説明

分注装置、マイクロアレイの製造装置、分注方法及びマイクロアレイの製造方法

【課題】スポットサイズのばらつきを低減させることが可能な分注技術を提供する。
【解決手段】分注装置1は、生体試料を含む液体を保持する保持部104と、当該保持した液体を押圧する押圧手段106と、液滴を吐出可能な分注針102とを備え、押圧手段106により液体を押圧することにより分注針102先端に液滴20を形成可能な分注ユニット100と、分注針102の先端と被吐出対象体10の吐出対象面との間の、当該吐出対象面に対して略垂直方向の距離が、分注針102の先端に形成する予定の液滴20の落下方向の長さと略同一になるように、分注針102の先端位置を上記略垂直方向に移動させ、固定させる第1の移動手段202と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分注技術に関する。詳しくは、マイクロアレイの作成等に用いられる生体試料を含む液体等の微量分注技術に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAチップ、RNAチップ、プロテインチップ、糖鎖チップなどのバイオチップ(マイクロアレイ)は、数百から数万種類の生体関連物質や化学物質などを数平方センチメートルのガラススライドなどの基板に高密度に整列させ、固定化させたものである。バイオチップは、チップ上の物質と相互作用する物質の探索や相互作用をする物質のシグナルパターンから情報などを得るのに用いられる。バイオチップは、大量の情報を一度に処理、解析できるため、治療薬の開発ツール、病気の診断、健康のモニター等の様々な分野で期待されている。
【0003】
バイオチップの作成方法は、大まかに分類すると、光リソグラフ方式、表面接着方式、インクジェット方式に分けられる。
【0004】
分注法のうち表面接着方式は、分注針の針先を、例えばDNA断片などの生体関連試料を含む液体に浸した後、基板上に針先を接触させて液体をスポットしていく方法である。分注針は、洗浄液などで洗浄することにより再使用が可能であり、同じ分注針を用いて多種類の生体関連試料をスポッティングすることが可能である。この方式は、コストが安く、独自の配列パターンを作りやすいという利点がある。しかし、その一方で、針先を最初に液体に浸した際に、分注針の先端の周りに付着した余分な液体によって、最初に形成したスポットと後のスポットでスポットサイズのばらつきが生じたり、あるいは、針先と基板の接触時間や接触角度などの接触の具合によってスポットサイズにばらつきが生じる場合があった。
【0005】
このような状況下、上記問題を解決するために、特許第3436741号(特許文献1)には、分注針を液体に浸した後、針先に付着した余剰の液体を捨て打ち操作をすることにより除去する方法が開示されている。また、特開2004−325329号公報(特許文献2)には、分注ピンと分注対象物との距離を位置決めピンにより一定に保ち、分注ピン先端は分注対象物表面に接触させず、分注ピン先端に保持されたタンパク質を含む液滴を分注対象物に接触させ、液滴の表面張力により非接触で分注する方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3436741号公報
【特許文献2】特開2004−325329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、直接分注針が基板に接触するため、接触によるばらつきが生じる虞がある。また、特許文献2の方法では、分注ピン先端を液体に浸して液体を分取するため、分注ピン先端周囲に付着した余剰の液体により、最初と後のスポットでスポットサイズにばらつきが生じる虞がある。また、液滴が保持された状態で分注ピンの移動を行うため、液滴が予定外の場所やタイミングで落下する虞がある。
【0007】
そこで、本発明はスポットサイズのばらつきをさらに低減させることが可能な分注技術を提供することを目的としている。また、本発明は液滴が予定外の場所やタイミングで落下することにより生じる虞のある汚染を回避することが可能な分注技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、生体試料を含む液体を保持する保持部と、当該保持した液体を押圧する押圧手段と、液滴を吐出可能な分注針と、を備え、上記押圧手段により上記液体を押圧することにより上記分注針先端に液滴を形成可能な分注ユニットと、上記分注針の先端と被吐出対象体の吐出対象面との間の、当該吐出対象面に対して略垂直方向の距離が、上記分注針の先端に形成する予定の液滴の落下方向の長さと略同一になるように、上記分注針の先端位置を上記略垂直方向に移動させ、固定させる第1の移動手段と、を備える、分注装置を提供するものである。
【0009】
かかる構成によれば、分注ユニットに押圧手段が設けられているので、被吐出対象体のスポット形成位置で液滴を形成することが可能となり、予定外の場所やタイミングで液滴が落下することにより生じる虞のある汚染を回避することが可能となる。また、分注針の先端位置を形成予定の液滴の落下方向の長さと同程度の距離離れた位置に移動させて、固定させることが可能であるので、分注針の先端位置をかかる位置に固定し、液滴を被吐出対象体の吐出対象面に接するまで形成することで、針先端が吐出対象面に接することなく(非接触で)液滴の表面張力により被吐出対象体に分注することが可能となる。したがって、分注針が被吐出対象体に接触することによるスポットサイズのばらつきを回避することができる。また、本発明では、生体試料を含む液体を分注針に供給する際に、分注針を液体に浸す必要が無く、分注針の先端周囲に余剰の液体が付着する虞がない。したがって、分注針先端に余剰の液体が付着することによるスポットサイズのばらつきを回避することができる。
【0010】
好ましくは、上記分注ユニットを上記被吐出対象体上のスポット形成位置に上記被吐出対象体の吐出対象面と略水平に相対的に移動させる第2の移動手段を備える。これによれば、分注ユニットを吐出対象面上の所望の位置に3次元的に移動が可能となる。
【0011】
好ましくは、上記分注針の先端に撥液処理が施されている。これによれば、液滴が被吐出対象体に接触した際に液滴の被吐出対象体への移行を促進させることが可能となる。
【0012】
好ましくは、上記被吐出対象体に親液処理が施されている。これによれば、液滴の被吐出対象体への移行を促進させることが可能となる。
【0013】
好ましくは、上記押圧手段が送りねじ機構により上記分注ユニット内に備えられたプランジャーを移動させることにより液体を押圧する手段である。これによれば、微量な液量の調整が可能となるので分注針先端の液滴のサイズを所望の大きさに容易に調整することが可能となる。
【0014】
好ましくは、上記送りねじ機構がアクチュエータにより駆動される。これによれば、液滴サイズの自動制御が可能となる。
【0015】
好ましくは、本発明の分注装置が、所望のスポットサイズを入力する入力手段と、上記分注針先端及び上記被吐出対象体間の距離と上記スポットサイズとの関係が、読み出し可能に記憶された記憶手段と、上記入力手段へのスポットサイズの入力に応じて上記記憶手段から読み出された距離を移動するように、上記第1の移動手段に第1の駆動信号を送信する、上記第1の移動手段を制御する移動制御手段と、上記分注針の先端位置が上記距離に移動され、固定された後に、上記押圧手段に第2の駆動信号を送信する押圧制御手段と、上記分注針先端に形成される液滴と上記被吐出対象体の吐出対象面との位置関係を検出する検出手段と、をさらに備え、上記押圧制御手段が、さらに上記検出手段により検出された上記液滴と上記吐出対象面との位置関係に応じて上記押圧手段に駆動を停止するよう停止信号を送信する。
【0016】
これによれば、所望のスポットサイズを入力することで、分注針先端と被吐出対象体表面との距離に応じた大きさの液滴を自動で形成することが可能となり、作業効率の向上を図ることができる。ここで、液滴と吐出対象面との位置関係には、例えば、液滴の先端と吐出対象面との距離などが挙げられる。
【0017】
好ましくは、上記検出手段が、上記分注針先端に形成される液滴と上記被吐出対象体の吐出対象面を観察する観察手段と、上記観察手段により観察された光像に基づいて、液滴先端と吐出対象面との距離を算出し、当該距離と所定値を比較して、当該距離が所定値と一致するか否かを判別する判別手段とを備える。これによれば、精度よく、押圧手段の駆動制御をすることが可能となる。なお、ここで観察手段としては、CCD(Charge Coupled Devices)カメラなどの光学観察手段が挙げられる。
【0018】
また、上記検出手段は、観察手段を用いた検出手段に代えて、レーザ光源と受光センサとから構成され、上記分注針先端から吐出された液滴がレーザ光線を横切る際の受光強度変化から液滴位置を検出するよう機構であってもよい。これによれば、より単純な構成で液滴と吐出対象面との位置関係の検出が可能となる。
【0019】
上記押圧制御手段が、上記第1の駆動信号の停止後、所定時間後に上記第2の駆動信号を送信するものであってもよい。これによれば、単純な構成で分注ユニットの移動と液滴形成の連続動作が可能となる。
【0020】
本発明の他の態様は、上記分注装置を備えた、マイクロアレイの製造装置を提供するものである。これによれば、上記分注装置を備えているので、マイクロアレイ製造時の汚染を回避することができ、また、スポットサイズのばらつきを低減させることができるので、マイクロアレイの精度及び歩留まりを向上させることができる。
【0021】
本発明の他の態様は、生体試料を含む液体を分注針で被吐出対象体に分注する分注方法であって、上記分注針の先端と被吐出対象体の吐出対象面との間の、当該吐出対象面に対して略垂直方向の距離が、上記分注針の先端に形成する予定の液滴の落下方向の長さと一致するように、上記分注針の先端位置を移動させて固定し、上記分注針に保持された液体を、押圧手段により押圧することにより分注針の先端に滲出させ、当該分注針先端に形成される液滴を徐々に成長させることにより、当該液滴先端を上記吐出対象体に接触させると略同時に押圧を停止し、生体試料を含む液体を上記吐出対象体に移動させる、分注方法を提供するものである。
【0022】
これによれば、分注針の先端を、形成予定の液滴の落下方向の長さと一致する位置に移動させて固定した後、分注針に保持された液体を、押圧手段により押圧することにより液滴を形成するので、予定外の場所やタイミングで液滴が落下することにより、汚染が生じるのを回避することが可能となる。また、分注針の先端を被吐出対象体に接触させず(非接触で)、液滴の先端を被吐出対象体に接触させると略同時に、液滴の表面張力により被吐出対象体に液滴を移行させるので、分注針が被吐出対象体に接触することによるスポットサイズのばらつきを回避することができる。また、本発明では、生体試料を含む液体を分注針に供給する際に、分注針を液体に浸す必要が無く、分注針の先端周囲に余剰の液体が付着する虞がない。したがって、分注針先端に余剰の液体が付着することによるスポットサイズのばらつきを回避することができる。
【0023】
本発明の他の態様は、生体試料を含む液体を分注針で被吐出対象体に分注する分注方法であって、上記分注針を、入力された所望のスポットサイズに応じて予め定められた距離になるように上記被吐出対象体の吐出対象面に対して略垂直方向に移動させて固定し、上記分注針に保持された液体を、押圧手段により押圧することにより分注針の先端に滲出させ、当該分注針先端に形成される液滴の先端と上記被吐出対象体の吐出対象面との位置関係を光学観察手段により観察しながら、当該液滴を徐々に成長させ、上記位置関係から上記液滴先端と吐出対象面との距離を求め、上記距離が上記液滴の先端が上記吐出対象体に接触可能な所定値に達したときに、押圧を停止させ、上記液滴先端を上記吐出対象体に接触させることにより、生体試料を含む液体を上記吐出対象体に移動させる、分注方法を提供するものである。
【0024】
これによれば、分注針の先端を、形成予定の液滴の落下方向の長さと一致する位置に移動させて固定した後、分注針に保持された液体を、押圧手段により押圧することにより液滴を形成するので、予定外の場所やタイミングで液滴が落下することにより、汚染が生じるのを回避することが可能となる。また、分注針の先端を被吐出対象体に接触させず(非接触で)、液滴の先端を被吐出対象体に接触させ、液滴の表面張力により被吐出対象体に液滴を移行させるので、分注針が被吐出対象体に接触することによるスポットサイズのばらつきを回避することができる。さらに、分注針の先端と吐出対象面との位置関係をCCD(Charge Coupled Devices)などの光学観察手段により観察し、分注針の先端と吐出対象面との距離を算出し、この距離が0、即ち、液滴先端が吐出対象体に接触可能な所定値に達したときに押圧を停止させることで、被吐出対象体に分注する液滴の量を適切かつ容易に制御することが可能となる。
【0025】
本発明の他の態様は、上記分注方法を用いてマイクロアレイを製造する、マイクロアレイの製造方法を提供するものである。これによれば、上記分注方法を用いてマイクロアレイを製造するので、マイクロアレイ製造時の汚染を回避することができ、また、スポットサイズのばらつきを低減させることができ、マイクロアレイの精度及び歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の分注技術について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本発明の分注技術を概略的に説明するための説明図である。
【0028】
図1(a)に示すように、分注針102の先端は、被吐出対象体の吐出対象面に対して略垂直方向(z軸方向)に、後述するz軸方向移動部202により移動可能に構成されている。
【0029】
図1(b)に示すように、まず、分注針102の先端を所定距離dだけ移動させて、固定する。ここで、距離dは、形成を予定しているスポットサイズの大きさ又は1つのスポットを形成するために吐出する予定液量に応じて定められる。具体的には、例えば、予め液滴の大きさ(落下方向の長さ)とスポットサイズとの関係を実験的に測定して表を作成しておき、この表を参照することにより、形成したいスポットサイズに応じた距離dを決定する。或いは、液滴の大きさの代わりに、液体の押出し量とスポットサイズとの関係を予め測定し、表を作成しておき、形成したいスポットサイズから、表を参照して押出し量を定め、押出し量と分注針102の径などから、液滴20の大きさ(落下方向の長さ)を計算により求め、距離dを定めてもよい。より具体的には、押出し量と分注針102の径から形成されると予想される液滴20を球体に近似して、液滴20の落下方向の長さ、すなわち距離dを算出し、決定してもよい。
【0030】
次に、図1(c)に示すように、後述する押圧機構106(押圧手段)により分注ユニット内に液体を分注針102先端に徐々に押し出す(滲出させる)。次に、図1(d)に示すように、分注針102先端に形成された液滴20を被吐出対象体10の吐出対象面に液滴20の先端が達するまで成長させ、液滴20が吐出対象面に接すると略同時に液体の押し出しを止める。すると、図1(e)に示すように、液体の表面張力によって液滴20が被吐出対象体10に移行し、図1(f)に示すように、被吐出対象体10上に所望のスポットサイズのスポットが形成される。
【0031】
このように、本発明では、分注針102と被吐出対象体10との位置決めがなされた後で、分注ユニット内に保持した液体を押圧し、分注針102先端に形成される液滴20を成長させ、液滴20先端を接触させることで被吐出対象体10に液体を分注する。したがって、本発明では、分注針102の先端を被吐出対象体10に接触させることなく、被吐出対象体10に液体を分注することができる。また、分注針102の移動時には、分注針102先端に液滴が形成されていないので、移動時の液滴の落下の虞がない。また、分注ユニット内に保持した液体を分注針102に供給するので、分注針102先端の周囲(外周)に余剰の液体が付着することがない。
【0032】
ここで、分注針から吐出される液体に含まれる生体試料は、特に限定されるものではなく、例えば、タンパク質、核酸等の生体分子の他、人工的に合成されたオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、PNA(peptide nucleic acid)等の類縁体をも含む。
【0033】
被吐出対象体10は、特に限定するものではないが、例えば、ガラス、膜、合成樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなど)等が挙げられる。このような被吐出対象体10には、少なくともスポット形成予定位置に親液処理がなされていることが好ましい。これにより、液滴20先端が被吐出対象体10に接触した際に、液滴20の被吐出対象体10への移行が促進される。
【0034】
次に、本発明の実施形態について、具体的に説明する。
図2は、本発明の分注装置の全体構成を示す概略図であり、図3は、本発明の分注装置の一例を説明するためのブロック図である。以下、図2及び図3を参照しながら、本発明について説明する。
【0035】
図2及び図3に示されるように、分注装置1は、生体試料を含む液体を押圧する押圧機構106(押圧手段)を備えた分注ユニット100、分注ユニット100と被吐出対象体10とを相対的にx−y−z軸方向に移動可能に構成された位置決め機構、分注ユニット100から吐出される液量を制御する押圧制御部302、及び分注針102の先端に形成される液滴と被吐出対象体10との位置関係を検出する検出部400等を主に備えて構成されている。
【0036】
分注ユニット100は、図3に示すように、分注針102と、生体試料を含む液体(試料溶液ともいう)を保持する保持部104と、液体を押圧する押圧機構106とから構成されている。分注針102と保持部104は、本実施形態では別々に構成されているが、一体として形成されていてもよい。また、分注針102の先端には、撥液処理がなされていることが好ましい。これにより、液滴20の被吐出対象体10への移行を促進させることが可能になる。
【0037】
押圧機構106は、分注ユニット100内に保持された試料溶液を押圧し得るものであれば、特に限定されるものではないが、分注針102の先端に所望の大きさの液滴を形成し得るように、分注針102先端に押出す液量を精度良く調整し得るものであることが望まれる。一例を挙げると、押圧機構106は、マイクロメーターなどの送りねじ機構によって、分注ユニット100内に備えたプランジャーを移動させることにより押出す液量を微量調節可能に構成されていてもよい。また、送りねじ機構をアクチュエータにより駆動させるよう構成させることで、自動制御可能となる。
【0038】
分注ユニット100と被吐出対象体10とを相対的にx−y−z軸方向に移動可能に構成された位置決め機構は、x軸方向移動部204、y軸方向移動部206、z軸方向移動部202、また各移動部の駆動を制御する、x軸方向移動制御部304、y軸方向移動制御部306、及びz軸方向移動制御部308から構成されている。なお、z軸方向移動部202が第1の移動手段に対応し、x軸方向移動部204及びy軸方向移動部206が第2の移動手段に対応する。
【0039】
x軸方向移動部204は、x軸方向駆動モータ(例えばステッピングモータ等)と分注ユニット100を運搬するキャリア108とを駆動ベルトにより接続し、x軸方向移動制御部304から供給される駆動信号に応じて、駆動するよう構成されている。x軸方向移動部204が駆動されると、キャリア108がx軸方向に移動する。
【0040】
y軸方向移動部206は、y軸方向駆動モータ(例えばステッピングモータ等)により駆動される送りねじ方式により、被吐出対象体10を載置する移動作業台(ステージ)をy軸方向に移動可能に構成されている。
【0041】
z軸方向移動部202は、z軸方向駆動モータ(例えばステッピングモータ等)により駆動される送りねじ方式により、分注ユニット100を運搬するキャリア108を固定する固定バー208をz軸方向に移動可能に構成されている。
【0042】
x軸方向移動制御部304及びy軸方向移動制御部306は、入力部600により入力される、例えば、被吐出対象体10上のスポット形成開始位置、被吐出対象体10のサイズなどのxy方向相対位置決め情報に応じて、各々x軸方向移動部204及びy軸方向移動部206に駆動信号を送り、分注針102を被吐出対象体10上の所定位置に略水平方向に移動させる。
【0043】
z軸方向移動制御部308は、入力部600により入力される形成予定のスポットサイズ又は吐出予定液量に応じて、記憶部500に記憶された情報を参照し、移動距離を決定し、所定距離移動するよう、z軸方向移動部202に駆動信号を送る。
【0044】
記憶部500には、例えば、スポットサイズと液滴の落下方向の長さ(距離dに対応)との関係を実験的に測定して作成した表又はスポットサイズと液体の押出し量との関係を実験的に測定して作成した表等が蓄積されている。
【0045】
押圧制御部302は、分注ユニット100から吐出する液量(液滴20の大きさ)を制御する。具体的には、押圧制御部302は、例えば、分注針102の先端位置がz軸方向移動部202により所定距離移動され、固定された後に、押圧機構106に駆動信号を送信する。また、後述する検出部400により検出された液滴20と被吐出対象体10との位置関係情報に応じて、押圧機構106に押圧を停止するよう停止信号を送信する。
【0046】
検出部400は、分注針102の先端に形成される液滴20と被吐出対象体10との位置関係を検出する。具体的には、検出部400は、液滴20と被吐出対象体10表面を観察する観察部402と、観察部402により観察された光像に基づいて、液滴20の先端及び被吐出対象体の吐出対象面に対応する特徴点を抽出する画像認識部404と、画像認識部404で抽出された特徴点間距離を算出し、当該距離が所定値に一致するか否かを判別する判別部406とから構成されている。
【0047】
観察部402には、例えば、CCD(Charged Coupled Device)カメラ等の光学的観察手段が用いられる。観察部402で取り込んだ光像は、AD変換器によりデジタル信号に変換され、変換されたデジタル信号は、光像データとして、一旦メモリに蓄積される。
【0048】
画像認識部404は、蓄積された光像データより、液滴20の先端位置と、吐出対象面上の液滴20の先端が接触する予定位置に対応する特徴点を抽出する。この特徴点から特徴点間の距離を算出し、算出したパラメータを判別部406に送信する。
【0049】
判別部406では、このパラメータ(液滴20の先端と吐出対象面との距離)と基準値とが比較され、パラメータが基準値と一致した場合には、押圧制御部302に停止信号が送られる。
【0050】
ここで、基準値は、例えば、液滴20の先端が吐出対象面に接する瞬間の距離0としてもよく、また、停止信号が送られて押圧が停止されるタイムラグと液滴20の成長速度を考慮して計算した値としてもよい。
【0051】
次に、本実施形態の分注方法の流れについて、図4を参照しながら説明する。図4は、分注方法の流れを説明するフロー図である。
【0052】
まず、スポッティング開始座標のx−y座標を入力部600から入力する(S1)。入力された座標に基づき、x軸方向移動制御部304及びy軸方向移動制御部308が、各々x軸方向移動部204及びy軸方向移動部206に駆動信号を送り、分注ユニット100が被吐出対象体10上のスポッティング開始位置に移動する(S2)。
【0053】
次に、所望のスポットサイズを入力部600から入力する(S3)。記憶部500に記憶されたスポットサイズと距離d(液滴の落下方向の長さと吐出対象面との距離)とのテーブルを参照し、入力されたスポットサイズに対応する距離dを決定する(S4、S5)。
【0054】
z軸方向移動制御部306は、z軸方向移動部202に駆動信号を送信し、分注針102の先端と液滴吐出対象面との距離が、距離dだけ離れた位置に分注ユニット100を移動させる(S6)。なお、ここで、分注ユニット100のx−y方向の移動とz軸方向の移動は順序が逆であってもよい。
【0055】
分注ユニット100の位置が固定されると、押圧制御部302が押圧機構106に液体をゆっくりと押出すように指示する(S7)。液滴20と被吐出対象体10との距離関係を、CCDカメラなどの観察手段(観察部402)で撮像し、画像認識部404において、得られた光像から特徴点を抽出し、特徴点間距離から液滴20の先端と吐出対象面との距離Lを算出する。次に、判別部406において、距離Lが上述のように予め定められた基準値と一致するか否かを判断し、一致しない場合は、液滴の成長を観察し、一致する場合には、押圧制御部302に指示を送り、押圧機構106の駆動を停止する(S10)。液滴20は、被吐出対象体10に接触すると表面張力により被吐出対象体10側に移行し、所望のサイズのスポットが形成される。
【0056】
なお、押圧制御部302が押圧機構106に駆動信号を送信するタイミングは、z軸方向移動制御部306による駆動信号を送信して、z軸方向移動部202が実際に移動を完了するまでに生じるタイムラグを考慮して、z軸方向移動制御部306からの駆動信号の停止後所定時間後に、押圧制御部302が押圧機構106に駆動信号を送信するよう構成してもよい。
【0057】
本実施形態によれば、分注ユニット100が被吐出対象体10上の所定位置に到達した後で、分注ユニット100に設けられた押圧機構106により、液滴を形成するので、分注ユニット100の移動時などに、予定外の場所やタイミングで液滴が落下して、他のスポットが汚染されるのを回避することが可能となる。また、分注針102は接触させず、分注針102の先端に形成された液滴を被吐出対象体10の吐出対象面に接触させ、分注するので、分注針102が被吐出対象体10に接触することによるスポットサイズのばらつきや生体試料の変性といった不具合を回避することができる。また、本実施形態では、試料溶液が分注ユニット100内に予め保持されており、分注針102に試料溶液を補給するために分注針102を試料溶液に浸す必要が無いので、分注針102の先端の外周に余剰の液体が付着することによるスポットサイズのばらつきを回避することができる。
【0058】
また、使用する試料溶液の性状(例えば、粘度など)や湿度などの周囲の環境によって、分注針102に形成される液滴の大きさが異なる場合があるが、本実施形態では、検出部により液滴20の大きさを確認しながら液滴20を成長させているので、確実に液滴20を被吐出対象体10に接触させることが可能となる。したがって、液滴20が被吐出対象体10に接することができず、分注されない場合が生じるなどの不具合を回避することができる。
【0059】
なお、上記実施形態では、一本の分注ユニット100を用いた場合を例に採り説明したが、複数本の分注ユニットを同時に用いてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、分注ユニット100は、z軸方向移動制御部306からの駆動信号によりz軸方向移動部202を移動させ、z軸方向に移動させていたが、これに限定されず、例えば、図5に示すように、手動により分注ユニット100を移動させたい位置に予め位置決め部材210を固定し、位置決め部材210の固定位置に固定バー208を移動させることにより分注ユニット100のz軸方向の位置決めがなされてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、液滴20の先端と被吐出対象体10との距離をCCDなどの観察手段を用いた検出部400により検出したが、これに限定されず、液滴20と被吐出対象体10との距離を目視により観察し、手動で押圧を停止してもよい。或いは、レーザ光源と受光センサとを用い、レーザ光源から発生されたレーザ光源を液滴が横切る際の受光強度変化により押圧停止のタイミングを計ってもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、液滴の形成を毎回観察する構成となっているが、初回の液滴形成時に使用した液量を測定しておき、2回目以降は初回時に使用した液量を吐出するように、押圧制御部302に指示するように構成してもよい。これによれば、2回目以降の分注にかかる時間を短縮することが可能となり、作業の効率化が図れる。
【0063】
本発明の分注装置は、マイクロアレイの製造装置として用いることが可能であり、また、本発明の分注方法を用いてマイクロアレイを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明の分注技術を概略的に説明するための説明図である。
【図2】図2は、本発明の分注装置の全体構成を示す概略図である。
【図3】図3は、本発明の分注装置の一例を説明するためのブロック図である。
【図4】図4は、分注方法の流れを説明するフロー図である。
【図5】図5は、分注ユニット100をz軸方向へ移動させる方法の一例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0065】
10 被吐出対象体、20 液滴、100 分注ユニット、102 分注針、104 保持部、106 押圧機構、108 キャリア、202 z軸方向移動部、204 x軸方向移動部、206 y軸方向移動部、208 固定バー、210 位置決め部材、302 押圧制御部、304 x軸方向移動制御部、306 z軸方向移動制御部、308 y軸方向移動制御部、400 検出部、402 観察部、404 画像認識部、406 判別部、500 記憶部、600 入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料を含む液体を保持する保持部と、当該保持した液体を押圧する押圧手段と、液滴を吐出可能な分注針と、を備え、
前記押圧手段により前記液体を押圧することにより前記分注針先端に液滴を形成可能な分注ユニットと、
前記分注針の先端と被吐出対象体の吐出対象面との間の、当該吐出対象面に対して略垂直方向の距離が、前記分注針の先端に形成する予定の液滴の落下方向の長さと略同一になるように、前記分注針の先端位置を前記略垂直方向に移動させ、固定させる第1の移動手段と、
を備える、分注装置。
【請求項2】
前記分注ユニットを前記被吐出対象体上のスポット形成位置に、前記被吐出対象体の吐出対象面と略水平に相対的に移動させる、第2の移動手段を備える、請求項1に記載の分注装置。
【請求項3】
前記分注針の先端に撥液処理が施されている、請求項1又は請求項2に記載の分注装置。
【請求項4】
前記被吐出対象体に親液処理が施されている、請求項1乃至3のいずれかに記載の分注装置。
【請求項5】
前記押圧手段が送りねじ機構により前記分注ユニット内に備えられたプランジャーを移動させることにより液体を押圧する手段である、請求項1乃至4のいずれかに記載の分注装置。
【請求項6】
前記送りねじ機構がアクチュエータにより駆動される、請求項1乃至5のいずれかに記載の分注装置。
【請求項7】
所望のスポットサイズを入力する入力手段と、
前記分注針先端及び前記被吐出対象体間の距離と前記スポットサイズとの関係が、読み出し可能に記憶された記憶手段と、
前記入力手段へのスポットサイズの入力に応じて前記記憶手段から読み出された距離を移動するように、前記第1の移動手段に第1の駆動信号を送信する、前記第1の移動手段を制御する移動制御手段と、
前記分注針の先端位置が前記距離に移動され、固定された後に、前記押圧手段に第2の駆動信号を送信する押圧制御手段と、
前記分注針先端に形成される液滴と前記被吐出対象体の吐出対象面との位置関係を検出する検出手段と、をさらに備え、
前記押圧制御手段が、さらに前記検出手段により検出された前記液滴と前記吐出対象面との位置関係に応じて前記押圧手段に駆動を停止するよう停止信号を送信する、
請求項1乃至6のいずれかに記載の分注装置。
【請求項8】
前記検出手段が、前記分注針先端に形成される液滴と前記被吐出対象体の吐出対象面を観察する観察手段と、前記観察手段により観察された光像に基づいて、液滴先端と吐出対象面との距離を算出し、当該距離と所定値を比較して、当該距離が所定値と一致するか否かを判別する判別手段とを備える、請求項7に記載の分注装置。
【請求項9】
前記押圧制御手段が、前記第1の駆動信号の停止後、所定時間後に前記第2の駆動信号を送信する、請求項7又は請求項8に記載の分注装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の分注装置を備えた、マイクロアレイの製造装置。
【請求項11】
生体試料を含む液体を分注針で被吐出対象体に分注する分注方法であって、
前記分注針の先端と被吐出対象体の吐出対象面との間の、当該吐出対象面に対して略垂直方向の距離が、前記分注針の先端に形成する予定の液滴の落下方向の長さと一致するように、前記分注針の先端位置を移動させて固定し、
前記分注針に保持された液体を、押圧手段により押圧することにより分注針の先端に滲出させ、当該分注針先端に形成される液滴を徐々に成長させることにより、当該液滴先端を前記吐出対象体に接触させると略同時に押圧を停止し、生体試料を含む液体を前記吐出対象体に移動させる、分注方法。
【請求項12】
生体試料を含む液体を分注針で被吐出対象体に分注する分注方法であって、
前記分注針を、入力された所望のスポットサイズに応じて予め定められた距離になるように前記被吐出対象体の吐出対象面に対して略垂直方向に移動させて固定し、
前記分注針に保持された液体を、押圧手段により押圧することにより分注針の先端に滲出させ、当該分注針先端に形成される液滴の先端と前記被吐出対象体の吐出対象面との位置関係を光学観察手段により観察しながら、当該液滴を徐々に成長させ、
前記位置関係から前記液滴先端と吐出対象面との距離を求め、
前記距離が前記液滴の先端が前記吐出対象体に接触可能な所定値に達したときに、押圧を停止させ、
前記液滴先端を前記吐出対象体に接触させることにより、生体試料を含む液体を前記吐出対象体に移動させる、分注方法。
【請求項13】
請求項11又は請求項12に記載の分注方法を用いてマイクロアレイを製造する、マイクロアレイの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−278986(P2007−278986A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108939(P2006−108939)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】