説明

分注装置および分注方法

【課題】所望の量の液体を正確に分注する分注装置を提供すること。
【解決手段】吐出する液体を保持する液体保持部7bと、液体保持部と接続された流路7eを介して毛細管力によって搬送される液体を所定量保持するノズル7cと、加圧気体をノズルに作用させて所定量の液体を吐出させるバルブ5とを備えた分注装置1。流路7eを流れる液体の毛細管力の大きさに基づいて決められる所定の期間において液体の吐出を禁止するように、バルブ5への吐出指示の入力を制御する吐出制御部9を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノリットル(nL)からマイクロリットル(μL)オーダーの液体の分注に使用する分注装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、nL〜μLオーダーの微量液体を加圧気体によって分注する分注装置は、液体を保持するリザーバ(保持部)に供給され、流路を通ってノズル(ノズル)に導入された液体を加圧気体によって吐出することにより、所定量の液体を分注している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】独国特許発明第10102152号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された分注装置は、リザーバに供給された液体が毛細管力を利用して流路を通り、ノズルに導入されるものである。毛細管力を液体搬送の駆動力とする方法は、液体を搬送するための駆動や機構が不要で微量の液体を扱う部品にとって簡便な手段である反面、リザーバからノズルへ向かう液体の移動速度は、液体が接する流路やノズルにおける表面の状態、あるいは液体の粘性によって一定ではない。したがって、条件の悪い(表面が汚れている、液体の年度が高い等の)場合にはリザーバに供給された液体が移動してノズルに達するまでの所要時間は長くなってしまう。そのため、ノズルが液体で満たされる前に吐出動作を開始した場合には、所望の分注量が得られなかった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、所望の量の液体を正確に分注する分注装置および分注方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に係る分注装置は、液体を保持する液体保持部と、毛細管力を利用して前記液体を移動させる流路を介して前記液体保持部と接続されるとともに当該流路を通って導入された当該液体の体積を計量するノズルと、少なくとも前記ノズルに保持された前記液体に圧力を加えることにより当該液体を外部へ吐出させる吐出手段と、前記ノズルから前記液体を吐出させるように前記吐出手段へ吐出指示を入力する吐出制御手段と、を有し、前記吐出制御手段は、前記流路を流れる前記液体の毛細管力の大きさに基づいて決められる所定の期間において、当該液体の吐出を禁止することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る分注装置は、上記の発明において、前記所定の期間は前記液体保持部へ前記液体を導入したときから、前記ノズルが当該液体で満たされるまでの期間であることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る分注装置は、上記の発明において、前記所定の期間は、前回の吐出が行われたときから前記ノズルが前記液体で満たされるまでの期間であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る分注装置は、上記の発明において、前記所定の期間は、前記液体保持部へ前記液体を導入したとき、または、前回の吐出が行われたとき、から所定の時間が経過するまでの期間であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に係る分注装置は、上記の発明において、前記所定の時間は、前記ノズルおよび前記流路の表面状態と、当該ノズルおよび当該流路に導入される前記液体の種類と、に基づいて決められることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に係る分注装置は、上記の発明において、前記所定の時間は、前記ノズルおよび前記流路の幾何形状に基づいて決められることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7に係る分注装置は、上記の発明において、前記所定の時間は、前記液体の粘性および表面張力に基づいて決められることを特徴とする。
【0013】
また、請求項8に係る分注装置は、上記の発明において、前記液体は、血液、唾液、リンパ液を含む体液、あるいはこれらから抽出された液体であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項9に係る分注装置は、液体を保持する液体保持部に保持された液体を、毛細管力を利用して当該液体の体積を計量するノズルへ導入する過程と、前記毛細管力の大きさに基づいて決められた所定の期間において、前記ノズルに導入された前記液体の外部への吐出を禁止する過程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る分注装置は、流路を流れる液体の毛細管力の大きさに基づいて決められる所定の期間において、液体の吐出を禁止するように吐出手段を制御する吐出制御手段を設けたので、ノズルが液体で満たされる前に液体を吐出してしまうことが無くなり、所望の量の液体を正確に分注することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の分注装置に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明の分注装置の構成を示すブロック図である。図2は、分注装置の液体保持部、流路およびノズルを拡大して示す斜視図である。
【0017】
分注装置1は、自動分析装置に組み込んで、あるいは分注装置1単独で使用され、図1に示すように、加圧空気源2、レギュレータ3、吐出チャンバ6および吐出制御部9を備えており、加圧空気源2、レギュレータ3および吐出チャンバ6の間はパイプ4によって接続され、レギュレータ3と吐出チャンバ6との間を接続するパイプ4にはバルブ5が設けられている。
【0018】
加圧空気源2は、加圧空気を吐出チャンバ6に供給してノズル7cに作用させ、nL〜μLオーダーの所定量の液体を繰り返し吐出させる吐出手段であり、例えば、ポンプや空気ボンベが使用される。
【0019】
レギュレータ3は、加圧空気源2から送り出される加圧空気を一定圧力に調整する。ここで、バルブ5は、吐出制御部9からのオン,オフ制御によって開閉することでレギュレータ3によって一定圧力に調整された加圧空気を吐出チャンバ6に作用させ、保持した所定量の液体をノズル7cから吐出する。
【0020】
吐出チャンバ6は、図1に示すように、分注チップ7とカバー8を有している。分注チップ7は、基板7aに液体保持部7bとノズル7cが形成されている。液体保持部7bは、吐出する液体を複数回分まとめて保持する部分であり、図2に示すように、ノズル7cよりも大きな容積に設定されている。ノズル7cは、液体保持部7bと接続された流路7eを介して毛細管力によって搬送される液体を所定量保持する部分であり、加圧空気源2から送り出される加圧気体を作用させて所定量の液体を繰り返し吐出させる。ノズル7cは、保持した所定量の液体を吐出する小径の開口部7dが下部に設けられ、吐出する液体が小径の開口部7dと併せて所定量となるように設計されている。
【0021】
吐出制御部9は、バルブ5をオン,オフ制御の下に開閉し、レギュレータ3によって一定圧力に調整された加圧空気を吐出チャンバ6に送り出すもので、メモリとタイマを内蔵した電子制御手段(ECU)が使用される。吐出制御部9は、分注装置1が単独で使用されることを考慮して分注開始,分注終了,分注あるいは捨て吐出等の指示を入力する入力部を有している。
【0022】
以上のように構成される分注装置1は、図3に示すように、分注チップ7の液体保持部7bに検体等の液体Lを供給した後、分注チップ7にカバー8を被せて分注を開始する。このとき、分注チップ7は、液体保持部7bに液体を供給すると、供給された液体が流路7eを毛細管力によって搬送され、図4に示すように、ノズル7cと流路7eが液体Lで充填される。そして、分注装置1は、ノズル7cと流路7eが液体によって充填された後、吐出制御部9によってバルブ5を開弁することにより、一定圧力に調整された加圧空気を吐出チャンバ6に送り出し、図5に示すように、ノズル7cに保持された所定量の液体Lを吐出させる。このようにしてノズル7cの液体を吐出した分注装置1は、液体保持部7bから液体が流路7eを毛細管力によって搬送され、図4に示すように、ノズル7cが、再び液体Lによって充填される。分注装置1は、このようにしてノズル7cからの液体の吐出と充填を繰り返す。
【0023】
このとき、分注装置1は、分注チップ7にカバー8が被着されているが、図1に示すように、内部に空間が存在する。このため、分注チップ7は、ノズル7cに液体が充填されると、図6に示すように、水分の蒸発により液体の濃度が時間の経過に伴って一次関数的に増加してゆく。ここで、図6において、横軸は時間であり、縦軸はノズル7cに存在する液体の濃度である。また、原点は、液体保持部7bへの液体の供給が終了した(液体保持部7bへ液体を導入した)時刻とする。一方、T1 は、液体保持部7bに供給した液体が毛細管力によって流路7eを搬送され、ノズル7cと流路7eの充填を完了した充填完了時刻であり、規制時間の計測開始時刻である。T1 は、流路7eを流れる液体の毛細管力の大きさに基づいて決められる。つまり、流路7eを流れる液体の移動速度から決められる時刻であって、液体保持部7bへの液体の供給が終了した時刻である原点から、所定の時間が経過した時刻である。この所定の時間は、「ノズル7cと流路7eとの表面状態、および、ノズル7cと流路7eとに導入される液体の種類(ノズル7cと流路7eとの表面状態、および、液体の種類によって決まる液体の接触角)」、「ノズル7cおよび流路7eの幾何形状」または「液体の粘性および表面張力」に基づいて決められるものである。また、T2 は、ノズル7cに保持された液体が水分の蒸発によって分析精度上許容可能な濃度限界に達する濃度限界時刻であり、T3 は、流路7eとノズル7cへ液体の含有成分が析出を開始する析出開始時刻である。さらに、T4 は、析出による流路7eまたはノズル7cが完全に閉塞する完全閉塞時刻である。
【0024】
このため、吐出制御部9による吐出の制御においては、図6に示すように、濃度限界時刻T2 および析出開始時刻T3 に対して所定の時間的余裕をとった規制時刻TR1,TR2を設定し、規制時刻TR1,TR2に基づいて、ノズル7cに保持された液体からの水分蒸発に起因した濃度の測定誤差を回避するための第1の規制時間PR1と、液体に含まれる成分の析出開始を回避するための第2の規制時間PR2とを決める。第1の規制時間PR1は、少なくともノズル7cにおける小径の開口部7dの大きさ、そして液体の吐出方向におけるノズル7cの深さに基づいて決まる。第2の規制時間PR2は、分注装置1が対象とする血液,唾液,リンパ液を含む体液、あるいはこれらから抽出された液体毎に予め含有成分が析出を開始する時刻を測定して、決定される。分注装置1は、第1の規制時間PR1と第2の規制時間PR2とに基づいて吐出制御部9がバルブ5の開閉、即ち、ノズル7cに保持された液体の吐出を制御している。
【0025】
ここで、第1の規制時間PR1は、ノズル7cに保持された液体から水分が蒸発してはいるが、蒸発量を考慮したうえで、分析精度上この液体を分析に利用することができる時間である。また、第2の規制時間PR2は、ノズル7cに保持された液体を分析に利用することはできないが、含有成分の析出が開始していないため、この液体を廃棄容器へ吐出する捨て吐出によりノズル7c内の液体を新たな液体に更新可能な時間である。
【0026】
このときの分注装置1におけるノズル7cに保持された液体の吐出制御を図7に示すフローチャートを参照して以下に説明する。
【0027】
先ず、吐出制御部9は、流路7eとノズル7cに液体が充填完了したか否かを判定する(ステップS100)。この判定は、液体保持部7bへの液体の供給が終了してからの経過時間によって行い、流路7cを流れる液体の毛細管力の大きさに基づいて決められた所定の期間が経過したかが判定基準となる。液体保持部7bへの液体の供給が終了してから所定の期間が経過していない場合、つまり流路7eとノズル7cへの液体の充填が完了していない場合(ステップS100,No)、吐出制御部9は、ステップS100の判定を繰り返し、この所定の期間(0からT1 の期間)における液体の吐出を禁止している。
【0028】
一方、液体保持部7bへの液体の供給が終了してから所定の期間が経過している場合、つまり流路7eとノズル7cへの液体の充填が完了している場合(ステップS100,Yes)、吐出制御部9は、分注開始の指示があったか否かを判定する(ステップS102)。分注開始の指示があった場合(ステップS102,Yes)、吐出制御部9は、第1の規制時間PR1が経過しているか否かを判定する(ステップS104)。第1の規制時間PR1が経過している場合(ステップS104,Yes)、吐出制御部9は、バルブ5を開弁するが、ノズル7cに保持された液体は濃度上の問題があるため、液体を捨て吐出する(ステップS106)。捨て吐出の方法としては例えば、分析装置1は、吐出制御部9の制御の下に、搬送装置がノズル7cの直下に反応容器に代えて廃棄容器を搬送してくることによって、ノズル7cから吐出された液体を廃棄容器に廃棄しても良い。第1の規制時間PR1が経過していない場合(ステップS104,No)、吐出制御部9は、ステップS110へスキップする。
【0029】
ステップS106において液体を捨て吐出した後、吐出制御部9は、吐出によって空となったノズル7cに液体が充填されたか否かを判定する(ステップS108)。この判定は、捨て吐出後の経過時間によって行い、流路7cを流れる液体の毛細管力の大きさに基づいて決められた所定の期間が経過したかが判定基準となる。捨て吐出を行ったときから所定の期間が経過していない場合、つまりノズル7cへの液体の充填が完了していない場合(ステップS108,No)、吐出制御部9は、ステップS108の判定を繰り返し、この所定の期間における液体の吐出を禁止している。
【0030】
一方、ノズル7cへの液体の充填が完了している場合(ステップS108,Yes)、吐出制御部9は、ノズル7cへ液体を充填完了した後の時間が第1の規制時間PR1内か否かを判定する(ステップS110)。第1の規制時間PR1に達していない場合(ステップS110,No)、吐出制御部9は、ステップS110の判定を繰り返す。
【0031】
第1の規制時間PR1に達している場合(ステップS110,Yes)、ノズル7cに保持された液体は分析に利用することができるので、吐出制御部9は、規制時刻TR1においてバルブ5を開弁することにより液体を反応容器に分注する(ステップS112)。このとき、分析装置1は、吐出制御部9の制御の下に、搬送装置がノズル7cの直下に廃棄容器に代えて反応容器を搬送してくる。これにより、ノズル7cから吐出された液体は反応容器に分注される。
【0032】
分注終了後、吐出制御部9は、空のノズル7cに液体が充填されたか否かを判定する(ステップS114)。ノズル7cへの液体の充填が完了していない場合(ステップS114,No)、吐出制御部9は、ステップS114の判定を繰り返す。
【0033】
ノズル7cへの液体の充填が完了している場合(ステップS114,Yes)、吐出制御部9は、ステップS102に戻り、ステップS102移行のステップを繰り返す。したがって、分注装置1は、分注のみを複数回繰り返す場合や捨て吐出と分注を交互に繰り返す場合等、種々の吐出態様がある。分注のみを複数回繰り返す場合には、ノズル7cに液体が充填されたか否かの判定は、前回の吐出が行われたときからの経過時間によって行い、前回の吐出が行われたときから所定の期間が経過したときに、ノズル7cに液体が充填されたと判断される。所定の期間は、流路7eを流れる液体の毛細管力の大きさに基づいて決められたものであって、前回の吐出が行われたときから所定の時間が経過するまでの期間である。この所定の時間は「ノズル7cと流路7eとの表面状態、および、ノズル7cと流路7eとに導入される液体の種類(ノズル7cと流路7eとの表面状態、および、液体の種類によって決まる液体の接触角)」、「ノズル7cおよび流路7eの幾何形状」または「液体の粘性および表面張力」に基づいて決められるものである。分注のみを複数回繰り返す場合も、吐出制御部9は、ノズル7cへ液体を導入している途中の期間である所定の期間においては、液体の吐出を禁止している。
【0034】
一方、ステップS102において分注開始の指示がなかった場合(ステップS102,No)、吐出制御部9は、第1の規制時間PR1が経過しているか否かを判定する(ステップS116)。第1の規制時間PR1が経過していない場合(ステップS116,No)、吐出制御部9は、ステップS102に戻る。
【0035】
第1の規制時間PR1が経過している場合(ステップS116,Yes)、吐出制御部9は、分注開始の指示があったか否かを判定する(ステップS118)。分注開始の指示があった場合(ステップS118,Yes)、ノズル7cに保持された液体は第1の規制時間PR1の経過により濃度上の問題があるため、吐出制御部9は、バルブ5を開弁するが、反応容器に分注することなく液体を廃棄容器へ捨て吐出し(ステップS106)、ステップS106以降のステップに移行する。
【0036】
一方、分注開始の指示がなかった場合(ステップS118,No)、吐出制御部9は、分注終了の指示があったか否かを判定する(ステップS120)。分注終了の指示があった場合(ステップS120,Yes)、吐出制御部9は、分注装置1における制御作業を総て終了する。分注終了の指示がなかった場合(ステップS120,No)、吐出制御部9は、第2の規制時間PR2に達しているか否かを判定する(ステップS122)。第2の規制時間PR2に達していない場合(ステップS122,No)、吐出制御部9は、ステップS118に戻り、ステップS118以降のステップを繰り返す。
【0037】
第2の規制時間PR2に達している場合(ステップS122,Yes)、ノズル7cに保持された液体は含有成分の析出が疑われるため、吐出制御部9は、規制時刻TR2において液体を廃棄容器へ捨て吐出する(ステップS124)。次に、吐出制御部9は、ノズル7cに液体が充填完了したか否かを判定する(ステップS126)。ノズル7cへの液体の充填が完了していない場合(ステップS126,No)、吐出制御部9は、ステップS126の判定を繰り返す。
【0038】
一方、ノズル7cへの液体の充填が完了している場合(ステップS126,Yes)、吐出制御部9は、ステップS102に戻って分注開始の指示があったか否かの判定を繰り返す。吐出制御部9は、このようにしてバルブ5を制御することによりノズル7cによる液体の吐出動作を制御する。
【0039】
このとき、分注装置1は、流路7eを流れる液体の毛細管力の大きさに基づいて決められる所定の期間において、液体の吐出を禁止したので、流路7eおよびノズル7cへの液体の充填が完了していない場合には液体が吐出されず、流路7eおよびノズル7cへの液体の充填が完了した場合のみに吐出が行われるので、安定した吐出量の分注を行うことができるという効果を奏する。また、吐出制御部9が規制時刻TR1でノズル7cから液体を吐出するようにバルブ5を制御するため、分注する液体の濃度と体積が安定している。さらに、分注装置1は、規制時刻TR2に達した場合には、吐出制御部9が、ノズル7cから液体を吐出するようにバルブ5を制御するため、ノズル7cや流路7eに保持された液体が含有成分の析出前に更新されるので、ノズル7cや流路7eが閉塞し難くなるという効果を奏する。
【0040】
上述のように、図7に示すフローチャートにおける液体の吐出が分注装置1における通常の制御である。さらに他の実施の形態として図8に示すように、液体保持部7bに供給した液体がノズル7cと流路7eの充填を完了した充填完了時刻T1 後、分注装置1は、先ず捨て吐出を行い、その後、図6に示す場合と同様にして液体の吐出を制御する形態について説明する。
【0041】
前述の実施の形態における分注装置では、分注チップ7の液体保持部7bに液体を導入し、カバー8を被せる間、液体が外部の環境に曝露されており、そのため液体が蒸発してしまう。これにより液体の濃度が変化し、また、導入時の環境が変化するため、液体保持部7bに液体を導入後第1回目に吐出される液体の濃度は、液体導入時の環境に左右されてしまう。この実施の形態では、液体保持部7bに液体を導入した後、必ず捨て吐出を行うことによって液体蒸発の影響をなくすことができる。
【0042】
分注装置1が、捨て吐出を行う時刻をTdとし、捨て吐出後液体が再度ノズル7cの充填を完了した時刻を充填完了時刻T11とする。また、ノズル7cに保持された液体が水分の蒸発によって分析精度上の濃度限界に達する濃度限界時刻をT12とし、流路7eとノズル7cへ液体の含有成分が析出を開始する析出開始時刻をT13とする。そして、規制時刻TR1,TR2に基づいて、図6と同様に、ノズル7cに保持された液体からの水分蒸発に起因した濃度の測定誤差を回避するための第1の規制時間PR1、液体に含まれる成分の析出開始を回避するための第2の規制時間PR2とを設定する。
【0043】
このときの分注装置1におけるノズル7cに保持された液体の吐出制御を図9に示すフローチャートを参照して以下に説明する。
【0044】
先ず、液体保持部7bに液体が充填された後、吐出制御部9は、液体を廃棄容器へ捨て吐出する(ステップS200)。
【0045】
次に、吐出制御部9は、ノズル7cに液体が充填完了したか否かを判定する(ステップS202)。この判定は、ステップS108と同様に、捨て吐出後の経過時間によって判定する。ノズル7cへの液体の充填が完了していない場合(ステップS202,No)、吐出制御部9は、ステップS202の判定を繰り返す。
【0046】
一方、流路7eとノズル7cへの液体の充填が完了している場合(ステップS202,Yes)、吐出制御部9は、分注開始の指示があったか否かを判定する(ステップS204)。分注開始の指示があった場合(ステップS204,Yes)、吐出制御部9は、第1の規制時間PR1が経過しているか否かを判定する(ステップS206)。第1の規制時間PR1が経過している場合(ステップS206,Yes)、吐出制御部9は、バルブ5を開弁するが、ノズル7cに保持された液体は濃度上の問題があるため、液体を廃棄容器へ捨て吐出する(ステップS208)。第1の規制時間PR1が経過していない場合(ステップS206,No)、吐出制御部9は、ステップS212へスキップする。
【0047】
ステップS208において液体を捨て吐出した後、吐出制御部9は、吐出によって空となったノズル7cに液体が充填されたか否かを判定する(ステップS210)。この判定は、捨て吐出後の経過時間によって行い、流路7cを流れる液体の毛細管力の大きさに基づいて決められた所定の期間が経過したかが判定基準となる。捨て吐出を行ってから所定の期間が経過しておらず、ノズル7cへの液体の充填が完了していない場合(ステップS210,No)、吐出制御部9は、ステップS210の判定を繰り返し、この所定の期間(Td からT11の期間)での吐出動作を禁止している。
【0048】
一方、ノズル7cへの液体の充填が完了している場合(ステップS210,Yes)、吐出制御部9は、ノズル7cへ液体を充填完了した後の時間が第1の規制時間PR1に達したか否かを判定する(ステップS212)。第1の規制時間PR1に達していない場合(ステップS212,No)、吐出制御部9は、ステップS212の判定を繰り返す。
【0049】
第1の規制時間PR1に達している場合(ステップS212,Yes)、ノズル7cに保持された液体は分析に利用することができるので、吐出制御部9は、バルブ5を開弁することにより液体を反応容器に分注する(ステップS214)。
【0050】
分注終了後、吐出制御部9は、空のノズル7cに液体が充填されたか否かを判定する(ステップS216)。ノズル7cへの液体の充填が完了していない場合(ステップS216,No)、吐出制御部9は、ステップS216の判定を繰り返す。
【0051】
ノズル7cへの液体の充填が完了している場合(ステップS216,Yes)、吐出制御部9は、ステップS204に戻り、ステップS204移行のステップを繰り返す。
【0052】
一方、ステップS204において分注開始の指示がなかった場合(ステップS204,No)、吐出制御部9は、第1の規制時間PR1が経過しているか否かを判定する(ステップS218)。第1の規制時間PR1が経過していない場合(ステップS218,No)、吐出制御部9は、ステップS204に戻る。
【0053】
第1の規制時間PR1が経過している場合(ステップS218,Yes)、吐出制御部9は、分注開始の指示があったか否かを判定する(ステップS220)。分注開始の指示があった場合(ステップS220,Yes)、ノズル7cに保持された液体は第1の規制時間PR1の経過により濃度上の問題があるため、吐出制御部9は、バルブ5を開弁するが、反応容器に分注することなく液体を廃棄容器へ捨て吐出し(ステップS208)、ステップS208以降のステップに移行する。
【0054】
一方、分注開始の指示がなかった場合(ステップS220,No)、吐出制御部9は、分注終了の指示があったか否かを判定する(ステップS222)。分注終了の指示があった場合(ステップS222,Yes)、吐出制御部9は、分注装置1における制御作業を総て終了する。分注終了の指示がなかった場合(ステップS222,No)、吐出制御部9は、第2の規制時間PR2に達しているか否かを判定する(ステップS224)。第2の規制時間PR2に達していない場合(ステップS224,No)、吐出制御部9は、ステップS220に戻り、ステップS220以降のステップを繰り返す。
【0055】
第2の規制時間PR2に達している場合(ステップS224,Yes)、ノズル7cに保持された液体は含有成分の析出が疑われるため、吐出制御部9は、液体を廃棄容器へ捨て吐出する(ステップS226)。次に、吐出制御部9は、ノズル7cに液体が充填完了したか否かを判定する(ステップS228)。ノズル7cへの液体の充填が完了していない場合(ステップS228,No)、吐出制御部9は、ステップS228の判定を繰り返す。
【0056】
一方、ノズル7cへの液体の充填が完了している場合(ステップS228,Yes)、吐出制御部9は、ステップS204に戻って分注開始の指示があったか否かの判定を繰り返す。吐出制御部9は、このようにしてバルブ5を制御することによりノズル7cによる液体の吐出動作を制御する。
【0057】
このように、分注装置1は、流路7eを流れる液体の毛細管力の大きさに基づいて決められる所定の期間において、液体の吐出を禁止したので、ノズル7cへの液体の充填が完了していない場合には液体が吐出されず、ノズル7cへの液体の充填が完了した場合のみに吐出が行われるので、安定した吐出量の分注を行うことができるという効果を奏する。さらに、吐出制御部9が第1の規制時間PR1内に吐出指示があった場合には、規制時刻TR1においてノズル7cから液体を吐出するようにバルブ5を制御するため、分注する液体の濃度と体積が安定し、検体を正確に測定することができる。また、液体導入時の環境の差異等により、液体保持部への液体の導入後第1回目に吐出された液体の濃度が変化してしまう場合もあるが、この実施の形態では容器への吐出を行う前には必ず捨て吐出をするようにしたので、第1回目の吐出から液体の濃度を安定させた吐出を行うことができる。その他、分注装置1は、吐出制御部9が、第2の規制時間PR2内にノズル7cから液体を吐出するようにバルブ5を制御するため、分注する液体の濃度と体積が安定し、検体を正確に測定することができる効果に加え、ノズル7cや流路7eに保持された液体が含有成分の析出前に更新されるので、ノズル7cや流路7eが閉塞し難くなるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の分注装置の構成を示すブロック図である。
【図2】分注装置の液体保持部、流路およびノズルを拡大して示す斜視図である。
【図3】液体保持部に液体を供給した状態の分注装置を構成する分注チップの断面図である。
【図4】図3の分注チップにおいて、液体保持部に供給した液体が流路を毛細管力によって搬送され、ノズルと流路が液体で充填された状態の断面図である。
【図5】図4の分注チップにおいて、ノズル内の液体が吐出された状態の断面図である。
【図6】吐出制御手段による吐出手段を制御する際の第1の規制時間と第2の規制時間を説明するタイムチャートである。
【図7】分注装置におけるノズルに保持された液体の吐出制御を示すフローチャートである。
【図8】捨て吐出を行った後、吐出制御手段による吐出手段を制御する際の第1の規制時間と第2の規制時間を説明するタイムチャートである。
【図9】分注装置において捨て吐出を行った後、液体の吐出制御を行う場合のフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1…分注装置,2…加圧空気源,3…レギュレータ,4…パイプ,5…バルブ,6…吐出チャンバ,7…分注チップ,7a…基板,7b…液体保持部,7c…ノズル,7e…流路,7d…小径の開口部,8…カバー,9…吐出制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を保持する液体保持部と、
毛細管力を利用して前記液体を移動させる流路を介して前記液体保持部と接続されるとともに、当該流路を通って導入された当該液体の体積を計量するノズルと、
少なくとも前記ノズルに保持された前記液体に圧力を加えることにより当該液体を外部へ吐出させる吐出手段と、
前記ノズルから前記液体を吐出させるように前記吐出手段へ吐出指示を入力する吐出制御手段と、
を有し、
前記吐出制御手段は、前記流路を流れる前記液体の毛細管力の大きさに基づいて決められる所定の期間において、当該液体の吐出を禁止することを特徴とする分注装置。
【請求項2】
前記所定の期間は、前記液体保持部へ前記液体を導入したときから、前記ノズルが当該液体で満たされるまでの期間であることを特徴とする請求項1に記載の分注装置。
【請求項3】
前記所定の期間は、前回の吐出が行われたときから前記ノズルが前記液体で満たされるまでの期間であることを特徴とする請求項1に記載の分注装置。
【請求項4】
前記所定の期間は、前記液体保持部へ前記液体を導入したとき、または、前回の吐出が行われたとき、から所定の時間が経過するまでの期間であることを特徴とする請求項1に記載の分注装置。
【請求項5】
前記所定の時間は、前記ノズル及び前記流路の表面状態と、当該ノズル及び当該流路に導入される前記液体の種類と、に基づいて決められることを特徴とする請求項4に記載の分注装置。
【請求項6】
前記所定の時間は、前記ノズルおよび前記流路の幾何形状に基づいて決められることを特徴とする請求項4に記載の分注装置。
【請求項7】
前記所定の時間は、前記液体の粘性および表面張力に基づいて決められることを特徴とする請求項4に記載の分注装置。
【請求項8】
前記液体は、血液、唾液、リンパ液を含む体液、或いはこれらから抽出された液体であることを特徴とする請求項1に記載の分注装置。
【請求項9】
液体を保持する液体保持部に保持された液体を毛細管力を利用して当該液体の体積を計量するノズルへ導入する過程と、
前記毛細管力の大きさに基づいて決められた所定の期間において、前記ノズルに導入された前記液体の外部への吐出を禁止する過程と、
を有することを特徴とする分注装置の分注方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−248314(P2007−248314A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73577(P2006−73577)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】