説明

分注方法

【課題】液体試料の飛散やミストの発生を防止することで液体試料間のコンタミネーションを回避するのに適した分注方法を提案する。
【解決手段】本発明に係る分注方法は、分注装置を用いて液体試料を容器に分注する方法において、前記分注装置に装着されるピペットチップを前記容器内に配置された吸収体に接触させながら液体試料を吐出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペットチップを使用する分注装置における液体試料の分注方法に関する。さらに詳しくは、液体試料を吐出する際の飛散等による液体試料間のコンタミネーションを防止するための分注方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動分注装置は、比較的少量の所定量の液体試料を吸引し且つマイクロプレート、深穴ブロック等のようなプレートのウェル内へ所定量供給するために、研究所及び病院等で使用されている。供給される液体試料の例としては、血液、その他の生物学的試料、溶剤、試薬等がある。これらの液体試料の一部又は全部が、一般的には、一組のプレート又は容器からディスポーザブルのピペットチップを使用して吸引によって抜き取られ、続いて、同ピペットチップを介して他のプレートのウェル内へと供給される。
【0003】
また、生化学分野、特に遺伝子診断関連分野においては、遺伝子の抽出、増幅、ハイブリダイゼーションなどの処理が行なわれる。このような処理を自動で行なう装置もあり、例えばDNA抽出・回収・単離を自動で行う装置例として、特許文献1記載の装置があげられる。一般に、このような自動装置では、ディスポーザブルのピペットチップを使用して液体試料を分注する場合が多い。
【0004】
ここで、多数の液体試料を同時に扱う場合、各々の液体試料が近傍の別の液体試料に混入し、コンタミネーションが生じることがある。特に、分注操作を行う場合、吸引した液体試料を目的の容器内へ吐出する際における液体試料の飛散やピペットチップから発生するミストがこのコンタミネーションの原因になることがある。自動化装置においてはコンタミネーションのモニタリングが困難であるため、その防止対策が装置の信頼性の観点から重要である。
【0005】
特許文献2に記載の自動処理装置では、容器に離脱可能でかつピペットチップとはめ合い可能な蓋体を用いることにより、液体試料の飛散によるコンタミネーションを防いでいる。つまり、ピペットチップが蓋体を貫通した後に蓋体がピペットチップとはめ合い一体となることで、分注操作中にチップに付随した蓋体が試料容器の開口部を覆い、液体試料が容器外部へ飛散することを防止している。しかし、この方法では、蓋体がピペットチップに付くため、ピペットチップの廃棄スペースを余分に大きく必要とすることとなる。また、ピペットチップで蓋体を貫通するためピペットチップの先端が蓋体に触れることとなり、蓋体からのコンタミネーションが生じる場合がある。
【特許文献1】特開平08−320274
【特許文献2】特開平2001−74751
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、液体試料の飛散やミストの発生を防止することで液体試料間のコンタミネーションを回避するのに適した分注方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る分注方法は、
分注装置を用いて液体試料を容器に分注する方法において、
前記分注装置に装着されるピペットチップを前記容器内に配置された吸収体に接触させながら液体試料を吐出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分注装置において、液体試料の飛散やミストの発生を防止することで液体試料間のコンタミネーションを回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る分注方法は、
分注装置を用いて液体試料を容器に分注する方法において、
前記分注装置に装着されるピペットチップを前記容器内に配置された吸収体に接触させながら液体試料を吐出することを特徴とする。
【0010】
ピペットチップを吸収体に接触させながら液体試料を吐出することで、液体試料の飛散やミストの発生を防止することができる。
【0011】
本発明で使用される容器は、容器内部に液体試料を吸い込むことができる吸収体を備えている。例えば、一般に使用されているマイクロチューブ内に吸収体が配置された容器を使用することができる。また、例えば、複数のウェルが規則的に配列されており、そのウェルの内部に吸収体が配置されたマイクロプレート状の容器を使用することができる。吸収体が配置された容器(1)の形態の例を図1のA、B、Cに示す。図1の例では、吸収体(2)は、容器の底面及び側面に接するように容器内部の一部または全部に配置されている。このような容器は、容器内径より大きい吸収体を圧入して固定することにより容易に製造できる。また、別の容器の形態の例を図2のA、B、Cに示す。図2に示した例では、吸収体は、容器の底面から離れた状態で容器側面に接するように配置されている。このような容器は、所定の形状を有し、かつその内径が容器の内径より大きい吸収体を圧入し固定することで製造できる。さらに、別の形態の例を図3のA、B、Cに示す。図3の例では、とくに吸収体の形状は円盤状のものに限られず、その吸収性を発揮できる限り、その形状は特に限定されるものではないことを示している。
【0012】
また、上記吸収体が配置された容器は廃液を捨てる容器として使用することもできる。この場合、廃液は吸収体に保持されるため、分注装置から廃液を含む本容器を取り外す際に、装置への液滴飛散を防止し、コンタミネーションを回避することができる。
【0013】
本発明で使用される吸収体の材料としては、液体試料を吸い込むことができ、かつ液体試料に含まれる物質(例えば生体高分子等)に対して何らかの悪影響を与えない材料であれば、特に制限されない。吸収体の材料は、好ましくは繊維物やスポンジ状の多孔質などがよい。また、吸収体の形状も特に制限されるものではなく、例えば、図2に示した形状とすることができる。
【0014】
本発明で使用されるピペットチップは分注装置に脱着可能な構造であればどのような形状や材質でもよく、例えば、一般的に使用されるディスポーザブルのピペットチップでもよい。
【0015】
本発明に係る分注方法は、特に制限されるものではないが、例えば、生体分子(標的核酸)を増幅及び分離する工程(又は精製工程)において使用することができる。生体分子としては、他に、核酸断片、オリゴヌクレオチド、DNA、タンパク質等が挙げられる。
【0016】
一般に、増幅した標的核酸を取得する方法は、標的核酸を増幅する増幅工程と増幅した標的核酸を分離する分離工程に分けられ、例えば、増幅工程としてはPCR法が知られており、分離工程としては磁性粒子を用いた方法が知られている。PCR法を用いた増幅工程では、標的核酸を含む液体試料を増幅試薬が入っている容器に供給して混合し、その混合溶液に温度制御手段により温度サイクルをかけ、標的核酸を増幅させる。次に、磁性粒子を用いた分離工程では、標的核酸が特異的に吸着する磁性粒子が入った容器を用い、標的核酸を分離する。まず、増幅された標的核酸を含む試料溶液を磁性粒子が入った容器に供給し、標的核酸を磁性粒子に吸着させる。次に、磁力発生手段によって磁性粒子を容器の底面に固定し、溶液を取り除く。さらに、磁性粒子を複数の洗浄液で数回洗浄する。洗浄では、磁性粒子を磁力発生手段によって容器の底面に固定し、使用した洗浄液を取り除く。次に、磁性粒子の入った容器に溶出液を供給し、その溶出液によって標的核酸を磁性粒子から溶出させる。そして、磁力発生手段によって磁性粒子を容器の底面に固定し、標的核酸が溶出した溶出液を回収することにより、標的核酸を分離取得する。
【0017】
ここで、前記標的核酸の増幅工程及び分離工程においては、試薬液、試料液、洗浄液、溶出液などの液体試料の分注操作中に液体試料が容器外部へ飛散することを防止し、液体試料間のコンタミネーションを回避する必要がある。そのため、本発明に係る分注方法では、分注装置を用いて液体試料を容器内で吐出する際に、ピペットチップを容器内に配置された吸収体に接触させながら行う。それにより、液体試料の容器外部への飛散及び吐出する際のミストの発生を防止することができ、液体試料間のコンタミネーションを回避することができる。
【0018】
本発明に係る分注方法では、ピペットチップから液体試料が吐出する前に吸収体と接触されていればよい。つまり、液体試料が保持されたピペットチップを、容器内に配置された吸収体に接触させながら吐出することで、ピペットチップ先端からの液体試料の飛散を防止することをできる。また、ピペットチップが吸収体に接触していることで、ピペットチップの外壁や先端に液滴が付着することを防止できるため、ピペットチップの移動時に周囲へ液体試料を撒き散らすおそれがない。したがって、本発明に係る分注方法により、特別な液飛散防止機構を設けることなく、簡便に液体試料間のコンタミにネーションを回避又は低減することができる。
【0019】
特に、本発明に係る分注方法は、DNA診断等の遺伝子検査等に有用である。DNA診断等の遺伝子検査では、遺伝子を含むDNA領域を抽出・回収・単離する必要があり、液体試料の容器間の移動が多くなるため、液体試料間のコンタミネーションのおそれが高くなるからである。また、遺伝子検査においてはごく微量のコンタミネーションが後の結果に重大な影響を及ぼすからである。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。なお、ここに示す実施例は、本発明の最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
本実施例においては、分注装置を用いて、標的核酸の増幅工程を行う。
【0022】
図4は、分注装置の斜視図である。分注装置(3)上には容器を保持する容器フォルダ(17)、ピペットチップ(4)、ピペットチップラック(5)、ピペットチップ廃棄容器(6)が配置されている。また、容器フォルダには、増幅試薬が入っている容器(18)、標的核酸溶液が入っている容器(19)、吸収体が配置された容器(1)が保持されている。さらに、分注装置はピペットチップ(4)を上下左右あるいはその一方向に自由に移動可能であり、容器フォルダ(1)に保持されている任意の容器から液体試料を取り出すことができ、任意の容器に取り出した液体試料を供給することができる。なお、ピペットチップは液体試料を吸引または吐出する機構を備えたピペット(7)に支持されている。本発明においては、以下に示す動作を自動的に行う自動分注装置であることが好ましいが、一部あるいは全部を手動で行う分注装置であってもよい。
【0023】
図5は、ピペットチップ(4)が、増幅試薬が入っている容器(18)から増幅試薬(8)を取り出している動作を示している。
【0024】
次に、図6のA、B、Cは、取り出した増幅試薬をピペットチップ(4)から図3のAに示すような吸収体(2)が配置された容器(1)に吐出している動作を示している。この際、ピペットチップ(4)の先端が吸収体(2)に接触した状態を維持しながら、増幅試薬(8)を全て吐出する。
【0025】
次に、図7は、ピペットチップ(4)が、標的核酸溶液(9)が入っている容器(19)から標的核酸溶液(9)を取り出している動作を示している。
【0026】
次に、図8は、既に増幅試薬(8)が供給された容器(1)に標的核酸溶液(9)を吐出している動作を示している。この際もピペットチップ(4)の先端が吸収体(2)に接触した状態を維持しながら、標的核酸溶液(9)を全て吐出する。
【0027】
次に、増幅試薬(8)と標的核酸溶液(9)の混合溶液(10)が入った容器(1)を、温度制御手段を有する機器を用いて温度サイクルをかける。これにより標的核酸の増幅が進行する。
【0028】
以上の一連の工程により、液体試料間のコンタミネーションを防止しつつ、標的核酸を増幅することが可能である。
【0029】
(実施例2)
実施例1で示した分注装置(3)を用いて、増幅終了後、実施例1で調製した増幅産物溶液(12)から標的核酸を精製する工程(精製工程)を行う。容器フォルダ(17)には、標的核酸が特異的に吸着する磁性粒子(11)が入っている容器(20)、増幅産物溶液(12)が入っている容器(21)、洗浄液(14)が入っている容器(22)、吸収体(2)が配置された容器(1)、溶出液(15)が入っている容器(23)が保持されている。
【0030】
図9は、標的核酸が特異的に吸着する磁性粒子(11)が入っている容器(20)である。
【0031】
次に、図10は、増幅産物溶液(12)が入っている容器(21)から増幅産物溶液(12)を取り出している動作を示している。
【0032】
次に、図11は、図10に示した工程で取り出した増幅産物溶液(12)を磁性粒子(11)が入っている容器(20)に吐出して、標的核酸を磁性粒子(11)に吸着させ、磁力発生手段(不図示)によって磁性粒子(11)を容器(20)の底面に固定した後、生体試料を含むその他の溶液(13)をピペットチップ(4)で取り除く動作を示している。
【0033】
図12のA、B、Cは、図1のBで示すような吸収体(2)が配置された容器(1)に、図11で示す工程で取り除かれた生体試料を含むその他の溶液(13)をピペットチップ(4)で捨てる動作を示している。ピペットチップ(4)の先端が吸収体(2)に接触した状態を維持しつつ、生体試料を含むその他の溶液(13)を全て吐出する。
【0034】
図13は、磁性粒子(11)を洗浄するため、洗浄液(14)が入っている容器(22)から洗浄液(14)を取り出す動作を示している。
【0035】
図14は、洗浄した磁性粒子(11)を磁力発生手段(不図示)によって容器(20)の底面に固定した後、使用した洗浄液をピペットチップ(4)で取り除く動作を示している。
【0036】
図15のA、B、Cは、図1のBで示すような吸収体(2)を備えた容器(1)に、取り除かれた洗浄液(14)をピペットチップ(4)で捨てる動作を示している。ピペットチップ(4)の先端が吸収体(2)に接触した状態を維持しつつ、洗浄液(14)を全て吐出する。
【0037】
図16は、ピペットチップ(4)で溶出液(15)が入っている容器(23)から溶出液(15)を取り出している動作を示している。溶出液(15)は、標的核酸が付着している磁性粒子(11)の入っている容器(20)に供給され、溶出液(15)によって標的核酸の磁性粒子(11)への吸着が外れる。
【0038】
図17は、磁力発生手段(不図示)によって磁性粒子(11)を容器(20)の底面に固定した後、標的核酸が溶出した核酸溶出液(16)をピペットチップ(4)で回収する動作を示している。
【0039】
以上の一連の工程により、試料間のコンタミネーションを低減しつつ、生体試料から標的核酸を分離して精製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】吸収体が配置された容器の例を表す断面図である。
【図2】吸収体が配置された容器の例を表す断面図である。
【図3】吸収体が配置された容器の例を表す断面図である。
【図4】分注装置の概要を表す斜視図である。
【図5】本発明の実施例に係る増幅工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【図6】本発明の実施例に係る増幅工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【図7】本発明の実施例に係る増幅工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【図8】本発明の実施例に係る増幅工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【図9】本発明の実施例に係る精製工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【図10】本発明の実施例に係る精製工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【図11】本発明の実施例に係る精製工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【図12】本発明の実施例に係る増幅工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【図13】本発明の実施例に係る増幅工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【図14】本発明の実施例に係る増幅工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【図15】本発明の実施例に係る増幅工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【図16】本発明の実施例に係る増幅工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【図17】本発明の実施例に係る増幅工程における分注装置の動作の一例を表す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 吸収体が配置された容器
2 吸収体
3 分注装置
4 ピペットチップ
5 ピペットチップラック
6 ピペットチップ廃棄容器
7 ピペット
8 増幅試薬
9 標的核酸溶液
10 混合溶液
11 磁性粒子
12 増幅核酸溶液
13 生体試料を含む他の溶液
14 洗浄液
15 溶出液
16 核酸溶出液
17 容器フォルダ
18 増幅試薬が入っている容器
19 標的核酸が入っている容器
20 磁性粒子が入っている容器
21 増幅産物溶液が入っている容器
22 洗浄液が入っている容器
23 溶出液が入っている容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分注装置を用いて液体試料を容器に分注する方法において、
前記分注装置に装着されるピペットチップを前記容器内に配置された吸収体に接触させながら液体試料を吐出することを特徴とする分注方法。
【請求項2】
前記容器は複数のウェルを持つ容器であって、当該ウェルに吸収体が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の分注方法。
【請求項3】
前記液体試料が、核酸及びタンパク質のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の分注方法。
【請求項4】
遺伝子の増幅工程又は精製工程において、請求項1乃至3のいずれかの請求項に記載の分注方法を含むことを特徴とする遺伝子検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−14556(P2009−14556A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177472(P2007−177472)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】