分波回路、高周波回路及び高周波モジュール
【課題】回路の複雑化及び大型化、及び挿入損失の増加を抑制しつつ、不要帯域を低減した分波回路を提供する。
【解決手段】共通端子と、低周波端子と、高周波端子と、前記共通端子と前記低周波端子との間に設けられた低周波フィルタを有する低周波側経路と、前記共通端子と前記高周波端子との間に設けられた高周波フィルタを有する高周波側経路とを具備する分波回路であって、前記共通端子側に形成された寄生容量を高調波を抑制するキャパシタとして用いることを特徴とする分波回路。
【解決手段】共通端子と、低周波端子と、高周波端子と、前記共通端子と前記低周波端子との間に設けられた低周波フィルタを有する低周波側経路と、前記共通端子と前記高周波端子との間に設けられた高周波フィルタを有する高周波側経路とを具備する分波回路であって、前記共通端子側に形成された寄生容量を高調波を抑制するキャパシタとして用いることを特徴とする分波回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等の移動体通信機器、電子機器、電気機器等の間における無線通信装置等に用いる分波回路、高周波回路及びそれを用いた高周波モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯無線システムには、例えば主に欧州で盛んなEGSM (Extended Global System for Mobile Communications)方式及びDCS (Digital Cellular System)方式、米国で盛んなPCS (Personal Communication Service)方式、日本で採用されているPDC (Personal Digital Cellular )方式等の時分割マルチプルアクセス(TDMA)を用いた様々なシステムがある。従来、複数のシステムに対応した小型軽量の高周波回路部品として、例えばEGSMとDCSの2つのシステムに対応した携帯通信機に用いられるデュアルバンド対応の高周波スイッチモジュールや、EGSM、DCS及びPCSの3つのシステムに対応した携帯通信機に用いられるトリプルバンド対応の高周波スイッチモジュール等が提案されている。現在IEEE802.11規格に代表される無線LANによるデータ通信が広く一般化しているが、この無線LANの規格には周波数帯域等の異なる複数の規格がある。無線LANを用いたマルチバンド通信装置にも種々の高周波回路が使用されている。
【0003】
1台の携帯電話機を複数の周波数帯に共用する場合、アンテナで送受信される複数の周波数帯の送受信信号を分波する回路、及び送受信経路を切り換えるスイッチを組み込んだ高周波スイッチモジュールが必要である。マルチバンド無線通信のキーパーツである高周波スイッチモジュールには小型化及び高性能化の要請が強く、とりわけ不要帯域のノイズの除去が必須である。
【0004】
このような要請に応じるために、特開平11-27177号は、パワーアンプからの送信信号に生じる高調波歪を除くためにアンテナとグランド間に生じる浮遊容量を利用することにより、フィルタの個数を減らした高周波スイッチを提案している。この高周波スイッチでは、アンテナ用端子、送信回路用端子及び受信回路端子とグランドとの間に発生する浮遊容量を調整するとともに、チョーク素子である伝送線路長をほぼλ/6に調整することにより、3倍高調波帯域に減衰極を設けている。具体的な調整方法は明記されていないが、これら全ての浮遊容量を調整すると同時に伝送線路を所望の長さに調整することは非常に煩雑である。また例えばGSMシステムでは約7倍波までの高調波レベルを低減する必要があるが、この方法では3倍波の減衰極のみを利用しているため、このような高次の高調波レベルを低減できない。
【0005】
特開2003-69362号は、2倍の高調波を効率的に除去するために、ローパスフィルタ端子側に2倍波の周波数を共振周波数とする並列共振回路を設けたダイプレクサを提案している。このダイプレクサでは、共通端子及びローパスフィルタ端子に並列共振回路を設けることにより、信号損失を低減させるとともに、低周波側の第一の周波数の2倍の高調波を効率良く除去している。具体的には、ダイプレクサのローパスフィルタ回路は、コイルとキャパシタとにより構成された二つの並列共振回路を有し、これらの並列共振回路の接続部とローパスフィルタ端子に接地容量が設けられている。しかし二つの並列共振回路を接続すると、ダイプレクサが大型化するだけでなく、その回路構成が複雑化してしまう。また多段のローパスフィルタでは挿入損失が大きくなるため、特性劣化の弊害がある。その上、このダイプレクサのローパスフィルタ回路は、第一の周波数の2倍又は第二の周波数を減衰するように設定されているため、n次高調波以外の不要帯域を十分に低減できない。
【0006】
EGSM及びDCSはそれぞれ900 MHz帯及び1800 MHz帯と異なる周波数帯を用いるが、両者の回路が混在すると干渉して信号が漏れ、アイソレーション特性が劣化する。この問題は高周波部品の小型化に伴いいっそう顕在化する。これに対し、特開2001-352202号は、通過帯域の異なる複数の送受信系を扱う高周波スイッチモジュールにおいて、一方の送受信系と他方の送受信系とを積層体の平面方向で領域を分けて形成する高周波スイッチモジュールを提案している。しかし、積層体の平面方向で異なる領域を分けて形成しているため、一方の送受信系と他方の送受信系とのシールドは十分に取れないという問題があった。
【0007】
高周波スイッチモジュールに用いられるローパスフィルタに関して、特開2004-328136号は、信号波(基本波)の2倍波及び3倍波の減衰量特性を向上させるために、直列共振回路と並列共振回路を縦続したローパスフィルタであって、前記並列共振回路の両端に接地容量が接続され、前記直列共振回路と前記並列共振回路との間に位相調整用の伝送線路が介挿されたローパスフィルタを提案している。しかしながら、マルチバンド化等に伴う高性能化の要請に対して、このローパスフィルタの減衰量特性及び挿入損失は必ずしも十分ではなかった。またローパスフィルタとノッチフィルタを複合フィルタとし、さらにそれらを接続する伝送線路を追加すると、回路間、フィルタを構成する伝送線路、容量間の電磁干渉や寄生容量による特性劣化が少なからず発生する。その上、複合フィルタは特性向上のために小型化を犠牲にしている。このように積層モジュールの高集積化が進む中で、小型化及び高性能化の要請を満足しつつ、ローパスフィルタやそれを用いた積層モジュールを構成するインダクタ等の素子の配置を設計することは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の第一の目的は、回路の複雑化及び大型化、及び挿入損失の増加を抑制しつつ、不要帯域を低減した分波回路を提供することである。
【0009】
本発明の第二の目的は、かかる分波回路を備えた高周波回路を提供することである。
【0010】
本発明の第三の目的は、かかる高周波回路を多層基板に構成した高周波モジュールを提供することである。
【0011】
本発明の第四の目的は、実装面積の増加を抑えつつ、周波数帯の異なる送受信回路同士の相互干渉及び信号漏洩を抑制した高周波ジュールを提供することである。
【0012】
本発明の第五の目的は、インダクタ及びキャパシタの設計が容易で、フィルタ性能に優れたローパスフィルタを有する高周波モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の分波回路は、共通端子と、低周波端子と、高周波端子と、前記共通端子と前記低周波端子との間に設けられた低周波フィルタを有する低周波側経路と、前記共通端子と前記高周波端子との間に設けられた高周波フィルタを有する高周波側経路とを具備し、前記低周波フィルタは前記低周波側経路に直列に接続された第一の伝送線路と、前記第一の伝送線路の一部に並列接続されたキャパシタとを有することを特徴とする。この分波回路では、不要帯域を抑制する並列共振回路が低周波側経路の第一の伝送線路の一部を用いて構成されるので、分波回路を小型化することができる。
【0014】
上記分波回路において、前記キャパシタは前記第一の伝送線路の低周波端子側の一部に並列接続して並列共振回路を構成し、前記第一の伝送線路の前記一部以外の部分はインダクタンス部を構成しているのが好ましい。低周波フィルタの第一の伝送線路のうち、インダクタンス部を構成する部分を共通端子側に、前記並列共振回路を構成する部分を前記低周波端子側に配置することにより、前記並列共振回路の配置の自由度が向上する。キャパシタの一端を、前記第一の伝送線路の一部に並列接続し、他端を低周波端子に接続された他の回路素子に接続しても良い。
【0015】
本発明の第二の分波回路は、共通端子と、低周波端子と、高周波端子と、前記共通端子と前記低周波端子との間に設けられた低周波フィルタを有する低周波側経路と、前記共通端子と前記高周波端子との間に設けられた高周波フィルタを有する高周波側経路とを具備し、前記共通端子側に形成された寄生容量を高調波を抑制するキャパシタとすることを特徴とする。この分波回路の共通端子を他の回路素子に接続すれば、上記寄生容量が容量素子として機能し、設計の効率及び自由度が向上する。例えば上記共通端子をアンテナと接続すると、アンテナ端子に上記寄生容量を付加できるため、高調波抑制に効果を発揮する。
【0016】
上記分波回路において、前記高周波フィルタは前記共通端子に接続された第一のキャパシタを備え、前記第一のキャパシタの前記共通端子側に前記寄生容量が形成されていても良い。
【0017】
上記分波回路において、前記第一のキャパシタを構成する対向電極のうち前記共通端子に接続された電極と、グランド電極とが対向して配置され、もって両電極の間に前記寄生容量が形成されているのが好ましい。分波回路を構成するキャパシタのうち共通端子に接続されたキャパシタの接続端子側の電極を利用することにより、簡単な構造で効率的に寄生容量を形成することができ、もって回路の大型化を避けることができる。
【0018】
上記分波回路において、前記高周波フィルタは、前記共通端子に接続された第一のキャパシタと、前記第一のキャパシタと前記高周波端子との間に接続された第二のキャパシタと、前記第一のキャパシタと前記第二のキャパシタとの間とグランドとの間に接続された第三の伝送線路及び第三のキャパシタからなる直列共振回路とを備え、前記第三の伝送線路、前記第一のキャパシタ、前記第二のキャパシタ及び前記第三のキャパシタは電極パターンが形成された誘電体層を積層してなる積層体内に構成されており、前記積層体内で前記第一のキャパシタを構成する対向電極のうち前記共通端子に接続された電極がグランド電極に対向しているのが好ましい。分波回路を構成するキャパシタのうち共通端子に接続された電極をグランド電極に対向させるので、効率的に寄生容量を発生させることができるだけでなく、グランド電極の面積や、前記第一のキャパシタを構成する対向電極のうち前記共通端子に接続された電極とグランド電極との距離等を変えることにより簡単に寄生容量を調整できる。
【0019】
本発明の第一の高周波回路は、前記第一の分波回路を備え、前記低周波端子に接続された第二の伝送線路を有し、前記キャパシタは前記第一の伝送線路の一部と前記第二の伝送線路の少なくとも一部に並列に接続されていることを特徴とする。第一の伝送線路と、低周波端子に接続された他の回路の伝送線路とを用いて、不要帯域を抑制する並列共振回路を構成するので、分波回路を小型化できる。またキャパシタが第一の伝送線路と第二の伝送線路に跨ぐように接続されているため、この高周波回路を多層基板に形成する場合に前記キャパシタの配置が容易である。
【0020】
上記高周波回路は、前記低周波端子に接続され、前記低周波側経路の送信側経路と受信側経路との切り替えを行うスイッチ回路を有し、前記第二の伝送線路は前記スイッチ回路の受信側経路に設けられた伝送線路であるのが好ましい。この構成により、分波回路の後段にスイッチ回路を有し、不要帯域を抑制する小型の高周波回路が得られる。
【0021】
本発明の第一の高周波モジュールは、前記分波回路又は前記高周波回路が、電極パターンが形成された誘電体層を積層してなる多層基板に構成されていることを特徴とする。この構成により不要帯域を抑制する小型の高周波回路が得られる。
【0022】
上記高周波モジュールにおいて、前記第一の伝送線路の一部を構成する電極パターン、前記第二の伝送線路の少なくとも一部を構成する電極パターン、及び前記キャパシタの電極パターンが積層体の積層方向に重なっているのが好ましい。この構成は並列共振回路を小さくでき、高周波モジュールの小型化に有利である。
【0023】
本発明の第二の高周波モジュールは、前記第二の分波回路が、電極パターンが形成された誘電体層を積層してなる多層基板に構成されていること特徴とする。この分波回路の共通端子を他の回路素子に接続すれば、前記寄生容量は容量素子として機能し、高周波モジュールの設計の効率及び自由度が向上する。
【0024】
上記高周波モジュールは、前記分波回路により分けられる第一の周波数帯域の送信系と受信系を切り換える第一のスイッチ回路と、前記分波回路により分けられる第二の周波数帯域の送信系と受信系を切り換える第二のスイッチ回路とを備えるのが好ましい。かかる構成の高周波アンテナスイッチモジュールの分波回路をアンテナと接続すると、前記分波回路に発生する寄生容量をアンテナ端子に付加でき、高調波が抑制される。
【0025】
本発明の第三の高周波モジュールは、少なくとも第一の周波数帯域と、前記第一の周波数帯域より高い第二の周波数帯域を選択的に用いるマルチバンド無線通信装置に用いるもので、前記第一の周波数帯域における第一の送受信系と前記第二の周波数帯域における第二の送受信系とを分ける分波回路と、前記分波回路に接続され、前記第一の送受信系の送信系と受信系を切り換える第一のスイッチ回路と、前記分波回路に接続され、前記第二の送受信系の送信系と受信系を切り換える第二のスイッチ回路とを有し、前記分波回路、前記第一のスイッチ回路及び前記第二のスイッチ回路は電極パターンが形成された誘電体層を積層してなる積層体に構成されており、前記分波回路、前記第一のスイッチ回路及び前記第二のスイッチ回路が有する伝送線路のうち、前記第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路は前記積層体内の誘電体層に設けられたグランド電極の積層方向一方の側に形成されており、前記第二の週波数帯域の信号が通る伝送線路は前記グランド電極の積層方向他方の側に形成されていることを特徴とする。
【0026】
前記分波回路等が有する第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路と第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路とをグランド電極により積層方向に分離するので、両送受信回路間での相互干渉や、信号及び不要高調波の漏洩を抑制することができる。前記第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路と前記第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路とを積層方向に分離しているため、両回路の分離のために平面寸法が増大するのを回避できる。
【0027】
第一及び第二の周波数帯域の他に、周波数帯域の異なる第三の周波数帯域等の送受信回路を設けても良い。この場合、第三又は第四の周波数帯域の信号が通る伝送線路は前記グランド電極の片側にまとめて形成するのが好ましい。
【0028】
第三の高周波モジュールにおいて、前記第二の周波数帯域と前記第一の周波数帯域の二倍波の周波数帯域とはほぼ同じであるのが好ましい。第二の周波数帯域と第一の周波数帯域の二倍波の周波数帯域とが同じであると、第一の周波数帯域の不要高調波の漏洩等が第二の周波数帯域の信号に与える影響が大きいので、第一の周波数帯域と第二の周波数帯域とのシールドを確実に行う第三の高周波モジュールは、特に効果的である。
【0029】
第三の高周波モジュールは、高調波の抑制を図るために、インダクタンスを形成する伝送線路とキャパシタとを備えたローパスフィルタを有し、前記伝送線路を構成する電極パターンが形成された誘電体層と前記キャパシタを構成する電極パターンが形成された誘電体層とはグランド電極により積層方向に分離されており、かつ前記伝送線路を構成する電極パターンに関して前記グランド電極の積層方向反対側に対向するグランド電極を具備しないのが好ましい。この場合、前記グランド電極の積層方向の片側はインダクタンス形成部、反対側はキャパシタ形成部となっている。この構成では、伝送線路とキャパシタの間にグランド電極が配置されているため、伝送線路及びキャパシタの干渉が防止されてフィルタ性能が向上するとともに、伝送線路及びキャパシタの設計も容易になる。
【0030】
第三の高周波モジュールは、前記キャパシタを構成する電極パターンに関して前記グランド電極の積層方向反対側に対向するグランド電極を具備しないのが好ましい。この構成によれば、ローパスフィルタを小型化できる。
【0031】
上記高周波モジュールは前記キャパシタを複数有するのが好ましい。π型や梯子型のローパスフィルタ等のように複数のキャパシタを有する場合、キャパシタをインダクタンスに近接して配置すると干渉が起こりやすくなる。これに対して、複数の前記キャパシタをグランド電極の積層方向片側にまとめて形成することにより、インダクタンスを形成する伝送線路とキャパシタの干渉を効果的に抑制できる。梯子型のローパスフィルタのようにインダクタンスを形成する伝送線路も複数で良い。この場合、前記伝送線路をグランド電極に関してキャパシタの反対側にまとめて形成する。
【0032】
上記高周波モジュールにおいて、前記キャパシタの少なくとも一つは前記伝送線路に並列に接続されても良い。この構成でも伝送線路とキャパシタとの干渉が効果的に抑制される。
【発明の効果】
【0033】
本発明の分波回路は、小型及び低損失でありながら不要帯域を効果的に抑制することができる。また本発明の高周波モジュールは、小型を維持しつつ、周波数帯の異なる送受信系同士の信号の漏洩及び干渉を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態による分波回路の等価回路を示す図である。
【図2】本発明の他の実施形態による高周波回路の等価回路を示す図である。
【図3】本発明のクワッドバンド用アンテナスイッチ回路の等価回路を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態による高周波モジュールを構成する電極パターン付き誘電体層を示す部分展開図である。
【図5】本発明の一実施形態による高周波モジュールの通過特性を示すグラフである。
【図6】比較例の高周波スイッチモジュールの通過特性を示すグラフである。
【図7】本発明の他の実施形態による分波回路の等価回路を示す図である。
【図8】本発明の他の実施形態による分波回路の等価回路における寄生容量を示す図である。
【図9】本発明の他の実施形態による高周波モジュールの積層体の一部を概略的に示す断面図である。
【図10】本発明の他の実施形態によるクワッドバンド用アンテナスイッチ回路の等価回路を示す図である。
【図11】本発明のさらに他の実施形態による高周波モジュールを示すブロック図である。
【図12】本発明のさらに他の実施形態による高周波モジュールを構成する電極パターン付き誘電体層を示す部分展開図である。
【図13】本発明のさらに他の高周波スイッチモジュールを構成する電極パターン付き誘電体層を示す部分展開図である。
【図14】本発明の一実施形態によるローパスフィルタを用いた積層高周波モジュールを構成する電極パターン付き誘電体層を示す部分展開図である。
【図15】本発明の一実施形態によるローパスフィルタの等価回路を示す図である。
【図16】本発明の他の実施形態によるローパスフィルタの等価回路を示す図である。
【図17(a)】本発明に用いるローパスフィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【図17(b)】本発明に用いるローパスフィルタの他の例を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
[1] 第一の実施形態
(A) 分波回路
図1は本発明の一実施形態による分波回路の等価回路を示す。分波回路は、送信時には高周波側送信回路又は低周波側送信回路の送信信号を通過させ、受信時には周波数の異なる受信信号を分波して高周波側受信回路又は低周波側受信回路に分配する機能を有する。図1に示す分波回路は、共通端子Pc、低周波端子Pl及び高周波端子Phを有し、低周波フィルタ及び高周波フィルタを有し、これらのフィルタを用いて、共通端子Pcに接続する信号経路を共通端子Pcと低周波端子Plを接続する低周波側経路と、共通端子Pcと高周波端子Phを接続する高周波側経路とに分岐する。
【0036】
低周波フィルタは、共通端子Pcと低周波端子Plとの間の設けられた第一の伝送線路LL1と、第一の伝送線路LL1と低周波端子Plとの間に一端が接続され他端が接地された伝送線路LL2と第一のキャパシタCL1との直列共振回路とからなる。伝送線路LL2と第一のキャパシタCL1の直列共振回路の共振周波数を例えば高周波側の信号周波数と同じに設定することにより、高周波側の信号が低周波側に回り込むのを防ぐことができる。本実施形態では、低周波フィルタの第一の伝送線路LL1の一部(低周波端子Pl側)にキャパシタCが並列接続し、並列共振回路を構成している。第一の伝送線路LL1の残部(共通端子Pc側)はインダクタを構成している。第一の伝送線路LL1の一部がキャパシタCと並列共振回路を構成しているため、並列共振回路の付加に伴う低周波フィルタ回路の大型化を回避することができる。図1に示す例ではキャパシタCは第一の伝送線路LL1の一部と並列に接続しているが、この構成に限らず、キャパシタCは第一の伝送線路LL1と直列に接続される他の回路素子も含む部分に対して並列に接続しても良い。前記直列共振回路、及び第一の伝送線路LL1の一部とキャパシタCとの並列共振回路以外については、図1に示す構成に限られず、他の構成でも良い。
【0037】
高周波フィルタは、共通端子Pcと高周波端子Phとの間に接続された第二及び第三のキャパシタCH4,CH5と、第二及び第三のキャパシタCH4,CH5の接続点とグランドとの間に接続された伝送線路LH4及び第四のキャパシタCH6からなる直列共振回路とを備えている。しかし高周波フィルタの回路構成はこの構成に限らず、適宜変更することができる。
【0038】
第一の伝送線路LL1の一部とキャパシタCを並列接続する構成を有する分波回路は、電極パターンを有する誘電体層からなる多層基板中で下記のように構成することができる。例えば、誘電体層に形成された第一の伝送線路LL1の電極パターンの一部に対向するように、隣接する誘電体層にキャパシタCの電極パターンを形成し、これらの電極パターンの一端を低周波端子Plに接続する。第一の伝送線路LL1の一部の幅を他の部分より大きくしても良い。
【0039】
(B) 高周波回路
図2は本発明の一実施形態による高周波回路の等価回路を示す。この高周波回路は、分波回路を備えるとともに、分波回路の低周波端子Plに接続される後段の回路に設けられた第二の伝送線路Lg2を有し、第一の伝送線路LL1の低周波端子Pl側の一部と、第二の伝送線路Lg2の低周波端子Pl側の少なくとも一部とにキャパシタCが並列に接続されている。図2に示す例では、後段の回路は低周波側経路の送信側経路と受信側経路との切り替えを行うスイッチ回路(回路構成は後述する)である。第二の伝送線路Lg2はスイッチ回路の受信側経路に設けられている。図2は、低周波端子Plに接続されたスイッチ回路のダイオードDg1も示す。
【0040】
このように分波回路の低周波フィルタの第一の伝送線路LL1と、スイッチ回路の受信側経路に設けられた第二の伝送線路Lg2と、これらに並列に接続されたキャパシタCとにより並列共振回路を構成しているため、回路が大型化することがない。この並列共振回路の共振周波数を受信信号の周波数以外の帯域に調整することにより、広く不要帯域の減衰を図ることができる。なお高周波フィルタ等、他の回路構成は図1に示すものと同じであるので、その説明を省略する。またキャパシタCは、第二の伝送線路Lg2の一部と並列に接続しても良いし、第二の伝送線路Lg2の全体と並列に接続しても良い。
【0041】
図2に示す高周波回路を、電極パターンが形成された誘電体層からなる多層基板に構成し、高周波モジュールとすることができる。高周波モジュールの例としては、アンテナに接続される送信系と受信系の信号経路を切り換えるアンテナスイッチモジュールや、送信信号を増幅する高周波増幅器回路を有する高周波増幅器モジュールと前記アンテナスイッチモジュールとを一体化した複合モジュール等が挙げられるが、これに限定されない。
【0042】
本発明の一実施形態である高周波モジュールとして、図3は、低周波帯のGSM850帯域(送信周波数:824〜849 MHz、受信周波数:869〜894 MHz)及びEGSM帯域(送信周波数:880〜915 MHz、受信周波数:925〜960 MHz)、及び高周波帯のDCS帯域(送信周波数:1710〜1785 MHz、受信周波数:1805〜1880 MHz)及びPCS帯域(送信周波数:1850〜1910 MHz、受信周波数:1930〜1990 MHz)を用いるクワッドバンド用アンテナスイッチ回路の等価回路を示す。このアンテナスイッチ回路は、低周波フィルタ及び高周波フィルタからなる分波回路Dipと、分波回路の低周波フィルタの後段に配置され、制御端子Vcから供給される電圧により送信端子Tx-LBと受信端子Rx-LBとを切り換える第一のスイッチ回路SW1と、分波回路の高周波フィルタの後段に配置され、制御端子Vcから供給される電圧により送信端子Tx-HBと受信端子Rx-HBとを切り換える第二のスイッチ回路SW2とを具備する。低周波側の送信端子Tx-LB及び受信端子Rx-LBはGSM及びEGSMで共用しており、高周波側の送信端子Tx-HB及び受信端子Rx-HBはDCS及びPCSで共用している。低周波側の受信端子Rx-LB及び高周波側の受信端子Rx-HBは本モジュールが搭載される携帯端末が使用される地域により選択的に使用し、例えば、欧州ではRx-LBをEGSM、Rx-HBをDCSに割り当て、米国ではRx-LBをGSM、Rx-HBをPCSに割り当てる。このとき、各送受信端子では低周波帯であるGSM850及びEGSMの帯域、高周波帯であるDCS及びPCSの帯域で所望特性を有する広帯域設計が必要となる。また低周波側の受信端子Rx-LB及び高周波側の受信端子Rx-HBの後段はスイッチ回路(図示せず)とし、4つの受信端子を設けても良い。
【0043】
高周波モジュールを、クワッドバンドに限らず、トリプルバンド又はデュアルバンドの高周波スイッチモジュールとしても良い。例えば、低周波帯のGSM850及びEGSMの一方を第一の周波数帯域とし、高周波帯のDCS及びPCSの一方を第二の周波数帯域としても良い。さらに、高周波モジュールは携帯電話の通信システム用に限らず、無線LAN等他の通信システム用でも良い。高周波回路及び高周波モジュールに用いるフィルタ回路、スイッチ回路、検波回路、平衡不平衡回路等の回路素子の数及び配置は、必要に応じて変更しても良い。
【0044】
図3に示すアンテナスイッチ回路において、第一の周波数帯域の送受信系と第二の周波数帯域の送受信系とを分けるために低周波フィルタ及び高周波フィルタからなる分波回路(ダイプレクサ)Dipは、GSM及びEGSMの送受信信号を通過させるとともにDCS及びPCSの送受信信号を減衰させる低周波側(GSM/EGSM Side)フィルタとしてローパスフィルタを備え、DCS及びPCSの送受信信号を通過させるとともにGSM及びEGSMの送受信信号を減衰させる高周波側(DCS/PCS Side)フィルタとしてハイパスフィルタを備えている。共通端子であるアンテナ端子Antに接続されている低周波フィルタ及び高周波フィルタは、それぞれ伝送線路とキャパシタにより構成されているが、バンドパスフィルタ又はノッチフィルタで構成することもできる。
【0045】
低周波側(GSM/EGSM Side)フィルタとしてのローパスフィルタにおいて、伝送線路LL1は、低周波帯域(GSM及びEGSM)の信号を低損失で通過させるが、高周波帯域(DCS及びPCS)の信号に対して高インピーダンスとなり、DCS及びPCS帯域の信号の回り込みを防止する。伝送線路LL1は、DCS及びPCS帯域の信号がGSM系の経路へ伝送されないように、DCS及びPCS帯域の信号の周波数で高インピーダンスとなる長さに設定するのが好ましい。伝送線路LL2及びキャパシタCL1は、DCS及びPCS帯域に共振周波数を有する直列共振回路を構成し、DCS及びPCS帯域の信号をグランドに落とし、回り込みを防止する。高周波側(DCS/PCS Side)フィルタとしてのハイパスフィルタにおいて、キャパシタCH4、CH5は、高周波帯域(DCS及びPCS)の信号を低損失で通過させるが、低周波帯域(GSM及びEGSM)の信号に対して高インピーダンスとなり、GSM及びEGSM帯域の信号の回り込みを防止する。伝送線路LH4及びキャパシタCH4は、GSM及びEGSM帯域に共振周波数を有する直列共振回路を構成し、GSM及びEGSM帯域の信号をグランドに落とし、回り込みを防止する。
【0046】
図3に示すスイッチ回路は、前記分波回路に接続されて第一の送受信系の送信系(送信端子Tx-LB)と受信系(受信端子Rx-LB)を切り換える第一のスイッチ回路SW1と、前記分波回路に接続されて第二の送受信系の送信系(送信端子Tx-HB)と受信系(受信端子Rx-HB)を切り換える第二のスイッチ回路SW2とを有する。第一及び第二のスイッチ回路SW1,SW2はいずれもスイッチ素子及び伝送線路を主要素子とする。スイッチ素子としてはPINダイオードが好適であるが、GaAsスイッチも使用できる。PINダイオードを使用したスイッチ回路はGaAsスイッチを使用したスイッチ回路より低コストであるが、GaAsスイッチはPINダイオードを使用したスイッチ回路より低消費電力化が可能であるので、これらの特徴を生かすように選択する。
【0047】
GSM/EGSMの送信端子Tx-LBと受信端子Rx-LBを切り換える第一のスイッチ回路SW1(図3の上段にある)は、2つのダイオードDg1、Dg2及び2つの伝送線路Lg1、Lg2を主要素子とする。ダイオードDg1は、分波回路の低周波フィルタと送信端子Tx-LBとの間に介挿され、ダイオードDg1のアノードは分波回路の低周波フィルタに接続され、ダイオードDg1のカソードは、伝送線路LL3とキャパシタCL2,CL3とにより構成されたL型のローパスフィルタLPF1に接続されている。ローパスフィルタLPF1を構成する伝送線路LL3の他端とグランドとの間には伝送線路Lg1が接続されている。ローパスフィルタLPF1は、GSM/EGSM側のパワーアンプ(図示せず)から入力される送信信号に含まれる高次の高調波歪みを抑制するため、GSM/EGSM送信信号を通過させるが、GSM/EGSM送信信号の2倍以上の周波数を十分に減衰させる特性を有するのが好ましい。パワーアンプから入力されるGSM/EGSM送信信号に含まれる高調波歪みを十分に減衰せるために、インダクタンスを形成する伝送線路LL3とキャパシタCL3は、GSM/EGSMの送信周波数の2倍又は3倍の共振周波数を有する並列共振回路を構成する。
【0048】
キャパシタCg6、Cg2、Cg1は、直流分を除去してダイオードDg1及びDg2を含む回路に制御用の直流電圧を印加するDCカットキャパシタとして機能するとともに、位相調整回路の一部としても機能する。ダイオードDg1のアノードと受信端子Rx-LBとの間には伝送線路Lg2が介挿され、伝送線路Lg2の一端とグランドとの間にダイオードDg2が接続され、ダイオードDg2のアノードとグランドとの間にキャパシタCg1が接続されている。またダイオードDg2のアノードと制御端子Vcとの間には抵抗Rgが直列に接続されている。制御端子Vcとグランドとの間に接続されたキャパシタCvgは、制御用の電源へのノイズ混入を阻止して、制御を安定化する。伝送線路Lg1及び伝送線路Lg2は、λ/4線路であり、いずれも共振周波数がGSM/EGSMの送信信号の周波数帯域内となるような線路長を有するのが好ましい。例えば、それぞれの共振周波数をGSMの送信信号周波数のほぼ中間の周波数(869.5 MHz)とすると、所望の周波数帯域内で優れた挿入損失特性を得ることができる。
【0049】
第二のスイッチ回路SW2(図3の下段にある)は、DCS及びPCS共通の受信端子Rx-HBと、DCS及びPCS共通の送信端子Tx-HBとを切り換える。第二のスイッチ回路SW2は、2つのダイオードDd1及びDd2と、2つの伝送線路Ld1及びLd2とを主要素子とする。ダイオードDd1は、分波回路の高周波フィルタと送信端子Tx-HBとの間に介挿され、ダイオードDd1のアノードは分波回路の高周波フィルタに接続され、ダイオードDd1のカソードは伝送線路LH5及びキャパシタCH7、CH8により構成されたL型のローパスフィルタLPF2に接続されている。ローパスフィルタLPF2を構成する伝送線路LH5の他端とグランドとの間には伝送線路Ld1が接続されている。ローパスフィルタLPF2は、DCS及びPCS側のパワーアンプ(図示せず)から入力される送信信号に含まれる高次高調波歪みを抑制するため、DCS又はPCS送信信号を通過させるが、DCS又はPCS送信信号の2倍以上の周波数を十分に減衰させる特性を有するのが好ましい。ダイオードDd1のOFF時に送信端子Tx-HBとアンテナ端子Antとの間、及び送信端子Tx-HBと受信端子Rx-HBとの間のアイソレーションを確保するため、インダクタLs及びキャパシタCsの直列回路がダイオードDd1に並列に接続され、OFF時のダイオードの容量成分を相殺する。
【0050】
伝送線路Ld1及びLd2はλ/4線路であり、いずれも共振周波数がDCSとPCSの送受信系の送信信号の周波数帯域内に入るような線路長を有するのが好ましく、特に前記周波数帯域の中間の周波数となる線路長を有するのが好ましい。例えば、伝送線路Ld1及びLd2の共振周波数をDCS帯域及びPCS帯域の送信信号のほぼ中間の周波数(1810 MHz)とすると、それぞれのモードにおいて優れた電気的特性を得ることができ、2つの送信信号を1つの回路で扱うことができる。キャパシタCd2は、直流分を除去してダイオードDd1及びDd2を含む回路に制御用の直流電圧を印加するDCカットキャパシタとして機能するとともに、位相調整回路の一部としても機能する。伝送線路Ld2の一端は分波回路の高周波フィルタを構成するキャパシタCH5に接続されており、伝送線路Ld2の他端はグランドに接続されたダイオードDd2及びキャパシタCd1に接続されている。ダイオードDd2のアノードには抵抗Rdを介して制御端子Vcが接続されている。キャパシタCvdは、制御用の電源へのノイズ混入を阻止して制御を安定化する。キャパシタCd5はDCカット用のキャパシタである。
【0051】
インダクタL1は、アンテナ端子に静電気、落雷等による過電流が印加された際、それをグランドGNDに逃がし、モジュールの破壊を防止する機能を果たす。インダクタL2とCg2、及びインダクタL5とCd2はそれぞれ接続位相を調整するハイパス型位相調整回路として機能し、高周波増幅器回路HPAから漏れる高調波を抑制する。アンテナスイッチ側インピーダンスとの関係を、基本波では共役整合となり、不要なn倍波では非共役整合となるように調整する。L3、C2、L4、C1は、LC共振回路とLCハイパス回路を構成し、250 MHz付近に共振点を持たせて静電パルスを減衰させ、静電パルスの受信端子後方への漏れ防止し、後方にある帯域通過フィルタの破壊を防止する。C3は整合調整用のキャパシタである。
【0052】
(C) 高周波モジュール
図4は、図3に示すアンテナスイッチ回路を11層の多層基板に形成してなる高周波モジュールを示す。BOTTOMは多層基板の裏面を示す。各層の右側約1/3の領域1にアンテナスイッチ回路が形成されており、左側約2/3の領域2に高周波増幅器回路(図示せず)が形成されている。分波回路は図2に示す構成を有する。高周波増幅器回路は、例えばアンテナスイッチ回路のGSM/EGSMの送信端子Tx-LBに接続され、増幅した送信信号をアンテナスイッチ回路に送る。高周波増幅器とアンテナスイッチ回路の接続を上層側に設け、かつ相互干渉を避けるために高周波増幅器の線路とアンテナスイッチ回路の線路を異なる層で上下に重ならない位置に形成するのが好ましい。
【0053】
図4において、図2及び図3に示す伝送線路及びキャパシタに対応する電極パターンには同じ符号を付してある。分波回路の高周波フィルタの第二のキャパシタCH4と第三のキャパシタCH5、及び低周波フィルタの第一のキャパシタCL1はグランド電極が設けられた第6の誘電体層の下側に設けられている。直列共振回路を構成する伝送線路LL2と第一のキャパシタCL1の電極パターンは積層方向に重なるように形成されている。同様に直列共振回路を構成する伝送線路LH4と第四のキャパシタCH6の電極パターンも積層方向に重なるように形成されている。低周波フィルタの第一の伝送線路LL1の電極パターンは、コイル状となるように第2層〜第5層に形成されている。また第一のスイッチ回路SW1の第二の伝送線路Lg2の電極パターンは、コイル状となるように第5層、第7層〜第11層に形成されている。
【0054】
第2層に形成された第一の伝送線路LL1の電極パターンの端部はスルーホール電極を介して第三層に形成されたキャパシタCの電極パターンに接続されている。キャパシタCの電極パターンは、第5層に形成された第二の伝送線路Lg2の電極パターンの端部と対向し、キャパシタを構成している。また第2層に形成された第一の伝送線路LL1の電極パターンの端部と第7層に形成された第二の伝送線路Lg2の電極パターンの端部とは、最上層に搭載されるキャパシタCg6にスルーホール電極を介して接続されている。かかる電極パターンの配置により、キャパシタCが第一の伝送線路LL1の一部と第二の伝送線路Lg2の一部に並列に接続された構成が得られる。上述のように図4に示す実施形態では、第一の伝送線路LL1の一部を構成する電極パターン、第二の伝送線路Lg2の一部を構成する電極パターン、及びキャパシタCの電極パターンが積層方向に重なる部分を有している。
【0055】
実施例1
図4に示す高周波モジュールを、950℃以下の低温焼成が可能なLTCCからなる11層の誘電体グリーンシートにより作製した。グリーンシートの厚さは、伝送線路及びキャパシタを形成しやすいように40〜200μmであるのが好ましい。電極パターンは銀系の導電ペーストにより形成するのが好ましい。各グリーンシートに伝送線路及びキャパシタ用の電極パターンを形成し、適宜スルーホールを設け、積層した後で圧着し、950℃で焼成し、約10 mm×約8 mm×約0.65 mmの積層体を得る。積層体の上面にダイオード、トランジスタ、チップインダクタ、チップキャパシタ、抵抗等を搭載し、高周波モジュールを得る。高周波モジュールの上には通常高さ約1.6 mmの金属ケース(図示せず)を被せる。金属ケースの代わりに、樹脂封止パッケージとしても良く、この場合高さは約1.5 mmとなる。
【0056】
実施例1の高周波モジュールの通過特性を図5に示し、従来の回路構造を有する高周波モジュールの通過特性を図6に示す。従来の特性は3 GHz付近の不要帯域に約−15 dBの大きな盛り上がりがあり、製造ばらつきによっては、約−10 dBを超えることもあり、受信特性に不具合が生じるおそれがある。一方、実施例1の高周波モジュールでは、3 GHz付近が約−25 dB以下に抑制でき、受信特性への悪影響が排除されている。また実施例1の高周波モジュールの通過損失は約−1.0 dBであり、不要波抑制用キャパシタが設けられていない従来の高周波モジュールと同程度であった。
【0057】
[2] 第二の実施形態
(A) 分波回路
図7は、本発明の第二の実施形態による分波回路の等価回路を示す。分波回路は、送信時には高周波側送信回路又は低周波側送信回路の送信信号を通過させ、受信時には周波数の異なる信号を分波し、高周波側受信回路又は低周波側受信回路に受信信号を分配する機能を有する。低周波フィルタ及び高周波フィルタからなる図7に示す分波回路は、共通端子Pc、低周波端子Pl及び高周波端子Phを有する。高周波フィルタは、共通端子Pcに接続された第一のキャパシタCH4と、第一のキャパシタCH4と高周波端子Phとの間に接続された第二のキャパシタCH5と、第一のキャパシタCH4と第二のキャパシタCH5との接続点とグランドとの間に接続された第一の伝送線路LH4及び第三のキャパシタCH6からなる直列共振回路とを具備する。低周波フィルタは、低周波端子Plと共通端子Pcとの間に設けられた第二の伝送線路LL1と、第二の伝送線路LL1と低周波端子Plとの間に一端が接続され、他端が接地された第三の伝送線路LL2及び第四のキャパシタCL1からなる直列共振回路とを具備する。なお分波回路が有するローパスフィルタ等の回路構成は前記のものに限定されず、適宜変更可能である。
【0058】
分波回路のうち第一の伝送線路LH4、第一のキャパシタCH4、第二のキャパシタCH5及び第三のキャパシタCH6は、積層体を構成する誘電体層に形成された電極パターンにより構成される。誘電体層7を積層した積層体において、第一のキャパシタCH4を構成する対向電極のうち共通端子Pcに接続される電極5は、図9に示すように、グランド電極に対向している。これにより、分波回路の一部であるキャパシタの電極を用いて寄生容量を発生させることができる。図9の構成では、一層の誘電体層の両側に第一のキャパシタCH4を構成する電極5とグランド電極6が対向している。寄生容量の大きさは、誘電体層の厚さ、グランド電極6の面積、及び/又は誘電体層の誘電率を調整することにより容易に制御することができる。第一のキャパシタCH4の他方の電極と、第二のキャパシタCH5の電極(第一のキャパシタCH4の側)は、共通電極4として積層体内において電極5の上側に形成されている。第二のキャパシタCH5の他方の電極3(高周波端子Phに接続)は共通電極4の上側に形成されている。このように電極5と共通電極4で第一のキャパシタCH4を構成し、共通電極4と電極3で第二のキャパシタCH5を構成するとともに、グランド電極6との間で寄生容量を発生させる。従来ハイパスフィルタ部に寄生容量ができるだけ生じないようにしてきたが(例えば特開2002-26677号)、本発明では高調波抑制の観点からこれを積極的に利用する。分波回路をアンテナスイッチモジュールに使用する場合、図8に示すように、寄生容量Cpはアンテナに付属し、高調波を抑制する。
【0059】
(B) 高周波回路
上記分波回路を有する高周波回路は、分波回路により分けられた低周波側の第一の周波数帯域の送信系と受信系を切り換える第一のスイッチ回路と、分波回路により分けられる高周波側の第二の周波数帯域の送信系と受信系を切り換える第二のスイッチ回路とを具備する。本実施形態の高周波回路の等価回路として、図10は、低周波帯のGSM850帯域(送信周波数:824〜849 MHz、受信周波数:869〜894 MHz)及びEGSM帯域(送信周波数:880〜915 MHz、受信周波数:925〜960 MHz)、高周波帯のDCS帯域(送信周波数:1710〜1785 MHz、受信周波数:1805〜1880 MHz)及びPCS帯域(送信周波数:1850〜1910 MHz、受信周波数:1930〜1990 MHz)を用いたクワッドバンド用アンテナスイッチ回路の等価回路を示し、図11はそのブロック図を示す。この等価回路は第二の実施形態の分波回路を用いた以外第一の実施形態の等価回路と同じであるので、その説明を省略する。
(C) 高周波モジュール
図12は、図10に示すアンテナスイッチ回路を多層基板に形成した高周波スイッチモジュールを示す。第6層には、スルーホール電極が形成された領域以外ほぼ全面にグランド電極が形成されている。分波回路の高周波フィルタの第一及び第二のキャパシタCH4,CH5はグランド電極が設けられた第6層の下側に設けられている。具体的には、第二のキャパシタCH5の電極3(高周波端子Ph側)は第9層に形成され、第一及び第二のキャパシタCH4,CH5の共通電極4は第10層に形成され、第一のキャパシタCH4の電極5(共通端子Pc側)は第11層に形成され、電極5は積層体の裏面に形成されたグランド電極に対向している。電極3、4及び5同士も対向している。本実施例では裏面に形成されたグランド電極との対向を利用して寄生容量を発生させているが、これに限られず、積層体内のグランド電極を利用しても良い。
【0060】
分波回路にチップキャパシタ、チップインダクタ等の個別部品を用いる場合、アンテナ端子(共通端子Pc)と同電位の搭載パッドの直下にグランド電極を設けたり、搭載パッド周辺にグランド電極を配置したりすることにより、寄生容量を発生させても良い。またアンテナ端子に寄生容量を付加させるために、アンテナ端子に分波器を接続しない形態としても良い。いずれの場合も、寄生容量が大きすぎると挿入損失が劣化するため、電極間隔等を調整して寄生容量を約1 pF以下とするのが望ましい。
【0061】
実施例2
アンテナスイッチモジュールとして、図12に示す構造を有する積層モジュールを作製した。図12に示す積層モジュールには高周波増幅器も併せて形成した。積層モジュールは第1層〜第11層の誘電体グリーンシートで構成され、BOTTOMは積層体の裏面を示す。本実施例で使用した誘電体グリーンシートは950℃以下の低温焼成が可能なLTCCである。積層体の寸法及び作製方法は実施例1と同じである。
【0062】
実施例2の分波回路と、第一のキャパシタCH4の電極(共通端子Pcに接続)がグランド電極に対向していない従来の分波回路とを比較したところ、挿入損失はほぼ同等であるが、減衰量は低周波側(GSM及びEGSM)で約1.5〜7 dBと大きく改善され、高周波側(DCS及びPCS)で約1.5〜3 dBと大きく改善されたことが分かった。
【0063】
実施例2の分波回路を有する高周波スイッチモジュールとして、図12に示す積層モジュールを作製した。分波回路の主要キャパシタを形成する誘電体の厚さを25μmとし、第一のキャパシタCH4の対向電極と裏面のグランド電極との距離を100μmとすることにより、積層モジュールにおける寄生容量を約0.5 pFに調整した。実施例2の高周波スイッチモジュールを従来の分波回路を有する高周波スイッチモジュールと比較したところ、挿入損失は同等であったが、減衰量は低周波側で約2〜7 dBと大きく改善され、高周波側(DCS及びPCS)で約1.5〜14 dBと大きく改善されたことが分かった。
【0064】
[3] 第三の実施形態
第三の実施形態による高周波モジュールは、分波回路Dip及び第一及び第二のスイッチ回路が有する伝送線路LL1、LL2、LH4、Lg1、Lg2、Ld2の配置以外、第一の実施形態と同じである。Ld1は第二の周波数帯域の高調波が通る伝送線路である。伝送線路LL1、LH4及びLg2には低周波側の第一の周波数帯域の信号が通り、伝送線路LL2、Lg1及びLd2には高周波側の第二の周波数帯域の信号が通る。伝送線路LL2,Lg1は低周波側の回路要素であるが、低周波側回路に漏洩した高周波側成分が通り、伝送線路LH4は高周波側の回路要素であるが、高周波側回路に漏洩した低周波成分が通る。
【0065】
第一の周波数帯域(GSM850及びEGSM)と第二の周波数帯域(DCS及びPCS)の送受信回路間での相互干渉を抑制するために、第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路LL1,LH4,Lg2を積層体内のグランド電極の積層方向一方の側に設け、第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路LL2,Lg1,Ld2を前記グランド電極の積層方向他方の側に設ける。すなわち、前記伝送線路をグランド電極で積層方向に分離する。第一の周波数帯域であるGSM850及びEGSMの二倍波は、第二の周波数帯域であるDCS及びPCSの周波数帯域とほぼ同じであるため、第一の周波数帯域の二倍波が第二の周波数帯域に与える影響は大きい。上記構成は、このような第一の周波数帯域と第二の周波数帯域との関係の場合に特に有効である。グランド電極は、第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路と第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路とを少なくとも部分的に分離するように誘電体層に形成されていれば良いが、完全に分離するように両伝送線路より広く誘電体層に形成されている方が好ましい。第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路の電極パターンの間や、第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路の電極パターンの間に、他のグランド電極が形成されていても良い。複数層に設けられたグランド電極はスルーホール電極で接続するのが好ましく、スルーホール電極数は多いほど良い。
【0066】
図13は、図10に示すアンテナスイッチ回路を積層体に形成した高周波モジュールを示す。各層の右側約1/3の領域1にアンテナスイッチ回路が形成されており、左側約2/3の領域2に高周波増幅器回路が形成されている。高周波増幅器回路は、図10のアンテナスイッチ回路の例えばGSM/EGSMの送信端子Tx-LBに接続し、増幅した送信信号をアンテナスイッチ回路に送る。高周波増幅器とアンテナスイッチ回路の接続を上層側に設け、かつ相互干渉を避けるために高周波増幅器の線路とアンテナスイッチ回路の線路を異なる層で上下に重ならない位置に形成するのが好ましい。
【0067】
図13は左上から順に、電極パターンを形成した11層の誘電体層と積層体の裏面BOTTOMを示す。第6層には、スルーホール電極が形成された領域以外ほぼ全面にグランド電極が形成されている。第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路LL1,LH4,Lg2の電極パターンは、グランド電極を設けた第6層の上側の第2層〜第5層に形成されているが、第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路LL2,Ld2,Lg1の電極パターンは、グランド電極が設けられた第6層の下側の第7層〜第11層に形成されている。第一及び第二の周波数帯域の送受信系で用いられるローパスフィルタLPF1,LPF2を構成する伝送線路及びキャパシタの電極パターンうち、伝送線路の前記電極パターンはグランド電極の上側の設けられており、キャパシタの電極パターンは前記グランド電極の下側に設けられている。
【0068】
実施例3
アンテナスイッチモジュールとして、図13に示す積層モジュールを作製した。950℃以下の低温焼成が可能なLTCCからなる11層の誘電体グリーンシートを第一の実施形態と同じ条件で積層した。積層モジュールを構成する全ての層において、アンテナスイッチ回路を構成する電極パターンは右側領域1に形成し、高周波増幅器を構成する電極パターンは左側領域2に形成した。
【0069】
実施例3の高周波モジュールと、第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路と第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路とを積層方向に分離していない従来の高周波モジュールとを比較したところ、送信側では挿入損失が低周波側(GSM及びEGSM)で約0.1〜0.2 dBと大きく改善され、高周波側(DCS及びPCS)で約0.05〜0.2 dBと大きく改善され、また減衰量が低周波側で約3〜12 dBと大きく改善され、高周波側(DCS及びPCS)で約5〜15 dBと大きく改善されたことが分かった。受信側では、挿入損失が低周波側(GSM及びEGSM)で約0.05〜0.1 dBと大きく改善され、高周波側(DCS及びPCS)で約0.1〜0.3 dBと大きく改善されたことが分かった。電波の漏洩は高周波ほど大きいので、本発明の効果は高周波側ほど大きい。
【0070】
干渉によると考えられる不要帯域での特性劣化も解消された。この効果は、受信間アイソレーション特性(低周波側受信端子と高周波側受信端子との間の通過特性)から明確に確認できた。アイソレーション改善効果は、低周波帯域では約5 dBであり、高周波帯域では約2 dBであり、各n倍波帯域では約3〜20 dBであった。このような挿入損失及び減衰量の改善効果が得られたのは、低周波側と高周波側のシールド効果によると考えられる。なおGaAsスイッチを使用する場合、低周波側ラインと高周波側ラインとをグランド電極で分離することにより、同じ効果を得ることができる。
[4] 第四の実施形態
本発明の高周波回路及び高周波モジュールに好適なローパスフィルタについて以下詳細に説明する。図10は低周波帯のGSM及びEGSMと高周波帯のDCS及びPCSをカバーするクワッドバンド用アンテナスイッチ回路の等価回路の一例を示し、図14はローパスフィルタを組み込んだ積層体を構成する各誘電体層上の電極パターンを示す。アンテナスイッチ回路のローパスフィルタ以外の部分は第一の実施形態と同じなので、それらの説明を省略する。
【0071】
ローパスフィルタは単体の積層ローパスフィルタでも良い。ローパスフィルタを用いた積層モジュールの構成は特に限定されないが、アンテナスイッチモジュール、又はアンテナスイッチ回路と高周波増幅器回路との複合モジュールとするのが好ましい。
【0072】
図10及び図11に示す第一及び第二のローパスフィルタLPF1,LPF2は同じ構成で良い。図15はローパスフィルタLPF(LPF1又はLPF2)の等価回路を示す。第一のローパスフィルタLPF1は、インダクタンスを形成する伝送線路LL3とキャパシタCL2,CL3からなるL型ローパスフィルタである。キャパシタCL3は伝送線路LL3に並列に接続され、並列共振回路を構成している。ローパスフィルタの構成は図15に示すものに限らず、例えば図16に示すπ型ローパスフィルタでも良い。
【0073】
電極パターンを形成した11層の誘電体層と積層体の裏面BOTTOMを示す図14により、積層体における第一のローパスフィルタLPF1を説明する。図14は左上から順に第1層〜第11層及び裏面を示す。ローパスフィルタLPF1を構成する伝送線路LL3及びキャパシタCL2,CL3を構成する電極パターンもそれぞれLL3,CL2,CL3で示す。第6層にはグランド電極G1が形成されており、グランド電極G1より上側の第2層〜第5層に伝送線路用電極パターンLL3が形成されている。キャパシタ用電極パターンCL2,CL3はグランド電極G1の下側の第9層〜第11層に形成されている。すなわち、第一のローパスフィルタLPF1を構成する複数のキャパシタ用電極パターンCL2,CL3と伝送線路用電極パターンLL3とはグランド電極G1により積層方向に分離されている。両電極パターンはグランド電極G1により全面で分離されているのが好ましい。ローパスフィルタが複数の伝送線路を有する場合も同様に、複数の伝送線路を構成する電極パターンは、グランド電極の積層方向片側にまとめて形成する。
【0074】
積層体の小型化のため、図14に示す構成では、伝送線路用電極パターンLL3とキャパシタ用電極パターンCL2,CL3とは積層方向に重なりを有する。本発明のローパスフィルタでは伝送線路とキャパシタがグランド電極で分離されているため、インダクタとキャパシタが積層方向に重なりを有しても相互干渉がない。伝送線路LL3より外側の第1層等には、伝送線路用電極パターンLL3と積層方向で重なるグランド電極は設けられていないので、伝送線路LL3より外側に対向するグランド電極を配置した場合に生じる寄生容量の形成や、挿入損失の増加を回避することができる。
【0075】
図14に示す構成では、キャパシタ用電極パターンCL2,CL3側にグランド電極G1と別のグランド電極(キャパシタCL2の対向グランド電極)を設けている。この場合、伝送線路用電極パターンLL3とキャパシタ用電極パターンCL2,CL3に挟まれるグランド電極G1は、キャパシタCL2,CL3の対向グランド電極として機能してもしなくても良い。伝送線路用電極パターンLL3とキャパシタ用電極パターンCL2,CL3に挟まれたグランド電極G1とキャパシタCL2,CL3の対向グランド電極を単一のグランド電極で構成しても良い。この場合、グランド電極G1と別のグランド電極をキャパシタ用電極パターンCL2,CL3の外側に具備しない。この構成は小型化に有利である。
【0076】
特開平11-27177号のローパスフィルタでは、インダクタンスとキャパシタの間にグランド電極が部分的に形成されているため、インダクタンス用電極パターンとキャパシタ用電極パターンとは完全に分離されていないが、本実施形態のローパスフィルタでは、インダクタンス用電極パターンとキャパシタ用電極パターンとの間にグランド電極が存在している点で、両者は大きく異なる。さらに伝送線路用電極パターンの外側に別の対向するグランド電極を有しないため、インダクタンスとして機能する伝送線路の寄生容量の形成が抑制され、損失低減に寄与する。
【0077】
図17(a) に示すローパスフィルタにおいて、積層方向においてインダクタンスを形成する伝送線路の電極パターン13とキャパシタ用電極パターン15との間にグランド電極14が設けられており、キャパシタ用電極パターン15の下側にはグランド電極16が設けられている。グランド電極14はその上下に設けられた伝送線路用電極パターン13とキャパシタ用電極パターン15より接地面積が大きく、積層方向において伝送線路用電極パターン13とキャパシタ用電極パターン15が対向する領域に全面的にグランド電極14が存在するため、グランド電極14は伝送線路とキャパシタとの干渉を防ぐ。
【0078】
伝送線路用電極パターン13の上側にグランド電極が設けられていないため、伝送線路の上側に寄生容量が形成されることがない。この場合、インピーダンス設計が許す限り、インダクタンスを形成する伝送線路とグランド電極との距離を広げることにより、伝送線路の下側に発生する寄生容量を抑制し、もって挿入損失を低減することができる。グランド電極14をキャパシタの対向電極の1つとして使用しない場合、伝送線路の電極パターンのうちグランド電極14側の電極パターンとグランド電極との距離を広げて寄生容量の発生を抑制するのが好ましいが、グランド電極14をキャパシタの対向電極の1つとして使用する場合はこの限りでない。
【0079】
図17(b) に示す構成では、積層方向においてインダクタを形成する伝送線路の電極パターン13とキャパシタの電極パターン15との間にグランド電極14が設けられているが、キャパシタ用電極パターン15の下側に別のグランド電極が設けられておらず、グランド電極14をキャパシタの対向電極として用いている。この構成でも図17(a) に示す構成と同じ効果が得られる。この構成では、グランド電極14を対向電極の1つとして使用するため、電極パターン15とグランド電極14との距離は50μm以下に設定するのが好ましい。
【0080】
図10に示す第二のローパスフィルタも第一のローパスフィルタと同様にして構成することができる。このように積層モジュールが複数のローパスフィルタを備える場合、複数のローパスフィルタのグランド電極を必ずしも同じ誘電体層に形成する必要はないが、同じ誘電体層上に形成するのが好ましい。このような構成は、積層体の小型化、及び不要な浮遊容量の抑制に効果的である。
【0081】
上記ローパスフィルタは、第一〜第三の実施形態のいずれのアンテナスイッチ回路にも用いることができ、また第一及び第二の実施形態による高周波モジュールに限らず、他のマルチバンド高周波モジュールにも広く使用できる。
【0082】
実施例4
アンテナスイッチモジュールとして、図14に示す積層モジュールを、950℃以下の低温焼成が可能なLTCCからなる11層の誘電体グリーンシートにより作製した。この積層モジュールは高周波増幅器も有する。積層体の寸法及び作製方法は第一の実施形態と同じである。
【0083】
実施例4のローパスフィルタと、インダクタンスを形成する伝送線路の上側にグランド電極を有する従来のローパスフィルタとを比較したところ、挿入損失が低周波側(GSM及びEGSM)で約0.3〜0.35 dBと大きく改善し、高周波側(DCS及びPCS)で約0.2〜0.3 dBと大きく改善し、また減衰量が低周波側(GSM及びEGSM)で約2〜5 dBと大きく改善し、高周波側(DCS及びPCS)で約4〜10 dBと大きく改善したことが分かった。これは、インダクタンスを形成する伝送線路の寄生容量が減少したため、従来設計より伝送線路が短く済んだためである。ローパスフィルタを高周波スイッチモジュールに組み込んだ場合も、同様の改善効果が得られた。
【0084】
伝送線路の寄生容量が大きいと挿入損失が劣化するため、伝送線路の電極とグランド電極との距離は可能な限り広く設定するのが好ましく、試作した積層モジュールでは100μmに調整した。一方、試作した回路構成ではキャパシタ側の寄生容量が大きいとインピーダンスを50Ωに設計するのが困難となり、ローパスフィルタと他回路との整合が困難になるため、キャパシタの電極とグランド電極との距離は可能な限り広く設定するのが好ましく、試作した積層モジュールでは225μmに調整した。
【0085】
実施例4のローパスフィルタと、中間のグランド電極を有さない従来のローパスフィルタとを比較したところ、挿入損失が低周波側(GSM及びEGSM)で約0.2〜0.3 dBと大きく改善し、高周波側(DCS及びPCS)で約0.2〜0.3 dBと大きく改善し、また減衰量が低周波側(GSM及びEGSM)で約5〜8 dBと大きく改善し、高周波側(DCS及びPCS)で約5〜12 dBと大きく改善したことが分かった。また従来のローパスフィルタでは低周波側及び高周波側の減衰極が明確に現れず、設計しにくかったが、本発明のローパスフィルタには設計された減衰極が明確に現れ、さらに干渉によると考えられる不要帯域での特性劣化が解消された。このように所望の特性を得るための設計が簡便となり、設計時間が短縮された。さらに高周波スイッチモジュールにした場合、同等の改善性能を有した。
【0086】
本発明のローパスフィルタの中間に配置したグランド電極をローパスフィルタの接地した対向電極として利用した場合、諸特性は上記と同様に改善され、積層体の厚さを約100μm削減でき、小型化が可能となった。もちろん、この効果は積層モジュールとした場合にも得られる。
【0087】
スイッチ回路の伝送線路を必須の構成とする場合を除き、いずれの実施形態においても、第一及び第二のスイッチ回路SW1,SW2として、例えばSPDT(単極双投型)スイッチのようなGaAsスイッチを用いることもできる。GaAsスイッチの使用によりスイッチに用いる伝送線路が減る。また高周波回路における分波回路の配置は図示の位置に限られず、例えば、スイッチ回路SW1,SW2の共通端子をアンテナANTに接続して、スイッチ回路の送信側端子及び受信側端子に分波回路を接続しても良く、またアンテナANTと分波回路の間に他の回路を設けても良い。さらに分波回路をSPnTスイッチ(nは2以上の自然数)で置き換え、周波数帯と送受信の切り替えを行っても良い。
【0088】
本発明は上記実施形態に限定されず、種々のマルチバンド高周波モジュールに適用できる。
【0089】
本発明の高周波モジュールに用いる誘電体層はセラミック又は樹脂により形成することができる。樹脂を基板としてを用いる場合、キャパシタ等の多層基板に電極パターンで形成できない素子は、基板上に搭載するチップ素子としても良い。
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等の移動体通信機器、電子機器、電気機器等の間における無線通信装置等に用いる分波回路、高周波回路及びそれを用いた高周波モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯無線システムには、例えば主に欧州で盛んなEGSM (Extended Global System for Mobile Communications)方式及びDCS (Digital Cellular System)方式、米国で盛んなPCS (Personal Communication Service)方式、日本で採用されているPDC (Personal Digital Cellular )方式等の時分割マルチプルアクセス(TDMA)を用いた様々なシステムがある。従来、複数のシステムに対応した小型軽量の高周波回路部品として、例えばEGSMとDCSの2つのシステムに対応した携帯通信機に用いられるデュアルバンド対応の高周波スイッチモジュールや、EGSM、DCS及びPCSの3つのシステムに対応した携帯通信機に用いられるトリプルバンド対応の高周波スイッチモジュール等が提案されている。現在IEEE802.11規格に代表される無線LANによるデータ通信が広く一般化しているが、この無線LANの規格には周波数帯域等の異なる複数の規格がある。無線LANを用いたマルチバンド通信装置にも種々の高周波回路が使用されている。
【0003】
1台の携帯電話機を複数の周波数帯に共用する場合、アンテナで送受信される複数の周波数帯の送受信信号を分波する回路、及び送受信経路を切り換えるスイッチを組み込んだ高周波スイッチモジュールが必要である。マルチバンド無線通信のキーパーツである高周波スイッチモジュールには小型化及び高性能化の要請が強く、とりわけ不要帯域のノイズの除去が必須である。
【0004】
このような要請に応じるために、特開平11-27177号は、パワーアンプからの送信信号に生じる高調波歪を除くためにアンテナとグランド間に生じる浮遊容量を利用することにより、フィルタの個数を減らした高周波スイッチを提案している。この高周波スイッチでは、アンテナ用端子、送信回路用端子及び受信回路端子とグランドとの間に発生する浮遊容量を調整するとともに、チョーク素子である伝送線路長をほぼλ/6に調整することにより、3倍高調波帯域に減衰極を設けている。具体的な調整方法は明記されていないが、これら全ての浮遊容量を調整すると同時に伝送線路を所望の長さに調整することは非常に煩雑である。また例えばGSMシステムでは約7倍波までの高調波レベルを低減する必要があるが、この方法では3倍波の減衰極のみを利用しているため、このような高次の高調波レベルを低減できない。
【0005】
特開2003-69362号は、2倍の高調波を効率的に除去するために、ローパスフィルタ端子側に2倍波の周波数を共振周波数とする並列共振回路を設けたダイプレクサを提案している。このダイプレクサでは、共通端子及びローパスフィルタ端子に並列共振回路を設けることにより、信号損失を低減させるとともに、低周波側の第一の周波数の2倍の高調波を効率良く除去している。具体的には、ダイプレクサのローパスフィルタ回路は、コイルとキャパシタとにより構成された二つの並列共振回路を有し、これらの並列共振回路の接続部とローパスフィルタ端子に接地容量が設けられている。しかし二つの並列共振回路を接続すると、ダイプレクサが大型化するだけでなく、その回路構成が複雑化してしまう。また多段のローパスフィルタでは挿入損失が大きくなるため、特性劣化の弊害がある。その上、このダイプレクサのローパスフィルタ回路は、第一の周波数の2倍又は第二の周波数を減衰するように設定されているため、n次高調波以外の不要帯域を十分に低減できない。
【0006】
EGSM及びDCSはそれぞれ900 MHz帯及び1800 MHz帯と異なる周波数帯を用いるが、両者の回路が混在すると干渉して信号が漏れ、アイソレーション特性が劣化する。この問題は高周波部品の小型化に伴いいっそう顕在化する。これに対し、特開2001-352202号は、通過帯域の異なる複数の送受信系を扱う高周波スイッチモジュールにおいて、一方の送受信系と他方の送受信系とを積層体の平面方向で領域を分けて形成する高周波スイッチモジュールを提案している。しかし、積層体の平面方向で異なる領域を分けて形成しているため、一方の送受信系と他方の送受信系とのシールドは十分に取れないという問題があった。
【0007】
高周波スイッチモジュールに用いられるローパスフィルタに関して、特開2004-328136号は、信号波(基本波)の2倍波及び3倍波の減衰量特性を向上させるために、直列共振回路と並列共振回路を縦続したローパスフィルタであって、前記並列共振回路の両端に接地容量が接続され、前記直列共振回路と前記並列共振回路との間に位相調整用の伝送線路が介挿されたローパスフィルタを提案している。しかしながら、マルチバンド化等に伴う高性能化の要請に対して、このローパスフィルタの減衰量特性及び挿入損失は必ずしも十分ではなかった。またローパスフィルタとノッチフィルタを複合フィルタとし、さらにそれらを接続する伝送線路を追加すると、回路間、フィルタを構成する伝送線路、容量間の電磁干渉や寄生容量による特性劣化が少なからず発生する。その上、複合フィルタは特性向上のために小型化を犠牲にしている。このように積層モジュールの高集積化が進む中で、小型化及び高性能化の要請を満足しつつ、ローパスフィルタやそれを用いた積層モジュールを構成するインダクタ等の素子の配置を設計することは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の第一の目的は、回路の複雑化及び大型化、及び挿入損失の増加を抑制しつつ、不要帯域を低減した分波回路を提供することである。
【0009】
本発明の第二の目的は、かかる分波回路を備えた高周波回路を提供することである。
【0010】
本発明の第三の目的は、かかる高周波回路を多層基板に構成した高周波モジュールを提供することである。
【0011】
本発明の第四の目的は、実装面積の増加を抑えつつ、周波数帯の異なる送受信回路同士の相互干渉及び信号漏洩を抑制した高周波ジュールを提供することである。
【0012】
本発明の第五の目的は、インダクタ及びキャパシタの設計が容易で、フィルタ性能に優れたローパスフィルタを有する高周波モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の分波回路は、共通端子と、低周波端子と、高周波端子と、前記共通端子と前記低周波端子との間に設けられた低周波フィルタを有する低周波側経路と、前記共通端子と前記高周波端子との間に設けられた高周波フィルタを有する高周波側経路とを具備し、前記低周波フィルタは前記低周波側経路に直列に接続された第一の伝送線路と、前記第一の伝送線路の一部に並列接続されたキャパシタとを有することを特徴とする。この分波回路では、不要帯域を抑制する並列共振回路が低周波側経路の第一の伝送線路の一部を用いて構成されるので、分波回路を小型化することができる。
【0014】
上記分波回路において、前記キャパシタは前記第一の伝送線路の低周波端子側の一部に並列接続して並列共振回路を構成し、前記第一の伝送線路の前記一部以外の部分はインダクタンス部を構成しているのが好ましい。低周波フィルタの第一の伝送線路のうち、インダクタンス部を構成する部分を共通端子側に、前記並列共振回路を構成する部分を前記低周波端子側に配置することにより、前記並列共振回路の配置の自由度が向上する。キャパシタの一端を、前記第一の伝送線路の一部に並列接続し、他端を低周波端子に接続された他の回路素子に接続しても良い。
【0015】
本発明の第二の分波回路は、共通端子と、低周波端子と、高周波端子と、前記共通端子と前記低周波端子との間に設けられた低周波フィルタを有する低周波側経路と、前記共通端子と前記高周波端子との間に設けられた高周波フィルタを有する高周波側経路とを具備し、前記共通端子側に形成された寄生容量を高調波を抑制するキャパシタとすることを特徴とする。この分波回路の共通端子を他の回路素子に接続すれば、上記寄生容量が容量素子として機能し、設計の効率及び自由度が向上する。例えば上記共通端子をアンテナと接続すると、アンテナ端子に上記寄生容量を付加できるため、高調波抑制に効果を発揮する。
【0016】
上記分波回路において、前記高周波フィルタは前記共通端子に接続された第一のキャパシタを備え、前記第一のキャパシタの前記共通端子側に前記寄生容量が形成されていても良い。
【0017】
上記分波回路において、前記第一のキャパシタを構成する対向電極のうち前記共通端子に接続された電極と、グランド電極とが対向して配置され、もって両電極の間に前記寄生容量が形成されているのが好ましい。分波回路を構成するキャパシタのうち共通端子に接続されたキャパシタの接続端子側の電極を利用することにより、簡単な構造で効率的に寄生容量を形成することができ、もって回路の大型化を避けることができる。
【0018】
上記分波回路において、前記高周波フィルタは、前記共通端子に接続された第一のキャパシタと、前記第一のキャパシタと前記高周波端子との間に接続された第二のキャパシタと、前記第一のキャパシタと前記第二のキャパシタとの間とグランドとの間に接続された第三の伝送線路及び第三のキャパシタからなる直列共振回路とを備え、前記第三の伝送線路、前記第一のキャパシタ、前記第二のキャパシタ及び前記第三のキャパシタは電極パターンが形成された誘電体層を積層してなる積層体内に構成されており、前記積層体内で前記第一のキャパシタを構成する対向電極のうち前記共通端子に接続された電極がグランド電極に対向しているのが好ましい。分波回路を構成するキャパシタのうち共通端子に接続された電極をグランド電極に対向させるので、効率的に寄生容量を発生させることができるだけでなく、グランド電極の面積や、前記第一のキャパシタを構成する対向電極のうち前記共通端子に接続された電極とグランド電極との距離等を変えることにより簡単に寄生容量を調整できる。
【0019】
本発明の第一の高周波回路は、前記第一の分波回路を備え、前記低周波端子に接続された第二の伝送線路を有し、前記キャパシタは前記第一の伝送線路の一部と前記第二の伝送線路の少なくとも一部に並列に接続されていることを特徴とする。第一の伝送線路と、低周波端子に接続された他の回路の伝送線路とを用いて、不要帯域を抑制する並列共振回路を構成するので、分波回路を小型化できる。またキャパシタが第一の伝送線路と第二の伝送線路に跨ぐように接続されているため、この高周波回路を多層基板に形成する場合に前記キャパシタの配置が容易である。
【0020】
上記高周波回路は、前記低周波端子に接続され、前記低周波側経路の送信側経路と受信側経路との切り替えを行うスイッチ回路を有し、前記第二の伝送線路は前記スイッチ回路の受信側経路に設けられた伝送線路であるのが好ましい。この構成により、分波回路の後段にスイッチ回路を有し、不要帯域を抑制する小型の高周波回路が得られる。
【0021】
本発明の第一の高周波モジュールは、前記分波回路又は前記高周波回路が、電極パターンが形成された誘電体層を積層してなる多層基板に構成されていることを特徴とする。この構成により不要帯域を抑制する小型の高周波回路が得られる。
【0022】
上記高周波モジュールにおいて、前記第一の伝送線路の一部を構成する電極パターン、前記第二の伝送線路の少なくとも一部を構成する電極パターン、及び前記キャパシタの電極パターンが積層体の積層方向に重なっているのが好ましい。この構成は並列共振回路を小さくでき、高周波モジュールの小型化に有利である。
【0023】
本発明の第二の高周波モジュールは、前記第二の分波回路が、電極パターンが形成された誘電体層を積層してなる多層基板に構成されていること特徴とする。この分波回路の共通端子を他の回路素子に接続すれば、前記寄生容量は容量素子として機能し、高周波モジュールの設計の効率及び自由度が向上する。
【0024】
上記高周波モジュールは、前記分波回路により分けられる第一の周波数帯域の送信系と受信系を切り換える第一のスイッチ回路と、前記分波回路により分けられる第二の周波数帯域の送信系と受信系を切り換える第二のスイッチ回路とを備えるのが好ましい。かかる構成の高周波アンテナスイッチモジュールの分波回路をアンテナと接続すると、前記分波回路に発生する寄生容量をアンテナ端子に付加でき、高調波が抑制される。
【0025】
本発明の第三の高周波モジュールは、少なくとも第一の周波数帯域と、前記第一の周波数帯域より高い第二の周波数帯域を選択的に用いるマルチバンド無線通信装置に用いるもので、前記第一の周波数帯域における第一の送受信系と前記第二の周波数帯域における第二の送受信系とを分ける分波回路と、前記分波回路に接続され、前記第一の送受信系の送信系と受信系を切り換える第一のスイッチ回路と、前記分波回路に接続され、前記第二の送受信系の送信系と受信系を切り換える第二のスイッチ回路とを有し、前記分波回路、前記第一のスイッチ回路及び前記第二のスイッチ回路は電極パターンが形成された誘電体層を積層してなる積層体に構成されており、前記分波回路、前記第一のスイッチ回路及び前記第二のスイッチ回路が有する伝送線路のうち、前記第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路は前記積層体内の誘電体層に設けられたグランド電極の積層方向一方の側に形成されており、前記第二の週波数帯域の信号が通る伝送線路は前記グランド電極の積層方向他方の側に形成されていることを特徴とする。
【0026】
前記分波回路等が有する第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路と第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路とをグランド電極により積層方向に分離するので、両送受信回路間での相互干渉や、信号及び不要高調波の漏洩を抑制することができる。前記第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路と前記第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路とを積層方向に分離しているため、両回路の分離のために平面寸法が増大するのを回避できる。
【0027】
第一及び第二の周波数帯域の他に、周波数帯域の異なる第三の周波数帯域等の送受信回路を設けても良い。この場合、第三又は第四の周波数帯域の信号が通る伝送線路は前記グランド電極の片側にまとめて形成するのが好ましい。
【0028】
第三の高周波モジュールにおいて、前記第二の周波数帯域と前記第一の周波数帯域の二倍波の周波数帯域とはほぼ同じであるのが好ましい。第二の周波数帯域と第一の周波数帯域の二倍波の周波数帯域とが同じであると、第一の周波数帯域の不要高調波の漏洩等が第二の周波数帯域の信号に与える影響が大きいので、第一の周波数帯域と第二の周波数帯域とのシールドを確実に行う第三の高周波モジュールは、特に効果的である。
【0029】
第三の高周波モジュールは、高調波の抑制を図るために、インダクタンスを形成する伝送線路とキャパシタとを備えたローパスフィルタを有し、前記伝送線路を構成する電極パターンが形成された誘電体層と前記キャパシタを構成する電極パターンが形成された誘電体層とはグランド電極により積層方向に分離されており、かつ前記伝送線路を構成する電極パターンに関して前記グランド電極の積層方向反対側に対向するグランド電極を具備しないのが好ましい。この場合、前記グランド電極の積層方向の片側はインダクタンス形成部、反対側はキャパシタ形成部となっている。この構成では、伝送線路とキャパシタの間にグランド電極が配置されているため、伝送線路及びキャパシタの干渉が防止されてフィルタ性能が向上するとともに、伝送線路及びキャパシタの設計も容易になる。
【0030】
第三の高周波モジュールは、前記キャパシタを構成する電極パターンに関して前記グランド電極の積層方向反対側に対向するグランド電極を具備しないのが好ましい。この構成によれば、ローパスフィルタを小型化できる。
【0031】
上記高周波モジュールは前記キャパシタを複数有するのが好ましい。π型や梯子型のローパスフィルタ等のように複数のキャパシタを有する場合、キャパシタをインダクタンスに近接して配置すると干渉が起こりやすくなる。これに対して、複数の前記キャパシタをグランド電極の積層方向片側にまとめて形成することにより、インダクタンスを形成する伝送線路とキャパシタの干渉を効果的に抑制できる。梯子型のローパスフィルタのようにインダクタンスを形成する伝送線路も複数で良い。この場合、前記伝送線路をグランド電極に関してキャパシタの反対側にまとめて形成する。
【0032】
上記高周波モジュールにおいて、前記キャパシタの少なくとも一つは前記伝送線路に並列に接続されても良い。この構成でも伝送線路とキャパシタとの干渉が効果的に抑制される。
【発明の効果】
【0033】
本発明の分波回路は、小型及び低損失でありながら不要帯域を効果的に抑制することができる。また本発明の高周波モジュールは、小型を維持しつつ、周波数帯の異なる送受信系同士の信号の漏洩及び干渉を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態による分波回路の等価回路を示す図である。
【図2】本発明の他の実施形態による高周波回路の等価回路を示す図である。
【図3】本発明のクワッドバンド用アンテナスイッチ回路の等価回路を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態による高周波モジュールを構成する電極パターン付き誘電体層を示す部分展開図である。
【図5】本発明の一実施形態による高周波モジュールの通過特性を示すグラフである。
【図6】比較例の高周波スイッチモジュールの通過特性を示すグラフである。
【図7】本発明の他の実施形態による分波回路の等価回路を示す図である。
【図8】本発明の他の実施形態による分波回路の等価回路における寄生容量を示す図である。
【図9】本発明の他の実施形態による高周波モジュールの積層体の一部を概略的に示す断面図である。
【図10】本発明の他の実施形態によるクワッドバンド用アンテナスイッチ回路の等価回路を示す図である。
【図11】本発明のさらに他の実施形態による高周波モジュールを示すブロック図である。
【図12】本発明のさらに他の実施形態による高周波モジュールを構成する電極パターン付き誘電体層を示す部分展開図である。
【図13】本発明のさらに他の高周波スイッチモジュールを構成する電極パターン付き誘電体層を示す部分展開図である。
【図14】本発明の一実施形態によるローパスフィルタを用いた積層高周波モジュールを構成する電極パターン付き誘電体層を示す部分展開図である。
【図15】本発明の一実施形態によるローパスフィルタの等価回路を示す図である。
【図16】本発明の他の実施形態によるローパスフィルタの等価回路を示す図である。
【図17(a)】本発明に用いるローパスフィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【図17(b)】本発明に用いるローパスフィルタの他の例を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
[1] 第一の実施形態
(A) 分波回路
図1は本発明の一実施形態による分波回路の等価回路を示す。分波回路は、送信時には高周波側送信回路又は低周波側送信回路の送信信号を通過させ、受信時には周波数の異なる受信信号を分波して高周波側受信回路又は低周波側受信回路に分配する機能を有する。図1に示す分波回路は、共通端子Pc、低周波端子Pl及び高周波端子Phを有し、低周波フィルタ及び高周波フィルタを有し、これらのフィルタを用いて、共通端子Pcに接続する信号経路を共通端子Pcと低周波端子Plを接続する低周波側経路と、共通端子Pcと高周波端子Phを接続する高周波側経路とに分岐する。
【0036】
低周波フィルタは、共通端子Pcと低周波端子Plとの間の設けられた第一の伝送線路LL1と、第一の伝送線路LL1と低周波端子Plとの間に一端が接続され他端が接地された伝送線路LL2と第一のキャパシタCL1との直列共振回路とからなる。伝送線路LL2と第一のキャパシタCL1の直列共振回路の共振周波数を例えば高周波側の信号周波数と同じに設定することにより、高周波側の信号が低周波側に回り込むのを防ぐことができる。本実施形態では、低周波フィルタの第一の伝送線路LL1の一部(低周波端子Pl側)にキャパシタCが並列接続し、並列共振回路を構成している。第一の伝送線路LL1の残部(共通端子Pc側)はインダクタを構成している。第一の伝送線路LL1の一部がキャパシタCと並列共振回路を構成しているため、並列共振回路の付加に伴う低周波フィルタ回路の大型化を回避することができる。図1に示す例ではキャパシタCは第一の伝送線路LL1の一部と並列に接続しているが、この構成に限らず、キャパシタCは第一の伝送線路LL1と直列に接続される他の回路素子も含む部分に対して並列に接続しても良い。前記直列共振回路、及び第一の伝送線路LL1の一部とキャパシタCとの並列共振回路以外については、図1に示す構成に限られず、他の構成でも良い。
【0037】
高周波フィルタは、共通端子Pcと高周波端子Phとの間に接続された第二及び第三のキャパシタCH4,CH5と、第二及び第三のキャパシタCH4,CH5の接続点とグランドとの間に接続された伝送線路LH4及び第四のキャパシタCH6からなる直列共振回路とを備えている。しかし高周波フィルタの回路構成はこの構成に限らず、適宜変更することができる。
【0038】
第一の伝送線路LL1の一部とキャパシタCを並列接続する構成を有する分波回路は、電極パターンを有する誘電体層からなる多層基板中で下記のように構成することができる。例えば、誘電体層に形成された第一の伝送線路LL1の電極パターンの一部に対向するように、隣接する誘電体層にキャパシタCの電極パターンを形成し、これらの電極パターンの一端を低周波端子Plに接続する。第一の伝送線路LL1の一部の幅を他の部分より大きくしても良い。
【0039】
(B) 高周波回路
図2は本発明の一実施形態による高周波回路の等価回路を示す。この高周波回路は、分波回路を備えるとともに、分波回路の低周波端子Plに接続される後段の回路に設けられた第二の伝送線路Lg2を有し、第一の伝送線路LL1の低周波端子Pl側の一部と、第二の伝送線路Lg2の低周波端子Pl側の少なくとも一部とにキャパシタCが並列に接続されている。図2に示す例では、後段の回路は低周波側経路の送信側経路と受信側経路との切り替えを行うスイッチ回路(回路構成は後述する)である。第二の伝送線路Lg2はスイッチ回路の受信側経路に設けられている。図2は、低周波端子Plに接続されたスイッチ回路のダイオードDg1も示す。
【0040】
このように分波回路の低周波フィルタの第一の伝送線路LL1と、スイッチ回路の受信側経路に設けられた第二の伝送線路Lg2と、これらに並列に接続されたキャパシタCとにより並列共振回路を構成しているため、回路が大型化することがない。この並列共振回路の共振周波数を受信信号の周波数以外の帯域に調整することにより、広く不要帯域の減衰を図ることができる。なお高周波フィルタ等、他の回路構成は図1に示すものと同じであるので、その説明を省略する。またキャパシタCは、第二の伝送線路Lg2の一部と並列に接続しても良いし、第二の伝送線路Lg2の全体と並列に接続しても良い。
【0041】
図2に示す高周波回路を、電極パターンが形成された誘電体層からなる多層基板に構成し、高周波モジュールとすることができる。高周波モジュールの例としては、アンテナに接続される送信系と受信系の信号経路を切り換えるアンテナスイッチモジュールや、送信信号を増幅する高周波増幅器回路を有する高周波増幅器モジュールと前記アンテナスイッチモジュールとを一体化した複合モジュール等が挙げられるが、これに限定されない。
【0042】
本発明の一実施形態である高周波モジュールとして、図3は、低周波帯のGSM850帯域(送信周波数:824〜849 MHz、受信周波数:869〜894 MHz)及びEGSM帯域(送信周波数:880〜915 MHz、受信周波数:925〜960 MHz)、及び高周波帯のDCS帯域(送信周波数:1710〜1785 MHz、受信周波数:1805〜1880 MHz)及びPCS帯域(送信周波数:1850〜1910 MHz、受信周波数:1930〜1990 MHz)を用いるクワッドバンド用アンテナスイッチ回路の等価回路を示す。このアンテナスイッチ回路は、低周波フィルタ及び高周波フィルタからなる分波回路Dipと、分波回路の低周波フィルタの後段に配置され、制御端子Vcから供給される電圧により送信端子Tx-LBと受信端子Rx-LBとを切り換える第一のスイッチ回路SW1と、分波回路の高周波フィルタの後段に配置され、制御端子Vcから供給される電圧により送信端子Tx-HBと受信端子Rx-HBとを切り換える第二のスイッチ回路SW2とを具備する。低周波側の送信端子Tx-LB及び受信端子Rx-LBはGSM及びEGSMで共用しており、高周波側の送信端子Tx-HB及び受信端子Rx-HBはDCS及びPCSで共用している。低周波側の受信端子Rx-LB及び高周波側の受信端子Rx-HBは本モジュールが搭載される携帯端末が使用される地域により選択的に使用し、例えば、欧州ではRx-LBをEGSM、Rx-HBをDCSに割り当て、米国ではRx-LBをGSM、Rx-HBをPCSに割り当てる。このとき、各送受信端子では低周波帯であるGSM850及びEGSMの帯域、高周波帯であるDCS及びPCSの帯域で所望特性を有する広帯域設計が必要となる。また低周波側の受信端子Rx-LB及び高周波側の受信端子Rx-HBの後段はスイッチ回路(図示せず)とし、4つの受信端子を設けても良い。
【0043】
高周波モジュールを、クワッドバンドに限らず、トリプルバンド又はデュアルバンドの高周波スイッチモジュールとしても良い。例えば、低周波帯のGSM850及びEGSMの一方を第一の周波数帯域とし、高周波帯のDCS及びPCSの一方を第二の周波数帯域としても良い。さらに、高周波モジュールは携帯電話の通信システム用に限らず、無線LAN等他の通信システム用でも良い。高周波回路及び高周波モジュールに用いるフィルタ回路、スイッチ回路、検波回路、平衡不平衡回路等の回路素子の数及び配置は、必要に応じて変更しても良い。
【0044】
図3に示すアンテナスイッチ回路において、第一の周波数帯域の送受信系と第二の周波数帯域の送受信系とを分けるために低周波フィルタ及び高周波フィルタからなる分波回路(ダイプレクサ)Dipは、GSM及びEGSMの送受信信号を通過させるとともにDCS及びPCSの送受信信号を減衰させる低周波側(GSM/EGSM Side)フィルタとしてローパスフィルタを備え、DCS及びPCSの送受信信号を通過させるとともにGSM及びEGSMの送受信信号を減衰させる高周波側(DCS/PCS Side)フィルタとしてハイパスフィルタを備えている。共通端子であるアンテナ端子Antに接続されている低周波フィルタ及び高周波フィルタは、それぞれ伝送線路とキャパシタにより構成されているが、バンドパスフィルタ又はノッチフィルタで構成することもできる。
【0045】
低周波側(GSM/EGSM Side)フィルタとしてのローパスフィルタにおいて、伝送線路LL1は、低周波帯域(GSM及びEGSM)の信号を低損失で通過させるが、高周波帯域(DCS及びPCS)の信号に対して高インピーダンスとなり、DCS及びPCS帯域の信号の回り込みを防止する。伝送線路LL1は、DCS及びPCS帯域の信号がGSM系の経路へ伝送されないように、DCS及びPCS帯域の信号の周波数で高インピーダンスとなる長さに設定するのが好ましい。伝送線路LL2及びキャパシタCL1は、DCS及びPCS帯域に共振周波数を有する直列共振回路を構成し、DCS及びPCS帯域の信号をグランドに落とし、回り込みを防止する。高周波側(DCS/PCS Side)フィルタとしてのハイパスフィルタにおいて、キャパシタCH4、CH5は、高周波帯域(DCS及びPCS)の信号を低損失で通過させるが、低周波帯域(GSM及びEGSM)の信号に対して高インピーダンスとなり、GSM及びEGSM帯域の信号の回り込みを防止する。伝送線路LH4及びキャパシタCH4は、GSM及びEGSM帯域に共振周波数を有する直列共振回路を構成し、GSM及びEGSM帯域の信号をグランドに落とし、回り込みを防止する。
【0046】
図3に示すスイッチ回路は、前記分波回路に接続されて第一の送受信系の送信系(送信端子Tx-LB)と受信系(受信端子Rx-LB)を切り換える第一のスイッチ回路SW1と、前記分波回路に接続されて第二の送受信系の送信系(送信端子Tx-HB)と受信系(受信端子Rx-HB)を切り換える第二のスイッチ回路SW2とを有する。第一及び第二のスイッチ回路SW1,SW2はいずれもスイッチ素子及び伝送線路を主要素子とする。スイッチ素子としてはPINダイオードが好適であるが、GaAsスイッチも使用できる。PINダイオードを使用したスイッチ回路はGaAsスイッチを使用したスイッチ回路より低コストであるが、GaAsスイッチはPINダイオードを使用したスイッチ回路より低消費電力化が可能であるので、これらの特徴を生かすように選択する。
【0047】
GSM/EGSMの送信端子Tx-LBと受信端子Rx-LBを切り換える第一のスイッチ回路SW1(図3の上段にある)は、2つのダイオードDg1、Dg2及び2つの伝送線路Lg1、Lg2を主要素子とする。ダイオードDg1は、分波回路の低周波フィルタと送信端子Tx-LBとの間に介挿され、ダイオードDg1のアノードは分波回路の低周波フィルタに接続され、ダイオードDg1のカソードは、伝送線路LL3とキャパシタCL2,CL3とにより構成されたL型のローパスフィルタLPF1に接続されている。ローパスフィルタLPF1を構成する伝送線路LL3の他端とグランドとの間には伝送線路Lg1が接続されている。ローパスフィルタLPF1は、GSM/EGSM側のパワーアンプ(図示せず)から入力される送信信号に含まれる高次の高調波歪みを抑制するため、GSM/EGSM送信信号を通過させるが、GSM/EGSM送信信号の2倍以上の周波数を十分に減衰させる特性を有するのが好ましい。パワーアンプから入力されるGSM/EGSM送信信号に含まれる高調波歪みを十分に減衰せるために、インダクタンスを形成する伝送線路LL3とキャパシタCL3は、GSM/EGSMの送信周波数の2倍又は3倍の共振周波数を有する並列共振回路を構成する。
【0048】
キャパシタCg6、Cg2、Cg1は、直流分を除去してダイオードDg1及びDg2を含む回路に制御用の直流電圧を印加するDCカットキャパシタとして機能するとともに、位相調整回路の一部としても機能する。ダイオードDg1のアノードと受信端子Rx-LBとの間には伝送線路Lg2が介挿され、伝送線路Lg2の一端とグランドとの間にダイオードDg2が接続され、ダイオードDg2のアノードとグランドとの間にキャパシタCg1が接続されている。またダイオードDg2のアノードと制御端子Vcとの間には抵抗Rgが直列に接続されている。制御端子Vcとグランドとの間に接続されたキャパシタCvgは、制御用の電源へのノイズ混入を阻止して、制御を安定化する。伝送線路Lg1及び伝送線路Lg2は、λ/4線路であり、いずれも共振周波数がGSM/EGSMの送信信号の周波数帯域内となるような線路長を有するのが好ましい。例えば、それぞれの共振周波数をGSMの送信信号周波数のほぼ中間の周波数(869.5 MHz)とすると、所望の周波数帯域内で優れた挿入損失特性を得ることができる。
【0049】
第二のスイッチ回路SW2(図3の下段にある)は、DCS及びPCS共通の受信端子Rx-HBと、DCS及びPCS共通の送信端子Tx-HBとを切り換える。第二のスイッチ回路SW2は、2つのダイオードDd1及びDd2と、2つの伝送線路Ld1及びLd2とを主要素子とする。ダイオードDd1は、分波回路の高周波フィルタと送信端子Tx-HBとの間に介挿され、ダイオードDd1のアノードは分波回路の高周波フィルタに接続され、ダイオードDd1のカソードは伝送線路LH5及びキャパシタCH7、CH8により構成されたL型のローパスフィルタLPF2に接続されている。ローパスフィルタLPF2を構成する伝送線路LH5の他端とグランドとの間には伝送線路Ld1が接続されている。ローパスフィルタLPF2は、DCS及びPCS側のパワーアンプ(図示せず)から入力される送信信号に含まれる高次高調波歪みを抑制するため、DCS又はPCS送信信号を通過させるが、DCS又はPCS送信信号の2倍以上の周波数を十分に減衰させる特性を有するのが好ましい。ダイオードDd1のOFF時に送信端子Tx-HBとアンテナ端子Antとの間、及び送信端子Tx-HBと受信端子Rx-HBとの間のアイソレーションを確保するため、インダクタLs及びキャパシタCsの直列回路がダイオードDd1に並列に接続され、OFF時のダイオードの容量成分を相殺する。
【0050】
伝送線路Ld1及びLd2はλ/4線路であり、いずれも共振周波数がDCSとPCSの送受信系の送信信号の周波数帯域内に入るような線路長を有するのが好ましく、特に前記周波数帯域の中間の周波数となる線路長を有するのが好ましい。例えば、伝送線路Ld1及びLd2の共振周波数をDCS帯域及びPCS帯域の送信信号のほぼ中間の周波数(1810 MHz)とすると、それぞれのモードにおいて優れた電気的特性を得ることができ、2つの送信信号を1つの回路で扱うことができる。キャパシタCd2は、直流分を除去してダイオードDd1及びDd2を含む回路に制御用の直流電圧を印加するDCカットキャパシタとして機能するとともに、位相調整回路の一部としても機能する。伝送線路Ld2の一端は分波回路の高周波フィルタを構成するキャパシタCH5に接続されており、伝送線路Ld2の他端はグランドに接続されたダイオードDd2及びキャパシタCd1に接続されている。ダイオードDd2のアノードには抵抗Rdを介して制御端子Vcが接続されている。キャパシタCvdは、制御用の電源へのノイズ混入を阻止して制御を安定化する。キャパシタCd5はDCカット用のキャパシタである。
【0051】
インダクタL1は、アンテナ端子に静電気、落雷等による過電流が印加された際、それをグランドGNDに逃がし、モジュールの破壊を防止する機能を果たす。インダクタL2とCg2、及びインダクタL5とCd2はそれぞれ接続位相を調整するハイパス型位相調整回路として機能し、高周波増幅器回路HPAから漏れる高調波を抑制する。アンテナスイッチ側インピーダンスとの関係を、基本波では共役整合となり、不要なn倍波では非共役整合となるように調整する。L3、C2、L4、C1は、LC共振回路とLCハイパス回路を構成し、250 MHz付近に共振点を持たせて静電パルスを減衰させ、静電パルスの受信端子後方への漏れ防止し、後方にある帯域通過フィルタの破壊を防止する。C3は整合調整用のキャパシタである。
【0052】
(C) 高周波モジュール
図4は、図3に示すアンテナスイッチ回路を11層の多層基板に形成してなる高周波モジュールを示す。BOTTOMは多層基板の裏面を示す。各層の右側約1/3の領域1にアンテナスイッチ回路が形成されており、左側約2/3の領域2に高周波増幅器回路(図示せず)が形成されている。分波回路は図2に示す構成を有する。高周波増幅器回路は、例えばアンテナスイッチ回路のGSM/EGSMの送信端子Tx-LBに接続され、増幅した送信信号をアンテナスイッチ回路に送る。高周波増幅器とアンテナスイッチ回路の接続を上層側に設け、かつ相互干渉を避けるために高周波増幅器の線路とアンテナスイッチ回路の線路を異なる層で上下に重ならない位置に形成するのが好ましい。
【0053】
図4において、図2及び図3に示す伝送線路及びキャパシタに対応する電極パターンには同じ符号を付してある。分波回路の高周波フィルタの第二のキャパシタCH4と第三のキャパシタCH5、及び低周波フィルタの第一のキャパシタCL1はグランド電極が設けられた第6の誘電体層の下側に設けられている。直列共振回路を構成する伝送線路LL2と第一のキャパシタCL1の電極パターンは積層方向に重なるように形成されている。同様に直列共振回路を構成する伝送線路LH4と第四のキャパシタCH6の電極パターンも積層方向に重なるように形成されている。低周波フィルタの第一の伝送線路LL1の電極パターンは、コイル状となるように第2層〜第5層に形成されている。また第一のスイッチ回路SW1の第二の伝送線路Lg2の電極パターンは、コイル状となるように第5層、第7層〜第11層に形成されている。
【0054】
第2層に形成された第一の伝送線路LL1の電極パターンの端部はスルーホール電極を介して第三層に形成されたキャパシタCの電極パターンに接続されている。キャパシタCの電極パターンは、第5層に形成された第二の伝送線路Lg2の電極パターンの端部と対向し、キャパシタを構成している。また第2層に形成された第一の伝送線路LL1の電極パターンの端部と第7層に形成された第二の伝送線路Lg2の電極パターンの端部とは、最上層に搭載されるキャパシタCg6にスルーホール電極を介して接続されている。かかる電極パターンの配置により、キャパシタCが第一の伝送線路LL1の一部と第二の伝送線路Lg2の一部に並列に接続された構成が得られる。上述のように図4に示す実施形態では、第一の伝送線路LL1の一部を構成する電極パターン、第二の伝送線路Lg2の一部を構成する電極パターン、及びキャパシタCの電極パターンが積層方向に重なる部分を有している。
【0055】
実施例1
図4に示す高周波モジュールを、950℃以下の低温焼成が可能なLTCCからなる11層の誘電体グリーンシートにより作製した。グリーンシートの厚さは、伝送線路及びキャパシタを形成しやすいように40〜200μmであるのが好ましい。電極パターンは銀系の導電ペーストにより形成するのが好ましい。各グリーンシートに伝送線路及びキャパシタ用の電極パターンを形成し、適宜スルーホールを設け、積層した後で圧着し、950℃で焼成し、約10 mm×約8 mm×約0.65 mmの積層体を得る。積層体の上面にダイオード、トランジスタ、チップインダクタ、チップキャパシタ、抵抗等を搭載し、高周波モジュールを得る。高周波モジュールの上には通常高さ約1.6 mmの金属ケース(図示せず)を被せる。金属ケースの代わりに、樹脂封止パッケージとしても良く、この場合高さは約1.5 mmとなる。
【0056】
実施例1の高周波モジュールの通過特性を図5に示し、従来の回路構造を有する高周波モジュールの通過特性を図6に示す。従来の特性は3 GHz付近の不要帯域に約−15 dBの大きな盛り上がりがあり、製造ばらつきによっては、約−10 dBを超えることもあり、受信特性に不具合が生じるおそれがある。一方、実施例1の高周波モジュールでは、3 GHz付近が約−25 dB以下に抑制でき、受信特性への悪影響が排除されている。また実施例1の高周波モジュールの通過損失は約−1.0 dBであり、不要波抑制用キャパシタが設けられていない従来の高周波モジュールと同程度であった。
【0057】
[2] 第二の実施形態
(A) 分波回路
図7は、本発明の第二の実施形態による分波回路の等価回路を示す。分波回路は、送信時には高周波側送信回路又は低周波側送信回路の送信信号を通過させ、受信時には周波数の異なる信号を分波し、高周波側受信回路又は低周波側受信回路に受信信号を分配する機能を有する。低周波フィルタ及び高周波フィルタからなる図7に示す分波回路は、共通端子Pc、低周波端子Pl及び高周波端子Phを有する。高周波フィルタは、共通端子Pcに接続された第一のキャパシタCH4と、第一のキャパシタCH4と高周波端子Phとの間に接続された第二のキャパシタCH5と、第一のキャパシタCH4と第二のキャパシタCH5との接続点とグランドとの間に接続された第一の伝送線路LH4及び第三のキャパシタCH6からなる直列共振回路とを具備する。低周波フィルタは、低周波端子Plと共通端子Pcとの間に設けられた第二の伝送線路LL1と、第二の伝送線路LL1と低周波端子Plとの間に一端が接続され、他端が接地された第三の伝送線路LL2及び第四のキャパシタCL1からなる直列共振回路とを具備する。なお分波回路が有するローパスフィルタ等の回路構成は前記のものに限定されず、適宜変更可能である。
【0058】
分波回路のうち第一の伝送線路LH4、第一のキャパシタCH4、第二のキャパシタCH5及び第三のキャパシタCH6は、積層体を構成する誘電体層に形成された電極パターンにより構成される。誘電体層7を積層した積層体において、第一のキャパシタCH4を構成する対向電極のうち共通端子Pcに接続される電極5は、図9に示すように、グランド電極に対向している。これにより、分波回路の一部であるキャパシタの電極を用いて寄生容量を発生させることができる。図9の構成では、一層の誘電体層の両側に第一のキャパシタCH4を構成する電極5とグランド電極6が対向している。寄生容量の大きさは、誘電体層の厚さ、グランド電極6の面積、及び/又は誘電体層の誘電率を調整することにより容易に制御することができる。第一のキャパシタCH4の他方の電極と、第二のキャパシタCH5の電極(第一のキャパシタCH4の側)は、共通電極4として積層体内において電極5の上側に形成されている。第二のキャパシタCH5の他方の電極3(高周波端子Phに接続)は共通電極4の上側に形成されている。このように電極5と共通電極4で第一のキャパシタCH4を構成し、共通電極4と電極3で第二のキャパシタCH5を構成するとともに、グランド電極6との間で寄生容量を発生させる。従来ハイパスフィルタ部に寄生容量ができるだけ生じないようにしてきたが(例えば特開2002-26677号)、本発明では高調波抑制の観点からこれを積極的に利用する。分波回路をアンテナスイッチモジュールに使用する場合、図8に示すように、寄生容量Cpはアンテナに付属し、高調波を抑制する。
【0059】
(B) 高周波回路
上記分波回路を有する高周波回路は、分波回路により分けられた低周波側の第一の周波数帯域の送信系と受信系を切り換える第一のスイッチ回路と、分波回路により分けられる高周波側の第二の周波数帯域の送信系と受信系を切り換える第二のスイッチ回路とを具備する。本実施形態の高周波回路の等価回路として、図10は、低周波帯のGSM850帯域(送信周波数:824〜849 MHz、受信周波数:869〜894 MHz)及びEGSM帯域(送信周波数:880〜915 MHz、受信周波数:925〜960 MHz)、高周波帯のDCS帯域(送信周波数:1710〜1785 MHz、受信周波数:1805〜1880 MHz)及びPCS帯域(送信周波数:1850〜1910 MHz、受信周波数:1930〜1990 MHz)を用いたクワッドバンド用アンテナスイッチ回路の等価回路を示し、図11はそのブロック図を示す。この等価回路は第二の実施形態の分波回路を用いた以外第一の実施形態の等価回路と同じであるので、その説明を省略する。
(C) 高周波モジュール
図12は、図10に示すアンテナスイッチ回路を多層基板に形成した高周波スイッチモジュールを示す。第6層には、スルーホール電極が形成された領域以外ほぼ全面にグランド電極が形成されている。分波回路の高周波フィルタの第一及び第二のキャパシタCH4,CH5はグランド電極が設けられた第6層の下側に設けられている。具体的には、第二のキャパシタCH5の電極3(高周波端子Ph側)は第9層に形成され、第一及び第二のキャパシタCH4,CH5の共通電極4は第10層に形成され、第一のキャパシタCH4の電極5(共通端子Pc側)は第11層に形成され、電極5は積層体の裏面に形成されたグランド電極に対向している。電極3、4及び5同士も対向している。本実施例では裏面に形成されたグランド電極との対向を利用して寄生容量を発生させているが、これに限られず、積層体内のグランド電極を利用しても良い。
【0060】
分波回路にチップキャパシタ、チップインダクタ等の個別部品を用いる場合、アンテナ端子(共通端子Pc)と同電位の搭載パッドの直下にグランド電極を設けたり、搭載パッド周辺にグランド電極を配置したりすることにより、寄生容量を発生させても良い。またアンテナ端子に寄生容量を付加させるために、アンテナ端子に分波器を接続しない形態としても良い。いずれの場合も、寄生容量が大きすぎると挿入損失が劣化するため、電極間隔等を調整して寄生容量を約1 pF以下とするのが望ましい。
【0061】
実施例2
アンテナスイッチモジュールとして、図12に示す構造を有する積層モジュールを作製した。図12に示す積層モジュールには高周波増幅器も併せて形成した。積層モジュールは第1層〜第11層の誘電体グリーンシートで構成され、BOTTOMは積層体の裏面を示す。本実施例で使用した誘電体グリーンシートは950℃以下の低温焼成が可能なLTCCである。積層体の寸法及び作製方法は実施例1と同じである。
【0062】
実施例2の分波回路と、第一のキャパシタCH4の電極(共通端子Pcに接続)がグランド電極に対向していない従来の分波回路とを比較したところ、挿入損失はほぼ同等であるが、減衰量は低周波側(GSM及びEGSM)で約1.5〜7 dBと大きく改善され、高周波側(DCS及びPCS)で約1.5〜3 dBと大きく改善されたことが分かった。
【0063】
実施例2の分波回路を有する高周波スイッチモジュールとして、図12に示す積層モジュールを作製した。分波回路の主要キャパシタを形成する誘電体の厚さを25μmとし、第一のキャパシタCH4の対向電極と裏面のグランド電極との距離を100μmとすることにより、積層モジュールにおける寄生容量を約0.5 pFに調整した。実施例2の高周波スイッチモジュールを従来の分波回路を有する高周波スイッチモジュールと比較したところ、挿入損失は同等であったが、減衰量は低周波側で約2〜7 dBと大きく改善され、高周波側(DCS及びPCS)で約1.5〜14 dBと大きく改善されたことが分かった。
【0064】
[3] 第三の実施形態
第三の実施形態による高周波モジュールは、分波回路Dip及び第一及び第二のスイッチ回路が有する伝送線路LL1、LL2、LH4、Lg1、Lg2、Ld2の配置以外、第一の実施形態と同じである。Ld1は第二の周波数帯域の高調波が通る伝送線路である。伝送線路LL1、LH4及びLg2には低周波側の第一の周波数帯域の信号が通り、伝送線路LL2、Lg1及びLd2には高周波側の第二の周波数帯域の信号が通る。伝送線路LL2,Lg1は低周波側の回路要素であるが、低周波側回路に漏洩した高周波側成分が通り、伝送線路LH4は高周波側の回路要素であるが、高周波側回路に漏洩した低周波成分が通る。
【0065】
第一の周波数帯域(GSM850及びEGSM)と第二の周波数帯域(DCS及びPCS)の送受信回路間での相互干渉を抑制するために、第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路LL1,LH4,Lg2を積層体内のグランド電極の積層方向一方の側に設け、第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路LL2,Lg1,Ld2を前記グランド電極の積層方向他方の側に設ける。すなわち、前記伝送線路をグランド電極で積層方向に分離する。第一の周波数帯域であるGSM850及びEGSMの二倍波は、第二の周波数帯域であるDCS及びPCSの周波数帯域とほぼ同じであるため、第一の周波数帯域の二倍波が第二の周波数帯域に与える影響は大きい。上記構成は、このような第一の周波数帯域と第二の周波数帯域との関係の場合に特に有効である。グランド電極は、第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路と第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路とを少なくとも部分的に分離するように誘電体層に形成されていれば良いが、完全に分離するように両伝送線路より広く誘電体層に形成されている方が好ましい。第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路の電極パターンの間や、第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路の電極パターンの間に、他のグランド電極が形成されていても良い。複数層に設けられたグランド電極はスルーホール電極で接続するのが好ましく、スルーホール電極数は多いほど良い。
【0066】
図13は、図10に示すアンテナスイッチ回路を積層体に形成した高周波モジュールを示す。各層の右側約1/3の領域1にアンテナスイッチ回路が形成されており、左側約2/3の領域2に高周波増幅器回路が形成されている。高周波増幅器回路は、図10のアンテナスイッチ回路の例えばGSM/EGSMの送信端子Tx-LBに接続し、増幅した送信信号をアンテナスイッチ回路に送る。高周波増幅器とアンテナスイッチ回路の接続を上層側に設け、かつ相互干渉を避けるために高周波増幅器の線路とアンテナスイッチ回路の線路を異なる層で上下に重ならない位置に形成するのが好ましい。
【0067】
図13は左上から順に、電極パターンを形成した11層の誘電体層と積層体の裏面BOTTOMを示す。第6層には、スルーホール電極が形成された領域以外ほぼ全面にグランド電極が形成されている。第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路LL1,LH4,Lg2の電極パターンは、グランド電極を設けた第6層の上側の第2層〜第5層に形成されているが、第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路LL2,Ld2,Lg1の電極パターンは、グランド電極が設けられた第6層の下側の第7層〜第11層に形成されている。第一及び第二の周波数帯域の送受信系で用いられるローパスフィルタLPF1,LPF2を構成する伝送線路及びキャパシタの電極パターンうち、伝送線路の前記電極パターンはグランド電極の上側の設けられており、キャパシタの電極パターンは前記グランド電極の下側に設けられている。
【0068】
実施例3
アンテナスイッチモジュールとして、図13に示す積層モジュールを作製した。950℃以下の低温焼成が可能なLTCCからなる11層の誘電体グリーンシートを第一の実施形態と同じ条件で積層した。積層モジュールを構成する全ての層において、アンテナスイッチ回路を構成する電極パターンは右側領域1に形成し、高周波増幅器を構成する電極パターンは左側領域2に形成した。
【0069】
実施例3の高周波モジュールと、第一の周波数帯域の信号が通る伝送線路と第二の周波数帯域の信号が通る伝送線路とを積層方向に分離していない従来の高周波モジュールとを比較したところ、送信側では挿入損失が低周波側(GSM及びEGSM)で約0.1〜0.2 dBと大きく改善され、高周波側(DCS及びPCS)で約0.05〜0.2 dBと大きく改善され、また減衰量が低周波側で約3〜12 dBと大きく改善され、高周波側(DCS及びPCS)で約5〜15 dBと大きく改善されたことが分かった。受信側では、挿入損失が低周波側(GSM及びEGSM)で約0.05〜0.1 dBと大きく改善され、高周波側(DCS及びPCS)で約0.1〜0.3 dBと大きく改善されたことが分かった。電波の漏洩は高周波ほど大きいので、本発明の効果は高周波側ほど大きい。
【0070】
干渉によると考えられる不要帯域での特性劣化も解消された。この効果は、受信間アイソレーション特性(低周波側受信端子と高周波側受信端子との間の通過特性)から明確に確認できた。アイソレーション改善効果は、低周波帯域では約5 dBであり、高周波帯域では約2 dBであり、各n倍波帯域では約3〜20 dBであった。このような挿入損失及び減衰量の改善効果が得られたのは、低周波側と高周波側のシールド効果によると考えられる。なおGaAsスイッチを使用する場合、低周波側ラインと高周波側ラインとをグランド電極で分離することにより、同じ効果を得ることができる。
[4] 第四の実施形態
本発明の高周波回路及び高周波モジュールに好適なローパスフィルタについて以下詳細に説明する。図10は低周波帯のGSM及びEGSMと高周波帯のDCS及びPCSをカバーするクワッドバンド用アンテナスイッチ回路の等価回路の一例を示し、図14はローパスフィルタを組み込んだ積層体を構成する各誘電体層上の電極パターンを示す。アンテナスイッチ回路のローパスフィルタ以外の部分は第一の実施形態と同じなので、それらの説明を省略する。
【0071】
ローパスフィルタは単体の積層ローパスフィルタでも良い。ローパスフィルタを用いた積層モジュールの構成は特に限定されないが、アンテナスイッチモジュール、又はアンテナスイッチ回路と高周波増幅器回路との複合モジュールとするのが好ましい。
【0072】
図10及び図11に示す第一及び第二のローパスフィルタLPF1,LPF2は同じ構成で良い。図15はローパスフィルタLPF(LPF1又はLPF2)の等価回路を示す。第一のローパスフィルタLPF1は、インダクタンスを形成する伝送線路LL3とキャパシタCL2,CL3からなるL型ローパスフィルタである。キャパシタCL3は伝送線路LL3に並列に接続され、並列共振回路を構成している。ローパスフィルタの構成は図15に示すものに限らず、例えば図16に示すπ型ローパスフィルタでも良い。
【0073】
電極パターンを形成した11層の誘電体層と積層体の裏面BOTTOMを示す図14により、積層体における第一のローパスフィルタLPF1を説明する。図14は左上から順に第1層〜第11層及び裏面を示す。ローパスフィルタLPF1を構成する伝送線路LL3及びキャパシタCL2,CL3を構成する電極パターンもそれぞれLL3,CL2,CL3で示す。第6層にはグランド電極G1が形成されており、グランド電極G1より上側の第2層〜第5層に伝送線路用電極パターンLL3が形成されている。キャパシタ用電極パターンCL2,CL3はグランド電極G1の下側の第9層〜第11層に形成されている。すなわち、第一のローパスフィルタLPF1を構成する複数のキャパシタ用電極パターンCL2,CL3と伝送線路用電極パターンLL3とはグランド電極G1により積層方向に分離されている。両電極パターンはグランド電極G1により全面で分離されているのが好ましい。ローパスフィルタが複数の伝送線路を有する場合も同様に、複数の伝送線路を構成する電極パターンは、グランド電極の積層方向片側にまとめて形成する。
【0074】
積層体の小型化のため、図14に示す構成では、伝送線路用電極パターンLL3とキャパシタ用電極パターンCL2,CL3とは積層方向に重なりを有する。本発明のローパスフィルタでは伝送線路とキャパシタがグランド電極で分離されているため、インダクタとキャパシタが積層方向に重なりを有しても相互干渉がない。伝送線路LL3より外側の第1層等には、伝送線路用電極パターンLL3と積層方向で重なるグランド電極は設けられていないので、伝送線路LL3より外側に対向するグランド電極を配置した場合に生じる寄生容量の形成や、挿入損失の増加を回避することができる。
【0075】
図14に示す構成では、キャパシタ用電極パターンCL2,CL3側にグランド電極G1と別のグランド電極(キャパシタCL2の対向グランド電極)を設けている。この場合、伝送線路用電極パターンLL3とキャパシタ用電極パターンCL2,CL3に挟まれるグランド電極G1は、キャパシタCL2,CL3の対向グランド電極として機能してもしなくても良い。伝送線路用電極パターンLL3とキャパシタ用電極パターンCL2,CL3に挟まれたグランド電極G1とキャパシタCL2,CL3の対向グランド電極を単一のグランド電極で構成しても良い。この場合、グランド電極G1と別のグランド電極をキャパシタ用電極パターンCL2,CL3の外側に具備しない。この構成は小型化に有利である。
【0076】
特開平11-27177号のローパスフィルタでは、インダクタンスとキャパシタの間にグランド電極が部分的に形成されているため、インダクタンス用電極パターンとキャパシタ用電極パターンとは完全に分離されていないが、本実施形態のローパスフィルタでは、インダクタンス用電極パターンとキャパシタ用電極パターンとの間にグランド電極が存在している点で、両者は大きく異なる。さらに伝送線路用電極パターンの外側に別の対向するグランド電極を有しないため、インダクタンスとして機能する伝送線路の寄生容量の形成が抑制され、損失低減に寄与する。
【0077】
図17(a) に示すローパスフィルタにおいて、積層方向においてインダクタンスを形成する伝送線路の電極パターン13とキャパシタ用電極パターン15との間にグランド電極14が設けられており、キャパシタ用電極パターン15の下側にはグランド電極16が設けられている。グランド電極14はその上下に設けられた伝送線路用電極パターン13とキャパシタ用電極パターン15より接地面積が大きく、積層方向において伝送線路用電極パターン13とキャパシタ用電極パターン15が対向する領域に全面的にグランド電極14が存在するため、グランド電極14は伝送線路とキャパシタとの干渉を防ぐ。
【0078】
伝送線路用電極パターン13の上側にグランド電極が設けられていないため、伝送線路の上側に寄生容量が形成されることがない。この場合、インピーダンス設計が許す限り、インダクタンスを形成する伝送線路とグランド電極との距離を広げることにより、伝送線路の下側に発生する寄生容量を抑制し、もって挿入損失を低減することができる。グランド電極14をキャパシタの対向電極の1つとして使用しない場合、伝送線路の電極パターンのうちグランド電極14側の電極パターンとグランド電極との距離を広げて寄生容量の発生を抑制するのが好ましいが、グランド電極14をキャパシタの対向電極の1つとして使用する場合はこの限りでない。
【0079】
図17(b) に示す構成では、積層方向においてインダクタを形成する伝送線路の電極パターン13とキャパシタの電極パターン15との間にグランド電極14が設けられているが、キャパシタ用電極パターン15の下側に別のグランド電極が設けられておらず、グランド電極14をキャパシタの対向電極として用いている。この構成でも図17(a) に示す構成と同じ効果が得られる。この構成では、グランド電極14を対向電極の1つとして使用するため、電極パターン15とグランド電極14との距離は50μm以下に設定するのが好ましい。
【0080】
図10に示す第二のローパスフィルタも第一のローパスフィルタと同様にして構成することができる。このように積層モジュールが複数のローパスフィルタを備える場合、複数のローパスフィルタのグランド電極を必ずしも同じ誘電体層に形成する必要はないが、同じ誘電体層上に形成するのが好ましい。このような構成は、積層体の小型化、及び不要な浮遊容量の抑制に効果的である。
【0081】
上記ローパスフィルタは、第一〜第三の実施形態のいずれのアンテナスイッチ回路にも用いることができ、また第一及び第二の実施形態による高周波モジュールに限らず、他のマルチバンド高周波モジュールにも広く使用できる。
【0082】
実施例4
アンテナスイッチモジュールとして、図14に示す積層モジュールを、950℃以下の低温焼成が可能なLTCCからなる11層の誘電体グリーンシートにより作製した。この積層モジュールは高周波増幅器も有する。積層体の寸法及び作製方法は第一の実施形態と同じである。
【0083】
実施例4のローパスフィルタと、インダクタンスを形成する伝送線路の上側にグランド電極を有する従来のローパスフィルタとを比較したところ、挿入損失が低周波側(GSM及びEGSM)で約0.3〜0.35 dBと大きく改善し、高周波側(DCS及びPCS)で約0.2〜0.3 dBと大きく改善し、また減衰量が低周波側(GSM及びEGSM)で約2〜5 dBと大きく改善し、高周波側(DCS及びPCS)で約4〜10 dBと大きく改善したことが分かった。これは、インダクタンスを形成する伝送線路の寄生容量が減少したため、従来設計より伝送線路が短く済んだためである。ローパスフィルタを高周波スイッチモジュールに組み込んだ場合も、同様の改善効果が得られた。
【0084】
伝送線路の寄生容量が大きいと挿入損失が劣化するため、伝送線路の電極とグランド電極との距離は可能な限り広く設定するのが好ましく、試作した積層モジュールでは100μmに調整した。一方、試作した回路構成ではキャパシタ側の寄生容量が大きいとインピーダンスを50Ωに設計するのが困難となり、ローパスフィルタと他回路との整合が困難になるため、キャパシタの電極とグランド電極との距離は可能な限り広く設定するのが好ましく、試作した積層モジュールでは225μmに調整した。
【0085】
実施例4のローパスフィルタと、中間のグランド電極を有さない従来のローパスフィルタとを比較したところ、挿入損失が低周波側(GSM及びEGSM)で約0.2〜0.3 dBと大きく改善し、高周波側(DCS及びPCS)で約0.2〜0.3 dBと大きく改善し、また減衰量が低周波側(GSM及びEGSM)で約5〜8 dBと大きく改善し、高周波側(DCS及びPCS)で約5〜12 dBと大きく改善したことが分かった。また従来のローパスフィルタでは低周波側及び高周波側の減衰極が明確に現れず、設計しにくかったが、本発明のローパスフィルタには設計された減衰極が明確に現れ、さらに干渉によると考えられる不要帯域での特性劣化が解消された。このように所望の特性を得るための設計が簡便となり、設計時間が短縮された。さらに高周波スイッチモジュールにした場合、同等の改善性能を有した。
【0086】
本発明のローパスフィルタの中間に配置したグランド電極をローパスフィルタの接地した対向電極として利用した場合、諸特性は上記と同様に改善され、積層体の厚さを約100μm削減でき、小型化が可能となった。もちろん、この効果は積層モジュールとした場合にも得られる。
【0087】
スイッチ回路の伝送線路を必須の構成とする場合を除き、いずれの実施形態においても、第一及び第二のスイッチ回路SW1,SW2として、例えばSPDT(単極双投型)スイッチのようなGaAsスイッチを用いることもできる。GaAsスイッチの使用によりスイッチに用いる伝送線路が減る。また高周波回路における分波回路の配置は図示の位置に限られず、例えば、スイッチ回路SW1,SW2の共通端子をアンテナANTに接続して、スイッチ回路の送信側端子及び受信側端子に分波回路を接続しても良く、またアンテナANTと分波回路の間に他の回路を設けても良い。さらに分波回路をSPnTスイッチ(nは2以上の自然数)で置き換え、周波数帯と送受信の切り替えを行っても良い。
【0088】
本発明は上記実施形態に限定されず、種々のマルチバンド高周波モジュールに適用できる。
【0089】
本発明の高周波モジュールに用いる誘電体層はセラミック又は樹脂により形成することができる。樹脂を基板としてを用いる場合、キャパシタ等の多層基板に電極パターンで形成できない素子は、基板上に搭載するチップ素子としても良い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通端子と、低周波端子と、高周波端子と、前記共通端子と前記低周波端子との間に設けられた低周波フィルタを有する低周波側経路と、前記共通端子と前記高周波端子との間に設けられた高周波フィルタを有する高周波側経路とを具備する分波回路であって、前記共通端子側に形成された寄生容量を高調波を抑制するキャパシタとして用いることを特徴とする分波回路。
【請求項2】
請求項1に記載の分波回路において、前記高周波フィルタは前記共通端子に接続された第一のキャパシタを備え、前記第一のキャパシタの前記共通端子側に前記寄生容量が形成されていることを特徴とする分波回路。
【請求項3】
請求項2に記載の分波回路において、前記第一のキャパシタを構成する対向電極のうち前記共通端子に接続された電極と、グランド電極とが対向して配置され、もって両電極の間に前記寄生容量が形成されていることを特徴とする分波回路。
【請求項4】
請求項2に記載の分波回路において、前記高周波フィルタは、前記共通端子に接続された第一のキャパシタと、前記第一のキャパシタと前記高周波端子との間に接続された第二のキャパシタと、前記第一のキャパシタと前記第二のキャパシタとの間とグランドとの間に接続された第三の伝送線路及び第三のキャパシタからなる直列共振回路とを備え、前記第三の伝送線路、前記第一のキャパシタ、前記第二のキャパシタ及び前記第三のキャパシタは電極パターンが形成された誘電体層を積層してなる積層体内に構成されており、前記積層体内で前記第一のキャパシタを構成する対向電極のうち前記共通端子に接続された電極がグランド電極に対向していることを特徴とする分波回路。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の分波回路が、電極パターンが形成された誘電体層を積層してなる多層基板に構成されていること特徴とする高周波モジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の高周波モジュールにおいて、前記分波回路により分けられる第一の周波数帯域の送信系と受信系を切り換える第一のスイッチ回路と、前記分波回路により分けられる第二の周波数帯域の送信系と受信系を切り換える第二のスイッチ回路とを備えることを特徴とする高周波モジュール。
【請求項1】
共通端子と、低周波端子と、高周波端子と、前記共通端子と前記低周波端子との間に設けられた低周波フィルタを有する低周波側経路と、前記共通端子と前記高周波端子との間に設けられた高周波フィルタを有する高周波側経路とを具備する分波回路であって、前記共通端子側に形成された寄生容量を高調波を抑制するキャパシタとして用いることを特徴とする分波回路。
【請求項2】
請求項1に記載の分波回路において、前記高周波フィルタは前記共通端子に接続された第一のキャパシタを備え、前記第一のキャパシタの前記共通端子側に前記寄生容量が形成されていることを特徴とする分波回路。
【請求項3】
請求項2に記載の分波回路において、前記第一のキャパシタを構成する対向電極のうち前記共通端子に接続された電極と、グランド電極とが対向して配置され、もって両電極の間に前記寄生容量が形成されていることを特徴とする分波回路。
【請求項4】
請求項2に記載の分波回路において、前記高周波フィルタは、前記共通端子に接続された第一のキャパシタと、前記第一のキャパシタと前記高周波端子との間に接続された第二のキャパシタと、前記第一のキャパシタと前記第二のキャパシタとの間とグランドとの間に接続された第三の伝送線路及び第三のキャパシタからなる直列共振回路とを備え、前記第三の伝送線路、前記第一のキャパシタ、前記第二のキャパシタ及び前記第三のキャパシタは電極パターンが形成された誘電体層を積層してなる積層体内に構成されており、前記積層体内で前記第一のキャパシタを構成する対向電極のうち前記共通端子に接続された電極がグランド電極に対向していることを特徴とする分波回路。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の分波回路が、電極パターンが形成された誘電体層を積層してなる多層基板に構成されていること特徴とする高周波モジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の高周波モジュールにおいて、前記分波回路により分けられる第一の周波数帯域の送信系と受信系を切り換える第一のスイッチ回路と、前記分波回路により分けられる第二の周波数帯域の送信系と受信系を切り換える第二のスイッチ回路とを備えることを特徴とする高周波モジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17(a)】
【図17(b)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17(a)】
【図17(b)】
【公開番号】特開2013−48448(P2013−48448A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−214803(P2012−214803)
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【分割の表示】特願2008−523693(P2008−523693)の分割
【原出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【分割の表示】特願2008−523693(P2008−523693)の分割
【原出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
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