナーまたはフレームを有する分析装置、あるいは質量分析装置に適用したりすることができる。
【0088】
例えば、ICP分析装置用試料気化装置Aを、MIP分析装置用試料気化装置AAとして、MIP分析装置に適用する場合には、図9に示すように、このMIP分析装置Xが、MIP分析装置用試料気化装置AAから試料ガスを吸引してディスチャージ管X1に導入するアスピレータX2と、ディスチャージ管X1に導入された試料ガスを、マイクロ波誘導プラズマX31により励起して光を生じさせるプラズマ発生部X3と、当該プラズマ発生部X3により生じた光を取り込み、その光を所定の波長毎に分光する分光部X4と、この分光部X4により分光された光を検出する光検出部X5と、前記光検出部X5から光強度信号を受け付けて、測定試料の組成、粒径情報及び粒子数などを算出する情報処理装置X6とを具備して成るようにすればよい。
【0089】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の一実施形態であるICP分析装置の構成を概略的に示す全体概略図。
【図2】同実施形態に係るICP分析装置用試料気化装置の構成を概略的に示す全体概略図。
【図3】同実施形態に係る直風遮蔽部とガス導入口との位置関係を説明するための図。
【図4】同実施形態に係るICP分析装置用試料気化装置の要部拡大図。
【図5】同実施形態に係るICP分析装置用試料気化装置の動作を説明するための図。
【図6】同実施形態に係る試料導出口の内径と窪み部の外径との設定関係による試料導出効果を説明するための図。
【図7】本発明の他の実施形態におけるICP分析装置用試料気化装置の要部の構成を概略的に示す図。
【図8】本発明の他の実施形態におけるICP分析装置用試料気化装置の構成を概略的に示す図。
【図9】本発明の他の実施形態における試料供給器を用いたICP分析装置用試料気化装置の構成を概略的に示す図。
【図10】本発明の他の実施形態におけるMIP分析装置の構成を概略的に示す全体概略図。
【符号の説明】
【0091】
A・・・・・分析装置用試料気化装置(ICP分析装置用試料気化装置)
B・・・・・プラズマトーチ
C・・・・・分光器
D・・・・・検出器
Z・・・・・分析装置(ICP分析装置)
P・・・・・試料供給器(ピンセット)
PP・・・・試料供給器(ピペット)
P1・・・・液滴口
SG・・・・サンプルガス
dy・・・・試料導出口51の内寸(内径)
1・・・・・チェンバ
4・・・・・直風遮蔽部
5・・・・・試料導出管
31・・・・ガス導入口
51・・・・試料導出口
111・・・挿入口
231・・・窪み部(試料載置部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の内部空間を有するチェンバと、
前記内部空間内に配され、試料を載置可能な試料載置部と、
前記チェンバ内にガスを導入するためのガス導入口と、
前記試料載置部の直上側に臨ませるとともに該試料載置部に対して略限界まで近づけて成り、前記ガスを利用して前記試料載置部にある試料を気化させてサンプルガスとしてチェンバ外へ導出する試料導出口と、を具備して成ることを特徴とする分析装置用試料気化装置。
【請求項2】
前記チェンバが、試料供給器の先端側を挿入可能な挿入口を有するものであり、
前記試料載置部が、前記試料供給器から供給を受けた試料を載置可能であり、
前記試料導出口が、前記試料載置部の直上側に臨ませるとともに前記挿入口から挿入した前記試料供給器の先端部と干渉しない程度に該試料載置部に対して略限界まで近づけて成るものであることを特徴とする請求項1記載の分析装置用試料気化装置。
【請求項3】
前記試料導出口が、前記チェンバ内に突出させた試料導出管の先端部に形成したものであることを特徴とする請求項1または2記載の分析装置用試料気化装置。
【請求項4】
前記チェンバが基端から開口にかけて漸次拡開する断面形状を有する略釣鐘形状のものであり、
前記試料導出管が、チェンバの基端から開口側に向けて伸びる略直管状のものであることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の分析装置用試料気化装置。
【請求項5】
前記試料載置部が略椀状に窪ませて成る窪み部を有し、前記試料導出口が前記窪み部より拡開させた内寸を有するものであることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の分析装置用試料気化装置。
【請求項6】
前記試料載置部が、加熱型であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の分析装置用試料気化装置。
【請求項7】
前記ガス導入口と対面させて、該ガス導入口から導入したガスの直進を遮るための直風遮蔽部を設けていることを特徴とする請求項1乃至6いずれか記載の分析装置用試料気化装置。
【請求項8】
前記直風遮蔽部を、前記ガス導入口と前記試料載置部とを直線的に結ぶ間に配していることを特徴とする請求項7記載の分析装置用試料気化装置。
【請求項9】
ハロゲンガスを混合したガスを、前記ガス導入口から導入し、
試料中の元素をハロゲン化物として気化させることを特徴とする請求項1乃至8いずれか記載の分析装置用試料気化装置。
【請求項10】
前記内部空間を開成状態にした際に、
前記試料載置部に対して、前記試料を自動的に供給する試料自動供給部を具備していることを特徴とする請求項1乃至9いずれか記載の分析装置用試料気化装置。
【請求項11】
所定の内部空間を有するチェンバと、
前記内部空間内に配され、試料を載置可能な試料載置部と、
前記チェンバ内にガスを導入するためのガス導入口と、
前記試料載置部の直上側に臨ませるとともに該試料載置部に対して略限界まで近づけて成り、前記ガスを利用して前記試料載置部にある試料を気化させてサンプルガスとしてチェンバ外へ導出する試料導出口と、
高周波誘導結合プラズマを励起源として前記試料導出口から導出されたサンプルガスを励起させるプラズマトーチと、
前記サンプルガスの励起によって生じる光を分光する分光器と、
分光された光を検出する検出器と、を具備して成ることを特徴とするICP分析装置。
【請求項12】
前記チェンバが、試料供給器の先端側を挿入可能な挿入口を有するものであり、
前記試料載置部が、前記試料供給器から供給を受けた試料を載置可能であり、
前記試料導出口が、前記試料載置部の直上側に臨ませるとともに前記挿入口から挿入した前記試料供給器の先端部と干渉しない程度に該試料載置部に対して略限界まで近づけて成るものであることを特徴とする請求項11記載のICP分析装置。
【請求項13】
前記試料導出口が、前記チェンバ内に突出させた試料導出管の先端部に形成したものであることを特徴とする請求項11または12記載のICP分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−240156(P2007−240156A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58684(P2006−58684)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】